説明

ペニシリウム・フニクロサム酵素を使用したバイオ増熱剤の調製

本発明は、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を提供すること、植物バイオマスを提供すること、その後、工程(a)の前記酵素混合物および工程(b)の前記バイオマスを前記バイオマスの糖化が生じる条件下で接触させる工程を含む、バイオマスを処理する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物による、バイオエタノール生産のためのバイオマスの酵素的糖化に関する。
【0002】
特に、本発明は、セルラーゼ、β−グルカナーゼ、セロビオヒドラーゼ、β−グルコシダーゼおよび任意にキシラナーゼによって、バイオエタノール生産のためのバイオマスを処理する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
再生可能なリグノセルロースバイオマスの、液体燃料の代替物としてのエタノールへの生物変換は、過去数十年間、広範囲に研究されてきた。
【0004】
バイオエタノール生産のコストは高い一方、エネルギー出力は低いため、プロセスをより経済的にするために継続的に研究されている。酵素的加水分解は、セルロースバイオマスを発酵性糖に変換するために最も有望な技術と考えられる。酵素的工程のコストは、プロセスにおける主要な経済的因子の1つである。セルロース材料の酵素的加水分解の効率を改善する努力がなされている。
【0005】
Vidmantieneら(2006)は、2つの酵素製剤を使用して、廃棄物由来のシリアルから多糖を加水分解し、エタノールへの発酵に適した糖供給材料を産出する方法を記述している。デンプン加水分解および糖化のための1つめの酵素製剤は、バシルス・サブティリスからのα−アミラーゼおよびβ−グルカナーゼを含む。この工程は90分間65℃で行なわれる。第2の酵素製剤は、グルコアミラーゼ(アスペルギルス・アワモリ由来)、α−アミラーゼおよびβ−グルカナーゼおよびβ−キシラナーゼ、セルラーゼおよびβ−グルカナーゼ(トリコデルマ・リーセイ由来)を含み、55−60℃の温度で120分間使用される。
【0006】
Ohgrenら(2006)は、前加水分解処理は、エタノール生産全体にとって効果がないこと、または負の効果を有することを示した。そのような前処理は、β−グルコシダーゼが補われた市販セルラーゼ混合物を48℃で使用して、または開発された熱活性の酵素混合物(サーモアスカス・オーランティアカス由来の改変セロビオヒドラーゼ、アクレモニウム・サーモフィラム由来のエンドグルカナーゼ、T.オーランティアカス由来のβ−グルコシダーゼおよびキシラナーゼタンパク質から成る)を55℃で使用して、16、8または4時間行われる。
【0007】
Tabkaら(2006)は、バイオエタノール生産のためのリグノセルロースバイオマスの発酵性糖への転換のための、真菌由来リグノセルロース酵素の使用における改善された条件を記述している。コムギわらは、希硫酸で前処理され、水蒸気爆発に供された。異なる菌由来の酵素の間で相乗効果が観察された:限界的な酵素濃度(10U/gのセルラーゼ、3U/gのキシラナーゼおよび10U/gのフェルロイルエステラーゼ)の下、セルラーゼ、トリコデルマ・リーセイ由来のキシラナーゼおよびアスペルギルス・ニガー由来のフェルロイルエステラーゼ。酵素的加水分解の収率は、温度を37℃から50℃に上昇することで増大した。
【0008】
セルロース基質、特にリグノセルロース基質を分解する新規の方法、および分解の効率を増大させる新規の酵素および酵素混合物に対する継続的なニーズが存在する。低温で機能し、高いバイオマス密度の使用を可能にし、高い濃度の糖およびエタノールをもたらす方法および酵素に対するニーズも存在する。このアプローチはエネルギーおよび投資のコストにおける有意な救済をもたらす可能性がある。本発明は、少なくともこれらのニーズの一部を満たすことを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】Rovabio(登録商標)LCによるセルロースの消化率。A.加水分解を、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCで、37℃で、24、48、72および96時間行った。加水分解されたセルロースのパーセンテージは、乾燥質量を量ることにより決定される。B.糖の量は加水分解の上清のHPLC解析によって決定される。このグラフは、セルロースの加水分解の間に放出された様々な糖の量を表わす。
【図1B】Rovabio(登録商標)LCによるセルロースの消化率。A.加水分解を、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCで、37℃で、24、48、72および96時間行った。加水分解されたセルロースのパーセンテージは、乾燥質量を量ることにより決定される。B.糖の量は加水分解の上清のHPLC解析によって決定される。このグラフは、セルロースの加水分解の間に放出された様々な糖の量を表わす。
【図2A】温和な条件下における様々なリグノセルロース基質の加水分解。A.コムギわらおよびコムギ糠の加水分解を、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)で行う。インキュベーションは72時間、28℃で実行される。B.このグラフは、グルコースが、全ての基質から放出され、主にコムギ糠から放出されることを示す(0.094g/g(初期S))。
【図2B】温和な条件下における様々なリグノセルロース基質の加水分解。A.コムギわらおよびコムギ糠の加水分解を、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)で行う。インキュベーションは72時間、28℃で実行される。B.このグラフは、グルコースが、全ての基質から放出され、主にコムギ糠から放出されることを示す(0.094g/g(初期S))。
【図3A】コムギわらおよびコムギ糠の加水分解に対する酵素濃度の効果。加水分解は72時間、28℃で行われる。A.酵素濃度の関数としての、コムギわらおよびコムギ糠の加水分解における変化。B.酵素濃度の関数としての、放出されたグルコースの量。
【図3B】コムギわらおよびコムギ糠の加水分解に対する酵素濃度の効果。加水分解は72時間、28℃で行われる。A.酵素濃度の関数としての、コムギわらおよびコムギ糠の加水分解における変化。B.酵素濃度の関数としての、放出されたグルコースの量。
【図4】Rovabio(登録商標)LC濃度および加水分解時間の関数としての、コムギ糠から放出されたグルコースの量。放出されたグルコースの最大量は0.094g/g(Si)であり、これは、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCの28℃の温度で72時間の作用による。
【図5A】コムギ糠の加水分解に対する温度の効果。コムギ糠の加水分解は、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCで行われる。A.温度および時間の関数としての、バイオマスの加水分解における変化。B.温度および加水分解の持続時間の関数としての、グルコース放出における変化。
