説明

ペレットの製造方法

【課題】耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れた、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを良好なカッティング性で効率よく製造する方法を提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法であって、該製造方法が工程(1):ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含む組成物原料を混練機で溶融混練し、該混練機のダイスからストランドを押出する工程、工程(2):前記工程(1)で得られたストランドを40℃以下の液体媒体で1.6〜5秒間冷却する工程、ならびに工程(3):前記工程(2)で冷却したストランドを45℃以下の雰囲気中で3〜9秒間保持する工程を含み、前記ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日用雑貨品、家電部品、自動車部品等として好適に使用し得るポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどの石油を原料とする汎用樹脂は、良好な加工性及び耐久性等の性質から、日用雑貨、家電製品、自動車部品、建築材料あるいは食品包装などの様々な分野に使用されている。しかしながら、これらの樹脂製品は、役目を終えて廃棄する段階で良好な耐久性が欠点となり、自然界における分解性に劣るため、生態系に影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
このような問題を解決するために、熱可塑性樹脂で生分解性を有する樹脂として、ポリ乳酸、乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー等のポリ乳酸系樹脂、脂肪族多価アルコールと脂肪族多価カルボン酸から誘導される脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂組成物が開発されている。
【0004】
これらの生分解性樹脂組成物の中でもポリ乳酸系樹脂は、原料となるL−乳酸がトウモロコシ、芋等から抽出した糖分を用いて発酵法により生産されるため安価であること、原料が自然農作物なので総酸化炭素排出量が極めて少ないことから、石油を原料とする汎用樹脂の代替として期待されている。
【0005】
しかし、ポリ乳酸系樹脂は、その性能として剛性が強く透明性が良いという特徴があるため硬質成形品分野で利用されてきたが、脆く、硬く、可撓性に欠ける特性のためにフィルムなどに成形した場合は、柔軟性の不足や、折り曲げたときに白化などの問題がある。これに対して、特許文献1では、特定組成のポリ乳酸樹脂と、タルク等の結晶核剤を含有する高結晶性ポリ乳酸樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、軟質、半硬質成形品分野に適応させるため、可塑剤を添加する方法が種々提案されている。例えばアセチルクエン酸トリブチル、ジグリセリンテトラアセテート等の可塑剤を添加する技術が開示されている。
【0007】
一方、上記成形品を得るためのコンパウンドペレットを製造する場合、ポリ乳酸系樹脂においては溶融混練後、混練機のダイスからストランド状の溶融物を押出し、水にて冷却後、カッター装置によりペレット化する方法が取られている(ストランド法)。また、得られたペレットの乾燥は、攪拌機能を有する乾燥機にて乾燥後使用する方法が取られている。しかしながら、攪拌機能を有する乾燥機等の特殊な装置を必要とする方法では汎用性に欠けるため、例えば、攪拌機能を持たない乾燥機(ホッパドライヤー)で約80℃にて乾燥を行うとすると、ポリ乳酸系樹脂は非晶質であるためペレットが装置内でブロッキングし、乾燥機から取り出せないという問題が発生する。これに対して、例えば、特許文献2では、ポリ乳酸系樹脂に滑剤、又は滑剤と炭酸カルシウム等の充填剤を添加した組成物をホットカットによりペレット化する方法(ホットカット法)が提案されている。特許文献3では、滑剤を最終製品において効率よく含有させる観点から、ペレットの混練を特定温度で行う方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献4では、ポリ乳酸系樹脂組成物を溶融混練し、得られた混練物のストランドを40℃以下の液体媒体で0.5〜5秒間冷却した後、40℃以下の雰囲気中で少なくとも10秒間保持することで結晶性を高めることにより、耐ブロッキング性に優れた樹脂組成物のペレットを製造する方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献5では、ポリエステル系樹脂からなるからなる線条体を切断して粒状体を製造するにあたり、上記線条体を急冷部で1.5秒を超えないプロセス時間で冷却液を用いて冷却し、その後、乾燥部で20秒を超えないプロセス時間でガスを用いて処理する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第3410075号公報
【特許文献2】特開2004−352844号公報
【特許文献3】特開2005−246718号公報
【特許文献4】特開2007−152760号公報
【特許文献5】特表平7―505101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で開示されているポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを射出により成形する場合は、ポリ乳酸を短時間で結晶化させるためにタルク等の結晶核剤が多量に添加されており、結晶核剤の分散性が悪く、ポリ乳酸系樹脂組成物の成形性に問題を生じる。また、100℃以上の金型温度で熱処理を行う必要があるが、高温であるため安全性が低く、加熱方法も温水が使用できないことから電熱線等のヒーターによるものとなるため、専用設備が必要になるといった問題がある。また、前記組成物のコンパウンドペレットをストランド法で製造する場合には、攪拌機能を持たない乾燥機において約80℃で乾燥を行うと、ポリ乳酸樹脂が非晶質であるため、自重による変形や装置内でのブロッキングが生じやすい。
【0011】
また、特許文献2に開示されているポリ乳酸系樹脂組成物においても、得られたペレットを射出成形またはシート成形する際にポリ乳酸を短時間で結晶化させるためには、100℃以上の金型温度で熱処理を行う必要があり、上記と同様の問題が発生する。また、ストランド法でペレット化した場合においても、乾燥時に上記と同様の問題が発生する。
【0012】
さらに、特許文献3に開示されているポリ乳酸系樹脂組成物においても、ストランド法でペレット化した場合においては、乾燥時に上記と同様の問題が発生する。
【0013】
またさらに、特許文献4の方法では、40℃以下の雰囲気中での保持が少なくとも10秒間であることから、さらなる生産性向上が望まれる。
【0014】
