説明

ヘモグロビンA1c測定法およびそれに用いる酵素とその製造法

糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法、測定試薬キットを提供する。糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼをスクリーニングする。該スクリーニング法により得たプロテアーゼを用いることで糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず特異的に測定する方法、測定試薬キットを提供できる。本発明によれば、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず特異的に測定する事が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せずに酵素を用いて特異的に測定する方法、測定試薬キット、該特異的測定に用いることができるプロテアーゼ、その製造方法、そのスクリーニング方法、及び該特異的測定に用いることができるケトアミンオキシダーゼに関する。
【背景技術】
糖尿病の診断及び管理を行う上で糖化蛋白質の測定は非常に重要であり、中でもヘモグロビンA1cは近年の研究により7%以下に値を管理すれば合併症の発症および進展の危険率を有意に低下させることが証明され、臨床の現場では無くてはならない指標として多用されている。ヘモグロビンA1cの定量法としては、通常、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティクロマトグラフィー法、免疫法及び酵素法が知られている。しかしながら電気泳動法、クロマトグラフィー法は高価な専用装置を必要とするうえに処理速度が遅く、多数の検体を処理する臨床検査には適していない。また免疫法は分析方法が比較的簡単で時間も短時間で済むことから近年急速に広まってきたが、抗原抗体反応を用いる為に、再現性や共存物質の影響の点で必ずしも精度が良くない点が問題となっている。
他方、酵素法は専用装置が不必要であり、処理速度が速く、高精度、簡便、安価な定量方法として提案されている(特開平8−336386号公報、国際公開第97/13872号パンフレット、特開2001−95598号公報、特開2000−300294号公報、Clinical Chemistry 49(2):269−274(2003))。
しかし、ヘモグロビンは分子内リジンのε−アミノ基とαおよびβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基とに糖化を受けうるが、ヘモグロビンA1cとはヘモグロビンβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基が糖化されたヘモグロビンであるから(Clinical Chemistry and Laboratory Medicine 40(1):78−89(2002)において国際的に標準とされる定義)、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せずにプロテアーゼおよびケトアミンオキシダーゼを用いて特異的に測定するためには、プロテアーゼ、ケトアミンオキシダーゼのどちらかの酵素反応、または両方の酵素反応において特異性が必要とされる。
具体的には、糖化ヘモグロビンには分子内リジン、α鎖N末端、β鎖N末端の3種の糖化部位があることから、糖化されたβ鎖N末端のみを測定するためには、以下のように特異性にしたがった組み合わせが必要となる。
すなわち、、プロテアーゼを(P1)〜(P4)、ケトアミンオキシダーゼを(K1)〜(K5)に分類した場合、<(P1)と(K1)または(K2)または(K3)または(K4)>、<(P2)と(K1)または(K3)>、<(P3)と(K1)または(K2)>、<(P4)と(K1)>、<(P3)と(K5)と(K3)>、<(P3)と(K5)と(K4)>の組み合わせが必要となる。
それぞれに分類された酵素の性質は以下の通りである。
(P1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す(P2)糖化ヘモグロビンの糖化されたαおよびβ鎖N末端からのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す(P3)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端および分子内リジンを含む部位からのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す(P4)糖化ヘモグロビンの糖化されたαおよびβ鎖N末端および分子内リジンを含む部位から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す(K1)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドにのみ作用する(K2)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたαおよびβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドにのみ作用する(K3)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたβ鎖N末端由来および分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドにのみ作用する(K4)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化されたαおよびβ鎖N末端由来および分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用する(K5)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドには作用せずに分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用する。
しかし、これまで糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントからケトアミンオキシダーゼの基質となる糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを生じさせるプロテアーゼは特開平8−336386号公報、国際公開第97/13872号パンフレット、特開2001−95598号公報、特開2001−57897号公報、国際公開第00/50579号パンフレット、国際公開第00/61732号パンフレットおよびClinical Chemistry 49(2):269−274(2003)など知られているが、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントから糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すといった特異性を示した記載はない。
また、特開2000−300294号公報で記載されているアンギオテンシン変換酵素についてもその公知の基質特異性からβ鎖N末端糖化トリペプチドに作用する可能性は推定されるが、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すことを具体的に示すような記載、例えばα鎖N末端糖化トリペプチドとβ鎖N末端糖化トリペプチドに対するアンギオテンシン変換酵素の特異性を定量して示した記載はない。
また、特開2000−300294号公報では糖化ヘモグロビンからβ鎖N末端糖化トリペプチドを生成させる際用いたトリプシン、プロリン特異エンドプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼPが分子内リジンを含む部位や糖化されたα鎖N末端由来の糖化アミノ酸または糖化ペプチドを生成していないことを示した記載もない。
さらにまた、本発明者らはアンギオテンシン変換酵素が通常の反応条件においてはβ鎖N末端糖化トリペプチドからフルクトシルバリンをほとんど切り出さないことを確認しており、アンギオテンシン変換酵素がα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼであるとは言えない。
以上のように、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す、つまり、上記(P1)または(P3)の特異性をもつプロテアーゼ、もしくは上記(P1)または(P3)の特異性を達成するように工夫されたプロテアーゼの反応条件はこれまで知られていなかった。
また、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼ、つまり、上記(P1)または(P3)の性質をもつプロテアーゼのスクリーニング法としては、一般的に次のようなものが想定される。すなわち、糖化ヘモグロビンをα鎖N末端が糖化されたものとβ鎖N末端が糖化されたものとに分離し、これらを基質として用いたときにβ鎖N末端が糖化されたものからのみ選択的に糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼを、プロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用するケトアミンオキシダーゼなどの酵素を用いて、発色を指標に探すというスクリーニング方法である。しかし、天然に存在するヘモグロビン糖化物の糖化割合は約5%程度と糖化率が低いために、α鎖N末端が糖化されたもの又はβ鎖N末端が糖化されたものに分離する収率が極めて悪いのみならず、これらの物質を基質として該プロテアーゼ活性を検出することはヘモグロビンの赤色ゆえに検出も困難であった。このように、簡便で有効なスクリーニング方法はこれまで知られていなかった。
一方、ケトアミンオキシダーゼについては、以下のものがある。
1)フザリウム属(特開平7−289253号公報)、ギベレラ属、カンジダ属(特開平6−46846号公報)、又はアスペルギルス属由来(国際公開第97/20039号パンフレット)のであって、おもにε−1−デオキシフルクトシル−L−リジン(以下、FKともいう)もしくはそれを含むペプチドとフルクトシルバリン(以下、FVともいう)に作用するもの、
2)コリネバクテリウム属(特開昭61−280297号公報)、ペニシリウム属(特開平8−336386号公報)、トリコスポロン属由来(特開2000−245454号公報)であって、おもにFVに作用するもの、
また、一般にプロテアーゼによりヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドからFVを切り出す工程は一般に反応がほとんど進行せず大量の酵素で長時間の反応が必要といった欠点があるのでその欠点を補うために、ヘモグロビンA1cを測定する際に用いるケトアミンオキシダーゼとして、プロテアーゼによりヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドから切り出された糖化ペプチドにも作用するものが必要とされていた。そして、そのような
3)コリネバクテリウム由来のケトアミンオキシダーゼの変異型(特開2001−95598号公報)やアカエトミエラ属、アカエトミウム属、チエラビア属、カエトミウム属、ゲラシノスポラ属、ミクロアスカス属、コニオカエタ属、ユウペニシリウム属(欧州特許出願公開第1291416号明細書)の1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(以下、FVHともいう)に作用するケトアミンオキシダーゼが近年報告されている。
しかし、1)に属するケトアミンオキシダーゼは(K4)の性質のものであり、2)に属するケトアミンオキシダーゼは(K2)の性質のものであるがFVHに作用するという記載はなく、3)に属するケトアミンオキシダーゼは、FKに対する作用が最も低いユーペニシリウム属のケトアミンオキシダーゼにおいてもFVHに対する作用を100%としたときに9.78%もFKに対して作用する(欧州特許出願公開第1291416号明細書)ことから、プロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに十分に作用すると考えられ、またプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化されたα鎖N末端由来の糖化ペプチド、例えば1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(以下、FVLともいう)に対する作用は記載されていないため、(K1)または(K2)または(K3)の性質をもつケトアミンオキシダーゼであるとは言えない。
以上のように、これまで(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質、(K3)の性質のケトアミンオキシダーゼはこれまで報告されていなかった。
また、(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質のケトアミンオキシダーゼを既知のケトアミンオキシダーゼをアミノ酸置換、欠失、挿入などにより改変することで、作製することが考えられるが、酵素の一次構造上のどのアミノ酸残基がFKもしくはFZKに対する作用の低減に寄与しているのかは分っていない。従って、任意のケトアミンオキシダーゼ遺伝子を改変し、FKもしくはε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)(以下、FZKともいう)に対する活性の低減を図ることはこれまでできなかった、つまり、(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質のケトアミンオキシダーゼを改変によって作製することは知られていなかった。
また、FVHに作用することのできるケトアミンオキシダーゼの反応条件を工夫することで、FKもしくはFZKへの活性をFVHへの活性と比較して、その比率を低減させることは知られていなかった。
プロテアーゼとケトアミンオキシダーゼを用いて糖化ヘモグロビンに存在するβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基の糖化を明確に分別して測定するためには、プロテアーゼとケトアミンオキシダーゼの特異性を前述のように組み合わせる必要があるが、特開平8−336386号公報、国際公開第97/13872号パンフレット、特開2001−95598号公報およびClinical Chemistry 49(2):269−274(2003)においてはヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を特異的に測定しているという記述もなく、HPLC法で得られた値もしくは得られうる値と開示された酵素法による測定値とが良い相関を示すという記載があるのみである。そして、用いたプロテアーゼとケトアミンオキシダーゼの特異性には言及することなく単にプロテアーゼで糖化ヘモグロビンを分解することにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドをケトアミンオキシダーゼにより検出しており、分子内リジンのε−アミノ基とαおよびβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基が糖化されたものを混合して検出していると考えられる。さらに、特開2001−95598号公報においてはプロテアーゼとFVHに作用するケトアミンオキシダーゼを用いて実施例において糖化ヘモグロビンを測定しているが、操作において遠心分離を行っており、分離操作なく測定できるとの記載はない。
特開2000−300294号公報においてはヘモグロビンβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基が糖化されたものだけを特異的に測定する酵素法が提案されている。この方法においてはヘモグロビンβ鎖N末端から3番目のロイシンのカルボキシル基側を切断できるプロテアーゼ、次いでfructosyl−Val−His−LeuよりHis−Leuを切り取ることができるプロテアーゼで順次処理することでフルクトシルバリンを生成させ、ヘモグロビンβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基が糖化された量を特異的に測定するとしている。しかし、この方法はプロテアーゼ反応を2段階で行う必要があり、第1段階でのヘモグロビンβ鎖N末端から3番目のロイシンのカルボキシル基側を切断するプロテアーゼ反応を厳密に制御することが困難である、第2段階のヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドからα−糖化アミノ酸を切り出す工程は一般に反応がほとんど進行せず大量の酵素で長時間の反応が必要である、といった欠点がある上に実施例において示される方法は煩雑な限外ろ過という分離操作を2回行っており、本願発明の方法で糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず特異的に測定できるという記載はない。
欧州特許出願公開第1291416号明細書においてはヘモグロビンA1cなどの糖化タンパク質をモルシン、AOプロテアーゼ、ペプチダーゼ(キッコーマン販売)、カルボキシペプチダーゼY、プロチンP(大和化成販売)といったプロテアーゼによりFVHを遊離させ、FVHに作用しうるオキシダーゼで測定する方法が提案されている。そして、プロテアーゼにより生成するFKが問題となる場合はFKに作用するフルクトシルアミンオキシダーゼで消去してからFVHに作用しうるオキシダーゼで測定する、またはFVHに作用してFKに作用しにくいオキシダーゼを用いて測定することが提案されている。しかし、糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端由来による糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドとの区別については言及されておらず、提案された方法により糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を測定した実施例も明示されておらず、提案された方法が分離操作不要で可能であるとの記載もない。
上記のような糖化ヘモグロビンに関する測定法はこれまで知られていたが、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法および試薬キットはこれまで知られていなかった。
【発明の開示】
本発明の課題は、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端のみを、分離操作せずに特異的に測定できる方法、測定試薬キット、該特異的測定に用いることができるプロテアーゼ、その製造方法、そのスクリーニング方法、及び該特異的測定に用いることができるケトアミンオキシダーゼを提供することにある。
本発明者らは鋭意検討の結果、まず、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントのα鎖N末端の糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、β鎖N末端の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼのスクリーニング方法を考案した。すなわち、糖化ヘモグロビンのα鎖N末端およびβ鎖N末端に存在する糖化ペプチドをプロテアーゼの基質として用いることで、糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端からケトアミンオキシダーゼの基質となる糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化されたβ鎖N末端からケトアミンオキシダーゼの基質となる糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼ活性の検出方法を考案した。
次に、考案したスクリーニング方法により、α鎖N末端糖化ペンタペプチドからケトアミンオキシダーゼの基質となる糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、β鎖N末端糖化ペンタペプチドからケトアミンオキシダーゼの基質となる糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼを広くスクリーニングした結果、バチラス・エスピー由来ニュートラルプロテイナーゼ(東洋紡製)などの市販プロテアーゼ製剤やバチラス・エスピー、エアロモナス・ヒドロフィラ、リゾバクター・エンザイモゲネスなどの微生物が産生するプロテアーゼに当該プロテアーゼ反応を見出した。
加えて、これらのプロテアーゼのうち、エアロモナス・ヒドロフィラ、リゾバクター・エンザイモゲネスが産生するプロテアーゼは既知のエラスターゼと相同性を示した。従来、エラスターゼは、その基質特異性としてロイシン、イソロイシン、バリン、アラニンのC末端側のペプチド結合を切断する酵素として知られている。本発明では、エラスターゼが1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジル−L−ロイシル−L−トレオニル−L−プロリン(以下、ヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペンタペプチドともいう)のロイシンのC末端側ではなく、N末端側のペプチド結合を切断し、FVHを遊離することをはじめて明らかにした。
次に、当該プロテアーゼが、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すのみならず、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントからFKおよび/またはFKを含む糖化ペプチドをも切り出す場合においては、糖化されたβ鎖N末端由来の糖化ペプチドに作用せずにFKおよび/またはFKを含む糖化ペプチドに作用するケトアミンオキシダーゼであらかじめFKおよび/またはFKを含む糖化ペプチドを消去することで糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法を完成するに至った。
さらに、当該プロテアーゼが、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すのみならず、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントからFKおよび/またはFKを含むペプチドをも切り出す場合において、ケトアミンオキシダーゼのFZKに対する反応性が大きく低減できる反応条件を見出し、また、FVHに対する作用を100%としたときFZKに対する作用が5%以下というこれまでにない高特異性のケトアミンオキシダーゼを作製して用いることにより、糖化されたβ鎖N末端から切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのみを特異的に測定できた。すなわち、カーブラリア・クラベータ由来ケトアミンオキシダーゼ遺伝子の58番目と62番目のアミノ酸置換がFZKへの作用低減に寄与していることを発見し、これにもとづき該オキシダーゼを作製し用いることで、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せずに酵素を用いて特異的に測定する方法を完成するに至った。
さらにまた、当該プロテアーゼによる糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメント分解の反応条件について、
i)当該プロテアーゼと組み合わせて用いるケトアミンオキシダーゼが作用することのできるFKおよび/またはFKを含む糖化ペプチドを切り出さない、
かつ、
ii)当該プロテアーゼと組み合わせて用いるケトアミンオキシダーゼが作用することのできる糖化されたα鎖N末端由来の糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出さない、
かつ、
iii)当該プロテアーゼと組み合わせて用いるケトアミンオキシダーゼが作用することのできる糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出す、反応条件を見出した。これにより、糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1)糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端から、糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す、プロテアーゼ。
(2)糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端を含むフラグメントから、糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を含むフラグメントから糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す、プロテアーゼ。
(3)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す反応を100%としたときに糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出す反応が10%以下である、プロテアーゼ。
(4)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端又は糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を含むフラグメントから切り出される糖化ペプチドが1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンである上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプロテアーゼ。
(5)糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端又は糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端を含むフラグメントから実質的に切り出されない糖化アミノ酸が1−デオキシフルクトシル−L−バリンであり、実質的に切り出されない糖化ペプチドが1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシンである上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプロテアーゼ。
(6)リゾバクター属由来のプロテアーゼである上記(1)〜(5)のいずれかに記載のプロテアーゼ。
(7)バチラス.エスピー ASP−842(FERM BP−08641)又はエアロモナス.ヒドロフィラ NBRC3820由来のプロテアーゼである上記(1)〜(5)のいずれかに記載のプロテアーゼ。
(8)プロテアーゼがメタロプロテアーゼ、ニュートラルプロテアーゼ、またはエラスターゼのいずれかである上記(1)〜(7)のいずれかに記載のプロテアーゼ。
(9)タンパク質又はペプチドにおけるロイシンのN末端側のペプチド結合を切断するエラスターゼ。
(10)リゾバクター・エンザイモゲネスYK−366(FERM BP−10010)菌株。
(11)バチラス・エスピー ASP−842(FERM BP−08641)菌株。
(12)上記(6)に記載のプロテアーゼを製造する方法であって、以下の(a)及び(b)の工程を含むプロテアーゼを製造する方法。
(a)リゾバクター属に属する菌を培養液にて培養する。
(b)培養液からプロテアーゼを抽出する。
(13)上記(7)に記載のプロテアーゼを製造する方法であって、以下の(a)及び(b)の工程を含むプロテアーゼを製造する方法。
(a)バチラス・エスピーASP−842(FERM BP−08641)又はエアロモナス・ヒドロフィラNBRC3820を培養液にて培養する。
(b)培養液からプロテアーゼを抽出する。
(14)以下の(A)の性質を有するケトアミンオキシダーゼ。
