説明

ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物及びこれを用いた有機発光素子

【課題】T1(最低三重項励起準位)が高いベンゾチエノベンゾチオフェン化合物の提供。
【解決手段】下記一般式[1]乃至[3]のいずれかで示されることを特徴とする、ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物。


(式[1]乃至[3]において、Arは、フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基、トリフェニレニル基から選ばれるアリール基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、有機EL素子)は、一対の電極とこれら電極間に配置される有機化合物層とを有する電子素子である。これら一対の電極から電子及び正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子の最近の進歩は著しく、その特徴として、低駆動電圧、多様な発光波長、高速応答性、発光デバイスの薄型化・軽量化が可能であることが挙げられる。
【0004】
ところで現在では、有機発光素子の発光効率を向上させる試みの1つとして、燐光発光を利用することが提案されている。ここで燐光発光素子の内部量子収率は、理論上蛍光発光素子の内部量子収率の4倍になるため、燐光発光を利用した有機発光素子は、蛍光発光のものよりも約4倍の発光効率向上が期待される。
【0005】
ところで、燐光発光する有機発光素子の構成材料については、様々な提案がなされている。例えば、非特許文献1には、下記に示されるベンゾチエノベンゾチオフェン(化合物a−1)が提案されている。また特許文献1には、発光層を構成する有機発光素子用材料として、下記に示されるジベンゾチオフェン骨格とトリフェニレン骨格とを有する化合物a−2が提案されている。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/021126号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Heterocyclic Chemistry,21(1),185−192(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、発光効率が高く駆動電圧の低い有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のベンゾチエノベンゾチオフェン化合物は、下記一般式[1]乃至[3]のいずれかで示されることを特徴とする。
【0011】
【化2】

(式[1]乃至[3]において、Arは、フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニレニル基から選ばれるアリール基である。尚、前記Arで表されるアリール基は、下記(A)及び/又は(B)で示される置換基を有してもよい。
(A)炭素数1乃至4のアルキル基
(B)フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニレニル基から選ばれるアリール基
(前記(B)のアリール基は、炭素数1乃至4のアルキル基をさらに有してよい。)
【0012】
式[3]において、R1及びR2は、それぞれ水素原子あるいは炭素数1乃至4のアルキル基を表し、同じでも異なってもよい。)
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る有機化合物(ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物)は、T1(最低三重項励起準位)が高いので、有機発光素子用材料として有用である。このため本発明によれば、発光効率が高く駆動電圧の低い有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。
【図2】中間体F6のCVチャート(酸化側、5回挿引時)を示す図である。
【図3】中間体F7のCVチャート(酸化側、5回挿引時)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず本発明に係る有機化合物(ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物)について説明する。本発明に係る有機化合物は、以下の特徴(A)及び(B)を有する。
(A)基本骨格が下記構造式に示されるベンゾチエノベンゾチオフェン骨格であること
【0016】
【化3】

(B)上記ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格のα位及びβ位にそれぞれ特定の置換基を有すること
【0017】
本発明に係る有機化合物は、具体的には、下記一般式[1]乃至[3]のいずれかに示される有機化合物である。
【0018】
【化4】

【0019】
式[1]乃至[3]において、Arは、フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニレニル基から選ばれるアリール基である。
【0020】
尚、Arで表されるアリール基は、下記(A)及び/又は(B)で示される置換基をさらに有してもよい。
(A)メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基から選ばれる炭素数1乃至4のアルキル基
(B)フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニレニル基から選ばれるアリール基
(前記(B)のアリール基は、炭素数1乃至4のアルキル基をさらに有してよい。)
【0021】
式[3]において、R1及びR2は、それぞれ水素原子あるいは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。
【0022】
1及びR2で表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基が挙げられる。
【0023】
尚、R1及びR2は、同じでも異なってもよい。
【0024】
次に、本発明に係る有機化合物の合成方法について説明する。本発明に係る有機化合物は、例えば、以下に反応スキームに従って合成される。
【0025】
【化5】

