説明

ベンゾトリアジン化合物及びその用途

【課題】低侵襲且つ優れた抗脳腫瘍効果を持つ新規な化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるベンゾトリアジン化合物又はその塩。


[式中、X及びXは、同一又は異なって、N又はN−オキシド基を示す。但し、X及びXの少なくとも一方はN−オキシド基を示すものとする]。該化合物は、優れたPhosphoInoshitol−3Kinase/ProteinKinaseB(PI3K/Akt)抑制効果及び低酸素誘導因子(HypoxiaInducibleFactor;HIF)抑制効果並びに優れた抗腫瘍効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンゾトリアジン化合物又はその塩、並びにこれらを有効成分とする医薬組成物、特に脳腫瘍治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳に発生する原発性悪性腫瘍は、その臓器の特異性から、一般に外科手術に困難を伴う。このうち、約30%は悪性神経膠腫(グリオブラストーマ)が占め、脳内や脊髄に浸潤することが特徴であるため、外科手術により完全に摘出することが困難であり、通常は術後に放射線療法や薬物療法を必要とする。薬物療法には、ニトロソウレア系抗癌剤(例えば、塩酸ニムスチン)等の化学療法、加えてインターフェロン等の免疫療法が一般的であるが、これら治療薬は血液脳関門を通過できず、その抗腫瘍効果は芳しくはなく、短期日で多くの患者に再発が生じる。再発した場合、多くは1年以内に腫瘍死に至る。
【0003】
新たな治療法として、化学療法剤のテモゾロミド(以下、TMZ)投与及び放射線療法の併用が行われ、放射線のみの治療より優れるとする結果を得たが、その半数は14.6月以内に腫瘍死に至る(非特許文献1)。特に、多形悪性神経膠腫(GBM)の患者年齢は中年以降であり、TMZは患者への侵襲が激しく、反面治療効果は期待できない。
【0004】
3−アミノ−1,2,4−ベンゾトリアジン−1,4−ジオキシド (ティラパザミン、SR−4233、以下、TPZ)は、抗腫瘍効果を持つN−オキシドとして知られており、その誘導体である3−(4−メトキシアニリノ)―1,2,4−ベンゾトリアジン−1,4−ジオキシド等もまた抗腫瘍効果を持つことが示されている(非特許文献2)。しかし、これら誘導体は、DNAアルキル化剤であることから(非特許文献3)、副作用として悪心、嘔吐、下痢、好中球減少、血小板減少及び筋肉痙攀等を引き起こす等、患者への侵襲性が高く、医薬品として優れたものであるとは言えない。
【0005】
ヘテロサイクリックトリアジン骨格を持ち、キナーゼ阻害活性を有する誘導体が合成されている。これらはDNAアルキル化作用も有している。しかし、これらの抗腫瘍効果は示されておらず、脳腫瘍への有用性は示唆もされていない。(特許文献1)
一方、悪性神経膠腫をはじめとする脳腫瘍の一種では、その悪性度がPhospho Inoshitol−3 Kinase/Protein Kinase B(PI3K/Akt)の発現量と相関し(非特許文献4)、同様に、低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor;HIF)の発現量とも相関していることが報告されている(非特許文献5)。これらの作用機作は脳腫瘍治療の標的として期待されるが、有望な脳腫瘍治療剤は未だ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006−131835
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N Engl J Med 352(10):987, 2005.
【非特許文献2】Bioorg Med Chem Lett 16: 4209, 2006.
【非特許文献3】J Org Chem 63: 10027, 1998.
【非特許文献4】Lab Invest 84: 941, 2004.
