説明

ヘミホルマール濃縮物の製造方法及びホルムアルデヒドガスの製造方法

【課題】ヘミホルマールと水とを含む反応物を蒸発脱水して得られる水に含まれるホルムアルデヒドの量を低減させるとともに、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減させ、水の含有量が少ないヘミホルマール濃縮物を製造する方法を提供する。
【解決手段】(A)アルコールと、(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させてヘミホルマールと水とを含む反応物を生成させ、前記反応物を蒸発脱水して(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とに分離するヘミホルマール濃縮物の製造方法であって、(A)アルコールとして、水100gへの溶解度が、20℃、760mmHgの条件下で3.0g以下であり、かつ沸点が、760mmHgの条件下で190℃以上であるものを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘミホルマール濃縮物の製造方法及びホルムアルデヒドガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒドガスを製造する方法として、ヘミホルマール化法が知られている。このヘミホルマール化法は以下の手順で行なう。先ず、ホルムアルデヒド水溶液とアルコールとを反応させて、水とヘミホルマールとを含む反応物を得る。次いで、ヘミホルマールと水とを含む反応物から、水を蒸発脱水してヘミホルマール濃縮物を得る。最後に、ヘミホルマール濃縮物を熱分解して、ホルムアルデヒドガスを得る(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記ヘミホルマール化法においては、上記反応物から蒸発脱水して得られる水に、ホルムアルデヒドが含まれることが知られている。そして、この水に含まれるアルデヒドの量が多い場合、アルデヒドの回収に多大なコストが必要になる。したがって、蒸発脱水後の水に含まれるホルムアルデヒドの含有量を抑えることが求められている。
【0004】
また、ヘミホルマール濃縮物に水が含まれることも知られている。ヘミホルマール濃縮物に水が含まれると、ヘミホルマール濃縮物を熱分解することで得られるホルムアルデヒドガスにも水が含まれることになる。ホルムアルデヒドガスに含まれる水が少量であっても、ホルムアルデヒドガスの用途によっては、水を含有することが問題になる場合も多い。したがって、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を抑えることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−216950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホルムアルデヒドガスを製造する方法として、ヘミホルマール化法は有用な方法ではあるものの、上記反応物から蒸発脱水させることで得られる水に含まれるホルムアルデヒドの量の低減、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量の低減等、改善が求められる点もある。
【0007】
そして、上記の問題点を改善しようとして、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減させるような製造条件に変更すると、蒸発脱水後の水に含まれるアルデヒド量が増大する。また、蒸発脱水後の水に含まれるアルデヒドの量を低減させるような製造条件に変更すると、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量が増大してしまう。したがって、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減させつつ、蒸発脱水後の水に含まれるアルデヒドの量を低減させることは非常に困難である。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ヘミホルマールと水とを含む反応物を蒸発脱水して得られる水に含まれるホルムアルデヒドの量を低減させるとともに、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減させ、水の含有量が少ないヘミホルマール濃縮物を製造する方法、及びこのようにして得られたヘミホルマール濃縮物を熱分解してホルムアルデヒドガスを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以上の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、(A)アルコールと、(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させてヘミホルマールと水とを含む反応物を生成させ、反応物を蒸発脱水して(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とに分離するヘミホルマール濃縮物の製造方法において、原料として使用する(A)アルコールが下記の条件を満たすことで、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(条件)
(A)アルコールが疎水性であること。具体的には(A)アルコールの水100gへの溶解度が、20℃、760mmHgの条件下で3.0g以下であること。
(A)アルコールの沸点が、190℃以上であること。
【0010】
(1) (A)アルコールと、(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させてヘミホルマールと水とを含む反応物を生成させ、前記反応物を蒸発脱水して(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とに分離するヘミホルマール濃縮物の製造方法であって、前記(A)アルコールの水100gへの溶解度が、20℃、760mmHgの条件下で3.0g以下であり、前記(A)アルコールの沸点が、760mmHgの条件下で190℃以上であるヘミホルマールの製造方法。
