説明

ベッド位置決めシステム及びベッド位置決め方法

【課題】放射線治療に要する時間をより短縮できるベッド位置決めシステムを提供する。
【解決手段】X線治療システムは、患者が乗る移動可能な天板を有するベッド、ベッド位置決めシステム及び治療装置を備える。治療装置は、回転可能な回転ガントリーに照射ヘッド及びX線発生装置を設ける。X線源及びX線受像器は天板を間に挟み対向して回転ガントリーに設けられる。X線源からX線を放出してX線撮影を行う。この撮影によってX線受像器で得られたX線データを用い、X線画像情報及び再構成によるCT画像情報の作成を並行して実施する。X線画像情報に基づいたベッド移動量の算出も、CT画像情報の作成と並行して行われる。算出されたベッド移動量が適正であると判定されたとき、そのベッド移動量に基づいたベッド制御装置によるベッド(天板)の位置決めが行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベッド位置決めシステム及びベッド位置決め方法に係り、特に、X線又は陽子線をはじめとする粒子線等の各種放射線を患部に照射して治療する放射線治療に用いるのに好適なベッド位置決めシステム及びベッド位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞を各種放射線を照射することで壊死させることを目的とする放射線治療は、近年広く行われつつある。用いられる放射線としては最も広く利用されているX線だけでなく、陽子線を始めとする粒子線を使った治療も行われている。
【0003】
放射線治療の重要なプロセスの一つにベッドの位置決めがある。ベッド位置決めのプロセスを以下に説明する(特許文献1参照)。まず、技師(または医師)が、一般に治療計画装置から出力されたディジタル再構成X線(Digital Reconstructed Radiograph;DRRという)画像情報と放射線照射前にX線撮像装置を用いて治療用ベッド(以下、ベッドと省略する)の上に患者を横たわらせた状態で撮影して得られたX線画像情報を比較する。この比較に基づいて、治療計画で決定した照射標的(がんの患部)の位置と現在のベッド上に横たわっている患者の照射標的の位置のずれ量を算出する。算出したずれ量を用いて二種類の画像が一致するようにベッドの移動量を求める。この移動量に基づいてベッドを移動させることにより、ベッドの位置決めが完了する。なお、DRR画像情報とX線画像情報のパターンマッチングにより、ベッドの移動量を求めることが特許文献2に記載されている。
【0004】
DRR画像情報は、X線画像情報を模擬した画像情報であり、治療計画時に撮影されたCT画像情報から生成される。なお、ベッド位置決めでは、参照画像情報としてDRR画像情報の代りにX線シミュレータ等を用いて撮影した画像情報を用いる場合もある。
【0005】
ベッド位置決めにおいて上記の方法は広く普及しているが、X線画像情報には、主に骨等の明確な構造物が映るため、臓器等の軟組織にがん細胞が存在する場合、直接、がんの患部の位置を画像から観察するのが困難である場合がある。このため、X線画像情報を用いるベッド位置決めではがんの患部つまり軟組織と骨との位置関係が大きく変化しないと想定し位置決めを実施していた。しかし、実際には体内の臓器の位置はわずかながら毎日変化するため、必ずしも治療計画時のCT画像情報における臓器位置と治療時におけるベッド上の患者内の臓器位置が一致していない場合もある。
【0006】
最近では、がんの患部の近傍にある周辺臓器への線量付与をなるべく避け、その患部にのみ放射線を集中させる3次元放射線治療が盛んに行われている。この治療の一例に、強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy;IMRTという)及び粒子線を用いる放射線治療がある。これらの3次元放射線治療では、周辺臓器を含めた患部の位置を位置決め時に把握し、骨ではなく臓器に基づいて位置決めすることが、より高精度な照射のために求められ始めている。このような要求に答えるために、治療装置近く(治療室内)にCT装置を設置し、DRR画像情報の代りにCT画像情報を用いて位置決めを行うことが試みられている。また、このような試みの一環として、治療装置とX線CT装置のベッドを共用する工夫も行われている(非特許文献1)。
【0007】
ベッド位置決め用画像情報としてCT画像情報を用いることによって臓器の位置を確認しながらベッドの位置決めを行うことが可能になる。ベッドの位置決めは、本来なら照射装置と同じ位置で実施するのが望ましい。しかしながら、治療室内に治療装置とは別にX線CT装置を設置する場合には、X線CT装置から患者を治療装置へと移送させなければならない(またはベッドを移動させなければならない)ため、もう一度、治療装置のベッド上で患者の患部と治療装置との位置を確認する必要がある。
【0008】
一般に、放射線治療装置の放射線照射装置は、ベッドの長手方向に伸びる回転軸を中心に360度回転することができる回転ガントリーに取り付けられている。X線画像撮影用のX線管及びX線受像装置も回転ガントリーに取り付けられる。
【0009】
一方、CT画像情報を得る撮影形態の一つとしてコーンビーム方法がある。このコーンビーム方法は、基本的にはX線撮影をある軸周りに全周に渡って行い、複数の放射線検出器から出力されたX線検出信号を用いて再構成処理を施してCT画像情報を得る方法である。コーンビーム方法の名前は、X線管から照射されたX線がコーン(円錐)状のビームになることに由来する。放射線治療装置の回転ガントリーを回転させながら治療対象の全周にわたって行われるX線撮影は、コーンビーム方法による撮影と同じになる。得られた複数枚の透視画像情報を再構成することによりCT画像情報を得ることができる。回転ガントリーに取り付けられたX線画像装置を利用してコーンビーム方法の撮影を実施し、CT画像情報を取得してベッドの位置決めに用いるシステムが実用化されている(非特許文献2)。この本方法の利点は、位置決め用のCT画像情報の座標系と治療装置、特に照射位置の座標系が一致している点にある。この利点は、X線CT装置を治療装置とは別に設置する方法が持っている欠点をカバーする。
【0010】
また、コーンビーム方法を適用したベッド位置決め方法を、イオンビームを用いる粒子線治療装置で実施することが特許文献3に記載されている。
【0011】
【特許文献1】特表2000−510023号公報
【特許文献2】特開2004−267250号公報
【特許文献3】特開2006−239403号公報
【非特許文献1】横濱則也 他、「陽子線治療におけるCT-治療共通ベッドを使用した患者位置決めシステムの概要と検討」、日本放射線技術学会誌、第59巻、11号、1432頁〜1436頁、2003年。
【0012】