【非特許文献5】Neuropathol Appl Neurobiol 30: 267, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脳腫瘍の治療に用いる既存薬物療法は、侵襲性が高い一方で、その効果が芳しくない。本発明は、患者にとって低侵襲且つ優れた抗脳腫瘍効果を持つ新規な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脳腫瘍治療として有用な化合物につき鋭意検討した結果、下記一般式(I)で表される新規ベンゾトリアジン化合物を見出した。更にこの化合物の薬理作用を検討したところ、優れたAkt抑制効果及びHIF抑制効果並びに優れた抗腫瘍効果を持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の各項に示すベンゾトリアジン化合物又はその塩、医薬組成物及び脳腫瘍治療剤を提供するものである。
【0011】
項1.下記一般式(I)
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、X及びXは、同一又は異なって、N又はN−オキシド基を示す。但し、X及びXの少なくとも一方はN−オキシド基を示すものとする。]
で表されるベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【0014】
項2.一般式(I)において、アニリノ基上のヒドロキシル基が4位に置換されている項1に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【0015】
項3.X及びXが共にN−オキシド基である項1に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【0016】
項4.3−(4−ヒドロキシアニリノ)−1,2,4−ベンゾトリアジン−1,4−ジオキシドである項1に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【0017】
項5.項1〜4のいずれか1項に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩を有効成分として含有する抗悪性腫瘍剤。
【0018】
項6.項1〜4のいずれか1項に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩を有効成分として含有する抗悪性脳腫瘍治療剤。
【0019】
項7.項1〜4のいずれか1項に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩を有効成分として含有する抗悪性神経膠腫治療剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一般式(I)で表されるベンゾトリアジン化合物(以下、単に化合物(I)と示すこともある)は、天然に存在しない新規な化合物である。そして化合物(I)又はその塩は、Akt阻害効果及びHIF抑制効果により、既知の脳腫瘍治療剤にはない、低侵襲且つ優れた抗腫瘍効果をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】神経膠腫の悪性度とAkt2及びHIF−1の発現量を示す。
【図2】本発明化合物のAkt2及びHIF−1の発現抑制作用を示す。
【図3】脳腫瘍細胞に対する本発明化合物の増殖抑制効果を示す。
【図4】CD133陽性癌細胞のヌードマウス皮下移植モデルにおける化合物2投与による抗腫瘍効果を示す。
【図5】CD133陽性癌細胞のヌードマウス皮下移植モデルにおける化合物2投与による体重変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、一般式(1)で表されるベンゾトリアジン化合物又はその塩を提供する。
【0023】
【化2】

【0024】
[式中、X及びXは、同一又は異なって、N又はN−オキシド基を示す。但し、X及びXの少なくとも一方はN−オキシド基を示すものとする。]
上記一般式(I)において、アニリノ基は1個のヒドロキシル基を有する。当該ヒドロキシル基の位置としては、例えば、2〜4位が挙げられ、好ましくは4位である。
【0025】
及びXは同一又は異なってN又はN−オキシド基を示す。但し、X及びXの少なくとも一方はN−オキシド基を示すものとする。好ましくはX及びXは共にN−オキシド基である。
【0026】
本発明の化合物は、酸性官能基と塩基性官能基の双方を有しうるので、無機又は有機酸若しくは無機又は有機塩基と反応して、薬学上許容される塩を形成しても良い。薬学上許容される塩の例としては、本発明の化合物と無機又は有機酸若しくは無機又は有機塩基との反応より作製される、硫酸塩、ピロ硫酸塩、二硫酸塩、亜硫酸塩、二亜硫酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオール酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、ブチン−1,4−ジオエート、ヘキシン−1,6−ジオエート、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、スルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、γ−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、マンデル酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩及びリチウム塩等の塩が挙げられる。
【0027】