【0011】
(2) (A)アルコールが、下記一般式(I)で示されるモノール、ジオール又はトリオールである(1)に記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【化1】

(一般式(I)中の、Xは水素原子又は水酸基である。また、R及びRは、水素原子、水酸基、炭素数1以上10以下のアルキル基、又は炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基であり、R及びRは同一であっても、異なってもよい。また、p、q、rは、0以上10以下の整数であり、かつp+q+r=3以上20以下である。)
【0012】
(3) (A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液との混合比率が、ホルムアルデヒドに対する(A)アルコール中の水酸基のモル比で、0.3以上5.0以下である(1)又は(2)に記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【0013】
(4) (D)水に含まれるホルムアルデヒド量が、ヘミホルマール化反応に供したホルムアルデヒド量に対して5.0質量%以下である(1)から(3)のいずれかに記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【0014】
(5) (C)ヘミホルマール濃縮物に含まれる水分量が、1.0質量%以下である(1)から(4)のいずれかに記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【0015】
(6) (D)水に含まれる(A)アルコール量は、0.5質量%以下である(1)から(5)のいずれかに記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【0016】
(7) (1)から(6)のいずれかに記載の製造方法で得られたヘミホルマール濃縮物を熱分解するホルムアルデヒドの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヘミホルマール化法によるアルデヒドガスの製造において、ヘミホルマールと水とを含む混合物から分離した水に含まれるホルムアルデヒドの量を低減し、上記混合物から分離したヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減することができる。このように、ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減できる結果、このヘミホルマール濃縮物を熱分解することで得られるホルムアルデヒドに含まれる水の量も低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヘミホルマール化法を実施するための装置の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
本発明は、ヘミホルマール濃縮物を製造する方法、及びホルムアルデヒドを製造する方法であり、本発明のヘミホルマール濃縮物の製造方法は、アルデヒドガスの製造方法であるヘミホルマール化法に好ましく適用することができる。先ず、ヘミホルマール化法の概要について、簡単に説明した後、本発明のヘミホルマール濃縮物の製造方法、及びホルムアルデヒドの製造方法について説明する。
【0021】
<ヘミホルマール化法>
図1には、ヘミホルマール化法を実施するための装置の一例を模式的に示した。この装置は、図1に示すように、反応器1と、蒸発缶2と、分解器3とを備える。反応容器1内でヘミホルマール生成工程(S1)が行われ、蒸発缶2内で分離工程(S2)が行なわれ、分解器3内でホルムアルデヒドガス生成工程(S3)が行なわれる。
【0022】
反応容器1と蒸発缶2との間、蒸発缶2と分解器3との間はそれぞれ管状構造部材(図示せず)で連結されている。そして、後述する通り、蒸発缶2には(D)水を排出するための管状構造部材も連結されている。
【0023】
反応器1は、(A)アルコールと、(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させるための部位である。反応器1での(A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液との反応により、ヘミホルマールと水とを含む反応物が生成する。この反応物は、反応器1と蒸発缶2とを連結する管状構造部材内を通り、蒸発缶2に送られる。
【0024】
蒸発缶2は、反応物から水を蒸発脱水させ、(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とに分離させるための部位である。蒸発缶2内で蒸発した(D)水は管状構造部材から抜き出され、(C)ヘミホルマール濃縮物は、蒸発缶2と分解器3とを連結する管状構造部材内を通り、分解器3に送られる。なお、蒸発缶2に代えて蒸留塔を使用することもできる。また、多段蒸留塔等を用いる多段階の蒸留処理も採用することができる。
【0025】
分解器3は、ヘミホルマール濃縮物を熱分解させ、ホルムアルデヒドガスを生成させるための部位である。分解器3で生成したホルムアルデヒドガスを、分解器3から取り出すことで、ホルムアルデヒドガスを得ることができる。
【0026】
なお、本発明のヘミホルマール濃縮物の製造方法は、以上の反応器1での反応から蒸発缶2での蒸発脱水に利用することができる。
【0027】
<ヘミホルマール濃縮物の製造方法>
本発明のヘミホルマール濃縮物の製造方法は、ヘミホルマール生成工程(S1)と、分離工程(S2)とを備える。
【0028】
[ヘミホルマール生成工程(S1)]
ヘミホルマール生成工程(S1)は(A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させる工程である。本発明の製造方法は、ヘミホルマール生成工程(S1)で原料として用いるアルコールに特徴がある。
【0029】
本工程(S1)で使用するアルコールは、以下の条件を満たすものを指す。
(A)アルコールが疎水性であること。具体的には、アルコールの水100gへの溶解度が、20℃、760mmHgの条件下で3.0g以下であること。