【非特許文献2】David A. Jaffray, 他,「A Radiographic and tomographic imaging system integrated into a medical linear accelerator for localization of bone and soft-tissue targets」, Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys., vol.45, No.3, 773頁〜789頁, 1999。
【0013】
【非特許文献3】Jinkoo Kim, 他、「Effects of X-ray image enhancements on the robustness and accuracy of a rigid 3D/2D image registration」, Medical Physics, vol.32, No.4, 866頁〜873頁, 2005。
【0014】
【非特許文献4】Frederik Maes, 他,「Multimodality image registration by maXimization of mutual information」, IEEE Trans. Med. Image., Vol.16, No.2, 187頁〜197頁, 1997。
【0015】
【非特許文献5】Godfrey DJ, 他,「Digital tomosynthesis with an on-board kilovoltage imaging device」, Int J Radiat Oncol Biol Phys. Vol. 65, No. 1, 8頁〜15頁, 2006。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
回転ガントリーに取り付けたX線画像装置を用いたコーンビーム方法による撮影によって得られたCT画像情報をベッドの位置決めに利用するベッド位置決めシステムは、臓器の位置を確認でき、さらに位置決め時の座標系と照射装置の座標系が一致するという利点を有する。このコーンビーム方法を用いる場合、X線画像情報からCT画像情報を再構成し、この再構成したCT画像情報と予め撮影した治療計画用のCT画像情報を比較することにより照射標的と照射位置のずれを求め、ベッドの位置決めを実施する。したがって、コーンビーム方法を適用したベッドの位置決め方法は、X線画像情報を使用する従来のベッドの位置決め方法に比べて、再構成処理によるCT画像情報の作成が必要になるため、ベッドの位置決め終了までに要する時間が長くなる。一方、患者の負担を減らすためにベッド位置決めから放射線照射終了までの治療時間を可能な限り短縮することが求められている。しかしながら、コーンビーム方法を適用したベッドの位置決め方法は、CT画像情報を作成する再構成処理に要する時間が治療時間短縮にとって障害となる。
【0017】
本発明の目的は、放射線治療に要する時間をより短縮できるベッド位置決めシステム及びベッド位置決め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、X線を入射するX線入射装置から出力されたX線情報に基づいてX線画像情報を作成し、このX線画像情報の作成と並行して、X線情報に基づいて第1断層画像情報を作成し、X線画像情報及び治療計画に用いる第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を求めることにある。
【0019】
X線画像情報の作成と第1X線CT画像情報の作成を並行して行うことができるので、X線画像情報を用いたベッド移動量の算出も第1X線CT画像情報の作成と並行して行うことができる。このため、ベッドの位置決めに要する時間を著しく短縮することができ、放射線治療に要する時間をより短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放射線治療に要する時間をより短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の好適な一実施例である実施例1のベッド位置決めシステムを、図1〜図3を用いて説明する。まず、本実施例のベッド位置決めシステム2を説明する前に、ベッド位置決めシステム2が適用される、放射線治療システムであるX線治療システム1を、図1、図2及び図3を用いて説明する。X線治療システム1は、図3に示すように、ベッド位置決めシステム2及び治療装置31を備えている。ベッド位置決めシステム2はX線撮像システム3及び位置決め装置20を有する。治療装置31は、回転ガントリー32、支柱34、照射ヘッド(照射ノズル、照射装置)35、X線発生装置36、ベッド38、ガントリー制御装置44及びガントリー操作卓45を備えている。回転ガントリー32は、床面に据え付けられる支柱34に回転可能に取り付けられる。回転ガントリー32は、回転中心軸46の方向に延びるアーム部33を有し、支柱34に取り付けられた第1回転機構(図示せず)によって駆動されて回転中心軸46を中心に回転する。
【0023】
ベッド38は、治療台40、及び治療台40の上端部に設置される天板39を有する。治療台40は、床面に据え付けられた、第2回転機構(図示せず)を有するターンテーブル(図示せず)上に設置されている。天板39は一方向に細長く伸びている。治療台40は、天板39を三つの方向に移動させる三つの駆動装置(図示せず)を備えている。天板39は、第1駆動装置によって、回転中心軸46に沿った水平方向(Y軸方向という)への移動41を行う。天板39は、第2駆動装置によって、回転中心軸46と直交する水平方向(X方向という)への移動42を行う。天板39は、第3駆動装置によって、高さ方向(鉛直方向)(Z方向という)への移動43を行う。天板39は、第2回転機構の駆動によって、ベッド回転軸47を中心に回転する。さらに、治療台40は、図示されていないが、天板39を回転中心軸46の周りに移動させる(ローリングさせる)第4駆動装置、及び天板39の先端部の上げ下げを行う(ピッチングさせる)第5駆動装置を備える。第4及び第5駆動装置は、ベッド38、すなわち天板39の位置決めの微調整に使用される。天板39の長手方向に伸びる軸が、回転中心軸46と、水平方向及び鉛直方向で共に平行になった状態(図1及び図2に示す天板39の状態)を、ベッド回転軸47回りにおけるベッド38の回転角度がゼロ度と定義する。
【0024】
照射ヘッド35が、天板39と向き合うように、回転ガントリー32の水平方向に伸びた部分、すなわち、アーム部33の先端部に設置される。アーム部33は、回転ガントリー32の回転に伴って天板39の周囲を旋回する。X線発生装置36がアーム部33内に設置されている。照射ヘッド35はX線発生装置36から入射されたX線を照射標的(例えば、患者内に存在するがんの患部)に向かって照射する。回転ガントリー32の回転によって周方向における照射ヘッド35の向きが変えられるので、X線を、照射標的に対し、回転中心軸46の周囲で360度の範囲でどの方向からでも照射することができる。矢印50(図2参照)は回転ガントリー32の回転方向である。また、照射ヘッド35の軸心を通る、X線が照射される方向である照射中心線48と回転中心軸46の交点を、照射中心点(アイソセンター)49と呼ぶ。