(上記合成スキームにおいて、Rは、式[1]乃至[3]中のArと同じである。)
【0026】
ここで上記合成スキームは、下記に示される合成プロセスから成り立っている。
【0027】
まず中間体化合物D3の合成を行う。化合物D3は、例えば、トルエン、エタノール及び蒸留水の混合溶媒中、炭酸ナトリウム及び触媒(Pd(PPh34)の存在下で、化合物D1と化合物D2とを反応させることにより合成される。
【0028】
次に中間体化合物D5の合成を行う。化合物D5は、例えば、ジエチルエーテル中で化合物D4とt−ブトキシカリウムとを反応させた後、テトラヒドロフラン溶液中で化合物D4とt−ブトキシカリウムとの反応物と化合物D3とを反応させることにより合成される。
【0029】
次に、中間体化合物D6の合成を行う。化合物D6は、例えば、ジクロロメタン中、酸触媒(メタンスルホン酸)の存在下で化合物D5を反応させることにより合成される。
【0030】
次に、中間体化合物D7の合成を行う。化合物D7は、例えば、テトラヒドロフラン中、n−ブチルリチウムにより化合物D6をリチオ化した後、リチオ化した化合物D6とヨウ化メチルとを反応させることにより合成される。
【0031】
次に、中間体化合物D8の合成を行う。化合物D8は、例えば、クロロホルム中、化合物D7と臭素とを反応させることにより行うことができる。
【0032】
最後に化合物D8から目的化合物を合成する。例えば、トルエン、エタノール及び蒸留水の混合溶媒中、炭酸ナトリウム及び触媒(Pd(PPh34)の存在下で、化合物D8とボロン酸又はピナコールボラン体D9とを反応させることにより目的化合物が合成される。
【0033】
また本発明においては、化合物D9(ボロン酸誘導体)を変えることで、種々のベンゾチエノベンゾチオフェン化合物を合成することができる。その具体例を下記表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
次に、非特許文献1に記載のベンゾチエノベンゾチオフェン(化合物a−1)と比較しながら本発明に係る有機化合物の特長について説明する。ここで、比較対象となるベンゾチエノベンゾチオフェン(化合物a−1)は、下記構造式で示される化合物である。
【0036】
【化6】

【0037】
一方、本発明に係る有機化合物の主骨格となる有機化合物であるF7は以下の構造式で示される。
【0038】
【化7】

【0039】
ところで比較化合物であるベンゾチエノベンゾチオフェン(化合物a−1)の化学反応に対する反応性が最も高いのはα位であり、続いてβ位であることが考えられる。ここで上記の化合物F7は、特に高い反応性が高い部位(α位)にメチル基が導入されている。これにより化合物自体を安定化させることができる。ここで比較化合物a−1(実施例1の中間体F6)及びF7の電気化学測定(CV測定)を行った結果、以下のことが判明した。具体的には、図2、図3に示されるように、化合物a−1では繰り返し挿引を行うことで新たにピークが観測されたのに対して、α位にメチル基が導入されている中間体F7は新たなピークは観測されなかった。これは、α位にメチル基が導入されていない化合物a−1は、反応性の高いα位において容易に反応が起こり新しい分子が生成したためであると考えられる。尚、図2、図3については、実施例において詳細に説明する。
【0040】
また本発明に係る有機化合物は、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格のβ位に特定の構造のアリール基が導入されている。これにより化合物をより安定化させると共にその化合物が高いT1を有することになる。尚、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格のα位にアリール基を導入すると、逆にT1が低くなるため、緑色発光する燐光素子の構成材料として用いると素子の発光効率の低下につながる。下記表2は、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格のα位にメチル基を導入した化合物a−3と、フェニル基を導入した化合物a−4との77Kにおけるトルエン希薄溶液中のT1の値を示す表である。
【0041】
【表2】

【0042】
表2より、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格のα位にアリール基の1つであるフェニル基を導入するとT1が低くなることが示されている。
【0043】
以上のように、ベンゾチエノベンゾチオフェンをこのまま用いるのではなく、骨格中のα位をメチル基で置換し、かつβ位を特定の構造のアリール基で置換することで、高い化学的安定性と高いT1を共有する化合物を得ることができる。これにより、本発明に係る有機化合物を有機燐光発光素子の構成材料として用いると素子の高効率化が可能となる。
【0044】
次に、特許文献1に記載の化合物a−2と比較しながら本発明に係る有機化合物の特長について説明する。以下、例示化合物A7を具体例として説明する。ここで化合物a−2及び例示化合物A7は、それぞれ下記構造式で示される化合物である。
【0045】
【化8】

