説明

ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法およびその製造装置

【課題】結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を得ることのできるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法およびその製造装置を提供する。
【解決手段】この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法では、一般式ABO3(AはBa、CaおよびSrのうちの少なくとも1つを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であり、少なくとも酸化チタン粉末を含んだ原料液を密封容器の内部で加熱し、前記加熱された原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を加えて反応させる反応工程を含む。したがって、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置およびその製造方法に関し、特にたとえば、ペロブスカイト型複合酸化物であるチタン酸バリウムの製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における積層コンデンサ等の小型大容量化の進展に伴い、誘電体素子の薄層化が進んでいる。この種の薄層積層コンデンサを製造するためには、誘電体セラミックスの結晶粒を小さくして粒成長を抑制しなければならず、そのためには、セラミック素原料である複合酸化物は、微粒でかつ結晶性に優れることが要求される。
【0003】
微粒でかつ結晶性に優れたチタン酸バリウム等のペロブスカイト型複合酸化物を製造する方法として、たとえば、特許文献1および特許文献2に示されたようなペロブスカイト型複合酸化物の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、Aサイト成分を構成する元素の、結晶水を含む水酸化物と、250m2/g以上の比表面積を有する酸化チタン粉末とを混合する混合処理工程を備え、この混合処理工程は、加熱処理を行うことにより結晶水の水分のみでAサイト成分の溶解した溶解液を生成するための溶解液生成工程と、酸化チタン粉末と溶解液とを反応させて反応合成物を生成するための反応工程とを含むとともに、溶解生成工程と反応工程とが連続的に進行するようにした、複合酸化物粉末の製造方法である。
また、特許文献1には、上述の製造方法により得られた複合酸化物粉末を仮焼することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、水酸化チタンコロイドに、バリウム塩水溶液を、カルボン酸の存在下において、チタンとバリウムの仕込み組成(Ba/Ti)が1.00〜1.10となるように添加してチタン酸バリウム核粒子を生成させ、次いで、該チタン酸バリウム核粒子を含む反応溶液を100℃〜350℃の温度範囲で水熱処理して立方晶の球状チタン酸バリウム粒子を得、該球状チタン酸バリウム粒子を800℃〜1200℃の温度範囲で仮焼して正方晶とすることを特徴とした、球状チタン酸バリウム粒子粉末の製造方法である。
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載の製造方法により得られた複合酸化物は、超微粒で、かつ、結晶性に優れた立方晶の複合酸化物である。そして、得られた複合酸化物を仮焼処理することにより、結晶性に優れた正方晶系の複合酸化物を製造することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4200427号公報
【特許文献2】特許第4240190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の製造方法により得られた立方晶の複合酸化物において、該複合酸化物の格子内に水酸基が残留することにより、結晶性が十分でない懸念がある。すなわち、特許文献1では、反応工程全体の温度が100℃未満であることから、水酸基が残留する懸念がある。また、特許文献2では、チタン酸バリウム核粒子を生成する際の温度が100℃未満(実施例では、70℃)により行われていることから、やはり核部分に水酸基が残留する懸念がある。
したがって、立方晶の複合酸化物の結晶性が十分でないことから、これらを仮焼して正方晶に転位させても、その結晶性が十分でないといった問題があった。
【0009】
それゆえに、この発明の主たる目的は、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を得ることのできるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法およびその製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、一般式ABO3(AはBa、CaおよびSrのうちの少なくとも1つを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、少なくとも酸化チタン粉末を含んだ原料液を密封容器の内部で加熱し、加熱された原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を加えて反応させる反応工程を含むことを特徴とする、ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