【0025】
ガントリー操作卓45はガントリー制御装置44に接続される。ガントリー操作卓45は、X線発生装置36で生成するX線のエネルギー及び回転ガントリーの回転角度等の照射パラメータの設定、及びX線源発生装置36及び第1回転機構への各操作指令の出力を行う。ガントリー制御装置44は、各照射パラメータ及び各操作指令に基づいて、X線源発生装置36及び第1回転機構を駆動するそれぞれの制御指令を出力する。
【0026】
ベッド位置決めシステム1の構成について説明する。ベッド位置決めシステム1のX線撮像システム3は、X線源(X線源装置)4、X線受像器(X線入射器)5、撮像制御装置6、撮像操作卓7及び再構成処理装置(断層画像情報作成装置)15を有する。X線源4及びX線受像器5は、間に天板39を挟むようにして対向して(図2参照)、回転ガントリー32に取り付けられる。X線受像器5は放射線検出器である半導体放射線検出器(図示せず)(以下、半導体検出器という)を複数個有する。放射線検出器としてシンチレータを用いてもよい。本実施例で用いるX線受像器5は複数の半導体検出器を有するフラットパネルディテクタ(FPD)である。シンチレータ及び複数のフォトダイオードを有するFPD、イメージインテンシファイア及びCCDのいずれかをX線受像器5に用いることも可能である。X線源2及びX線受像器3は撮像制御装置6に接続される。
【0027】
撮像操作卓7は、図4に示すように、処理装置8、入力装置(キーボード及びマウス等)13及び表示装置14を有する。処理装置8は、通信装置9、撮像処理演算装置10、主記憶装置12及び記憶装置11を有する。撮像処理演算装置10が、通信装置9、主記憶装置12及び記憶装置11に接続される。入力装置13及び表示装置14は通信装置9に接続される。撮像処理演算装置10は、X線画像情報作成装置(第1画像情報作成装置)及び断層画像作成指令装置の2つの機能を有する。撮像処理演算装置10は、X線画像情報作成装置として、後述する図5に示すステップ64,65の処理を実行する。また、撮像処理演算装置10は、断層画像作成指令装置として、後述する図5に示すステップ67,68の処理を実行し、ステップ67での判定が「Yes」のときに再構成処理開始指令を再構成処理装置(第2画像情報作成装置)15に出力する。ハードディスク等の記憶装置11はデータ及びプログラムを保存する。主記憶装置12はプログラム及び演算処理中に使用するデータを一時的に格納する。再構成処理装置15は、図4に示すように、通信装置16、再構成演算装置17、主記憶装置19及び記憶装置18を有する。再構成演算装置17が、通信装置16、主記憶装置19及び記憶装置18に接続される。再構成演算装置17で使用される再構成演算処理プログラムが記憶装置18に記憶されている。主記憶装置19にはその再構成演算処理プログラムが一時的にロードされる。X線受像器5、撮像制御装置6及び再構成処理装置15が撮像操作卓7に接続される。具体的には、X線受像器5、撮像制御装置6及び通信装置16が通信装置9に接続される。
【0028】
ベッド位置決めシステム1の位置決め装置20は、移動量算出装置22及びベッド制御装置30を有する。移動量算出装置22は、図4に示すように、処理装置23、入力装置(キーボード及びマウス等)28及び表示装置29を有する。処理装置23は、通信装置24、移動量演算装置25、主記憶装置27及び記憶装置26を有する。移動量演算装置25が、通信装置24、主記憶装置27及び記憶装置26に接続される。入力装置28及び表示装置29は通信装置24に接続される。移動量演算装置25で用いられる移動量演算プログラムは、記憶装置26に記憶され、移動量演算装置25で用いられるとき記憶装置26から主記憶装置27にロードされる。移動量算出装置22は、撮像操作卓7及びベッド制御装置30に接続される。具体的には、通信装置24が通信装置9及びベッド制御装置30に接続される。
【0029】
放射線治療では、照射標的への放射線照射前に、天板39上に横たわっている患者内の照射標的と照射中心点49を一致させる必要がある。このため、ベッド38、すなわち、天板39の位置決めが実施される。ベッド位置決めシステム1を用いた、本実施例のベッド位置決め方法を、図5を用いて以下に説明する。
【0030】
まず、ベッドを移動する(ステップ61)。X線を照射する照射標的は、照射対象である患者内に存在するがんの患部(以下、患部という)である。患者が天板39上に横たわった後、患部が照射中心点49の近くに位置するように、天板39が移動される。この天板39の移動は、ベッド制御装置30が入力装置28から移動指令を入力することによって行われる。ベッド制御装置30は、撮像操作卓7から入力した移動指令に基づいた駆動制御指令を第1、第2及び第3駆動装置に出力し、これらの駆動装置を駆動させる。これによって、天板39に対する移動41,42,43が行われ、対象標的が照射中心点49の近くに達する。なお、ベッド制御装置30が移動指令に基づいて第2回転機構を駆動させると、天板39がベッド回転軸47を中心に所定角度だけ旋回する。天板39の、対象標的の照射中心点49近くへの移動は、レーザーマーカ等の光学的装置を目印にして行われる。天板39の移動は、光学的装置を用いずに患者の表面に貼られた(または描かれた)シール及び十字線等のマーカを目印に目測で行う場合もある。
【0031】
照射対象のX線撮影を実行する(ステップ62)。ガントリー制御装置44は、ガントリー操作卓45から入力された回転指令に基づいて第1回転機構を駆動させる。回転ガントリー31は回転中心軸34を中心に回転する。撮像制御装置6は、回転ガントリー32が回転している状態で、回転ガントリー32の回転角度が予め設定された各撮影角度になったとき、X線源4からX線をパルス的に照射対象に照射させる。患者の患部を透過したX線は、X線源4と対向しているX線受像器5の各半導体検出器によって設定された撮影角度毎に検出される。複数の設定された撮影角度(または撮影間隔)は、撮像操作卓7の入力装置13からのオペレータの入力によって、主記憶装置12に予め記憶されている。撮像処理演算装置10は、それらの撮影角度の情報を、通信装置9を介して撮像制御装置6に伝える。撮像制御装置6は、各撮影角度(または撮影間隔)の情報を保持し、X線源4の動作及びX線源4のX線管電圧及び電流等の撮影条件を制御する。撮像制御装置6は撮像操作卓7と通信するための通信装置を備える。X線検出信号が撮像操作卓7に入力される(ステップ63)。X線受像器5の各半導体検出器から出力されたX線検出信号は、電圧信号であり、X線受像器5内でA/D変換されてディジタル信号(以下、X線データという)になる。X線データ(X線情報)は、撮像制御装置6を介して通信装置9に伝えられ、撮像処理演算装置10に入力される。撮像処理演算装置10は、主記憶装置12に予めロードされている通信プログラムを用いてX線データを記憶装置11に記憶させる。
