説明

ヘプタフルオロシクロペンテンの異性化方法及びその利用

【課題】 3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを異性化する方法を提供する。
【解決手段】 3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを金属フッ化物に接触させると、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに異性化できる。これを応用することで、より高純度の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを得ることができる。具体的には1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを脱フッ化水素化し、得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中の3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを異性化後に、更に精留を行うことで高純度の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造分野において有用なエッチング、CVD等のプラズマ反応用ガス、含フッ素ポリマーの原料であるモノマー、あるいは、含フッ素医薬中間体、ハイドロフルオロカーボン系溶剤の原料として有用な1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを高純度化するために有用な異性化方法に関する。高純度の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、特に、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマエッチングガス、化学気相成長法(CVD)用ガス等に好適である。
【背景技術】
【0002】
1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを含む1H−ポリフルオロシクロアルケンの製造方法としては幾つかの製造方法が開示されている。
特許文献1においては、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを相関移動触媒の存在下にアルカリ化合物等を用いて脱フッ化水素化することにより、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを主生成物として得る製造方法が開示されている。実施例によると、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンと同時に異性体である、3H−ヘプタフルオロシクロペンテンが副生することが分かっている。
非特許文献1においては、ジクロロヘキサフルオロシクロブタンを水素化リチウムアルミニウムヒドリドにより還元させて得られる1H,2H−ヘキサフルオロシクロブタンを水酸化カリウム水溶液と反応させることにより、1H−ペンタフルオロシクロブテンを主生成物として得ているが、この反応でも異性体である、3H−ペンタフルオロシクロブテンが副生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−292807号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jouranl of Chemical Society,3198(1961)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンをより高純度化するため、特許文献1の製造方法を更に検討したところ、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの異性体である3H−ヘプタフルオロシクロペンテンの他に、微量ではあるが、4H−ヘプタフルオロシクロペンテンが副生していることを突き止めた。この4H−ヘプタフルオロシクロペンテンは沸点が45℃であり、沸点が46℃の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンとは沸点差が約1℃程度しかなく、高理論段数の精留塔を用いた蒸留でも分離することが非常に困難である。
また、3H−ヘプタフルオロシクロペンテンの沸点も51℃であり、沸点が46℃の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンとの沸点差は、蒸留分離で容易に分離可能な差ではない。
【0006】
また、非特許文献1において製造される沸点25−26℃の1H−ペンタフルオロシクロブテンにも、沸点差が殆どない異性体である3H−ペンタフルオロシクロブテンが生成する。
即ち、3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとは、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの高純度化を妨げる原因物質であることが判明した。
そこで本願発明は、これらの原因物質を低減する方法を提供し、ひいては高純度の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造する方法を提供することを目的とする。
かかる知見に基づき、本発明は、これらの原因物質の低減をするべく鋭意検討した結果、3H−ヘプタフルオロシクロペンテンも4H−ヘプタフルオロシクロペンテンも、金属フッ化物と接触させることにより異性化し、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンになることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを金属フッ化物に接触させて、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに異性化させる方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンが、1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に存在するものである前記異性化方法が提供される。
1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に存在する3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンの異性化において、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンが存在する1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを脱フッ化水素化して得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテン、又は、こうして得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを、更に蒸留して得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテンであるのが好ましい。
また、1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に含まれる、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンに金属フッ化物を接触させて1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに異性化させる方法において、気相流通式で異性化を行うのが好ましい。
【0009】
