説明

ベーン型圧縮機

【課題】ベーン先端部の境界潤滑状態の摺動による機械損失や短寿命化を改善するために、ベーン先端部のR形状の半径とシリンダ内径をほぼ同等に形成するとともに、両者のR形状の法線が常にほぼ一致するように圧縮動作を行なうことで、ベーンの先端とシリンダが流体潤滑可能なベーン型圧縮機を提供する。
【解決手段】この発明に係るベーン型圧縮機は、略円筒状で、軸方向の両端が開口しているシリンダと、シリンダの両端を閉塞するシリンダヘッド及びフレームと、シリンダ内で回転運動する円柱形のロータ部及びロータ部に回転力を伝達するシャフト部を有するロータシャフトと、ロータ部内に設置され、先端部が外側にR形状に形成されるベーンを有するベーン型圧縮機において、ベーンの先端部のR形状とシリンダの内径の法線が常にほぼ一致する状態で圧縮動作を行なうものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベーン型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータシャフト(シリンダ内で回転運動する円柱形のロータ部と、ロータ部に回転力を伝達するシャフトとが一体化されたものをロータシャフトという)のロータ部内に一箇所または複数箇所形成されたベーン溝内にベーンが嵌入され、そのベーンの先端がシリンダ内径と当接しながら摺動する構成の一般的なベーン型圧縮機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ロータシャフトの内側を中空に構成しその中にベーンの固定軸を配し、ベーンはその固定軸に回転可能に取り付けられ、更に、ロータ部の外径付近に半円棒形状の一対の挟持部材を介してベーンがロータ部に対して回転自在に保持されているベーン型圧縮機が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−252675号公報(第4頁、第1図)
【特許文献2】特開2000−352390号公報(第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の一般的なベーン型圧縮機(例えば、特許文献1)は、ベーンの方向がロータシャフトのロータ部内に形成されたベーン溝により規制されている。ベーンはロータ部に対して常に同じ傾きとなるように保持される。そのため、ロータシャフトの回転に伴い、ベーンとシリンダ内径の成す角度は変化し、全周に亘ってベーン先端がシリンダ内径に当接するためには、ベーンの先端Rをシリンダ内径Rに比べて小さく構成する必要があった。
【0006】
ベーン先端がシリンダ内径と当接しながら摺動するものにおいては、Rの大きく異なるシリンダ内径及びベーン先端が摺動するため、二つの部品(シリンダ、ベーン)間に油膜を形成しその油膜を介して摺動する流体潤滑の状態にはならず、境界潤滑状態となってしまう。一般に潤滑状態による摩擦係数は、流体潤滑では0.001〜0.005程度なのに対し、境界潤滑状態では非常に大きくなり、概ね0.05以上となる。
【0007】
従来の一般的なベーン型圧縮機の構成では、ベーンの先端とシリンダの内径が境界潤滑状態で摺動することにより摺動抵抗が大きく、機械損失の増大による圧縮機効率の大巾な低下が発生してしまう。同時にベーン先端及びシリンダ内径が摩耗しやすく長期の寿命を確保することが困難であるという課題があった。そこで、従来のベーン型圧縮機においては、ベーンのシリンダ内径に対する押し付け力を極力低減するための工夫がなされていた。
【0008】
上記の課題を改善する形態として、ロータ部の内径を中空にし、その中にベーンをシリンダ内径の中心にて回転可能に支持する固定軸を有し、且つベーンがロータ部に対し回転可能となるようにロータ部の外周部近傍で狭持部材を介してベーンを保持する方法(例えば、特許文献2)が提案された。
【0009】
この構成にすることにより、ベーンはシリンダ内径の中心にて回転支持されている。そのため、ベーンの方向は常にシリンダ内径の法線方向となり、ベーン先端部がシリンダ内径に沿うように、シリンダ内径Rとベーン先端Rをほぼ同等に構成することが可能となり、ベーン先端とシリンダ内径を非接触に構成することができる。もしくは、ベーン先端とシリンダ内径とが接触する場合でも十分な油膜による流体潤滑状態とすることができる。それにより、従来のベーン型圧縮機の課題であるベーン先端部の摺動状態を改善することが可能となる。
