説明

ヘパリン結合部位および/またはヘパラン硫酸結合部位を富化した組換えタンパク質

本発明は、ヘパリン結合部位および/またはヘパラン硫酸結合部位を富化した組換えタンパク質に関する。そのような組換えタンパク質を目的タンパク質のインビバ(in viva)制御放出システムとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位(HBS)を富化した組換えタンパク質に関する。本発明は、そのような組換えタンパク質、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸ならびに目的タンパク質を含む制御放出システム、ならびにそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質および増殖因子のための幾つかの送達システムが既に知られている。これらの送達システムのうちのあるものは、ペプチドを提示および送達しうるにすぎない(Schense J.C. et al, (1999), Bioconj. Chem., 10: 75-81)。ペプチドはそれらが由来する全タンパク質の生物活性を部分的に模倣することはできるが、この生物活性は通常は全タンパク質の生物活性より低く、時には特定のタンパク質を短いペプチドのみで模倣するのは不可能である。したがって、全タンパク質、たとえば増殖因子または他の医薬活性分子をマトリックスに取り込ませうることが望ましいであろう。
【0003】
この要望は、いずれかの目的タンパク質を局所提示することができ、その際、目的タンパク質がそれのインビボ活性を保持し、いかなるタイプの分解からも保護され、かつ制御された様式で放出される送達システムについて、特に大きい。
【0004】
WO 01/83522には、目的タンパク質をタンパク質または多糖類のマトリックス中に取り込ませた送達システムが開示されている。1態様においては、ヘパリンをマトリックスに結合させてヘパリン−マトリックスを形成している。目的タンパク質を工学的にヘパリン−マトリックスに結合させる。目的タンパク質は、このタンパク質とヘパリンの間の部位の開裂、および/またはマトリックスの分解に際して、ヘパリン−マトリックスから放出される。WO 01/83522に開示された送達システムは、幾つかの機能性ドメインが存在する必要があるので、かなり複雑であり、したがって製造するのに手間および経費がかかる。WO 01/83522では、ヘパリンはペプチドキメラとヘパリン自体からなる2パーツ系によりフィブリンゲルに非共有結合している。このペプチドキメラは2つのドメイン、XIIIa因子基質および多糖結合ドメインからなる。このペプチドキメラがフィブリンゲル中へ架橋されると、それはヘパリン(または他の多糖類)を非共有結合相互作用により付着させる。”これは、4つの構成要素(マトリックス、キメラ、ヘパリン、および目的タンパク質)を個別に製造し、その後に組み合わせて制御放出組成物を作製する必要があることを意味する。本明細書に記載する本発明は、WO 01/83522に記載されるキメラの必要性なしに、ヘパリンに結合しうるマトリックスを製造するのを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 01/83522
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Schense J.C. et al, (1999), Bioconj. Chem., 10: 75-81
【発明の概要】
【0007】
したがって、いずれかの目的タンパク質を送達するために使用でき、その際、目的タンパク質がそれのインビボ活性を保持し、いかなるタイプの分解からも保護され、かつ制御された様式で放出される、より単純な送達システムがなお求められている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
組換えタンパク質
第1観点においては、ヘパリン結合部位および/またはヘパラン硫酸結合部位(HBS)を富化した組換えタンパク質が提供される。
【0009】
組換えタンパク質はいかなるタンパク質であってもよい。1態様において、それは有効成分であり、それ自体で療法薬としていずれかのタイプの疾患または状態を予防、治療、遅延するために使用できる。療法薬は、痛み、癌、心血管疾患、心筋修復、血管形成、骨の修復および再生、創傷処置、神経刺激/療法、または糖尿病の処置のためのものであってもよい。
【0010】
好ましい態様において、タンパク質はその配列中にヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位を既には含まない。この態様においては、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10またはそれ以上のヘパリン結合部位および/またはヘパラン硫酸結合部位を含むように、タンパク質を修飾する。
【0011】
他の好ましい態様において、タンパク質はヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位を既に含む。この好ましい態様においては、必ずしもヘパリンまたはヘパラン硫酸結合部位を含むように組換えタンパク質を修飾する必要はない。あるいは、より好ましい態様によれば、本発明の組換えタンパク質は、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位を既に含み、それが由来するタンパク質と比較して少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10またはそれ以上の追加ヘパリン結合部位および/または追加ヘパラン硫酸結合部位を含むように修飾された、目的タンパク質を含む。そのようなタンパク質は、組換えタンパク質とみることができる。ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位を含むタンパク質の例は、発育期生物および成体の両方において形態形成に関与し、細胞外マトリックス分子を結合することが知られている、増殖因子である。ヘパリンを結合する増殖因子には、トランスフォーミング増殖因子(“TGF”)−ベータスーパーファミリー(骨形態形成タンパク質“BMP”を含む)、線維芽細胞増殖因子(“FGF”)ファミリー(Presta, M., et al, (1992). Biochemical and Biophysical Research Communications. 185: 1098-1107)、および血管内皮増殖因子(“VEGF”)が特に含まれる。好ましい例は、骨形態形成因子−2(BMP−2)および線維芽細胞増殖因子2(FGF−2)である。さらに他の“ヘパリン結合”タンパク質には、インターロイキン−8、ヌクレオトロフィン−6、ヘパリン結合性上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、結合組織増殖因子、ミドカイン、およびヘパリン結合性増殖関連分子が含まれる。これらのタンパク質は、組織修復を調節することが示された(Gotz, R., et al, (1994). Nature. 372: 266-269; Kaneda, N., et al, (1996) J Biochem. 119: 1150-1156; Kiguchi, K., et al, (1998) Mol. Carcinogensis. 22: 73-83 ; Kinosaki, M., et al, (1998). Biochim. Biophys. Acta. 1384: 93-102 ; McCaffrey, T., et al, (1992) J. Cell. Physiol. 152: 430-440 ; Nolo, R., et al, (1996) Eur.J Neurosci. 8: 1658-1665; Spillmann, D., et al, (1998). Journal of Biological Chemistry. 273: 154815493 ; Steffen, C, et al, (1998); Growth Factors. 15: 199-213. Tessler, S., et al, (1994) J; Biol. Chem. 269: 12456-12461)。これらのタンパク質は、脈管系、皮膚、神経および肝臓を含めた多種多様なタイプの組織において治癒を増進する効力をもつことが示された。したがって、本明細書に記載するように、特定のタンパク質を選択し、それにヘパリンおよび/またはヘパラン結合部位を富化することにより、これらのタンパク質を用いて身体の多種多様な部分において創傷治癒を増進することができる。
【0012】
あるいは、好ましい組換えタンパク質は療法薬として知られてはいないタンパク質である。この態様において、組換えタンパク質は好ましくは非免疫原性、中性および生分解性のうち少なくとも1つである。より好ましくは、組換えタンパク質は、本明細書中で後記に定めるように組換えゼラチン様タンパク質である。
【0013】
ヘパリン
“ヘパリン”(ヘパリン酸とも言う)は、グリコサミノグリカンと呼ばれる高度に硫酸化された直鎖アニオン性ムコ多糖類の不均質なグループである。他のものが存在する可能性があるが、ヘパリン中の主要な糖は下記のものである:アルファ−L−イズロン酸 2−スルフェート、2−デオキシ−2−スルファミノ−アルファ−グルコース 6−スルフェート、ベータ−D−グルクロン酸、2−アセトアミド−2−デオキシ−アルファ−D−グルコース、およびL−イズロン酸。これらおよび場合により他の糖がグリコシド結合により連結して、多様なサイズのポリマーを形成している。ヘパリンはそれに共有結合した硫酸基およびカルボン酸基が存在するため、強酸性である。ヘパリンの分子量は、供給源および測定方法に応じて約6,000から約20,000Daまで、または6,000から20,000Daまでに及ぶ。天然ヘパリンは、幾つかの哺乳動物種において種々の組織、特に肝臓および肺ならびにマスト細胞の構成要素である。ヘパリンおよびヘパリン塩(ヘパリンナトリウム)は市販されており、主に抗凝固剤として多様な臨床状況で用いられる。