(A)ε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)に対する反応性が1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンに対する反応性に比べて5%以下であること。
(15)さらに以下の(B)及び(C)の性質を有する上記(14)に記載のケトアミンオキシダーゼ。
(B)配列番号1記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有するアミノ酸配列で構成されること。
(C)配列番号1記載のアミノ酸配列において少なくとも58番目もしくは62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されていること。
(16)(C)のアミノ酸置換は58番目がバリン、スレオニン、アスパラギン、システイン、セリン、アラニン、62番目がヒスチジンへの置換である上記(15)に記載のケトアミンオキシダーゼ。
(17)上記(14)〜(16)のいずれかに記載のケトアミンオキシダーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子。
(18)上記(17)に記載の遺伝子を含有するケトアミンオキシダーゼ発現ベクター。
(19)上記(18)に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
(20)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法。
(21)酵素が(i)プロテアーゼを含む上記(20)に記載の測定方法。
(22)酵素はさらに(ii)ケトアミンオキシダーゼを含む上記(21)に記載の測定方法。
(23)以下の(iii)および/または(iv)の反応工程を経由して特異的に測定する上記(22)に記載の測定方法。
(iii)(i)のプロテアーゼが糖化ヘモグロビンから実質的に、(ii)のケトアミンオキシダーゼが作用するε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンおよび/またはε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンを含む糖化ペプチドを切り出すことなく、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からから糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す反応工程。
(iv)(ii)のケトアミンオキシダーゼのε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)に対する反応性が1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンに対する反応性の30%以下となる反応工程。
(24)(iii)の反応工程がpH5.0〜6.0の反応条件下である上記(23)に記載の測定方法。
(25)(iv)の反応工程がpH5.5〜6.5の反応条件下である上記(23)又は(24)に記載の測定方法。
(26)(i)のプロテアーゼが上記(1)〜(8)のいずれかに記載のプロテアーゼである、上記(21)〜(25)のいずれかに記載の測定方法。
(27)(ii)のケトアミンオキシダーゼが糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用するケトアミンオキシダーゼである上記(22)〜(26)のいずれかに記載の測定方法。
(28)ケトアミンオキシダーゼがカーブラリア属由来である上記(27)に記載の測定方法。
(29)(ii)のケトアミンオキシダーゼが以下の(a)及び(b)の2種類である上記(22)〜(28)のいずれかに記載の測定方法。
(a)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用するケトアミンオキシダーゼ。
(b)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに実質的に作用することなく、ε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンおよび/またはε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンを含む糖化ペプチドには作用するケトアミンオキシダーゼ。
(30)(a)のケトアミンオキシダーゼがカーブラリア属由来である及び/又は(b)のケトアミンオキシダーゼがフザリウム属由来である上記(29)に記載の測定法。
(31)(ii)のケトアミンオキシダーゼが上記(14)〜(16)のいずれかに記載のケトアミンオキシダーゼである、上記(22)〜(26)のいずれかに記載の測定法。
(32)糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼをスクリーニングする方法であって、長さが3アミノ酸から20アミノ酸であるヘモグロビンα鎖N末端糖化ペプチドおよび長さが3アミノ酸から20アミノ酸であるヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドを用いるスクリーニング方法。
(33)ヘモグロビンα鎖N末端糖化ペプチドおよびヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドの長さが5アミノ酸である上記(32)に記載のスクリーニング方法。
(34)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せずに特異的に測定する、以下の(i)、(ii)を含んでなる試薬キット。
(i)プロテアーゼ
(ii)上記(14)に記載のケトアミンオキシダーゼ
このような本発明によれば、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端のみを分離操作せず特異的に測定できる方法、測定試薬キット、該特異的測定に用られるプロテアーゼ、該プロテアーゼの製造方法若しくはスクリーニング方法、及び該特異的測定に用いることができるケトアミンオキシダーゼを提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、ケトアミンオキシダーゼのアミノ酸配列における相同性を示す図である。
図2は、バチラス・エスピー ASP842由来プロテアーゼの至適pHを示す図である。
図3は、バチラス・エスピー ASP842由来プロテアーゼのpH安定性を示す図である。
図4は、バチラス・エスピー ASP842由来プロテアーゼの至適温度を示す図である。
図5は、バチラス・エスピー ASP842由来プロテアーゼの熱安定性を示す図である。
図6は、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼの至適pHを示す図である。
図7は、エアロモチス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼのpH安定性を示す図である。
図8は、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼの至適温度を示す図である。
図9は、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼの熱安定性を示す図である。
図10は、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼの至適pHを示す図である。
図11は、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼのpH安定性を示す。
図12は、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼの至適温度を示す図である。
図13は、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼの熱安定性を示す図である。
図14は、プラスミドpPOSFOD923の制限酵素地図を示す図である。
図15は、吸光度差ΔAsとFVH濃度との関係を示す図である。
図16は、プロテアーゼ反応の時間と得られる測定値との関係を示す図である。
図17は、糖化ヘモグロビンをプロテアーゼで分解後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチド由来のシグナルを消去してからFOD923でFVH量を測定する場合の測定スキームを示す図である。
図18は、糖化ヘモグロビンをプロテアーゼで分解後、糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチド由来のシグナルを消去することなくFOD923でFVH量を測定する場合の測定スキームを示す図である。
図19は、糖化ヘモグロビンをプロテアーゼで分解後、糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチド由来のシグナルを消去することなくFOD923MでFVH量を測定する場合の測定スキームを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の構成及び好ましい形態について更に詳しく説明する。
<アマドリ化合物>
本発明に於けるアマドリ化合物とは、タンパク質等のアミノ基をもつ化合物とグルコース等のアルデヒド基を持つ化合物がメイラード反応により、生じる一般式−(CO)−CHR−NH−(Rは、水素原子か水酸基を示す)で表されるケトアミン構造を有する化合物のことを指す。アマドリ化合物には糖化ヘモグロビンや糖化アルブミンのような糖化タンパク質やペプチドが糖化された糖化ペプチド等が含まれる。
<糖化ヘモグロビン>
ヘモグロビンがメイラード反応により糖化されたアマドリ化合物のことをさし、α鎖及びβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基や分子内のリジンのε−アミノ基が糖化されていると言われている。糖化ヘモグロビンのフラグメントとは糖化ヘモグロビンが分解されることでできるペプチドのことをいう。
<ヘモグロビンA1c>
国際的に標準とされる定義において、ヘモグロビンA1cとはヘモグロビンβ鎖N末端のバリンのα−アミノ基が糖化されたヘモグロビンであるとされている(Clinical Chemistry and Laboratory Medicine 36(5):299−308(1998))。
<特異的に>
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を特異的に測定するといった表現は、糖化ヘモグロビンの糖化量を測定して得る値のうち、80%以上、望ましくは90%以上、更に望ましくは95%以上が、ヘモグロビンβ鎖N末端にあるバリンのα−アミノ基の糖化由来である場合に用いる。
<糖化アミノ酸、糖化ペプチド>
プロテアーゼが糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、といった表現のなかでの糖化アミノ酸とは1−デオキシフルクトシル−L−バリンであり、糖化ペプチドとはヘモグロビンのα鎖N末端から長さが20アミノ酸以下のペプチドであってN末端のバリンが1−デオキシフルクトシル−L−バリンになっているもののうちプロテアーゼと組み合わせて用いるケトアミンオキシダーゼにより検出されるもののことであり、例えばカーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼを組み合わせて用いる場合は1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシンのことである。
プロテアーゼが糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出す、といった表現のなかでの糖化アミノ酸とは1−デオキシフルクトシル−L−バリンであり、糖化ペプチドとはヘモグロビンのβ鎖N末端から長さが20アミノ酸以下のペプチドであってN末端のバリンが1−デオキシフルクトシル−L−バリンになっているもののうちプロテアーゼと組み合わせて用いるケトアミンオキシダーゼにより検出されるもののことである。例えば、カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼを組み合わせて用いる場合は1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンのことである。プロテアーゼが糖化ヘモグロビンからε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンを含む糖化ペプチドを切り出す、といった表現における糖化ペプチドとは長さが50アミノ酸以下の糖化ペプチドのことである。
なお、カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)は、平成15年2月12日、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した。
<実質的に>
プロテアーゼ反応において、糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す、といった表現は、糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す反応性を100%としたときに、糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出す反応性が10%以下、望ましくは1%以下、更に望ましくは0.1%以下であることを言う。ただし、上記プロテアーゼ反応は切り出された生成物をケトアミンオキシダーゼ好ましくはカーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼまたはフザリウム・オキシスポラム由来のケトアミンオキシダーゼ(旭化成ファーマ製)を用いて検出することによるものとする。
ケトアミンオキシダーゼ反応において、糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに実質的に作用することなくε−糖化アミノ酸には作用する、といった表現は、ε−糖化アミノ酸に対する反応性を100%とした場合に、糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに対する反応性が10%以下、好ましくは8%以下、さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0.1%以下であることを言う。また、ケトアミンオキシダーゼ反応においてε−糖化アミノ酸に実質的に作用することなく糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドには作用する、といった表現は、糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに対する反応性を100%とした場合に、ε−糖化アミノ酸に対する反応性が8%以下、望ましくは1%以下、更に望ましくは0.1%以下であることを言う。ただし、ケトアミンオキシダーゼの反応は生成する過酸化水素を検出することによるものとする。
<ケトアミンオキシダーゼ>
ケトアミン構造をもつ化合物に作用して過酸化水素を発生させる酵素のことで、別名フルクトシルアミンオキシダーゼともいう。
<ε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)に対する反応性が1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンに対する反応性に比べて5%以下であるケトアミンオキシダーゼ>
ケトアミンオキシダーゼのε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)(以下、FZKともいう)に対する反応性が1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジン(以下、FVHともいう)に対する反応性に比べて5%以下であるとは、反応液(50mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)、0.1% TritonX−100、0.03% 4−アミノアンチピリン、0.02% TOOS、5U/ml パーオキシダーゼ、2mM FZKまたはFVH)200μlにケトアミンオキシダーゼ液20μlを添加し、37℃で5分間反応させた後、0.5% SDSを0.5ml加えてから555nmの吸光度(A1)を測定し、さらにFZKおよびFVHを含まない反応液で同様の操作を行って測定した吸光度(Ab)との差(A1−Ab)から反応性を測定したときに、その反応性の比率が5%以下であることをいう。
<分離操作>
分離操作とは、全血検体または血球溶血検体などをサンプルとして、サンプル中の糖化ヘモグロビンを測定する一連の測定工程の過程において、カラムクロマトグラフィー操作、膜ろ過操作、吸着分離操作、沈殿分離操作など糖化ヘモグロビンもしくは糖化ヘモグロビンから派生する物質の純度、濃度を上げるために行う操作のことをいう。
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せずに酵素を用いて特異的に測定するためには、用いる酵素の反応において糖化ヘモグロビン中にある分子内リジン、α鎖N末端、β鎖N末端の3種の糖化部位のうちβ鎖N末端の糖化部位のみに特異性がなければならない。そのような特異性を出すために用いる酵素としては、1種類の酵素でも複数の種類の酵素を組み合わせたものでもよい。例えば、プロテアーゼで糖化ヘモグロビンを分解し、切り出された糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用する酵素であるオキシダーゼ、デヒドロゲナーゼ、キナーゼなどを組み合わせて特異性を出せばよい。そして、プロテアーゼおよびケトアミンオキシダーゼを用いて糖化されたβ鎖N末端のみを測定するためには、以下のように特異性にしたがった組み合わせが必要である。
すなわち、プロテアーゼを(P1)〜(P4)、ケトアミンオキシダーゼを(K1)〜(K5)に分類した場合、<(P1)と(K1)または(K2)または(K3)または(K4)>、<(P2)と(K1)または(K3)>、<(P3)と(K1)または(K2)>、<(P4)と(K1)>、<(P3)と(K5)と(K3)>、<(P3)と(K5)と(K4)>の組み合わせが必要である。それぞれに分類された酵素の性質は以下の通りである。
(P1)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す
(P2)糖化ヘモグロビンの糖化されたαおよびβ鎖N末端からのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す
(P3)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端および分子内リジンを含む部位からのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す
(P4)糖化ヘモグロビンの糖化されたαおよびβ鎖N末端および分子内リジンを含む部位から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す
(K1)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドにのみ作用する
(K2)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたαおよびβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドにのみ作用する
(K3)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたβ鎖N末端由来および分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドにのみ作用する
(K4)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化されたαおよびβ鎖N末端由来および分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用する
(K5)組み合わせて用いるプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドのうち、糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドには作用せずに分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用する
<プロテアーゼのスクリーニング>
そして、本発明者らは鋭意検討の結果、(P1)もしくは(P3)の特異性をもつプロテアーゼを得るスクリーニング方法としては、ヘモグロビンα鎖N末端糖化ペプチドおよびヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドを基質として用い、ヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドを基質としたときにのみ糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼを選択する方法を考案した。このときに用いるα鎖N末端糖化ペプチドおよびβ鎖N末端糖化ペプチドの長さは特に限定されないが、長さ3アミノ酸から20アミノ酸の糖化ペプチドでスクリーニング可能であることを見出した。その由来は化学合成であっても良いし、糖化ヘモグロビン等の天然物由来であっても良い。
具体的な1例として、β鎖N末端糖化ペプチドとして1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジル−L−ロイシル−L−トレオニル−L−プロリン(ペプチド研究所製:以下、β糖化ペンタペプチドともいう)を、α鎖N末端糖化ペプチドとして1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシル−L−セリル−L−プロリル−L−アラニン(ペプチド研究所製:以下、α糖化ペンタペプチドともいう)が挙げられ、これらの糖化ペンタペプチドを基質として用いる場合、糖化アミノ酸、糖化ジペプチド、糖化トリペプチドまたは糖化テトラペプチドがプロテアーゼにより切り出される可能性がある。そして、α鎖N末端糖化ペプチドおよびβ鎖N末端糖化ペプチドからプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドは、α鎖N末端糖化ペプチドおよびβ鎖N末端糖化ペプチドに実質的に作用することなく切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドには作用する酵素を用いて検出すればよく、そのような酵素としてオキシダーゼ、デヒドロゲナーゼ、キナーゼが挙げられる。
例えば、オキシダーゼとしてはケトアミンオキシダーゼがあり、ケトアミンオキシダーゼとしてはアカエトミエラ属、アカエトミウム属、チエラビア属、カエトミウム属、ゲラシノスポラ属、マイクロアスカス属、コニオカエタ属、ユーペニシリウム属(以上、欧州特許出願公開第1291416号明細書)、コリネバクテリウム属(特開昭61−268178号明細書)、アスペルギルス属(特開平3−155780)、ペニシリウム属(特開平4−4874号明細書)、フザリウム属(特開平5−192193号公報、特開平7−289253号公報、特開平8−154672号公報)、ギベレラ属(特開平5−192153号公報、特開平7−289253号公報、)、カンジダ属(特開平6−46846号公報、)、アスペルギルス属(特開平10−33177号公報、特開平10−33180号公報)、ネオコスモスポラ・バシンフェクタ(NBRC7590)、コニオケチジウム・サボリ(ATCC36547)、アルスリニウム・エスピーTO6(FERM P−19211)、アルスリニウム・ファエオスペルマム(NBRC31950)、アルスリニウム・ファエオスペルマム(NBRC6620)、アルスリニウム・ジャポニカム(NBRC31098)、ピレノケータ・エスピーYH807(FERM P−19210)、ピレノケータ・ゲンチアニコラ(MAFF425531)、ピレノケータ・テレストリス(NBRC30929)、レプトスフェリア・ノドラム(分生子世代名フォーマ・ヘンネベルギー)(NBRC7480)、レプトスフェリア・ドリオラム(JCM2742)、レプトスフェリア・マクランス(分生子世代名フォーマ・リンガム)(MAFF726528)、プレオスポラ・ハーブラム(NBRC32012)、プレオスポラ・ベタエ(分生子世代名フォーマ・ベタエ)(NBRC5918)、オフィオボラス・ヘルポトリカス(NBRC6158)、カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のもの、およびそれらの変異型の酵素が挙げられる。
カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼは基質特異性がFVHに対して100%とすると1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジル−L−ロイシン(以下、β糖化トリペプチドまたはFVHLともいう)に対して0.09%、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジル−L−ロイシル−L−トレオニン(以下、β糖化テトラペプチドまたはFVHLTともいう)に対して0.0009%、β糖化ペンタペプチドに対して0%、1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシン(以下、FVLともいう)に対して3.4%、α糖化ペンタペプチドに対して0.01%であるから、このケトアミンオキシダーゼを用いるとβ糖化ペンタペプチドからFVHを切り出すプロテアーゼ活性およびα糖化ペンタペプチドからFVLを切り出すプロテアーゼ活性を検出できる。オキシダーゼを用いてプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを検出する場合には生成した過酸化水素の量を電極、発光、蛍光、吸光などで検出することができるが、パーオキシダーゼと色原体を用いて吸光検出することが簡便であり、例えば色原体として4−アミノアンチピリン(和光純薬工業製)およびTODB(同仁化学研究所製)をもちいて540〜570nmにおける吸光度変化を測定すればプロテアーゼ活性を簡便に確認ができる。
上記スクリーニング方法により得られた(P1)もしくは(P3)の特異性をもつプロテアーゼとしてバチラス属、エアロモナス属、リゾバクター属等の微生物由来のプロテアーゼが挙げられ、より具体的には例えばバチラス.エスピー由来のニュートラルプロテイネース(東洋紡製)、バチラス・エスピー ASP842(FERM BP−08641)エアロモナス・ヒドロフィラNBRC3820、リゾバクター・エンザイモゲネスYK−366(FERM BP−10010)由来のプロテアーゼが挙げられる。
これらの菌株のうち、バチラス・エスピー ASP842(FERM BP−08641)、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366(FERM BP−10010)は本発明者等が新規に単離した菌株であり、バチラス・エスピー ASP842(FERM BP−08641)は、2004年2月24日、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366(FERM BP−10010)は、平成16年1月30日に日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した。
寄託したこれらの菌学的性質を示すと次の通りであり、以下のように同定した。
1.ASP842(FERM BP−08641)はグラム陽性の桿菌(0.8−1.0x2.0−3.0μm)で表1に示すような特徴により、Bergy’s Manual of Systematic Bacteriology(1984)では、バチラス.エスピーと同定された。