【0010】
しかし、上記特許文献2の方法では、ロータ部内径を中空に構成することにより、ロータ部への回転力の付与やロータ部の回転支持が難しくなる。特許文献2では、ロータ部の両端面に端板を設けている。片側の端板は、回転軸からの動力を伝達する必要があるため円盤状であり、端板の中心に回転軸が接続される構成となっている。また、他側の端板は、ベーン固定軸やベーン軸支持材の回転範囲と干渉しないように構成する必要があるため、中央部に穴の開いたリング状に構成する必要がある。このため、端板を回転支持する部分は、回転軸に比べて大径に構成する必要があり、摺動損失が大きくなるという課題がある。
【0011】
また、ロータ部とシリンダ内径との間は、圧縮したガスが漏れないように狭い隙間を形成するため、ロータ部の外径や回転中心には高い精度が必要とされる。しかし、ロータ部と端板は別々の部品で構成されるため、ロータ部と端板との締結により発生する歪みやロータ部と端板の同軸ズレ等、ロータ部の外径や回転中心の精度を悪化させる要因となってしまうという課題があった。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、以下に示すベーン型圧縮機を提供する。
(1)第1に、ベーン先端部の境界潤滑状態の摺動による機械損失や短寿命化を改善するために、ベーン先端部のR形状の半径とシリンダ内径Rをほぼ同等に形成するとともに、両者のR形状の法線が常にほぼ一致するように圧縮動作を行なうことで、ベーンの先端とシリンダが流体潤滑可能なベーン型圧縮機。
(2)第2に、ベーン先端部のR形状とシリンダ内径Rの法線が常にほぼ一致するように圧縮動作を行なうために必要なベーンがシリンダの中心周りに回転運動する機構を、ロータ部の外径や回転中心精度悪化をもたらすロータ部の端板を用いず、ロータ部と回転軸を一体に構成する形で実現する構成のベーン型圧縮機。
(3)第3に、上記の機構を応用することで、ベーン先端部とシリンダ内径を非接触に構成しつつ、ベーン先端部とシリンダ内径の間の隙間からのガス漏れを最小限にするベーン型圧縮機。
(4)第4に、上記の機構を実現しつつ、ロータ部内でベーンが回転自在かつ略法線方向へ移動可能となる機構を流体潤滑状態で摺動可能な方法で実現するベーン型圧縮機。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るベーン型圧縮機は、略円筒状で、軸方向の両端が開口しているシリンダと、シリンダの両端を閉塞するシリンダヘッド及びフレームと、シリンダ内で回転運動する円柱形のロータ部及びロータ部に回転力を伝達するシャフト部を有するロータシャフトと、ロータ部内に設置され、先端部が外側にR形状に形成されるベーンを有するベーン型圧縮機において、
ベーンの先端部のR形状とシリンダの内径の法線が常にほぼ一致する状態で圧縮動作を行なうものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係るベーン型圧縮機は、ベーンの先端部のR形状とシリンダの内径の法線が常にほぼ一致する状態で圧縮動作を行なうため、ベーンの先端とシリンダが流体潤滑可能とし、摺動による機械損失を低減し、また、ベーン先端及びシリンダ内径の摩耗に対する寿命を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の基本的な技術思想の説明図。
【図2】ストライベック線図。
【図3】実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の縦断面図。
【図4】実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮要素101の分解斜視図。
【図5】実施の形態1を示す図で、ベーンアライナ5,6の平面図。
【図6】実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮要素101の平面図(角度90°)。
【図7】実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮動作を示す圧縮要素101の平面図。