更に本発明によれば、このようにして1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に含まれる、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンに金属フッ化物を接触させて1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに異性化させた後、精留することを特徴とする高純度1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いられる3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとは、例えば、特開平11−292807号公報に記載の方法;即ち、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを相関移動触媒の存在下にアルカリ化合物等を用いて脱フッ化水素化することにより、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの異性化体として得られる。前記アルカリ化合物としては、炭酸カリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物が好適に用いられ、これらを水溶液として接触させるのが好ましい。
【0011】
本発明に用いられる金属フッ化物としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属フッ化物;三フッ化アンチモン、三フッ化ホウ素、フッ化アルミニウム、フッ化クロムなどの三フッ化金属;五フッ化アンチモン、五フッ化バナジウムなど五フッ化金属;などが挙げられる。
これら金属フッ化物の中でも、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属フッ化物;三フッ化アンチモン、三フッ化ホウ素、フッ化アルミニウム、フッ化クロムなどの三フッ化金属;が好ましく、工業的に取り扱いが容易な点から、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属フッ化物がより好ましい。
これらの金属フッ化物は反応に影響を与えない担体等に担持されていても良い。担体としては、活性体、アルミナ、セライト、チタニア、ジルコニア等を挙げることができる。これらのような担体に担持された金属フッ化物は流通式反応で好適に用いることができる。
【0012】
これら金属フッ化物の使用量は3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとの合計量に対して、通常0.1〜10当量、好ましくは1〜5当量、より好ましくは1.5〜3当量である。添加量が少な過ぎると1H−ヘプタフルオロシクロペンテンへの異性化の反応速度が遅くなる上、異性化する割合が小さく不十分である。また、添加量が多過ぎると異性化反応自体は十分に起こるが、原料である3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンや、異性化体である1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの金属フッ化物への吸着による収率低下を招く傾向がある。
【0013】
金属フッ化物と3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとを接触させる際の温度は、通常100〜500℃、好ましくは100〜350℃である。温度が低過ぎると異性化反応速度が非常に遅いか、ほとんど異性化反応を起こらず、反応温度が高過ぎると目的物である1H−ヘプタフルオロシクロペンテン自身の分解反応が併発し、逆に純度を下げることになる。
反応時間は反応温度によって異なるが、通常、0.1〜100時間、好ましくは1〜20時間である。
【0014】
本反応では、金属フッ化物と反応しない溶媒を用いることもできる。例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンのようなアミド系、ジメチルスルホキシド、1,3−ジスルホランなどのスルホキシド系、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられる。本発明においては3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンと、金属フッ化物との接触効率を高めるために、なるべく無溶媒下で反応させることが望ましい。
【0015】
3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの生成時に得られる。このため、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンの異性化は、1H−ヘプタフルオロシクロペンテン存在下で行われる。
以下、本発明において、金属フッ化物と接触させる前の、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを含む1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを、「粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン」と言う。
金属フッ化物と接触する粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを脱フッ化水素化することにより得られるものである。脱フッ化水素化は、例えば、相関移動触媒の存在下にアルカリ化合物等を用いて行うことができる。
粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、具体的には以下のようなものが挙げられる。
脱フッ化水素化反応が実質的に完結した粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン;脱フッ化水素化反応が完結せず、原料等が残存する反応液を蒸留し、未反応原料を除去した粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン;原料である1H,2H−オクタフルオロシクロペンタン中にヘプタフルオロシクロペンタン(1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを、オクタフルオロシクロペンテンを水素化して得た場合の副生物)のような飽和フッ素化単炭化水素を含む場合、反応液を蒸留し、飽和フッ素化炭化水素を除去した粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン;などが挙げられる。
1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを相関移動触媒の存在下にアルカリ化合物等を用いて脱フッ化水素化した後、蒸留により精製を行った方が、粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に含まれる3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンに対する、金属フッ化物の接触効率が向上するので好ましい。
【0016】
粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンと金属フッ化物との接触に際しては、流通式反応を適用するのが好適であり、反応時に加熱しやすい気相流通式反応を適用するのがより好ましい。
気相流通法で異性化を行う場合の、粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンと金属フッ化物との接触時間は通常0.1〜300秒、好ましくは0.5〜30秒である。接触時間が長過ぎると生産性が低下する。
【0017】
流通式の反応形態の場合も金属フッ化物と粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンとを接触させる際の温度は、上述と同様、通常100〜500℃、好ましくは、100〜350℃である。温度が低過ぎると異性化反応速度が非常に遅いか、ほとんど異性化反応が起こらず、反応温度が高過ぎると目的物である1H−ヘプタフルオロシクロペンテン自身の分解反応が併発し、逆に純度を下げることになる。