また、この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法では、加熱された原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を加えて反応させることにより原料液の温度が100℃以上になることが好ましい。
さらにまた、この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法では、反応工程で得られた反応生成物を800℃〜1000℃で熱処理する熱処理工程を含むことが好ましい。
この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置は、一般式ABO3(AはBa、CaおよびSrのうちの少なくとも1つを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物を製造するためのペロブスカイト型複合酸化物の製造装置であって、少なくとも酸化チタン粉末を含む原料液を密封するための密封容器と、密封容器の内部において密封された原料液を加熱するための加熱手段と、原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を投入するための投入手段とを備えることを特徴とする、ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置である。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法によれば、加熱された原料液に対してAサイト成分を構成する元素の水酸化物が投入されるので、ペロブスカイト型複合酸化物粒子内の水酸基の含有量が少なく、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を簡易な方法で得ることができる。
また、この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法において、加熱された原料液に対してAサイト成分を構成する元素の水酸化物が投入され、さらに、100℃以上の高温状態で反応が開始されると、ペロブスカイト型複合酸化物の結晶格子内における水酸基の残留を低減することができる。したがって、より結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を得ることができる。
さらにまた、この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法では、反応工程で得られた反応生成物を800℃〜1000℃で熱処理する熱処理工程を含むと、正方晶の結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を得ることができる。
この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置によれば、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置によれば、Aサイト成分を構成する元素の水酸化物を投入するための投入手段を有していることから、密封容器の内部の状態について高温・高圧を維持しながら、投入手段からAサイト成分を構成する元素の水酸化物を原料液に投入させることができる。
【0012】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置の一実施の形態を示す概略図である。
【図2】この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法における結晶性向上のメカニズムを水熱合成法との対比により示した説明図である。
【図3】実施例1ないし実施例3における反応工程中におけるスラリーの温度、および密封容器の内部における圧力の時系列変化を示す。
【図4】実施例1ないし実施例3並びに比較例1および比較例2における比表面積と格子定数との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置の一実施の形態について説明する。図1は、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置の一実施の形態についての概念図である。
【0015】
このペロブスカイト型複合酸化物の製造装置は、ペロブスカイト型複合酸化物の結晶格子内における水酸基の含有量が少なく、かつ結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を簡易な方法で得ることを可能にするペロブスカイト型複合酸化物の製造装置である。このペロブスカイト型複合酸化物は、一般式ABO3により表される。以下、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置の一実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造装置10は、密封容器12と、加熱装置14と、温度計16と、原料投入装置18と、攪拌翼20とを備える。
【0017】
密封容器12は、セラミック素原料のうちの少なくとも酸化チタン粉末を含むスラリー状の原料液を密封するために設けられる。密封容器12は、ペロブスカイト型複合酸化物の製造に必要な高温・高圧に耐えられうる容器である。
【0018】