(A)アルコールの沸点が、760mmHgの条件下で190℃以上であること。
【0030】
アルコールが疎水性であると、後述する分離工程において、60℃〜70℃という低温で容易に(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とを分離することができるため、(C)ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量を低減することができる。ここで、疎水性とは、アルコールの水100gへの溶解度が、20℃、760mmHgの条件下で3.0g以下であることを指す。
【0031】
また、アルコールの沸点が190℃以上であれば、蒸発脱水後の(D)水に、未反応のまま残ったアルコールが混入することがほとんど無い。
【0032】
上記の条件を満たすアルコール、具体的には、疎水性であり、沸点が190℃以上のアルコールであれば、原料として使用可能である。より具体的には以下のような一般式(I)で表されるアルコール(モノオール、ジオール、トリオール)を使用することができる。
【化2】

(一般式(I)中の、Xは水素原子又は水酸基である。また、R及びRは、水素原子、水酸基、炭素数1以上10以下のアルキル基、又は炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基であり、R及びRは同一であっても、異なってもよい。また、p、q、rは、0以上10以下の整数であり、かつp+q+r=3以上20以下である。)
【0033】
上記一般式(I)中のXは水素原子又は水酸基である。
【0034】
上記一般式(I)中のR及びRは、水素原子、水酸基、炭素数1以上10以下のアルキル基、又は炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基である。また、R及びRは同一であっても、異なってもよい。
炭素数1以上10以下のアルキル基としては、直鎖状のアルキル基、分岐状のアルキル基のいずれであってもよい。直鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を例示することができる。分岐状のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tertブチル基等を例示することができる。
炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシ−n−プロピル基、2−ヒドロキシ−n−プロピル基、3−ヒドロキシ−n−プロピル基、1−ヒドロキシ−n−ブチル基、2−ヒドロキシ−n−ブチル基、3−ヒドロキシ−n−ブチル基、4−ヒドロキシ−n−ブチル基、5−ヒドロキシ−n−ペンチル基、6−ヒドロキシ−n−ヘキシル基等を例示することができる。
【0035】
p、q、rは、0以上10以下の整数であり、かつp+q+r=3以上20以下である。
【0036】
本発明においては、ジエチルペンタンジオール、エチルヘキサンジオール、オクタノールの使用が好ましい。
ジエチルペンタンジオールとしては、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ジエチル−1,5−ペンタンジオール等を例示することができる。
エチルヘキサンジオールとしては、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、3−エチル−1,3−ヘキサンジオール、4−エチル−1,3−ヘキサンジオール等を例示することができる。
【0037】
上記アルコールの中でも2,4−ジエチル−1,5ペンタンジオールの使用が最も好ましい。
【0038】
また、本発明で使用するアルコールとしては、一般的な方法で製造したものを使用することができる。また、市販品を購入して使用してもよい。
【0039】
次いで、もう一方の原料である(B)ホルムアルデヒド水溶液について説明する。本発明において(B)ホルムアルデヒド水溶液中のホルムアルデヒドの含有量は特に限定されないが、1質量%以上80質量%以下含むことが好ましい。
【0040】
(A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液との混合比率が、ホルムアルデヒドに対する(A)アルコール中の水酸基のモル比で、0.3以上5.0以下であることが好ましい。0.3以上であれば(D)水に含まれるホルムアルデヒド量を低減することができるという理由で好ましく、5.0以下であれば(A)アルコール単位重量当りに反応するホルムアルデヒド量が多く、コスト的にメリットがあるという理由で好ましい。より好ましくは0.5以上2.0以下である。
【0041】
本工程(S1)では、上述の(A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させる。反応器1にこれらの材料を投入して、(A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させる。具体的には(A)アルコールと(B)に含まれるホルムアルデヒドとが反応する。反応物は主にヘミホルマール、水を含むが、未反応のアルコール、ホルムアルデヒドも反応物に含まれる。
【0042】
反応条件は特に限定されず、従来公知のヘミホルマール化法における、アルコールとホルムアルデヒド水溶液との反応条件と同様のものを採用することができる。例えば、反応温度は室温(約20℃)以上90℃以下が好ましい。また、反応時間については、反応の進み具合等に応じて適宜設定する。
【0043】
[分離工程(S2)]
分離工程(S2)は、反応器1から蒸発缶2に送られたヘミホルマールと水とを含む反応物(未反応のまま残ったアルコール、アルデヒドも含まれる)を、(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とに、蒸発脱水で分離する工程である。また、未反応のまま残った(A)アルコールは(C)ヘミホルマール濃縮物側に含まれ、ホルムアルデヒドは(C)ヘミホルマール濃縮物側と(D)水側の両方に含まれる。
【0044】
