説明

ベルト伝動装置

【課題】駆動源11に駆動連結された駆動プーリ1と、所定以上の負荷が加わったときにトルク伝達を停止するように設けられた継ぎ手32を介して作動機12が連結された従動プーリ2との間に伝動ベルト20を巻き掛け、該伝動ベルト20を介して駆動プーリ1および従動プーリ2間におけるトルク伝達を行うようにしたベルト伝動装置において、従動プーリ2に対する摩擦係数やベルト張力を不必要に高くしなくても、作動機12が故障したときの継ぎ手32のトルク伝達停止作動を確実化できるようにする。
【解決手段】伝動ベルト20および従動プーリ2間に継ぎ手32の所定値以上の負荷に見合うスリップが生じたときに、該伝動ベルト20および従動プーリ2間の摩擦係数が上記スリップの生じていないときよりも高くなるように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1本の伝動ベルトによりトルクを複数の作動機に伝達する際に、故障した作動機へのトルク伝達を停止することで他の作動機に対するトルク伝達を維持するようにしたベルト伝動装置に関し、特に故障した作動機に対するトルク伝達の停止を確実化する対策に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用エンジンにおけるサーペンタインタイプのベルト式補機駆動装置では、エンジンのクランクプーリと複数の補機の各従動プーリとの間に、1本の伝動ベルトを巻き掛けることで、複数の補機にトルクを伝達して駆動するようになされる。
【0003】
その際に、1つの補機が故障して作動しなくなったときには、その従動プーリの回転にブレーキが掛かることになる。ところが、伝動ベルトはこの従動プーリに対する摩擦接触を止めないことから、伝動ベルトの走行に支障が生じて他の補機に対する適正なトルク伝達ができなくなったり、伝動ベルトが破断するという事態を招く虞がある。
【0004】
これに対し、特許文献1には、補機としての可変容量型圧縮機の入力軸と、この入力軸に同軸状に配置された従動プーリとの間のトルク伝達経路に、従動プーリに回転一体に連結された入力部材と、入力軸に回転一体に連結された出力部材とを互いに摩擦係合させるようにしたトルクリミッタを介設することが記載されている。このものでは、圧縮機がロックして負荷がトルク限界値に達したときに、トルクリミッタが作動して入出力部材間の摩擦係合を解除し、従動プーリから入力軸へのトルク伝達を停止するようになっている。
【特許文献1】特開2000−356226号公報(第3頁,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のベルト伝動装置では、トルクリミッタを確実に作動させる上で、従動プーリに対する伝動ベルトの伝動能力がトルクリミッタのトルク限界値を上回っていることが必要である。
【0006】
尚、トルクリミッタのトルク限界値は、理論上、作動機を駆動するのに必要なトルクよりも少し大きい値に設定すればよいが、その必要トルクの劣化などに起因するばらつきや、エンジンの加減速時における従動プーリの慣性トルクの影響などによってトルクリミッタが誤作動することを考慮すると、作動機の駆動必要トルクの1.5倍以上に設定する必要がある。
【0007】
そして、伝動ベルトの伝動能力は、従動プーリとの間の摩擦係数と、ベルト張力とに依存しており、よって、両者間の摩擦係数を高くしたり、ベルト張力を高めることで、伝動能力を向上させることができる。
【0008】
しかしながら、摩擦係数を高くすると異音が発生するという別の問題が発生し、一方、ベルト張力を高くするとプーリの軸受の寿命が低下するのみならず、伝達ロスが増大するという問題を招くことになる。
【0009】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、1本の伝動ベルトで駆動源のトルクを複数の作動機の従動プーリに伝達する際に、過負荷の加わった継ぎ手が作動して従動プーリから作動機へのトルク伝達を停止するようにしたベルト伝動装置において、伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数や、伝動ベルトのベルト張力を不必要に高くしなくても、故障した作動機の継ぎ手のトルク伝達停止作動を確実化できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成すべく、本発明では、作動機が故障したときに、その作動機の従動プーリと伝動ベルトとの間に大きなスリップが生じることに着目し、その大きなスリップにより伝動ベルト表面のゴムを従動プーリの表面に移着させることで、伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数を高くし、これにより、従動プーリおよび作動機間における継ぎ手のトルク伝達停止作動を確実化するようにした。