【図5B】コムギ糠の加水分解に対する温度の効果。コムギ糠の加水分解は、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCで行われる。A.温度および時間の関数としての、バイオマスの加水分解における変化。B.温度および加水分解の持続時間の関数としての、グルコース放出における変化。
【図6A】コムギわらおよびコムギ糠の加水分解に対する希酸による前処理の効果。基質を、50mlの3%硫酸にて98℃で20分間インキュベートし、その後100mlの超純水で洗浄する。加水分解は、2つの基質に対して、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCによって37℃で行われる(A)。前処理は、基質の加水分解を促進するが、グルコースの放出に逆効果を示す(B)。
【図6B】コムギわらおよびコムギ糠の加水分解に対する希酸による前処理の効果。基質を、50mlの3%硫酸にて98℃で20分間インキュベートし、その後100mlの超純水で洗浄する。加水分解は、2つの基質に対して、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCによって37℃で行われる(A)。前処理は、基質の加水分解を促進するが、グルコースの放出に逆効果を示す(B)。
【図7A】キシラナーゼによるコムギ糠の加水分解。P.フニクロサムキシラナーゼBはピキア・パストリスにて発現され、キシラナーゼCはヤロウィア・リポリティカにて発現される。キシラナーゼ濃度は、キシラナーゼ活性が200μlのRovabio(登録商標)LCに含まれる活性と等価になるように調節される。Rov.−キシBは、50%のキシラナーゼ活性がRovabio(登録商標)LCに由来し、残り半分がキシラナーゼBに由来する混合物である(Rov.−キシC混合物も同様であり、キシCはキシラナーゼCである)。コムギ糠の加水分解は、37℃で72時間行われる。A.様々な酵素によるコムギ糠の加水分解の比較。B.様々な酵素によりコムギ糠から放出されたキシロースおよびグルコース。
【図7B】キシラナーゼによるコムギ糠の加水分解。P.フニクロサムキシラナーゼBはピキア・パストリスにて発現され、キシラナーゼCはヤロウィア・リポリティカにて発現される。キシラナーゼ濃度は、キシラナーゼ活性が200μlのRovabio(登録商標)LCに含まれる活性と等価になるように調節される。Rov.−キシBは、50%のキシラナーゼ活性がRovabio(登録商標)LCに由来し、残り半分がキシラナーゼBに由来する混合物である(Rov.−キシC混合物も同様であり、キシCはキシラナーゼCである)。コムギ糠の加水分解は、37℃で72時間行われる。A.様々な酵素によるコムギ糠の加水分解の比較。B.様々な酵素によりコムギ糠から放出されたキシロースおよびグルコース。
【発明の詳細な説明】
【0010】
本発明は、少なくとも、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託された、固有の遺伝的に改変されていないペニシリウム・フニクロサムに由来する酵素混合物によってバイオマスを処理する方法であって、バイオマスを提供し、その後、それをバイオマスの糖化が生じる条件下で、上記のとおり、酵素混合物と接触させる工程を含む方法に関する。
【0011】
本発明によれば、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託された単一の菌ペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物は、欧州特許出願EP1 007 743に開示されており、当該出願の内容は本願に援用される。
【0012】
EP 1 007 743の記述によれば、上に挙げられたペニシリウム・フニクロサムは、種培地(好ましくは、コーン浸漬アルコール1%〜4%、単に泡を防止するための泡止め、100%にするための水、pHを約3.0から6.0に調整するのに十分なNaOHから成り(重量)、その後培地を滅菌する)に堆積した第1株の27℃から36℃のインキュベーション温度における発酵によって作られる。
【0013】
好ましくは、コーン浸漬アルコール0〜4.0%、回分型(batched)および供給型(fed)のセルロース0.8〜14%、カルシウム塩:0〜0.8%、硫安0〜1.0%、単に泡を防止するための泡止め、100%にするのに十分な水、pHを約3.0〜6.0に調整するのに十分なNaOHを(重量で)含み、その後培地を滅菌し、HSOでpHを約3.0〜6.0に調整し、気体または液体としてのアンモニアによりpHを3.0から6.0に整えた生産培地を、27℃から36℃のインキュベーション温度で使用する。
【0014】
発酵のプロセスの際に添加する炭素の主なソースはセルロースである;種々のセルロースソース中でも、我々は、好ましくは、様々なグレードでARBOCEL、SOLKAFLOC、CLAROCEL、ALPHACELまたはFIBRACELを使用する。
【0015】
発酵中のpHは、好ましくは、硫酸またはその他の酸および気体もしくは液体のアンモニアまたはその他の塩基の添加によって調節される。
【0016】
発酵時間の終わりにおいて、ろ過または遠心分離のような固液分離により固体を除去し、液相を回収し、例えば有機膜または無機膜の限外濾過によって濃縮する。
【0017】
本発明によれば、酵素混合物は、単離された純粋な酵素製剤または粗製製剤、例えばペニシリウム・フニクロサムを増殖させた培養培地として提供してよい。純粋な酵素製剤は商標Rovabio(登録商標)LCの下で市販されている。本発明の酵素混合物は、キシラナーゼといった、付加的な純粋または粗製の酵素製剤を補うことができる。
【0018】
本発明によるバイオマスは、燃料としてまたは産業生産のために使用することができる、生きたおよび最近死んだ生物学的植物材料を指す。バイオマスは炭水化物および非炭水化物の材料から成る。炭水化物は、セルロース(β−1,4結合するグルコース成分の直鎖ポリマー)と、ヘミセルロース(アラビノース、ガラクトース、マンノースおよびグルクロン酸の枝を有する、β−1,4結合するキシロースの主鎖から成る複合分枝ポリマー)とに細分することができる。しばしば、キシロースはアセチル化されていてよく、アラビノースは、その他のヘミセルロース鎖またはリグニンに対するフェルラ酸または桂皮酸エステルを含んでよい。バイオマスの最後の主成分はリグニン(高度に架橋結合したフェニルプロパノイド構造)である。
【0019】
本発明の方法は、リグノセルロースバイオマスの主成分、またはセルロースを含む任意の組成物(リグノセルロースバイオマスはさらにリグニンを含む)、例えば、種子、穀物、塊茎、植物廃棄物または食品加工または生産加工の副産物(例えば茎(stalk))、トウモロコシ(トウモロコシの穂軸、わらなどを含む)、草、木材(木材チップおよび加工廃棄物を含む)、紙、パルプ、再生紙(例えば新聞)にて実行することができる。特定の側面において、本発明の酵素は、直鎖のβ−1,4結合グルコース成分を含むセルロースを加水分解するために使用される。しかし、好ましい実施態様において、コムギわら、コムギ糠、麻繊維または皮をむいた麻の茎(stalk)がバイオマスとして使用される。
【0020】
本発明による加工されたバイオマスは、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を含み、前記酵素混合物は、少なくともキシラナーゼ、β−グルカナーゼ、セロビオヒドラーゼ、β−グルコシダーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼおよびフェルロイルエステラーゼを含み、上述される方法によって得ることが可能である。
