説明

ベルト張力調整装置及びその取付方法

【課題】ベルト伝動機構に容易に取り付けることができるベルト張力調整装置を提供する。
【解決手段】ベルト張力調整装置1は、駆動プーリ102と従動プーリ104とわたってベルト105が懸架されたベルト伝動機構100に用いられ、ベルト105の張力を調整するものである。ベルト張力調整装置1は、ベルト105の張り側に接触する第1回転体7と、ベルト105の緩み側に接触する第2回転体8と、これら2つの回転体7、8をそれぞれ回転自在に支持するとともに、これら2つの回転体7、8を連結する連結部材4と、連結部材4に揺動軸2とを備える。また、ベルト張力調整装置1は、2つの回転体7、8、連結部材4、及び、揺動軸2が一体化された状態で、駆動プーリ102の駆動軸101と反対側の部分に、揺動軸2と駆動軸101とが同軸上に位置するように取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動プーリと従動プーリとを含む複数のプーリにベルトが懸架されたベルト伝動機構に用いられ、ベルトの張力を調整するベルト張力調整装置及びその取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動プーリと従動プーリとを含む複数のプーリにわたってベルトが懸架されているベルト伝動機構では、ベルトに掛かる負荷が上昇すると、ベルトの張り側の張力が高くなる一方、ベルトの緩み側の張力が低下する。逆に、ベルトに掛かる負荷が低下すると、ベルトの張り側の張力が急激に低下する一方、ベルトの緩み側の張力が急激に高くなる。従来から、このようなベルトの張力変動を抑制するために、ベルト張力調整装置が用いられている。
【0003】
一般的なベルト張力調整装置は、少なくともベルトの緩み側に接触する回転体(アイドラープーリ)を有し、この回転体によってベルトに張力を付与してベルトの張力変動を抑制するようになっている。その中でも、ベルトの緩み側に接触する回転体に加えて、ベルトの張り側に接触する回転体を設け、さらに、これら2つの回転体を一体連結して、両回転体によるベルト張り側と緩み側における張力調整作用が連動して行われるように構成されたものがある。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、ベルトの張り側と緩み側にそれぞれ接触するように設けられた2つのアイドラープーリと、駆動プーリの駆動軸を中心に揺動自在であって2つのアイドラープーリを連結する連結部材とを有するベルト張力調整装置が開示されている。このベルト張力調整装置は、一方のアイドラープーリにベルトから作用する力が変動してこのアイドラープーリの位置が変化したときに、連結部材が駆動軸を中心に揺動して、他方のアイドラープーリの位置を変化させることで、ベルト張力が調整されるように構成されている。
【0005】
なお、機能面から考えれば、2つの回転体を連結する連結部材の揺動中心は、2つの回転体がベルトにそれぞれ接触できる位置であれば特に限定されるものではないが、ベルト張力調整装置をコンパクトに配置するという観点からは、特許文献1、2のようにプーリの回転軸と同軸であることが好ましい。
【0006】
【特許文献1】特開2008−44528号公報
【特許文献2】特開平5−126219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のベルト張力調整装置では、2つの回転体(アイドラープーリ)を連結する連結部材が、プーリの回転軸(特許文献1、2は駆動プーリの駆動軸)に取り付けられる場合がある。ここで、連結部材をプーリの回転軸に取り付けることは非常に手間のかかる作業である。例えば、駆動プーリと回転体とにわたってベルトを懸架できるように、駆動プーリと回転体とは所定の位置関係(例えば、同一平面上)に配置される必要があることから、2つの回転体を連結する連結部材は、駆動プーリの駆動軸の長さ方向所定位置に位置決めして取り付ける必要がある。また、連結部材を駆動軸に対して揺動可能とするためには、連結部材を軸受を介して駆動軸に連結する必要があり、作業に手間がかかる。さらに、一般的なベルト伝動機構においては、駆動プーリの駆動軸周辺には、他のプーリの回転軸やギヤ等の機械部品が配置されているため、この駆動軸周囲にスペースは少なく、取付作業は困難となる。
【0008】