【0032】
設定角度数のX線データが入力されたかを判定する(ステップ67)。撮像処理演算装置10は、設定角度数に対する各撮影角度のX線データを入力したかを判定する。X線データを再構成処理装置に出力する(ステップ68)。撮像処理演算装置10は、その判定が「Yes」になったとき、主記憶装置19にロードされているプログラムに基づいた処理により、設定角度数の各撮影角度に対する各X線データを再構成処理装置15に出力する。これらのX線データは、撮像処理演算装置10から通信装置9,16を介して再構成演算装置17に入力され、記憶装置18に記憶される。撮像処理演算装置10は、上記のプログラムに基づいて、設定角度数に対する各撮影角度のX線データを入力したとき、すなわち、X線撮影が終了したとき、再構成処理装置15に再構成処理開始指令を出力する。撮像処理演算装置10は、X線撮影の終了信号を移動量算出装置22にも出力する。
【0033】
次に、再構成処理によるCT画像情報の作成が行われる(ステップ69)。再構成演算装置17は、再構成処理開始指令を入力したとき、主記憶装置19に記憶している再構成処理プログラムを用いて、それらのX線データを使用してCT画像(以下、第1CT画像という)情報を再構成する。第1CT画像情報(第1断層画像情報)の再構成には、多数の撮影角度毎のX線データが必要である。一般的には、180度の範囲のX線データが約1度刻み毎に必要であると言われている。このため、前述のステップ67の判定が行われ、「Yes」のときに多数の撮影角度毎のX線データが再構成演算装置17に入力されるのである。再構成演算装置17は、再構成処理が終了したとき、撮像操作卓7に第1CT画像情報を出力する。
【0034】
本実施例では、少なくともステップ69,70の処理と並行してステップ64〜66の処理が実行される。X線画像情報を作成する(ステップ64)。撮像処理演算装置10は、撮影角度毎のX線データが入力される度にこのX線データを用いてX線画像情報を作成する。すなわち、撮像処理演算装置10は、主記憶装置12に予めロードされている画像変換プログラムを用いて、ステップ67の判定処理を実行しているときに入力したX線データからX線画像情報を作成する。このX線画像情報は、放射線医療における標準データフォーマットであるダイコム(DICOM)フォーマットに準じて作成される。作成されたX線画像情報は記憶装置11に記憶される。X線画像情報を移動量算出装置に出力する(ステップ65)。一つの撮影角度に対するX線画像情報が作成される度に、撮像処理演算装置10は、記憶装置11から読み出したX線画像情報を通信装置9を経て移動量算出装置22に出力する。X線画像情報を、画像1枚毎に送信するか、まとめて送信するかの処理は、撮像処理演算装置10が入力装置13からのオペレータの入力情報に基づいて実行する。
【0035】
ベッドの移動量を算出する(ステップ66)。移動量算出装置22は、ネットワークで接続されているデータサーバ(図示せず)に記憶されている、治療計画用CT画像(以下、第2CT画像という)の情報を基に治療計画装置(図示せず)で生成されたDRR画像(または第2CT画像)の情報を入力する。移動量算出装置22の移動量演算装置25は、ステップ65で入力した撮影角度毎のX線画像情報、及び第2CT画像情報(第2断層画像情報)を基に作成されたDRR画像情報(または第2CT画像情報)を用いて天板39の移動量、すなわちベッドの移動量を算出する。このベッド移動量の算出の詳細については後述する。ベッド移動量の算出にDRR画像情報及び第2CT画像情報のどちらを用いるかは、その算出開始前に、オペレータが入力装置28から指定できる。
【0036】
移動量算出装置22で実行されるステップ66でのベッド移動量の具体的な算出方法を以下に説明する。移動量演算装置25は、第2CT画像情報、及び第2CT画像情報を基に生成した1枚以上のDRR画像情報を、データサーバから通信装置24を通して読み込み、主記憶装置27(または記憶装置26)に記憶する。移動量演算装置25は、撮像操作卓7から、X線画像情報の送信終了情報が撮像操作卓7から入力されない限りベッド移動量の算出を開始できない。
【0037】
移動量算出装置22が移動量算出に使用する画像情報に関する初期設定値が第2CT画像情報の場合、またはオペレータが入力装置28から第2CT画像情報をベッド移動量の算出に使用すると選択した場合についてまず説明する。移動量算出装置22の移動量演算装置25は、主記憶装置27にロードされた第2CT画像情報及びDRR画像作成プログラムを用い、例えば非特許文献3に記載された高速なDRR画像の生成方法によりDRR画像情報を作成する。非特許文献3に記載されたその方法は、DRR画像情報をグラフィックスハードウェアのテクスチャマッピング機能を用いて作成するものである。この方法を用いることにより高速なDRR画像の作成が可能となる。
【0038】
例えば、ある角度にある回転ガントリー32の回転角度に対し数度(2〜3度)の範囲内で0.5度もしくは1度刻みで第2CT画像を座標変換する。数ミリメートル(2〜3ミリメートル)の範囲で第2CT画像を平行移動させる。回転角度とある回転角度に対して数度の範囲で変化させた角度と平行移動量の組合せを一つのパラメータ(変数の組)とする。回転ガントリー32の回転角度を1度刻みずつ増加させて、回転角度とある回転角度に対して数度の範囲で変化させた角度と平行移動量の組合せ(変化パラメータ)に対するDRR画像情報の組を生成する。このような処理により回転角度の角度が異なる状態での複数枚のDRR画像情報が生成される。これらのDRR画像情報は、回転ガントリー32を回転させながら撮影した結果得られる複数枚のX線画像情報に相当する。それらのDRR画像情報をDRR画像情報の組と呼ぶことにする。変化パラメータを変化させることによって、DRR画像情報の組が複数組作成される。これら複数のDRR画像情報の組の作成に使用したパラメータは既知であるので、各DRR画像情報(DRR画像情報の組とこの組内のDRR画像情報)、及びこれらを作成した際の各角度及び平行移動量に関する変化パラメータを関連付けることができる。これらの変化パラメータは、第2CT画像情報の移動量であるとともにベッドの移動量を表している。DRR画像情報から変化パラメータを迅速に探索するために、DRR画像情報及びこれを作成する際に使用した変化パラメータの情報が、移動量算出装置22の主記憶装置27(または記憶装置26)に互いに関連付けて記憶されている。ベッドの移動量の算出に用いるDRR画像情報の枚数(すなわち角度の刻み幅及び平行移動量の幅)は変更することが可能である。例えば、より多くのDRR画像情報を使用したり、比較するDRR画像情報を4枚のみと制限することもできる。1枚以上のDRR画像情報があればベッド移動量の算出は可能である。
【0039】