本発明の化合物が塩基である場合、目的の薬学上許容される塩は、例えば、遊離塩基を塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸で、又は酢酸、マレイン酸、コハク酸、マンデル酸、フマル酸、マロン酸、ピルビン酸、シュウ酸、グリコール酸、サリチル酸、ピラノシジル酸(グルクロン酸又はガラクツロン酸等)、α−ヒドロキシ酸(クエン酸又は酒石酸等)、アミノ酸(アスパラギン酸又はグルタミン酸等)、芳香族酸(安息香酸又は桂皮酸等)、スルホン酸(p−トルエンスルホン酸又はエタンスルホン酸等)等の有機酸で処理する等、当技術分野で利用可能な好適ないずれかの方法によって作製することができる。
【0028】
また、本発明の化合物が酸である場合、目的の薬学上許容される塩は、例えば、遊離酸をアミン(第一級、第二級又は第三級)、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物等の無機又は有機塩基で処理する等、好適ないずれかの方法によって作製することができる。
【0029】
なお、本発明化合物が固体の場合、当業者ならば、本発明の化合物及び塩は異なる結晶形又は多型で存在する場合があり、その総てが本発明の範囲内にあるものとされる。
【0030】
本発明の化合物の合成法は、何ら限定されるものではないが、例えば、下記スキーム1及びスキーム2に従い製造することができる。
【0031】
【化3】

【0032】
第1工程
本工程では、アミノフェノールの水酸基をシリル化保護するため、イミダゾール存在下でシリル化剤と反応させる。シリル化剤としては、t−ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl)、トリエチルシリルクロリド(TESCl)、トリイソプロピルシリルクロリド(TIPSCl)、t−ブチルジフェニルシリルクロリド(TBDPSCl)等が例示できる。アミノフェノールとシリル化剤との反応における使用量の量比は、前者1モルに対し後者が0.1〜20モル、好ましくは0.5〜10モル、より好ましくは1〜5モルであることが望ましい。反応溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が例示できる。また、反応条件としては、例えば、室温付近にて反応時間は10分間から24時間等が挙げられる。本発明の化合物の原料化合物である上記アミノフェノールは、公知の化合物であるか、又は公知の化合物から容易に製造することができる。
【0033】
第2工程
本工程では、第1工程で得られたアミノ(t−ブチルジメチルシリル)フェノールに3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシドを加え、溶媒下で反応させる。アミノ(t−ブチルジメチルシリル)フェノールに対する3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシドとの反応における使用量の量比は、0.05〜2.0(モル比)、好ましくは0.1〜0.5(モル比)であることが望ましい。反応溶媒としては、ジクロロメタン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、クロロホルム、THF、DMF、DMSO等が例示できる。反応条件としては、例えば、室温付近で反応時間は5日間等が挙げられる。本工程の原料化合物である上記3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシドは、公知の化合物であるか、又は公知の化合物から容易に製造することができる。
【0034】
第3工程
本工程では、第2工程で得られた化合物を、通常公知のシリル保護基の脱保護剤と反応させ、化合物I−1を得ることができる。第2工程で得られた化合物に対する脱保護剤の使用割合は、通常、0.5〜20(モル比)、好ましくは1〜5(モル比)である。脱保護剤としては、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)、フッ化水素酸(HF)、フッ化セシウム(CsF)等が例示できる。反応溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、DMSO等が例示できる。反応条件としては、0℃から10℃で、反応時間は1分間から1時間等が挙げられる。
【0035】
尚、上記3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシドに代えて3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン4−オキシドを用い、上記スキーム1の第1〜3工程と同様の操作を行うことによって、
【0036】
【化4】

【0037】
を得ることができる。本工程の原料化合物である上記3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン4−オキシドは、公知の化合物であるか、又は公知の化合物から容易に製造することができる。
【0038】
【化5】

【0039】
第4工程
本工程では、溶媒の存在下に化合物I−1を、通常公知の酸化剤と伴にアミンオキシド化させることで化合物I−3を得ることができる。反応溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、ヘキサン等が例示でき、酸化剤としては、無水トリフルオロアセテート、過酸化水素、過硫酸、メタクロロ過安息香酸、過酢酸等が例示できる。反応溶媒及び酸化剤の各々の使用量は、いずれも化合物I−1の5倍(モル比)以上が好ましく、5〜20倍(モル比)がより好ましい。反応条件としては、室温付近で反応時間は4時間等が挙げられる。
【0040】