【0046】
ここで例示化合物A7は、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格を有するため、化合物a−2と比較してHOMOが浅くなっている。ここでHOMOが浅いとは、HOMOが真空準位に近いことを意味する。またHOMOが浅いことは、正孔注入輸送能力が高くなっていることを意味する。このため、例示化合物A7を有機発光素子の構成材料として用いることで、素子の低電圧化、高効率化が可能となる。
【0047】
ここで化合物a−2と例示化合物A7との大きな相違点は、主骨格たる縮合多環骨格内に存在するチオフェン環の数である。本発明に係る有機化合物である例示化合物A7の主骨格となるベンゾチエノベンゾチオフェン骨格は、骨格内にチオフェン環が2個存在している。一方、比較化合物である化合物a−2のジベンゾチオフェン骨格は、骨格内にチオフェン環が1個しか存在していない。ここで後述する計算手法により、ジベンゾチオフェン及びベンゾチエノベンゾチオフェンについて分子軌道計算を行い、その計算結果から各々のHOMO準位を求めた。ここで分子軌道計算は、現在広く用いられているGaussian03(Gaussian 03,Revision D.01,M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,J.A.Montgomery,Jr.,T.Vreven,K.N.Kudin,J.C.Burant,J.M.Millam,S.S.Iyengar,J.Tomasi,V.Barone,B.Mennucci,M.Cossi,G.Scalmani,N.Rega,G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,M.Klene,X.Li,J.E.Knox,H.P.Hratchian,J.B.Cross,V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,P.Y.Ayala,K.Morokuma,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,V.G.Zakrzewski,S.Dapprich,A.D.Daniels,M.C.Strain,O.Farkas,D.K.Malick,A.D.Rabuck,K.Raghavachari,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,Q.Cui,A.G.Baboul,S.Clifford,J.Cioslowski,B.B.Stefanov,G.Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,I.Komaromi,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,M.A.Al−Laham,C.Y.Peng,A.Nanayakkara,M.Challacombe,P.M.W.Gill,B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,C.Gonzalez,and J.A.Pople,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2004).を用いて、DFT基底関数6−31+G(d)の計算手法を使った。
【0048】
この結果、表3に示すように縮合多環骨格内に存在するチオフェン環が多くなるとHOMOが浅くなることがわかった。
【0049】
【表3】

【0050】
このことは、下記表4に示すように、薄膜状態における例示化合物A7の第一イオン化ポテンシャル(I.P.)が、化合物a−2よりも小さくなることからも確認できた。尚、一般的に、第一イオン化ポテンシャルはHOMOに相当すると考えられており、第一イオン化ポテンシャルが小さくなることは、HOMOが浅くなることと同じである。
【0051】
【表4】

【0052】
また化合物内に電子豊富なチオフェン環が増すことにより、化合物自体の正孔輸送能力も向上する。これにより、発光層内でのキャリアバランスが改善され、周辺層へのキャリア漏れによる素子劣化を抑制することができる。一般的に、正孔輸送層の構成材料として用いられる材料は電子に弱いことが知られているが、本発明に係る有機化合物は、式[1]乃至[3]に示されるアリール基(Ar)が電子をトラップするため、電子に対して耐久性がある。このため、正孔輸送材料として適している。
【0053】
以上のように、化合物a−2のようにジベンゾチオフェン骨格を有する化合物よりも、本発明に係る例示化合物A7のようにベンゾチエノベンゾチオフェン骨格を有する化合物を用いることでHOMOが小さくなり、正孔の注入輸送性が向上する。
【0054】
これにより、本発明に係る有機化合物を有機燐光発光素子の構成材料として用いると、素子の低電圧化、高効率化が可能となる。また、正孔輸送能力を向上させることも可能となるため、発光層内にキャリアを閉じ込めることができるため、素子の長寿命化も可能となる。
【0055】
ところで本発明に係る有機化合物は以下の2つの特徴を有している。
【0056】
1つ目の特徴は、本発明に係る有機化合物は、緑色発光する燐光発光素子に適したT1を有していることである。ここで緑色に発光する燐光発光素子に適したT1とは、波長に換算して490nm以下のT1であることをいう。
【0057】
ところで緑色発光ドーパントの0−0遷移に由来する発光波長の領域は490nm以上530nm以下である。このため、発光素子に含まれる正孔輸送層、エキシトンブロック層、電子輸送層及び発光層のホストとして用いられる材料は、燐光発光波長が490nm以下の材料を用いることが好ましい。発光材料(燐光発光材料)よりも発光波長が短い、即ち、エネルギーが高い材料を用いることで、ドーパント以外の材料へのエネルギー移動が抑制され効率良くドーパントを発光させることができる。
【0058】
ただし、本発明に係る有機化合物の基本骨格であるベンゾチエノベンゾチオフェンは、高いT1を維持することが困難な骨格である。というのも、ベンゾチエノベンゾチオフェンの置換位置の中で最も反応性が高いα位に、仮にアリール基等の芳香環を置換すると著しくT1が低くなるからである。そこで、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格のα位にメチル基を導入して、かつβ位にアリール基を導入することにより、高いT1を有する(維持する)ことができる。このことは、上記表4に示されるa−3とa−4とにおけるT1の実測値の比較から明らかなことである。
【0059】
以上の考察から、本発明の発明者らは、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格の置換位置や置換基の種類を検討することにより、高いT1を有するための好ましい分子構造を見出した。またこれにより、本発明に係る有機化合物を緑色発光する燐光発光素子の構成材料として用いることで、発光層の発光材料を効率良く発光させることができる。
【0060】
2つ目の特徴は、本発明に係る有機化合物は、電子豊富なベンゾチエノベンゾチオフェン骨格を有していることである。これにより、化合物全体のHOMOが浅くなり、正孔輸送能力も高くなる。この特徴を有することにより、本発明に係る有機化合物を有機発光素子の構成材料、特に、発光層のホストとして用いることで、素子の低電圧化や高効率化が可能となる。
【0061】
上述したように、分子軌道計算により縮合多環骨格内にチオフェン環の数が増すと、HOMOが浅くなることが確認できる。またチオフェン環の数が増すことで、同平面上の電子が豊富になる。これにより、化合物自体が有する正孔移動度が向上することが考えられる。
【0062】
ここで、素子の低電圧化を可能にしているのは、本発明に係る有機化合物のHOMOが浅いからである。つまり化合物のHOMOが浅くなることで、陽極、正孔注入層、正孔輸送層又はエキシトンブロック層と発光層との間で生じ得るエネルギー障壁が小さくなり、正孔注入が容易になるからである。
【0063】
また本発明に係る有機化合物を、発光層のホストとして用いると、素子の高効率化が可能となる。これは、本発明に係る有機化合物がバイポーラー型の有機化合物であるためである。ここでバイポーラー型とは、その化合物が正孔輸送性能、電子輸送性能という2種類のキャリア輸送性を共有しつつこれらの機能を個別に発揮させることができるタイプの化合物をいう。本発明に係る有機化合物では、化合物内に、正孔輸送性能を有するベンゾチエノベンゾチオフェン骨格と、電子輸送性能を有する式[1]乃至[3]に記載のAr(アリール基)と、が含まれている。これにより、両方のキャリア輸送性(正孔輸送性、電子輸送性)を機能分離しながら分子内に共有していることになる。従って、本発明に係る有機化合物を有機発光素子に構成材料、特に、発光層のホストとして用いることにより、発光層内でのキャリアバランスが良好になり、素子の高効率化に繋がる。
【0064】
以上のように、本発明に係る有機化合物は、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格を有していることで、化合物自体のHOMOが浅くなり、正孔輸送能力も高くなる。
【0065】
以上より、本発明に係る有機化合物を緑色に発光する燐光発光素子の構成材料、特に、発光層のホストとして用いると、素子の駆動電圧を低くさせると共に素子の効率を向上させることができる。
【0066】
本発明に係る有機化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0067】
【化9】