移動量演算装置25は、作成したDRR画像情報と撮像操作卓7より入力したX線画像情報を比較することによってこのX線画像情報に最も一致するDRR画像情報を求める。移動量演算装置25は、最も一致するDRR画像情報に対する変化パラメータの情報を主記憶装置27から取得し、取得した変化パラメータに基づいて、照射標的の位置から照射中心点49がどれぐらい離れているかを求める。照射標的の位置と照射中心点49の距離の差を解消するために必要な、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向におけるベッド移動量を求めることができる。DRR画像情報とX線画像情報の比較は、広く知られている非特許文献4に記載のある相互情報量最大化法を用いて行う。相互情報量最大化法は二つの画像間の類似度を求める方法である。本実施例ではDRR画像情報とX線画像情報との類似度を計算し、類似度が最大のDRR画像情報を最も一致するDRR画像情報とする。
【0040】
移動量算出装置22においてDRR画像情報を作成してX線画像情報と比較する例を述べた。しかし、移動量算出装置22以外の装置で第2CT画像情報を用いて予め作成された、複数の角度及び複数の平行移動量に対する複数のDRR画像情報を、移動量算出装置22に取り込んで、ベッド移動量を算出することも可能である。これは、オペレータが入力装置28から移動量演算装置25に指令信号を入力し、移動量演算装置25がそれらのDRR画像情報、及び撮像処理演算装置10で作成されたX線画像情報を入力することによって可能になる。移動量算出装置22以外でのDRR画像情報の作成は、一般的に、非特許文献3に記述の方法及びレイトレーシング法を応用した方法を用いて行う。
【0041】
第1CT画像の情報を移動量算出装置に出力する(ステップ71)。移動量算出装置22の移動量演算装置25は、再構成処理装置15からの第1CT画像情報を、撮像操作卓7を経由して、ステップ66におけるその移動量の算出後(またはその移動量の算出中)に入力し、主記憶装置27(または記憶装置26)に記憶させる。移動量演算装置25は、算出されたベッドの移動量を用いて第1CT画像情報の座標変換を実施する。この座標変換には、例えば平行移動と回転移動のみを考慮した剛体変換等が用いられる。
【0042】
その後、ベッド移動量、座標変換が行われた第1CT画像情報(以下、修正CT画像情報という)及び第2CT画像情報を表示装置に出力する(ステップ72)。移動量演算装置25は、算出されたベッド移動量、修正CT画像情報及びデータサーバより入力して主記憶装置27に記憶している第2CT画像情報を表示装置29に表示させる。オペレータは、表示された二つの画像情報を見比べながら算出された移動量が適切であるかどうかを判断することができる。この際、従来のX線画像情報のでは判別が難しかった臓器位置も確認することができる。算出された移動量の判定情報を入力する(ステップ73)。オペレータは、表示された二つのCT画像を比較することで算出されたベッド移動量が適切であるかを判断する。移動量演算装置25は、オペレータ(医師または放射線技師)が入力装置28から入力した、ベッド移動量が適切である場合における「Yes」の判定情報、及びそれが不適切である場合における「No」の判定情報をそれぞれ入力する。移動量算出装置22の主記憶装置27(または記憶装置26)は、第1CT画像情報、X線画像情報及びDRR画像情報を記憶している。オペレータは、表示装置29に表示されたDRR画像情報、X線画像情報、第1CT画像情報及び第2CT画像情報を観察することにより、算出されたベッドの移動量が適切であるかを判定する。このため、移動量算出装置22はこれらの画像情報の表示を切り替える機能を有する。表示する画像情報の切り替えは、例えば入力装置28からの表示切り替え指令により実施される。画像情報の表示には、DRR画像情報及びX線画像情報を表示する場合、及び第1CT画像情報及び第2CT画像情報を表示する場合の二通りがある。CT画像情報は一般に多数枚の断層画像情報の組であるので、その1枚1枚(これをスライスと呼ぶ)を表示する場合、ボリュームレンダリングやサーフェースレンダリングの手法を用いて3次元画像情報として表示する場合がある。
【0043】
判定情報が「Yes」である場合には、ベッド移動量をベッド制御装置に出力する(ステップ75)。ベッド移動量は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の各移動量を含んでいる。移動量算出装置22からベッド移動量を入力したベッド制御装置30は、そのベッド移動量に基づいて第1、第2および第3駆動装置を制御し、天板39を移動させる。この結果、照射標的が照射中心点49に精度良く位置される。判定情報が「No」である場合には、ベッド移動量の再計算を行う(ステップ74)。移動量演算装置25は、第1CT画像情報及び第2CT画像情報に基づいてベッド移動量を算出する。再計算は、先に説明した相互情報量最大化法をCT画像に対し適用し実施する。ステップ74の処理後、ステップ72では第1CT画像情報、第2CT画像情報及びステップ74で算出されたベッド移動量が表示装置29に出力される。ステップ73で「Yes」の判定情報が入力されたとき、ステップ75が実行される。以上の処理により、天板39、すなわちベッド38の位置決めが終了する。
【0044】
ベッドの位置決めが終了した後、ガントリー制御装置44は、ガントリー操作卓45から入力されたX線源発生装置36及び第1回転機構の各駆動指令に基づいて、X線源発生装置36及び第1回転機構を駆動させる。第1回転機構の駆動によって回転ガントリー32が回転し、アーム部33が天板39に横たわっている患者の周囲を旋回する。X線源発生装置36は、ガントリー制御装置44からの制御指令に基づいて、設定された各回転角度になったとき所定のエネルギーのX線を患者の患部に向かって照射する。このようにして、がんの患部にX線が照射される。
【0045】
本実施例は、撮像操作卓7、すなわち、撮像処理演算装置10が、再構成演算装置17における第1CT画像情報の再構成処理と並行して、X線データを用いてX線画像情報を作成し、移動量算出装置22に送信することを特徴とする。移動量算出装置22に入力されるX線画像情報及び第1CT画像情報のフォーマット(データ形式)は、ダイコムフォーマットである。他のフォーマット、例えばJPEG画像及びビットマップ画像等のフォーマットを用いてもかまわない。
【0046】