さらに、特許文献5の方法では、専らポリテレフタル酸エチレンを樹脂成分とする態様についての方法であり、ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有する樹脂組成物については何ら検討されておらず、この方法に拠ってポリ乳酸系樹脂組成物をストランド法でペレット化した場合においても、乾燥時に上記と同様の問題が発生する。
【0015】
本発明の課題は、耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れた、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを良好なカッティング性で効率よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、ステレオコンプレックスポリ乳酸、可塑剤及び結晶核剤を配合した溶融混練物のストランドを、40℃以下の液体媒体で1.6〜5秒間冷却した後、45℃以下の雰囲気中で3〜9秒間保持することにより、得られるペレットの結晶性が良好であり、耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れたペレットを効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法であって、該製造方法が
工程(1):ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含む組成物原料を混練機で溶融混練し、該混練機のダイスからストランドを押出する工程
工程(2):前記工程(1)で得られたストランドを40℃以下の液体媒体で1.6〜5秒間冷却する工程、ならびに
工程(3):前記工程(2)で冷却したストランドを45℃以下の雰囲気中で3〜9秒間保持する工程
を含み、前記ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法により、耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れた、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを良好なカッティング性で効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法は、ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含む組成物原料を混練機で溶融混練し、該混練機のダイスからストランドを押出する工程〔工程(1)〕、該工程(1)で得られたストランドを冷却する工程〔工程(2)〕、ならびに、該工程(2)で冷却したストランドを保持する工程〔工程(3)〕を含む製造方法であって、前記工程(2)が40℃以下の温度で1.6〜5秒間、前記工程(3)が45℃以下の温度で3〜9秒間、それぞれ処理する工程であり、さらに、ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸を含有することに大きな特徴を有する。工程(2)での冷却によってストランドを結晶化に至適な温度として、工程(3)でのストランド中のポリ乳酸系樹脂の結晶化が促進されるが、本発明では、ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸を含有しているためか、特定の温度条件下では、その構造に起因する結晶化の促進度がより高いものと考えられる。このため、工程(3)における45℃以下での保持が僅か3〜9秒間であっても、結晶化が効率よく行われ、得られるペレットの結晶性が良好となり、耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れたペレットを効率よく製造することができると推定される。
【0020】
工程(1)では、ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含む組成物原料を混練機で溶融混練し、該混練機のダイスからストランドを押出する。
【0021】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂は、ステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する。
【0022】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、L−乳酸単位70〜99モル%と、D−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(ポリ−L−乳酸ともいう)と、D−乳酸単位70〜99モル%と、L−乳酸単位及び/又は乳酸以外の共重合成分単位1〜30モル%とにより構成されるポリ乳酸単位(ポリ−D−乳酸ともいう)とを、10/90〜90/10(ポリ−L−乳酸/ポリ−D−乳酸)の範囲の混合重量比で溶融混合することにより得られたポリマー組成物である。なお、前記ステレオコンプレックスポリ乳酸としては、JIS K6953(ISO14855)「制御された好気的コンポスト条件の好気的かつ究極的な生分解度及び崩壊度試験」に基づいた生分解性を有するポリ乳酸が好ましい。
【0023】
ポリ−L−乳酸、及びポリ−D−乳酸は、乳酸と乳酸以外の共重合成分であるヒドロキシカルボン酸とのコポリマーである。乳酸以外のヒドロキシカルボン酸(以下、単に、ヒドロキシカルボン酸ともいう)としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。ポリ−L−乳酸、及びポリ−D−乳酸は、L−乳酸、D−乳酸及びヒドロキシカルボン酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリド及びカプロラクトン等から必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の環状二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸とが環状二量化したメソ−ラクチド及びD−ラクチドとL−ラクチドとのラセミ混合物であるDL−ラクチドがある。本発明ではいずれのラクチドも用いることができる。但し、主原料は、D−ラクチド又はL−ラクチドが好ましい。
【0024】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、高融点及び高結晶性の観点から、溶融混合に供する前記ポリ−L−乳酸、及びポリ−D−乳酸の重量平均分子量(Mw)が、それぞれ5万〜50万が好ましく、10万〜50万がより好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)の測定は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記の測定条件で行うことができる。
<測定条件>