【図8】実施の形態1を示す図で、ベーン7の斜視図。
【図9】実施の形態2を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮要素101の平面図(角度90°)。
【図10】実施の形態3を示す図で、ベーン7とベーンアライナ6を一体化した構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
先ず、本発明の基本的な技術思想について、図1を参照しながら説明する。図1は本発明の基本的な技術思想の説明図である。ここでは、従来の一般的なベーン型圧縮機(例えば、特許文献1)と、本発明のベーン型圧縮機とを比較して示している。尚、既に説明したように、本発明の基本的な技術思想と類似のものが、例えば、特許文献2に開示されているが、本発明はそれを実現する手段(方法)が異なる。その実現手段については、追って詳細に説明する。
【0017】
既に説明したように、従来の一般的なベーン型圧縮機(例えば、特許文献1)は、ベーンの方向がロータシャフトのロータ部内に形成されたベーン溝により規制される。ベーンはロータに対して常に同じ傾きとなるように保持される。そのため、ロータシャフトの回転に伴い、ベーンとシリンダ内径の成す角度は変化し、全周に亘ってベーン先端がシリンダ内径に当接するためには、ベーンの先端Rをシリンダ内径Rに比べて小さく構成する必要があった。即ち、
ベーン先端R<シリンダ内径R
【0018】
そのため、接触式(ベーン先端がシリンダ内径と接触して摺動するもの)並びに非接触式(ベーン先端とシリンダ内径とが非接触のもの)は、夫々以下に示す課題がある。
(1)接触式:ベーン先端がシリンダ内径との摺動部に油膜が形成されないため、境界潤滑状態となる。境界潤滑における摩擦係数は、図2のストライベック線図に示すように、流体潤滑では0.001〜0.005程度なのに対し、境界潤滑状態では非常に大きくなり、慨略0.05以上となり、摺動抵抗が大きくなる。
(2)非接触式:ベーン先端がシリンダ内径との最近接点以外では、ベーン先端がシリンダ内径との間の隙間が大きく、冷媒の漏れが大きくなる。
【0019】
それに対して、本発明は、ベーン先端Rがシリンダ内径Rとほぼ同等、且つベーン先端Rとシリンダ内径Rの法線が常にほぼ一致する状態で圧縮動作を行なうものである。即ち、
ベーン先端R≒シリンダ内径R
【0020】
上記を実現する手段は、詳細は後述するが、例えば、以下に示す通りである。即ち、ベーンが常にシリンダ内径の法線方向、またはシリンダ内径の法線方向に対し一定の傾きを持つように支持するための方法として、シリンダヘッド、又は/及び、フレームのシリンダ側端面にシリンダ内径と同心の凹部またはリング状の溝を形成し、その凹部または溝内に、リング形状の端面に板状の突起を有するベーンアライナを嵌入し、前記板状の突起をベーン内に形成された溝に嵌入することで、ベーンのシリンダ法線に対する方向を一定に規制するものである。本発明は、この点が本発明の基本的な技術思想と類似な技術を開示している、例えば、特許文献2における実現手段と大きく異なり、進歩性を有するものである。
【0021】
ベーン先端R≒シリンダ内径Rとすることにより、接触式(ベーン先端がシリンダ内径と接触して摺動するもの)並びに非接触式(ベーン先端とシリンダ内径とが非接触のもの)が、夫々以下に示すような好ましい状態となる。
(1)接触式:ベーン先端がシリンダ内径との摺動部に油膜が形成され、図2のストライベック線図に示す流体潤滑状態となる。摺動部における摩擦抵抗が、流体潤滑では0.001〜0.005程度で、摺動抵抗が小さくなる。
(2)非接触式:ベーン先端とシリンダ内径との間の隙間が、ベーン幅に亘って小さく、冷媒の漏れが少なくなる。
【0022】
図3は実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の縦断面図である。図3を参照しながら、ベーン型圧縮機200(密閉型)について説明する。但し、本実施の形態は、圧縮要素101に特徴があり、ベーン型圧縮機200(密閉型)は、一例である。本実施の形態は、密閉型に限定されるものではなく、エンジン駆動や開放型容器等の、他の構成のものにも、適用される。