【0068】
【化10】

【0069】
上述した例示化合物のうち、A群及びB群に属する化合物は、式[1]又は式[2]にて示される化合物に含まれる。またA群又はB群に属する化合物は、m−フェニレン基又はm−ビフェニレン基を連結基として有している。これにより、分子中の回転部位が多いため、昇華温度が低くなる。従って、有機発光素子を構成する薄膜を形成する際に蒸着温度を低くすることができる。さらにB群に属する化合物は、Arで表されるアリール基に炭素数1乃至4のアルキル基が1つ以上導入されている。このアルキル基は、化合物の平面性を抑制する目的で導入されている置換基である。このアルキル基が有する立体的なかさ高さから、B群に属する化合物は、分子間の会合及びこれによって生じる濃度消光を抑制することができる。
【0070】
一方、C群に属する化合物は、式[3]にて示される化合物に含まれる。またC群に属する化合物は、3,6−フルオレニレン連結基を有している。このため、m−フェニレン及びm−ビフェニレン連結基と比較してガラス転移温度が高いという特徴を有する。この特徴を有することにより、分子自体の剛直性が増し分子運動が抑制されることになる。
【0071】
ここでA群及びC群に属する化合物は、B群に属する化合物と比較して、式[1]乃至[3]に示されるArが高い平面性を持つアリール基である。このため、薄膜状態においてB群に属する化合物よりも分子間のスタックが強くなり、正孔及び電子移動度が高くなる。特に、A群及びC群に属する化合物の中でも、Arがフルオレニル基又はトリフェニル基である例示化合物A5乃至A7、A10乃至A12及びC1乃至C4は、特に、電子移動度が高い化合物である。フルオレニル骨格及びトリフェニレン骨格の電子移動度の高さを反映しているからである。
【0072】
ところで式[1]乃至式[3]にて示される化合物は、ベンゾチエノベンゾチオフェン骨格と直接的に結合する連結基がいずれもベンゾチエノベンゾチオフェン骨格とAr部位と間の共役を切断する役割を果たす。このため、本発明に係る有機化合物のT1は、波長に換算すると490nmより短波長となるほどに高いエネルギーであるといえる。
【0073】
式[1]乃至[3]中のArで表されるアリール基は、何でもよいわけではなく、本発明の特徴である、化合物自体のT1が490nmより短波長であることを満たすアリール基から適宜選択される。具体的には、フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニル基のいずれかから選択される。尚、これら置換基は、T1が490nmより短波長であるという条件を満たしていれば、他の置換基、具体的には、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基、及びトリフェニレニル基をさらに導入してもよい。
【0074】
下記表5は、上記例示化合物として示されている化合物の一部のT1の計算値を示すものである。尚、ここでいう計算値は、表3に記載のHOMOを算出するときに用いた分子軌道計算によって求められた計算値である。
【0075】
【表5】