【0014】
ヘパリンまたはヘパラン硫酸結合部位
前記の節に示したように、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位は、タンパク質中に既に存在してもよく、タンパク質配列中へ取り込まれてもよい。本明細書全体を通して、ヘパリン結合部位という表現はヘパラン硫酸結合部位と同義である。好ましい態様においては、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位をタンパク質配列中へ取り込ませる。幾つかのヘパリン結合部位の配列が当業者に既知である。WO 01/83522には、公開出願の10頁、表2に、幾つかのヘパリン結合部位が例示されている。下記を例示することができる:K(A)FAKLAARLYRKA(抗トロンビンIIIに由来)、YKKIIKKL(血小板因子4に由来)、KHKGRDVILKKDVR(神経細胞接着分子に由来)、YEKPGSPPREVVPRPRPCVおよびKNNQKSEPLIGRKKT(フィブロネクチンに由来)、KDPKRLおよびYRSRKY(bFGF塩基性線維芽細胞増殖因子に由来)、YKKPKL(aFGF酸性線維芽細胞増殖因子に由来)、AKRSSKMおよびCRKRCN(LPLリポタンパク質リパーゼに由来)、GBBGB、GLPGMKGHRGFS、GRKGR、GKRGKならびにKEDK;これらにおいて、Bは塩基性アミノ酸である。より好ましい態様において、ヘパリンまたはヘパラン硫酸結合部位は、下記よりなる群から選択される:GBBGB、GLPGMKGHRGFS、GRKGR、GKRGKおよびKEDK;これらにおいて、Bは塩基性アミノ酸である。塩基性アミノ酸の例は、ヒスチジン、リジンおよびアルギニンである。よりさらに好ましい態様において、ヘパリンまたはヘパラン硫酸結合部位は、下記よりなる群から選択される:GBBGB、GLPGMKGHRGFS、GRKGRおよびGKRGK;これらにおいて、Bは塩基性アミノ酸である。塩基性アミノ酸の例は、ヒスチジン、リジンおよびアルギニンである。よりさらに好ましい態様において、ヘパリンまたはヘパラン硫酸結合部位はGLPGMKGHRGFSである。このHBSが好ましいのは、このHBSが本明細書中で後記に定めるゼラチン様構造体のGXYフォーマットにも当てはまるからである。最も好ましくは、それは、GLPGMKGHRGFSにおいて最後のSが潜在的なグリコシル化ターゲットであってヘパリン/ヘパラン硫酸結合を妨害する可能性があるので除去されたものである:GLPGMKGHRGF。
【0015】
本明細書中で用いる“ヘパリン結合性”とは、当技術分野で既知の直接的または間接的ヘパリン結合アッセイ、たとえばWO 2005014619に記載されるペプチド−グリコサミノグリカン結合についてのアフィニティー共電気泳動(ACE)アッセイにより測定して、分子がヘパリンまたはヘパリン硫酸と結合する能力を表わす。
【0016】
本発明の組換えタンパク質は、好ましくは、HBSを富化した組換えタンパク質またはHBS富化タンパク質とも呼ばれる。用語“HBS富化した”(すなわち、ヘパリン結合部位(eparin inding ite)および/またはヘパラン硫酸結合部位を富化した)は、本明細書中で、少なくとも1つの前記に定めたHBSモチーフを含むタンパク質のアミノ酸配列を表わす。本発明に関して用語“HBS富化した”は、好ましくは、タンパク質のアミノ酸配列中に、タンパク質当たりのアミノ酸の総数のパーセントとして計算して一定レベルのHBSモチーフがあること、およびHBSモチーフまたは配列の一定の均一な分布があることを意味する。HBS配列のレベルをパーセントとして表示する。このパーセントは、特定のHBSモチーフを構成するアミノ酸の総数をタンパク質のアミノ酸の総数で割り、答えに100を掛けることにより計算される。
【0017】
より好ましくは、“HBS富化した”は、本明細書中で、タンパク質のアミノ酸の総数に対するHBSモチーフのパーセントが少なくとも1.5であるタンパク質のアミノ酸配列を表わし、そのアミノ酸配列が350アミノ酸以上を含む場合には350アミノ酸の各長さは少なくとも1つのHBSモチーフを含有する。好ましくは、HBSモチーフのパーセントは少なくとも2.0、より好ましくは少なくとも2.5、より好ましくは少なくとも3.0、より好ましくは少なくとも3.5、最も好ましくは少なくとも4.5である。用語“HBS配列”と“HBSモチーフ”は互換性をもって用いられる。
【0018】
HBSを富化した組換えタンパク質は、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸を結合する改良された能力をもつと予想される。改良されたとは、好ましくは、このように修飾された本発明のタンパク質が、本発明に従って修飾されていない対応するタンパク質と比較して、少なくとも5%増大したヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸の結合能力をもつことを意味する。好ましくは、この増大は少なくとも7%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、またはそれ以上の増大である。他の好ましい態様において、この改良は、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸を結合できないことが知られている対照タンパク質との比較による。好ましい対照タンパク質は、EP 1 014 176に開示されるゼラチン様タンパク質P4である。ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸への結合の評価は既に本明細書に記載されている。
【0019】
組成物およびマトリックス
さらに他の観点において、前記セクションに定めた組換えタンパク質を含む組成物が提供される。好ましくは、組成物はさらにヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸を含む。したがって、好ましい態様においては、さらにヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸を含み、好ましくはヘパリンおよび/またはヘパリン硫酸が哺乳動物ではない供給源に由来する組成物が提供される。
【0020】
さらに他の観点において、前記の観点に定めた組成物を含むマトリックスが提供される。本発明によるマトリックスは、共有結合または非共有結合により架橋/連結した生体適合性ポリマーを含む三次元網状構造体である。幾つかの好ましい架橋/連結方法を一般的定義中に例示する。生体適合性ポリマーは下記のものから選択されるが、これらに限定されない:ポリスチレン、ポリホスホエステル、ポリホスファゼン、脂肪族ポリエステル、ポリ3−ヒドロキシ酪酸、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドまたはポリアクリル酸、グリコサミノグリカン、たとえばヒアルロン酸またはキトサン酸、および同様な修飾された多糖類、たとえばセルロースもしくはデンプン、またはポリペプチド、たとえばポリ−l−リジン、より好ましくは細胞外マトリックスタンパク質、たとえばゼラチン、コラーゲン、エラスチンもしくはフィブリンなど、または組換えゼラチン様タンパク質もしくは組換えコラーゲン様タンパク質。好ましい態様において、マトリックスの生体適合性ポリマーは、前記セクションに定めた組換えタンパク質を含む。
【0021】
好ましい態様において、本明細書中で定めるマトリックスは哺乳動物ではない供給源に由来する。より好ましくは、ヘパリンまたはヘパラン硫酸は、企業Bio Tieから得られる(http://www.biotie.fi/page/en/research/trombosis/bioheparin.)。
【0022】
さらに他の好ましい態様において、本明細書中で先に定めた組成物またはマトリックスは、さらに目的タンパク質および/または細胞を含む。目的タンパク質は、天然源から単離した天然タンパク質または組換え製造した目的タンパク質であってもよい。好ましくは、目的タンパク質を組換え製造したタンパク質として考慮することができる。より好ましい態様において、目的タンパク質および/または細胞はヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位を含む。目的タンパク質は既にそのような部位を含んでいてもよい。細胞は既にヘパリンおよび/またはヘパリン硫酸結合部位、たとえばヘパリンおよび/またはヘパリン硫酸を認識する受容体を含んでいてもよい。たとえば、膜結合型上皮増殖因子はヘパリンおよび/またはヘパリン硫酸を認識および/または結合することが知られている(Takamura et al. J Biol Chem. 1997 Dec 5; 272(49): 31036-42、またはBertolesi et al. J Biol Regul Homeost Agents. 2005 Jan - Jun; 19(l-2): 33-40)。
【0023】
したがって、好ましい態様において、本明細書中に定めるマトリックスを含むシステムが提供される。このシステムは、目的タンパク質および/または細胞のための制御放出システムと呼ぶことができる。このシステムは、マトリックス、目的タンパク質および/または細胞を含む。このシステムは、本明細書中に定めるマトリックスを含む細胞支持システムとも呼ぶことができる。
【0024】
前記態様の代わりに、またはそれらと組み合わせて、組換え製造した目的タンパク質を修飾して、1つまたは多数のヘパリンおよび/またはヘパラン結合部位を導入することができる。目的タンパク質中へのヘパリンおよび/またはヘパラン結合部位の導入は、既に本明細書中に定めたように組換えタンパク質中へのそのような部位の導入と同じ方法で実施できる。ヘパリン結合部位および/またはヘパラン硫酸結合部位の数は少なくとも1つである。