【0018】
原料となる粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの反応菅への供給速度は反応菅の直径や長さ等、使用する反応菅の大きさに応じて適宜設定すれば良いが、反応における空筒基準のガス空間速度(以下、「GHSV」と略す。)で、通常0.01〜1000/hrであり、好ましくは0.1〜500/hrである。
【0019】
本発明の異性化反応の形態としては回分(バッチ)反応、または、原料を連続的に反応器へ供給し、反応生成物を連続的に反応器から抜き出す流通反応が採用される。使用する反応器は回分反応の場合、圧力容器であり、連続反応では直列に連結した1本または、それ以上の反応器、例えばカスケード式反応器や、反応器を何本も並列に並べた多管式反応器を使用することができる。
【0020】
上述してきた異性化反応を経て得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンとの分離が困難な、沸点の近い異性体を殆ど含まないため、更に精留することで、より高純度の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを得ることが可能になる。精留方法は、ガスの精留に一般的な、精留塔を用い、加熱乾留する方法が好適に採用される。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0022】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:GC−2010(島津製作所社製)
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inert CAP1(登録商標)、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.50μm
昇温プログラム:40℃で10分間、保持した後、20℃/分で昇温し、次いで240℃で10分間保持する。
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素ガス
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0023】
[製造例1]
本発明に使用する、粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを特開平11−292807号公報の実施例に記載の方法に従って製造した。
即ち、冷却管及び攪拌機を付したガラス製反応器に、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタン890部、n−テトラブチルアンモニウムブロミド15部、及び2.5mol/リットル炭酸カリウム水溶液2000部を入れ、強攪拌下に反応器を45℃に加温した。約7時間後、攪拌を停止して室温まで冷却し静置させた。下層(有機層)をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、原料の1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンは全て消失していた。有機層を分離し、水洗後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過したところ、790部の生成物が得られた。生成物をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン9.5面積%、4H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.6面積%を含む粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンであった。
【0024】
[製造例2]
1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンと1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンが91:9(ガスクロマトグラムのピーク面積%比)である混合物200部、n−テトラブチルアンモニウムブロミド15部、及び1mol/リットル炭酸カリウム水溶液4000部を入れ、強攪拌下に反応器を45℃に加温した。約8時間後、攪拌を停止して室温まで冷却し静置させた。下層(有機層)をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、原料の1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンは全て消失していた。有機層を分離し、水洗後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過したところ、169部の生成物が得られた。生成物をガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン面積5.6%、4H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.5面積%、及び1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタン8.2面積%を含む粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンであった。
【0025】
[実施例1]
製造例1で得られた粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン100部とフッ化セシウム11部(H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとの合計量に対して2.3当量)をステンレス製のオートクレーブに仕込み、温度130℃に加温し、15時間攪拌を行った。その後、オートクレーブを室温まで冷却し、内容物をガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン1.12面積%、4H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.03面積%であった。内容物から水層を分離後、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。濾過後、98部の粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを回収した。このようにして得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを蒸留釜に仕込み、理論段数50段の精留塔(東科精機社製)を用いて精留を行った。釜を温度70℃に加温し、2時間還流させた。塔頂温度が46℃で安定した後、還流比30(クローズ:オープン=90秒:3秒)で抜き出しを開始し、その後も同じ還流比で抜き出しを継続した。各留分をガスクロマトグラフィーガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、ピーク面積比で、99.99面積%以上の高純度1H−ヘプタフルオロシクロペンテン(回収量79部)が得られたことが判った。
【0026】
[実施例2]
製造例2で得られた1H、1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンを含む粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを理論段数50段の精留塔(東科精機製)を用いて精留を行った。蒸留釜に粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン169部を仕込み、釜を温度75℃に加温し、2時間還流させた。塔頂温度が46℃で安定した後、還流比30(クローズ:オープン=90秒:3秒)で抜き出しを開始し、その後も同じ還流比で抜き出しを継続した。各留分をガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.68面積%、4H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.61面積%を含む1H−ヘプタフルオロシクロペンテン145部得られた。1H,1H,2H−ヘプタフルオロシクロペンタンは未検出であり、この蒸留で分離されていた。