【0023】
図3に示すベーン型圧縮機200(密閉型)は、密閉容器103内に、圧縮要素101と、この圧縮要素101を駆動する電動要素102とが収納されている。圧縮要素101は、密閉容器103の下部に位置し、密閉容器103内の底部に貯留する冷凍機油15を図示しない給油機構により圧縮要素101に導き、圧縮要素101の各摺動部が潤滑される。
【0024】
圧縮要素101を駆動する電動要素102は、例えば、ブラシレスDCモータで構成される。電動要素102は、密閉容器103の内周に固定される固定子11と、固定子11の内側に配設され、永久磁石を使用する回転子12とを備える。固定子11は、密閉容器103に溶接により固定されるガラス端子13から電力が供給される。
【0025】
圧縮要素101は、吸入部16から低圧の冷媒を圧縮室に吸入して圧縮し、圧縮された冷媒は、密閉容器103内に吐出され、電動要素102を通過して密閉容器103の上部に固定された吐出管14から外部(冷凍サイクルの高圧側)に吐出される。ベーン型圧縮機200(密閉型)は、密閉容器103内が高圧となる高圧タイプ、もしくは密閉容器103内が低圧となる低圧タイプのどちらでもよい。
【0026】
本実施の形態は、圧縮要素101に特徴があるので、以下、圧縮要素101について詳細に説明する。図3においても、圧縮要素101を構成する各部品に符号を付しているが、図4の分解斜視図の方が解りやすいので、主に図4を参照しながら説明する。図4は実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮要素101の分解斜視図である。また、図5は実施の形態1を示す図で、ベーンアライナ5,6の平面図である。
【0027】
図4に示すように、圧縮要素101は以下に示す要素を有する。
(1)シリンダ1:全体形状が略円筒状で、軸方向の両端部が開口している。また、内周面に吸入ポート1aが開口している;
(2)フレーム2:断面が略T字状で、シリンダ1に接する部分が略円板状であり、シリンダ1の一方の開口部(図4では上側)を閉塞する。フレーム2のシリンダ1側端面には、シリンダ1の内径と同心であるリング溝状のベーンアライナ保持部2a(図3にのみ図示している)が形成されている。ここに後述するベーンアライナ5が嵌入される。また、フレーム2の略中央部に吐出ポート2bが形成されている;
(3)シリンダヘッド3:断面が略T字状(図3参照)で、シリンダ1に接する部分が略円板状であり、シリンダ1の他方の開口部(図4では下側)を閉塞する。シリンダヘッド3のシリンダ1側端面には、シリンダ1の内径と同心であるリング溝状のベーンアライナ保持部3aが形成されており、ここにベーンアライナ6が嵌入される;
(4)ロータシャフト4:シリンダ1内でシリンダ1の中心軸とは偏心した中心軸上に回転運動を行うロータ部4a、及び上下の回転軸部4b,4cが一体となった構造である(後述する図6も参照)。ロータ部4aには、断面が略円形で軸方向に貫通するブッシュ保持部4d及びベーン逃がし部4eが形成されている。ブッシュ保持部4dとベーン逃がし部4eとは、連通している;
(5)ベーンアライナ5:リング状の部品で、軸方向の一方の端面(図4では下側)に、四角形の板状の突起であるベーン保持部5aが立設している。ベーン保持部5aは、ベーン保持部5aが形成する円形のリングの法線方向に形成される(図5参照);
(6)ベーンアライナ6:リング状の部品で、軸方向の一方の端面(図4では上側)に、四角形の板状の突起であるベーン保持部6aが立設している。ベーン保持部6aは、ベーン保持部6aが形成する円形のリングの法線方向に形成される(図5参照);
(7)ベーン7:略四角形の板状である。シリンダ1の内径側に位置する先端部7aは外側にR形状に形成され、そのR形状の半径は、シリンダ1の内径とほぼ同等のR(半径)で構成されている。ベーン7の反シリンダ1側となる背面には、軸方向全長、またはベーンアライナ6のベーン保持部6aが嵌入する長さに亘ってスリット状の背面溝7bが形成される;
(8)ブッシュ8:略半円柱状で、一対で構成される。ロータシャフト4のブッシュ保持部4dに、略半円柱状の一対のブッシュ8が嵌入され、そのブッシュ8の内側に板状のベーン7がロータ部4aに対して回転自在かつ略法線方向に移動可能に保持される。