【0025】
すべての種類の目的タンパク質または医薬をマトリックスまたは組成物中に使用できる。用語“医薬”は、治療、診断または予防の効果を、好ましくはインビボでもたらす、化学的分子または生物学的分子を表わす。医薬という用語は、そのプロドラッグ形態のものをも示すものとする。“プロドラッグ”形態の医薬は、医薬の構造関連化合物または誘導体であって、宿主に投与した際に希望する医薬に変換されるものを意味する。プロドラッグ形態は、それが変換される医薬により示される希望する薬理活性をほとんどまたは全くもたない可能性がある。本発明の組成物またはマトリックス中へ取り込ませることができるタンパク質の例には下記のものが含まれるが、これらに限定されない:ヘモグロビン、バソプレッシン、オキシトシン、副腎皮質刺激ホルモン、上皮増殖因子、プロラクチン、ルリベリンまたは黄体形成ホルモン放出因子、ヒト成長因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、肝細胞増殖因子、血管形成増殖因子、血管内皮増殖因子、骨形態形成増殖因子、神経増殖因子など;インターロイキン;酵素、たとえばアデノシンデアミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、キサンチンオキシダーゼなど;酵素系;血液凝固因子;凝固阻害物質または凝塊溶解作用物、たとえばストレプトキナーゼおよび組織プラスミノーゲンアクチベーター;免疫化のための抗原;ホルモン。本明細書中に定める目的タンパク質はいかなるタンパク質であってもよく、したがって本明細書中で先に定めた組換えタンパク質と同一であってもよい。しかし、好ましい態様において、目的タンパク質は本明細書中に定める組換えタンパク質とは異なる。好ましくは本発明に用いられる目的タンパク質は、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸結合部位を本来含む。これらのタンパク質は、発育期生物と成体の両方において形態形成に関与し、細胞外マトリックス分子を結合することが知られている。ヘパリンを結合する増殖因子には、トランスフォーミング増殖因子(“TGF”)−ベータスーパーファミリー(骨形態形成タンパク質“BMP”を含む)、線維芽細胞増殖因子(“FGF”)ファミリー(Presta, M., et al, (1992). Biochemical and Biophysical Research Communications. 185: 1098-1107)、および血管内皮増殖因子(“VEGF”)が特に含まれる。好ましい例は、骨形態形成因子−2(BMP−2)および線維芽細胞増殖因子2(FGF−2)である。さらに他の“ヘパリン結合性”タンパク質には、インターロイキン−8、ヌクレオトロフィン−6、ヘパリン結合性上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、結合組織増殖因子、ミドカイン、およびヘパリン結合性増殖関連分子が含まれる。これらのタンパク質は、組織修復を調節することが示された(Gotz, R., et al, (1994). Nature. 372: 266-269 ; Kaneda, N., et al, (1996) J Biochem. 119: 1150-1156 ; Kiguchi, K., et al, (1998) Mol. Carcinogensis. 22: 73-83 ; Kinosaki, M., et al, (1998). Biochim. Biophys. Acta. 1384: 93-102 ; McCaffrey, T., et al, (1992) J. Cell. Physiol. 152: 430-440 ; Nolo, R., et al, (1996) Eur. J Neurosci. 8: 1658-1665 ; Spillmann, D., et al, (1998). Journal of Biological Chemistry. 273: 154815493; Steffen, C, et al, (1998); Growth Factors. 15: 199-213. Tessler, S.,et al, (1994) J; Biol. Chem. 269: 12456-12461)。これらのタンパク質は、脈管系、皮膚、神経および肝臓を含めた多種多様なタイプの組織において治癒を増進する効力をもつことが示された。したがって、特定のタンパク質を選択することにより、これらのタンパク質を用いて身体の多種多様な部分において創傷治癒を増進することができる。
【0026】
本明細書中に定める組成物およびマトリックスの成分それぞれの量を予定の用途に応じて調整すべきであることは、当業者に理解されるであろう。好ましい態様において、約20μg〜約1.5mgの範囲の量のヘパリンを約5μg〜約50μgの目的タンパク質と一緒に投与する。他の好ましい態様において、20μg〜1.5mgの範囲の量のヘパリンを5μg〜50μgの目的タンパク質と一緒に投与する。26μgおよび1mgのヘパリンを20μgの目的タンパク質と一緒に用いて、きわめて良好な結果が得られた。
【0027】
場合により、組成物またはマトリックスは、佐剤、たとえば緩衝剤、塩類、界面活性剤、保湿剤および共溶媒を含むことができる。使用する医薬の量および種類も変更できる:たとえば少なくとも2種類の目的タンパク質の使用、または抗生物質と組み合わせた目的タンパク質の使用。
【0028】
本明細書中に定める組成物およびマトリックスは、この組成物またはマトリックスを対象に導入するとこれが目的タンパク質および/または細胞の制御放出システムを構成するので、特に有利である。ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸は、組換えタンパク質中ならびに場合により目的タンパク質および/または細胞中に存在するヘパリンまたはヘパラン硫酸結合部位により目的タンパク質および/または細胞に結合し、および/またはそれらをターゲティングするであろう。その結果、目的タンパク質および/または細胞は組成物から自由に拡散することはないであろう。目的タンパク質および/または細胞は、その後、マトリックスのインビボ分解に際して放出されるであろう。この放出のタイムコースは、マトリックスの生体適合性ポリマーの素性に依存する。前記態様の代わりに、またはそれらと組み合わせて、マトリックスが組換えタンパク質を生体適合性ポリマーとして含む場合、マトリックス中に存在する組換えタンパク質に1以上の開裂部位を組み込むことにより、目的タンパク質および/または細胞の放出持続時間に影響を及ぼすことができる。たとえば、目的タンパク質の放出持続時間を約1週間から最高で約数カ月間もしくはそれより長くまで、または1週間から最高で数カ月間もしくはそれより長くまで、変更することができる。
【0029】
開裂部位は酵素開裂部位(タンパク質分解性または多糖分解性)、または非特異的加水分解により開裂しうる部位(すなわちエステル結合)であってもよい。開裂部位は、組換えタンパク質を含むマトリックスから目的タンパク質をより特異的に放出する工学的処理を可能にする。開裂部位は、目的タンパク質の一次タンパク質配列をほとんどまたは全く修飾せずに目的タンパク質を放出するのも可能にし、その結果、より高い目的タンパク質の活性を得ることができる。さらにこれは、組換えタンパク質の代謝のみによってではなく、細胞特異的プロセス、たとえば局所タンパク質分解によって、目的タンパク質の放出をよりさらに制御することを可能にする。タンパク質分解に使用できる酵素は多数ある。タンパク質分解性の開裂部位には、コラゲナーゼ、プラスミン、エラスターゼ、ストロメライシン、またはプラスミノーゲンアクチベーターに対する基質を含めることができる(WO 01/83522中に例示)。酵素分解は、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、およびコンドロイチナーゼABCなどの酵素に対する多糖基質についても起きる可能性がある。これらの酵素はそれぞれ多糖基質をもつ。酵素分解は、プロテアーゼで起きる可能性もある。タンパク質分解配列、たとえばプラスミンのひとつを挿入することができる。非酵素開裂は、酸または塩基の触媒機序による非特異的加水分解を受けるいずれかの結合からなることができる。これらの基質は、オリゴエステル、たとえば乳酸またはグリコール酸のオリゴマーを含むことができる。これらの物質の分解速度は、オリゴマーの選択によって制御できる。
【0030】
他の態様において、本明細書中に定めるマトリックスは細胞支持体を構成する。この好ましい態様において、組成物は少なくとも1種類の組換えタンパク質ならびにヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸を含む。本明細書中で先に確認したように、細胞はそれらの細胞表面上のヘパリン結合受容体、たとえば膜結合型上皮増殖因子(これに限定されない)によりマトリックスに付着することができるので、この態様によるマトリックスは細胞支持体として有利である。他の好ましい態様において、細胞支持体を構成するマトリックスは、少なくとも1種類の組換えタンパク質、ヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸、ならびに目的タンパク質を含む。既に本明細書に記載した増殖促進作用物または増殖因子をマトリックスに取り込ませて細胞を導き、または細胞増殖もしくは細胞分化を促進することができるので、この態様によるマトリックスは細胞支持体として特に有利である。細胞をその上で増殖させた本発明による組成物を含む細胞支持体を、たとえば皮膚移植もしくは創傷処置に際して、または骨もしくは軟骨の(再)増殖を増進するために、適用することができる。インプラント材料を本発明組成物でコートして、移植を促進する細胞をインビボで活性化および付着させることも可能である。
【0031】
核酸分子