2.YK−366(FERM BP−10010)はグラム陰性の好気性桿菌で大きさが0.4×5〜50μmで表2に示すような特徴により、Bergy’s Manual of Systematic Bacteriology(1989)では、リゾバクター・エンザイモゲネスと同定された。

<プロテアーゼの培養物からの製造>
次に、本発明に使用しうるプロテアーゼ生産菌の培養方法およびプロテアーゼの製造方法について述べる。本発明のプロテアーゼ生産菌の培養手段としては固体培養でも液体培養でもよいが、好ましくはフラスコまたはジャーファーメンター等による通気液体培養である。培地としては微生物の培養に通常用いられるものが広く使用される。炭素源としてはグルコース、グリセロール、ソルビトール、ラクトースまたはマンノースなど、窒素源としては酵母エキス、肉エキス、トリプトン、ペプトンなど、無機塩としては塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムなどを用いればよい。培養条件としてはpH5.0〜8.0、培養温度25〜37℃で目的とするプロテアーゼが最高力価または最高純度となる培養時間、例えば16時間〜72時間培養をすればよい。
次いで、プロテアーゼの採取について説明する。プロテアーゼが菌体外に分泌される場合には、培養液から菌体を濾過、遠心分離等によって除くことで得られた粗製のプロテアーゼ含有液を用いる。また、プロテアーゼが菌体内にある場合には培養液から菌体を濾過、遠心分離等によって分離し、菌体をリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等の緩衝液に必要の応じて界面活性剤、金属塩、糖類、アミノ酸、ポリオール、キレート剤などを加えて懸濁し、リゾチーム、超音波、ガラスビーズ等によって破砕した後濾過、遠心分離などにより不溶物を除去して得られる粗製のプロテアーゼ含有液を用いる。これらの粗製のプロテアーゼ含有液を公知の蛋白質、酵素の単離、精製手段を用いて処理することにより、精製されたプロテアーゼを得ることができる。例えば、アセトン、エタノールなどの有機溶媒による分別沈殿法、硫安アンモニウムなどによる塩析法、イオン交換クロマトグラフィー法、疎水クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法、ゲル濾過法などの一般的な酵素精製法を適宜選択、組み合わせて精製プロテアーゼを得ることができ、適宜安定化剤、例えばショ糖、グリセロールまたはアミノ酸などを1〜50%程度、補酵素などを0.01〜1%程度として単独または2種以上適宜組み合わせて加えて凍結保存してもよい。
<ケトアミンオキシダーゼのスクリーニング>
また、(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質、(K3)の性質をもつケトアミンオキシダーゼを得るスクリーニング法としては、例えば、プロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出された、α鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドの代表例としてFVLを、β鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドの代表例としてFVHを、分子内リジンを含む部位からの糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドの代表例としてFKもしくはFZKを用いて、それぞれに対する反応性を指標にする方法が挙げられる。特に、FKもしくはFZKに対する反応性においてはFVHに対する反応性の5%以下であることが指標となる。好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。このようにして得られた(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質、(K3)の性質をもつケトアミンオキシダーゼとしては自然界から分離してきた天然型ケトアミンオキシダーゼおよび天然型ケトアミンオキシダーゼを既知の遺伝子工学技術を利用してアミノ酸置換、欠失、挿入など人工的に改変することで得られる変異型ケトアミンオキシダーゼ、さらに天然型および変異型のケトアミンオキシダーゼをポリエチレングリコール誘導体、スクシニルイミド誘導体、マレイミド誘導体などを用いて化学修飾することで得ることができるケトアミンオキシダーゼでも良い。
<変異型ケトアミンオキシダーゼ>
既存のケトアミンオキシダーゼの1つもしくは複数のアミノ酸を置換、欠失、挿入など人工的に改変することで(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質、(K3)の性質をもつ変異型ケトアミンオキシダーゼを得る際に用いることができる既存のケトアミンオキシダーゼとしては特に限定はしない。例えば、前述の(P1)もしくは(P3)の特異性をもつプロテアーゼを得るスクリーニング方法で述べたケトアミンオキシダーゼが挙げられる。
また、FVHに作用するケトアミンオキシダーゼとして、コニオカエタ属(欧州特許出願公開第1291416号明細書)、ユーペニシリウム属(欧州特許出願公開第1291416号明細書)、カーブラリア属、ネオコスモスポラ属由来のケトアミンオキシダーゼが挙げられる。
そして、これらの酵素は遺伝子レベルでも解析され、その一次構造も図1に示したように推定されており、これらの酵素のアミノ酸レベルでの相同性は75%以上で、*がついたところのように保存された領域が存在しているので、配列番号1記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有するアミノ酸配列で構成されるケトアミンオキシダーゼの例としても挙げられる。また、(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質、(K3)の性質をもつような変異であるならばどのようなアミノ酸を置換、欠失、挿入であってもよいが、例えば、配列番号1記載のアミノ酸配列において58番目、62番目に対応するのアミノ酸のうち少なくとも1ヶ所が置換されていることが望ましく、さらに望ましくは58番目に対応するアミノ酸がバリン、スレオニン、アスパラギン、システイン、セリン、アラニンに、62番目に対応するのアミノ酸がヒスチジンに置換されていることである。
<変異型ケトアミンオキシダーゼ発現ベクター、宿主細胞>
(K1)の性質、(K2)かつFVHに作用する性質、(K3)の性質をもつ変異型のケトアミンオキシダーゼは、それをコードする遺伝子を必要に応じてプラスミドベクターに連結してサッカロマイセス属、ピキア属、アクレモニウム属、バチラス属、シュードモナス属、サーマス属、エシェリヒア属などの宿主微生物に移入して培養し、またはコードする遺伝子を試験管内で転写、翻訳し、その後、公知の蛋白質、酵素の単離、精製手段を用いて処理することにより得ることができる。
<測定試薬キット>
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端をプロテアーゼとケトアミンオキシダーゼを用いて分離操作せず特異的に測定する方法および試薬キットは、糖化されたβ鎖N末端に対して特異性を得るためのプロテアーゼとケトアミンオキシダーゼの組み合わせに加えてパーオキシダーゼ、色原体、および必要に応じて緩衝液成分、塩類、界面活性剤、金属イオン、電子受容体、キレート剤、糖、アミノ酸、アスコルビンオキシダーゼ、テトラゾリウム塩、ポリオール類、酵素安定化剤、酵素反応促進剤、抗菌剤、酸化剤、還元剤、補酵素などの成分を適宜追加して構成しても良い。
糖化されたβ鎖N末端に対して特異性を得るためのプロテアーゼとケトアミンオキシダーゼの組み合わせとしては、前述のようにプロテアーゼを(P1)〜(P4)、ケトアミンオキシダーゼを(K1)〜(K5)に分類した場合、<(P1)と(K1)または(K2)または(K3)または(K4)>、<(P2)と(K1)または(K3)>、<(P3)と(K1)または(K2)>、<(P4)と(K1)>、<(P3)と(K5)と(K3)>、<(P3)と(K5)と(K4)>の組み合わせであればどれでも良い。ただし、プロテアーゼは、一般的に、蛋白質のN末端のアミノ基が糖化を受けている場合、N末端領域から糖化アミノ酸を切り出してくることは反応性が悪いため、β鎖N末端の糖化アミノ酸より糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼが望ましい。例えば、上記のプロテアーゼのスクリーニングで得られた(P3)の性質であって糖化されたβ鎖N末端からFVHを切り出す性質をもつプロテアーゼとしてバチラス属、エアロモナス属、リゾバクター属等の微生物由来のプロテアーゼが挙げられる。より具体的には、例えば、バチラス.エスピー由来のニュートラルプロテイネース(東洋紡製)、バチラス・エスピー ASP−842(FERM BP−08641)エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820、リゾバクター・エンザイモゲネスYK−366(FERM BP−10010)由来のプロテアーゼが挙げられる。また、特異性を持たせたまま反応性を向上させるために、スクリーニングしたプロテアーゼと他のプロテアーゼとを適宜組み合わせたものも用いることができる。
プロテアーゼによりヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から切り出される糖化ペプチドの長さは20アミノ酸以下で、かつ、組み合わせにより用いられるケトアミンオキシダーゼにて検出できるのであれば特に限定されない。例えば、カーブラリア.クラベータ YH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼを用いた場合は、プロテアーゼによりヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から切り出される糖化ペプチドはFVHであることが望ましい。
ケトアミンオキシダーゼは、プロテアーゼと上記の組み合わせを構成できるものであればいずれでも良いが、反応性の点からβ鎖N末端の糖化アミノ酸より糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼが望ましいため、(K1)〜(K5)における糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドは糖化されたβ鎖N末端由来の糖化ペプチドであることが望ましい。例えばカーブラリア.クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼは、糖化されたβ鎖N末端由来の糖化ジペプチド(FVH)に作用し、糖化されたα鎖N末端由来の糖化ジペプチド(FVL)に実質的に作用しないので(K3)の性質をもつケトアミンオキシダーゼとして用いることができる。また、FZKに対する反応性がFVHに対する反応性の5%以下になった変異体はこれを(K1)の性質をもつケトアミンオキシダーゼとして用いることができ、フザリウム.オキシスポラム由来のフルクトシルアミンオキシダーゼ(旭化成ファーマ製)を(K5)の性質をもつケトアミンオキシダーゼとして用いることができる。
<反応条件>
プロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから糖化されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す反応条件は、その反応が十分に進行する条件であればいずれでも良い。例えば、pH、塩濃度、界面活性剤添加量、金属イオン添加量、反応温度、酸化還元剤添加量、緩衝液濃度を調節することで、通常は、(P3)もしくは(P2)の性質のプロテアーゼの特異性を高めて、(P1)の性質にするような反応条件が望ましい。特に、(P3)の性質をもつバチラス.エスピー由来のニュートラルプロテイネース(東洋紡製)、バチラス・エスピー ASP−842(FERM BP−08641)、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820、リゾバクター・エンザイモゲネスYK−366(FERM BP−10010)由来のプロテアーゼにおいては、組み合わせのケトアミンオキシダーゼとしてカーブラリア.クラベータ YH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼを用いると、少なくともpH5.0〜6.0の反応条件において(P1)の性質のプロテアーゼとなるのでこの反応条件が望ましい。
ケトアミンオキシダーゼの反応条件は、その反応が十分に進行する条件であればいずれでも良いが、例えば、pH、塩濃度、界面活性剤添加量、金属イオン添加量、反応温度、酸化還元剤添加量、緩衝液濃度を調節することでFZKに対する反応性が30%以下となる反応条件、特にpH5.5〜6.5の反応条件はプロテアーゼにより切り出されたβ鎖N末端由来の糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドであるFVHに対する特異性を高めることができるので望ましい。
上記に示した糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せず、プロテアーゼとケトアミンオキシダーゼを用いて特異的に測定する方法および試薬キットにより、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を正確に測定していることは、ヘモグロビン含量とそのヘモグロビンのβ鎖N末端の糖化された割合とが正確に示されているサンプルを用いることで確認できる。ヘモグロビン含量とヘモグロビンのβ鎖N末端の糖化された割合とが正確に示されているサンプルとしては、Clinical Chemistry and Laboratory Medicine 40(1):78−89(2002)に記載の方法で測定された値(IFCC値)が標記されているサンプルを用いることが望ましいが、他の方法で測定された値が標記されているサンプルにおいても臨床検査 46(6)729−734(2002)に記載の換算式によってもIFCC値を得ることができる。また、糖化ヘモグロビンサンプルはヒト血液から、血球分離、溶血、遠心分離、透析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の操作を適宜組み合わせて調製しても良いし(Clinical Chemistry and Laboratory Medicine 36(5):299−308(1998))、市販のものを購入して用いても良い。
<測定対象物>
上記に示した糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せずプロテアーゼとケトアミンオキシダーゼを用いて特異的に測定する方法および試薬キットの測定対象物は糖化ヘモグロビンを含むものであればいずれでも良いが、例えば、全血サンプル、血球溶血サンプル、精製ヘモグロビンサンプルが挙げられる。
次に、参考例、実施例によって本発明を説明する。
[参考例:カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼの製法]
カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)がFVHに作用するケトアミンオキシダーゼ(以下、FOD923ともいう)を生産しているが生産量が低いため以下に示すようにFOD923遺伝子を大腸菌において発現をさせた後、精製してFOD923を得た。
(1)カーブラリア.クラベータYH923(FERM BP−10009)染色体DNAの調製
サブロー培地(グルコース4.0%、ポリペプトン1.0%、pH5.6)100mlを500ml容坂口フラスコに入れてオートクレーブで滅菌し、カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)を植菌し、25℃で4日間振盪培養した後、No.2ろ紙で培養液をろ過して菌体を回収した。回収した菌体を液体窒素で凍結し、乳鉢で微粉末になるまで粉砕し、DNA抽出用緩衝液(5.0% SDS、0.1M NaCl、50mM Tris−HCl、pH8.0)15mlを加え、ゆっくり振盪して溶解した。続いて、遠心分離(5,000rpm、6min、室温)により上清を回収し、フェノール/クロロホルム抽出を3回、エーテル抽出を2回行い、水層に残存するエーテルを蒸発させた後、3M酢酸ナトリウム1ml、エタノール25mlを加え、−30℃で30分間放置した後、遠心分離(12,000rpm、10min、4℃)により染色体DNAを回収し、70%エタノールにて洗浄した後、TE400μlに溶解した。次に、得られたDNA溶液にRNase 10μl(0.132U)を加え、37℃で1時間処理した後、プロテイナーゼKを5μl(0.6U)を加え、50℃で1時間処理し、フェノール/クロロホルム抽出(2回)、クロロホルム/イソアミルアルコール抽出(1回)を行った後、エタノール沈殿にてDNAを回収した。続いて70%エタノール溶液により洗浄した後、エタノールを除去し、TE200μlに溶解し、染色体DNA溶液を得た。
(2)FOD923遺伝子断片の増幅
(a)FOD923遺伝子断片の取得
これまでに知られているケトアミンオキシダーゼの遺伝子情報を基に下記のP11およびP12プライマーを設計した。