【0011】
具体的には、本発明では、トルクを発生する駆動源と、この駆動源に駆動連結されていて、該駆動源のトルクを出力するための駆動プーリと、トルクが入力されることにより所定の作動を行う少なくとも1つの作動機と、この作動機に連結されていて、該作動機にトルクを入力するための従動プーリと、上記駆動プーリおよび従動プーリ間に巻き掛けられていて、該駆動プーリおよび従動プーリにそれぞれ摩擦接触して該駆動プーリのトルクを従動プーリに伝達する伝動ベルトと、上記従動プーリと作動機との間に該従動プーリのトルクを作動機に伝達するように介設されていて、所定値以上の負荷が加わったときに上記トルク伝達を停止する継ぎ手とを備えたベルト伝動装置を前提としている。
【0012】
そして、上記伝動ベルトと上記従動プーリとの間に上記継ぎ手の所定値以上の負荷に見合うスリップが生じたときに、該伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数が上記スリップの生じていないときよりも高くなるように構成されているものとする。
【0013】
上記の構成において、摩擦係数を高くする手段としては、従動プーリに対するプーリ接触面を形成するベルト材料の一部を、該従動プーリとの間に生じるスリップを利用して上記プーリに移着するように設けることが挙げられる。また、スリップ前後での摩擦係数の具体的な数値例としては、継ぎ手に加わる負荷が所定値未満であるときの従動プーリとの間の摩擦係数を1.4以下にする一方、継ぎ手に加わる負荷が所定値以上であるときの摩擦係数を1.8以上にすることが挙げられる。
【0014】
また、上記のベルト材料がゴム材料である場合には、そのゴム材料の主要ゴム種を、EPDM〔エチレンプロピレンゴム〕や、CSM〔クロロスルホン化ポリエチレンゴム〕(特にACSM〔アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム〕)などとすることができる。その場合に、ゴム材料として、10〜20vol%のカーボンを含有するものや、6vol%の脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維)を含有するものとすることが好ましい。
【0015】
さらに、上記構成のベルト伝動装置は、駆動源としての自動車用エンジンと、作動機としてのエンジン補機とを備えた自動車用エンジンのベルト式補機駆動装置として用いることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、伝動ベルトを介して駆動源の駆動プーリのトルクを作動機の従動プーリに伝達し、過負荷時にトルク伝達を停止する継ぎ手を介して上記従動プーリのトルクを作動機に伝達するようにしたベルト伝動装置において、継ぎ手の過負荷に見合うだけのスリップが伝動ベルトおよび従動プーリ間に生じたときに、該伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数が高くなるので、伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数やベルト張力を不必要に高くしておかなくても、継ぎ手のトルク伝達停止作動を確実化することができ、よって、1つの作動機が故障した際に、伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数が高過ぎることに起因する異音の発生や、ベルト張力が高過ぎることに起因する伝達ロスの増大を招くことなく、他の作動機に対するトルク伝達を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車用エンジンのベルト式補機駆動装置の全体構成を模式的に示しており、この補機駆動装置は、駆動プーリとしてのクランクプーリ1と、エアコンの圧縮機用プーリ2,ウォータポンプ用プーリ3,オルタネータ用プーリ4との間に、伝動ベルトとしての1本のVリブドベルト20を蛇行状に巻き掛けるようにしたサーペンタインレイアウトと称されるものである。