さらに他の観点において、前記セクションに定めたように両方ともHBSを富化した組換えタンパク質および/または目的タンパク質をコードする核酸配列により表わされる核酸分子が提供される。本明細書中で既に述べたように、好ましい態様において、組換えタンパク質は目的タンパク質と異なる。したがって、組換えタンパク質をコードする核酸配列は、好ましくは、目的タンパク質をコードする核酸配列と異なる。本発明の核酸分子の製造は、当業者に既知の分子生物学的技術を用いて実施される(Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd ed. ,J. Sambrook and David W. Russell; January 2001, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0032】
核酸構築体または発現ベクター
さらに他の観点において、前記セクションに定めた核酸分子を含む核酸構築体または発現ベクターが提供される。場合により、それらの核酸構築体中に存在する核酸配列は、1以上の制御配列に作動可能な状態で連結しており、これらは適切な発現宿主において、両方ともHBSを富化した組換えタンパク質または目的タンパク質の産生を指令する。本発明は、本発明の核酸構築体を含む発現ベクターにも関する。好ましくは、発現ベクターは本発明の核酸配列を含み、これは1以上の制御配列に作動可能な状態で連結しており、これらは適切な発現宿主において、両方ともHBSを富化したコードされた組換えタンパク質または目的タンパク質の産生を指令する。最低でも、制御配列はプロモーターならびに転写および翻訳終止シグナルを含む。発現ベクターを組換え発現ベクターとしてみることができる。発現ベクターは、好都合に組換えDNA操作を受けることができ、両方ともHBSを富化した組換えタンパク質または目的タンパク質をコードする核酸の発現をもたらすことができる、いかなるベクターであってもよい(たとえばプラスミド、ウイルス)。この発現ベクターを導入する宿主の素性および本発明の核酸配列の起源に応じて、当業者はどのようにして最も適切な発現ベクターおよび制御配列を選択するかを知るであろう。
【0033】
宿主細胞
さらに他の観点において、前記セクションに定めた核酸構築体または発現ベクターを含む宿主細胞または細胞または宿主が提供される。適切には、宿主細胞は発現宿主細胞、たとえばハンゼヌラ属(Hansenula)、トリコデルマ属(Trichoderma)、コウジカビ属(Aspergillus)、ペニシリウム属(Penicillium)、酵母菌属(Saccharomyces)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)、アカパンカビ属(Neurospora)またはピキア属(Pichia)である。真菌および酵母細胞は反復配列の不適正発現を生じにくいので、細菌より好ましい。メチロトローフ酵母宿主がより好ましい。メチロトローフ酵母の例には、ハンゼヌラ属またはピキア属の種に属する株が含まれる。好ましい種には、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)およびピキア・パストリス(Pichia pastoris)が含まれる。より好ましくは、宿主は目的タンパク質が発現した際にそれを攻撃または分解する可能性のある高レベルのプロテアーゼまたはタンパク質分解酵素をもたないであろう。最も好ましくは、宿主はプロテアーゼおよび/またはタンパク質分解酵素および/または他のいずれかの望ましくないタンパク質を欠如するように変異されている。これに関して、ピキア属またはハンゼヌラ属はきわめて適切な発現系の例となる。発現系としてのピキア・パストリスの使用は、EP−A−0926543およびEP−A−1014176に開示されている。1態様において、宿主は活性な翻訳後プロセシング機序、たとえば特にプロリンのヒドロキシル化を含まず(すなわち、それは機能性プロリル−4−ヒドロラーゼを欠如する)、かつリジンのヒドロキシル化も含まない。機能性プロリル−4−ヒドロラーゼを欠如する宿主はゼラチン様のタンパク質モノマーまたはマルチマーを発現し、GXYトリプレットのプロリン残基および/またはポリマー中の全プロリン残基の10%未満、より好ましくは5%未満、4%未満、3または2%未満、最も好ましくは1%未満がヒドロキシル化されているであろう。他の態様において、宿主は内因性プロリンヒドロキシル化活性をもち、これにより組換えゼラチン様タンパク質は高い効率でヒドロキシル化される。工業用の既知の酵素産生真菌宿主(特に酵母細胞)から、本明細書に記載する要求パラメーターに基づいて適切な宿主を選択し、宿主細胞に関する知識および発現させる配列と組み合わせて、宿主細胞を本発明に従って使用するのに適切な組換えゼラチン様タンパク質の発現に適切なものにするすることは、当業者に可能であろう。
【0034】
製造方法
さらに他の観点において、前記セクションに定めたように両方ともHBSを富化した組換えタンパク質および/または目的タンパク質の製造のための方法が提供される。この方法では、好ましくは、前記セクションに定めた宿主細胞を、組換えタンパク質および/または目的タンパク質の発現をもたらす適切な条件下で培養し、次いで場合により組換えタンパク質および/または目的タンパク質を宿主細胞から回収する。
【0035】
本発明による組換えタンパク質および/または目的タンパク質を製造するための好ましい方法は、下記を含む:
−前記セクションに定めた組換えタンパク質および/または目的タンパク質をコードする核酸配列を含む発現ベクターを調製し;
−該核酸配列を、宿主、好ましくは酵母、より好ましくはメチロトローフ酵母において発現させ;
−該酵母を適切な発酵条件下で培養して該核酸配列を発現させ;
−場合により組換えタンパク質および/または目的タンパク質を培養物から精製する。
【0036】
ゼラチン様タンパク質を含む本発明の組換えタンパク質は、EP−A−0926543、EP−A−1014176またはWO 01/34646に開示された組換え法により製造することができる。ゼラチン様タンパク質を含む本発明の組換えタンパク質の製造および精製を可能にするために、EP−A−0926543およびEP−A−1014176中の例も参照される;これらにおいてはピキア・パストリスを宿主細胞として用いている。
【0037】
本明細書に定める組換えタンパク質および目的タンパク質を、両方とも同じ宿主細胞において単一の方法で製造することができる(両方のタンパク質を同時に製造)。あるいは、組換えタンパク質および目的タンパク質を、同一または異なる宿主細胞において2つの異なる方法で製造することができる。
【0038】
医療用途
さらに他の観点において、療法薬として使用するための、すべて本明細書中に定める組成物またはマトリックスが提供される。本明細書中に定める組成物またはマトリックスは、対象に導入された状態で、目的タンパク質および/または細胞のための制御放出システムであるか、あるいは細胞支持体である。療法薬または医薬は、目的タンパク質および/または細胞であってもよい。幾つかの医薬が既に本明細書中に同定されている。本発明が特定のタイプの療法薬に限定されないことは、当業者に理解されるであろう。本発明の制御放出システムは、療法薬として使用することが知られているかまたは療法薬として使用する可能性をもついかなる目的タンパク質にも使用できる。好ましい態様において、療法薬は、細胞の修復、再生もしくはリモデリングを促進するための、または細胞の修復もしくは再生を阻害するための、または痛み、癌療法、心血管疾患、心筋修復、血管形成、骨の修復および再生、創傷処置、神経刺激/療法、もしくは糖尿病の処置のためのものである。たとえば、本明細書中に定めるマトリックスの一部としての細胞は、インスリンを供給するための療法用途において、I型糖尿病に罹患している対象の膵臓中へ使用できる。
【0039】
本発明がさらに、本明細書中に定める状態または疾患のいずれかの予防または治療に用いる療法薬の調製のための組成物またはマトリックスの使用を提供するさらに他の観点に関することは、当業者に理解されるであろう。
【0040】
本発明に用いる療法薬はさらに、1種類以上の追加の療法薬または有効成分を含むことができる。本発明に用いる療法薬は注射(皮下、静脈内または筋肉内)または経口または吸入により投与することができる。しかし、本発明に用いる療法薬を外科処置により埋め込むこともできる。さらに他の適切な投与経路は、外部創傷包帯またはさらには経皮によるものである。
【0041】
方法
さらに他の観点において、すべて本明細書中に定める組成物および/またはマトリックスを、その必要がある対象に導入し、その際、目的タンパク質および/または細胞がその対象において放出される方法が提供される。好ましくは、目的タンパク質および/または細胞はその対象において(インビボで)その組成物および/またはマトリックスから放出される。
【0042】
一般的定義
好ましい態様において、本発明に用いる組換えタンパク質は、以下に定めるゼラチン様タンパク質である。
【0043】
組換えタンパク質の一例としてのゼラチン様タンパク質
ゼラチン様タンパク質は、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10、11、12反復のモノマーを含むマルチマーまたはマルチマー状ペプチドである。幾つかの好ましいモノマーがさらに本明細書中に同定されている。
【0044】
ゼラチン様タンパク質は、ゼラチン様タンパク質モノマー(またはモノマー類を含むかもしくはモノマー類からなるポリマー)であってもよく、好ましくは実質数のGXY三つ組を含むか、またはそれからなる;ここでGはグリシンであり、XおよびYはいずれかのアミノ酸である。実質数のGXY三つ組とは、ゼラチン様タンパク質モノマー全体の少なくとも約50%、または少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、または最も好ましくは100%のアミノ酸トリプレットがGXY、特に連続GXYトリプレットであることを表わす。モノマーおよび/またはポリマーのN−末端および/またはC−末端は他のアミノ酸を含むことができ、それらはGXYトリプレットである必要はない。また、モノマーの分子量は少なくとも約15kDa(計算分子量)、より好ましくは少なくとも約16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90kDaもしくはそれ以上、または好ましくは少なくとも15kDa(計算分子量)、より好ましくは少なくとも16、17、18、19、20、30、40、50、60、70、80、90kDaもしくはそれ以上である。