【0028】
尚、ベーン7の背面溝7bに、ベーンアライナ5,6のベーン保持部5a,6aが嵌入することで、ベーン7の先端Rの法線が常にシリンダ内径Rの法線と一致するように方向が規制される。
【0029】
次に動作について説明する。ロータシャフト4の回転軸部4bが電動要素102等(エンジン駆動の場合は、エンジン)の駆動部からの回転動力を受け、ロータ部4aは、シリンダ1内で回転する。ロータ部4aの回転に伴い、ロータ部4aの外周付近に配置されたブッシュ保持部4dは、ロータシャフト4を中心軸とした円周上を移動する。そして、ブッシュ保持部4d内に保持されている一対のブッシュ8、及びその一対のブッシュ8の間に回転可能に保持されているベーン7もロータ部4aとともに回転する。
【0030】
また、ベーン7の背面側に形成された背面溝7bに、フレーム2及びシリンダヘッド3のシリンダ側端面にシリンダ1の内径と同芯に形成された、ベーンアライナ保持部2a(図3)、ベーンアライナ保持部3a(図3、図4)に回転可能に嵌入されたリング状のベーンアライナ5,6の板状のベーン保持部5a,6a(突起部)が摺動可能に嵌入し、シリンダ1の法線方向にベーンの向きが規制される。
【0031】
更にベーン7は、先端部7aと背面溝7bの圧力差(ベーン7の背面空間に高圧もしくは中間圧の冷媒を導く構成の場合)、ばね(図示せず)、遠心力等により、シリンダ1の内径方向に押し付けられ、ベーン7の先端部7aはシリンダ1の内径に沿って摺動する。この際、ベーン7の先端部7aのRは、シリンダ1の内径のRとほぼ一致しており、また両者の法線もほぼ一致しているため、両者の間には十分な油膜が形成され流体潤滑となる。
【0032】
本実施の形態のベーン型圧縮機100の圧縮原理については、従来のベーン型圧縮機と概略同様である。図6は実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮要素101の平面図(角度90°)である。図6に示すように、ロータシャフト4のロータ部4aとシリンダ1の内径1bは一箇所(図6に示す最近接点)において最近接している。
【0033】
また、ベーン7とシリンダ1の内径1bとが一箇所で摺動することにより、シリンダ1内には2つの空間(吸入室9、圧縮室10)が形成される。吸入室9には、吸入ポート1a(冷凍サイクルの低圧側に連通する)が開口している。また、圧縮室10は、吐出時以外は図示しない吐出弁で閉塞される吐出ポート2b(例えば、フレーム2に形成される、但し、シリンダヘッド3に設けてもよい)に連通している。
【0034】
図7は実施の形態1を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮動作を示す圧縮要素101の平面図である。図7を参照しながら、ロータシャフト4の回転に伴い吸入室9及び圧縮室10の容積が変化する様子を説明する。先ず、図7における回転角度を、ロータシャフト4のロータ部4aとシリンダ1の内径1bとが最近接している最近接点(図6に示す)と、ベーン7とシリンダ1の内径1bとが摺動する一箇所とが一致するときを、「角度0°」と定義する。図7では、「角度0°」、「角度45°」、「角度90°」、「角度135°」、「角度180°」、「角度225°」、「角度270°」、「角度315°」での、ベーン7の位置と、そのときの吸入室9及び圧縮室10の状態を示している。また、図7の「角度0°」の図に示す矢印は、ロータシャフト4の回転方向(図7では時計方向)である。但し、他の図では、ロータシャフト4の回転方向を示す矢印は省略している。
【0035】
尚、ロータシャフト4のロータ部4aとシリンダ1の内径1bとが最近接している最近接点(上死点)の近傍で、最近接点から所定の距離の右側(例えば、略30°)に吸入ポート1aが位置する。但し、図6、図7では吸入ポート1aを単に吸入と表記している。
【0036】
また、ロータシャフト4のロータ部4aとシリンダ1の内径1bとが最近接している最近接点の近傍で、最近接点から所定の距離の左側(例えば、略30°)に吐出ポート2bが位置する。但し、図6、図7では吐出ポート2bを単に吐出と表記している。
【0037】