カラム:GMHHR−H+GMHHR−H、カラム温度:40℃、検出器:RI、溶離液:クロロホルム、流速:1.0mL/min、サンプル濃度:1mg/mL、注入量:0.1mL、換算標準:ポリスチレン
【0025】
また、ステレオコンプレックスポリ乳酸は、前記ポリ−L−乳酸におけるL−乳酸単位は70〜99モル%であるが、高融点及び高結晶性の観点から、90〜99モル%が好ましく、95〜99モル%がより好ましい。前記ポリ−D−乳酸におけるD−乳酸単位は70〜99モル%であるが、同様の観点から、90〜99モル%が好ましく、95〜99モル%がより好ましい。
【0026】
さらに、ステレオコンプレックスポリ乳酸は、前記ポリ−L−乳酸と前記ポリ−D−乳酸との混合重量比(ポリ−L−乳酸/ポリ−D−乳酸)は、10/90〜90/10の範囲であるが、高融点及び高結晶性の観点から、25/75〜75/25の範囲であることが好ましく、40/60〜60/40の範囲であることがより好ましい。
【0027】
ポリ−L−乳酸、とポリ−D−乳酸との溶融混合は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸を270〜300℃で溶融混合してステレオコンプレックスポリ乳酸としてもよいし、予め、クロロホルム、塩化メチレン等のポリ乳酸が溶解する溶媒で、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸を溶解し混合した後、上記温度まで加熱して溶媒を除去することによりステレオコンプレックスポリ乳酸としてもよい。
【0028】
ステレオコンプレックスポリ乳酸の融点(Tm)(℃)は、耐熱性および高結晶性の観点から、好ましくは140〜250℃、より好ましくは160〜250℃、さらに好ましくは190〜250℃である。なお、本明細書において、ステレオコンプレックスポリ乳酸等のポリ乳酸系樹脂の融点は、JIS−K7121に基づく示差走査熱量測定(DSC)の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度より求められる値である。
【0029】
なお、ステレオコンプレックスポリ乳酸としては市販されているポリ乳酸系樹脂を使用してもよい。市販品としては、例えば、ネイチャーワークスLLC社製、商品名Nature works;カネボウ合繊社製、商品名ラクトロン;大日本インキ化学工業社製、商品名プラメート;東洋紡績社製、商品名バイロエコール等が挙げられる。
【0030】
本発明において、前記ステレオコンプレックスポリ乳酸以外に、他のポリ乳酸が本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。ステレオコンプレックスポリ乳酸の含有量は、高融点、高結晶性の観点から、ポリ乳酸系樹脂中、50〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましく、90〜100重量%がさらにより好ましい。なお、本明細書において、ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸以外のポリ乳酸も含有する場合も、融点が上記範囲内となることが好ましい。その場合の融点とは、混合物の融点として、あるいは、加重平均融点として求めることができる。各成分の融点は、JIS−K7121に基づく示差走査熱量測定(DSC)の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度より求められる値である。
【0031】
また、本発明において、前記ポリ乳酸系樹脂は樹脂成分として用いるものであり、かかるポリ乳酸系樹脂の含有量は、樹脂成分中、60〜100重量%が好ましく、80〜100重量%がより好ましい。かかるポリ乳酸系樹脂以外の樹脂成分としては、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート又はポリエチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート又はポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステルなどが挙げられる。なお、本明細書において「含有量」とは、「含有量もしくは配合量」のことを意味する。
【0032】
ポリ乳酸系樹脂の含有量は、本発明の目的を達成する観点から、ポリ乳酸系樹脂組成物中、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0033】
本発明に用いられる可塑剤としては、特に限定されず、一般のポリ乳酸系樹脂組成物に用いられる可塑剤が挙げられるが、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進する観点から、分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキシ基の平均付加モル数が好ましくは2〜9、より好ましくは3〜9の化合物が好ましい。
【0034】
分子中に2個以上のエステル基を有し、エチレンオキシ基の平均付加モル数が2〜9の化合物(更にメチル基を有していることが好ましく、2個以上有していることがより好ましい)によって、本発明の効果が向上する理由は定かではないが、可塑剤が、前記化合物を含有すると、その耐熱性及びポリ乳酸系樹脂に対する相溶性が良好となる。そのため可塑剤の耐ブリード性が向上するととともに、ポリ乳酸系樹脂の軟質化効果も向上する。このポリ乳酸系樹脂の軟質化向上により、ポリ乳酸系樹脂が結晶化するときはその成長速度も向上すると考えられる。その結果、本発明に係わる工程(2)及び工程(3)を行うことで、混練機のダイスから押出されたストランドの結晶化が工程(2)の冷却時間及び工程(3)の保持時間を合計した時間内である60秒以内に進み、耐ブロッキング性に優れたペレットが得られるものと考えられる。
【0035】
上記化合物としては、多価カルボン酸とポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとのエステル、多価アルコールのアルキルエーテルエステル等が挙げられるが、樹脂組成物の成形性、耐衝撃性に優れる観点から、コハク酸とエチレンオキシ基の平均付加モル数が2〜4のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とエチレンオキシ基の平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とエチレンオキシ基の平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル等の多価カルボン酸とポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル;酢酸とグリセリンのエチレンオキシ基の平均3〜9モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキシ基の平均付加モル数が4〜9のポリエチレングリコールとのエステル等の多価アルコールのアルキルエーテルエステルが好ましい。