密封容器12には、第1の配管22が接続される。第1の配管22の両端には開口部が設けられる。第1の配管22の一方端部は、密封容器12の上部において密封容器12に連通している。第1の配管22の中間部には、圧力計22bおよび第1のバルブ22aが配置される。圧力計22bおよび第1のバルブ22aは、第1の配管22の一方端部から他方端部に向かって、圧力計22b、第1のバルブ22aの順に配置される。第1のバルブ22aは、第1の配管22の通路の開閉を行うために設けられる。第1の圧力計22bは、密封容器12の内部および第1の配管22の内部における圧力を監視するために設けられる。
【0019】
また、密封容器12には、第2の配管24が接続される。第2の配管24の両端には開口部が設けられる。第2の配管24の一方端部は、密封容器12の上部を貫通して原料投入装置18の上部において原料投入装置18に連通している。また、第2の配管24の他方端部からは、必要に応じてエアーが供給される。第2の配管24の中間部には、第2のバルブ24a、第2の圧力計24bおよび圧力制御弁24cが配置される。第2のバルブ24a、第2の圧力計24bおよび圧力制御弁24cは、第2の配管24の一方端部から他方端部に向かって、第2の圧力計24b、第2のバルブ24a、圧力制御弁24cの順に配置される。また、第2のバルブ24a、第2の圧力計24bおよび圧力制御弁24cは、密封容器12より外部に設けられる。第2のバルブ24aは、第2の配管24の通路の開閉を行うために設けられる。第2の圧力計24bは、原料投入装置18の内部および第2の配管24の内部における圧力を監視するために設けられる。圧力制御弁24cは、原料投入装置18の内部および第2の配管24の内部における圧力を調整するために設けられる。
【0020】
加熱装置14は、密封容器12の内部において密封される原料液を加熱し、保温するために設けられる。加熱装置14は、たとえば、密封容器12の外周に配置される。
【0021】
温度計16は、密封容器12の内部において密封される原料液の温度を計測するために設けられる。温度計16は、たとえば、密封容器12の上部を貫通して原料液に達するように配置される。
【0022】
原料投入装置18は、セラミック素原料のうちの粉末状のAサイト成分を構成する元素の水酸化物(以下、単に粉末状の水酸化物という)を保持し、その粉末状の水酸化物を密封容器12において密封されている原料液に投入するために設けられる。原料投入装置18は、密封容器12の内部における上部側に配置される。原料投入装置18は、投入用容器18a、蓋部18bおよび連係部材18cを備える。原料投入装置18は、密封容器12の内部に配置されているので、密封容器12が加圧された状態で、粉末状の水酸化物を原料液に向けて投入することができる。また、原料投入装置18は、密封容器12の内部に配置されているので、原料投入装置18自体に密封容器12が備える程の耐圧能力は要求されない。
【0023】
投入用容器18aは、粉末状の水酸化物を保持するために設けられる。投入用容器18aは、側面視下に凸の円錐型に形成される。投入用容器18aの下端側には、保持された粉末状の水酸化物を原料液に向けて落下させるための開口部が形成される。投入用容器18aの形状を円錐型にすることで、例えば、投入用容器18aに形成される開口部の底面積と同一の底面積を有する円柱型の形状の容器よりも、粉末状の水酸化物を多く保持することができる。また、投入用容器18aの形状を円錐型とすることで、蓋部18bの開いた後に、投入用容器18aに保持された粉末状の水酸化物を原料液に向けてスムーズに落下させることができる。このように、原料液と粉末状の水酸化物とを反応させるので、粒子のそろった良好な結果物を得ることができる。
【0024】
投入用容器18aの開口部には、蓋部18bが密着して配置される。蓋部18bの下端の直径は、投入用容器18aの開口部の直径よりも大きく形成される。蓋部18bは、投入用容器18aと連係部材18cを介して繋がれている。したがって、蓋部18bが開いたときでも、蓋部18bは、投入用容器18aと連係部材18cにより繋がれているので、蓋部18bが原料液に向かって落下することを防止することができる。
【0025】
ここで、原料投入装置18から原料液に粉末状の水酸化物を投入する方法として、原料投入装置18における蓋部18bの開閉は、密封容器12の外部から操作される。本実施の形態では、たとえば、以下において記載するような方法により、原料投入装置18から原料液に対して粉末状の水酸化物が投入される。
【0026】
すなわち、原料投入装置18において、粉末状の水酸化物を保持しているときは、第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aにより密封容器12の内部における圧力が原料投入装置18の内部における圧力より高くなるように調整される。これにより、原料投入装置18の蓋部18bが開くことなく閉じた状態が維持され、原料投入装置18において、粉末状の水酸化物を保持することができる。また、蓋部18bの下端の直径は、投入用容器18aの開口部の直径よりも大きく形成されているので、加圧中に蓋部18bが投入用容器18aに陥没することを防止することができ、上記のような圧力差を設定することにより、粉末状の水酸化物を保持することができる。
【0027】
一方、原料投入装置18の蓋部18bを開くときは、エアーが第2の配管24の他方端部より原料投入装置18に向かって供給される。そして、圧力制御弁24cにより第2の配管24の内部における圧力を調整して第2のバルブ24aを開き、原料投入装置18の内部における圧力が、密封容器12の内部における圧力を超えることで、蓋部18bが開く。