図7における「角度0°」では、シリンダ1の内径1bとロータシャフト4のロータ部4aとで形成される空間が、全て吸入室9になる。そして、吸入室9は吸入ポート1aに連通している。
【0038】
図7における「角度45°」では、ベーン7が吸入ポート1aを通過し、通過するまでは吸入室9であった空間が、圧縮室10になる。符号は付していないが、小さい容積の吸入室9もロータシャフト4のロータ部4aとシリンダ1の内径1bとが最近接している最近接点とベーン7との間に新たに形成される。
【0039】
図7における「角度90°」では、圧縮室10の容積は「角度45°」のときより小さくなり、冷媒は圧縮され徐々にその圧力が高くなっている。また、吸入室9は、その容積が、「角度45°」のときよりも大きくなる。
【0040】
図7における「角度135°」〜「角度270°」では、圧縮室10の容積はさらに「角度90°」のときよりも順に小さくなり、冷媒の圧力は順に上昇する。また、吸入室9は、その容積が、「角度90°」のときよりも順に大きくなる。
【0041】
その後、ベーン7が吐出ポート2bに近づくが、冷凍サイクルの高圧(図示しない吐出弁を開くのに必要な圧力も含む)を圧縮室10の圧力が上回ると、吐出弁が開き圧縮室10の冷媒は、密閉容器103内に吐出される。
【0042】
ベーン7が吐出ポート2bを通過すると、圧縮室10に高圧の冷媒が若干残る(ロスとなる)。そして、「角度0°」で、圧縮室10が消滅したとき、この高圧の冷媒は吸入室9にて低圧の冷媒に変化する。
【0043】
このように、ロータシャフト4の回転により、空間の一つである吸入室9は徐々に容積が大きくなり、空間の他の一つである圧縮室10は徐々に容積が小さくなり、中の流体(冷媒)が圧縮される。所定の圧力まで圧縮されたガスは、シリンダ1または、フレーム2やシリンダヘッド3の圧縮室10に開口する部分に形成された吐出ポート(例えば、吐出ポート2b)により吐出される。
【0044】
本実施の形態では、ベーン7の先端部7aのRとシリンダ1の内径Rを概略一致させ、両者の法線が一致するように摺動することにより流体潤滑となるように構成したので、ベーン7の先端部7aの摺動抵抗低減により、ベーン型圧縮機200の摺動損失を大巾に低減し、またベーン7の先端部7aやシリンダ1の内径の摩耗を抑制できるという効果がある。
【0045】
また、ベーン7は、ロータ部4aのブッシュ保持部4d内で一対のブッシュ8を介して保持され、ブッシュ8の外径とブッシュ保持部4d間、及びブッシュ8とベーン7の側面は、ほぼ沿う形で摺動するため、ここも流体潤滑状態となり、摺動による機械損失を小さくすることができるという効果がある。
【0046】
尚、本実施の形態において、フレーム2及びシリンダヘッド3に形成されたベーンアライナ保持部2a,3aは、リング溝状の形状を示したが、ベーンアライナ5,6と摺動する部分は、リング溝の内径または外径となる。ため、ベーンアライナ保持部2a,3aの形状は、必ずしもリング溝状でなくてもよく、本実施の形態と同等の外径を持つ、断面が円形の凹部であってもよい。
【0047】
また、図示はしないが、本実施の形態の構成に、従来技術であるベーン背圧制御によるベーン押し付け力の低減を行うことで、更なるベーン先端の摺動抵抗の低減が実現できる。
【0048】
本実施の形態において、ベーンアライナ5,6のベーン保持部5a,6aをベーンの背面溝7bに嵌入してベーン7の方向を規制する方法を示したが、ベーン保持部5a,6a及びベーン7の背面溝7bはともに薄肉部を有する。
【0049】
図4に示すように、ベーン保持部5a,6aは、四角形の板状の突起であるので、それ自身が強度的に弱い。
【0050】
図8は実施の形態1を示す図で、ベーン7の斜視図である。ベーン7は、背面溝7bの両側部に薄肉部7cを備える。
【0051】
そのため、本実施の形態の方法を適用するためには、ベーン7にかかる力の小さい、つまり動作圧力の低い冷媒の方が好ましい。例えば、標準沸点が−45℃以上の冷媒が好適であり、R600a(イソブタン)、R600(ブタン)、R290(プロパン)、R134a、R152a、R161、R407C、R1234yf、R1234ze等の冷媒であれば、ベーン保持部5a,6a及びベーン7の背面溝7bの強度的にも問題なく使用できる。
【0052】
実施の形態2.