樹脂組成物の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性に優れる観点から、コハク酸とエチレンオキシ基の平均付加モル数が2〜3のポリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、アジピン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸とジエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、酢酸とグリセリンのエチレンオキシ基平均3〜6モル付加物とのエステル、酢酸とエチレンオキシ基の平均付加モル数が4〜6のポリエチレングリコールとのエステルがより好ましい。樹脂組成物の成形性、耐衝撃性及び可塑剤の耐ブリード性、耐揮発性及び耐刺激臭の観点から、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、酢酸とグリセリンのエチレンオキシ基平均3〜6モル付加物とのエステルがさらに好ましい。これらの可塑剤は単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0036】
本発明に用いられる可塑剤の平均分子量は耐ブリード性及び耐揮発性の観点から、好ましくは250〜700であり、より好ましくは300〜600であり、さらに好ましくは350〜550であり、さらに好ましくは400〜500である。なお、平均分子量は、JIS K0070に記載の方法で鹸化価を求め、次式より計算で求めることができる。
平均分子量=56108×(エステル基の数)/鹸化価
【0037】
なお、上記化合物は、可塑剤としての機能を十分発揮させる観点から、全てエステル化された飽和エステルであることが好ましい。
【0038】
本発明において、上記化合物の含有量は、可塑剤中、60〜100重量%が好ましく、80〜100重量%がより好ましい。
【0039】
可塑剤の含有量は、耐ブリード性及び十分な結晶化速度を得る観点から、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、5〜60重量部が好ましく、7〜50重量部がより好ましく、10〜40重量部がさらに好ましい。
【0040】
本発明に用いられる結晶核剤としては、特に限定されず、一般のポリ乳酸系樹脂組成物に用いられる結晶核剤が挙げられるが、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進の観点から、有機核剤及び無機核剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0041】
有機核剤としては、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進、有機核剤の耐ブリード性の観点から、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物が好ましく、水酸基を2つ以上有し、アミド基を2つ以上有する脂肪族化合物であることがより好ましい。
【0042】
分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物によって、本発明の効果が向上する理由は定かではないが、上記の官能基を有すると、ポリ乳酸系樹脂との相互作用が良好となり、相溶性が向上する結果、樹脂中で微分散することによるものと考えられ、恐らく、水酸基を1つ以上、好ましくは2つ以上有することによりポリ乳酸系樹脂への分散性が良好となり、アミド基を1つ以上、好ましくは2つ以上有することによりポリ乳酸系樹脂への相溶性が良好となるものと考えられる。
【0043】
分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物としては、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進及び有機核剤の耐ブルーム性の観点から、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドが好ましい。
【0044】
また、有機核剤としては、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進、有機核剤の耐ブリード性の観点から、リン酸エステル金属塩が好ましく、フェニルホスホン酸金属塩がより好ましい。
【0045】
フェニルホスホン酸金属塩は、置換基を有しても良いフェニル基とホスホン基(−PO(OH))を有するフェニルホスホン酸の金属塩であり、フェニル基の置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基の炭素数が1〜10のアルコキシカルボニル基等が挙げられる。フェニルホスホン酸の具体例としては、無置換のフェニルホスホン酸、メチルフェニルホスホン酸、エチルフェニルホスホン酸、プロピルフェニルホスホン酸、ブチルフェニルホスホン酸、ジメトキシカルボニルフェニルホスホン酸、ジエトキシカルボニルフェニルホスホン酸等が挙げられ、無置換のフェニルホスホン酸が好ましい。
【0046】
フェニルホスホン酸の金属塩としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、バリウム、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の塩が挙げられ、亜鉛塩が好ましい。
【0047】
結晶核剤の融点はストランドの熱処理温度、即ち、工程(2)及び工程(3)における処理温度、さらには後述の工程(4)における処理温度より高く、樹脂組成物の混練温度以下であると、混練時に結晶核剤が溶解することによってその分散性が向上し、熱処理温度より高いと結晶核生成の安定化や熱処理温度が上げられるため、ポリ乳酸系樹脂の結晶化速度向上の観点でも好ましい。また、上記好ましい有機核剤は、樹脂溶融状態から冷却過程で速やかに微細な結晶を多数析出するものと考えられ、透明性、結晶化速度向上の観点でも好ましい。かかる観点から、有機核剤の融点は、65℃以上が好ましく、70〜220℃がより好ましく、80〜190℃がさらに好ましい。なお、本明細書において、有機核剤の融点は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
本発明において、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物と、フェニルホスホン酸金属塩とを併用する場合、これらの割合は、本発明の効果を発現する観点から、分子中に水酸基とアミド基とを有する化合物/フェニルホスホン酸金属塩(重量比)=20/80〜80/20が好ましく、30/70〜70/30がより好ましく、40/60〜60/40がさらに好ましい。
【0049】
