説明

ベルクランクアーム構造

【課題】
ベルクランクの回転軸を支える車両側への取付ブラケットに発生する応力を低減して、ステアリングのリンク機構の剛性を高めて、操作性、耐久性の向上を図ったステアリング装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
車両のステアリングのリンク機構2中間部に配設されるベルクランク3機構において、上下方向に配置されたアームシャフト33と、一端がアームシャフト33の上端部に固着され、他端が下方へ変位して車両の前後方向に揺動するドラッグリンク4に枢着した入力側クランクアーム31と、一端がアームシャフト33の下端部に固着され、他端が上方へ変位して車両の左右方向に揺動するリレーロッド51に枢着した出力側クランクアーム32とを備え、上下方向において、入力側クランクアーム31と出力側クランクアーム32の夫々の他端間隔を前記アームシャフト33の長さより短くしたベルクランクアーム構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪にステアリングの操舵力を伝達するリンク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵機構は運転席に配置されたステアリングホイールの操舵をリンク機構によって車輪に伝達し、車両を運転者の操作によって任意の方向へ動かすようになっている。
ところが、車両装備の増加に伴う車両重量の増加、更には曲がり角が狭い場合には、車両が停止した状態でステアリングホイールを最大限に操作する所謂、据切り操作の場合があり、ステアリングホイールの操舵力を大きくする必要が生じてきた。ステアリングホイールの操舵力はパワーステアリングの補助力を大きくしてドライバーの負担を軽減することが可能である。
しかし、ステアリングのリンク機構には車輪を操舵する操舵力に対し、車輪と路面との摩擦抵抗による反力が作用してくる。その反力をリンク機構の剛性によって車輪の操舵を維持している。
【0003】
特に、リンク機構の中間部には、図4(A)に示すように、車両の前後方向の揺動を、左右方向の揺動に変換するベルクランク110(図1の符号3に相当)が配置されている。ベルクランク110にはステアリングホイール側からの操舵力を受入れる入力側クランクアーム111と、アームシャフト113を介して車輪側を操舵する出力側クランクアーム112にリレーロッド114が連結されている。リレーロッド114の両端部にタイロッドが連結され車輪を操舵するナックル、ナックルの先に車輪が配置されている。操舵される車輪側からの反力により、ベルクランク110に捩り力及び曲げ力が発生し、ベルクランク110のアームシャフト113及び、アームシャフト113を支えているアームブラケット115のY部に捻りによる負荷が作用して、応力的に高い値が発生することが判明した。
場所は車体にベルクランク110を取付けるアームブラケット115のZ矢視〔図4(A)〕方向のY部〔図4(B)部〕に高応力が発生している。
【0004】
これは、出力側クランクアーム112のリレーロッド114との連結部が下方へオフセットした形状となっている。
従って、車輪と路面との摩擦抵抗による反力がアームシャフト113下端より下方にあるため、アームシャフト113にアームシャフト113の軸方向に対する曲げ力が作用し易い配置となっている。
同様技術の先行技術文献として、特開平5―345511号公報(特許文献1)が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5―345511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、特許文献1ではベルクランクの回転軸の上端部に配置された、ベルクランクへの入力側である入力側クランクアームのアクチュエータとの連結部が上方にオフセットされている。ベルクランクの回転軸の下端部には車輪に操舵力を伝達するタイロッドに連結した出力側である出力側クランクアームが配置されている。
従って、入力部と出力部との上下方向高さが、回転軸の上下方向高さより、高い位置にある。この構造によると、ベルクランクの回転軸に作用する曲げ力はアクチュエータから回転軸の軸端部に直接入力される力より大きくなる。
従って、回転軸を支える上下に配置された軸受部、該軸受部を支える車両側への取付ブラケットに大きな応力が発生する不具合を有している。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、ベルクランクの回転軸を長くして、該回転軸の上下端部夫々に取付けるクランクアームの入力側連結部とクランクアームの出力側連結部間の上下方向距離を回転軸の上下端部距離より小さくすることにより、ベルクランクの回転軸を回動自在に支持する軸受部、該軸受部を支える車両側への取付ブラケットに発生する応力を低減して、ステアリングのリンク機構の剛性を高めることにより、操作性、耐久性の向上を図ったステアリング装置のベルクランクアーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、車両の車輪にステアリングの操舵力を伝達するリンク機構の中間部に配設され、前記車両の前後方向揺動を左右方向の揺動に変換するベルクランクアーム構造において、前記車両の上下方向に配置されたアームシャフトと、該アームシャフトを垂直軸線廻りに回動可能に軸支し且つ、シャシフレームに固着されたアームブラケットと、一端が前記アームシャフトの上端部に固着され、他端が下方へ変位すると共に、該変位した位置に前記車両の前後方向に揺動するドラッグリンクに枢着した第1クランクアームと、一端が前記アームシャフトの下端部に固着され、他端が上方へ変位すると共に、該変位した位置に前記車両の左右方向に揺動するリレーロッドに枢着した第2クランクアームとを備え、上下方向において、前記第1クランクアームと前記第2クランクアームとの夫々の他端間を前記アームシャフトの長さより短くしたことを特徴とする。