【0028】
攪拌翼20は、密封容器12に密封された原料液を攪拌するために設けられる。また、攪拌翼20は、粉末状の水酸化物を原料液に投入した後、スムーズに反応させ、反応生成物を含むスラリー状の原料液を得るように攪拌するために設けられる。拡散翼20は、翼部20aおよび軸部20bを備える。翼部20aは、密封容器12の内部における下部側に配置される。翼部20aの中心には軸部20bの一方端部が連結される。また、軸部20bの他方端部は、密封容器12の上部を貫通して密封容器12より外部に延びており、たとえば、原動機(図示せず)が接続される。翼部20aは、軸部20bを介して原動機により回転され、これにより、原料液が攪拌される。
【0029】
本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置によれば、原料投入装置18が、密封容器12の内部に配置され、密封容器12より外部からの操作により原料投入装置18の蓋部18bの開閉を制御することから、密封容器12の内部の状態について高温・高圧を維持しながら、原料投入装置18から粉末状の水酸化物を原料液に投入させることができる。
また、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造装置によれば、加熱装置14を備えるので、原料液と粉末状の水酸化物とを反応させる前に、原料液を加熱装置14により所望の温度まで加熱させておくことができる。
【0030】
続いて、ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置10を用いた本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法の一実施の形態について説明する。図2は、この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法における結晶性向上のメカニズムを水熱合成法との対比により示した説明図である。
【0031】
図2に示すように、水熱合成法によるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、酸化チタン粉末を含む原料液と粉末状の水酸化物とを反応させる反応時における温度が、100℃未満であることから、該複合酸化物の格子内に水酸基が残留する懸念がある。したがって、このペロブスカイト型複合酸化物の製造方法により得られる反応生成物の結晶性は低い。
【0032】
一方、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、水熱合成法とは異なり、図2に示すように、少なくとも酸化チタン粉末を含んだ原料液を密封容器12の内部で加熱した上で、該加熱された原料液に対して粉末状のAサイト成分を構成する元素の水酸化物(以下、単に粉末状の水酸化物という。)を投入し、原料液と反応させる反応工程を備えている。
【0033】
本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0034】
まず、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を製造するために、セラミック素原料が準備される。Aサイト成分を構成する元素であるBaの水酸化物として、例えば、粉末状のBa(OH)2が準備される。準備された粉末状のBa(OH)2は、原料投入装置18に入れられる。
【0035】
また、Bサイト成分を構成する元素は、少なくともTiを含む。Bサイト成分を構成するTiの酸化物粉末として、例えば、TiO2粉末が準備される。そして、TiO2粉末と純水とを密封容器12に入れ、軽く攪拌することにより、TiO2粉末を含んだスラリー状の原料液が作製される。
【0036】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを締めて、密封容器12を密封状態にした後、加熱装置14を使ってTiO2粉末を含んだ原料液が加熱される。原料液の加熱温度は、反応工程時の温度が100℃以上となるように設定され、例えば、58℃、80℃、および100℃が適宜に設定される。
【0037】
加熱された原料液が所望の温度に到達した段階で、原料投入装置18において保持される粉末状の水酸化物が該原料液に投入されて、該原料液と反応する。このように、加熱された原料液に粉末状の水酸化物が投入されると、投入直後において、図2に示すように、反応により原料液の温度が100℃以上に急激に昇温する。
【0038】
なお、反応前の原料液の加熱温度を58℃に設定すると、粉末状の水酸化物を原料液に投入した直後の原料液の温度は、100℃を超えないが、その後の反応工程において、100℃を超える。また、反応前の原料液の加熱温度を80℃に設定すると、粉末状の水酸化物を原料液に投入した直後の原料液の温度は、100℃を超える。
【0039】
そして、加熱装置14を使って密封容器12の内部において密封される原料液を保温しながら、攪拌翼20を使って原料液が攪拌される。その後、第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aが開放され、密封容器12の内部における圧力を大気圧に戻し、原料液を冷却すると、スラリー状のチタン酸バリウムが得られる。そして、得られたスラリー状のチタン酸バリウムは、密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、反応生成物としてチタン酸バリウム粉末が得られる。