【0021】
更なる側面において、本発明による方法は、少なくとも酵素混合物とバイオマスとを接触させる前における前処理工程を含むことができる。この前処理工程は、表面積および酵素へのバイオマスの接近性を増大させることを目的とする。
【0022】
前処理工程は、バイオマスを98℃の3g/リッターの濃度で存在する硫酸に入れるといった化学的性質を利用でき、バイオマスを粉砕するといった機械的性質を利用することができる。
【0023】
更なる側面において、本発明は、少なくともブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を提供し、バイオマスを提供し、酵素混合物とバイオマスとをバイオマスの糖化が生じる条件下で接触させ、前記糖化の生成物を発酵する工程を含むバイオエタノールの製造方法に関する。本発明の特定の実施態様において、液体画分は糖化に従って単離され、前記単離は、バイオマスおよび酵素混合物を含む培地の遠心分離によって行うことができる。
【0024】
ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物は、バイオマスの糖化のために使用することができる。
【実施例】
【0025】
[例1:材料および方法]
1.酵素および基質
Rovabio(登録商標)LCは、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素のカクテルであり、その主要な既知の活性は、セルラーゼ、キシラナーゼおよびβ−グルカナーゼの活性である。
【0026】
P.フニクロサムキシラナーゼもまた試験した。これらは、ピキア・パストリスからクローン化されたP.フニクロサムキシラナーゼBおよびヤロウィア・リポリティカからクローン化されたP.フニクロサムキシラナーゼCである。
【0027】
P.フニクロサム発酵液(fermentation musts)もまた使用した。これは、Rovabio(登録商標)LCは配合された製品であり、我々は、粗製の酵素カクテルの加水分解能力を試験したかったためである。
【0028】
選択した基質は、一級品質のコムギわら(Val Agro, batch 37600205113)、コムギ糠(由来は不明)、コムギわら(由来は不明)およびセルロース(JRS, Arbocel batch 16 006 80 121)とした。
【0029】
2.基質の調製
研究した基質のうちの2つでは、酵素の基質に対する接近性を最適化するために、混合工程が必要である。それらは一級品質コムギわらおよびコムギわらである。それらはミキサーを使用して縮小化し、最終的な粒子サイズをセンチメートルオーダーとした。
【0030】
次の工程として、全ての基質に同じ処理を施す。基質をエルレンマイヤーフラスコへ量り分け、その後、50mlの0.1M酢酸緩衝液(pH5.4)を添加する。次に、エルレンマイヤーフラスコを、121℃で20分間オートクレーブ滅菌する。
【0031】
3.化学的前処理
温和な条件下で行なわれる試験と平行して、コムギわらおよびコムギ糠を化学的前処理に供した。前処理の目的は、バイオマスの物理的構造を変化させ且つ様々な画分を分離することで、セルロースを酵素に対してより接近可能にし、発酵性糖への変換を可能にすることである。これらの基質を、3g/lで20mlの硫酸と接触させ、98℃で20分間ウォーターバスにてインキュベートする。それらを次に100mlの超純水で洗浄する。洗浄した水を除去し、前処理した基質をその他の基質と同様な方法で処理する(すなわち酢酸緩衝液を添加しオートクレーブ滅菌する)。
【0032】
4.酵素的加水分解
エルレンマイヤーフラスコを周囲の温度まで冷却させた後、酵素溶液を滅菌状態でそれらに添加する。各々の条件は二重で試験し、各々の試験にコントロールをたてる。コントロールは、酵素を添加しないエルレンマイヤーフラスコを含む。様々な濃度の酵素を試験し、最も効果のある酵素の量/基質の量の比率、すなわち最も可能性のある比率を決定した。Rovabio(登録商標)LC以外の酵素に関する試験では、セルラーゼおよび/またはキシラナーゼ活性がRovabio(登録商標)LCと等価となるように、使用する量を決定した。
【0033】
次に、エルレンマイヤーフラスコを、150rpmおよび所与の温度で撹拌しながら、24、48または72時間インキュベートする。様々な試験の間、試験する温度は28、30および37℃である。
【0034】
5.可溶性画分および不溶性画分の分離
インキュベーション後、様々なサンプルの不溶性画分を、4℃で15分間の10000gの遠心分離によって回収する。次に、上清を、HPLCによる分析のために小分けして−20℃で保存する。ペレットについては、最初に50mlの水で洗浄し、その後再び40mlの水で洗浄する。各々の洗浄の後、ペレットを遠心分離によって回収し(上記と同一の条件)、洗浄による上清もHPLCによる分析のために小分けする。
【0035】
さらに、可溶性糖に変換された基質のパーセンテージの推定のために、ペレットを120℃で24時間乾燥し、その後重量を量る。加水分解後に残る不溶性のバイオマスのパーセンテージは、比率:(残る乾燥質量/最初の乾燥質量)×100に等しい。加水分解試験とは別に、最初の乾燥質量を決定するために、各々の基質の重量を量り、次に121℃で24時間乾燥した。このように、新鮮な基質と乾燥した基質との間の質量の違いによって、バイオマスに含まれる水分のパーセンテージを決定することが可能となる。その後は、乾燥質量の決定には、新鮮な基質に各々の重量に対する水分のパーセンテージを適用するだけで十分となる。
【0036】
6.HPLCによる上清の分析
可溶性画分の糖組成の決定のために、遠心分離による上清およびさらに洗浄による上清をHPLC(Agilent 1100)によって分析する。クロマトグラフィーシステムは、イソクラティックポンプ装置、サンプルチェンジャー、プレカラム(Bio−Rad,Micro−Guard(登録商標)Carbo P)、Aminex(登録商標)HPX−87Pカラム(Bio−Rad)、RID(屈折率検出)検出器または屈折計およびデータ収集および処理システムを含む。クロマトグラフィーカラムに注入する前に、上清は、4℃で30分間16100gの遠心分離を行い、すべての不純物をペレットにする。次に、それらを0.45μmセルロース膜を通してろ過する。分析条件は次の通りである:クロマトグラフィーを80℃で行う、移動相は超純水である、流速は0.6ml/分である、および20μlのサンプルを注入する、その後、100μlの水で洗浄する。サンプルの構成分子は、あらかじめ測定されたキャリブレーション範囲を使用して、それらの保持時間によって同定する。この範囲は4つの糖からなり、その濃度は0.5g/lから25g/lにわたる。キャリブレーション範囲に使用される糖はセロビオース、D−グルコース、D−キシロースおよびL−アラビノースである。それらはリグノセルロースバイオマスの加水分解の際に主に放出される糖である。
【0037】
7.セルラーゼおよびキシラナーゼ活性のアッセイ