【0009】
このような構成により、アームシャフトに固着されている、第1クランクアームと第2クランクアームの取付位置に対し、ドラッグリンク側からの第1クランクアームへ入力される操舵力の位置及び、リレーロッド側から第2クランクアームへ入力される車輪操舵に伴う反力の作用の位置が、アームシャフト上下方向の中間部に寄っているため、アームシャフト及び、アームシャフトを軸支している軸受部及び、アームブラケットに発生する曲げ応力を小さくすることができる
【0010】
また、本願発明において好ましくは、前記第1クランクアームの下方、及び第2クランクアームの上下方向へ変位する傾斜部には少なくとも何れかのクランクアームで、且つ、該クランクアームの上面又は下面の少なくとも何れかの面には傾斜に沿って重量軽減用の肉抜き凹部が形成され、前記凹部の前記傾斜した下側の面を略水平に形成して、雨水が溜まらないように形成するとよい。
【0011】
このような構成により、重量軽減を図ると共に、肉抜き溝による、材料の使用量を軽減でき、コスト低減にもなる。
また、溝に泥、又は雨水等が溜まらないようにして、第1クランクアーム及び、第2クランクアームの防錆効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
アームシャフトに固着されている、第1クランクアームと第2クランクアームの取付位置に対し、ドラッグリンク側からの第1クランクアームへ入力される操舵力の位置及び、リレーロッド側から第2クランクアームへ入力される反作用の位置が、アームシャフト上下方向の中間部に寄っているため、ベルクランクの回転軸を回動自在に支持する軸受部、該軸受部を支える車両側への取付ブラケットに発生する応力を低減して、ステアリングのリンク機構の剛性を高めることにより、操作性、耐久性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両のステアリング機構概略を示す平面図を示す。
【図2】本発明の実施形態に係るベルクランクで、(A)はベルクランク全体の斜視図、(B)は入力側クランクアームの側面図を示す。
【図3】本発明の実施形態に係るアームシャフトとアームブラケットとの組付け状態図を示す。
【図4】従来実施例に係るベルクランクで、(A)はベルクランク全体の斜視図、(B)はアームブラケット単品の(A)のZ矢視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。
但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
(第1実施形態)
図1は車両1の前部を示し、前輪10を操舵するステアリングのリンク機構2が配置されている。車両1の前部には車両1のシャシフレーム(図示省略)の一部であるボーンフレーム11が車両1の車幅方向中心部に車両前後方向に配置されている。
またボーンフレーム11は上下方向にも延在して、閉断面状のボックス型に形成され、両側面に独立懸架式サスペンションのアーム7が上下方向に回動可能に軸着されている。
アーム7の車幅方向外側にはナックル8が固定され、ナックル8から車幅方向外側へ突出したナックルスピンドル(図示省略)にハブベアリングを介して前輪10が装着されている。
アーム7と略同形状のアームがボーンフレーム11の下側にも配置され、上下方向に配置されたナックル8を上下方向に平行移動できるようになっている。
【0016】
図示されない、ステアリングホイールの操舵をステアリングギヤボックス(図示省略)に装着されたピットマンアーム(図示省略)に連結したドラッグリンク4に伝達される。ステアリングギヤボックス内にはステアリングホイールの操作力を軽減させるパワーステアリングが内蔵されている。
ピットマンアームはステアリングホイールの回転操作を前記ステアリングギヤボックスの回動を車両前後方向の揺動に切替える部材である。
【0017】
図2(A)に示すように、ベルクランク3は軸心が車両1の上下方向に配設され且つ、軸心を中心にして回動するアームシャフト33と、アームシャフト33がベアリング34を介して軸支されシャシフレーム(図示省略)に取付けられるアームブラケットと、一端がアームシャフト33の上端部に固着され、他端がアームシャフト33のラジアル方向へ延出し、車両前後方向に揺動すると共に、下方へオフセットし、ドラッグリンク4と枢着した第1クランクアームである入力側クランクアーム31と、一方がアームシャフト33の下端部に固着され、他方がアームシャフト33のラジアル方向へ延出し、 入力側クランクアーム31と円周方向の位相を90°ずれて、車幅方向に揺動すると共に、上方へオフセットして、リレーロッド51と枢着した第2クランクアームである出力側クランクアーム32とで構成されている。
出力側クランクアーム32と枢着しているリレーロッド51の車幅方向両端部には、タイロッド5の一端が枢着され、タイロッド5の他端がナックル8に連結したナックルアーム6と枢着している。
また、図2(B)に示すように、入力側クランクアーム31の上面傾斜部には重量軽減用の溝37が設けてある。溝37は傾斜部の下面側が略水平になっており、雨水及び泥等が溜まらないようにして防錆効果を得るようにしてある。