また、既に組み上げられた既存のベルト伝動機構の駆動軸に、ベルト張力調整装置を取り付けようとした場合、駆動軸の長さに余裕がなく取付スペースを確保できない、あるいは、駆動軸の径が合わない等の理由から、既存の駆動軸に取り付けできないこともある。このような場合には駆動軸を交換する必要があるが、この駆動軸の交換作業は非常に手間のかかる作業であり、ベルト張力調整装置を取り付けるためだけに、かなり大掛かりな作業を行うことになる。
【0009】
また、従来のベルト張力調整装置では、ベルト伝動機構に設けられている台座等に、例えば門形の支持フレームをプーリをまたぐように設置して、この支持フレームの梁部分に、プーリの回転軸と揺動中心とが一致するように、連結部材を揺動自在に連結する場合がある。しかし、この場合、支持フレームを台座等に設置する際に、連結部材の揺動中心がプーリの回転軸と一致するように、支持フレームの位置決めをしなければならないため、ベルト張力調整装置の設置に手間を要する。
【0010】
そこで、本発明は、ベルト伝動機構に容易に取り付けることができるベルト張力調整装置及びその取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0011】
請求項1のベルト張力調整装置は、駆動プーリと従動プーリとを含む複数のプーリにベルトが懸架されたベルト伝動機構に用いられ、前記ベルトの張力を調整するベルト張力調整装置であって、前記ベルトの張り側に接触する第1回転体と、前記ベルトの緩み側に接触する第2回転体と、前記第1回転体と前記第2回転体とをそれぞれ回転自在に支持するとともに、これら2つの回転体を連結する連結部材と、前記連結部材に設けられた揺動軸とを備え、前記第1、第2回転体、前記連結部材、及び、前記揺動軸が一体化された状態で、前記複数のプーリのうちの1つのプーリにおける回転軸と反対側の部分に、前記揺動軸と前記回転軸とが同軸上に位置するように取り付けられることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、ベルトに掛かる負荷が上昇した場合、ベルトの張り側の張力が増加して、ベルトの張り側により第1回転体が押圧されて、第1回転体を支持する連結部材が揺動軸を中心として回転(揺動)する。第1回転体と第2回転体とは連結部材により連結されているため、連結部材の揺動に伴い、第2回転体がベルトの緩み側を押圧する。これにより、ベルトの張り側の張力が急激に上昇するのを緩和するとともに、ベルトの緩み側が弛むのを防止できる。逆に、ベルトに掛かる負荷が低下した場合には、ベルトの緩み側によって第2回転体が押圧されて、連結部材が揺動し、第1回転体がベルトの張り側を押圧することにより、ベルトの張力変動を抑制できる。
【0013】
また、ベルト張力調整装置は、2つの回転体、連結部材及び揺動軸が一体化された状態で、前記1つのプーリにおける回転軸と反対側の部分に、揺動軸と回転軸とが同軸上に位置するように取り付けられている。通常、プーリの回転軸と反対側は、プーリの回転軸側に比べて、スペース(設置スペース、作業スペース)が確保しやすい。さらに、ベルト張力調整装置の各構成部材が連結部材を中心に予め組み付けられて一体化されていることから、この一体化されたベルト張力調整装置の揺動軸をプーリに取り付けるだけで、ベルト張力調整装置の設置が完了する。そのため、ベルト張力調整装置を取り付ける作業が非常に容易なものとなる。
【0014】
請求項2のベルト張力調整装置は、請求項1において、前記1つのプーリが、駆動プーリであることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、従動プーリの数が変化しても、常に2つの回転体をベルトの張り側とベルトの緩み側に接触させることができる。
【0016】
請求項3のベルト張力調整装置は、請求項1又は2において、前記連結部材に固定されるとともに、前記2つの回転体を回転自在に支持する2つの支持軸と、前記2つの支持軸のうち前記第2回転体を支持する一方の支持軸に取り付けられるとともに、前記一方の支持軸が第2回転体を介して前記ベルトの緩み側から受ける荷重を検出する荷重検出部と、前記荷重検出部により検出された前記一方の支持軸に作用する力が、所定の値を下回るか否かを判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0017】