酵素活性は、3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)アッセイ方法(G.L.Miller,1959)によって測定する。セルラーゼまたはキシラナーゼ活性のユニットは、定義された酵素条件(すなわちセルラーゼ活性ではpH5、キシラナーゼではpH4、および温度50℃)において、1分当たりおよび1グラムの生成物当たりの、それぞれ1μmolのグルコース等価物またはキシロース等価物の放出に必要な酵素の量として定義される。
【0038】
セルラーゼ活性については、試験は、カルボキシメチルセルロース(CMC)(β−1,4結合によって繋がったグルコースのポリマー)の酵素的加水分解に基づく。酵素的加水分解はグルコースモノマーを放出し、その濃度は、比色定量アッセイにより、グルコースの標準曲線を使用して、反応の終わりにおいて決定され、その吸光度は540nmで測定される。酵素稀釈液は超純水にて作られる。各々のサンプルは二重で分析され、平均活性が取得され、コントロールもまた準備される。1.75mlの基質(1.5%のw/vCMC)を試験管にいれ、50℃のウォーターバスにて5分間インキュベートされる。その後、コントロールチューブを除いて、250μlの酵素希釈液を添加することで反応を開始する。その後、50℃において、ちょうど10分後に1‰(w/v)のDNSを2ml添加することで停止する。この段階において、チューブをウォーターバスから取り出し、250μlの酵素希釈液をコントロールチューブに添加し、次に、すべてのチューブにフタをして、および、ちょうど5分間95℃の第2のウォーターバスに移す。この工程では、グルコースの放出により、DNS(オレンジ色の色彩)が還元され、3−アミノ−5−ニトロサリチル酸(オレンジ−赤色の色彩)に変化する。次に、チューブを冷水のバスに置き、周囲の温度に戻す。最後に、10mlの水を添加することにより、付加的な希釈を行い、その後、吸光度を540nmで検出できる。
【0039】
キシラナーゼ活性については、アッセイの基本方針は同様である。基質は1.5%(w/v)のカバノキ木材キシランであるため、酵素的加水分解により、キシロースモノマーが放出され、キシロースモノマーは、セルラーゼ活性についてグルコースと同様の還元機能を有する。他方、キシロースについての標準レンジを準備する。
【0040】
[例2:Rovabio(登録商標)LCによる単一の基質の変換の評価:セルロース]
我々が使用する市販のセルロースは、実際には、真のセルロースおよびヘミセルロースの混合物である。セルロースはβ−1,4−結合D−グルコースのポリマーである。Rovabio(登録商標)LCは、そのセルラーゼ活性(エンド−1,4−β−グルコース、セロビオヒドラーゼおよびβ−グルコシダーゼ)によって、バイオエタノールの合成に基づいて、それを加水分解しグルコースモノマーを放出する。ヘミセルロースは、β−1,4−結合であるD−キシロースポリマーであり、様々な糖、例えばマンノース、ガラクトース、アラビノースなどによる分岐を有する。後者のキシラナーゼ活性(とりわけ、エンド−1,4−β−キシラナーゼ、β−キシロシダーゼ、α−アラビノフラノシダーゼ)により、Rovabio(登録商標)LCによる加水分解が行われる。
【0041】
セルロースは(サプライヤーによれば)99.5%の純度を有するため、我々は、酵素活性アッセイではなく、バイオマス転換試験に似た実験条件の下で、Rovabio(登録商標)LCの最大加水分解能力(主としてセルラーゼ活性、さらにキシラナーゼ活性)を推定できる。可溶性糖へのセルロースの転換の収率を推定するために、我々は基本的に2つの方法を使用する。第1の方法は乾燥質量の測定から成る;第2の方法は、加水分解物および洗浄による上清のHPLC解析により、放出された糖の量および性質の決定を可能にする。
【0042】
この基質に関して、酵素的加水分解は、100μl/g(基質)の濃度のRovabio(登録商標)LCで、37℃の温度で行う。インキュベーションの24から96時間の間、それをモニターする。
【0043】
1.乾燥質量
加水分解収率は、反応後に残る乾燥したバイオマスのパーセンテージによって推定できる。
【0044】
その他の研究されたバイオマスと異なり、セルロースは単一のポリマーであるため、酵素複合体Accelerase(登録商標)1000(technical bulletin No.1,Genencor)に関して観察されるように、その加水分解は、最大すなわち90−99%の範囲付近であり、相対的に短時間で、非常に確実であるはずである。しかしながら、図1Aに示されるように、セルロース加水分解は96時間後にわずか27.3%しか達しない。実際、加水分解の後、不溶性画分のおよそ70%が回収される。この結果は、加水分解条件および基質の性質を考慮すれば驚くべきことである。この結果の1つの説明は、温和すぎる加水分解条件(温度、pHなど)または基質の量に比べて酵素の濃度が低すぎること、または、反対に、セロビオヒドラーゼによって放出されたセロビオースによる特定のセルラーゼの阻害でありうる(Valjamae P.ら,2001)。この仮説を確認するために、上清のHPLC解析の結果が検討されるべきである。
【0045】
2.放出糖の分析
セルロースは99.5%の純度であるため、グルコースに相当する28%の加水分解物、より少ない量のセロビオースおよびヘミセルロース画分に由来するキシロースが予想される。図1Bは、セルロース加水分解の際に放出された様々な糖を示す。放出されたキシロースの量は、0.08g/g(最初の固体(Si))、すなわち100gのセルロースから8gの放出に達する。
【0046】
グルコースの放出に関しては、96時間後に、0.225g/g(Si)の放出が得られる。この結果は、上に言及された乾燥質量における差に合致する。実際、加水分解は、グルコース(22.5%)およびキシロース(8%)の形で見られるセルロースの28%を可溶化した。理論上、セルロースから放出されたグルコースの量は、Rovabio(登録商標)LCによるリグノセルロースバイオマスの加水分解の際に放出できる最大量を表わすべきである。
【0047】
最後に、上清の分析により、セロビオースの存在を明らかにする。セロビオースは、我々の酵素カクテルのセロビオヒドラーゼ活性によってセルロースから放出される。その濃度は、24〜96時間の間で一定であり、相対的に低い(およそ0.026g/g(Si))。それ故、基質による阻害はなく、そうでなければ、セロビオース濃度は加水分解時間にともなって増加し、グルコース濃度は一定となると考えられる。それ故、低レベルのセルロース加水分解は、恐らく、不十分な濃度の酵素または温和すぎる加水分解条件に起因する。しかしながら、我々は、現在産業的に行なわれる場合と比較して、相対的に温和な条件下で試験を行なうことを選択した。この選択は、それほど費用がかからない条件下でのRovabio(登録商標)LCの有効性を示すニーズによって導かれる。それ故、より複雑なバイオマスにおける次の試験が最初に設定した条件の下で行なわれるだろう。
【0048】
[例3:温和な条件下での様々なバイオマスの加水分解]
以下の試験において、試験された基質の量は2gであり、Rovabio(登録商標)LCの濃度は100μl/g(基質)であり、加水分解条件は28℃で72時間である。バイオマス加水分解の結果は図2Aに示され、HPLC分析の結果は図2Bに示される。
【0049】
1.コムギ
コムギは、フランスにおけるバイオエタノール生産において最も広く使用される基質のうちの1つである。それは、さらに、Rovabio(登録商標)LCの加水分解において、最良の結果を与える基質である。我々は、コムギわらおよびコムギ糠という2つの異なる形態でそれを研究した。