有機核剤の総含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部が好ましく、0.3〜3重量部がより好ましく、0.5〜3重量部がさらに好ましい。
【0050】
無機核剤としては、タルク、スメクタイト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト等のケイ酸塩、シリカ、酸化マグネシウム等の無機化合物が挙げられる。無機化合物の平均粒径は、分散性の観点から、0.1〜20μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。また、無機化合物の中でも、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進の観点からケイ酸塩が好ましく、タルクがより好ましい。
【0051】
無機化合物の平均粒径は、回折・散乱法によって体積中位粒径を測定することにより求めることができる。例えば市販の装置としてはコールター社製レーザー回折・光散乱法粒度測定装置LS230等が挙げられる。
【0052】
無機核剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.1〜150重量部が好ましく、0.1〜100重量部がより好ましく、0.3〜50重量部がさらに好ましく、0.5〜20重量部がさらに好ましい。
【0053】
本発明により得られるポリ乳酸系樹脂組成物は、上記ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含む組成物原料を溶融混練することにより得られるが、ポリ乳酸系樹脂、可塑剤、結晶核剤(有機核剤及び/又は無機核剤)の好ましい組合せとしては、ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸のみ、可塑剤がコハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのエステル、有機核剤がエチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド及び無置換のフェニルホスホン酸亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種、無機核剤がタルク、を含有する組み合わせである。
【0054】
上記の通り、本発明の製造方法により得られる樹脂組成物は、ステレオコンプレックスポリ乳酸を含むポリ乳酸系樹脂、可塑剤、結晶核剤を含有することにより本発明の効果を有するものである。従って、ポリ乳酸系樹脂、なかでもステレオコンプレックスポリ乳酸に上記可塑剤、又は結晶核剤を単独で添加しても、本発明の効果が得られない。
【0055】
本発明においては、上記のポリ乳酸系樹脂、結晶核剤、可塑剤以外に、加水分解抑制剤、難燃剤等を組成物原料として配合してもよい。
【0056】
加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物が挙げられ、樹脂組成物の成形性の観点からモノカルボジイミド化合物が好ましく、樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性及び有機核剤の耐ブリード性の観点から、ポリカルボジイミド化合物が好ましい。
【0057】
ポリカルボジイミド化合物としてはポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられ、モノカルボジイミド化合物としては、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0058】
上記カルボジイミド化合物は、樹脂組成物の成形性、耐熱性、耐衝撃性及び有機核剤の耐ブリード性を満たすために、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)は、カルボジライトLA−1(日清紡績社製)を、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド及びポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミドはスタバクゾールP及びスタバクゾールP−100(ラインケミー社製)を、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドはスタバクゾール1-LF(ラインケミー社製)をそれぞれ購入して使用することができる。
【0059】
加水分解抑制剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進の観点から、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、0.05〜7重量部が好ましく、0.10〜6重量部がより好ましく、0.5〜4重量部がさらに好ましい。
【0060】
難燃剤としては、樹脂組成物の難燃性を向上させる観点から、リン系難燃剤が好ましく、縮合リン酸エステル、リン酸塩及び縮合リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。難燃剤の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、10〜60重量部が好ましく、15〜55重量部がより好ましい。
【0061】
また、本発明においては、上記以外に、ヒンダードフェノール又はフォスファイト系の酸化防止剤、又は炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤等の他の成分を組成物原料として配合することができる。酸化防止剤、滑剤のそれぞれの含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、0.05〜3重量部が好ましく、0.10〜2重量部がより好ましい。
【0062】
またさらに、本発明においては、上記以外の他の成分として、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、無機充填剤、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤等を、本発明の目的達成を妨げない範囲で組成物原料として配合してもよい。
【0063】
組成物原料の溶融混練は、特に限定はなく通常の方法によって行うことができ、例えば、2本のスクリューが挿通された2軸押出混練機等を用いてポリ乳酸系樹脂を溶融させながら、上記の可塑剤、有機核剤及び/又は無機核剤等を計量ポンプを用いて混練する方法等が挙げられる。また、製造量が少ない場合は、ポリ乳酸系樹脂と有機核剤及び/又は無機核剤等をドライブレンドした後、得られた混合物と上記可塑剤を混練機に供給して溶融混練させてもよい。均一にドライブレンドする方法としては、リボンブレンダー、ヘンシルミキサー、タンブラーミキサー又はエアーブレンダーを使用することができる。
【0064】