ベルト走行を続けると、ベルトが伸びてくる場合がある。ベルトの伸びが大きくなると、ベルトの緩み側の張力が低下して、摩擦伝動ベルトの場合にはスリップが大きくなり、歯付ベルトの場合には歯飛びが生じる場合がある。そのため、ベルトの伸びが大きくなった場合には、例えばプーリの軸間距離を変えてベルトを張り直すか、ベルトを新しいものに交換する必要がある。
【0018】
上記の構成によると、2つの支持軸は、連結部材に固定されて、2つの回転体を回転自在にそれぞれ支持している。この支持軸は、回転体を介してベルトから力を受けている。荷重検出部は、2つの支持軸のうち第2回転体を支持する一方の支持軸が第2回転体を介してベルトの緩み側から受ける荷重を検出しており、判定部は、荷重検出部により検出された前記一方の支持軸に作用する力が、所定の値を下回るか否かを判定している。そのため、判定部による判定結果を基にして、ベルトの張り直し等を行うことにより、ベルトのスリップ等が生じる前にベルトの張り直し等を行うことができる。
【0019】
請求項4のベルト張力調整装置は、請求項1又は2において、前記連結部材が、前記揺動軸が設けられる基部と、前記基部に連結され、前記2つの回転体をそれぞれ回転自在に支持する2つのアーム部とを有し、前記2つのアーム部のうち前記第2回転体を支持する一方のアーム部に取り付けられるとともに、前記一方のアーム部が第2回転体を介して前記ベルトの緩み側から受ける荷重を検出する荷重検出部と、前記荷重検出部により検出された前記一方のアーム部に作用する力が、所定の値を下回るか否かを判定する判定部とを備えることを特徴とする。
【0020】
ベルト走行を続けると、ベルトが伸びてくる場合がある。ベルトの伸びが大きくなると、ベルトの緩み側の張力が低下して、摩擦伝動ベルトの場合にはスリップが大きくなり、歯付ベルトの場合には歯飛びが生じる場合がある。そのため、ベルトの伸びが大きくなった場合には、例えばプーリの軸間距離を変えてベルトを張り直すか、ベルトを新しいものに交換する必要がある。
【0021】
上記の構成によると、連結部材は、揺動軸が設けられる基部と、この基部に連結されて、2つの回転体をそれぞれ回転自在に支持する2つのアーム部とを有している。このアーム部は、回転体を介してベルトから力を受けている。荷重検出部は、2つのアーム部のうち第2回転体を支持する一方のアーム部が第2回転体を介してベルトの緩み側から受ける荷重を検出しており、判定部は、荷重検出部により検出された前記一方のアーム部に作用する力が、所定の値を下回るか否かを判定している。そのため、判定部による判定結果を基にして、ベルトの張り直し等を行うことにより、ベルトのスリップ等が生じる前にベルトの張り直し等を行うことができる。
【0022】
請求項5のベルト張力調整装置は、請求項1又は2において、前記回転体又は前記回転体の回転軸が、所定の位置にあるか否かを検出する位置検出部を備えることを特徴とする。
【0023】
ベルト走行を続けると、ベルトが伸びてくる場合がある。ベルトの伸びが大きくなると、第1回転体の変位量が大きくなり、ベルトの張り側はほぼ直線状となり、第1回転体はそれ以上移動しない。従って、ベルトの緩み側を押圧する作用がなくなり、必要張力が得られなくなる。その結果、摩擦伝動ベルトの場合にはスリップが大きくなり、歯付ベルトの場合には歯飛びが生じる場合がある。そのため、ベルトの伸びが大きくなった場合には、例えばプーリの軸間距離を変えてベルトを張り直すか、ベルトを新しいものに交換する必要がある。
【0024】
上記の構成によると、位置検出部は、回転体又は回転体の回転軸が、所定の位置にあるか否かを検出する。つまり、ベルトの伸びが大きくなり、回転体又は回転体の回転軸が限界の位置に移動したときに、位置検出部は、この回転体又は回転軸を検出するようになっている。従って、位置検出部の検出結果を基にして、ベルトの張り直し等を行うことにより、ベルトのスリップ等が生じる前にベルトの張り直し等を行うことができる。
【0025】
請求項6のベルト張力調整装置の取付方法は、請求項1〜5の何れかに記載のベルト張力調整装置を、前記ベルト伝動機構に取り付ける方法であって、予め、前記第1、第2回転体、前記連結部材、及び、前記揺動軸が一体化された前記ベルト張力調整装置の前記揺動軸を、前記1つのプーリにおける回転軸と反対側の部分に取り付けることを特徴とする。
【0026】