【0040】
続いて、上述した反応工程で得られた反応生成物は、800℃〜1000℃で熱処理される。この熱処理工程により、反応生成物の結晶系は、立方晶から正方晶となり、所望の結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子であるチタン酸バリウムが得られる。
【0041】
本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法によれば、加熱された原料液に対してAサイト成分を構成する元素の水酸化物が投入されるので、100℃以上の高温状態で反応することから、短時間で反応させることができ、さらにペロブスカイト型複合酸化物の結晶格子内における水酸基の含有量を低減させることができる。したがって、結晶性の高いペロブスカイト型複合酸化物粒子を得ることができる。
【0042】
なお、上記の実施の形態では、チタン酸バリウムを製造する方法について詳述したが、この実施の形態にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、チタン酸バリウムと同様のペロブスカイト型複合酸化物である、たとえば、チタン酸ストロンチウムやチタン酸バリウムカルシウムの製造にも適用することができる。したがって、本実施の形態においては、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物において、Aサイト成分を構成する元素は、Ba、CaおよびSrのうちの少なくとも1つを含んでいる。
【0043】
次に、本発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法の実験例について以下に説明する。
【0044】
1.チタン酸バリウム粉末の作製
図3および表1を参照しながら、ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置10を用いたチタン酸バリウム粉末の作製方法について説明する。図3は、実施例1ないし実施例3における反応工程中におけるスラリー(原料液)の温度、およびペロブスカイト型複合酸化物の製造装置10の密封容器12の内部における圧力の時系列変化を示す。また、表1は、実施例1ないし実施例3および比較例1におけるBa(OH)2の投入温度、Ba(OH)2の投入直後におけるピーク温度、および反応工程における最高温度を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例1)
セラミック素原料として、Ba(OH)2、TiO2(比表面積300cm2/g)を準備した。まず、TiO2粉末を35.96g秤量し、純水0.1Lとともに密封容器12内に入れ、軽く攪拌してTiO2粉末を含んだスラリー(原料液)を作製した。次に、Ti元素とのモル比が1:1になるように、Ba(OH)2粉末を77.10g秤量し、これを密封容器12の内部に設置している原料投入装置18に入れた。
【0047】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした後、加熱装置14を使ってスラリーを加熱した。第1の圧力計22b、および温度計16で密封容器12の内部における圧力、およびスラリーの温度をそれぞれモニターしながらスラリーの加温を続けた。そして、スラリーの温度が58℃になった段階で、Ba(OH)2粉末をスラリーに投入するために、圧力制御弁24cを調整して第2のバルブ24aを開いた。第2のバルブ24aを開いた後、数秒後、第2の圧力計24bの値が上昇して第1の圧力計22bと一致するとともにスラリーの温度の急激な上昇が観察されたら、すぐに第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした。
【0048】
続いて、加熱装置14を使って密封容器12の内部において密封されるスラリーを保温しながら、攪拌翼20を使ってスラリーを攪拌しつつ1時間反応させた。その後、加熱を止め、第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを開放し、密封容器12の内部における圧力を大気圧に戻した状態でスラリーを放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、実施例1におけるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0049】
図3(a)において、実施例1における反応工程中におけるスラリーの温度および密封容器12の内部における圧力の時系列変化を示す。まず、図3(a)のIで示す温度、すなわち、スラリーの温度が58℃になった時点で、Ba(OH)2を投入した。Ba(OH)2を投入すると、その直後において、図3(a)のIIで示すように、Ba(OH)2の溶解熱、および反応熱により、スラリーのピーク温度は、92℃まで急激に上昇した。その後、1時間反応させると、スラリーの温度は徐々に上昇し、図3(a)のIIIで示すように、スラリーの温度は、最高温度である114℃まで上昇した。実施例1において、Ba(OH)2の投入直後におけるスラリーの温度は、100℃を超えなかったが、その後の反応工程中においてスラリーの温度は100℃を超えた。
【0050】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様のセラミック素原料を準備するために、TiO2粉末を含んだスラリーを密封容器12で作製した。そして、Ba(OH)2粉末を原料投入装置18に入れた。