本実施例は、撮像処理演算装置(X線画像情報作成装置)10によるX線画像情報の作成が、再構成処理装置15による第1CT画像情報の作成と並行して行われ、X線画像情報の作成が第1CT画像情報のそれよりも前に完了する。これにより、本実施例は、図6(A)に示すように、再構成演算装置17における再構成処理による第1CT画像情報の作成と並行して、移動量算出装置22でX線画像情報を用いたベッドの移動量の算出を行うことができる。したがって、本実施例は、患者が天板39上に横たわってからベッド38の位置決め終了までに要する時間を、著しく短縮することができる。本実施例で得られるこの効果は、図6(B)に示す従来のベッド位置決め方法と比較すれば、より明らかである。従来は、図6(B)に示すように、第1CT画像情報を得る再構成処理が終了した後、移動量算出装置が、第1CT画像情報を入力し、この第1CT画像情報を基にベッドの移動量を算出していた。本実施例では、移動量算出装置22におけるX線画像情報の入力及びベッドの移動量算出が再構成処理による第1CT画像情報の作成と並行して行われるので、ベッド38の位置決めまでに要する時間が短縮されるのである。具体的には、本実施例は、放射線検出器からのX線検出信号に基づいたX線画像情報の作成が、第1CT画像の再構成処理と並行して行われることによって、ベッドの移動量算出をその再構成処理と並行に実施することが可能になったのである。その位置決めに要する時間の著しい短縮は、患者の治療に要する時間の著しい短縮につながり、本実施例によれば、1年間にX線治療システム一台当りで治療できる患者数を著しく増大させることができる。
【0047】
本実施例は、算出したベッドの移動量を用いて第1CT画像情報を修正しているので、具体的には、その移動量に基づいて第1CT画像情報の座標変換を行っているので、その移動量に基づいてベッド(具体的には、天板39)を移動した後の状態での第1CT画像情報を前もって得ることができる。したがって、医師または放射線技師は、修正された第1CT画像情報を見ることによってベッド移動後における患部の位置を事前により正確に確認することができる。
【0048】
本実施例は、修正された第1CT画像情報及び第2CT画像情報を表示装置29に表示するので、医師または放射線技師は、ベッド移動後の患部の位置を治療計画に用いた第2CT画像情報における患部の位置と容易に比較することができる。このため、算出されたベッド移動量が適切であるかの判定を適切に行うことができ、より精度の良いベッドの位置決めを行うことができる。
【0049】
算出されたベッド移動量に対する医師または放射線技師の判定が「否」であった場合には、第1CT画像情報及び第2CT画像情報を用いて、ベッド移動量の算出が可能であるため、より精度の良いベッドの位置決めを行うことができる。
【0050】
本実施例における撮像操作卓7、再構成処理装置15及び移動量算出装置22を一台のコンピュータで構成してもよい。X線源4及びX線受像器5は、回転ガントリー32に設置せず、回転ガントリー32から分離された状態で独立に設置することも可能である。
【実施例2】
【0051】
本発明の他の実施例である実施例2のベッド位置決めシステムを、図7を用いて説明する。本実施例のベッド位置決めシステムのハード構成は、実施例1のベッド位置決めシステのハード構成と同じである。本実施例のベッド位置決めシステムは、図7に示す処理手順を実行する。この処理手順は、実施例1のベッド位置決めシステム2が実行する図5に示す処理手順のうちステップ72の処理を除き、ステップ72の処理をステップ72Aの処理に変更したものである。本実施例のベッド位置決めシステムが適用されるX線治療システムは、実施例1のX線治療システム1においてステップ72の処理を実施しなく、ステップ72の処理の替りにステップ72Aの処理を実施する点で異なっているだけである。
【0052】
ステップ72Aでは、ステップ66で算出されたベッド移動量、及びステップ69の再構成処理で作成された第1CT画像情報、及び第2CT画像情報が表示装置29に表示される。ステップ73では、この表示情報を見た医師または放射線技師の判定情報が入力される。図7に示す残りのステップでの処理は実施例1と同じである。本実施例は、設定角度数が少なく、撮影角度毎に取得するX線データ数が少ない場合、例えば10度刻み及び角度の範囲を30度等に制限した場合に適する。このようなX線の撮影方法は、デジタルトモシンセシスとして知られている(非特許文献5参照)。
【0053】
本実施例は、算出したベッドの移動量を用いて第1CT画像情報を修正することによって得られる効果を除き、実施例1で生じる他の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0054】
放射線治療システムである陽子線治療システム(粒子線治療システム)に適用したベッド位置決めシステムを説明する。まず、陽子線治療システムの概略構成を、図8及び図9を用いて説明する。
【0055】
陽子線治療システム80は、ビーム発生装置82、回転ガントリー95(図9参照)、ビーム照射装置(照射装置)87、ベッド88及びベッド位置決めシステム2を備える。陽子線治療システム80は、がん治療装置である。ビーム発生装置82は、イオン源(図示せず)、前段加速器81及びシンクロトロン83を有する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽イオンまたは炭素イオン)は前段加速器81で加速される。このイオンビーム(例えば陽子ビーム)は前段加速器81からシンクロトロン83に入射される。イオンビームはシンクロトロン83で加速され、設定エネルギーまでに高められた後、出射用デフレクタ84から出射される。
【0056】
シンクロトロン83から出射されたイオンビームは、ビーム輸送系85を経て、イオンビームを患者に照射する装置であるビーム照射装置87に達する。ビーム照射装置87、及びビーム輸送系85の一部である逆U字状のビーム輸送装置86は回転ガントリー95に設置され、回転ガントリー95と共に回転する。イオンビームはビーム輸送装置86を通ってビーム照射装置87からベッド88の天板89に横たわっている患者101の患部に照射される。
【0057】
回転ガントリー95は、図9に示すように、フロントリング97及びリアリング100を有する円筒状の回転胴(回転体)96を備える。回転胴96の一端部に設けられたフロントリング97は、回転可能な複数のサポートローラ98Aによって支持される。サポートローラ98Aは、建屋基礎に設置された支持装置99Aに取り付けられる。回転胴96の他端部に設けられたリアリング100も、支持装置99Bに取り付けられた複数のサポートローラ98Bによって支持される。これら複数のサポートローラ18Bのうちの1つの回転軸にはモータ108が連結されている。また、回転ガントリー95の回転角は、複数のサポートローラ98Aのうちの1つの回転軸に連結された角度検出計109によって測定される。回転胴96内には粒子線治療用照射室106が設けられる。
【0058】
ベッド88は、治療台90及び天板89を有する。さらに、ベッド88は、X軸方向駆動機構91、Y軸方向駆動機構93、Z軸方向駆動機構92及び回転駆動機構94を有する。X軸方向駆動機構91は建屋基礎に設置される。Z軸方向駆動機構92はX軸方向駆動機構91の上に、Y軸方向駆動機構93はZ軸方向駆動機構92の上に、それぞれ設置される。天板89は、Y軸方向駆動機構93に設置される回転駆動機構94の上に設置される。Y軸方向は回転ガントリー95の回転軸が伸びる方向と一致する。X軸方向は、水平方向でY軸方向と直交する方向である。Z軸方向は鉛直方向である。天板89は回転胴96内の粒子線治療用照射室106内に挿入される。