【0018】
具体的には、上記クランクプーリ1は、自動車エンジン11のクランク軸11aに回転一体に連結されている。圧縮機用プーリ2は、圧縮機12の入力軸12aに同軸状に取り付けられている。ウォータポンプ用プーリ3は、ウォータポンプ13の入力軸13aに回転一体に連結されている。オルタネータ用プーリ4は、オルタネータ14の入力軸14aに回転一体に連結されている。クランクプーリ1,圧縮機用プーリ2,オルタネータ用プーリ4は、それぞれ、リムの外周面側に周方向に延びる複数条のV溝が軸方向に所定のピッチでもって並ぶように形成されてなるVリブドプーリであり、ウォータポンプ用プーリ3はリムの外周面が平坦な平プーリである。そして、Vリブドベルト20は、クランクプーリ1,圧縮機用プーリ2,オルタネータ用プーリ4にはベルト内面を、また、ウォータポンプ用プーリ3にはベルト背面をそれぞれ接触させるように掛け渡されている。
【0019】
上記圧縮機用プーリ2と上記圧縮機12の入力軸12aとの間には、ベアリング31が介装されており、これにより、圧縮機用プーリ2と入力軸12aとは、同一軸心回りに相対回転可能となっている。その上で、圧縮機用プーリ2と入力軸12aとは、予め設定されたトルク限界値が加わったときに自ら切断する継ぎ手32により回転一体に連結されている。これにより、Vリブドベルト20との摩擦接触により圧縮機用プーリ2に入力されたトルクは、継ぎ手32を経由して入力軸12aに伝達され、このことで、圧縮機12が駆動される一方、圧縮機12が故障して入力軸12aが回転不能になった場合などのように、継ぎ手32に加わるトルクが増大してトルク限界値に達したとき、継ぎ手32が自ら切断することで、圧縮機用プーリ2と入力軸12aとの間の連結を解除して両者間におけるトルク伝達を停止するようになっている。
【0020】
図2に拡大して示すように、上記のVリブドベルト20は、断面矩形状の接着ゴム層21を有しており、その接着ゴム層21には、ベルト幅方向に所定の巻きピッチでもって並ぶようにスパイラル状に配置されたPETからなる心線22が埋設されている。上記接着ゴム層21のベルト背面(同図の上面)には、上帆布層23が積層されている。一方、接着ゴム層21のベルト内面(同図の下面)には、リブゴム層24が積層されており、このリブゴム層24のベルト内面側には、各々、ベルト長さ方向に延びる複数条(図示する例では、3条)のリブ25,25,…がベルト幅方向に所定のピッチでもって並ぶように形成されている。このリブゴム層24の表面は、クランクプーリ1,圧縮機用プーリ2,オルタネータ用プーリ4にそれぞれ摩擦接触する接触面となっている。
【0021】
そして、本実施形態では、上記のVリブドベルト20と圧縮機用プーリ2との間に上記継ぎ手32の所定以上の負荷に見合う所定以上のスリップが生じたときに、該Vリブドベルト20における圧縮機用プーリ2への接触面を形成するベルト材料の一部が、上記スリップに伴って圧縮機用プーリ2に移着し、このことで、Vリブドベルト20および圧縮機用プーリ2間の摩擦係数μ′が上記スリップの生じていないときよりも高くなるようになっている。
【0022】
具体的には、継ぎ手32に加わる負荷がトルク限界値未満であって圧縮機用プーリ2との間に生じるスリップが所定未満であるときの該圧縮機用プーリ2との間の摩擦係数μ′が1.4以下(μ′≦1.4)である一方、継ぎ手32に加わる負荷がトルク限界値を超えていて圧縮機用プーリ2との間に生じるスリップが所定以上であるときの該圧縮機用プーリ2との間の摩擦係数μ′が1.8以上(μ′≧1.8)になるように設けられている。詳しく説明すると、Vリブドベルト20の全体のうち、少なくともリブゴム層23のベルト材料としてのゴム材料の主要ゴム種は、EPDMとされている。また、このゴム材料は、10〜20vol%のカーボンと、6vol%の脂肪族ポリアミド繊維とを含有している。
【0023】
−テスト−
ここで、組成の異なるベルト材料を用いて作製した例1〜例7の7種類のVリブドベルトについて、圧縮機の入力軸の回転をロックさせたときの継ぎ手の切断状況を調べるために行ったテストについて説明する。Vリブドベルトの寸法形状は、リブ数を6,ベルトピッチ周長さを1200mmとした。