図9は、実施の形態2を示す図で、ベーン型圧縮機200の圧縮要素101の平面図(角度90°)である。図9では、ベーン7の向きがスクーピング型(ベーンの向きが、シリンダ内径の法線よりも回転方向に傾くもの)の場合を示している。図9において、Bはベーンアライナ6のベーン保持部6aの取付け方向およびベーン方向、Cはベーン7の先端部7aのRの法線で、矢印は回転方向である。ベーンアライナ6のベーン保持部6aはベーンアライナ6のリング状の部品の端面にBの方向に傾むけて取り付けられている。また、ベーン7の先端部7aのRの法線Cは、ベーン方向Bに対して傾いており、ベーンアライナ6の突起部6aにベーン7の背面溝7bを嵌合させた状態で、シリンダ1の中心に向かうように構成される(ベーン7の先端部7aのRの法線Cが、シリンダ1の内径の法線と略一致する)。なお、ベーン7とベーンアライナ6についても上記と同様の構成である。
【0053】
以上の実施の形態2の構成においても、ベーン7の先端部7aのRとシリンダ1の内径Rの法線は回転中常に一致する状態で圧縮動作を行なうことが可能であり、本発明の実施の形態1と同様の効果が得られる。なお、図9から明らかなように、実施の形態2では実施の形態1よりもベーン7の先端部7aのR部の長さを長くできるため、ベーン7の先端とシリンダ1の内径との接触面圧を低減できる。これにより、更なるベーン7の先端部7aの摺動抵抗の低減が可能となる。なお、図9では、ベーン7の向きをスクープ型としたが、トレイリング型(ベーン7の向きが、シリンダ1の内径の法線よりも反回転方向に傾くもの)としても、上記と同様の効果が得られる。
【0054】
実施の形態3.
図10は実施の形態3を示す図で、ベーン7とベーンアライナ6を一体化した構成図である。上記実施の形態1において、ベーン7の背面溝7bとベーンアライナ5,6のベーン保持部5a,6aは、ベーン型圧縮機200の動作において相対位置関係が変化しない。そのため、両者(ベーン7、ベーンアライナ5,6)を一体化することが可能である。図10においては、ベーンアライナ6とベーン7のみを一体化したケースを示すが、ベーンアライナ5も同様に一体化してもよいし、一体化しなくてもよい。ベーンアライナ5,6の少なくともいずれか一方とベーン7とを一体化するものである。
【0055】
次に動作について説明する。概略実施の形態1と同様の動作を行なうが、実施の形態1と異なる点は、ベーンアライナ5,6の少なくともいずれか一方とベーン7とを一体化したことにより、ベーン7のロータ法線方向の動きが固定されるため、ベーン7の先端部7aはシリンダ1の内径1bと摺動せず、両者の間は非接触かつ微小隙間を保ちながら回転する。
【0056】
本実施の形態において、ベーン7の先端部7aとシリンダ1の内径は非接触となるため、ベーン7の先端部7aの摺動ロスは発生しない。その分、ベーンアライナ5,6とベーンアライナ保持部2a,3aとの摺動部が大きな力を受けることとなるが、この摺動部も流体潤滑状態となることに加えて、ガイド部(一対のブッシュ8)の摺動距離はベーン7の先端部7aの摺動距離に比べ短くなるため、実施の形態1よりも摺動損失を更に低減できるという効果がある。
【0057】
また、実施の形態3においても図示はしないが、実施の形態2と同様、ベーン7の先端部7aのRのみ法線をシリンダ1の内径Rの法線とほぼ一致させ、ベーン7の方向はシリンダ1の内径Rの法線方向に対し一定の傾きを持つように構成してもよい。これにより、ベーン7の先端部7aのR部の長さを長くすることが可能であり、シール長さが増加することで、更にベーン7の先端部7aでの漏れ損失を低減することが可能となる。
【0058】
上記実施の形態に係るベーン型圧縮機は、ベーンの先端部のRが、シリンダ内径Rとほぼ同等、且つ前記2つのRの法線が常にほぼ一致する状態で圧縮動作を行なうため、ベーンの先端部とシリンダが流体潤滑可能とし、摺動による機械損失を低減し、また、ベーン先端及びシリンダ内径の摩耗に対する寿命を改善できる。
【0059】
上記実施の形態に係るベーン型圧縮機は、ベーンが常にシリンダ内径の法線方向、またはシリンダ内径の法線方向に対し一定の傾きを持つように保持され、更に、ロータ部内でベーンがロータ部に対して回転可能、且つロータ部の略遠心方向に移動可能に支持されている。ベーンを常にシリンダ内径の法線方向、またはシリンダ内径の法線方向に対し一定の傾きを持つように支持するための方法として、シリンダヘッド、又は/及び、フレームのシリンダ側端面にシリンダ内径と同心の凹部またはリング状の溝を形成する。その凹部又は溝内に、リング形状の端面に板状の突起を有するベーンアライナを嵌入し、前記板状の突起をベーン内に形成された溝に嵌入することで、ベーンのシリンダ法線に対する方向を一定に規制する。従って、ベーンの先端部Rとシリンダ内径Rの法線が常にほぼ一致するように圧縮動作を行なうために必要なベーンがシリンダの中心周りに回転運動する機構を、ロータの外径や回転中心精度悪化をもたらすロータの端板を用いず、ロータと回転軸を一体に構成する形で実現することができる。
