説明

ペリクル収納ケース用コーナークリップ

【課題】磨耗粉を低減することのできるペリクル収納ケース用コーナークリップを提供する。
【解決手段】ペリクルを載置するトレイと、ペリクルを覆うように前記トレイと嵌合するカバーとで構成される、ペリクル収納ケースに用いるコーナークリップ。前記コーナークリップの素材が、デュロメータ硬度がD58〜D64の樹脂であることが特徴である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦による磨耗粉の発生を抑止することのできる収納ケースに関し、特に、半導体製造におけるフォトリソグラフィー工程で使用するレチクル又はフォトマスク防塵用のペリクルを収納するための、収納ケース用コーナークリップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置における高密度化及び高集積化の要求に伴い、フォトリソグラフィー工程におけるパターンの微細化が進行した。これにともなって、フォトマスク上に付着した微細な異物でも転写パターンの欠陥になるようになったため、このフォトマスクヘの異物の付着を防止するために、フォトマスクにペリクルを装着することが現在では不可欠となっている。
【0003】
このペリクルは、ペリクル膜となる透明薄膜を金属フレームの片面に張設したものであるが、これをフォトマスクに装着すると透明薄膜とフォトマスク面の距離だけ露光時の焦点がずれることになるので、透明薄膜上には比較的大きな異物の付着まで許容される。
【0004】
しかしながら、ペリクルの製造時又は搬送時に、ペリクル膜又は金属フレーム内部に異物が付着すると、使用中に異物がフォトマスク上に落下する可能性があり、これが半導体チップの不良を招く原因となるため、ペリクルの搬送は、ペリクルの清浄度を保つように設計されたプラスチック製のケースに収納して行なわれるのが一般的である。
【0005】
図1は公知のペリクル収納ケースを示す図である。図示されているように、ペリクル4をトレイ2の上に置き、その上からペリクル4にかぶせるようにカバー3を置いて、カバー3でペリクル4の上肩部を固定する(特許文献1)。しかしながらこのままではトレイ2とカバー3の固定ができないので、コーナークリップ5を用いてこれらを固定することが行われている。
【0006】
図2は公知のコーナークリップである。このコーナークリップには、図示されているようにペリクルトレイ2とカバー3を嵌合させた状態のペリクル収納ケース1における四隅の角部を挿入する貫通穴5hが開けられており、貫通穴5h内部には、押圧部5lや、カバー周縁リブ3uに引っ掛ける構造を有する突起状の係止部5uが設けられている(特許文献2)。
【0007】
コーナークリップ5を嵌めるには、収納ケース1の抵抗力に対応する必要があるため、その材料としては、ペリクル収納ケースに使用される材料である、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等の樹脂類よりも、弾性のある材料が採用されている。そのため、コーナークリップ5をペリクル収納ケース1に嵌める際に、コーナークリップ5の押圧部5l、係止部5uとペリクル収納ケース1の間で摩擦が生じ、磨耗粉が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平1-120148号公報
【特許文献2】実用新案第3042696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、コーナークリップ5の材料として、デュロメータ硬度がD58〜D64である樹脂を使用することにより、ペリクル収納ケース1にコーナークリップ5を嵌める際の摩擦による磨耗粉の発生を抑止することができることを見出し、本発明に到達した。
したがって本発明の目的は、ペリクル収納ケース1にコーナークリップ5を嵌める際の摩擦による磨耗粉の発生を抑止することができる、コーナークリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、ペリクルを載置するトレイと、ペリクルを覆うように前記トレイと嵌合するカバーとで構成されるペリクル収納ケースに用いるコーナークリップであって、該コーナークリップの素材が、デュロメータ硬度がD58〜D64の樹脂であることを特徴とするペリクル収納ケース用コーナークリップである。
本発明においては、特に成形容易性の観点からウレタン樹脂又はポリエチレンが好ましいが、特に高密度ポリエチレンを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
ペリクルを載置するトレイとペリクルを覆うようにトレイと嵌合するカバーで構成されるペリクル収納ケースに本発明のコーナークリップを使用した場合には、コーナークリップとペリクル収納ケースとの間の摩擦による磨耗粉の発生を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ペリクル収納ケースにコーナークリップを使用した状態を説明する図であり、A図は平面図、B図は側面図、C図はA−A断面図である。
【図2】ペリクル収納ケース用コーナークリップの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1はペリクル収納ケースの使用状態を説明する図である。図中の符号1はペリクル収納ケース、2はトレイ、2lはトレイ周縁裏面、3はカバー、3uはカバー周縁リブ、4はペリクル、5はクリップ、5aは内側開口部、5bは外側開口部、5hは貫通穴、5oは外側リブ、5iは内側リブ、5uは係止部、5lは押圧部である。
【0014】
図1から明らかなように、ペリクル収納ケースは、トレイ2にペリクル4を載置した後、カバー3をペリクル4に覆い被せ、トレイ2の接続部とカバー3の接続部を互いに嵌合させて使用するケースである。この時、内部に収容されたペリクル4が動かないように、カバー3でペリクル4の上肩部を固定する(C図)。
【0015】
本発明のペリクル収納ケース用コーナークリップ5は、ペリクル4を収納したケースが、その移動中に意図に反して開くことがないようにロックするためのクリップであり、このクリップを、A図に示したようにケースの四隅に装着することによって、収納ケースへのペリクルの収納を完了する。
【0016】
図2に示されているように、コーナークリップには、トレイ2とカバーを嵌合させたペリクル収納ケースの角部を挿入することのできる貫通穴5hが設けられている。また、その内側上部には、カバー周縁リブ3uに系止させてコーナークリップ5が外れないようにするための係止部5uが設けられ、その内側下部には、トレイ周縁裏面2lを押し付けて、ズレを防止するための押圧部5lが設けられている。
【0017】
本発明のコーナークリップには、デュロメータ硬度がD52以上の樹脂材料を使用する。このような樹脂材料は適度な弾性を有するので、これにより、コーナークリップ5を手で変形させてペリクル収納ケース1に嵌めることが可能となり、コーナークリップと収納ケースとの間の摩擦を低減することができるので、摩耗粉の発生が抑制される。本発明においては、射出成型の成形性が良いという観点から、特に、ポリエチレン又はポリウレタン樹脂を使用することが好ましい。
【0018】
本発明のコーナークリップに使用する材料の硬さは、軟らかければペリクル収納ケースに嵌めやすいという利点がある一方、クリップ表面が擦れて磨耗粉を発生しやすいという問題があるため、磨耗粉の発生を抑止するために、本発明ではデュロメータ硬度がD58以上の樹脂材料を使用する。一方、硬すぎた場合には、ペリクルケースにダメージを与えてしまいペリクルケースから磨耗粉を発生するという問題があるため、D64以下の樹脂材料を使用する。これは、密度で表現すると、0.94g/cm3〜0.95g/cm3の樹脂材料を使用することが好ましいこととほぼ同等である。
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0019】
実施例1,2及び比較例1,2
本実験に用いたペリクル収納ケースは図1に示したものと同じであり、ペリクル4を載置するトレイ2と、トレイ2を覆うようにトレイ2と嵌合するカバー3、及び、前記トレイ2とカバー3を嵌合させた状態の、ペリクル収納ケース1における四隅の角部を挿入する貫通穴5hが開けられたコーナークリップ5によって構成した。
【0020】
本実験に用いたコーナークリップは図2に示したものと同じであり、トレイ2とカバー3を嵌合させた状態の、ペリクル収納ケースにおける四隅の角部を挿入する貫通穴5h、その内側上部にカバー3の周縁リブ3uに系止させてコーナークリップ5が外れないようにするための係止部5uを有すると共に、その内側下部にトレイ2の周縁裏面2lを押し付けて、ズレを防止するための押圧部5lが設けられているものを使用した。
【0021】
トレイ2、カバー3、及びクリップ5は、共に射出成型により製造し、材質としては、それぞれABS系帯電防止樹脂、PMMA系帯電防止樹脂、又はポリエチレン樹脂を使用した。
【0022】
コーナークリップに用いたポリエチレン樹脂としては、デュロメータ硬度が、それぞれ、D46、D52、D58、D64、D70、D78(密度0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97g/cm3)の6種類の樹脂を準備してテストした。
【0023】
実験は、まずサイズが149×122×6.3mmのペリクル用トレイ2、カバー3、及びコーナークリップ5を、クラス1000のクリーンルームに入れ、界面活性剤、純水にて超音波洗浄を行い、その後、クラス1のクリーンルーム中でペリクル4をトレイ2に載置した後、カバー3を被せ、コーナークリップ5を嵌めてペリクル4を収納させた。次いで、クリーン手袋をした手でコーナークリップ5を外したり嵌めたりする作業を10回繰り返し、暗室で、300ルクスの集光ランプをカバー3とトレイ2に照射しながら、付着した異物の数を目視で計測した。その結果は表1に示した通りである。
【0024】
【表1】