【0024】
例1〜例7の各ベルト材料については、EPDMとして「EPT 3070」を、カーボンとして「CB FEF」をそれぞれ用いた。また、その他には、「サンパー2280(商品名)」〔日本サン石油(株)社製〕,「ステアリン酸」,「酸化亜鉛」,「ハイクロス M(商品名)」〔精工化学(株)社製〕,「パークミルD(商品名)」〔日本油脂(株)社製〕,「セイミ−OT(商品名)」〔日本乾溜工業(株)社製〕,「EM−2(商品名)」〔三新化学工業(株)社製〕,「MSA(商品名)」〔大内新興化学工業(株)社製〕と、それらに加え、ナイロン繊維(脂肪族ポリアミド繊維),綿,高分子量ポリエチレンである「ハイゼックスミリオン(商品名)」〔三井化学株式会社製〕を用いた。各Vリブドベルトのベルト材料の組成は、次表に示すとおりである。
【0025】
【表1】

テストの要領は、図3に模式的に示すように、駆動軸100に駆動連結された駆動プーリ110と、第1負荷軸200に継ぎ手210を介して回転一体に連結された第1従動プーリ220と、第2負荷軸300に回転一体に連結された第2従動プーリ310との間にVリブドベルト400を巻き掛け、駆動プーリ110と第2従動プーリ310との間のベルトスパンをテンションプーリ500により210Nの押圧力でもって押圧しつつ、駆動プーリ110を3000rpmの回転速度で回転駆動し、この状態で、第1負荷軸200の回転を5秒間に亘ってロックしたときに、継ぎ手210が切断されたか否かを調べるようにした。但し、継ぎ手210としては、トルク限界値が100N・mであるものを用いた。また、第1従動プーリ220は、材質および寸法形状の同じものを7種類のVリブドベルト400に合わせて7つ用意し、各第1従動プーリ220は、対応するVリブドベルト400の専用とし、この第1従動プーリ220に対するVリブドベルト400の接触角度θは、θ=120°とした。尚、駆動プーリ110のプーリ径φはφ=135mm,第1従動プーリ220のプーリ径φはφ=110mm,第2従動プーリ310のプーリ径φはφ=55mmとした。
【0026】
さらに、上記テストの前後において、それぞれ、Vリブドベルト400と第1従動プーリ220との各組毎に両者間の摩擦係数μ′を測定した。その測定要領は、図4に模式的に示すように、各Vリブドベルト400を300mmの長さにカットして有端のサンプル410を作製し、このサンプル410を第1従動プーリ220(プーリ径:60mm)に掛け渡し、その一端にウエイト600(17N)を連結する一方、他端側を水平方向に延ばしてロードセル230に連結することで、第1従動プーリ220に対する接触角度を直角(π/2)とし、この状態で、第1従動プーリ220を同図の反時計回り方向に43rpmの回転速度でもって回転駆動し、ロードセル230に加わる引張力Ttを測定した。
【0027】
その後、次式を用いて各サンプル410の第1従動プーリ220との間の摩擦係数μ′を、上記テストの前後についてそれぞれ算出した。尚、次式中の「ln」は、eを底とする自然対数を表している。
【0028】
μ′=(2/π)×ln(Tt/17)
以上の結果を、次表2に併せて示す。
【0029】
【表2】

先ず、継ぎ手210の切断の有無の結果からすると、例1〜例3の3種類の各Vリブドベルト400の場合には、継ぎ手210にその限界値を超えるトルクが加わったにも拘わらず切断しなかった。また、各第1従動プーリ220を目視により調べたところ、例1〜例3の場合の全ての第1従動プーリ220において、ゴムの移着は認められなかった。
【0030】
一方、例4〜例7の4種類の各Vリブドベルト400の場合には、全て、継ぎ手210が切断していた。また、各第1従動プーリ220を目視により調べたところ、例4〜例7の場合の全ての第1従動プーリ220において、ゴムの移着が認められた。
【0031】
次に、テスト前後の摩擦係数μ′について考察する。先ず、テスト前の摩擦係数μ′では、例1〜例3の各Vリブドベルト400の場合には、0.86〜0.96の範囲である一方、例4〜例7の各Vリブドベルト400の場合には、0.83〜0.96の範囲であることから、殆ど同じである。したがって、例1〜例3のVリブドベルト400の場合には元々の摩擦係数μ′が低かったから継ぎ手210が切断しなかったと判断することはできないし、例4〜例7のVリブドベル400の場合には元々の摩擦係数μ′が高かったから継ぎ手210が切断したと判断することもできない。