P12 AC(C/G)ACGTGCTT(A/G)CC(A/G)ATGTT(配列番号3)前述の方法で得られた染色体DNAを鋳型DNAとしてP11プライマーとP12プライマーの組み合わせでPCRを35サイクル行った結果、約800bpのDNA断片が特異的に増幅され、増幅DNA断片の塩基配列(配列番号1の1021〜1790番目までの塩基配列)を決定した。
(b)FOD923遺伝子の塩基配列の決定
(a)で得られた約800bpのDNA断片に隣接する5’上流域のDNA断片の増幅は、染色体DNAを制限酵素XbaIで消化した後、LA−PCR in vitro Cloning kit(タカラバイオ製)を用いて、cassette−ligation−mediated PCRで行った。即ち、染色体DNA制限酵素処理断片にXbaIカセット(タカラバイオ製)を結合させ、このDNAを鋳型DNAとしてC1プライマー(タカラバイオ製)及び下記のP13プライマーを使用して、PCRを35サイクル行った後、この反応液を100倍希釈したものを鋳型としてC2プライマー(タカラバイオ製)及び下記のP14プライマーを使用してPCRをさらに35サイクル行った結果、1,200bpのDNA断片が特異的に増幅した。そして、そのDNA断片の塩基配列(配列番号1の1〜1044番目までの塩基配列)を決定した。
(a)で得られた約800bpのDNA断片に隣接する3’下流域のDNA断片の増幅は、染色体DNAを制限酵素SalIで消化した後、LA−PCR in vitro Cloning kit(タカラバイオ製)を用いて、cassette−ligation−mediated PCRで行った。即ち、染色体DNA制限酵素処理断片にSalIカセット(タカラバイオ製)を結合させ、このDNAを鋳型DNAとしてC1プライマー(タカラバイオ製)及び下記のP15プライマーを使用して、PCRを35サイクル行った後、この反応液を100倍希釈したものを鋳型としてC2プライマー(タカラバイオ製)及び下記のP16プライマーを使用してPCRをさらに35サイクル行った結果、1,000bpのDNA断片が特異的に増幅した。そして、そのDNA断片の塩基配列(配列番号1の1775〜2212番目までの塩基配列)を決定した。
以上のようにして決定した塩基配列をつなぎ合わせて、FOD923遺伝子の塩基配列(配列番号1)を決定した。

(3)カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来ケトアミンオキシダーゼを発現する大腸菌の作製
FOD923を大腸菌で発現させるため、ペニシリウム・ヤンシネラムのケトアミンオキシダーゼ(特開平11−46769号公報)とアスペルギルス・ニドランスのケトアミンオキシダーゼとの相同性からイントロンとして3つの領域、すなわち配列番号1の塩基配列の753〜807番目と、配列番号1の塩基配列の1231〜1279番目と、配列番号1の塩基配列の1696〜1750番目を推定した。
イントロンを除去して大腸菌での発現プラスミドを作成するために次の操作を行った。
まず、イントロン存在領域を挟み込むようなイントロンが除去された40〜50塩基の配列の正配列と相補配列を有するDNA断片P22〜P27と、FOD923遺伝子の開始コドンATG上に制限酵素NcoIの配列を付加したDNA断片P21、およびFOD923遺伝子の終止コドン直後に制限酵素SacIを付加した相補配列を有するDNA断片P28を合成した。
続いて、カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)の染色体DNAを鋳型とし、P21とP23、P22とP25、P24とP27、P26とP28のプライマーをそれぞれ組み合わせとして4種のPCRを行い、それぞれからイントロン領域が除去された327bp、480bp、471bp、254bpの増幅DNA断片を得た。そして、得た4本のフラグメントを混合して鋳型とし、P21とP28をプライマーとして再度PCRを行うことにより4本のフラグメントが3ヶ所のイントロンの除去された相同領域で連結している1本のFOD923遺伝子を有する約1.4kbのDNA断片を得た。
FOD923を大腸菌内で高生産させるために高発現プロモーターであるエアロコッカス・ビリダンス由来のピルビン酸オキシダーゼプロモーター(特公平7−67390号公報)を使用した。その具体的手順を以下に述べる。
1)特公平7−67390号公報に示されたエアロコッカス・ビリダンスのピルビン酸オキシダーゼ遺伝子を含むプラスミドpOXI3から、ピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター領域を得るため、pOXI3をDraIで切断して、配列番号6記載の202bpのDNA配列を有するピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター領域を分取し、これとpUC13をSalIで切断した後T4DNAポリメラーゼにて平滑末端にしたものとを連結し、pUC13のアンピシリン耐性遺伝子とピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター領域が同じ向きのプラスミドpKN19を得た。
2)さらにプロモーターによる発現を効率的にするためpKN19のピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター下流にリボゾーム結合配列領域とマルチクローニングサイトができるように設計した配列番号7記載の塩基配列を有するDNA断片P31と、その相補配列で配列番号8記載の塩基配列を有するDNA断片P32を合成し、アニーリングさせた後、XbaIとEcoRIで切断したpKN19に連結してプラスミドpPOS2を作製した。
3)先に述べたイントロンを除去したFOD923遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片をNcoIとSacIで切断し、同じくNcoIとSacIで切断したpPOS2へ組み込み、ピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター下流にFOD923遺伝子が組み込まれたプラスミドpPOSFOD923を作製した。
4)得られたpPOSFOD923で大腸菌W3110を形質転換しFOD923を発現する大腸菌FAOD923を作製した。