【0050】
1.1.コムギわら
それは、33〜43%のセルロース、20〜25%のヘミセルロースおよび15〜20%のリグニン(ソースIFP、2007年)から成る。鎖のサイズが大きすぎるため、それを混合によって縮小させた。最終的な粒子サイズは約1センチメートルである。
【0051】
酵素的加水分解の後、回収された不溶性のバイオマスの量は80%であり、コントロールにて回収された量は90%である。それ故、加水分解は、11.2%のバイオマスにおける減少をもたらした。
【0052】
上清のHPLC分析については、我々のキャリブレーション範囲で使用される4つの糖の放出が、この基質について観察される。少量のセロビオース(0.005g/g(Si))が存在しており、このことは、β−グルコシダーゼによる有効な加水分解があるかもしれないことを示唆する。アラビノースも検出されるが、それは微量であり、同様に、キシロースは0.009g/g(Si)の濃度で放出される。これらの2つの糖の存在は、Rovabio(登録商標)LCのヘミセルラーゼ活性(特に、エンド−1,4−β−キシラナーゼ、α−アラビノフラノシダーゼおよびβ−キシロシダーゼ)の特徴である。加水分解の際に放出されたグルコースの量は0.034g/g(Si)である。それが、これらの加水分解条件下で主に放出される糖であるとしても、コムギわらをバイオエタノール合成における基本基質として考える場合に、その濃度はあまりにも低い。
【0053】
わらは、混合するにもかかわらず、まさに原料のままである。しかしながら、酵素的加水分解は、表面積が小さくリグニンの割合が低い基質の使用によって促進され、およびセルロースの結晶度が低い場合に促進される。コムギ糠はこれらの特徴を有する基質である。
【0054】
1.2.コムギ糠
コムギ糠の各々の構成分子の比率を正確に決定するのは難しい。これは、この組成が、コムギの由来に応じて、および前記コムギの製粉に応じて異なり、更に、分析の方法に応じて異なるためである。しかしながら、それは、平均して3〜7%のリグニンを含み(Schwartzら,1988)、その可溶性糖の組成は次の通りであるようである:2.1%のガラクトース、23.7%のアラビノース、29.1%のグルコースおよび43.7%のキシロース(Benamroucheら,2002)。
【0055】
我々の試験にわたって、コムギ糠は、酵素的加水分解の最良の傾向を示した基質である。特に、32.5%のバイオマスにおける減少が加水分解の後に観察される。さらに、上清のHPLC分析によって、可溶性画分が、0.048g/g(Si)のセロビオース;0.034g/g(Si)のアラビノース;0.076g/g(Si)のキシロースおよび0.094g/g(Si)のグルコースから成ることが示された。したがって、温和な加水分解条件の下では、加水分解された基質の量のおよそ10%はグルコースの形で放出された。我々が得た可溶性糖の比率は、Benamroucheらによって予測されたものに類似していなかった。なぜならば、一方で、酵素的加水分解は恐らく総量ではなく、他方で、コムギ糠の糖組成は、後者の由来および製粉に応じて著しく変わる場合があるためである。
【0056】
コムギ糠は、グルコースの放出のための理想的な基質であるようである。
【0057】
これらの第1の試験は、相対的に温和な加水分解条件(28℃で72時間および酵素濃度は100μl/g(基質))で行った。
【0058】
[例4:加水分解条件の最適化]
この最適化は、3つの必須の因子を含む:酵素濃度、加水分解温度および酵素の基質に対する接近性を改善するための化学的前処理。
【0059】
1.酵素濃度の効果
我々の基質からのグルコースの放出を増加させる方法は、理論的に推論すれば、酵素濃度を増加させることだろう。しかしながら、現在まで、バイオ燃料の開発における主な障害は、リグノセルロースバイオマスのために糖化工程で使用される酵素のコストである。この理由のため、最適酵素濃度を定義することが必要である。
【0060】
我々は、以前の条件下で最良の結果を与えた我々の2つの基質(コムギわらおよびコムギ糠)の効果を試験した。使用される酵素の量以外には、分析条件は変化させない。すなわち、28℃で72時間の、150rpmの撹拌を行うインキュベーションとする。我々は、加水分解されたバイオマスのパーセンテージ、および放出されたグルコースの量について主に関心を有する。
【0061】
コムギわらについては、3つの濃度(40、100および200μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LC)を評価した。100μl/g(わら)のRovabio(登録商標)LCという濃度について得られた結果を考慮して、処理のコストにかかわらずより高い濃度を試験することに決定した。
【0062】
乾燥バイオマスに対する加水分解の効果については、後者において1.2%、11.2%および15%の減少が、それぞれ40、100および200μl/g(基質)の濃度のRovabio(登録商標)LCについて観察された(図7A)。Rovabio(登録商標)LCの濃度を2倍にしても、同一の割合でコムギわらの加水分解をもたらすわけではないことに注目すべきである。
【0063】
予想通り、200μl/g(基質)の酵素濃度において、グルコースの最大放出が観察される。特に、Rovabio(登録商標)濃度が増大すると、それぞれ0.025、0.034および0.067g/g(Si)のグルコースが得られる(図7B)。この場合、放出されたグルコースの増大は、酵素濃度の増大によって生じる。40μl/g(基質)の濃度のRovabio(登録商標)LCについて、100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCにて放出されたグルコースの73%の等価物が放出されることに注目することは有利である。この結果は、セルラーゼの有効性を保持しつつ、同じ時間で、より少ない酵素を使用する可能性をもたらす。加水分解は、さらに、40および100μl/g(基質)(それぞれ0.007および0.009g/g(Si))の濃度についての事実上同一の量のキシロースおよび200μl/g(基質)のRovabio(登録商標)について0.018g/g(Si)のキシロースの放出を可能にした。
【0064】
コムギ糠については、我々は4つの異なる濃度(20、40、50および100μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LC)を研究した。
【0065】
Rovabio(登録商標)LC濃度における増加は、コムギ糠の加水分解を増加させる効果があるが、コムギわらとは異なる(比例的ではない)。実際、濃度のオーダーを増大すると、乾燥したバイオマスにおいて次のような減少が得られる:23、25、32および32.5%の加水分解されたコムギ糠。それ故、50μl/g(基質)のRovabio(登録商標)LCが、最大の加水分解の達成において十分である。それ故、使用された加水分解条件(すなわちpH5.4で28℃の温度)では、Rovabio(登録商標)LCによる基質の最大の加水分解は約30%を超えないようである。
【0066】