【0032】
次に、テスト後の摩擦係数μ′では、例1〜例3の場合には、0.92〜1.02の範囲であるのに対し、例4〜例7の場合には、1.66〜1.88の範囲であった。テスト前後の変化率でみると、例1〜例3では、最も変化率の大きい例2の場合でも、約1.105倍(≒0.95/0.86)であるのに対し、例4〜例7では、最も変化率の小さい例5の場合では、約1.729倍(≒1.66/0.96)であり、最も変化率の大きい例4の場合には、約2.145倍(≒1.78/0.83)であった。
【0033】
以上のことから、例1〜例3のVリブドベルト400の場合には、継ぎ手210に限界値を超えるトルクが加わって第1従動プーリ220との間にスリップが生じたときに、Vリブドベルト400のゴムが第1従動プーリ220に移着せず、したがって、第1従動プーリ220との間の摩擦係数μ′が殆ど変化せず、その結果、第1負荷軸200のロックは、第1従動プーリ220に対するVリブドベルト400のスリップを招くのみであり、そのために、継ぎ手210に加わるトルクが限界値を下回るようになり、よって、継ぎ手210が切断しなかったものと考えられる。
【0034】
これに対し、例4〜例7の場合には、継ぎ手210に限界値を超えるトルクが加わって第1従動プーリ220との間にスリップが生じたときに、Vリブドベルト400のゴム材料の一部が第1従動プーリ220に移着し、その移着したゴム材料により、Vリブドベルト400と第1従動プーリ220との間の摩擦係数μ′が大きく増加し、その結果、一旦は大きなスリップが生じたものの、その後は、スリップが抑えられて第1従動プーリ220に対するトルクの入力が維持されたので、継ぎ手210が切断したものと考えられる。
【0035】
ここで、例1〜例3の各Vリブドベルト400のゴム材料と、例4〜例7の各Vリブドベルト400のゴム材料とを対比すると、カーボン量に違いがある。つまり、例1〜例3の場合には、カーボン量が20%を超えているのに対し、例4〜例7の場合には、カーボン量は20%以下(最大の例4の場合でも、18.32%)であり、このことで、耐摩耗性が必要な程度に低くなったものと考えられる。
【0036】
さらに、ゴムをプーリに移着させるという点では、耐摩耗性が低いだけでは不十分である。つまり、摩耗したゴムが硬化しにくいものである必要がある。この点では、母材のゴムが、耐熱性の高いEPDMであるので、条件は満たされていると考えることができる。
【0037】
一方、耐摩耗性が低いと、他の問題を招くことになるが、例4から例7の場合には、最低限(10%以上)のカーボン量が確保されていることに加え、脂肪族ポリアミドに代表される熱可塑性の樹脂ないし繊維が混入されていることで、適正に対応できるものと考えられる。
【0038】
したがって、本実施形態によれば、Vリブドベルト20を介して自動車用エンジンのクランクプーリ1のトルクを、圧縮機用プーリ2,ウォータポンプ用プーリ3,オルタネータ用プーリ4にそれぞれ伝達し、過負荷時に該過負荷により自ら切断してトルク伝達を停止する継ぎ手32を介して圧縮機用プーリ2のトルクをエアコン用圧縮機の入力軸12に伝達するようにしたベルト式補機駆動装置において、継ぎ手32の過負荷に見合うだけのスリップがVリブドベルト20および圧縮機用プーリ2間に生じたときに、該両者間の摩擦係数μ′が高くなるので、元々の摩擦係数μ′やベルト張力を予め不必要に高くしておかなくても継ぎ手32の切断を確実化することができる。この結果、上記摩擦係数μ′が高過ぎることに起因する異音の発生や、ベルト張力が高過ぎることに起因する伝達ロスの増大を抑えつつ、圧縮機の故障に対し、ウォータポンプ用プーリ3およびオルタネータ用プーリ4に対するトルク伝達を維持することができる。
【0039】
尚、上記の実施形態では、継ぎ手32をエアコン用圧縮機に付設するようにしているが、ベルト伝動により駆動される他の一部ないし全部のエンジン補機に付設するようにしてもよい。
【0040】
また、上記の実施形態では、Vリブドベルト20を伝動ベルトとして用いる場合について説明しているが、他の摩擦伝動ベルトを用いるようにすることもできる。
【0041】