【0025】
デュロメータ硬度がD52以下である、比較例1及び2のコーナークリップ5の場合には、クリップ材料が軟らかいため、係止部5uとカバー周縁リブ3uとの摩擦、及び押圧部5lとカバー周縁裏面2lとの摩擦により、クリップ磨耗粉の発生が確認された。一方、デュロメータ硬度がD64を超える、比較例3及び4のコーナークリップ5の場合には、クリップ材料が硬いため、係止部5uとカバー周縁リブ3uとの摩擦、及び押圧部5lとカバー周縁裏面2lとの摩擦により、ケースの磨耗粉の発生が確認された。これに対し、デュロメータ硬度がD58以上D64以下である本発明のコーナークリップ5の場合には、材料が適度に硬いため、磨耗粉の発生が確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のコーナークリップを使用することにより、コーナークリップをペリクル収納ケースに嵌める際に生じる磨耗粉の発生を抑制することができるので、本発明は特にフォトリソグラフィーの分野において有用である。
【符号の説明】
【0027】
1・・・ペリクル収納ケース
2・・・トレイ
2l・・トレイ周縁裏面
3・・・カバー
3u・・カバー周縁リブ
4・・・ペリクル
5・・・クリップ
5a・・内側開口部
5b・・外側開口部
5h・・貫通穴
5o・・外側リブ
5i・・内側リブ
5u・・係止部
5l・・押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルを載置するトレイと、ペリクルを覆うように前記トレイと嵌合するカバーとで構成されるペリクル収納ケースに用いるコーナークリップであって、該コーナークリップの素材が、デュロメータ硬度がD58〜D64の樹脂であることを特徴とするペリクル収納ケース用コーナークリップ。
【請求項2】
前記樹脂が、ウレタン樹脂又はポリエチレンである、請求項1に記載されたペリクル収納ケース用コーナークリップ。
【請求項3】
前記樹脂が高密度ポリエチレンである、請求項1に記載されたペリクル収納ケース用コーナークリップ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−46239(P2012−46239A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192310(P2010−192310)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】