【0045】
用語‘コラーゲン’、‘コラーゲン関連’、‘コラーゲン由来’、またはこれらに類するものも当技術分野でしばしば用いられるが、用語‘ゼラチン’または‘ゼラチン様’も使用できる。天然ゼラチンは、5,000から最高400,000ダルトンを超えるまでの範囲に及ぶMWをもつ個々のポリマーの混合物である。“天然(nativeまたはnatural)”コラーゲンまたはコラーゲン性ドメインは、自然界で、たとえばヒトまたは他の哺乳動物中にみられる核酸またはアミノ酸の配列を表わす。ある態様において、ゼラチン様タンパク質は組換えタンパク質である。
【0046】
“三重らせんドメイン”および“コラーゲン性ドメイン”という表現は、互換性をもって用いられ、Gly−Xaa−Yaaトリプレット反復領域(またはGXY三つ組)、または組換えもしくは天然のコラーゲンのモチーフ、すなわち[Gly−Xaa−Yaa]nを表わす;これらにおいて、XaaおよびYaaはいずれかのアミノ酸であり、nは少なくとも5、10、15、20、30、40、50、70、80、90、100またはそれ以上である。たとえば、SEQ ID NO:1に示す天然ヒトCOLlAlにおいて、コラーゲン性ドメインはアミノ酸179からアミノ酸1192までであり、それもしくはそのバリアントの全体、またはそれの(またはバリアントの)フラグメントを本発明に使用できる。ゼラチン様タンパク質とは、ゼラチン様タンパク質モノマーまたはゼラチン様タンパク質マルチマーを意味する。
【0047】
さらに他の態様において、本発明に使用する組換えゼラチン様タンパク質はS(Ser)および/またはT(Thr)および/またはN(Asn)をいずれも含まない。したがって、たとえば天然コラーゲンドメイン(またはそのフラグメント)中にみられるSおよび/またはTおよび/またはNを、既知の分子生物学的方法で交換および/または欠失することができる。あるいは、Sおよび/またはTおよび/またはNを含まない天然フラグメントを選択することができる。これらのアミノ酸においては、通常はグリコシル化が起きる:Asn(N−グリコシド構造体)、SerまたはThr(O−グリコシド構造体)。グリコシル化がこれにより抑制または阻止され、これは免疫応答を望まない用途にとって利点である。
【0048】
さらに他の好ましい態様において、使用するゼラチン様タンパク質は本質的にプロリン残基を含まない。よりさらに好ましくは、ヒドロキシプロリン残基を含まない。ヒドロキシル化はコラーゲンにおける三重らせんの形成のための要件であり、ゼラチンのゲル化において役割を果たす。したがって、好ましい態様において、ゼラチン様タンパク質は本質的にグリコシル化を含まず、および/または本質的にヒドロキシプロリン残基を含まない。これに関して、“本質的に含まない”とは、ゼラチン様タンパク質がグリコシル化部位を1つ含む可能性があるかもしくは含まないこと、および/またはヒドロキシプロリン残基を1つ含む可能性があるかもしくは含まないことを意味する。より好ましくは、ゼラチン様タンパク質はグリコシル化を含まず、および/またはヒドロキシプロリン残基を含まない。
【0049】
本発明に用いるゼラチン様タンパク質は、本明細書に記載する配列のモノマーのマルチマーであってもよい。したがって、さらに他の態様においては、前記配列のモノマーのマルチマーを含むかまたはそれからなる組換えゼラチン様タンパク質が提供される。好ましくは、モノマーの反復は同じモノマー単位の反復(同一のアミノ酸配列をもつ)であるが、場合により異なるモノマー単位の組合わせ(それぞれ前記の基準に属する異なるアミノ酸配列をもつ)を使用できる。好ましくは、モノマー単位はスペーシングアミノ酸により分離されていないが、短い連結アミノ酸、たとえば1、2、3、4または5個のアミノ酸を1以上のモノマー間に挿入することもできる。
【0050】
1態様において、マルチマーは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10、11、12反復の前記モノマーまたはそれ以上、たとえばSEQ ID NO:1のアミノ酸179〜1192と実質的に同一の配列を含むか、またはそれからなる。
【0051】
したがって、組換えポリマーはn個のモノマー単位を含むことができ、各モノマーは前記の基準を満たし、ここでnは約15〜150kDaのマルチマーを構築するのに必要なモノマー反復数である。したがって、nの値はモノマーのサイズに依存する。10アミノ酸のモノマーについて、nはたとえば10〜100またはそれ以上であってもよい。100アミノ酸のモノマーについて、nはたとえば1〜10であってもよい。ポリマーは、連続して連結した同一または異なるモノマー単位を含むことができる。各モノマーは、好ましくは少なくとも1つのXRGDを含み、ここでXはDまたはPまたはOではない。モノマーはDRGDおよび/またはPRGDを含まないので、ポリマーもこれらのモチーフを含まない。好ましくは、ポリマーは少なくともn個のXRGDモチーフ(これらにおいてXはD、PまたはOではない)を含み、DRGD、PRGDまたはORGDモチーフを含まない。好ましくは、ポリマーはS、Tおよび/またはNも含まない。したがって、好ましい組換えゼラチン様タンパク質は、少なくとも1つのXRGDモチーフを含むマルチマーペプチドまたはポリマーであり、ここでXはD、PまたはOではない。
【0052】
用語“改良された安定性”は、XRGDまたはRGDを富化したゼラチンが、酵母発現宿主の通常の培養条件下で、DRGD、PRGDもしくはORGD(Oはヒドロキシプロリンを意味する)をもつ対応する配列と比較して、加水分解されないこと、またはより軽度に、好ましくは少なくとも2倍軽度に加水分解されることを意味する。
【0053】
さらに他の好ましい態様において、組換えタンパク質として用いる、ヘパリン結合部位を富化したゼラチン様タンパク質は、実施例に記載するようにモノマーとしてSEQ ID No:2を含む。これは、ヘパリン結合部位を富化したHBC(Heparin Binding Collagen like polypeptide、ヘパリン結合性コラーゲン様ポリペプチド)である。この組換えタンパク質の製造は、実施例に詳細に記載されている。少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10、11、12反復のこのモノマーSEQ ID NO:2を含むかまたはそれからなるマルチマーは、SEQ ID NO:1のマルチマーと同じ方法で製造できる。モノマーとしてSEQ ID No:1を含むマルチマーについて示したすべての定義がモノマーとしてSEQ ID No:2を含むマルチマーにも当てはまる。
【0054】
“フラグメント”は、より長い核酸またはポリペプチドの分子の一部であり、より長い分子の、たとえば少なくとも10、15、20、25、30、50、100、200、500またはそれ以上の連続ヌクレオチドまたはアミノ酸の残基を含むかまたはそれからなる。好ましくは、フラグメントは、より長い分子の1000、800、600、500、300、200、100、50、30未満またはそれより少ない連続ヌクレオチドまたはアミノ酸の残基を含むかまたはそれからなる。
【0055】
“バリアント”は、1以上のアミノ酸の挿入、欠失または置換により天然配列と異なる配列を表わし、後記に定めるように天然配列と“実質的に同一”である。
用語“タンパク質”または“ポリペプチド”または“ペプチド”は互換性をもって用いられ、アミノ酸鎖からなる分子を表わし、特定の作用様式、サイズ、三次元構造または起源を表わすものではない。単離したタンパク質は、それの自然環境中でみられるものではないタンパク質、たとえば培養培地から精製したタンパク質である。
【0056】
用語“同一性”、“実質的に同一”、“実質的同一性”または“本質的に類似”もしくは“本質的類似性”は、2つのポリペプチドが、デフォルト付きスミス−ウォーターマン(Smith−Waterman)アルゴリズムを用いて対にアラインさせた場合、少なくとも60%、70%、80%、より好ましくは少なくとも90%、95%、96%または97%、より好ましくは少なくとも98%、99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を含むことを意味する。配列アラインメントおよび配列同一性パーセント評点は、コンピュータープログラム、たとえばGCG Wisconsin Package,Version 10.3(Accelrys Inc.から入手できる、9685 Scranton Road,San Diego,CA 92121−3752 USA)を用いて、またはEmbossWIN(たとえばVersion 2.10.0)を用いて決定できる。2配列間の配列同一性を比較するために、ローカルアラインメントアルゴリズムを用いることが好ましい:たとえばスミス−ウォーターマンアルゴリズム(Smith TF, Waterman MS (1981) J. Mol. Biol 147(l); 195-7)、たとえばEmbossWINプログラム“water”に用いられるもの。デフォルトパラメーターは、ギャップオープニングペナルティー10.0およびギャップエクステンションペナルティー0.5である;タンパク質についてのBlosum62置換マトリックスを使用(Henikoff & Henikoff, 1992, PNAS 89, 915-919)。好ましい態様において、“同一性”、“実質的に同一”、“実質的同一性”または“本質的に類似”もしくは“本質的類似性”は特定のポリペプチドまたは核酸分子の全SEQ ID NOを用いて評価される。