溶融混練温度は、上記の可塑剤、及び結晶核剤の分散性の観点から、ポリ乳酸系樹脂の融点(Tm)(℃)以上が好ましく、より好ましくはTm〜Tm+100(℃)の範囲であり、更に好ましくはTm〜Tm+50(℃)の範囲である。具体的には、好ましくは170〜240℃であり、より好ましくは170〜220℃である。また、2軸押出機等を用いて溶融混練する場合、ダイスの設定温度は押出されるストランドの安定性の観点から、140〜170℃の範囲が好ましい。
【0065】
次に、上記で得られたストランドを工程(2)に供する。
【0066】
工程(2)では、前記工程(1)で得られたストランドを40℃以下の液体媒体で1.6〜5秒間冷却する。
【0067】
具体的には、2軸押出機等のダイスよりストランドをそのまま水槽等に溜めた40℃以下の液体媒体中に押出して浸漬することにより冷却する。
【0068】
液体媒体としては、例えば水、エチレングリコール又はシリコンオイル等の沸点が100℃以上の低粘度液体を示し、安全性及び取り扱い性の観点から水が好ましい。液体媒体は、温調機器で循環させる等によって温度を安定的に保持することができる。
【0069】
液体媒体の温度は、40℃以下であり、ストランドの引取易さ及びポリ乳酸系樹脂の結晶化促進の観点から、5〜30℃が好ましく、10〜25℃がより好ましく、15〜25℃がさらに好ましい。なお、液体媒体の温度は、ストランドの熱の影響を極端に受けない場所の液体媒体をアルコール温度計等で測定することによって求めることができる。例えば、ストランドから5cm以上離れた場所の液体媒体の温度をアルコール温度計等で測定することが好ましい。
【0070】
冷却時間、即ち、液体媒体への浸漬時間は、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進し、耐ブロッキング性に優れたペレットを得る観点から、1.6〜5秒間であり、1.8〜3秒間が好ましい。冷却時間が1.6秒を下回ると冷却後のストランドの表面温度が115℃以上となり、次の工程(3)でポリ乳酸系樹脂の結晶化効率が低下するため好ましくない。また、ペレタイザー等のカッター装置でストランドをカッティングする場合、カッティング性が低下しペレット化の効率が低下するため好ましくない。一方、冷却時間が5秒を上回ると冷却後のストランドの表面温度が69℃以下となり、次の工程(3)でポリ乳酸系樹脂の結晶化効率が低下するため、好ましくない。尚、ストランドの表面温度は、レーザーで測定する放射温度計等で測定することができる。
【0071】
工程(2)で冷却後のストランドの表面温度は、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進し、耐ブロッキング性に優れたペレットを得る観点から、70〜110℃が好ましく、80〜105℃がより好ましい。
【0072】
工程(3)では、前記工程(2)で冷却したストランドを45℃以下の雰囲気中で3〜9秒間保持する。
【0073】
保持方法としては、工程(2)で冷却したストランドを45℃以下の雰囲気中で保持することができれば特に限定はないが、ペレタイザー等のストランドをカットする装置でストランドを引き取りながら、ストランドが垂れ下がらないように保持するのが好ましい。また、ストランドを送りロール等で支えても良い。
【0074】
雰囲気の温度は、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進の観点から、45℃以下であり、5〜45℃が好ましく、10〜45℃がより好ましく、15〜45℃がさらに好ましい。なお、雰囲気の温度は、当該ストランドが置かれた室内の温度をアルコール温度計等で測定することによって求めることができる。例えばストランドから1〜5cm程度離れた温度をアルコール温度計等によって測定することが好ましい。
【0075】
保持時間は、3〜9秒間であり、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進し、耐ブロッキング性に優れたペレットを得る観点及び生産性の観点から5〜9秒間が好ましい。本発明におけるポリ乳酸系樹脂はステレオコンプレックスポリ乳酸を含有するため、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸に比較して融点が高く、高結晶性である。そのため、ストランドが結晶化するための上記保持時間は、より短時間で済むと考えられる。
【0076】
また、本発明においては、工程(3)において、工程(2)で冷却したストランドを45℃以下の雰囲気中で3〜9秒間保持することによりストランドの結晶化を行うが、ポリ乳酸系樹脂のさらなる結晶化促進の観点から、結晶化を2段階に分けて行ってもよい。即ち、本発明の製造方法が、工程(3)での45℃以下の雰囲気中での保持工程の前あるいは後に、結晶化させるストランドを70〜90℃の雰囲気中又は液体媒体中に少なくとも3秒間保持して結晶化させる工程〔工程(4)〕を含んでもよい。
【0077】
保持方法としては、特に限定はなく、液体媒体中で保持する場合には、液体媒体の温度が70〜90℃に設定される以外は工程(2)と同様にして行うことができ、雰囲気中で保持する場合には、例えば、熱風装置や赤外線ヒーターが内部に装着されたトンネルにストランドを通過させることによって行うことができる。なお、熱効率の観点から、温水中で保持することが好ましい。
【0078】
工程(4)における液体媒体は、工程(2)と同様のものを使用することができる。
【0079】
工程(4)の雰囲気又は液体媒体の温度は、ポリ乳酸系樹脂の結晶化促進の観点から、70〜90℃が好ましく、80〜90℃がより好ましい。なお、雰囲気の温度は、例えば熱風装置や赤外線ヒーターが内部に装着されたトンネル内の温度をアルコール温度計等で測定することによって求めることができ、ストランドから1〜2cm程度離れた温度をアルコール温度計等によって測定することが好ましい。また、液体媒体の温度は、工程(2)と同様にして測定することができる。
【0080】
工程(4)における保持時間は、少なくとも3秒間が好ましく、3〜25秒間がより好ましく、5〜20秒間がさらにより好ましい。
【0081】
なお、工程(3)における保持時間は3〜9秒間であるが、本発明の製造方法が工程(4)を含む場合には、ポリ乳酸系樹脂の結晶化を促進し、耐ブロッキング性に優れたペレットを得る観点及び生産性の観点から、3〜5秒間が好ましい。
【0082】
続いて、上記工程で得られたストランドをペレット化するためにペレタイザー等のカッター装置に供することが好ましい。なお、カッター装置に供する前のストランドの表面温度は、ペレットのカッティング性またはストランドの結晶性の観点から、60〜95℃が好ましく、70〜90℃がより好ましい。
【0083】
カッター装置としては、特に限定はなく、一般のポリ乳酸系樹脂組成物の製造に用いられるカッター装置を用いることができる。
【0084】