また、上記の実施形態では、ベルト式エンジン補機駆動装置の場合について説明しているが、本発明は、その他のべルト伝動装置に適用することができるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車用エンジンのベルト式補機駆動装置の全体構成を模式的に示す正面図である。
【図2】ベルト式補機駆動装置のVリブドベルトをベルト幅方向に切断してその全体構成を模式的に示す拡大斜視図である。
【図3】テストの要領を模式的に示す正面図である。
【図4】ベルトプーリ間の摩擦係数を調べるために行った測定要領を模式的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 クランクプーリ(駆動プーリ)
2 圧縮機用プーリ(従動プーリ)
11 自動車用エンジン
12 (エアコンの)圧縮機(エンジン補機)
12a 入力軸
20 Vリブドベルト(伝動ベルト)
32 継ぎ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクを発生する駆動源と、上記駆動源に駆動連結され、該駆動源のトルクを出力するための駆動プーリと、トルクが入力されることにより所定の作動を行う少なくとも1つの作動機と、上記作動機に連結され、該作動機にトルクを入力するための従動プーリと、上記駆動プーリおよび従動プーリ間に巻き掛けられ、該駆動プーリおよび従動プーリにそれぞれ摩擦接触して該駆動プーリのトルクを従動プーリに伝達する伝動ベルトと、上記従動プーリと上記作動機との間に該従動プーリのトルクを作動機に伝達するように介設され、所定値以上の負荷が加わったときに上記トルク伝達を停止する継ぎ手とを備えたベルト伝動装置であって、
上記伝動ベルトと上記従動プーリとの間に上記継ぎ手の所定値以上の負荷に見合うスリップが生じたときに、該伝動ベルトおよび従動プーリ間の摩擦係数が上記スリップの生じていないときよりも高くなるように構成されていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベルト伝動装置において、
伝動ベルトにおける従動プーリへの接触面を形成するベルト材料の一部が、該従動プーリとの間に生じたスリップにより上記プーリに移着するように設けられていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項3】
請求項2に記載のベルト伝動装置において、
継ぎ手に加わる負荷が所定値未満であるときの伝動ベルトと従動プーリとの間の摩擦係数が1.4以下である一方、上記継ぎ手に加わる負荷が所定値以上であるときの上記摩擦係数が1.8以上であることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項4】
請求項2に記載のベルト伝動装置において、
伝動ベルトのベルト材料は、ゴム材料であり、
上記ゴム材料の主要ゴム種は、EPDMとされていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項5】
請求項2に記載のベルト伝動装置において、
伝動ベルトのベルト材料は、ゴム材料であり、
上記ゴム材料の主要ゴム種は、ACSMとされていることを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項6】
請求項4又は5の何れか1項に記載のベルト伝動装置において、
伝動ベルトのゴム材料は、10〜20vol%のカーボンを含有することを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項7】
請求項4又は5の何れか1項に記載のベルト伝動装置において、
伝動ベルトのゴム材料は、6vol%以上の脂肪族ポリアミド繊維を含有することを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項8】
請求項1,2,3,4,5,6,7のうちの何れか1項に記載のベルト伝動装置において、
駆動源は、自動車用エンジンであり、
作動機は、エンジン補機であることを特徴とするベルト伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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