本発明で用いる(A)アルコールは従来から使用されているアルコールと比較して疎水性である結果、分離工程(S2)において、60℃〜70℃という低温で容易に(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とを分離することができる。このため、蒸発により留出する(D)水に含まれるホルムアルデヒドの量を低減することができる。したがって、(D)水に含まれるホルムアルデヒドを回収するためのコストを抑えることができる。
【0045】
特に、(D)水中のホルムアルデヒドの量が、ヘミホルマール化反応に供したホルムアルデヒド量に対して5質量%以下であれば、水に含まれるホルムアルデヒドを回収するコストを充分に抑えることができる。
【0046】
また、上述の通り、本発明に用いる(A)アルコールは疎水性である結果、60℃〜70℃という低温で容易に(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とを分離することができるため、分離工程(S2)後の(C)ヘミホルマール濃縮物に含まれる水分量を低減することができる。
【0047】
具体的には、原料として(A)アルコールを用いれば、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水の量を1質量%以下にすることができる。
【0048】
また、上述の通り、(A)アルコールは沸点が190℃以上と非常に高いため、蒸発脱水後の(D)水に、未反応のまま残った(A)アルコールがほとんど含まれない。蒸発物にアルコールが多く含まれると、水に含まれる(A)アルコールを回収する必要が生じ、多大なコストが必要になる。本発明の製造方法であれば、上記の通り、(D)水に(A)アルコールがほとんど含まれないため、(D)水に含まれる(A)アルコールを回収するための多大なコストが必要ない。
【0049】
蒸発脱水の具体的な条件は特に限定されないが、蒸発缶2内を減圧し、温度を調整することで蒸発脱水を行なうことができる。蒸発缶2内の減圧には従来公知の減圧手段を用いることができる。また、蒸発缶2内の温度制御も従来公知の温度制御手段により行なうことができる。
【0050】
本発明において、蒸発缶2内の温度の好ましい範囲は、特に限定されないが、40℃以上80℃以下であることが好ましい。40℃以下では、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量が増加し、次工程以降で問題となる可能性があるため好ましくない。80℃以上では、(D)水に含まれるホルムアルデヒド量が増加し、ホルムアルデヒドのロスとなるため好ましくなく、また、熱源をHW(温水)からLS(水蒸気)にしなければならず、エネルギーのロスとなり得るため好ましくない。より好ましくは、55℃以上75℃以下、さらに好ましくは60℃以上70℃以下である。なお、減圧脱水時の温度を高くすると、(D)水中のホルムアルデヒド量が多くなる傾向にあり、減圧脱水時の温度を低くすると、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量が多くなる傾向にある。
【0051】
好ましい圧力条件は特に限定されないが、上記の好ましい温度範囲で蒸発脱水を行なうためには、100mmHg以下であることが好ましく、特に好ましくは50mmHg以下である。
【0052】
<ホルムアルデヒドの製造方法>
本発明のホルムアルデヒドガスの製造方法は、上記の製法で得られたヘミホルマール濃縮物を熱分解することでホルムアルデヒドを製造する。具体的には、上記ホルムアルデヒドガス生成工程(S3)に記載されるような、分解器等を用いる従来公知の方法を採用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
<材料>
アルコール1:2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(DEPD)、100gの水への溶解度(20℃、760mmHg)1.9g、沸点264℃(760mmHg下)
アルコール2:2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(EHD)、100gの水への溶解度(20℃、760mmHg)0.6g、沸点244℃(760mmHg下)
アルコール3:1−オクタノール(OcOH)、100gの水への溶解度(20℃、760mmHg)0.03×10−3g、沸点194℃(760mmHg下)
アルコール4:ポリエチレングリコール 300(PEG300)、100gの水への溶解度(20℃、760mmHg)無限大、沸点は無し(760mmHg下)
アルコール5:トリエチレングリコール(TEG)、100gの水への溶解度(20℃、760mmHg)無限大、沸点287℃(760mmHg下)
アルコール6:シクロヘキサノール(CHOL)、100gの水への溶解度(20℃、760mmHg)3.8g、沸点161℃(760mmHg下)
【0055】
<実施例1>
ホルムアルデヒドを50質量%含む(B)ホルムアルデヒド水溶液と、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(DEPD)とを、ホルムアルデヒドのモル数とDEPDの水酸基のモル数の比(DEPDの水酸基のモル数/ホルムアルデヒド基のモル数)が、1.3になるように混合し、室温、反応時間12時間の条件で、ヘミホルマール化反応を行った。反応終了後、反応物であるヘミホルマール混合液を、1000g/hrで連続的に蒸発缶へフィードし、温度60〜70℃、操作圧力35mmHg、平均滞留時間70分の条件で減圧脱水(減圧脱水は本発明の蒸発脱水に相当する)行って、(C)ヘミホルマール濃縮物を得た。脱水操作で留出した(D)水中のホルムアルデヒド量(質量%)は、亜硫酸ナトリウムを用いた滴定法にて測定した。また、(D)水中のアルコール量は、核磁気共鳴装置(NMR)にて測定した。(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量(質量%)は、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。測定結果を、表1に示した。なお、留出した(D)水に含まれるホルムアルデヒド量である留出HCHO量、及び留出した(D)水に含まれるアルコール量である留出アルコール量は、分析値より以下の式に従って算出された。
・留出HCHO量(質量%)=(留出した水に含まれるHCHO量(g))/(フィードしたHCHO量(g))×100