上清のHPLC分析については、より高い酵素濃度を使用する利点が明らかとなる。実際、放出されるグルコースの量は、加水分解を行うために使用されるRovabio(登録商標)LCの量に伴い増大した。放出された量は、20、40、50および100μl/g(基質)の濃度のRovabio(登録商標)LCにおいて、それぞれ0.04;0.058;0.068および0.094g/g(Si)のグルコースであった(図3)。グルコースの最大量は、最も高いRovabio(登録商標)LC濃度で得られる一方、50%の酵素濃度の増大は、放出されたグルコースのわずか28%の増大をもたらすことに注目することが重要である。それ故、しかしながら、放出されるグルコースの量を過度に減少させることなく、使用する酵素の量を減らせる可能性がある。
【0067】
更に、我々は、様々な濃度のRovabio(登録商標)LCにて、24、48および72時間行われた加水分解からの上清を分析した(図4)。それにより、いくつかの結論が得られた。第一に、同一の加水分解時間(24、48または72時間)において、グルコースの最大量は、常に最も高い酵素濃度の場合に放出される。さらに、同一のRovabio(登録商標)LC濃度において、放出されるグルコースの最大量は72時間後に得られる。しかしながら、48時間以上では、放出可能なグルコースの最大量の80%にてプラトーに達する状況が観察された。同様な放出プロファイルはキシロースにおいても観察され、0.076g/g(Si)の最大濃度が、100μl/g(基質)の濃度のRovabio(登録商標)LCによる72時間の加水分解によって得られた。
【0068】
すべてのこれらの結果から、Rovabio(登録商標)LCのより低い濃度およびより長い加水分解時間にて、または高い酵素濃度であるがより短い加水分解時間にて、加水分解を行うことができるという事実が明白に確認された。
【0069】
2.温度の効果
以前の試験は28℃の温度で行なわれたが、これはRovabio(登録商標)LC活性のための最適温度ではない。実際、この酵素カクテルは、50℃の温度で通常分析される様々な活性からできている。さらに、Rovabio(登録商標)LCは第一に飼料として使用される栄養上の添加物である。それ故、動物の消化管の温度(種に依存して38から41℃で変化する)で活性を有する可能性があるに違いない。それ故、リグノセルロースバイオマスの加水分解における試験は、28℃より上の温度で行わなければならない。
【0070】
Rovabio(登録商標)LCによるリグノセルロースバイオマスの加水分解に対する温度の効果を推定するために、我々は、基質としてコムギ糠を使用し、100μl/g(基質)の濃度のRovabio(登録商標)LCを用いて、24、48および72時間にわたり、3つの異なる温度(28、30または37℃)の一連の試験を行った(図5A)。基質および酵素濃度は、以前の試験で得られた最良の結果によって決定した。
【0071】
この試験において加水分解されたバイオマスのパーセンテージを観察する場合、いくつかの驚くべき点に注目される(図5B)。第1に、加水分解の時間に関係なく、30および37℃の加水分解の間の差はわずかである。他方、それらを28℃で行った加水分解と比較すると、加水分解されたバイオマスのパーセンテージにおける増加はわずかであることに注目される(平均して、コムギ糠の32%、39%および39%が、それぞれ28、30および37℃の温度で加水分解される)。それ故、加水分解が28℃より上の温度で促進されることが明らかである。
【0072】
様々な酵素活性に対する、より明確にはセルラーゼ活性に対する温度の効果が現在観察されるだろう。
【0073】
乾燥バイオマスの処理によって得られた結果と異なり、上清の分析からの結果にはより一貫性がある。実際、放出されるグルコースの量は時間にわたって増加し、37℃で行なわれた試験で最大に達する。特に、得られた最大の濃度は、37℃、72時間の加水分解において、0.11g/g(Si)のグルコースである。この試験において、それ故、約10℃の温度の上昇は、放出されるグルコースの量を14.5%増加させることを可能性にする。
【0074】
キシロースについては、放出プロファイルはグルコースのそれに類似しており、放出されるキシロースの最大量は0.096g/g(Si)である。バイオエタノール生産プロセスにおいて、キシロースを回収することができるため、これは価値がある。
【0075】
たとえ試験された温度が非常に類似しても、放出される可溶性糖の量の増大は、加水分解温度における増大と一致することに注目できる。Rovabio(登録商標)LC活性アッセイに使用される温度が50℃であるため、37℃を超える温度で、リグノセルロースバイオマスの加水分解を再び最適化させることを想像することが可能である。
【0076】
それほど費用がかからない加水分解条件を決定するニーズにもかかわらず、ある場合、特に基質がヘミセルロースまたはリグニンの組成が高すぎる場合、糖化プロセスへの工程の追加は避けられない。
【0077】
3.化学的前処理の効果
バイオエタノールの生産に使用された基質は、相対的に未加工であり、酵素的加水分解の前に前処理を必要とする材料である。様々なタイプの前処理が存在し、それらのすべての目的は、粒子のサイズを減少することにより、またはヘミセルロースおよび/またはリグニン画分を減少することにより、酵素の基質に対する接近性を改善することである。多くの前処理が開発されている:物理的前処理(基質は加圧される)、加熱前処理(水蒸気爆発)(Mosier N.ら,2005)または化学的(酸性または塩基性)前処理。後者は、最も広く使用され、実験室スケールだけでなく、産業的開発段階においても使用される(Schell D.J.ら,2003)。
【0078】
我々が行うことに決定した1つは、98℃の温度における3%の硫酸による前処理である。これらの前処理条件は慣習的に使用されるものと異なる。実際、前処理は、より高温(100から200℃まで)であるが低い酸濃度(約6倍希釈)で実行される(Lloyd T.A.ら,2005;Wyman C.E.ら,2005)。我々は、コムギわらが、高い割合でヘミセルロースおよびリグニン(それらはセルロースに対する保護膜となる)を有していることを発見している。酸による前処理は、ヘミセルロース画分を除去し、リグニンの構造を変更させる特性を有し、それにより、セルロースの酵素に対する接触を可能にする。我々は、上記のコムギわら(温和な条件下では、有意な加水分解を与えなかった)およびコムギ糠で研究した2つの基質に対する酸の前処理の有効性を比較した。
【0079】
Rovabio(登録商標)で前処理され、その後加水分解されたバイオマスのパーセンテージは次の通りである:加水分解されたコムギわらで17.5%(前処理がない場合は10%)および加水分解されたコムギ糠で39.6%(前処理がない場合は20%)(図6A)。それ故、前処理は、Rovabio(登録商標)による基質の加水分解に陽性の効果があるように見える。
【0080】
他方、放出されるグルコースの量を検討すると、前処理の有効性はそれほど明白ではない(図6B)。コムギわらについては、0.063g/g(Si)の濃度の放出されるグルコースが得られ、すなわち前処理のない加水分解と比較して30%減少する。最後に、コムギ糠については、放出されるグルコースの量は0.062g/g(Si)であり、前処理のない加水分解と比較して34%少ない。これらの結果に基づいて、前処理は、これらのバイオマスからのグルコースの放出に対して期待した効果を有さないことが明白である。次の2つの説明が考えられる:酸前処理はセルロースを分解し、この場合、グルコースは加熱後に酸性溶液中に存在すると考えられる。または、我々の基質のpHは、前処理の後において低すぎ、Rovabio(登録商標)LVのセルラーゼ活性を不活性化する。