本発明の化合物を医薬として用いるにあたっては、薬学的担体と配合し、予防又は治療目的に応じて各種の投与形態を採用可能であり、該形態としては、例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等のいずれでもよく、好ましくは注射剤、貼付剤、軟膏剤等であり、より好ましくは注射剤であり、特に好ましくは、オンマイヤーチューブにより腫瘍組織内又は脳室内へ持続注入できる注射剤である。これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0041】
薬学的担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の製剤添加物を用いることもできる。
【0042】
経口用固形製剤を調製する場合は、本発明化合物に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が用いられ、崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等を、滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を、着色剤としては、酸化チタン、酸化鉄等を、矯味・矯臭剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等を例示できる。
【0043】
経口用液体製剤を調製する場合は、本発明化合物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合矯味・矯臭剤としては、上記に挙げられたものでよく、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定剤としては、トラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0044】
注射剤を調製する場合は、本発明化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内、髄腔内、静脈内用注射剤、腫瘍内注射剤及び患部注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤及び緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が例示できる。
【0045】
坐剤を調製する場合は、本発明化合物に当業界において公知の製剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセリド等を、さらに必要に応じてツイーン(登録商標)のような界面活性剤等を加えた後、常法により製造することができる。
【0046】
軟膏剤を調製する場合は、本発明化合物に通常使用される基剤、安定剤、湿潤剤、保存剤等が必要に応じて配合され、常法により混合、製剤化される。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、サラシミツロウ、オクチルドデシルアルコール、パラフィン等が挙げられる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0047】
貼付剤を調製する場合は、通常の支持体に前記軟膏、クリーム、ゲル、ペースト等を常法により塗布すればよい。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布や軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン等のフィルムあるいは発泡体シートが適当である。
【0048】
本発明の化合物は、例えば、癌を有する被験体で有益な治療作用又は予防作用を達成するために使用可能である。本発明の化合物で治療可能な腫瘍としては、Akt経路に依存していると言われる脳腫瘍、結腸癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、膵臓癌等の固形腫瘍、又は非ホジキンリンパ腫及び白血病等の非固形腫瘍が挙げられ、好ましくは固形腫瘍であり、より好ましくは脳腫瘍であり、更に好ましくは神経鞘性腫瘍であり、特に好ましくは神経膠腫である。
【0049】
本発明の化合物は、脳腫瘍の治療に用いられる一般的な抗癌剤、温熱療法、凍結療法レーザー焼灼療法及び/又は放射線療法と併用する場合にも有用である。併用する抗癌剤としては、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、アドリアマイシン、エトポシド、エンドキサン、イホマイド、ネララビン、シクロホスファミド、エトポシド、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ニムスチン、テモゾロミド、フルオロウラシル等が挙げられる。
【0050】
本発明の治療薬の投与経路は、薬学上考えられる方法であれば、何れでも構わない。例えば、経口、経鼻、経皮、経肛門、血管内、腹腔内投与、筋内、頭蓋内、病変内、髄腔内、腫瘍内、脊髄内、身体腔内等への投与が挙げられ、又、その外科的摘出処置を施す際に腫瘍病変のあった箇所やその周囲への直接投与が挙げられ、経口、血管内、頭蓋内、病変内、髄腔内、腫瘍内、脊髄内若しくは身体腔内への投与、又は外科的摘出処置後の腫瘍病変のあった箇所やその周辺への直接投与が好ましい。
【0051】
本発明の治療薬は、疎水性で溶解性が高くはないため、脳腫瘍に対しては、頭蓋内、病変内若しくは腫瘍病変内への投与、又は外科的摘出処置後の腫瘍病変のあった箇所やその周囲へ直接投与するのがより好ましい。
【0052】
被験体に投与する本発明の化合物の量は、疾病又は症状のタイプ及び重篤度、ならびに健康状態、年齢、性、体重及び治療薬に対する許容性等の被験体の特徴によって異なる。当業者ならば、これら及び他の要因に応じて適当な用量を決定することができる。一般的に用いられている抗癌剤及び放射線療法の有効用量は当業者には周知である。