【0057】
本明細書中で用いる用語“作動可能な状態で連結している”は、機能的関係にあるエレメント(核酸またはタンパク質またはペプチド)の連結を表わす。エレメントは、それが他のエレメントと機能的関係に置かれている場合、“作動可能な状態で連結している”。たとえば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能な状態で連結している。作動可能な状態で連結しているとは、連結されるエレメントが一般に連続していること、また2つのタンパク質コード領域を結合させるのに必要な場合には、連続しておりかつリーディングフレーム内にあることを意味する。
【0058】
発現がタンパク質の産生に関与するいずれの段階も含むことは理解されるであろう;これには転写、転写後修飾、翻訳、翻訳後修飾、および分泌が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
核酸構築体は、天然遺伝子から単離された核酸分子、または他の場合には自然界に存在しない様式で組み合わせもしくは並置された核酸セグメントを含むように修飾された核酸分子であると定義される。
【0060】
制御配列は、本明細書中で、組換えタンパク質の発現に必要または有利であるすべての構成要素を含むものと定義される。最低でも、制御配列にはプロモーターならびに転写および翻訳終止シグナルが含まれる。
【0061】
架橋
架橋は、化学的架橋であってもよい。化学的架橋の場合、用いる(組換え)タンパク質は、たとえば(化学的)リンカーを付与され、次いで架橋反応を受ける。したがって本発明は、化学的に架橋した組換えタンパク質(好ましくはゼラチン様タンパク質)および目的タンパク質を含む制御放出組成物を提供し、その際、組換えタンパク質の平均メッシュサイズ(単数または複数)と目的タンパク質の平均流体力学的半径との比は2未満、好ましくは1.5未満であり、組換えタンパク質は架橋性基で化学修飾されている。架橋性基は下記のものから選択されるが、これらに限定されない:エポキシ化合物、オキセタン誘導体、ラクトン誘導体、オキサゾリン誘導体、環状シロキサン類、またはエテン性不飽和化合物、たとえばアクリレート、メタクリレート、ポリエン−ポリチオール、ビニルエーテル、ビニルアミド、ビニルアミン、アリルエーテル、アリルエステル、アリルアミン、マレイン酸誘導体、イタコン酸誘導体、ポリブタジエン類およびスチレン類。
【0062】
好ましくは、架橋性基として(メタ)アクリレート、たとえばアルキル−(メタ)アクリレート、ポリエステル−(メタ)アクリレート、ウレタン−(メタ)アクリレート、ポリエーテル−(メタ)アクリレート、エポキシ−(メタ)アクリレート、ポリブタジエン−(メタ)アクリレート、シリコーン−(メタ)アクリレート、メラミン−Iメタjアクリレート(melamine-Imethjacrylates)、ホスファゼン−(メタ)アクリレート、(メタクリルアミドおよびその組合わせが、それらの高い反応性のため用いられる。よりさらに好ましくは、この架橋性基はメタクリレートであり、したがって本発明は、メタクリル化された組換えタンパク質をも提供する。そのようなメタクリル化された組換えタンパク質は、制御放出組成物の調製にきわめて有用である。一般に、連結基(たとえばメタクリレート)を組換えタンパク質にカップリングさせ、そしてレドックス重合(たとえば、化学的開始剤、たとえばペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)/N,N,N’,N’ テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)の組合わせで処理することによる)により、またはラジカル重合により、開始剤の存在下で、たとえば熱反応により、もしくは放射線、たとえばUV線により、架橋を得る。
【0063】
本発明によれば光開始剤を使用でき、これを組換えタンパク質の溶液中へ混合することができる。混合物をUV線または可視光線により硬化させる場合、光開始剤が通常は必要である。適切な光開始剤は、当技術分野で既知のもの、たとえばラジカルタイプ、カチオンタイプまたはアニオンタイプの光開始剤である。
【0064】
ラジカルタイプIの光開始剤の例は、下記のものである:ヒドロキシアルキルケトン類、たとえば2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2 メチル−L プロパノン(Irgacure(商標)2.95.9:Ciba)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure(商標)184:Ciba)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン(Sarcure(商標)SR1173:Sartomer)、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−l−{4−(l メチルビニル)フェニル}プロパノン](Sarcure(商標)SR1130:Sartomer)、2−ヒドロキシ−2 メチル−l−(4−tert−ブチル−)フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−[4’−(2 ヒドロキシプロポキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2 ヒドロキシ−2−メチル−プロパノン(Darcure(商標)1116:Ciba);アミノアルキルフェノン類、たとえば2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン(Irgacure(商標)16369:Ciba)、2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン(Irgacure(商標)907:Ciba);α,α−ジアルコキシアセトフェノン類、たとえばα.,α−ジメトキシ−a.フェニルアセトフェノン(Irgacure(商標)651:Ciba)、2,2−ジエトキシ−l,2 ジフェニルエタノン(Uvatone(商標)8302:Upjohn)、α,α−ジエトキシアセトフェノン(DEAP:Rahn)、α,α−ジ−(n−ブトキシ)アセトフェノン(Uvatone(商標)8301:Upjohn);フェニルグリオキサレート類、たとえばギ酸メチルベンゾイル(Darocure”MBF:Ciba);ベンゾイン誘導体、たとえばベンゾイン(Esacure(商標)BO:Lamberti)、ベンゾインアルキルエーテル類(エチル、イソプロピル、n−ブチル、イソ−ブチルなど)、ベンジルベンゾインベンジルエーテル類、Anisoin;モノ−およびビス−アシルホスフィンオキシド類、たとえば2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド(Lucirin(商標)TPO:BASF)、エチル−2,4,6 トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート(Lucirin(商標)TPO−L:BASF)、ビス(2,4,6 トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(Irgacure(商標)819:Ciba)、ビス(2,6 ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシド(pentylphosphineo:x.ide)(Irgacure(商標)1800または1870)。他の市販の光開始剤は下記のものである:l−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]−l,2−オクタンジオン(Irgacure(商標)OXE0l)、l−[9−エチル−6−(2 メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)エタノン(Irgacure OXE02),2−ヒドロキシ−l−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2メチル−プロパン−Lオン(Irgacure 127)、オキシ−フェニル−酢酸 2−[2 オキソ−z−フェニルアセトキシ−エトキシj−エチルエステル(Irgacure754)、オキシ−フェニル−酢酸−2−[2−ヒドロキシ−エトキシj−エチルエステル(Irgacure754)、2−(ジメチルアミノ)−2−(4−メチルベンジル)−I−[4(4−モルホリニル)フェニルj−Lブタノン(Irgacure 379)、l−[4−[4 ベンゾイルフェニル)チオ]フェニル]−2−メチル−2−[(4−メチルフェニル)スルホニル)]−Iプロパノン(Esacure 1001M,Lambertiから)、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’ テトラフェニル−1,2’−ビスイミダゾール(Omnirad BCIM,10Mから)。
【0065】