【0059】
ベッド位置決めシステム2のX線源(X線源装置)4は、ビーム照射装置87内に設置されており、ビーム照射装置87内のビーム経路と直交する方向に移動可能になっている。すなわち、X線源4は、ビーム経路の中心軸上の第1位置とビーム経路から離れた第2位置との間を移動する。ベッド位置決めシステム2のX線受像器5は、照射室106内に配置され、受像器移動装置104に取り付けられる。受像器移動装置104は、照射室106の隔壁107を貫通しており、一端が支持部材110に取り付けられるガイド部材105の一面に設置される。X線受像器5は、ビーム経路の延長線上に位置するとき、回転胴12の回転軸を挟んでX線源4と対向するように配置される。X線源4はビーム照射装置87の外面に設置することも可能である。X線源4は、照射装置106内に配置されるのであれば、ビーム照射装置87ではなく、回転胴96に設置してもよい。
【0060】
陽子線治療システム80におけるベッドの位置決め方法を、以下に説明する。本方法も、実施例1で行われる図5に示す処理手順が実行される。特に、実施例1と異なるステップ61,62について、説明する。ステップ61では、X軸方向駆動機構91、Y軸方向駆動機構93、Z軸方向駆動機構92及び回転駆動機構94を駆動することによって、天板89を治療室106内で所定位置まで移動させる。この移動は、照射室106内にいるオペレータ(例えば放射線技師)が、患者14のおおよその治療対象位置(イオンビームを照射する患部の位置)をペンダント(図示せず)の表示装置(図示せず)に表示された治療計画情報に基づいて知ることができる。オペレータは、その治療計画情報を基に、手に持っているペンダントの入力装置を用いてベッド制御装置30にベッド移動指令を入力する。ベッド制御装置62は、その移動指令に基づいて、上記の各駆動機構を制御する。これらの駆動により、患者101の患部がビーム照射装置87内のビーム経路の延長線上付近で回転ガントリー95の回転軸上の照射中心点49付近に位置される。なお、上記ペンダントは受像器移動装置104及びX線源4にも接続されている。
【0061】
ステップ61では、さらに、受像器5の移動も行われる。ペンダントからの制御指令に基づいて受像器移動装置104が駆動し、X線受像器5がビーム経路の延長線上に位置される。ペンダントからの制御指令はX線源4にも入力される。X線源4は第2位置から第1位置まで移動される。
【0062】
ステップ62では、ガントリー制御装置44は、ガントリー操作卓45から入力された回転指令に基づいてモータ108を駆動させる。回転ガントリー95は回転軸を中心に回転する。撮像制御装置6は、回転ガントリー95の回転状態で、回転ガントリー95の回転角度が予め設定された各撮影角度になったとき、X線源4からX線をパルス的に照射対象に照射させる。このX線は、患者101を透過し、X線受像器5で検出される。
【0063】
その後、ステップ63〜75の処理が順次行われる。ベッド制御装置30は、ステップ73で入力された判定情報が「Yes」であるときのベッド移動量に基づいて、上記の各移動機構を制御し、ベッド88の位置決めを行う。
【0064】
ベッド88の位置決めが終了した後、シンクロトロン83から出射されたイオンビームがビーム輸送系85を通ってビーム照射装置87に達する。ビーム照射装置87のビーム経路は、回転ガントリー95の回転によって患者101の患部に対して予め所定の角度を向くように設定されている。イオンビームは、ビーム照射装置87内のビーム経路を通って、天板89上の患者101の患部に照射される。
【0065】
本実施例は、実施例1で生じる効果を得ることができる。
【0066】
陽子線治療システム80のベッド位置決めシステム2において、図5に示す処理手順の替りに図7に示す処理手順を用いることが可能である。ただし、ステップ61,62の処理は、実施例3におけるそれらのステップと同じ処理内容とする。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1のベッド位置決めシステムが適用されるX線治療システムの構成図である。
【図2】図1に示す治療装置の正面図である。
【図3】図1に示すX線治療システムに含まれる各サブシステムの構成を示す説明図である。
【図4】図1に示す撮像操作卓、再構成処理装置及び移動量算出装置のそれぞれの詳細構成図である。
【図5】実施例1におけるベッド位置決めシステムで実行されるベッド位置決め方法の手順を示す説明図である。
【図6】実施例1における効果を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例2のベッド位置決めシステムで実行されるベッド位置決め方法の手順を示す説明図である。
【図8】本発明の好適な一実施例である実施例1のベッド位置決めシステムが適用される陽子線治療システムの構成図である。
【図9】図8に示す陽子線治療システムの回転ガントリー内の詳細構成図である。
【符号の説明】
【0068】
1…X線治療システム、2…ベッド位置決めシステム、3…X線撮像システム、4…X線源、5…X線受像器、6…撮像制御装置、7…撮像操作卓、10…撮像処理演算装置、14,29…表示装置、15…再構成処理装置、17…再構成演算装置、20…位置決め装置、22…移動量算出装置、25…移動量演算装置、30…ベッド制御装置、31…治療装置、32,95…回転ガントリー、35…照射ヘッド、36…X線発生装置、38,88…ベッド、39,89…天板、40,90…治療台、80…陽子線治療システム、82…ビーム発生装置、83…シンクロトロン、85…ビーム輸送系、87…ビーム照射装置、96…回転胴、97…フロントリング、100…リアリング、106…照射室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を放出するX線源装置と、前記X線を入射し、このX線に対応するX線情報を出力するX線入射装置と、入力した前記X線情報に基づいてX線画像情報を作成する第1画像情報作成装置と、前記第1画像情報作成装置での前記X線画像情報の作成と並行して前記X線情報を用いて第1断層画像情報を作成する第2画像情報作成装置と、前記X線画像情報及び前記第1断層画像情報が入力され、前記X線画像情報及び治療計画に用いる第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を求めるベッド移動量算出装置と、前記ベッド移動量に基づいて照射対象を支持するベッドの駆動装置を制御するベッド制御装置とを備えたことを特徴とするベッド位置決めシステム。
【請求項2】
前記X線情報を入力し、前記第2画像情報作成装置に前記第1断層画像情報の作成開始指令を出力する断層画像作成指令装置を備え、
前記第2画像情報作成装置は、前記作成開始指令を入力した後、前記第1断層画像情報の作成を行う請求項1に記載のベッド位置決めシステム。
【請求項3】
前記第1断層画像情報、前記第2断層画像情報及び前記ベッド移動量を表示する表示装置を備えた請求項1または請求項2に記載のベッド位置決めシステム。