【0053】
本化合物の有効投与量は一般に、約1mg/日〜約5000g/日の間、好ましくは2mg/日〜約2000g/日である。
【実施例】
【0054】
以下に実施例、試験例及び製剤例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0055】
実施例1
3−(4−ヒドロキシアニリノ)−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシド(化合物1)の合成
p−アミノフェノール(1g、9.16mmol)をt−ブチルジメチルシリルクロリド(TBDMSCl;2.05g、13.6mmol)、イミダゾール(1.25g、18.3mmol)及びジクロロメタン(20mL)と室温で25分間混合した。反応液をジクロロメタン塩水(25mL)で3回抽出し、溶媒を減圧留去することで、p−アミノ(t−ブチルジメチルシリル)フェノール(2.68g)を得た。
【0056】
p−アミノ(t−ブチルジメチルシリル)フェノール(2.68g、9.16mmol)に3−クロロ−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシド(554mg、3.05mmol)とN,N―ジイソプロピルエチルアミン(DIEA;1.59mL、9.16mmol)を加え、ジクロロメタン(10mL)中に室温で5日間撹拌した。反応液を0.1N塩酸(30mL)で3回洗浄し、有機層をMgSO4で乾燥させ、減圧留去した。残留物を、ヘキサン:酢酸エチル:アセトニトリル=9:1:0.5の比の展開溶媒によるシリカゲルクロマトグラフィーで精製を行い、更にヘキサン/ジクロロメタンで再沈殿させ、赤色粉末の3−[4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)アニリノ]−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシド(855mg、収率76%)を得た。
【0057】
3−[4−(t−ブチルジメチルシリルオキシ)アニリノ]−1,2,4−ベンゾトリアジン1−オキシド(167mg、0.45mmol)に1Mフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF;0.91mL、0.91mmol)を加え、テトラヒドロフラン(THF)中に5℃で20分間混合した。反応液を減圧留去し、残留物を2〜10%メタノール/ジクロロメタンのグラジエントカラムクロマトグラフィーで抽出精製し、化合物1(120mg、収率100%)を得た。
【0058】
化合物1
mp 272-274 ℃ (dec)
1H NMR [CD3OD] δ8.17 (dd, J= 8.5, 1.5 Hz, 1H), 7.69 (ddd, J= 8.5, 7.0, 1.5 Hz, 1H), 7.57 (dd, J= 8.8, 1.0 Hz, lH), 7.47-7.44 (my 2H), 7.29 (ddd, J= 8.5, 7.0, 1.5 Hz, lH), 6.73-6.68 (m, 2H), 4.51 (s, 1H, NH)
IR (KBr) 3306, 3207, 2927, 1599, 1359, 1309, 1217, 760 cm-1
MS (EI) m/z 254 (M+, 100), 237 (24)
Anal. calcd for C13H10N4O2: C, 61.41; H, 3.96; N, 22.04. Found: C, 61.14; H, 4.10; N, 21.85.
上記NMR及びX線解析から、常法に従い、ベンゾトリアジンの1位にN−オキシドが存在していることが確認された。
【0059】
実施例2
3−(4−ヒドロキシアニリノ)−1,2,4−ベンゾトリアジン1,4−ジオキシド(化合物2)の合成
化合物1(30mg、0.12mmol)を含む0℃のジクロロメタン溶液に無水トリフルオロアセテート(165μL、1.2mmol)を添加し、5分間混和した。更に30%過酸化水素(112μL、1.2mmol)を滴加し、室温で4時間混合した。反応液は、塩水で薄められ、28%アンモニア水溶液(0.5mL)でアルカリ化させた。水溶液をジクロロメタンで抽出し、有機層は硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒は蒸発させた。残留物を酢酸エチルと2%メタノール/ジクロロメタンのグラジエントカラムクロマトグラフィーで抽出精製し、紫色粉末の化合物2(17.7mg、収率55%)を得た。
【0060】
化合物2
mp 208-210℃
1H NMR [(CD3)2SO] δ8.28 (t, J= 8.8Hz, 2H), 7.98 (ddd, J= 8.5, 7.1, 1.5 Hz, 1H), 7.83 (t, J= 8.5 Hz, 1H, NH), 7.61 (ddd, J= 8.5, 7.2, 1.2 Hz, 1H), 7.38 (dd, J= 8.7, 1.7 Hz, 2H, PhOH), 6.79 (dd, J= 9.0, 1.5Hz, 2H, PhNH), 3.42 (s, 1H, OH)
IR (KBr) 3366, 3212, 1618, 1599, 1522, 1492, 1405, 1336, 1107, 737cm-1
MS (EI) m/z 270 (M+, 13), 254 (68), 238 (56), 210 (100)
Anal. calcd for C13H10N4O3: C, 57.78; H, 3.73; N 20.73. Found C, 57.56; H, 3.76; N, 20.75.