【0081】
これらの2つの仮説を確認するために、我々は、まず、前処理後に洗浄による上清をHPLCにより分析した。その分析は、何らかの可溶性糖の存在を明らかにしなかった;それ故、セルロースは前処理によって可溶性にならない。次に、我々は、50mlの0.1Mの酢酸緩衝液(pH5.4)に含まれる前処理された基質(加水分解前の混合物)のpHおよび同一の緩衝液における非前処理基質のpHを確認した。前処理された混合物のpHは5.1であり、非前処理基質では5.6である。それ故、我々は、pH5.1およびpH5.6においてDNSアッセイ方法によりRovabio(登録商標)LCのセルラーゼ活性を分析し、pHの減少によって活性が影響されるかどうかを確認した(DNSアッセイは、pH5で通常実行される)。2つのアッセイ条件間で7%の差が観察されたが、それは我々の基質に対する前処理の効果について説明しない。なぜなら、第1に、活性における違いが小さすぎ、第2に、我々の試験に適用されるpHより低いpHにおいて、セルラーゼ活性はより大きいためである。
【0082】
しかしながら、別の説明ができる可能性がある:希釈した酸による前処理は、あまりに酸性であるpHのために、糖の分解をもたらす可能性がある(Ogierら,1999)。これらの分解は基質を変化させると考えられ、それ故、酵素によって認識されなくなる。
【0083】
これまで、我々は、バイオマスからグルコースを作るという主な目的の下、リグノセルロースバイオマス糖化プロセスにおけるRovabio(登録商標)LCの特性に注目した。これは、グルコースがバイオエタノールを製造するために現在まで使用される生物の好ましい基質であるからである。しかしながら、炭素ソースとしてグルコースおよびキシロースの両方を同化することができる新規の遺伝子組み換え生物が使用され始めている。それ故、リグノセルロース基質に対する純粋なキシラナーゼの効果を検討することが有利である。さらに、バイオエタノール生産は、それほど高価に実行されてはならない。現在、Rovabio(登録商標)LCは配合された製品である;さらに、我々は、P.フニクロサム発酵液のリグノセルロース基質を加水分解する能力を研究する。
【0084】
[例5:キシラナーゼおよび発酵液による加水分解]
以下の試験はコムギ糠のみにて行った。分析条件は次の通りである:37℃(最も有効な温度)で72時間の加水分解。酵素濃度は次のように決定される:キシラナーゼについては、活性は200μlのRovabio(登録商標)LCの活性と等価であり、発酵液については、200μlのRovabio(登録商標)の活性と同等なセルラーゼ活性が維持される。結果は図7に示される。
【0085】
1.キシラナーゼB
Rovabio(登録商標)LCと等価な活性を有するために必要となるキシラナーゼBの濃度は150μl/g(基質)である。キシラナーゼBによる加水分解の後、79%のコムギ糠が回収され、それは加水分解が21%に達することを意味する。
【0086】
更に、上清のHPLC分析は、単一糖の存在を示す:0.021g/g(Si)のキシロース(すなわち同様な加水分解条件におけるRovabio(登録商標)LCの場合よりも4.6倍少ない)。この結果は、Rovabio(登録商標)LCは、互いに相乗効果を示す様々な活性からできた酵素カクテルであり、そのため複合的な基質の可溶性糖への分解を促進するという事実によって説明できる。
【0087】
別のP.フニクロサムキシラナーゼの遺伝子が過剰発現された:それはキシラナーゼCである。
【0088】
2.キシラナーゼC
これらの試験に使用されたキシラナーゼCの濃度は850μl/g(基質)である。18%のコムギ糠だけが、反応の72時間後にキシラナーゼCにより加水分解される。キシラナーゼCは、この種の基質を加水分解することに関して、キシラナーゼBほど有効ではないように思われる。
【0089】
他方、HPLC分析の結果は驚くべきことである。特に、キシロースは、加水分解上清中に微量(0.004g/g(Si))で見つかり、グルコースは0.057g/g(Si)の濃度である。放出されるキシロースの量は、Rovabio(登録商標)LCと等価なキシラナーゼ活性を維持する努力がなされた努力にもかかわらず低い。さらに、キシラナーゼが試験されているとすれば、グルコースの存在は予期しないことである。それ故、P.フニクロサムキシラナーゼCがさらにセルラーゼ活性を有するように見える。
【0090】
キシラナーゼは単独では、Rovabio(登録商標)LCとしてコムギ糠からキシロースを放出するのと同様な能力を有しておらず、これはおそらく、純粋なキシラナーゼは、Rovabio(登録商標)LCの様々な活性の相補性から利益を得ないためである。
【0091】
3.Rovabio(登録商標)およびキシラナーゼ相乗効果
以下の試験は、50%のキシラナーゼ活性がRovabio(登録商標)LCによって提供され、残りの50%がキシラナーゼBまたはキシラナーゼCによる、コムギ糠の酵素的加水分解である。その反応は72時間間37℃で行なわれる。
【0092】
Rovabio(登録商標)LC−キシラナーゼB混合物は、コムギ糠の41%の加水分解をもたらし、一方、Rovabio(登録商標)LC−キシラナーゼC混合物は38%の加水分解をもたらす。Rovabio(登録商標)LCによる加水分解は、37%のコムギ糠の加水分解を与える。それ故、全体的な加水分解の効率が維持される;キシラナーゼは、Rovabio(登録商標)LCの作用を補う。
【0093】
更に、0.12gのグルコースおよび0.095g/g(Si)のキシロース放出が、Rovabio(登録商標)LCおよびキシラナーゼBの組み合わせた作用によって得られる。一方、Rovabio(登録商標)LC−キシラナーゼC混合物は、0.136g/g(Si)のグルコースおよび0.07g/g(Si)のキシロースの放出をもたらす。これらの結果は、コムギ糠の加水分解についてまたはRovabio(登録商標)LC単独で得られたものよりわずかによく、そのため、複合体(すなわちRovabio(登録商標)LC)の様々な酵素間の相互作用の重要性が確認される。
【0094】
キシラナーゼによるコムギ糠の加水分解を研究した後、リグノセルロース基質の酵素的加水分解に関するこの研究を完了するために行うべき1つの試験が残っている:発酵液によるコムギ糠の加水分解。
【0095】
4.発酵液
それ故、我々は、587μlのP.フニクロサム発酵液による、37℃72時間のコムギ糠の加水分解を分析した。我々がこの試験に使用する発酵液は、4℃で1800gで遠心分離機にかけられた発酵上清に相当する。
【0096】
44%のコムギ糠の加水分解が得られ、それはその他の試験よりも実質的に大きな加水分解であることを意味する。加水分解による上清は、0.129g/g(Si)のグルコースおよび0.106g/g(Si)のキシロースを与える。今回は再び、放出されるグルコースおよびキシロースの量は、Rovabio(登録商標)LCによるコムギ糠の加水分解によって得られよりもわずかに大きい。
【参考文献】
【0097】
Benamrouche S, Cronier D, Debeire P, Chabbert B. (2002). A chemical and histological study on the effect of (1→4)-β-endo-xylanase treatment on wheat bran. Journal of cereal science, 36 (2):253-260.