【請求項4】
前記ベッド移動量算出装置が前記第1断層画像情報を前記ベッド移動量に基づいて修正する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のベッド位置決めシステム。
【請求項5】
ベッド移動量算出装置は、前記ベッド移動量が不適切であることを示す情報を入力したとき、前記第1断層画像情報及び前記第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を再度求め、
前記ベッド制御装置は、この再度求められた前記ベッド移動量に基づいて前記駆動装置を制御する請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のベッド位置決めシステム。
【請求項6】
照射対象を支持するベッドと、回転ガントリーと、前記回転ガントリーに設置されて放射線を放出する放射線発生装置と、前記回転ガントリーに設けられて前記放射線を前記照射対象に照射する照射装置と、X線を放出するX線源装置と、前記X線を入射し、このX線に対応するX線情報を出力するX線入射装置と、入力した前記X線情報に基づいてX線画像情報を作成する第1画像情報作成装置と、前記第1画像情報作成装置での前記X線画像情報の作成と並行して前記X線情報を用いて第1断層画像情報を作成する第2画像情報作成装置と、前記X線画像情報及び前記第1断層画像情報が入力され、前記X線画像情報及び治療計画に用いる第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を求めるベッド移動量算出装置と、前記ベッド移動量に基づいて照射対象を支持するベッドの駆動装置を制御するベッド制御装置とを備えたことを特徴とする放射線治療システム。
【請求項7】
前記X線源装置及び前記X線入射装置が、互いに対向して前記回転ガントリーに設けられている請求項6に記載の放射線治療システム。
【請求項8】
前記X線情報を入力し、前記第2画像情報作成装置に前記第1断層画像情報の作成開始指令を出力する断層画像作成指令装置を備え、
前記第2画像情報作成装置は、前記作成開始指令を入力した後、前記第1断層画像情報の作成を行う請求項6または請求項7に記載の放射線治療システム。
【請求項9】
前記第1断層画像情報、前記第2断層画像情報及び前記ベッド移動量を表示する表示装置を備えた請求項6ないし請求項8のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項10】
前記ベッド移動量算出装置が前記第1断層画像情報を前記ベッド移動量に基づいて修正する請求項6ないし請求項9のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項11】
ベッド移動量算出装置は、前記ベッド移動量が不適切であることを示す情報を入力したとき、前記第1断層画像情報及び前記第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を再度求め、
前記ベッド制御装置は、この再度求められた前記ベッド移動量に基づいて前記駆動装置を制御する請求項6ないし請求項10のいずれか1項に記載の放射線治療システム。
【請求項12】
イオンビームを発生するイオンビーム発生装置と、回転ガントリーと、前記回転ガントリーに設置されて前記イオンビームを照射対象に照射する照射装置と、前記照射対象を支持するベッドと、前記回転ガントリーに設けられ、X線を放出するX線源装置と、前記回転ガントリーに設けられ、前記X線を入射し、このX線に対応するX線情報を出力するX線入射装置と、入力した前記X線情報に基づいてX線画像情報を作成する第1画像情報作成装置と、前記第1画像情報作成装置での前記X線画像情報の作成と並行して前記X線情報を用いて第1断層画像情報を作成する第2画像情報作成装置と、前記X線画像情報及び前記第1断層画像情報が入力され、前記X線画像情報及び治療計画に用いる第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を求めるベッド移動量算出装置と、前記ベッド移動量に基づいて照射対象を支持するベッドの駆動装置を制御するベッド制御装置とを備えたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項13】
前記X線情報を入力し、前記第2画像情報作成装置に前記第1断層画像情報の作成開始指令を出力する断層画像作成指令装置を備え、
前記第2画像情報作成装置は、前記作成開始指令を入力した後、前記第1断層画像情報の作成を行う請求項12に記載の粒子線治療システム。
【請求項14】
前記第1断層画像情報、前記第2断層画像情報及び前記ベッド移動量を表示する表示装置を備えた請求項12または請求項13に記載の粒子治療システム。
【請求項15】
前記ベッド移動量算出装置が前記第1断層画像情報を前記ベッド移動量に基づいて修正する請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項16】
ベッド移動量算出装置は、前記ベッド移動量が不適切であることを示す情報を入力したとき、前記第1断層画像情報及び前記第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を再度求め、
前記ベッド制御装置は、この再度求められた前記ベッド移動量に基づいて前記駆動装置を制御する請求項12ないし請求項15のいずれか1項に記載の粒子線治療システム。
【請求項17】
X線を入射するX線入射装置から出力されたX線情報に基づいてX線画像情報を作成し、このX線画像情報の作成と並行して、前記X線情報に基づいて第1断層画像情報を作成し、前記X線画像情報及び治療計画に用いる第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を求めることを特徴とするベッド位置決め方法。
【請求項18】
前記第1断層画像情報、前記第2断層画像情報及び前記ベッド移動量を表示装置に表示する請求項17に記載のベッド位置決め方法。
【請求項19】
前記第1断層画像情報を前記ベッド移動量に基づいて修正する請求項17または請求項18に記載のベッド位置決め方法。
【請求項20】
前記ベッド移動量が不適切であるとき、前記第1断層画像情報及び前記第2断層画像情報に基づいてベッド移動量を求める請求項17ないし請求項19のいずれか1項に記載のベッド位置決め方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−119380(P2008−119380A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309236(P2006−309236)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】