上記NMR及びX線解析から、常法に従い、ベンゾトリアジンの1及び4位にN−オキシドが存在していることが確認された。
【0061】
試験例1
神経膠腫は、その悪性度を示す指標であるWHOグレーディング法を常法として分類される。各グレードの神経膠腫患者の脳組織を採取し、蛋白分解阻害剤(Roche社製)を含むリパバッファー(Thermo Scientific社製)を用いて蛋白質を抽出し、BCAキット(PIERCE社製)を用いてその説明書に従い蛋白濃度を測定し、抗Akt2抗体(Cell Signaling Technology社製)及び抗HIF−1抗体(Cell Signaling Technology社製)を用いてAkt2及びHIF−1α蛋白質発現をウェスタンブロット法にて検出した。対照として、ベーターアクチンも検出した。その蛋白質の発現量は、常法であるイメージング解析法(NIHイメージ)により数値化した。
【0062】
その結果を図1に示す。正常組織(N)では、Akt2発現量及びHIF−1発現量は低値であるのに対し、神経膠腫(GBM)の悪性度が増すに従い(I〜IV)これら発現量は高値となる。Akt2及びHIF−1は、神経膠腫の悪性化に関与することが確認された。
【0063】
試験例2
実施例2にて合成した化合物2を、RPMI−1640培地にて培養下の神経膠芽腫細胞U87株に添加した。具体的には、培養液中の化合物2の濃度が10−5Mとなるように添加し、37℃にて保持した。化合物2添加後、3、6、12及び24時間後に細胞をサンプリングし、試験例1と同様にして、経時的なAkt2発現及び、HIF−1発現をウェスタンブロッティング法で検出した。
【0064】
その結果を図2に示す。化合物2は、神経膠腫細胞のAkt2及びHIF−1a発現を著しく抑制することが確認された。
【0065】
試験例3
実施例2にて合成した化合物2の神経膠腫患者由来細胞(TGB)、神経膠腫細胞株U251及び神経膠芽腫細胞株U87に対する増殖抑制効果を検討した。具体的には、RPMI−1640培地中の細胞を96穴プレートに播種し、24時間後から各濃度の化合物2を1日1回3日間添加し、その24時間培養後に、MTTアッセイ法により生細胞数を測定した。化合物2非添加下の生細胞数に対する化合物2添加下の生細胞数の割合から、細胞増殖抑制率(Cell Growth Inhibition)(%)を求めた。
【0066】
その結果を図3に示す。化合物2は、これら細胞に対して増殖抑制効果を持つことが確認された。
【0067】
試験例4
GBM細胞から単離したCD133陽性細胞をヌードマウスに皮下移植し、増殖した腫瘍組織を細切し、day0に新たにヌードマウスに皮下移植し、腫瘍を増殖させた。実施例2にて合成した化合物2を、様々な用量で腫瘍内にday8からday14まで7日間注入し、腫瘍の体積(Tumor Volume;TV)を経日的に測定した。
腫瘍体積は、下記の式により算出した。
【0068】
[腫瘍体積]=4π/3x[(腫瘍長径+腫瘍短径)/2]
相対腫瘍増殖比(Relative Tumor Volume;RTV)は、各腫瘍測定日(dayN)のTVをday8のTVで割った値である。その結果を図4に示す。
【0069】
また、これらのヌードマウスの体重も経日的に測定した。体重の推移を図5に示す。
【0070】
化合物2は、ヌードマウスの体重には影響を及ぼさず、腫瘍の増殖を用量依存的に抑制することが確認できた。
【0071】
これらの結果から、本発明化合物は、Akt発現やHIF発現を抑制し、抗脳腫瘍効果を持ち、脳腫瘍治療に有用であることが確認できた。
【0072】
製剤例
注射剤
化合物(I) 20mg
塩化ナトリウム 3.5mg
注射用蒸留水適量
(1アンプル当たり2ml)
上記配合割合で、常法に従い、注射剤を調整した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

[式中、X及びXは、同一又は異なって、N又はN−オキシド基を示す。但し、X及びXの少なくとも一方はN−オキシド基を示すものとする。]
で表されるベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【請求項2】
一般式(I)において、アニリノ基上のヒドロキシル基が、4位に置換されている請求項1に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【請求項3】
及びXが共にN−オキシド基である請求項1に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【請求項4】
3−(4−ヒドロキシアニリノ)−1,2,4−ベンゾトリアジン−1,4−ジオキシドである請求項1に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩を有効成分として含有する抗悪性腫瘍剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩を有効成分として含有する抗悪性脳腫瘍治療剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のベンゾトリアジン化合物又はその塩を有効成分として含有する抗悪性神経膠腫治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−46628(P2011−46628A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194744(P2009−194744)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 開架者 徳島大学附属図書館 刊行物名 Oxygen−sensing antineoplastic drugs:Design of 1−methyltryptophan−tirapazamine hybrids 開架日 2009年3月
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000207827)大鵬薬品工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】