この構成によると、予め構成部材が一体化されたベルト張力調整装置の揺動軸をプーリに取り付けるだけでベルト張力調整装置の設置が完了するため、ベルト張力調整装置をベルト伝動機構に容易に取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態のベルト張力調整装置1は、駆動軸101に連結された駆動プーリ102と、従動軸103に連結された従動プーリ104とにわたってベルト105が巻き掛けられているベルト伝動機構100に適用されている。なお、ベルト伝動機構100は、複数の従動プーリを備える構成であってもよい。
【0028】
駆動軸101の回転により駆動プーリ102を図1に示す矢印Aの方向(図1中の反時計回り)に回転させると、ベルト105が走行し、これに伴って、従動プーリ104が回転するようになっている。ベルト張力調整装置1は、ベルト105の張力を調整するためのものであり、ベルト105の張り側と緩み側に後述する2つの回転体7、8がそれぞれ接触するように配置されている。
【0029】
図示は省略するが、ベルト105は、ベルト長手方向に所定の間隔で複数の歯部が形成された歯付ベルトであって、駆動プーリ102及び従動プーリ104の外周面には、ベルト105の歯部に噛み合うような歯溝が形成されている。なお、ベルト105は、平ベルトやVリブドベルト等の歯付ベルト以外のベルトであってもよい。この場合、プーリ102、104はベルトの種類に応じたものを用いる。
【0030】
また、駆動軸101又は従動軸103は、軸に直交する方向に移動可能となっており、駆動軸101と従動軸103との軸間距離を変化させることができる。
【0031】
また、図2に示すように、駆動プーリ102は、駆動軸101と反対側に、円柱状の突出部102aを有している。突出部102aの側面には複数のネジ孔が形成されており、ベルト張力調整装置1の後述する揺動軸2と突出部102aとは、突出部102aのネジ孔に螺合されたボルト10によって固定されている。
【0032】
図1に示すように、ベルト張力調整装置1は、第1回転体7と、第2回転体8と、第1支持軸5と、第2支持軸6と、アーム4と、アーム取付具3と、揺動軸2と、ベルト伸び検知手段13とを有する。
【0033】
図2に示すように、揺動軸2は、略筒状の固定部2aと、揺動軸本体2bとを有する。固定部2aは、駆動プーリ102の突出部102aに被せられ、突出部102aにボルト10により固定されている。そのため、揺動軸2は、駆動プーリ102と一体的に回転するようになっている。揺動軸本体2bは、固定部2aの一端から駆動軸101の反対側に延びており、駆動軸101と同軸上に位置している。また、揺動軸本体2bの先端面には、ネジ孔が形成されている。
【0034】
アーム取付具3は、外筒部3aと、外筒部3aの内周面に固定された筒状の軸受(ボールベアリング)3bと、軸受3bの内周面の一部に固定された内筒部3cとを有する。そのため、内筒部3cと外筒部3aとは、軸受3bを介して、相対回転可能となっている。
【0035】
軸受3bの内側には、揺動軸本体2bが挿通されている。揺動軸本体2bの先端部は内筒部3cに当接しており、揺動軸本体2bと内筒部3cとは、揺動軸本体2bのネジ孔に螺合されたボルト11によって固定されている。また、外筒部3aの駆動プーリ102側の側面には、複数のネジ孔が形成されており、外筒部3aとアーム4とは、外筒部3aのネジ孔に螺合されたボルト12によって固定されている。
【0036】
図1及び図2に示すように、アーム(連結部材)4は、略V字状に形成された板状部材である。アーム4は、基部4aと、この基部4aに連結された第1アーム部4b及び第2アーム部4cを有する。基部4aはアーム取付具3に複数のボルト11によって固定されている。そのため、アーム4は、アーム取付具3を介して揺動軸2に回転自在(揺動自在)に連結されている。また、第1アーム部4bの先端部には、第1支持軸5が固定されており、第2アーム部4cの先端部には第2支持軸6が固定されている。
【0037】
図2に示すように、第1支持軸5及び第2支持軸6は、それぞれ、第1アーム部4b及び第2アーム部4cから駆動プーリ105側に揺動軸2と平行に延在している。図1に示すように、第1支持軸5及び第2支持軸6は、外形が円柱状に形成されているが、角柱状に形成されていてもよい。また、揺動軸2の中心から第1支持軸5の中心までの距離は、揺動軸2の中心から第2支持軸6の中心までの距離よりも小さくなるように設定されている。
【0038】
第1回転体7及び第2回転体8は、円筒状の部材であって、その内周面には、それぞれ筒状の軸受(ボールベアリング)9が配置されている。第1回転体7及び第2回転体8は、軸受9を介して、第1支持軸5及び第2支持軸6にそれぞれ回転自在に連結されている。そのため、アーム4は、2つの回転体7、8をそれぞれ回転自在に支持するとともに、これら2つの回転体7、8を連結することとなる。