【0076】
表5中に示される化合物は、式[1]あるいは[2]で示される化合物であって、同一の連結基(m−ビフェニレン基)を有し、Arとして、ビフェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニル基のいずれかが置換された化合物である。ここで表5より、いずれの化合物もT1が波長換算で490nm以下であることが示されている。
【0077】
次に、本発明の有機発光素子を説明する。
【0078】
本発明の有機発光素子は、一対の電極である陽極と陰極と、この陽極と陰極との間に配置される有機化合物層と、を有する。
【0079】
本発明の有機発光素子の基本構成として、具体的には、以下に示す構成が挙げられる。ただし本発明はこれらの限定されるものではない。
(i)(基板/)陽極/発光層/陰極
(ii)(基板/)陽極/正孔輸送層/電子輸送層/陰極
(iii)(基板/)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iv)(基板/)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)(基板/)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極
【0080】
本発明の有機発光素子において、本発明に係る有機化合物は、有機化合物層に含まれている。ここで有機化合物層とは、具体的には、上記(i)乃至(v)の素子構成で示される発光層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔注入層、正孔・エキシトンブロッキング層が挙げられる。本発明の係る有機化合物は、好ましくは、発光層に含まれる。即ち、本発明の有機発光素子において、有機化合物層が発光層を有しており、この発光層が本発明に係る有機化合物を有している態様が好ましい。
【0081】
本発明に係る有機化合物が発光層に含まれる場合、発光層は、好ましくは、ホストとゲストとからなる層である。ここでゲストとは、有機発光素子の実質的な発光色を規定する材料のことであり、それ自体が発光する材料である。一方、ホストとは、上記ゲストよりも発光層全体に対する組成比が高い材料である。本発明に係る有機化合物は、ホストとして用いてもよいしゲストとして用いてもよい。特に、燐光発光材料(ゲスト)に対するホストとして使用するのが好ましい。本発明に係る有機化合物をホストとして用いると、490nmから660nmの領域に発光ピークを持つ緑から赤領域に発光するゲストと組み合わせた場合、三重項エネルギーのロスが少ないため、発光素子の効率が高くなる。
【0082】
また本発明者らは種々の検討を行い、本発明に係る有機化合物を発光層のホストとして用いると、素子の駆動電圧を低減しかつ発光効率が向上することを見出した。これは、本発明に係る有機化合物が、T1が高い化合物であって、主骨格たるベンゾチエノベンゾチオフェン基により発光層への正孔注入・輸送性能が高く、また高い電子輸送能力をもつアリール基を有するためである。これにより、正孔と電子とを発光層内で効率良く再結合させることができる。
【0083】
尚、本発明に係る有機化合物を発光層のゲストとして用いる場合、ホストに対するゲストの濃度は、発光層全体に対して0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。尚、ゲストは、発光層において組成比が低い材料である。一方で、ホストは発光層において組成比が高い材料である。この場合、ホスト及びゲストの組成比は、発光層を構成する全成分を分母とする重量%で示される。
【0084】
本発明に係る有機化合物は、主に有機発光素子を構成する発光層に含まれるホストとして使用されるものであるが、これに限定されるものではない。例えば、正孔輸送層や電子輸送層等の電荷輸送層の構成材料として用いてもよい。また、緑色発光する燐光発光素子に限らず赤色発光する燐光発光素子に用いてもよい。その場合でも、有機発光素子に含まれる発光層のホスト、正孔輸送層や電子輸送層等の電荷輸送層に含まれる材料として用いるのが好ましい。
【0085】
本発明に係る有機化合物を、電子ブロッキング層又は正孔輸送層の構成材料として用いることで、低電圧駆動でかつ高効率発光の有機発光素子を提供することができる。これは主骨格たるベンゾチエノベンゾチオフェン基が有する高い正孔輸送性と、発光層からの電子を阻止できる程度の高い電子注入準位を持つことによるものである。
【0086】
また本発明に係る有機化合物を、電子輸送層の構成材料として用いることで、電子を効率良く発光層に輸送することができる。これは本発明に係る有機化合物、具体的には、式[1]乃至[3]で表される有機化合物が有するArが、電子輸送能力の高いアリール基であるためである。
【0087】
本発明の有機発光素子は本発明に係る有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料、ホスト、ゲスト、電子注入性材料あるいは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。
【0088】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0089】
正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料としては、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。正孔注入性能あるいは正孔輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0090】
ホストとしては、トリアリールアミン誘導体、フェニレン誘導体、縮合環芳香族化合物(例えばナフタレン誘導体、フェナントレン誘導体、フルオレン誘導体、クリセン誘導体、等)、有機金属錯体(例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、有機イリジウム錯体、有機プラチナ錯体等)及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体、ポリ(チエニレンビニレン)誘導体、ポリ(アセチレン)誘導体等の高分子
誘導体が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0091】
ゲストとしては、以下に示す、燐光発光性のIr錯体や、プラチナ錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0092】
【化11】