・留出アルコール量(質量%)=(留出した水に含まれるアルコール量(g))/(フィードしたアルコール量(g))×100
【0056】
<実施例2>
DEPDに代えて2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(EHD)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、留出HCHO量(質量%)、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量(質量%)、留出アルコール量(質量%)を算出した。算出結果を表1に示した。
【0057】
<実施例3>
DEPDに代えて1−オクタノール(OcOH)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、留出HCHO量(質量%)、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量(質量%)、留出アルコール量(質量%)を算出した。算出結果を表1に示した。
【0058】
<比較例1>
DEPDに代えてポリエチレングリコール300(PEG300)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、留出HCHO量(質量%)、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量(質量%)、留出アルコール量(質量%)を算出した。算出結果を表1に示した。
【0059】
<比較例2>
DEPDに代えてトリエチレングリコール(TEG)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、留出HCHO量(質量%)、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量(質量%)、留出アルコール量(質量%)を算出した。算出結果を表1に示した。
【0060】
<比較例3>
DEPDに代えてシクロヘキサノール(CHOL)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で、留出HCHO量(質量%)、(C)ヘミホルマール濃縮物中の水分量(質量%)、留出アルコール量(質量%)を算出した。算出結果を表1に示した。
【0061】
【表1】

・留出HCHO量(質量%)=(留出した水に含まれるHCHO量(g))/(フィードしたHCHO量(g))×100
・留出アルコール量(質量%)=(留出した水に含まれるアルコール量(g))/(フィードしたアルコール量(g))×100
【0062】
実施例1〜3の結果と、比較例1〜3の結果とから明らかなように、疎水性が高く、沸点の高い(A)アルコールを原料に使用すると、(C)ヘミホルマール濃縮物に含まれる水の量が少なくなり、且つ蒸発脱水により留出した(D)水に含まれるホルムアルデヒド量を抑えることができる。また、留出した(D)水に含まれる(A)アルコール量も少なく、(A)アルコールを回収するための多大なコストが必要ないことが確認された。
【0063】
減圧脱水時の温度が、およそ60℃以上70℃以下の範囲であれば、本発明の効果が得られやすいことが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 反応器
2 蒸発缶
3 分解器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルコールと、(B)ホルムアルデヒド水溶液とを反応させてヘミホルマールと水とを含む反応物を生成させ、前記反応物を蒸発脱水して(C)ヘミホルマール濃縮物と(D)水とに分離するヘミホルマール濃縮物の製造方法であって、
前記(A)アルコールの水100gへの溶解度が、20℃、760mmHgの条件下で3.0g以下であり、
前記(A)アルコールの沸点が、760mmHgの条件下で190℃以上であるヘミホルマールの製造方法。
【請求項2】
(A)アルコールが、下記一般式(I)で示されるモノール、ジオール又はトリオールである請求項1に記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【化1】

(一般式(I)中の、Xは水素原子又は水酸基である。また、R及びRは、水素原子、水酸基、炭素数1以上10以下のアルキル基、又は炭素数1以上10以下のヒドロキシアルキル基であり、R及びRは同一であっても、異なってもよい。また、p、q、rは、0以上10以下の整数であり、かつp+q+r=3以上20以下である。)
【請求項3】
(A)アルコールと(B)ホルムアルデヒド水溶液との混合比率が、ホルムアルデヒドに対する(A)アルコール中の水酸基のモル比で、0.3以上5.0以下である請求項1又は2に記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【請求項4】
(D)水に含まれるホルムアルデヒド量が、ヘミホルマール化反応に供したホルムアルデヒド量に対して5.0質量%以下である請求項1から3のいずれかに記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【請求項5】
(C)ヘミホルマール濃縮物に含まれる水分量が、1.0質量%以下である請求項1から4のいずれかに記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【請求項6】
(D)水に含まれる(A)アルコール量は、0.5質量%以下である請求項1から5のいずれかに記載のヘミホルマール濃縮物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の製造方法で得られたヘミホルマール濃縮物を熱分解するホルムアルデヒドの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−153648(P2012−153648A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14398(P2011−14398)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】