【0039】
第1回転体7及び第2回転体8は、駆動プーリ102と従動プーリ104にわたって巻き掛けられたベルト105の張り側と緩み側の外周面にそれぞれ接触している。そのため、第1回転体7には、ベルト105の張り側の張力(荷重)が作用し、第2回転体8には、ベルト105の緩み側の張力(荷重)が作用している。
【0040】
ここで、図1に示すように、揺動軸2(駆動軸101)の中心を通り、駆動軸101と従動軸103を結ぶ直線に直交する直線を基準線Cとする。揺動軸2の中心と第2支持軸6の中心とを結ぶ直線と、基準線Cとがなす角度をアーム角θとする。図4は、アーム角θを変化させたときのベルト経路長(弛みのない状態でのベルト105の長さ)の変化を示すグラフである。図4に示すように、アーム角θが所定の角度θ1のときに、ベルト経路長は最も短いL1となり、アーム角θがθ1よりも大きくなる程、ベルト経路長は長くなる。無負荷状態でのベルト105の全周は、最短のベルト経路長L1以上であることが好ましい。
【0041】
ベルト105が走行を続けると、ベルト105が伸びてくる場合がある。ベルト105の伸びが大きくなると、第1回転体7の変位量が大きくなり、ベルト105の張り側はほぼ直線状となり、第1回転体7はそれ以上移動しない。従って、ベルト105の緩み側を押圧する作用がなくなり、必要張力が得られなくなる。
【0042】
ベルト105の緩み側の張力が低下すると、歯飛びが生じる場合がある。また、ベルト105として摩擦伝動ベルトを用いた場合には、スリップが大きくなる場合がある。そのため、ベルト105の伸びが大きくなった場合には、駆動軸101と従動軸103との軸間距離を変えてベルト105を張り直すか、ベルト105を新しいものに交換する必要がある。ベルト伸び検知手段13は、ベルト105の伸びを検知して、ベルト105の伸びが許容範囲を超えたときに、ベルトの張り直し等が必要であることを使用者に知らせるにためのものである。
【0043】
図1に示すように、ベルト伸び検知手段13は、歪ゲージ14と図示しない判定部と警報部とを有する。
【0044】
図1及び図2に示すように、歪ゲージ(荷重検出部)14は、第2支持軸6の側面に貼り付けられている。詳細には、第2支持軸6のベルト105側の部分に貼り付けられているが、ベルト105側と反対側の部分に貼り付けられていてもよい。歪ゲージ14とは、金属部材の伸縮による電気抵抗の変化を検出することにより、金属部材の歪み量を検出するセンサである。第2支持軸6は、第2回転体8を介してベルト105の緩み側から力を受けるため、曲げ歪みが生じている。歪ゲージ14は、第2支持軸6のこの曲げ歪みを検出するものである。歪ゲージ14によって、第2支持軸6の歪みを検出することにより、ベルト105の緩み側の張力を検出することとなる。
【0045】
歪ゲージ14は判定部(図示省略)に連結されており、歪ゲージ14による検出結果は判定部に送られる。判定部は、検出された第2支持軸6の歪み量が、所定時間継続して所定の値を下回るか否かを判定する。即ち、判定部は、ベルト105の緩み側の張力が所定時間継続して所定の値を下回るか否かを判定することとなる。
【0046】
判定部は、検出された歪み量が所定の値を下回った場合には、警報部(図示省略)に発令命令を送信するようになっている。警報部は、判定部から送信された発令命令を受けた場合に、ベルトの張り直し等が必要であることを知らせるための音や光などによる警報を発令するようになっている。そのため、ベルト105の歯飛び等が生じる前に、ベルト105の張り直し等を行うことができる。
【0047】
以上説明したベルト張力調整装置1をベルト伝動機構100に取り付ける際には、予め、揺動軸2とアーム取付具3、及び、アーム4とアーム取付具3をそれぞれボルト11、12によって固定して、ベルト張力調整装置1の各構成部材(判定部及び警報部を除く)を組み付けて一体化しておく。この状態で、揺動軸2の固定部2aを、駆動プーリ102の突出部102aにボルト10により固定する。
【0048】