(4)カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来ケトアミンオキシダーゼの製造
10mlの3%のソルビトール、1.5%のペプトン、1.5%のビール酵母エキス、50μg/mlのアンピシリンを含有する培地(pH7.0)の入った8分の試験管に、前述のように作製した大腸菌FAOD923を植菌し、28℃、12時間振盪培養し、種菌とした。この種菌を20Lの3%のソルビトール、1.5%のペプトン、1.5%のビール酵母エキス、0.1%の消泡剤、50μg/mlのアンピシリンを含有する培地(pH7.0)の入った30Lのジャーファンメンターに植菌し、37℃で18時間、攪拌培養を行った。
培養終了後、集菌し、4Lの10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に菌体を懸濁させ、超音波破砕により菌体の可溶化を行った(212KU)。この可溶化液を8000rpmで30分間遠心し、その遠心上清をQ−セファロース・ビッグビーズ樹脂(2L)(アマシャム社製)を用いてイオン交換クロマトグラフィーを行った。溶出は0M、0.1M、0.3M、0.5MのNaClを含むトリス塩酸緩衝液(pH7.5)にて行った。その結果、0.3Mと0.5MのNaCl溶出画分が活性画分として回収された(180KU)。この酵素液をモジュール(アミコン社製)にて750mlまで濃縮した後10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に一夜透析した。この透析液をQ−セファロース・HP樹脂(500ml)(アマシャム製)を用いて再度イオンクロマトグラフィーを行った。溶出は0〜0.3MのNaClを含むトリス塩酸緩衝液(pH7.5)によるリニアグラジエントにより行い、0.15〜0.2MのNaClの溶出画分(92KU)を回収した。この酵素液を500mlまで濃縮し、10mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)にて一夜透析した後、凍結乾燥を行い、精製FOD923を得た。なお、FOD923活性測定試薬および測定方法を以下に記載する。
<測定試薬>
50mM トリス−塩酸緩衝液(pH7.5)
1mM FVH(ペプチド研究所製)
0.02% 4−アミノアンチピリン(和光純薬工業製)
0.02% TOOS(同仁化学研究所製)
5U/ml パーオキシダーゼ(シグマ製)
(TOOS:N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン)
<測定方法>
測定試薬1mlを試験管に入れ、37℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して5分間反応させた。反応後、0.5%のSDSを2ml添加して反応を停止させ、波長550nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとしてFVHを含まない測定試薬を用いて同様の操作を行って吸光度を測定した(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。
酵素活性1単位は37℃で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を生成させる酵素量とした。
[参考例:ネオコスモスポラ.バシンフェクタ474由来のケトアミンオキシダーゼの製法]
ネオコスモスポラ.バシンフェクタ474がFVHに作用するケトアミンオキシダーゼ(以下、FOD474ともいう)を生産しているが、生産量が低いため、以下に示すように当該ケトアミンオキシダーゼ遺伝子を大腸菌において発現させた後、精製して当該ケトアミンオキシダーゼを得た。
(1)ネオコスモスポラ.バシンフェクタ474染色体DNAの調製
サブロー培地(グルコース4.0%、ポリペプトン1.0%、pH5.6)100mlを500ml容坂口フラスコに入れてオートクレーブで滅菌し、ネオコスモスポラ・バシンフェクタ474を植菌し、25℃で4日間振盪培養した後、No.2ろ紙で培養液をろ過して菌体を回収した。回収した菌体を液体窒素で凍結し、乳鉢で微粉末になるまで粉砕し、DNeasy Plant Maxi Kit(キアゲン製)を使用して染色体DNA溶液を得た。
(2)ケトアミンオキシダーゼ遺伝子のクローニング
(a)放射性DNAプローブの作製
ネオコスモスポラ.バシンフェクタ474のケトアミンオキシダーゼ遺伝子はFOD923の遺伝子と相同性を有することが予想された。そこで前記のFOD923の遺伝子を含むプラスミドpPOSFOD923を制限酵素NcoIとSacIで切断し、ケトアミンオキシダーゼ遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片を分離し、このDNA断片をBcaBEST Labeling Kit(タカラバイオ製)と[α−32P]dCTPを使用して放射性DNAプローブを作製した。
(b) サザンハイブリダイゼーションによるケトアミンオキシダーゼ遺伝子含有DNA断片の検定
(1)の操作で得られたネオコスモスポラ.バシンフェクタ474の染色体DNAから遺伝子ライブラリーを作成するため、本染色体を各種制限酵素で切断し、目的遺伝子が含有されるDNAフラグメントの鎖長を検定する操作を行った。まず、ネオコスモスポラ.バシンフェクタ474の染色体DNAを各種制限酵素で切断し、1.5%アガロースゲルで電気泳動し、アガロースゲルからナイロンメンブレン(PALL製:バイオダインA)にDNAを転写した。次に、このメンブレンを風乾後、ハイブリダイゼーション溶液(0.1% フィコール、0.1% ポリビニルピロリドン、0.1% ウシ血清アルブミン、0.75M 塩化ナトリウム、75mM クエン酸ナトリウム、50mM リン酸3ナトリウム、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム、250μg/ml サケ精子DNA、50% ホルムアミド)に浸し、42℃で2時間プレハイブリダイゼーションを行った。プレハイブリダイゼーション後、ハイブリダイゼーション溶液を新しいものに交換し、(a)で作成した放射性DNAプローブを添加し、同じく42℃でハイブリダイゼーション処理を1晩行った。ハイブリダイゼーション後、メンブレンを洗浄液(75mM 塩化ナトリウム,7.5mM クエン酸ナトリウム、0.1% SDS)で50℃、10分間洗浄後、メンブレンを自然乾燥した。この乾燥したメンブレンをX線フィルムに重ね、−70℃で24時間感光させた。
感光後、フィルムを現像し、各制限酵素による切断染色体が示すポジティブバンドのサイズを観察した。その結果、SacI切断による約8kbのDNAフラグメント上にケトアミンオキシダーゼ遺伝子が存在することが明らかとなり、SacIで切断した染色体DNAの8kbフラグメントを用いて遺伝子ライブラリーを作成することとした。
(c)遺伝子ライブラリーの作成
(1)の操作で得られたネオコスモスポラ.バシンフェクタ474の染色体DNAを制限酵素SacIで切断し、アガロース電気泳動で約8kbのDNAフラグメントを分離した。このDNAフラグメントを、制限酵素SacIで切断した後、アルカリフォスファターゼで切断末端を脱リン酸化したpUC119と、DNAライゲーションキット(タカラバイオ製)で連結させた。これを用いて大腸菌JM109コンピテントセル(タカラバイオ製)を形質転換して50μg/mlアンピシリン含有LB寒天培地(ベクトンデッキンソン製)にて培養することで、約5,000個のアンピシリン耐性コロニーを得、遺伝子ライブラリーとした。
(d)コロニーハイブリダイゼーションによるケトアミンオキシダーゼ遺伝子含有DNA断片保持組換え大腸菌のスクリーニング
(c)により得た遺伝子ライブラリーを、ナイロンメンブレン(PALL製:バイオダインA)にレプリカし、このメンブレンに添付のマニュアルに従って菌体のDNAを固定した。このDNAを固定したメンブレンを(b)に示したハイブリダイゼーション溶液に浸し、42℃で1時間プレハイブリダイゼーション行った。プレハイブリダイゼーション後、ハイブリダイゼーション溶液を新しいものに交換し、(a)で作成した放射性DNAプローブを添加し、同じく42℃でハイブリダイゼーションを1晩行った。ハイブリダイゼーション後、メンブレンを(b)に示した50℃の洗浄液で10分間洗浄後、自然乾燥した。この乾燥したメンブレンをX線フィルムに重ね、−70℃で24時間感光させた。感光後フィルムを現像し、ポジティブシグナルをしめすコロニーを8個確認した。
(e)組み換えプラスミドの抽出とケトアミンオキシダーゼ遺伝子の塩基配列の決定
(d)で選ばれたポジティブシグナルを示すコロニーを50μg/mlのアンピシリン含有LB液体培地(ベクトンデッキンソン製)1.5mlに植菌し37℃で16時間振盪培養した後、プラスミドを抽出した。その結果、8個のコロニー由来のプラスミドは同じ染色体DNA断片を含むものであった。このプラスミドのうちの1つについて、挿入された染色体断片のなかに、FOD923の遺伝子と相同性を有する領域を確認し、FOD474の遺伝子の塩基配列を決定した。決定したFOD474の遺伝子の塩基配列とそのコードするアミノ酸配列を配列番号9に示した。
(3)ネオコスモスポラ・バシンフェクタ474由来ケトアミンオキシダーゼを発現する大腸菌の作製
FOD474を大腸菌で発現させるため、FOD474遺伝子の開始コドンATG上に制限酵素BspHIの配列を付加したP41プライマー(配列番号10)、およびケトアミンオキシダーゼ遺伝子の終止コドン直後に制限酵素SacIを付加した相補配列を有するP42プライマー(配列番号11)を合成した。
続いて、ネオコスモスポラ・バシンフェクタ474の染色体DNAを鋳型とし、P41とP42をプライマーとしてPCRを25サイクル行い、FOD474遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片を得た。このDNA断片をBspHIとSacIで切断し、NcoIとSacIで切断したpPOS2に組み込み、ピルビン酸オキシダーゼ遺伝子のプロモーター下流にケトアミンオキシダーゼ遺伝子が組み込まれたプラスミドpPOSFOD474を作製した。またこのプラスミドをXbaIとSacIで切断して得られるFOD474遺伝子を含む約1.4kbのDNA断片プラスミドpUC119に組み込んで、プラスミドp119−FOD474(FERM BP−08642)を作成し、塩基配列の解析を行い、PCRによる変異が発生していないことを確認した。得られたpPOSFOD474で大腸菌W3110を形質転換しFOD474を発現する大腸菌FAOD474を作製した。
なお、プラスミドp119−FOD474(FERM BP−08642)は、2004年2月24日、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6の独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した。

(4)ネオコスモスポラ・バシンフェクタ474由来ケトアミンオキシダーゼの製造
大腸菌FAOD474を用いて、上記のFOD923と同様に行った。また、FOD474活性測定試薬および方法も上記のFOD923と同様に行った。
[参考例:カーブラリア.クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼ、ネオコスモスポラ.バシンフェクタ474由来のケトアミンオキシダーゼ、フザリウム.オキシスポラム由来のケトアミンオキシダーゼ(旭化成ファーマ製)の基質特異性]
反応液(50mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)、0.1% TritonX−100、0.03% 4−アミノアンチピリン、0.02% TOOS、5U/ml パーオキシダーゼ、2mM 基質)200μlに酵素液20μlを添加し、37℃で5分間反応させた後、0.5% SDSを0.5ml加えてから555nmの吸光度(A1)を測定し、基質を含まない反応液で同様の操作を行って測定した吸光度(Ab)との差(A1−Ab)から反応性を測定した。用いるFOD923、FOD474、フザリウム.オキシスポラム由来のケトアミンオキシダーゼ(旭化成ファーマ製:以下、FOD2ともいう)酵素液の濃度、用いた基質、吸光度差(A1−Ab)および相対活性(%)を表3に示した。
[参考例:アンギオテンシン変換酵素によるFVHLからフルクトシルバリンの遊離反応]
porcine kidney由来アンギオテンシン変換酵素(シグマ製:以下ACEPという)とrabbit lung由来アンギオテンシン変換酵素(シグマ製:以下ACERという)を酵素溶解液(100mM HEPES(pH8.3)、300mM NaCl)で20U/mlになるように溶解し、ACEP液とACER液を作製した。つぎに2mMのFVHL(ペプチド研究所製)溶液が20μl入ったチューブ3本にそれぞれ酵素溶解液、ACEP液、ACER液を20μlづつ添加し、37℃で1時間反応させた後、発色液(50mM Tris−塩酸(pH7.5)、0.1% Triton X−100、5U/ml POD、50U/ml FOD2、0.02mM DA−64)200μlを加えて37℃で5分間反応させた後、0.5%SDSを500μl加えて発色反応を停止させて730nmの吸光度を測定した。同様に2mMのFVHL溶液のかわりに蒸留水でも同様な反応を行い、また40μlのFV溶液(0、5、10、20,50μM)に発色液200μlを加えて同様の測定を行い検量線を作成することで、ACEP、ACERがFVHLからFVを遊離する量を測定した。FVの検量線でFV(μM)と吸光度差は、それぞれ5μMで0.019、10μMで0.033、20μMで0.065、50μMで0.0154であったが、ACEPの反応によるFV遊離を示す吸光度差は−0.006であり、ACERの反応によるFV遊離を示す吸光度差は0.000であった。これらの結果から、ACEPおよびACERはFVHLからFVを通常の反応においてほとんど遊離しないことがわかった。また、40μlのサンプル(25μM FV、10U/ml ACER)に発色液を添加して同様の測定を行ったときの吸光度差が0.062であったことから、ACERが発色液での発色反応をほとんど阻害しないことがわかる。

【実施例1】
ヘモグロビンA1c測定用プロテアーゼのスクリーニング(pH7.5)
ヘモグロビンα鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、ヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼのスクリーニング方法を示す。96穴プレートにおいてスクリーニング対象サンプルを10μlずつ3箇所のウエルに入れた後、1箇所目にα液50μl、2箇所目にβ液50μl、3箇所目に対照液を50μlを入れてから、37℃で60分保温した後、蒸留水50μl、発色液50μlを入れて室温で30分放置した後にマイクロプレートリーダー(バイオラッド製 model 550)で主波長550nm、副波長595nmで吸光度を測定し、α液添加ウエルの吸光度と対照液添加ウエルの吸光度差に比べて、β液添加ウエルの吸光度と対照液添加ウエルの吸光度差が大きいものを選ぶことで目的のプロテアーゼをスクリーニングした。サンプルはカルボキシペプチダーゼB(シグマ製)、カルボキシペプチダーゼW(和光純薬工業製)、カルボキシペプチダーゼY(オリエンタル酵母工業製)、プロテアーゼ(タイプXXVII ナガーゼ:シグマ製)、プロテアーゼ(タイプVIII ズブチリシンカールスベルグ:シグマ製)、プロテアーゼ(タイプXXIV バクテリアル:シグマ製)、プロテイネースK(和光純薬工業製)、ニュートラルプロテイネース(東洋紡製)、カルボキシペプチダーゼA(和光純薬工業製)、サーモライシン(和光純薬工業製)および蒸留水を用いた。また、発色液による発色の度合いを確認するために1mMのFVH(ペプチド研究所製)および1mMのFVL(ペプチド研究所製)を10μlウエルに入れた後、対照液50μlを入れ37℃で60分保温した後、蒸留水50μl、発色液50μlを入れて室温で30分放置した後に上記と同様に測定した。その結果を表4および表5に示した。カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼW、ニュートラルプロテイネース、サーモライシンが、pH7.5においてヘモグロビンα鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、ヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼであることがわかる。
<α液>
50mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.1% Triton X−100
0.2mM α糖化ペンタペプチド(ペプチド研究所製)
<β液>
50mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.1% Triton X−100
0.2mM β糖化ペンタペプチド(ペプチド研究所製)
<対照液>
50mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.1% Triton X−100
<発色液>
100mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.09% 4−アミノアンチピリン(和光純薬工業製)
0.06% TODB(同仁化学研究所製)
15U/ml パーオキシダーゼ(シグマ製)
18.75U/ml FOD923
(TODB:N,N−ビス(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン)


【実施例2】
ヘモグロビンA1c測定用プロテアーゼのスクリーニング(pH3.5)
ヘモグロビンα鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなくヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼのスクリーニング方法をしめす。96穴プレートにおいてスクリーニング対象サンプルを10μlずつ3箇所のウエルに入れた後、1箇所目にα液50μl、2箇所目にβ液50μl、3箇所目に対照液を50μlを入れてから、37℃で60分保温した後、pH調整液50μl、発色液50μlを入れて室温で30分放置した後にマイクロプレートリーダー(バイオラッド製 model 550)で主波長550nm、副波長595nmで吸光度を測定し、α液添加ウエルの吸光度と対照液添加ウエルの吸光度差に比べて、β液添加ウエルの吸光度と対照液添加ウエルの吸光度差が大きいものを選ぶことで目的のプロテアーゼをスクリーニングした。サンプルはカルボキシペプチダーゼB(シグマ製)、カルボキシペプチダーゼW(和光純薬工業製)、カルボキシペプチダーゼY(オリエンタル酵母工業製)、プロテアーゼ(タイプXXVII ナガーゼ:シグマ製)、プロテアーゼ(タイプVIII ズブチリシンカールスベルグ:シグマ製)、プロテアーゼ(タイプXXIV バクテリアル:シグマ製)、プロテイネースK(和光純薬工業製)、ニュートラルプロテイネース(東洋紡製)、および蒸留水を用いた。また、発色液による発色の度合いを確認するために1mMのFVH(ペプチド研究所製)および1mMのFVL(ペプチド研究所製)を10μlウエルに入れた後、対照液50μlを入れ37℃で60分保温した後、pH調整液50μl、発色液50μlを入れて室温で30分放置した後に上記と同様に測定した。その結果を表6に示した。カルボキシペプチダーゼBが、pH3.5においてヘモグロビンα鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、ヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペンタペプチドから糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼであることがわかる。
<α液>
50mM 酢酸−酢酸ナトリウム(pH3.5)
0.1% Triton X−100
0.2mM α糖化ペンタペプチド(ペプチド研究所製)
<β液>
50mM 酢酸−酢酸ナトリウム(pH3.5)
0.1% Triton X−100
0.2mM β糖化ペンタペプチド(ペプチド研究所製)
<対照液>
50mM 酢酸−酢酸ナトリウム(pH3.5)
0.1% Triton X−100
<pH調整液>
100mM CAPS−NaOH(pH11.0)
(CAPS:3−シクロヘキシルアミノプロパンスルフォニックアシッド:同仁化学研究所製)
<発色液>
100mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.09% 4−アミノアンチピリン(和光純薬工業製)
0.06% TODB(同仁化学研究所製)
15U/ml パーオキシダーゼ(シグマ製)
18.75U/ml FOD923
(TODB:N,N−ビス(4−スルホブチル)−3−メチルアニリン)

【実施例3】
微生物からのヘモグロビンA1c測定用プロテアーゼのスクリーニング
各種微生物をDifco Lactobacilli MRS Broth(ベクトンデッキンソン製)、MM培地(2.5%マンノース、2.5%ビール酵母エキス、pH7.0)、YPG培地(2%グルコース、1%ポリペプトン、2%酵母エキス、0.1%リン酸2水素1カリウム、0.05%硫酸マグネシウム7水和物、pH7.0)で28〜30℃、1〜7日間振盪培養し、培養液から遠心分離により菌体を除去して培養上清を得た。得られた培養上清を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で10倍に希釈してサンプルとし、実施例1と同様に測定をした。MRS Brothで培養した微生物の結果を表7に、MM培地で培養した微生物の結果を表8に、YPG培地で培養した微生物の結果を表9(ただし、表9は副波長を測定していない)に示す。