【0060】
上記実施の形態に係るベーン型圧縮機は、ベーンの両端または片端に位置するベーンアライナのうちの少なくとも1つがベーンと一体に構成されたことにより、ベーン先端とシリンダ内径を非接触に構成しつつ、ベーン先端とシリンダ内径の間の隙間からのガス漏れを最小限にすることができる。
【0061】
上記実施の形態に係るベーン型圧縮機は、ロータ部内でベーンがロータ部に対して回転可能、且つロータ部の略遠心方向に移動可能に支持する方法として、ロータ部の外径部近傍にロータ部の中心軸と平行な円筒状のブッシュ保持部を形成し、その中に一対の略半円柱形のブッシュを介してベーンが支持される。そのため、ロータ部内でベーンが回転自在かつ略法線方向へ移動可能となる機構を流体潤滑状態で摺動可能な方法で実現できる。
【符号の説明】
【0062】
1 シリンダ、1a 吸入ポート、1b 内径、2 フレーム、2a ベーンアライナ保持部、2b 吐出ポート、3 シリンダヘッド、3a ベーンアライナ保持部、4 ロータシャフト、4a ロータ部、4b 回転軸部、4c 回転軸部、4d ブッシュ保持部、4e ベーン逃がし部、5 ベーンアライナ、5a ベーン保持部、6 ベーンアライナ、6a ベーン保持部、7 ベーン、7a 先端部、7b 背面溝、7c 薄肉部、8 ブッシュ、9 吸入室、10 圧縮室、11 固定子、12 回転子、13 ガラス端子、14 吐出管、15 冷凍機油、16 吸入部、101 圧縮要素、102 電動要素、103 密閉容器、200 ベーン型圧縮機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状で、軸方向の両端が開口しているシリンダと、前記シリンダの両端を閉塞するシリンダヘッド及びフレームと、前記シリンダ内で回転運動する円柱形のロータ部及び前記ロータ部に回転力を伝達するシャフト部を有するロータシャフトと、前記ロータ部内に設置され、先端部が外側にR形状に形成されるベーンを有するベーン型圧縮機において、
前記ベーンの先端部の前記R形状と前記シリンダの内径の法線が常にほぼ一致する状態で圧縮動作を行なうことを特徴とするベーン型圧縮機。
【請求項2】
前記ベーンの先端部の前記R形状の半径と、前記シリンダの内径の半径とがほぼ同等であることを特徴とする請求項1記載のベーン型圧縮機。
【請求項3】
前記ベーンが常に前記シリンダ内径の法線方向、または前記シリンダの内径の法線方向に対し一定の傾きを持つように保持され、更に、前記ロータ部内で前記ベーンが前記ロータ部に対して回転可能且つ前記ロータ部の略遠心方向に移動可能に支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のベーン型圧縮機。
【請求項4】
前記ベーンが前記シリンダの内径の法線方向に対し一定の傾きを持つように保持される場合、前記ベーンの向きがスクーピング型もしくはトレイリング型であることを特徴とする請求項3記載のベーン型圧縮機。
【請求項5】
前記シリンダヘッド、又は/及び、前記フレームの前記シリンダ側端面に前記シリンダ内径と同心の凹部またはリング状の溝を形成し、前記凹部または前記溝内に、リング形状の端面に板状の突起を有するベーンアライナを嵌入し、前記板状の突起を前記ベーン内に形成された溝に嵌入することを特徴とする請求項3又は請求項4記載のベーン型圧縮機。
【請求項6】
前記ベーンの両端または片端に位置する前記ベーンアライナのうちの少なくとも一つが前記ベーンと一体に構成されることを特徴とする請求項5記載のベーン型圧縮機。
【請求項7】
前記ロータ部の外径部近傍に、断面が略円形で軸方向に貫通するブッシュ保持部を形成し、前記ブッシュ保持部の中に一対の略半円柱形のブッシュを介して前記ベーンが支持されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のベーン型圧縮機。
【請求項8】
冷媒として、標準沸点が−45℃以上の冷媒を用いたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のベーン型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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