精留で得られた粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン80部、フッ化セシウム7部(3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとの合計量に対して1.6当量)をステンレス製のオートクレーブに仕込み、温度140℃に加温し、12時間攪拌を行った。オートクレーブを室温まで冷却し、内容物をガスクロマトグラフィーにて分析を行ったところ、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン1.24面積%、4H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.02面積%であった(3H体が増えていることから、この反応では4H体が3H体を経て1H体へ異性化するものと推定される)。内容物から水層を分離後、有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムにて乾燥させた。濾過後、73部の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを回収した。
このようにして得られた1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを再度蒸留釜に仕込み、理論段数50段の精留塔(東科精機社製)を用いて精留を行った。釜を温度70℃に加温し、2時間還流させた。塔頂温度が46℃で安定した後、還流比30(クローズ:オープン=90秒:3秒)で抜き出しを開始し、その後も同じ還流比で抜き出しを継続した。各留分をガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、ピーク面積比で、99.99面積%以上の高純度1H−ヘプタフルオロシクロペンテン(回収量57部)が得られたことが判った。
【0027】
[実施例3]
直径3/8インチ、長さ30cmのSUS316製反応管に、フッ化セシウム100部を充填し、反応管を電気炉にセットした。電気炉を250℃に加熱し、窒素ガスを100ml/分の速度で3時間流し、フッ化セシウムを焼成した。窒素の供給を停止し、ポンプを使って製造例1で製造した粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを、1ml/分の速度で反応管に供給した。反応管出口に設置した保圧弁を操作して、反応管内の圧力を0.2MPaに保った。反応菅出口から出るガスはドライアイス/エタノール浴に浸したガラストラップ内に捕集した。1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの供給を開始してから4時間後に、ガラストラップ内に捕集された生成物をガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン1.57面積%、4H−ヘプタフルオロシクロペンテン0.05面積%を含む1H−ヘプタフルオロシクロペンテン(回収量369部)が得られたことが判った。
これを更に精留すれば高純度1H−ヘプタフルオロシクロペンテンが得られる。
【0028】
[比較例1]
実施例2の最初の蒸留で得られた粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを理論段数50段の精留塔(東科精機社製)を用いて、次の容量で精留を行った。
蒸留釜に粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン790部を仕込み、釜を温度70℃に加温し、2時間還流させた。塔頂温度が46℃で安定した後、還流比40(クローズ:オープン=120秒:3秒)で抜き出しを開始し、その後も同じ還流比で抜き出しを継続した。各留分(表中「Fr.No」)をガスクロマトグラフィーに賦し、得られたクロマトグラムを分析したところ、表1に示したように、ピーク面積が99.99面積%以上の高純度1H−ヘプタフルオロシクロペンテンは得られず、特に、4H−ヘプタフルオロシクロペンテンは非常に分離しにくい不純物であることが分かった。1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの割合が比較的多いフラクションでも、仕込み時の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの割合よりわずかに向上したに過ぎなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
このようにして、粗1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に含まれる不純物、3H−ヘプタフルオロシクロペンテンと4H−ヘプタフルオロシクロペンテンとを金属フッ化物と接触、異性化させることによりこれら不純物含有量が低減され、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの蒸留精製が容易いになり、高純度の1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを製造することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを金属フッ化物に接触させて、1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに異性化させる方法。
【請求項2】
3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンが、1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に存在するものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンが存在する1H−ヘプタフルオロシクロペンテンが、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを脱フッ化水素化し、得られた3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを含有する1H−ヘプタフルオロシクロペンテンである請求項2記載の方法。
【請求項4】
3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンが存在する1H−ヘプタフルオロシクロペンテンが、1H,2H−オクタフルオロシクロペンタンを脱フッ化水素化し、得られた3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンを含有する1H−ヘプタフルオロシクロペンテンを、更に蒸留して得られたものである請求項2記載の方法。
【請求項5】
1H−ヘプタフルオロシクロペンテン中に含まれる、3H−ヘプタフルオロシクロペンテン及び/又は4H−ヘプタフルオロシクロペンテンに金属フッ化物を接触させて1H−ヘプタフルオロシクロペンテンに異性化させる方法において、気相流通式で異性化を行うことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項2〜4のいずれかの方法によって異性化した後、精留することを特徴とする高純度1H−ヘプタフルオロシクロペンテンの製造方法。

【公開番号】特開2011−105625(P2011−105625A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260942(P2009−260942)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】