【実施例4】
バチラス.エスピー ASP842(FERM BP−08641)由来のプロテアーゼの精製方法と理化学的性質
150mlのDifco Lactobacilli MRS Broth(ベクトンデッキンソン製)を入れた500ml容三角フラスコ4本でバチラス.エスピー ASP842(FERM BP−08641)を28℃、3日間振盪培養した後、培養液から遠心分離により菌体を除き培養上清(77mU/ml、560ml)を得た。この培養上清に硫酸アンモニウム210gとパーライト(東興パーライト工業製)8.4g加えて撹拌した後に径90mmの濾紙No.5A(東洋濾紙製)で濾過することで析出したプロテアーゼを捕集し、続いてこの析出物を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で懸濁した後径90mmの濾紙5A(東洋濾紙製)で濾過することでプロテアーゼ活性を含む濾液(215mU/ml、90ml)を得て、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)5Lに透析をした。透析済みプロテアーゼ液を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−SepharoseFF(アマシャム製)のカラム(26φx94mm)に吸着させた後、0Mから0.5MのNaClのグラジエントで溶出させてプロテアーゼ活性を含む画分(217mU/ml、54ml)を得た。この画分に1Mになるように硫酸アンモニウムを添加した後、1M硫酸アンモニウム、10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したPhenyl−Sepharose CL−4B(アマシャム製)のカラム(15φx150mm)に吸着させた。その後、1M硫酸アンモニウム、0%エチレングリコールから0M硫酸アンモニウム、20%エチレングリコールのグラジエントで溶出させた後プロテアーゼ活性を含む画分(237mU/ml、18ml)をAmicon Ultra 10000MWCO(ミリポア製)で濃縮して精製プロテアーゼ(13.9U/ml、0.42ml)を得た。なお、本プロテアーゼの活性測定試薬および方法を以下に記載する。
<測定試薬>
50mM Tris−塩酸(pH7.5)
2mM 塩化カルシウム
0.1% Triton X−100
0.03% 4−アミノアンチピリン
0.02% TOOS
5U/ml パーオキシダーゼ
5U/ml FOD923
0.25mM 基質
<測定方法>
測定試薬0.2mlを試験管に入れ、37℃で5分間予備加温した後、0.02mlの酵素液を添加して10分間反応させた。反応後、0.5%のSDSを0.5ml添加して反応を停止させ、波長555nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとして酵素液の代わりに蒸留水で同様の操作を行って吸光度を測定する(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。酵素活性1単位は37℃で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を生成させる酵素量とした。ただし、基質はβ糖化ペンタペプチドを用いた。
<理化学的性質>
(1)基質特異性
実施例4に記載の<測定方法>において、FOD923の濃度を50U/mlに変更し、基質として0.25mMのβ糖化ペンタペプチド、0.25mMのα糖化ペンタペプチド、0.03mMのFVH、0.03mMのFVL、0.03mMのFVを用いて測定した。また、これと同様の測定をFOD923にかえてFOD2を用いて行った。さらにまた、比較のためにニュートラルプロテアーゼ(東洋紡製)においても同様の測定を行った。得られた吸光度差(Aa−Ab)を表10に示した。本プロテアーゼがニュートラルプロテアーゼ(東洋紡製)と同様にα糖化ペンタペプチドから糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出すことなくβ糖化ペンタペプチドからFVHを切り出していることがわかる。

(2)至適pH
実施例4に記載の測定法において50mMのTris−塩酸(pH7.5)のかわりに50mMのTris−塩酸(pH8.0、8.5)、50mMのPIPES(pH6.0、6.5、7.0)、50mMのクエン酸−クエン酸ナトリウム(pH5.5、6.0、6.5)を用いて、0.25mMの基質を0.1mMのβ糖化ペンタペプチドにして測定をした結果を図2に示す。pH6.0付近が至適であることがわかる。
(3)pH安定性
酵素を50mMのTris−塩酸(pH7.5、8.0、8.5)および50mMのPIPES(pH6.0、6.5、7.0)中で50℃、20分間処理し、その残存活性を測定した。その結果を図3に示す。
(4)至適温度
プロテアーゼ溶液20μlを反応液(50mM Tris−塩酸(pH7.5)、2mM 塩化カルシウム、0.1% TritonX−100、2.5mM βペンタペプチド)100μlに添加し、30,37,42,50,55,60,65℃の各温度で10分間反応させた後、0.5M EDTAを5μl加えて反応を停止させた。その後、発色液(0.03% 4−アミノアンチピリン、0.02% TOOS、50U/ml パーオキシダーゼ、10.5U/ml FOD923)95μl添加して37℃5分間反応させ、続いて0.5% SDSを0.5ml添加してから555nmの吸光度を測定することで至適温度を測定した。結果を図4に示す。
(5)熱安定性
50mM Tris−塩酸(pH7.5)中にプロテアーゼを入れ、4、37、50、60、70℃の各温度で10分間処理した後に残存活性を測定した。結果を図5に示す。
(6)分子量
35kDa(SDS−PAGE)
32721Da(MALDI−TOF MASS分析)
【実施例5】
エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820 菌株由来のプロテアーゼの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<培養方法>
500ml容坂口フラスコ10本に100mlのYPG培地(2.0%グルコース、1.0%ポリペプトン、2.0%酵母エキス、0.1%KH2PO4、0.05%MgSO4・7H2O、pH7.0)を入れ、殺菌後、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820を植菌し、30℃、2日間振盪培養した。
<精製方法>
得られた培養液を遠心分離して培養上清に40%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、遠心分離した上清を40%飽和硫酸アンモニウムを加えた0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で平衡化したButyl Toyopearl 650M(30φ×150mm,東ソー製)のカラムに供与した。10%飽和になるように硫酸アンモニウムを加えた0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で洗浄を行い、0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で溶出した。その溶出液の活性画分を50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で透析した後、同緩衝液で平衡化したDEAE−Sepharose Fast Flow(30φ×150mm,アマシャム製)のカラムに供与し、0から0.5MまでのNaClのリニアグラジエントで溶出した。その溶出液の活性画分に40%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、40%飽和硫酸アンモニウムを加えた0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.3)で平衡化したButyl−Toyopearl 650M(18φ×150mm,東ソー製)のカラムに供与し、40%から0%までの飽和硫酸アンモニウムのリニアグラジエントで溶出した。活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製プロテアーゼを得た。精製の過程を表11にまとめた。
本酵素の活性は次のようにして測定した。β糖化ペンタペプチドを0.5mMになるように溶解した100mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)0.45mlを光路長1cmのセルに入れ、37℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して10分間反応させた。反応後、測定試薬(0.04% TOOS、0.06% 4−アミノアンチピリン、パーオキシダーゼ10U、カーブラリア・クラベータYH923由来ケトアミンオキシダーゼ10Uを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))0.5mlを加え、2分間発色させた後、0.5%SDS2mlを添加して反応を停止させ、波長550nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとして基質を含まない各種緩衝液を加え、同様の操作を行って吸光度を測定した(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。

<理化学的性質>
(1)作用
本発明のエアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼのα糖化ペンタペプチドとβ糖化ペンタペプチドに対する作用は表12の通りである。反応時の各基質濃度を0.25mMとし、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼ(1.0U)を加えて30℃で5〜60分間反応させ、反応液をプロテインシーケンサー(島津製)に供与し、プロテアーゼの作用により生成したペプチドのN末端アミノ酸配列を決定した。
その結果、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼはα糖化ペンタペプチドには作用せず、β糖化ペンタペプチドのヒスチジンとロイシンの間のペプチド結合を切断し、FVHとロイシル−トレオニル−プロリン(LTP)を生成した。
(2)至適pH
β糖化ペンタペプチドを0.5mMになるように溶解したpH3.0〜11.0の各種緩衝液(pH3〜5は100mMの酢酸緩衝液、pH5〜7は100mMのクエン酸緩衝液、pH7〜9は100mMのトリス塩酸緩衝液、pH9〜11は100mMのホウ酸緩衝液)0.45mlを光路長1cmのセルに入れ、37℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して10分間反応させた。反応後、測定試薬(0.04% TOOS、0.06% 4−アミノアンチピリン、パーオキシダーゼ10U、カーブラリア・クラベータYH923由来ケトアミンオキシダーゼ10Uを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))0.5mlを加え、2分間発色させた後、0.5%SDS2mlを添加して反応を停止させ、波長550nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとして基質を含まない各種緩衝液を加え、同様の操作を行って吸光度を測定した(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。その結果を図6に示した。
(3)pH安定性
酵素液を10mMの各種緩衝液中で4℃、24時間処理し、その残存活性を本酵素の<精製方法>で記載した活性測定法に従って測定した。その結果を図7に示した。
(4)至適温度
β糖化ペンタペプチドを0.5mMになるように溶解した100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)0.45mlを光路長1cmのセルに入れ、15〜70℃で5分間予備加温した後、0.05mlの酵素液を添加して10分間反応させた。反応後氷中で冷却した後、測定試薬(0.04% TOOS、0.06% 4−アミノアンチピリン、パーオキシダーゼ10U、カーブラリア・クラベータYH923由来ケトアミンオキシダーゼ10Uを含む100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))0.5mlを加え、2分間発色させた後、0.5%SDS溶液2mlを添加して反応を停止させ、波長550nmにおける吸光度(Aa)を測定した。また、ブランクとしてFVHを含まない各種緩衝液を加え、同様の操作を行って吸光度を測定した(Ab)。この吸光度(Aa)とブランクの吸光度(Ab)の吸光度差(Aa−Ab)より酵素活性を求めた。15〜70℃の範囲で変化させて至適温度を求めた結果を図8に示した。
(5)熱安定性
酵素液を100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中で各温度30分間加熱処理した後の残存活性を前記酵素活性測定法に従って測定した。その結果を図9に示した。
(6)分子量
YMC−Pack Diol−200G(6.0φ×300mm、ワイエムシー製)によるゲル濾過から本酵素の分子量を求めた。標準蛋白質として牛血清アルブミン、オボアルブミン、大豆トリプシンインヒビター(全てシグマ製)を使用した。その結果、分子量は約33,000であった。
Laemmliの方法での10%gelによるSDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動)では、分子量は約33,000であった。尚、標準蛋白質はSDS−PAGEスタンダードLow(バイオラッド製)を使用した。
以上の結果から、本発明のエアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来プロテアーゼは単量体であることが明らかである。
(7)N末端部分アミノ酸配列
前記方法に従って、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820培養液から得た精製酵素を蒸留水に溶解し、N末端配列シークエンサー(島津製作所製 PPSQ−21)を用いて解析した。得られた配列は次の配列番号12に示すようになった。得られたN末端部分アミノ酸配列をもとに、既知のプロテアーゼとの相同性を検索した結果、エアロモナス・ヒドロフィラ由来エラスターゼと98%の相同性を示した。

(8)部分アミノ酸配列
前記方法に従って、エアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820培養液から得た精製酵素の凍結乾燥品60μgを用い、「マイクロシークエンスのための微量タンパク質精製法、p48−52、羊土社(1992年)」に準じて、酵素の断片を得て、その配列を決定した。即ち、50μlの45mMジチオスレイトールを加え、50℃、15分間処理を行い、5μlの100mMヨードアセトアミドを加え、15分間放置した。続いて、140μlの蒸留水を加え、1.0μgエンドプロテーナーゼLys−C(ロッシュ・ダイアグノスティックス製)を添加後、37℃、一晩インキュベートした。その断片化した酵素をHPLCにより分離し、各酵素断片を取得した。その各断片をN末端配列シークエンサー(島津製作所製 PPSQ−21)を用いて解析した。得られた配列は次の配列番号13,14に示すようになった。得られた2つの部分アミノ酸配列はいずれもエアロモナス・ヒドロフィラ由来エラスターゼのアミノ酸配列と完全に一致した。

以上のエアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来のプロテアーゼの性質を表12にまとめた。

【実施例6】
リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366(FERM BP−10010)菌株由来のプロテアーゼの培養方法、精製方法および酵素学的性質
<精製方法>
実施例5で記載した製造及び精製法と同様の方法により活性画分を回収し、蒸留水に対して透析し、精製プロテアーゼを得た。精製の過程を表13にまとめた。活性測定法も実施例5と同様に行った。

<理化学的性質>
(1)作用
本発明のリゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼのα糖化ペンタペプチドとβ糖化ペンタペプチドに対する作用は表14の通りである。実施例5の(1)で記載した方法に従って、本発明のリゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼのα糖化ペンタペプチドとβ糖化ペンタペプチドに対する作用を調べた結果、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼはα糖化ペンタペプチドには作用せず、β糖化ペンタペプチドのヒスチジンとロイシンの間のペプチド結合を切断し、FVHとLTPを生成することがわかった。
(2)至適pH
実施例5の(2)に記載した方法に従って、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼの至適pHを調べた結果を図10に示した。
(3)pH安定性
実施例5の(3)に記載に方法に従って、本発明のリゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼのpH安定性を調べた結果を図11に示した。
(4)至適温度
実施例5の(4)に記載の方法に従って、本発明のリゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼの至適温度を調べた結果を図12に示した。
(5)熱安定性
実施例5の(5)に記載の方法に従って、本発明のリゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼの熱安定性を調べた結果を図13に示した。
(6)分子量
実施例5の(6)で記載した方法に従ってゲル濾過ならびにSDS−PAGEによる分子量を求めた結果、分子量は約35,000であった。
以上の結果から、本発明のリゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来プロテアーゼは単量体であることが明らかである。
(7)N末端部分アミノ酸配列
前記方法に従って、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366培養液から得た精製酵素を蒸留水に溶解し、N末端配列シークエンサー(島津製作所製PPSQ−21)を用いて解析した。得られた配列は次の配列番号15に示すようになった。

(8)部分アミノ酸配列
前記方法に従って、リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366培養液から得た精製酵素の凍結乾燥品60μgを用い、常法(マイクロシークエンスのための微量タンパク質精製法、p48−52、羊土社、1992年)に準じて、酵素の断片を得て、その配列を決定した。即ち、50μlの45mMジチオスレイトールを加え、50℃、15分間処理を行い、5μlの100mMヨードアセトアミドを加え、15分間放置した。つづいて140μlの蒸留水を加え、1.0μgエンドプロテーナーゼLys−C(ロッシュ・ダイアグノスティックス製)を添加後、37℃、一晩インキュベートした。その断片化した酵素をHPLCにより分離し、各酵素断片を取得した。その各断片をN末端配列シークエンサー(島津製作所製 PPSQ−21)を用いて解析した。得られた配列は次の配列番号16、17に示すようになった。