ラジカルタイプIIの光開始剤の例は、下記のものである:ベンゾフェノン誘導体、たとえばベンゾフェノン(Additol(商標)BP:DCB)、4−ヒドロキシベンゾフェノン、3 ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4,6 トリメチルベンゾフェノン、2−メチルベンゾフェノン、3−メチルベンゾフェノン、4 メチルベンゾフェノン、2,5−ジメチルベンゾフェノン、3,4−ジメチルベンゾフェノン、4−(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、[4−(4−メチルフェニルチオ)フェニル]フェニル−17−メタノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、メチル−2−ベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4 ビス(エチルメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N,N トリメチルベンゼンメタナミニウムクロリド、2−5 ヒドロキシ−3−(4−ベンゾイルフェノキシ)−N,N,N−トリメチル−l−プロパナミウムクロリド、2−(アクリロイルオキシ)エチル 4−(4−クロロベンゾイル)ベンゾエート(Uvecryl(商標)P36:UCB)、4−ベンゾイル−N,N−ジメチ−N [2−(I−オキソ−2−プロペニル)oy]エチルベンゼンメタナミニウムクロリド、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィド、アントラキノン、エチルアントラキノン、アントラキノン−2−スルホン酸ナトリウム塩、ジベンゾスベレノン;アセトフェノン誘導体、たとえばアセトフェノン、4’ フェノキシアセトフェノン、4’−ヒドロキシアセトフェノン、3’ ヒドロキシアセトフェノン、3’ エトキシアセトフェノン;チオキサンテノン誘導体、たとえばチオキサンテノン、2 クロロチオキサンテノン、4−クロロチオキサンテノン、イソプロピルチオキサンテノン、4 イソプロピルチオキサンテノン、2,4−ジメチルチオキサンテノン、2,4−ジエチルチオキサンテノン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサントン−2 イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−I−プロパナミニウムクロリド(Kayacure QTX:Nippon Kayaku);ジオン類、たとえばベンジル、カンフォーキノン、4,4’−ジメチルベンジル、フェナントレンキノン、フェニルプロパンジオン;ジメチルアニリン類、たとえば4,4’,4” メチリジン−トリス(N,N−ジメチルアニリン)(Omnirad(商標)LCV,IGMから);イミダゾール誘導体、たとえば2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−I,2’ ビスイミダゾール:チタノセン類、たとえばビス(eta−5−2,4−シクロペンタジエン−I−イル)−ビス−[2,6 ジフルオロ−3−IH−ピロール−I−イル]フェニル]チタニウム(Irgacurel’M784:Ciba);イオディニウム塩、たとえばイオディニウム、(4 メチルフェニル)−[4−(2−メチルプロピル−フェニル)ヘキサフルオロホスフェート(1−)。所望により、光開始剤の組合わせも使用できる。
【0066】
アクリレートについては、ジアクリレート、トリアクリレートまたは多官能性アクリレート、タイプI光開始剤が好ましい。特に、アルファ−ヒドロキシアルキルフェノン類、たとえば2−ヒドロキシ−2 メチル−I−フェニル プロパン−I−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−I−(4 tert−ブチル−)フェニルプロパン−I−オン、2−ヒドロキシ−[4’−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−I−オン、2−ヒドロキシ−I [4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチルl8プロパン−I−オン、I ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよびオリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル l−{4−(l メチルビニル)フェニル}プロパノン]、アルファ−アミノアルキルフェノン類、アルファスルホニルアルキルフェノン類、ならびにアシルホスフィンオキシド類、たとえば2,4,6 トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド、エチル−2,4,6−トリメチルベンゾイル−フェニルホスフィネートおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドが好ましい。
【0067】
赤外線による架橋も熱硬化として知られている。したがって、架橋はエチレン性不飽和基をフリーラジカル開始剤および場合により触媒と混和し、この混合物を加熱することにより実施できる。フリーラジカル開始剤の例は下記のものである:有機過酸化物、たとえば過酸化エチルおよび過酸化ベンジル;ヒドロペルオキシド類、たとえばメチルヒドロペルオキシド;アシロイン類、たとえばベンゾイン;特定のアゾ化合物、たとえばa,a’ アゾビスイソブチロニトリロおよびy,y’−アゾビス(y−シアノ吉草酸);ペルスルフェート類;ペルオキソスルフェート類;ペルアセテート類、たとえば過酢酸メチルおよび過酢酸tert−ブチル;ペルオキサレート類、たとえば過シュウ酸ジメチルおよび過シュウ酸ジ(tert−ブチル):ジスルフィド類、たとえばジメチルチウラムジスルフィド;ならびにケトンペルオキシド類、たとえばメチルエチルケトンペルオキシド。
【0068】
約23℃から約150℃まで、または23℃から150℃までの範囲の温度が一般に用いられる。より多くの場合、約37℃から約110℃まで、または37℃から110℃までまでの範囲の温度が用いられる。架橋方法を選択する場合、目的タンパク質が反応により‘損なわれる’ことなくそれの療法活性を保持するのを保証することがきわめて重要である。
【0069】
メタクリル化された組換えタンパク質の使用は、目的タンパク質との組合わせにおいて特に好ましい;メタクリル化された組換えタンパク質、たとえばゼラチン様タンパク質の架橋は、目的タンパク質を架橋することなく目的タンパク質の存在下で実施できるからである。
【0070】
架橋の結果、医薬、すなわち目的タンパク質を含む制御放出組成物が得られる。得られる生成物のメッシュサイズまたは細孔サイズは、用いる組換えタンパク質および架橋密度に依存する。メッシュサイズは、ヒドロゲルポリマー網状構造中の2つの隣接架橋間の平均距離と定義される。医薬として目的タンパク質を用いる場合、メッシュサイズは目的タンパク質の流体力学的半径より大および小の両方の可能性がある。流体力学的半径RHは、組換えタンパク質を含むマトリックス中における目的タンパク質の、すべての環境作用を考慮に入れた見掛け半径である。したがって流体力学的半径は、拡散係数Dから関係式D=kT/6 ltTJRHにより誘導され、式中のkはボルツマン定数であり、Tはケルビン温度であり、1Cは3.14であり、11は溶液の粘度(mPa.)である。本発明において、流体力学的半径は好ましくは生理的条件で測定される。得られる生成物の分解速度は、架橋の量に依存する:より多く架橋するほど分解はより遅くなる。好ましい態様において、分解速度は1年以内である。医薬の放出プロフィールは通常は数週間、または最大で数カ月間延長するので、組換えタンパク質を含むマトリックスは同様な時間ウインドウで分解することが好ましい。得られる生成物の最終装填密度は、組換えタンパク質の使用アミノ酸配列と架橋度の両方に依存する。得られる生成物は種々の外観をもつ可能性がある:たとえば緻密/均質またはマクロ多孔質。
【0071】
用いる医薬、すなわち目的タンパク質の放出プロフィールは、数時間(拡散制御型)から数週間または数カ月間(分解速度により制御される)までの可能性がある。両方の機序の組合わせが起きる可能性もある。大部分の用途について徐放が好ましく、したがって主要な機序として生分解が好ましい。
【0072】
前記のように、架橋は、組換えタンパク質の予備修飾に際して導入した(メタ)アクリレート残基を架橋させることにより得ることができる。しかし、使用する組換えタンパク質に別個にカップリングさせる必要のない化学的架橋剤を用いることも可能である。他の態様において、本発明は制御放出組成物を調製するための方法であって、下記の工程を含む方法を提供する:
−組換えタンパク質、好ましくはゼラチン様タンパク質および医薬である目的タンパク質の溶液を用意し;
−組換えタンパク質を架橋させて三次元構造体を得る;その際、架橋は下記のものから選択される化学的架橋剤の使用により得られる:水溶性カルボジイミド、不溶性カルボジイミド、ジアルデヒドジ−イソシアネート、アルデヒド化合物、たとえばホルムアルデヒドおよびグルタルアルデヒド、ケトン化合物、たとえばジアセチルおよびクロロペンタンジオン、ビス(2−クロロエチル尿素)、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−L,3,5−トリアジン、反応性ハロゲン含有化合物:US−A−3288775に開示、カルバモイルピリジニウム化合物においてピリジン環がスルフェートまたはアルキルスルフェート基を保有するもの:US−A−4063952およびUS−A−5529892に開示、ジビニルスルホン類など。S−トリアジン誘導体、たとえば2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンは周知の架橋用化合物である。
【0073】
基本的に、架橋は異なるゼラチン分子上の2つの反応性基の間で起きる。特に好ましいのは、水溶性カルボジイミドであるl−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩の使用である。選択する組換えタンパク質のタイプ(架橋性基の数)および架橋方法に応じて、特定の架橋密度を得ることができ、これは達成できる平均メッシュサイズに強く関係する。架橋性基を別個の工程でゼラチンにカップリングさせる場合、およびヒドロゲルについて緻密な構造を望む場合、ゼラチン中の少なくとも20%、または少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%の架橋性基を活性化することが好ましい。最も好ましくは、置換度は100%に近い。
【0074】