その後、ベルト105を駆動プーリ102と従動プーリ104に巻き掛ける。このとき、ベルト105を巻き掛けやすいように、駆動軸101と従動軸103との軸間距離を短くしておき、ベルト105を装着した後で軸間距離を調整してもよいが、無負荷状態でのベルト105の全周がL1よりも長い場合には、駆動軸101と従動軸103の軸間距離を短くしなくても、ベルト105を容易にプーリ102、104に取り付けることができるため、駆動軸101及び従動軸103を固定した状態でベルト105を取り付けてもよい。なお、無負荷状態でのベルト105の全周がL1よりも長い場合には、ベルト105の走行を開始する際には、第2回転体8をベルト105の緩み側に軽く押し当てておく。
【0049】
次に、ベルト張力調整装置1の作用について説明する。
ベルト105に掛かる負荷が上昇した場合、ベルト105の張り側の張力が増加することとなり、ベルト105の張り側によって第1回転体7が押圧されるため、アーム4が揺動軸2を中心として図3中の矢印Bの方向(反時計回り)に回転(揺動)する。このとき、第1回転体7と第2回転体8とはアーム4により連結されているため、アーム4の揺動に伴い、第2回転体8がベルト105の緩み側を押圧して、ベルト105の緩み側に張力を付与する。
【0050】
逆に、ベルト105に掛かる負荷が低下した場合、ベルト105の張り側の張力が減少し、ベルト105の緩み側の張力が増加することとなり、ベルト105の緩み側によって第2回転体8が押圧されて、アーム4が図3中の矢印Bと反対方向(時計回り)に揺動し、第1回転体7がベルト105の張り側を押圧する。
【0051】
このように、ベルト105の張力の増加する側によって、第1回転体7又は第2回転体8が押圧されて移動することにより、ベルト105の張力が急激に上昇するのを緩和することができる。その結果、駆動軸101や従動軸103に連結されている軸受や、ベルト105に過大な負荷が掛かるのが防止でき、ベルト105等の部品を長寿命化できる。
【0052】
また、同時に、第2回転体8又は第1回転体7が、ベルト105の張力の低下する側を押圧し、ベルト105に張力を付与するため、ベルト105が弛むのを防止できる。その結果、ベルト105が浮き上がることなく従動プーリ104に円滑に噛み合うので、ベルト105の歯飛びや外れを防止できる。さらに、ベルトの張力変動に起因するベルト105の振動による騒音を防止できる。
【0053】
また、ベルト伝動機構100にベルト張力調整装置1を設けない場合には、停止時であっても、ベルトにはある程度大きい張力(初期張力)を必要とする。一方、本実施形態では、駆動プーリ102が回転を開始した際に、第2回転体8がベルト105の緩み側を押圧することにより、ベルト105に適正な張力を付与することができるため、停止時のベルト105の張力(初期張力)を低くすることができる。そのため、ベルト105に不要な負荷が掛からず、ベルト105を長寿命化できる。また、特に、無負荷状態でのベルト105の全周がL1以上である場合には、初期張力が0になるため、ベルト105に掛かる不要な負荷をより低減できる。
【0054】
また、上述したように、ベルト張力調整装置1をベルト伝動機構100に取り付ける際、予め、ベルト張力調整装置1の各構成部材が組み付けられて一体化されるため、この一体化されたベルト張力調整装置1の揺動軸2をプーリに取り付けるだけで、ベルト張力調整装置1の設置が完了する。また、揺動軸2は、駆動プーリ102の駆動軸101と反対側の部分(突出部102a)に取り付けられるが、駆動プーリ102の駆動軸101と反対側は、駆動プーリ102の駆動軸101側に比べて、スペース(設置スペース、作業スペース)が確保しやすい。そのため、ベルト張力調整装置1を取り付ける作業が非常に容易なものとなる
【0055】
また、本実施形態のベルト張力調整装置1を、既存のベルト伝動機構100に用いる場合には、既存の駆動プーリを、突出部102aが形成された駆動プーリ102に交換するだけでよい。なお、プーリの交換は、プーリの回転軸の交換に比べて容易に行うことができる。
【0056】
なお、本実施形態では、歪ゲージ14は、第2支持軸6に貼り付けられているが、第2アーム部4cに貼り付けられていてもよい。第2アーム部4cは、第2回転体8及び第2支持軸6を介してベルト105の緩み側から力を受けることにより、せん断歪みが生じる。この歪み量を歪ゲージによって検出することにより、ベルト105の緩み側の張力の変化を検出することができる。
【0057】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態のベルト張力調整装置201について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を用いて適宜その説明を省略する。