以上のエアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来のプロテアーゼの性質を表14にまとめた。

【実施例7】
遺伝子改変によるFZKへの作用が低下した変異型ケトアミンオキシダーゼの取得
<カーブラリア・クラベータYH923由来ケトアミンオキシダーゼの変異ライブラリーの構築>
FOD923の変異ライブラリーの構築はDNAポリメラーゼの誤読を利用したエラープローンPCRにより作成した。エラープローンPCRは上記参考例に記載のpPOSFOD923を鋳型とし、P51プライマー及びP52プライマー(次の配列番号18及び19に示す)を用いてReady−To−Go PCR beads(アマシャム製)で塩化マグネシウムを終濃度2.5mMになるよう添加して行なった。サイクル条件は94℃×40秒→55℃×30秒→72℃×1分;25サイクルで行った。


増幅されたPCR産物はGFX PCR DNA and Gel Band Purification−キット(アマシャム製)を用いて精製した。
この精製されたPCR産物0.2μgを制限酵素NcoI及びSacIで消化した後、エタノール沈殿により回収した。一方、0.5μgのpPOSFOD923も同じ制限酵素で消化し、ケトアミンオキシダーゼ遺伝子を含まない2.9kbpのDNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離し、GFX PCR DNA and Gel Band Purification−キットを用いて回収した。Ligation Highキット(東洋紡製)にて前述の両DNA断片を16℃にて30分間反応させて結合し、大腸菌JM109のコンピテントセルを形質転換した。形質転換体は50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布し、コロニーが1〜2mm程度に生育するまで37℃で静置培養した。
<FZKへの作用が低下した変異型ケトアミンオキシダーゼのスクリーニング>
96穴マイクロプレートにあらかじめ滅菌しておいた発現用培地(3%のソルビトール、1.5%のポリペプトン,1.5%の酵母エキス、50μg/mlのアンピシリンを含み、pH7.0に調整した培地)100μlを加え、そこに生育した形質転換体を接種し、30℃で一晩培養した。培養終了後、培養液から5μlずつ96穴プレートの2つのウエルに分注し、測定試薬(1mM FVHまたはFZK、0.02% TOOS、0.02% 4−アミノアンチピリン、10U/mlパーオキシダーゼを含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5))50μlを加え、30℃で10〜60分間反応させた。0.5%SDSを150μl添加して反応を停止させ、マイクロリーダー(バイオラッド製model450)で550nmの吸収を測定した。
構築した変異ライブラリーより、FVHには作用するが、FZKへの作用が低下したケトアミンオキシダーゼを生産している組換え体を選抜した。スクリーニングの結果、優良変異株として923−F1及び923−F2を得た。これらの変異株の有するケトアミンオキシダーゼ遺伝子の塩基配列を決定したところ、表15に示したような塩基に変異が導入されていた。

<変異型ケトアミンオキシダーゼの基質特異性の確認>
選抜した1株のコロニーをLB培地(50μg/mlのアンピシリンを含む)5mlに植菌し、30℃,20時間振盪培養を行った。培養終了後の培養液から遠心分離により菌体を集菌し、0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)5mlに菌体を懸濁させ、超音波破砕により菌体の可溶化を行った。この可溶化液を遠心分離(8,000rpm,10分間)し、その上清をケトアミンオキシダーゼ粗酵素液とした。これらの粗酵素液を用いてFVHとFZKを基質として<FZKへの作用が低下した変異型ケトアミンオキシダーゼのスクリーニング>で記載した活性測定方法に従って特異性(FZKへの活性のFVHへの活性に対する相対活性、以後FZK/FVHと示す)を求めた。その結果、表15に示したように923−F1と923−F2のFZK/FVHはそれぞれ0.24と0.025であり、変異型酵素はFZKへの作用が大きく低下したといえる。
<有効変異箇所の特定>
前述した基質特異性の改良に影響した有効変異箇所を特定するために表15に示した点変異が導入された変異型ケトアミンオキシダーゼを以下に示す方法により作成した。
1)変異型酵素923−F330Lと923−Fro2は、図14に示したプラスミドpPOSFOD923の制限酵素地図を基に、野生型もしくは変異型酵素923−F2の遺伝子を表15に示した制限酵素で処理し、目的とする変異箇所を含む断片を切り出し、同じ制限酵素で処理した他方のプラスミドに挿入し、得られたプラスミドを用いて形質転換した大腸菌から取得した。
2)変異型酵素923−I58Vは目的とする変異を含む領域を変異プライマーP53とP54(配列番号20,21に示す)を用いてPCRを行い、得られた断片を表15に示した制限酵素で処理し、同じ制限酵素で切断したpPOSFOD923に挿入し、得られたプラスミドを用いて形質転換した大腸菌から取得した。これらの変異型酵素を<FZKへの作用が低下した変異型ケトアミンオキシダーゼのスクリーニング>で記載した測定法で評価した結果を表15に示した。アミノ酸番号58番のイソロイシン(I58)のバリンへの置換、または62番のアルギニン(R62)のヒスチジンへの置換がFZKに対する活性の低減に有効であることが分った。
P53 CGACTCTAGAGGAATAACACCATGGCGCCCTC(配列番号20:pPOS2のマルチクローニングサイト下流のXbaIサイトを含む)
P54 GCTTCTAGACTCAATTGGAGATCGACCTTGTTCCGCAAGCGGATACCCATGACCTTAT(配列番号21:FOD923において58I→Vとなるような変異を含む配列番号1記載の637番目から694番目の配列の相補配列)
<有効変異アミノ酸残基の点変異試験>
効果の高いアミノ酸番号58番のイソロイシン(I58)を他のアミノ酸に置換し、有効な点変異型ケトアミンオキシダーゼの検索を試みた。P53(配列番号20)と(表15−2)に示した配列をもつプライマー(P55〜P64)とを用いて、<有効変異箇所の特定>の2)に示す方法で変異株を作成した。得られた変異型酵素のFVHに対するFZKの活性を<FZKへの作用が低下した変異型ケトアミンオキシダーゼのスクリーニング>で記載した方法で測定した結果を(表15−2)に示した。

アミノ酸番号58番のイソロイシン(I58)のバリンへの置換の他に、スレオニン、アスパラギン、システイン、セリン、アラニンへの置換がFZKに対する活性の低減に有効であることが分かった。
<変異型ケトアミンオキシダーゼの製造>
変異型ケトアミンオキシダーゼの精製は参考例に記載の方法と同様の方法で行い製造した。
本発明の変異型フルクトシルアミノキシダーゼの各種基質に対する特異性は表16の通りである。なお、反応時の各基質濃度は1mMとし、その他の反応条件は<FZKへの作用が低下した変異型ケトアミンオキシダーゼのスクリーニング>で記載した活性測定方法に従った。923−F2(以後、FOD923Mともいう)はFVに対して最も高い反応性を示し、かつ、FVHにも高く反応するが、FZK、FVLに対しては、それぞれ2.5%、0.5%とFVHと比較してごくわずかであり、本酵素はFZKやFVLへ実質的に作用しない酵素であるといえる。

<ネオコスモスポラ・ヴァシンフェクタ474由来ケトアミンオキシターゼの変異型>
ネオコスモスポラ・ヴァシンフェクタ474 由来ケトアミンオキシダーゼ(FOD474)は、FOD923を含むケトアミンオキシダーゼと高い相同性があり、図1に示したように、FOD923のI58を含むN末端側領域のアミノ酸配列が高く保存されている。pPOSFOD474を用い、FOD474のI58を異なるアミノ酸(トレオニン)に置換したFOD474変異株474−F1を獲得した。表17にはFOD474及び474−F1の各種基質に対する特異性を示す。FOD474においてもFVHに対する基質特異性が改良されたことから、他の菌種由来のケトアミンオキシダーゼにおいても58番目アミノ酸領域はFVHに対する基質特異性に強く関与する部位であると考えられる。

【実施例8】
ケトアミンオキシダーゼFOD923、FOD474、FOD923MのFVH、FZKへの作用のpH依存性
反応液(50mM 緩衝液、0.1% TritonX−100、0.03% 4−アミノアンチピリン、0.02% TOOS、5U/ml パーオキシダーゼ、2mM 基質)200μlに酵素液20μlを添加し、37℃5分間保温後、0.5% SDSを500μl加えてから555nmの吸光度を測定した。緩衝液はTris−塩酸(pH7.5、8.0、8.5)、PIPES(pH6.0、6.5、7.0)、Bistris−塩酸(pH5.0、5.5、6.0、6.5)を用いて測定し、基質を含まない反応液を用いて同様に吸光度を測定し、基質にFVHとFZKとを用いたときのそれぞれの吸光度差、用いた酵素液の酵素濃度を表18に記載した。基質にFVHとFZKとを用いたときの(FZK/FVH)で表される相対活性(%)を表19に示した。pH6付近でFVHに対する特異性が著しく向上することがわかる。
【実施例9】
ケトアミンオキシダーゼFOD923Mの基質特異性
<参考例:カーブラリア・クラベータYH923(FERM BP−10009)由来のケトアミンオキシダーゼ、ネオコスモスポラ・バシンフェクタ474由来のケトアミンオキシダーゼ、フザリウム.オキシスポラム由来のケトアミンオキシダーゼ(旭化成ファーマ製)の基質特異性>で記載した方法と同様に測定した。結果を表3に示した。


【実施例10】
<ヘモグロビンA1cの測定>
まず検量線を作製するために、光路長1cmのセルの中でFVH添加ヘモグロビンA1c標準液36μlにR1(−プロテアーゼ)を324μlおよびR2を90μl加えて37℃で200秒保温した後にR3を10μl加えて37℃で100秒保温し、続いてR4を10μl加えて37℃で100秒保温する。その過程でR2を加えて180秒後の730nmの吸光度値(A1s)、R3を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A2s)、R4を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A3s)を測定する。また、同様にFVH未添加ヘモグロビンA1c標準液においても同様の操作を行い、R2を加えて180秒後の730nmの吸光度値(A1sb)、R3を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A2sb)、R4を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A3sb)を測定する。吸光度差ΔAs=(A3s−A2s)−(A3sb−A2sb)とFVH濃度との関係から図15の検量線を作製した。
次に、低値および高値ヘモグロビンA1c標準液36μlにR1(+プロテアーゼ)を324μl加え37℃で60分保温した後にR2を90μl加えて、光路長1cmのセルの中において37℃で200秒保温した後にR3を10μl加えて37℃で100秒保温し、続いてR4を10μl加えて37℃で100秒保温する。その過程でR2を加えて180秒後の730nmの吸光度値(A1)、R3を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A2)、R4を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A3)を測定する。また、同一サンプルでR1(+プロテアーゼ)のかわりにR1(−プロテアーゼ)を用いた以外は上記と同一の操作をして、R2を加えて180秒後の730nmの吸光度値(A1b)、R3を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A2b)、R4を加えて90秒後の730nmの吸光度値(A3b)を測定する。低値および高値ヘモグロビンA1c標準液におけるヘモグロビンβ鎖N末端の糖化の量は吸光度差ΔA=(A3−A2)−(A3b−A2b)と、FVH濃度と吸光度の関係から得ることができ、表20に示すように理論値と測定値が良く一致していることがわかる。なお、吸光度差ΔAε=(A2−A1)−(A2b−A1b)は糖化ヘモグロビン中のリジン残基のε−アミノ基が糖化されている量と比例するものと考えられる。
<R1(+プロテアーゼ)>
20mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.1% Triton X−100
150mM 塩化ナトリウム
2mM 塩化カルシウム
2.1kU/ml バチラス.エスピー由来のニュートラルプロテイネース(東洋紡製)
<R1(−プロテアーゼ)>
20mM Tris−塩酸(pH7.5)
0.1% Triton X−100
150mM 塩化ナトリウム
2mM 塩化カルシウム
<R2>
20mM Tris−塩酸(pH7.5)
6.35mM WST3(同仁化学研究所製)
0.08mM DA−64(和光純薬工業製)
25U/ml パーオキシダーゼ(シグマ製)
(WST−3:2−(4−イオドフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム)(DA−64:N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4‘−ビス(ジメチルアミノ)−ジフェニルアミン)
<R3>
500U/ml FOD2
<R4>
500U/ml FOD923
<低値ヘモグロビンA1c標準液>
市販凍結乾燥品ヘモグロビン測定用キャリブレーター(デタミナーコントロールHbA1c用:協和メデックス製)低値(表示ヘモグロビンA1c値(JDS値):5.6%)を蒸留水で4mg/mlになるように溶解して作製。
なお、臨床検査 46(6)729−734(2002)に記載の換算式(JDS値)=0.9259(IFCC値)+1.6697よりヘモグロビンA1c値(IFCC値):4.2%と換算される。よって、ヘモグロビンがα鎖2本、β鎖2本からなる4量体で分子量64550であるとすると、この標準液の糖化されたβ鎖N末端の濃度は理論値として0.0052mMとなる。
<高値ヘモグロビンA1c標準液>
市販凍結乾燥品ヘモグロビン測定用キャリブレーター(デタミナーコントロールHbA1c用:協和メデックス製)高値(表示ヘモグロビンA1c値(JDS値):10.2%)を蒸留水で4mg/mlになるように溶解して作製。
なお、臨床検査 46(6)729−734(2002)に記載の換算式(JDS値)=0.9259(IFCC値)+1.6697よりヘモグロビンA1c値(IFCC値):9.2%と換算される。よって、ヘモグロビンがα鎖2本、β鎖2本からなる4量体で分子量64550であるとすると、この標準液の糖化されたβ鎖N末端の濃度は理論値として0.0114mMとなる。
<FVH添加ヘモグロビンA1c標準液>
上記の低値ヘモグロビンA1c標準液にFVH(ペプチド研究所製)を0.030mMおよび0.015mMになるように添加して作製。
<FVH未添加ヘモグロビンA1c標準液>
上記の低値ヘモグロビンA1c標準液を用いる。
【実施例11】
<プロテアーゼ反応時間とヘモグロビンA1cの測定値の関係>
実施例10での低値および高値ヘモグロビンA1c標準液におけるプロテアーゼ反応の時間を30分から360分まで変化させ、得られるヘモグロビンA1cの測定値を図16に示した。これは実施例10での測定値が理論値と一致したのはプロテアーゼ反応の時間を60分に限定したことにより偶然得られたものではなく、プロテアーゼ反応の時間が30分から360分において経時的にほぼ安定しており、真の糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端の量を本測定法により測定していることを示すものである。
【実施例12】
1)バチラス・エスピー由来のニュートラルプロテイネース(東洋紡製)による糖化ヘモグロビン分解反応におけるpHの影響評価
1−a)プロテアーゼ反応後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを消去してからFOD923でFVH量を測定する場合
R1反応液(20mM 緩衝液、界面活性剤、塩化ナトリウム、2mM 塩化カルシウム、1.2kU/ml ニュートラルプロテイネース(東洋紡製))324μlに20mM WST3を30.4μlと糖化ヘモグロビンサンプル36μlを添加してから60秒後にR2反応液(100mM 緩衝液、50U/ml パーオキシダーゼ、0.16mMDA−64)44.6μl加えて、さらに300秒後に0.5M EDTAを5μlとpH調製液15μlを加え、さらに50秒後に1500U/mlのFOD2を10μl加え、さらに250秒後に500U/mlのFOD923を5μl加えて、150秒間反応させた。反応はすべて37℃で吸光度計のセル中で行い、730nmの吸光度をモニターしておき、FOD2を加えてから240秒後の吸光度とFOD923を加えてから140秒後の吸光度の差(A1)を求めた。測定スキームを図17に示した。
R1反応液にあらかじめ3.33μMになるようにFVHを入れておいた場合に同様の操作を行い、吸光度差(A2)を求めた。また0.5M EDTAを5μlとpH調製液15μlをR2反応液を加えた後ではなく糖化ヘモグロビンを添加する前に加える以外は同様の操作を行うことでブランク反応時の吸光度差(Ab)を求めることができた。
これらの吸光度差からプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出されたFVHは「測定値(μM)=(A1−Ab)/(A2−A1)X30」で計算できる。なお、EDTAはプロテアーゼの反応を停止または阻害するために添加した。pH調製液はケトアミンオキシダーゼFOD2およびFOD923反応時にpHが約7.5になる目的で添加し、R1およびR2反応液中で用いる緩衝液と界面活性剤と塩化ナトリウム濃度とpH調製液の組み合わせ、および測定結果を表21に示した。
1−b)プロテアーゼ反応後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを消去することなくFOD923でFVH量を測定する場合
R1反応液(20mM 緩衝液、界面活性剤、塩化ナトリウム、2mM 塩化カルシウム、1.2kU/ml ニュートラルプロテイネース(東洋紡製))324μlに20mM WST3を30.4μl添加し、さらに糖化ヘモグロビンサンプル36μlを添加してから60秒後にR2反応液(100mM 緩衝液、50U/ml パーオキシダーゼ、0.16mM DA−64)44.6μl加えて、さらに300秒後に0.5M EDTAを5μlとpH調製液15μlを加え、さらに50秒後に500U/mlのFOD923を5μl加えて、150秒間反応させた。反応はすべて37℃で吸光度計のセル中で行い、730nmの吸光度をモニターしておき、0.5M EDTAとpH調製液を加えてから40秒後の吸光度とFOD923を加えてから140秒後の吸光度の差(A1)を求めた。測定スキームを図18に示した。
R1反応液にあらかじめ3.33μMになるようにFVHを入れておいた場合に同様の操作を行い、吸光度差(A2)を求めた。また0.5M EDTAを5μlとpH調製液15μlをR2反応液を加えた後ではなく糖化ヘモグロビンを添加する前に加える以外は同様の操作を行うことでブランク反応時の吸光度差(Ab)を求めることができた。これらの吸光度差からプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出されたFVHは「測定値(μM)=(A1−Ab)/(A2−A1)X30」で計算できる。なお、EDTAはプロテアーゼの反応を停止または阻害するために添加した。pH調製液はケトアミンオキシダーゼFOD2およびFOD923反応時にpHが約7.5になる目的で添加し、R1およびR2反応液中で用いる緩衝液と界面活性剤と塩化ナトリウム濃度とpH調製液の組み合わせ、および測定結果を表21に示した。