【0093】
また、蛍光発光性のドーパントを用いることもでき、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0094】
電子注入性材料あるいは電子輸送性材料としては、正孔注入性材料あるいは正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮し選択される。電子注入性能あるいは電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0095】
陽極の構成材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は単独で使用してもよいし複数併用して使用してもよい。また、陽極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0096】
一方、陰極の構成材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で使用してもよいし、複数併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0097】
本実施形態に係る有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で形成する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0098】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0099】
本発明の有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト等がある。
【0100】
表示装置は、表示部に、本発明の有機発光素子を有する。またこの表示部は複数の画素を有する。ここでこの画素は、本発明の有機発光素子と、当該有機発光素子の発光輝度を制御するためのスイッチング素子(例えば、TFT素子)とを有し、この有機発光素子の陽極又は陰極とTFT素子のドレイン電極又はソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0101】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0102】
次に、本発明の有機発光素子を使用した表示装置の具体例について図面を参照しながら説明する。
【0103】
図1は、本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0104】
図1の表示装置20は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0105】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極又は陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極又はドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0106】
尚、図1の表示装置20において、有機化合物層12は、単層又は多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0107】
本発明の表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型の素子等を用いてもよい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例において、本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
[実施例1]例示化合物A7の合成
【0110】
【化12】