かくして、本発明の製造方法によりポリ乳酸系樹脂組成物のペレットが得られるが、得られたペレットは、加水分解を防止する観点から、ドライエアーオーブン等を用いて80〜110℃で乾燥させることが好ましい。一般的なポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの乾燥は、ペレットのブロッキングを防止するために、攪拌機能を有する乾燥機にて約80℃で乾燥させるが、本発明の製造方法により得られるペレットは、乾燥する前にすでに結晶化しているため、攪拌機能を有する乾燥機等の特殊な装置を必要とせず、攪拌機能を有さない乾燥機でも、例えば110℃、1時間で効率的に乾燥することができる。
【0085】
得られたペレットの結晶性の有無は、示差走査熱量測定(DSC)装置を使用して確認することができる。具体的には、ペレットを細かく切断してアルミニウムパンに7.5±3mg秤取り、(1)室温(25℃)から10℃/分の昇温速度で200℃まで測定する。その際、冷結晶化の発熱ピークが観測されればペレットは非結晶であり、観測されなければペレットは結晶化されていると判断する。なお、非結晶であった場合、さらに、(2)200℃から500℃/分の降温速度で室温(25℃)まで急冷し、再度、(3)室温(25℃)から10℃/分の昇温速度で200℃まで測定する。その際、冷結晶化の発熱ピークが観測されるので、(1)での発熱量(J/g)及び(3)での発熱量(J/g)から次式により結晶化度を求めることができる。
〔(3)での発熱量(J/g)−(1)での発熱量(J/g)〕/(3)での発熱量(J/g)×100=結晶化度(%)
【実施例】
【0086】
〔ポリ乳酸系樹脂の融点〕
融点は、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimeter)装置(Perkin Elmer社製のDiamond DSC)を使用してJIS−K7121に基づく昇温法により結晶融解吸熱ピーク温度より求められる。
【0087】
〔ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量(Mw)〕
重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記の測定条件で行った。
<測定条件>
カラム:GMHHR−H+GMHHR−H
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶離液:クロロホルム
流速:1.0mL/min
サンプル濃度:1mg/mL
注入量:0.1mL
換算標準:ポリスチレン
【0088】
〔結晶核剤の融点〕
融点は、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimeter)装置(Perkin Elmer社製のDiamond DSC)を使用してJIS−K7121に基づく昇温法により結晶融解吸熱ピーク温度より求められる。
【0089】
<ステレオコンプレックスポリ乳酸の製造例1>
ネイチャーワークスLLC社製 ポリ−L−乳酸(NatureWorks 3001D)、及びPURAC社製 ポリ−D−乳酸(TECHNICAL HIGH IV)の等量(重量)を森山製作所社製ニーダーを用いて、シリンダー温度280℃で約5分間、窒素雰囲気下で溶融混練を行って、ステレオコンプレックスポリ乳酸Aを得た。示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸及び混練品(ステレオコンプレックスポリ乳酸A)の融点(融解ピークの温度)を室温(25℃)から10℃/分の昇温速度で250℃まで測定したところ、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は融点160℃の融解ピークが観測されたのに対して、混練品は融点203℃の融解ピークが観測された。
【0090】
<ステレオコンプレックスポリ乳酸の製造例2>
ネイチャーワークスLLC社製 ポリ−L−乳酸(NatureWorks 4032D)、及びPURAC社製 ポリ−D−乳酸(TECHNICAL HIGH IV)の等量(重量)を森山製作所社製ニーダーを用いて、シリンダー温度280℃で約5分間、窒素雰囲気下で溶融混練を行って、ステレオコンプレックスポリ乳酸Bを得た。示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸及び混練品(ステレオコンプレックスポリ乳酸B)の融点(融解ピークの温度)を室温(25℃)から10℃/分の昇温速度で250℃まで測定したところ、ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸は融点160℃の融解ピークが観測されたのに対して、混練品は融点205℃の融解ピークが観測された。
【0091】
<可塑剤の製造例1(コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル)>
攪拌機、温度計、脱水管を備えた3Lフラスコに無水コハク酸500g、トリエチレングリコールモノメチルエーテル2463g、パラトルエンスルホン酸一水和物9.5gを仕込み、空間部に窒素(500mL/分)を吹き込みながら、減圧下4〜10.7kPa、110℃で15時間反応させた。反応液の酸価は1.6(KOHmg/g)であった。反応液に吸着剤キョーワード500SH(協和化学工業社製)27gを添加して80℃、2.7kPaで45分間攪拌してろ過した後、液温115〜200℃、圧力0.03kPaでトリエチレングリコールモノメチルエーテルを留去し、80℃に冷却後、残液を減圧ろ過して、ろ液として、コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステルを得た。得られたジエステルは、酸価0.2(KOHmg/g)、鹸化価276(KOHmg/g)、水酸基価1以下(KOHmg/g)、色相APHA200であった。
【0092】
実施例1〜10及び比較例1〜10
二軸押出機〔ベルストルフ製ZE40A×40D(スクリュー径:Ф43mm L/D=37.2)〕を用いて、表1又は2に示すポリ乳酸系樹脂、有機核剤、及び加水分解抑制剤を予めヘンシルミキサーでドライブレンドしてホッパー投入し、無機核剤はサイドフィーダーを用いてシリンダーのサイドから添加し、可塑剤は液添加することによって、シリンダー温度205〜210℃(実施例1〜10及び比較例1〜8)または100〜150℃(比較例9又は10)で表1又は2に示す回転数で溶融混練を行った。その後、設定温度210℃(実施例1〜10及び比較例1〜8)または150℃(比較例9又は10)のダイスから表1又は2に示す吐出量で押出された直径4mmのストランドを表1又は2に示す各種条件で処理、即ち、工程(2)の冷却後、工程(4)及び工程(3)の、あるいは工程(3)のみの保持工程を行い、カットしてペレットを得た。得られたペレットは、ドライエアー乾燥機中で110℃×1時間乾燥した。なお、工程(2)及び工程(4)における液体媒体としては水を用いた。
【0093】
表1及び2における原料は以下の通りである。
〔ポリ乳酸系樹脂〕
NatureWorks 3001D:ポリ−L−乳酸、ネイチャーワークスLLC社製、融点160℃、重量平均分子量120000