Lloyd TA, Wyman CE. (2005). Total Sugar Yields for Pretreatment by Hemicellulose Hydrolysis Coupled with Enzymatic Hydrolysis of the Remaining Solids. Bioresource Technology, 96 (18): 1967-1977, 2005.
Miller G.L. (1959). Use of dinitrosalicylic acid reagent for determination of reducing sugar. Analytical Chemistry, vol. 31,p. 426-428.
Mosier N, Wyman C, Dale B, Elander R, Lee YY, Holtzapple M, Ladisch M. (2005 a). Features of promising technologies for pretreatment of lignocellulosic biomass. Bioresource technology, 96(6):673-86.
Mosier N, Hendrickson R, Ho N, Sedlak M, Ladisch MR. (2005 b). Optimization of pH controlled liquid hot water pretreatment of corn stover. Bioresource technology, 96(18):1986-93.
Ohgren K, Vehmaanrera J, Siika-Aho M, Galbe M, Viikari L, Zacchi G (2007). High temperature enzymatic prehydrolysis prior to simultaneous saccharification and fermentation of steam pretreated corn stover for ethanol production. Enzyme and Microbial Technology 40,: 607-13.
Ogier JC, Leygue JP, Ballerini D, Pourquie J and Rigal L. (1999). Production d'ethanol a partir de biomasse ligno-cellulosique. Oil & Gas Science and Technology - Rev. IFP, 54(1):67-94.
Schell DJ, Farmer J, Newman M, McMillan JD. (2003). Dilute-sulfuric acid pretreatment of corn stover in pilot-scale reactor: investigation of yields, kinetics, and enzymatic digestibilities of solids. Applied biochemistry and biotechnology, 105 -108:69-85.
Schwarz PB, Kunerth WH, Young VL. (1988). The distribution of lignin and other components within hard red spring wheat bran. Chemical chemistry, 65: 59-64.
Tabka MG, Herpoel-Gimbert I, Monod F, Asther M, Sigoillot JC (2006). Enzymatic saccharification of wheat straw for bioethanol production by combined cellulose, xylanase and feruloyl esterase treatment. Enzyme and Technology 39, 897-902.
Valjamae P, Pettersson G, Johansson G. (2001). Mechanism of substrate inhibition in cellulose synergistic degradation. European journal of biochemistry, 268(16):4520-6.
Vidmantiene D, Juodeikeiene G, Basinskiene L. (2006) Technical ethanol production from waste of cereals and its products using a complex enzyme preparation. J. of the Sci. of Foo and Agric. 86 : 1732-1736,
Wyman CE, Dale BE, Elander RT, Holtzapple M, Ladisch MR, Lee YY. (2005). Comparative sugar recovery data from laboratory scale application of leading pretreatment technologies to corn stover. Bioresource technology, 96(18):2026-32.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、バイオマスを処理する方法:
(a)少なくとも、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を提供すること;
(b)植物バイオマスを提供すること;
(c)工程(a)の前記酵素混合物および工程(b)の前記バイオマスを前記バイオマスの糖化が生じる条件下で接触させること。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオマスを処理する方法であって、前記バイオマスは、工程(a)の前記酵素混合物との接触の前に、少なくとも前処理工程を受ける方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記前処理工程は、前記バイオマスを98℃の硫酸バスに入れることから成る化学的前処理であり、前記硫酸は3g/リッターの濃度で存在する方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記前処理工程は、前記バイオマスを粉砕することから成る機械的前処理である方法。
【請求項5】
以下の工程を含む、バイオエタノールを生産する方法:
(a)少なくとも、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を提供すること;
(b)バイオマスを提供すること;
(c)工程(a)の前記酵素混合物および工程(b)の前記バイオマスを、植物廃棄物産物の糖化が生じる条件下で接触させること;
(d)工程(c)によって得られた生成物を発酵すること。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の方法であって、前記酵素混合物は単離された純粋な酵素製剤として提供される方法。
【請求項7】
請求項1から5の何れか1項に記載の方法であって、前記酵素混合物は粗製酵素製剤として提供される方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の方法であって、バイオマスは、コムギわら、コムギ糠、麻繊維または皮をむいた麻の茎から選択される方法。
【請求項9】
バイオマスの糖化における、ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を含む組成物の使用。
【請求項10】
ブダペスト条約に基づき番号IMI378536のもと国際菌学研究所に寄託されたペニシリウム・フニクロサムから得られた酵素混合物を含む加工されたバイオマス。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate


【公表番号】特表2011−505801(P2011−505801A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536546(P2010−536546)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際出願番号】PCT/IB2008/003714
【国際公開番号】WO2009/071996
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(507200961)アディッソ・フランス・エス.エー.エス. (12)
【氏名又は名称原語表記】ADISSEO FRANCE S.A.S.
【Fターム(参考)】