【0111】
(1)化合物F3の合成
反応容器内に、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
化合物F1:10.3g(52.3mmol)
化合物F2:10.0g(52.3mmol)
トルエン:150ml
エタノール:50ml
20重量%炭酸ナトリウム水溶液:100ml
【0112】
次に、テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)1.2g(1.0mmol)を加えた後、反応溶液を90℃に加熱してこの温度(90℃)で5時間半攪拌を行った。次に、反応溶液を冷却した後、この反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、水層にトルエンを加えてもう1回溶媒抽出操作を行ってさらに有機層を回収した。次に、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:3)で精製することにより、肌色固体の化合物F3を4.2g(収率33%)得た。
【0113】
(2)化合物F5の合成
反応容器内に、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
化合物F4:12.8g(37.3mmol)
ジエチルエーテル:70ml
【0114】
次に、t−ブトキシカリウム(1.0mol/Lのテトラヒドロフラン溶液)37.4ml(37.3mmol)を加えた後、反応溶液を室温で30分攪拌した。次に、下記に示される試薬、溶媒を混合することにより調製した溶液を反応溶液中に滴下した。
テトラヒドロフラン:50ml
化合物F3:3.7g(14.9mmol)
【0115】
次に、反応溶液を室温で12時間攪拌した。次に、反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、水層にトルエンを加えてもう1回溶媒抽出操作を行ってさらに有機層を回収した。次に、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;トルエン:ヘプタン=1:3)で精製することにより、黄色液体の化合物F5を得た。尚、得られた化合物F5は、そのまま次の反応に用いた。
【0116】
(3)化合物F6の合成
反応容器内に、先程合成した化合物F5と、ジクロロメタン100mlとを加えた。次に、反応溶液中にメタンスルホン酸0.2mlを滴下した。次に、適宜メタンスルホン酸を加えながら反応溶液を室温で3時間攪拌した。反応終了後、反応溶液にメタノールを加えた時に生成する析出物をろ過した。次に、先程のろ過により得られたろ液について、クロロホルムによる溶媒抽出操作を行い有機層を回収した。次に、この有機層を減圧濃縮することで得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;ヘプタン)で精製した後、上記析出物と合わせた。以上により、白色固体である化合物F6を2.2g(化合物F3からの収率:62%)得た。
【0117】
ここで中間体である化合物F6についてCV(サイクリックボルタンメトリー)測定を行った。尚、CVの測定は、0.1Mテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩のアセトニトリル溶液中で行い、参照電極はAg/Ag+、対極はPt、作用電極はグラッシーカーボンを用いて測定した。また、5回挿引時の挿引速度は、1.0V/sで行った。測定装置はALS社製のモデル660C、電気化学アナライザーを用いた。
【0118】
図2は、化合物F6におけるCV測定の結果を示すグラフである。測定の結果、図2に示されるように、1.14V付近に第一酸化電位が観測された。また、5回連続挿引を行ったところ、1.06V付近に新たなピークが観測された。
【0119】
(4)化合物F7の合成
反応容器内に、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
テトラヒドロフラン:40ml
化合物F6:0.8g(3.3mmol)
【0120】
次に、反応溶液を−78℃まで冷却した。次に、反応溶液中にn−ブチルリチウム(1.6mol/Lのへキサン溶液)2.3ml(3.7mmol)を滴下した後、この温度(−78℃)のまま反応溶液を1時間撹拌した。次に、ヨウ化メチル0.3ml(5.0mmol)を反応溶液中に滴下した。次に、反応溶液を、室温まで昇温しながら5時間攪拌した。次に、反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、水層にトルエンを加えてもう1回溶媒抽出操作を行ってさらに有機層を回収した。次に、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣にメタノール及び水を加えることで得られる析出物をろ過した。次に、この析出物を、ヘプタン−トルエン混合溶媒で再結晶した後、さらにヘプタン−酢酸エチル混合溶媒で再結晶することにより、白色固体である化合物F7を380mg(収率44%)得た。
【0121】
ここで化合物F6と同様に化合物F7についてもCV(サイクリックボルタンメトリー)測定を行った。図3は、化合物F7におけるCV測定の結果を示すグラフである。測定の結果、1.08V付近に第一酸化電位が観測された。また、5回連続挿引を行ったところ、新たなピークが観測されることはなかった。尚、測定条件や測定装置は、化合物F6のときと同様である。
【0122】
(5)化合物F8の合成
反応容器内に、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
クロロホルム:20ml
化合物F7:370mg(1.5mmol)
【0123】
次に、室温で、ジクロロメタン4mlと臭素0.08ml(1.5mmol)との混合溶液を反応溶液中に滴下した。次に、反応溶液を室温で2時間攪拌した。次に、炭酸水素ナトリウム水溶液とチオ硫酸ナトリウム水溶液とを加えた後、クロロホルムによる溶媒抽出操作を行うことにより有機層を回収した。次に、有機層を減圧濃縮することで得られる残渣をヘプタン−酢酸エチル混合溶媒で再結晶することにより、白色固体である化合物F8を460mg(収率95%)得た。
【0124】
(6)例示化合物A7の合成
反応容器内に、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
化合物F8:446mg(1.3mmol)
化合物F9:752mg(1.5mmol)
トルエン:15ml
エタノール:6ml
20重量%炭酸ナトリウム水溶液:8ml
【0125】
次に、テトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)93mg(0.08mmol)を加えた後、反応溶液を90℃に加熱してこの温度(90℃)で2時間攪拌を行った。次に、反応溶液を冷却した後、次に、反応溶液中に水及びトルエンを加えた。次に、溶媒抽出操作により有機層を回収した後、水層にトルエンを加えて溶媒抽出操作を行ってさらに有機層を回収した。次に、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。次に、有機層に含まれている溶媒を減圧留去することで得られる残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相;クロロホルム:ヘプタン=1:3)で精製した。次に、精製物を、トルエン−ヘプタン混合溶液で洗浄することにより、白色固体の例示化合物A7を660mg(収率77%)を得た。
【0126】
質量分析法により、例示化合物A7のM+である632を確認した。
【0127】
また、1H−NMR測定により、例示化合物A7の構造を確認した。
【0128】
1H−NMR(CDCl3,500MHz) σ(ppm):8.89(s,1H),8.71−8.65(m,5H),8.16(d,J=7.5Hz,1H),8.14(s,1H),8.10(d,J=8.5Hz,1H),7.94(d,J=8.0Hz,2H),7.90(d,J=8.5Hz,1H),7.84(s,1H),7.80(d,J=7.5Hz,1H),7.77(d,J=7.5Hz,1H),7.72−7.64(m,5H),7.61(t,J=7.5,8.0Hz,2H),7.48(d,J=7.5Hz,1H),7.42(t,J=7.0,8.5Hz,1H),7.35(t,J=7.0,8.5Hz,1H),2.53(s,3H)
【0129】
また例示化合物A7について、トルエン希薄溶液中でのT1を測定した。尚、T1の測定は、トルエン溶液(1×10-4mol/L)を77Kに冷却し、励起波長350nmにて燐光発光成分を測定し、第1ピークの値をT1とした。また装置は日立製分光光度計U−3010を用いた。測定の結果、例示化合物A7のT1は、波長換算で470nmであった。
【0130】
さらに、例示化合物A7について第一イオン化ポテンシャルを測定した。尚、第一イオン化ポテンシャルの測定は、例示化合物A7の蒸着膜を形成し、この蒸着膜について窒素雰囲気下におけるUV測定により行った。また測定装置は理研計器製のAC3を用いた。測定の結果、例示化合物A7の第1イオン化ポテンシャルは6.3eVであった。
【0131】
[実施例2]例示化合物A3の合成
実施例1(6)において、化合物F9を下記化合物F10に変えたことを除いては、実施例1と同様の方法により、例示化合物A3を合成した。
【0132】
【化13】

【0133】
質量分析法により、例示化合物A3のM+である582を確認した。また、実施例1と同様の方法で例示化合物A3についてトルエン希薄溶液中でのT1を測定したところ、466nmであった。
【0134】
[実施例3]例示化合物A5の合成
実施例1(6)において、化合物F9を下記化合物F11に変えたことを除いては、実施例1と同様の方法により、例示化合物A5を合成した。
【0135】
【化14】