NatureWorks 4032D:ポリ−L−乳酸、ネイチャーワークスLLC社製、融点160℃、重量平均分子量180000
TECHNICAL HIGH IV:ポリ−D−乳酸、PURAC社製、融点160℃、重量平均分子量200000
〔可塑剤〕
(MeEO)SA:コハク酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルとのジエステル化合物
DAIFATY−101:アジピン酸と、ジエチレングリコールモノメチルエーテル/ベンジルアルコール(=1/1)との混合ジエステル(大八化学工業社製)
〔有機核剤〕
スリパックスH:エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成社製、融点143℃)
エコプロモート:無置換のフェニルホスホン酸亜鉛塩(日産化学工業社製、融点無し)
〔無機核剤〕
Micro Ace P-6:タルク(日本タルク社製)
〔加水分解抑制剤〕
MCI:ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(ラインケミー社製、スタバクゾール1−LF)
PCI:ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)(日清紡績社製、カルボジライトLA−1)
【0094】
次に、得られたペレットの特性を、以下の試験例1〜4の方法に従って調べた。結果を表1及び2に示す。
【0095】
〔試験例1〕(ペレットのカッティング性)
ペレタイザー(いすず化工機社製)でストランドをカットした後のペレット形状が、規定サイズの円柱形状をしていれば○、変形していれば△、カットできずペレット同士がつながっていれば×とした。
【0096】
〔試験例2〕(ペレットの結晶性)
ペレットを細かく切断してアルミニウムパンに7.5±3mg秤取り、(1)室温(25℃)から10℃/分の昇温速度で200℃まで測定した。次に、(2)200℃から500℃/分の降温速度で室温(25℃)まで急冷し、再度、(3)室温(25℃)から10℃/分の昇温速度で200℃まで測定する。その際、冷結晶化の発熱ピークが観測されるので、(1)での発熱量(J/g)及び(3)での発熱量(J/g)から次式により結晶化度を求めることができる。
〔(3)での発熱量(J/g)−(1)での発熱量(J/g)〕/(3)での発熱量(J/g)×100=結晶化度(%)
かかる方法でペレットの結晶性の有無を確認し、結晶化度が80%以上であれば「○」、結晶化度が50%以上80%未満であれば「△」、結晶化度50%未満であれば「×」とした。
【0097】
〔試験例3〕(耐ブロッキング性)
得られたペレットを木枠でできたブロッキング評価器具に500g程度入れ木蓋をし、その上から5kgまたは10kgの荷重をかけた。このブロッキング評価器具をドライエアー乾燥機に入れ、110℃で30分間乾燥した。乾燥後、10kgの荷重でペレット同士が固まっていなければ、耐ブロッキング性が非常に良好「◎」、10kgの荷重でペレット同士が固まっているが5kgの荷重でペレット同士が固まっていなければ、耐ブロッキング性が良好「○」、5kgの荷重でペレット同士が固まっていても手で解せば元の状態に戻る場合は、耐ブロッキング性が不十分「△」、ペレット同士が固まって元の状態に戻らない場合は、耐ブロッキング性が不良「×」とした。
【0098】
〔試験例4〕(耐ブリード性)
得られたペレットを網のカゴ(30cm×30cm×30cm)に約5kg分溜め、その上からドライエアー乾燥機を用いて、80℃で24時間乾燥した。乾燥後、ペレット表面に可塑剤に由来する濡れがなければ耐ブリード性が良好「○」、濡れがあれば耐ブリード性が不良「×」とした。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
表1及び2の結果から、原料組成(A〜J)を用いて、本発明の工程(1)〜(3)を経て製造したペレットは、結晶化し、良好なカッティング性を示し、耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れたものであった。一方、可塑剤又は結晶核剤を含有しない原料組成(K〜L)から、本発明の工程(1)〜(3)又は工程(1)〜(4)を含む製造方法によって製造したペレットは結晶性に劣り、耐ブロッキング性に劣るものであった。
【0102】
以上の結果から、ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有する樹脂組成物原料を用いて、本発明の方法でペレットを製造すると、結晶化したペレットを良好なカッティング性で効率よく得ることができるため、ペレットは耐ブロッキング性及び耐ブリード性に優れ、乾燥の際は攪拌機能を有する特殊な乾燥機を使用する必要がないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸系樹脂組成物は、日用雑貨品、家電部品、家電部品用梱包資材、自動車部品等の様々な工業用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含有するポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法であって、該製造方法が
工程(1):ポリ乳酸系樹脂、可塑剤及び結晶核剤を含む組成物原料を混練機で溶融混練し、該混練機のダイスからストランドを押出する工程
工程(2):前記工程(1)で得られたストランドを40℃以下の液体媒体で1.6〜5秒間冷却する工程、ならびに
工程(3):前記工程(2)で冷却したストランドを45℃以下の雰囲気中で3〜9秒間保持する工程
を含み、前記ポリ乳酸系樹脂がステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法。
【請求項2】
さらに、工程(2)で冷却したストランド、あるいは工程(3)で保持したストランドを70〜90℃の雰囲気中又は液体媒体中に少なくとも3秒間保持する工程〔工程(4)〕を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ステレオコンプレックスポリ乳酸の含有量が、ポリ乳酸系樹脂中、50〜100重量%である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
結晶核剤が、有機核剤及び無機核剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
ポリ乳酸系樹脂100重量部に対し、可塑剤の含有量が5〜60重量部である、請求項1〜4いずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−94898(P2010−94898A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267697(P2008−267697)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】