【0058】
図5に示すように、本実施形態のベルト張力調整装置201は、ベルト伸び検知手段の構成が異なる以外は、前記第1実施形態と同様の構成である。本実施形態のベルト伸び検知手段202は、位置検出センサ203と警報部(図示省略)とを備える。位置検出センサ203としては、所謂近接センサ(近接スイッチ)が用いられている。近接センサは、金属部材が近づいたときの電磁界の変化を検知することにより非接触で金属部材を検出するものである。
【0059】
前記第1実施形態でも述べたように、ベルト105の伸びが大きくなると、第1回転体7の変位量が大きくなって、ベルト105の張り側はほぼ直線状となり、第1回転体7はそれ以上移動しない。従って、ベルト105の緩み側を押圧する作用がなくなり、必要張力が得られなくなる。このとき、アーム角θは限界値αまで大きくなる。位置センサ203は、アーム角θが限界値αとなり、第1支持軸5が限界の位置に移動したときに、第1支持軸5を検出するように配置されている。即ち、位置センサ203は、第1支持軸5が、所定の位置にあるか否かを検出している。
【0060】
位置検出センサ203は、所定時間継続して第1支持軸5を検出した場合には、警報部に発令命令を送信するようになっている。警報部は、位置検出センサ203からの発令命令を受けた場合に、張り直し等が必要であることを知らせるための警報を発令するようになっている。そのため、ベルト105の歯飛び等が生じる前に、ベルト105の張り直し等を行うことができる。
【0061】
なお、本実施形態では、位置検出センサ203は、第1支持軸5を検出するように配置されているが、第1回転体7を検出するように配置されていてもよい。また、第2支持軸6又は第2回転体8を検出するように配置されていてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、位置検出センサ203として、非接触式の近接センサ(近接スイッチ)を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、接触式のリミットスイッチを用いてもよい。リミットスイッチは、アーム角θが角度αとなったときに、第1支持軸5(又は第2支持軸6)に接触して第1支持軸5(又は第2支持軸6)を検出できるように配置される。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態として、第1実施形態及び第2実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0064】
1]前記第1、第2実施形態では、揺動軸2とアーム取付具3、及び、アーム4とアーム取付具3はボルトによって脱着可能に構成されているが、製造時に一体化されていてもよい。
【0065】
2]前記第1、第2実施形態では、第1支持軸5(第2支持軸6)は、一端がアーム4に固定され、他端が第1回転体7(第2回転体8)に回転自在に連結されているが、一端がアーム4に回転自在に連結され、他端が第1回転体7(第2回転体8)に固定されていてもよい。なお、この場合、第2支持軸6は第2回転体8と一体的に回転しており、曲げ歪みが生じないため、前記第1実施形態の歪ゲージ14は、第2アーム部4cに貼り付ける必要がある。
【0066】
3]第1回転体7及び第2回転体8は、ベルト105の張り側及び緩み側の内周面にそれぞれ接触するように構成されていてもよい。
【0067】
4]揺動軸2は、従動プーリ104に取り付けられてもよい。但し、複数の従動プーリ104を有するベルト伝動機構100にベルト張力調整装置1を用いる場合には、ベルト105の張り側と緩み側に2つの回転体7、8を接触させるために、揺動軸2を駆動プーリ102に取り付けることが好ましい。従って、前記第1、第2実施形態のように揺動軸2を駆動プーリ102に取り付けた場合、従動プーリ104の数が変化しても、常に2つの回転体7、8をベルト105の張り側と緩み側に接触させることができるため、この点においては、前記第1、第2実施形態の方が好ましい。
【0068】
5]前記第1、第2実施形態では、揺動軸2は、アーム取付具3を介してアーム4に揺動自在に連結されているが、アーム4に固定されていてもよい。この場合、揺動軸2と駆動プーリ102とを揺動可能に連結する必要があるが、駆動プーリ102に軸受を備えた取付部品を設けておき、この取付部品に揺動軸2を固定することにより、揺動軸2と駆動プーリ102とが揺動可能に連結されるよう構成することが好ましい。これにより、揺動軸2を駆動プーリ102に取り付ける作業が、ボルト等を用いた簡易な作業だけで済む。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係るベルト張力調整装置をベルト伝動機構に適用した状態を示す図である。