【0136】
質量分析法により、例示化合物A5のM+である598を確認した。また、実施例1と同様の方法で例示化合物A5についてトルエン希薄溶液中でのT1を測定したところ、480nmであった。
【0137】
[実施例4]例示化合物A12の合成
実施例1(6)において、化合物F9を下記化合物F12に変えたことを除いては、実施例1と同様の方法により、例示化合物A12を合成した。
【0138】
【化15】

【0139】
質量分析法により、例示化合物A12のM+である556を確認した。また、実施例1と同様の方法で例示化合物A12についてトルエン希薄溶液中でのT1を測定したところ、470nmであった。
【0140】
[実施例5]例示化合物B3の合成
実施例1(6)において、化合物F9を下記化合物F13に変えたことを除いては、実施例1と同様の方法により、例示化合物B3を合成した。
【0141】
【化16】

【0142】
質量分析法により、例示化合物B3のM+である654を確認した。また、実施例1と同様にして例示化合物B3についてトルエン希薄溶液中でのT1を測定したところ、482nmであった。
【0143】
(比較例1)比較化合物a−1の合成
実施例1(6)において、化合物F8を下記化合物F14に変えたことを除いては、実施例1と同様の方法により、比較化合物a−1を合成した。
【0144】
【化17】

【0145】
質量分析法により、比較化合物a−1のM+である562を確認した。また、実施例1と同様の方法で比較化合物a−1についてトルエン希薄溶液中でのT1を測定したところ、471nmであった。さらに、実施例1と同様の方法で比較化合物a−1について第一イオン化ポテンシャルを測定したところ、6.4eVであった。
【0146】
[実施例6]
基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極がこの順で設けられた構成の有機発光素子を、以下に示す方法で作製した。ここで、本実施例で使用した材料の一部を以下に列挙する。
【0147】
【化18】

【0148】
まずスパッタ法により、ガラス基板上にITOを成膜して陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を120nmとした。このように、基板上に陽極(ITO電極)が形成されている基板を透明導電性支持基板(ITO基板)として、以下の工程で使用した。
【0149】
次に、このITO基板上に、下記表に示される有機化合物層及び電極層を、1×10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に成膜した。このとき対向する電極面積は3mm2になるように作製した。
【0150】
【表6】

【0151】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、4.2Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が73cd/Aの緑色発光が観測された。またこの素子において、CIE色度座標は、(x,y)=(0.34,0.62)であった。
【0152】
[実施例7]
実施例6において、発光層のホストとして、例示化合物A7の代わりに例示化合物A3を使用した以外は、実施例6と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、4.1Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が70cd/Aの緑色発光が観測された。またこの素子において、CIE色度座標は、(x,y)=(0.34,0.62)であった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
以上のように、本発明に係わる有機化合物は、緑燐光発光素子に適した高いT1をもち、また、本発明に適した低いHOMO準位及び良好なキャリアバランスを有するため、高い発光効率の有機発光素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0154】
8:TFT素子、11:陽極、12:有機化合物層、13:陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]乃至[3]のいずれかで示されることを特徴とする、ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物。
【化1】

(式[1]乃至[3]において、Arは、フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニレニル基から選ばれるアリール基である。尚、前記Arで表されるアリール基は、下記(A)及び/又は(B)のいずれかで示される置換基を有してもよい。
(A)炭素数1乃至4のアルキル基
(B)フェニル基、フェナンスリル基、フルオレニル基及びトリフェニレニル基から選ばれるアリール基
(前記(B)のアリール基は、炭素数1乃至4のアルキル基をさらに有してよい。)
式[3]において、R1及びR2は、それぞれ水素原子あるいは炭素数1乃至4のアルキル基を表し、同じでも異なってもよい。)
【請求項2】
陽極と陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置される有機化合物層と、を有し、
前記有機化合物層に、請求項1に記載のベンゾチエノベンゾチオフェン化合物が含まれることを特徴とする、有機発光素子。
【請求項3】
前記有機化合物層が発光層を有し、
前記発光層が、前記ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物を有することを特徴とする、請求項2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記発光層が、ホストとゲストとを有し、
前記ホストが、前記ベンゾチエノベンゾチオフェン化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記発光層が燐光発光することを特徴とする、請求項3又は4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素を有し、
前記画素が、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に電気接続するスイッチング素子と、をそれぞれ有することを特徴とする、表示装置。
【請求項7】
画像を入力するための画像入力部と、画像を出力するための表示部と、を有し、
前記表示部が複数の画素を有し、
前記画素が、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に電気接続するスイッチング素子と、をそれぞれ有することを特徴とする、画像出力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−140389(P2012−140389A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1127(P2011−1127)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】