さらに、不定冠詞“a”または“an”による要素の表記は、1つの要素および1つだけの要素があることが状況から要求されない限り、1より多い要素が存在する可能性を除外するものではない。したがって、不定冠詞“a”または“an”は通常は“少なくとも1つ”を意味する。用語“含む(comprising)”は記述した部品、工程または構成要素の存在を明記するけれども1以上の追加の部品、工程または構成要素の存在を除外するものではないと解釈すべきである。さらに、動詞“構成される(to consist)”は“本質的に構成される(to consist essentially of)”で置き換えることができ、本明細書中に定めるポリペプチドもしくは核酸構築体または組成物または細胞が明記したもの以外の追加の構成要素(単数または複数)を含むことができ、その追加の構成要素(単数または複数)が本発明の独自の特徴を変更しないことを意味する。
【0075】
別途指示しない限り、本明細書に記載した各態様を互いに組み合わせることができる。本明細書に引用したすべての特許および文献の全体を本明細書に援用する。
【実施例】
【0076】
本発明をさらに下記の実施例により説明する;これらが本発明の範囲を限定すると解すべきではない。
SEQ ID No.2:HBC(Heparin Binding Collagen like polypeptide、ヘパリン結合性コラーゲン様ポリペプチド)のモノマーを表わす
【0077】
【化1】

【0078】
上記の配列はヒトV型コラーゲンアルファ1鎖(Col5al)位置821〜1030に基づく。V型コラーゲンアルファ1鎖はヘパリン/ヘパラン硫酸に結合する。特に、いわゆるHepV部分(太字)はヘパリンに強く結合する。(HBC)nは、ヘパリン結合部位を富化した好ましい組換えタンパク質の一例である。選択されるヘパリン結合部位は“GLPGMKGHRGFS”(上記のSEQ ID NO:2中の太字)である。実際には、Sはグリコシル化部位であるため除かれた。必要な場合には、グリコシル化を避けるためにT(複数)およびS(複数)をAに置換した。
【0079】
実施例1:
ヒトCOL5alのゼラチンアミノ酸配列の一部をコードする核酸配列に基づき、この核酸配列を修飾して、ヘパリン結合性ゼラチンを製造した。EP−A−0926543、EP−A−1014176およびWO 01/34646に開示された方法を用いた。このヘパリン結合性ゼラチンをHBCと命名し、本発明によるこのヘパリン結合性ゼラチンの配列をSEQ ID NO:2に示す。標準的なサブクローニング法により、HBCモノマーのマルチマーを調製した:(HBC)n、nは4、8または12。
【0080】
実施例2:ヘパリン結合性組換えゼラチンマトリックスからのBMP2の送達
ヘパリン結合性組換えゼラチンマトリックスに結合した骨形態形成因子−2(BMP−2)および線維芽細胞増殖因子2(FGF−2)はヘパリンの存在下でこの増殖因子の放出を制御することができ、このマトリックスを皮下に埋め込むと異所性骨が形成されることが証明された。この手順は骨欠損部内での骨形成とは異なるが、生物活性増殖因子(BMP−2またはFGF−2)のインビボ放出を制御する能力を試験するのに適切な方法を実際に提供する。そのようなマトリックスを調製するための2方法を例として提示する。
【0081】
方法1:メチルアクリル化されたゼラチンマトリックス
組換えゼラチン様タンパク質(HBC)4およびP4を、下記に従ってメタクリレート残基で誘導体化した。2.5gのゼラチンを200mlのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した。溶液を窒素雰囲気下で50℃に加熱し、無水メタクリル酸(MA−Anh)を添加した。種々の置換度を達成するために、MA−Anh:ゼラチン比を変更した。メタクリル化反応に際して、1M NaOH溶液の添加により溶液のpHを規則的に制御し、必要であれば7〜7.4に保持した。50℃で1時間、激しく撹拌した後、溶液を水に対して徹底的に透析した(透析チューブ:14kDa MWCO Medicell International、英国ロンドン)。凍結乾燥により乾燥生成物が得られ、これを密閉ガラス容器内に4℃で保存した。
【0082】
2種類の増殖因子BMP−2およびFGF−2を試験した。ゲルを、ヘパリンおよび上記増殖因子のうち1つの存在下で重合させた;ヘパリン−対−増殖因子の比率1:1および40:1。2種類の被験増殖因子のうち1つおよびヘパリンを含有する組換えゼラチンマトリックスを、下記に従って調製した。初期ゼラチン濃度5、10、15、20、25、30および40%(w/w)のヒドロゲルを調製した。メタクリル化ゼラチンを0.05% NaN3含有リン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し、溶液を遠心した(5分間、10000RPM)。遠心すると、596mgのゼラチン溶液をエッペンドルフ試験管に充填し、75μlのリン酸緩衝液(pH7.4)(または放出実験のためのタンパク質原液)を添加し、穏やかに混合した。KPSの20mg/ml原液(56.5μl)およびTEMEDの20%原液(22.5μl)を添加し、混合してゼラチンのメタクリレート残基の架橋を誘導した。この溶液を1ml注射器(Becton−Dickinson、ニュージャージー州フランクリンレイク)の充填に用いた。1.5時間後、注射器を開いてヒドロゲルを取り出し、これらを長さ6mm、半径2.3mmの円筒に切断した。
【0083】
方法2:l−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いる化学的架橋
増殖因子BMP−2およびFGF−2は両方ともヘパリンを結合することができ、ヘパリンの存在下で(HBC)4の組換えゼラチンマトリックスに結合するであろう。ヒドロゲルマトリックスを予め調製し、ヘパリンおよび2種類の増殖因子のうち1つを拡散により装填した;ヘパリン−対−増殖因子の比率1:1および40:1。組換えゼラチン(HBC)4を用いて、ヘパリン結合性組換えゼラチン制御放出システムを試験した。ヘパリン結合能をもたない対照組換えゼラチンP4(EP 1 014 176に開示)の対照ゲルに、等量の増殖因子およびヘパリンを装填した。HBCおよびP4のゼラチンヒドロゲルを、室温で水中の25% w/w溶液として調製した。60μlの25% EDCを400μlの25% P4に添加し、混合した。この溶液を1ml注射器(Becton−Dickinson、ニュージャージー州フランクリンレイク)の充填に用いた。1.5時間後、注射器を開いてヒドロゲルを取り出し、これらを長さ6mm、半径2.3mmの円筒に切断した。
【0084】
異所性骨形成アッセイ
ゲルをラットの皮下に埋め込み、2週間残留させた。マトリックスを抜き出したところ、表3に示すように、ヘパリン結合性放出システムを含まないゲルからは骨の形成はほとんどまたは全くみられず、一方、このシステムを実際に含有していたゲルは有意の骨形成を示した。
【0085】
【表1】

【0086】
この放出システムはマトリックス内の異所性骨形成を増進し、この放出システムのインビボでの実用性を証明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン結合部位および/またはヘパラン硫酸結合部位(HBS)を富化した組換えタンパク質であって、HBSがGBBGB、GLPGMKGHRGFS、GRKGR、GKRGKおよびKEDKからなる群から選択され、これらにおいてBは塩基性アミノ酸である、前記組換えタンパク質。
【請求項2】
組換えタンパク質がゼラチン様タンパク質である、請求項1に記載の組換えタンパク質。
【請求項3】
組換えタンパク質が本質的にグリコシル化を含まない、請求項2に記載の組換えタンパク質。
【請求項4】
組換えタンパク質が本質的にヒドロキシプロリン残基を含まない、請求項3に記載の組換えタンパク質。
【請求項5】
組換えタンパク質が少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10、11、12反復のモノマーを含むマルチマーペプチドである、前記請求項のいずれか1項に記載の組換えタンパク質。
【請求項6】
モノマーが少なくとも1つのXRGDを含み、その際、XはDまたはPまたはOではない、請求項5に記載の組換えタンパク質。
【請求項7】
前記請求項のいずれか1項に記載の組換えタンパク質を含む組成物。
【請求項8】
組成物がさらにヘパリンおよび/またはヘパラン硫酸を含み、その際、該ヘパリンおよび/またはヘパリン硫酸は非哺乳動物源に由来する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物を含むマトリックス。
【請求項10】
目的タンパク質および/または細胞のための制御放出システムであって、請求項9に記載のマトリックスを含み、それぞれがさらに目的タンパク質および/または細胞を含む制御放出システム。
【請求項11】
請求項9に記載のマトリックスを含む細胞支持システム。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組換えタンパク質および/または目的タンパク質を製造するための方法であって、
−請求項1〜6のいずれか1項に記載の組換えタンパク質をコードする核酸配列を含む発現ベクターを調製し;
−該核酸配列を、宿主、好ましくは酵母、最も好ましくはメチロトローフ酵母において発現させ;
−該酵母を適切な発酵条件下で培養して該核酸配列を発現させ;
−場合により該組換えタンパク質を培養物から精製する;
ことを含む、前記方法。

【公表番号】特表2011−518782(P2011−518782A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503925(P2011−503925)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050179
【国際公開番号】WO2009/126031
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】