【図2】図1のI-I線断面図である。
【図3】図1の状態から連結部材が揺動した状態を示す図である。
【図4】アーム角θとベルトの経路長との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態に係るベルト張力調整装置をベルト伝動機構に適用した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1、201 ベルト張力調整装置
2 揺動軸
3 アーム取付具
4 アーム(連結部材)
4a 基部
4b 第1アーム部
4c 第2アーム部
5 第1支持軸
6 第2支持軸
7 第1回転体
8 第2回転体
13、202 ベルト伸び検知手段
14 歪ゲージ(荷重検出部)
15 判定部
203 位置検出センサ(位置検出部)
100 ベルト伝動機構
101 駆動軸
102 駆動プーリ
103 従動軸
104 従動プーリ
105 ベルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動プーリと従動プーリとを含む複数のプーリにベルトが懸架されたベルト伝動機構に用いられ、前記ベルトの張力を調整するベルト張力調整装置であって、
前記ベルトの張り側に接触する第1回転体と、
前記ベルトの緩み側に接触する第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体とをそれぞれ回転自在に支持するとともに、これら2つの回転体を連結する連結部材と、
前記連結部材に設けられた揺動軸とを備え、
前記第1、第2回転体、前記連結部材、及び、前記揺動軸が一体化された状態で、前記複数のプーリのうちの1つのプーリにおける回転軸と反対側の部分に、前記揺動軸と前記回転軸とが同軸上に位置するように取り付けられることを特徴とするベルト張力調整装置。
【請求項2】
前記1つのプーリが、駆動プーリであることを特徴とする請求項1に記載のベルト張力調整装置。
【請求項3】
前記連結部材に固定されるとともに、前記2つの回転体を回転自在に支持する2つの支持軸と、
前記2つの支持軸のうち前記第2回転体を支持する一方の支持軸に取り付けられるとともに、前記一方の支持軸が第2回転体を介して前記ベルトの緩み側から受ける荷重を検出する荷重検出部と、
前記荷重検出部により検出された前記一方の支持軸に作用する力が、所定の値を下回るか否かを判定する判定部と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト張力調整装置。
【請求項4】
前記連結部材が、
前記揺動軸が設けられる基部と、
前記基部に連結され、前記2つの回転体をそれぞれ回転自在に支持する2つのアーム部とを有し、
前記2つのアーム部のうち前記第2回転体を支持する一方のアーム部に取り付けられるとともに、前記一方のアーム部が第2回転体を介して前記ベルトの緩み側から受ける荷重を検出する荷重検出部と、
前記荷重検出部により検出された前記一方のアーム部に作用する力が、所定の値を下回るか否かを判定する判定部と
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト張力調整装置。
【請求項5】
前記回転体又は前記回転体の回転軸が、所定の位置にあるか否かを検出する位置検出部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト張力調整装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のベルト張力調整装置を、前記ベルト伝動機構に取り付ける方法であって、
予め、前記第1、第2回転体、前記連結部材、及び、前記揺動軸が一体化された前記ベルト張力調整装置の前記揺動軸を、前記1つのプーリにおける回転軸と反対側の部分に取り付けることを特徴とするベルト張力調整装置の取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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