尚、肉抜き溝37は入力側クランクアーム31の上面に限らず、下面でも良いし、出力側クランクアーム32にも同様に設けることは必要に応じて実施可能。
【0018】
ステアリングのリンク機構2の動作を説明する。
図1において、ステアリングを右に操作すると、ドラグリンク4は上方(車両後方)へ移動する。ベルクランク3はアームシャフト33を中心にして、時計廻りに回転し、リレーロッド51が左(図1では右側)に移動する。リレーロッド51が左に移動すると、タイロッド5が左側に移動して、キングピン61を中心にしナックルアーム6が時計方向に回動する。ナックルアーム6が回動するとナックルアーム6と一体的に形成されているナックルスピンドルに取付けられた前輪10が右側(図1では左側)に回動する。ステアリングを左に操作すると、上述の逆の動作をする。
【0019】
上述の動作において、車両1が走行中であると、前輪10は回転しながら回動するので、前輪10からの反力(抵抗)が少ない。ところが、据切り(車両が停止状態でのハンドル操作)の場合は、路面と前輪のゴムタイヤとの摩擦抵抗が大きく、その反力がナックルアーム6、タイロッド5及びリレーロッド51を介して入力側クランクアーム31に作用する。一方、ドラグリンク4側からはハンドル操作力が入力してくる。ベルクランク3には車幅方向の作用力と、車両前後方向の作用力とが作用して、アームシャフト33には垂直方向の軸心に対し倒れる方向の作用力(曲げ力)が作用する。
しかし、入力側クランクアーム31のドラグリンク4との結合部と、出力側クランクアーム32のリレーロッド51との結合部との上下方向の距離を、アームシャフト33の上下端部に取付けた入力側クランクアーム31の一端と、出力側クランクアーム32の一方との距離より小さくしたので、アームシャフト33の上下端部に作用する曲げ方向のモーメント力がレバー比的に小さくなり、アームブラケット35に発生する応力を低減することができる。
【0020】
(第2実施形態)
基本構造は第1実施形態と同じなので異なる部分だけを説明する。
図2において、ベルクランク9の出力側クランクアーム32の代わりに、従来の出力側クランクアーム112の素材を上下逆さまにした状態の出力側クランクアーム92を作成し、アームシャフト91を下方に延長させ、リレーロッド51との上下方向の結合位置を、従来のリレーロッド51の位置と同じにした。
その結果、図3に示すように、ベアリング34のアームシャフト91軸線方向の装着ピッチLを出力側クランクアーム92の一方側と他方側とのオフセット量の2倍長くすることが可能となった。
【0021】
これにより、出力側クランクアーム92のリレーロッド51との結合位置はアームシャフト91の下端部より上側になり、且つアームシャフト91の上下方向も長くなるので、アームシャフト33の上下端部に作用する曲げ力がレバー比的に小さくなり、アームブラケット93に発生する応力を低減することができる。
また、リレーロッド51との上下方向の結合位置を従来と同じ位置にしたので、ベルクランク9を変更するだけで、ベルクランク9以外の従来のリンク機構を使用でき、コスト的上昇分を最小限に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
リンク機構にベルクランクを介装したステアリング機構の剛性を高めることにより、操作性、耐久性の向上を図ったステアリング装置。
【符号の説明】
【0023】
1 車両
2 リンク機構
3、9 ベルクランク
4 ドラグリンク
5 タイロッド
6 ナックルアーム
31 入力側クランクアーム
32、92 出力側クランクアーム
33、91 アームシャフト
51 リレーロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪にステアリングの操舵力を伝達するリンク機構の中間部に配設され、前記車両の前後方向揺動を左右方向の揺動に変換するベルクランクアーム構造において、前記車両の上下方向に配置されたアームシャフトと、該アームシャフトを垂直軸線廻りに回動可能に軸支し且つ、シャシフレームに固着されたアームブラケットと、一端が前記アームシャフトの上端部に固着され、他端が下方へ変位すると共に、該変位した位置に前記車両の前後方向に揺動するドラッグリンクに枢着した第1クランクアームと、一端が前記アームシャフトの下端部に固着され、他端が上方へ変位すると共に、該変位した位置に前記車両の左右方向に揺動するリレーロッドに枢着した第2クランクアームとを備え、上下方向において、前記第1クランクアームと前記第2クランクアームとの夫々の他端間を前記アームシャフトの長さより短くしたことを特徴とするベルクランクアーム構造。
【請求項2】
前記第1クランクアームの下方、及び第2クランクアームの上下方向へ変位する傾斜部には少なくとも何れかのクランクアームで、且つ、該クランクアームの上面又は下面の少なくとも何れかの面には傾斜に沿って重量軽減用の肉抜き凹部が形成され、前記凹部の前記傾斜した下側の面を略水平に形成して、雨水が溜まらないように形成したことを特徴とする請求項1又は2記載のベルクランクアーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131801(P2011−131801A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294417(P2009−294417)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】