(2)バチラス.エスピーASP842由来のプロテアーゼによる糖化ヘモグロビン分解反応におけるpHの影響評価
2−a)プロテアーゼ反応後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを消去してからFOD923でFVH量を測定する場合
実施例12の1−a)のR1反応液において1.2kU/ml ニュートラルプロテイネース(東洋紡製)のかわりに0.85U/mlになるようにバチラス.エスピーASP842由来のプロテアーゼを入れ、R1およびR2反応液中で用いる緩衝液と界面活性剤と塩化ナトリウム濃度とpH調製液の組み合わせを表22で示したものを用い、1−a)と同様の操作を行った。測定結果を表22に示した。
2−b)プロテアーゼ反応後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを消去することなくFOD923でFVH量を測定する場合
実施例12の1−b)のR1反応液において1.2kU/ml ニュートラルプロテイネース(東洋紡製)のかわりに0.85U/mlになるようにバチラス.エスピーASP842由来のプロテアーゼを入れ、R1およびR2反応液中で用いる緩衝液と界面活性剤と塩化ナトリウム濃度とpH調製液の組み合わせを表22で示したようにして1−b)と同様の操作を行った。測定結果を表22に示した。
(3)リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来のプロテアーゼによる糖化ヘモグロビン分解反応におけるpHの影響評価
R1反応液(20mM 緩衝液、界面活性剤、塩化ナトリウム、2mM 塩化カルシウム、0.43U/ml リゾバクター・エンザイモゲネス YK−366由来のプロテアーゼ)に20mM WST3を30.4μlと糖化ヘモグロビンサンプル36μlと蒸留水5μlを添加してから60秒後にR2反応液(100mM 緩衝液、50U/ml パーオキシダーゼ、0.16mM DA−64)44.6μl加えて、さらに300秒後にpH調製液15μlを加え、50秒後に500U/mlのFOD923を5μl加えて、150秒間反応させた。反応はすべて37℃で吸光度計のセル中で行い、730nmの吸光度をモニターしておき、pH調整液を加えてから40秒後の吸光度とFOD923を加えてから140秒後の吸光度の差(A1)を求めた。測定スキームを図19に示した。



R1反応液にあらかじめ3.33μMになるようにFVHを入れておいた場合に同様の操作を行い、吸光度差(A2)を求めた。またR1反応液に入れるプロテアーゼをあらかじめ95℃で10分間処理して失活させたものを用いて同様の操作を行うことでブランク反応時の吸光度差(Ab)を求めることができる。
これらの吸光度差からプロテアーゼにより糖化ヘモグロビンから切り出されたFVHは「測定値(μM)=(A1−Ab)/(A2−A1)X30」で計算できる。
R1およびR2反応液中で用いる緩衝液と界面活性剤と塩化ナトリウム濃度とpH調製液の組み合わせを表23で示したようにして実施例12の1−b)と同様の操作を行った。測定結果を表23に示した。
なお、糖化ヘモグロビンサンプルとしては5.9mg/mlで換算IFCC値16.7%のもの(糖化されたβ鎖N末端濃度の理論値は30.5μMとなる)を用いた。表21〜23の結果からプロテアーゼ反応時のpHが5.0〜6.0においてはプロテアーゼが糖化ヘモグロビンからFOD923が作用することができる糖化リジンを含むペプチドを切り出さず、FOD2による消去なく特異的にFVH量(糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端の量)を正確に測定でき、つまりヘモグロビンA1c量を正確に測定できたことがわかる。
【実施例13】
特異性の高い変異型ケトアミンオキシダーゼFOD923Mを用いたプロテアーゼによる糖化ヘモグロビン分解産物中のFVHの測定
1−a)プロテアーゼ反応後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを消去してからFOD923MでFVH量を測定する場合
実施例12の1−a)において、R1反応液の緩衝液をTris−塩酸(pH7.5)、界面活性剤を0.1% Triton X−100、塩化ナトリウム濃度を150mMとし、500U/mlのFOD923を5μl添加する代わりに、32U/mlのFOD923Mを5μl添加すること以外は同様の操作をして測定したところ、FVHの測定値は28.6μMであった。
1−b)プロテアーゼ反応後、FOD2で糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを消去することなくFOD923MでFVH量を測定する場合
実施例12の1−b)において、R1反応液の緩衝液をTris−塩酸(pH7.5)、界面活性剤を0.1% Triton X−100、塩化ナトリウム濃度を150mMとし、500U/mlのFOD923を5μl添加する代わりに、32U/mlのFOD923Mを5μl添加すること以外は同様の操作をして測定したところ、FVHの測定値は30.0μMであった。。
以上のことから、pH7.5つまりプロテアーゼが糖化ヘモグロビンから糖化リジンおよび糖化リジンを含むペプチドを切り出してくるような条件においても特異性の高いケトアミンオキシダーゼを用いることで、FOD2による消去なく特異的にFVH量(糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端の量)を測定でき、つまりヘモグロビンA1c量を正確に測定できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法、測定試薬キットを提供することが可能となる。
[寄託生物材料への言及]
(1)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成15年2月12日(原寄託日)
平成16年4月12日(原寄託によりブタペスト条約に基づく寄託への移管日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−10009
(2)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
2004年2月24日(原寄託日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−08641
(3)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成16年1月30日(原寄託日)
平成16年4月12日(原寄託によりブタペスト条約に基づく寄託への移管日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−10010
(4)
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
2004年2月24日(原寄託日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−08642
【配列表】















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端から、糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す、プロテアーゼ。
【請求項2】
糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端を含むフラグメントから、糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を含むフラグメントから糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す、プロテアーゼ。
【請求項3】
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す反応を100%としたときに糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを切り出す反応が10%以下である、プロテアーゼ。
【請求項4】
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端又は糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を含むフラグメントから切り出される糖化ペプチドが1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンである請求項1〜3のいずれかに記載のプロテアーゼ。
【請求項5】
糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端又は糖化ヘモグロビンの糖化されたα鎖N末端を含むフラグメントから実質的に切り出されない糖化アミノ酸が1−デオキシフルクトシル−L−バリンであり、実質的に切り出されない糖化ペプチドが1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ロイシンである請求項1〜4のいずれかに記載のプロテアーゼ。
【請求項6】
リゾバクター属由来のプロテアーゼである請求項1〜5のいずれかに記載のプロテアーゼ。
【請求項7】
バチラス・エスピー ASP−842(FERM BP−08641)又はエアロモナス・ヒドロフィラ NBRC3820由来のプロテアーゼである請求項1〜5のいずれかに記載のプロテアーゼ。
【請求項8】
プロテアーゼがメタロプロテアーゼ、ニュートラルプロテアーゼ、またはエラスターゼのいずれかである請求項1〜7のいずれかに記載のプロテアーゼ。
【請求項9】
タンパク質又はペプチドにおけるロイシンのN末端側のペプチド結合を切断するエラスターゼ。
【請求項10】
リゾバクター・エンザイモゲネスYK−366(FERM BP−10010)菌株。
【請求項11】
バチラス・エスピー ASP−842(FERM BP−08641)菌株。
【請求項12】
請求項6に記載のプロテアーゼを製造する方法であって、以下の(a)及び(b)の工程を含むプロテアーゼを製造する方法。
(a)リゾバクター属に属する菌を培養液にて培養する。
(b)培養液からプロテアーゼを抽出する。
【請求項13】
請求項7に記載のプロテアーゼを製造する方法であって、以下の(a)及び(b)の工程を含むプロテアーゼを製造する方法。
(a)バチラス・エスピーASP−842(FERM BP−08641)又はエアロモナス・ヒドロフィラNBRC3820を培養液にて培養する。
(b)培養液からプロテアーゼを抽出する。
【請求項14】
以下の(A)の性質を有するケトアミンオキシダーゼ。
(A)ε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)に対する反応性が1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンに対する反応性に比べて5%以下であること。
【請求項15】
さらに以下の(B)及び(C)の性質を有する請求項14に記載のケトアミンオキシダーゼ。
(B)配列番号1記載のアミノ酸配列と少なくとも75%の相同性を有するアミノ酸配列で構成されること。
(C)配列番号1記載のアミノ酸配列において少なくとも58番目もしくは62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されていること。
【請求項16】
(C)のアミノ酸置換は58番目がバリン、スレオニン、アスパラギン、システイン、セリン、アラニン、62番目がヒスチジンへの置換である請求項15に記載のケトアミンオキシダーゼ。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載のケトアミンオキシダーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子。
【請求項18】
請求項17に記載の遺伝子を含有するケトアミンオキシダーゼ発現ベクター。
【請求項19】
請求項18に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項20】
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せず酵素を用いて特異的に測定する方法。
【請求項21】
酵素が(i)プロテアーゼを含む請求項20に記載の測定方法。
【請求項22】
酵素はさらに(ii)ケトアミンオキシダーゼを含む請求項21に記載の測定方法。
【請求項23】
以下の(iii)および/または(iv)の反応工程を経由して特異的に測定する請求項22に記載の測定方法。
(iii)(i)のプロテアーゼが糖化ヘモグロビンから実質的に、(ii)のケトアミンオキシダーゼが作用するε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンおよび/またはε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンを含む糖化ペプチドを切り出すことなく、糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出す反応工程。
(iv)(ii)のケトアミンオキシダーゼのε−1−デオキシフルクトシル−(α−ベンジルオキシカルボニル−L−リジン)に対する反応性が1−デオキシフルクトシル−L−バリル−L−ヒスチジンに対する反応性の30%以下となる反応工程。
【請求項24】
(iii)の反応工程がpH5.0〜6.0の反応条件下である請求項23に記載の測定方法。
【請求項25】
(iv)の反応工程がpH5.5〜6.5の反応条件下である請求項23又は請求項24に記載の測定方法。
【請求項26】
(i)のプロテアーゼが請求項1〜8のいずれかに記載のプロテアーゼである、請求項21〜25のいずれかに記載の測定方法。
【請求項27】
(ii)のケトアミンオキシダーゼが糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用するケトアミンオキシダーゼである請求項22〜26のいずれかに記載の測定方法。
【請求項28】
ケトアミンオキシダーゼがカーブラリア属由来である請求項27に記載の測定方法。
【請求項29】
(ii)のケトアミンオキシダーゼが以下の(a)及び(b)の2種類である請求項22〜28のいずれかに記載の測定方法。
(a)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに作用するケトアミンオキシダーゼ。
(b)糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端からプロテアーゼにより切り出された糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドに実質的に作用することなく、ε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンおよび/またはε−1−デオキシフルクトシル−L−リジンを含む糖化ペプチドには作用するケトアミンオキシダーゼ。
【請求項30】
(a)のケトアミンオキシダーゼがカーブラリア属由来である及び/又は(b)のケトアミンオキシダーゼがフザリウム属由来である請求項29に記載の測定法。
【請求項31】
(ii)のケトアミンオキシダーゼが請求項14〜16のいずれかに記載のケトアミンオキシダーゼである、請求項22〜26のいずれかに記載の測定法。
【請求項32】
糖化ヘモグロビン若しくはそのフラグメントの糖化されたα鎖N末端から糖化アミノ酸または糖化ペプチドを実質的に切り出すことなく、糖化されたβ鎖N末端から糖化アミノ酸および/または糖化ペプチドを切り出すプロテアーゼをスクリーニングする方法であって、長さが3アミノ酸から20アミノ酸であるヘモグロビンα鎖N末端糖化ペプチドおよび長さが3アミノ酸から20アミノ酸であるヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドを用いるスクリーニング方法。
【請求項33】
ヘモグロビンα鎖N末端糖化ペプチドおよびヘモグロビンβ鎖N末端糖化ペプチドの長さが5アミノ酸である請求項32に記載のスクリーニング方法。
【請求項34】
糖化ヘモグロビンの糖化されたβ鎖N末端を、分離操作せずに特異的に測定する、以下の(i)、(ii)を含んでなる試薬キット。
(i)プロテアーゼ
(ii)請求項14に記載のケトアミンオキシダーゼ

【国際公開番号】WO2004/104203
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506428(P2005−506428)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007341
【国際出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(591175332)イチビキ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】