【0051】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした後、加熱装置14を使ってスラリーを加熱した。第1の圧力計22b、および温度計16で密封容器12の内部における圧力、およびスラリーの温度をそれぞれモニターしながらスラリーの加温を続けた。そして、スラリーの温度が80℃になった段階で、Ba(OH)2粉末をスラリーに投入するために、圧力制御弁24cを調整して第2のバルブ24aを開いた。第2のバルブ24aを開いた後、数秒後、第2の圧力計24bの値が上昇して第1の圧力計22bと一致するとともにスラリーの温度の急激な上昇が観察されたら、すぐに第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした。
【0052】
続いて、実施例1と同様に、加熱装置14を使って密封容器12の内部に密封されるスラリーを保温しながら、攪拌翼20を使ってスラリーを攪拌しつつ1時間反応させた。その後、加熱を止め、第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを開放し、密封容器12の内部における圧力を大気圧に戻した状態でスラリーを放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、実施例2におけるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0053】
図3(b)において、実施例2における反応工程中におけるスラリーの温度および密封容器12の内部における圧力の時系列変化を示す。まず、図3(b)のIで示す温度、すなわち、スラリーの温度が80℃になった時点で、Ba(OH)2を投入した。Ba(OH)2を投入すると、その直後において、図3(b)のIIで示すように、Ba(OH)2の溶解熱、および反応熱により、スラリーのピーク温度は、113℃まで急激に上昇した。その後、1時間反応させると、スラリーの温度は徐々に上昇し、図3(b)のIIIで示すように、スラリーの温度は、最高温度である133℃まで上昇した。実施例2において、Ba(OH)2の投入直後におけるスラリーの温度は、100℃を超え、その後、反応が終了するまでスラリーの温度は100℃を超えた。
【0054】
(実施例3)
実施例3も、実施例1と同様のセラミック素原料を準備するために、TiO2粉末を含んだスラリーを密封容器12の内部で作製した。そして、Ba(OH)2粉末を原料投入装置18に入れた。
【0055】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした後、加熱装置14を使ってスラリーを加熱した。第1の圧力計22b、および温度計16で密封容器12の内部における圧力、およびスラリーの温度をそれぞれモニターしながらスラリーの加温を続けた。そして、スラリーの温度が100℃になった段階で、Ba(OH)2粉末をスラリーに投入するために、圧力制御弁24cを調整して第2のバルブ24aを開いた。第2のバルブ24aを開いた後、数秒後、第2の圧力計24bの値が上昇して第1の圧力計22bと一致するとともにスラリーの温度の急激な上昇が観察されたら、すぐに第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした。
【0056】
続いて、実施例1と同様に、加熱装置14を使って密封容器12に内部に密封されるスラリーを保温しながら、攪拌翼20を使ってスラリーを攪拌しつつ1時間反応させた。その後、加熱を止め、第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを開放し、密封容器12の内部における圧力を大気圧に戻した状態でスラリーを放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、実施例3におけるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0057】
図3(c)において、実施例3における反応工程中におけるスラリーの温度および密封容器12の内部における圧力の時系列変化を示す。まず、図3(c)のIで示す温度、すなわち、スラリーの温度が100℃になった時点で、Ba(OH)2を投入した。Ba(OH)2を投入すると、その直後において、図3(c)のIIで示すように、Ba(OH)2の溶解熱、および反応熱により、スラリー温度は、127℃まで急激に上昇した。その後、1時間反応させると、スラリーの温度は徐々に上昇し、図3(c)のIIIで示すように、スラリーの温度は、最高温度である142℃まで上昇した。実施例3において、Ba(OH)2の投入直後におけるスラリーの温度は100℃を超えており、その後も、反応が終了するまでスラリーの温度は100℃を超えた。
【0058】
(比較例1)
まず、実施例1と同様のセラミック素原料を準備するために、TiO2粉末を含んだスラリーを密封容器12の内部で作製した。そして、Ba(OH)2粉末を原料投入装置18に入れた。
【0059】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aを開放状態とし、第2のバルブ24aを締めた状態にした後、加熱装置14を使ってスラリーを加熱した。第1の圧力計22b、および温度計16で密封容器12の内部における圧力、およびスラリーの温度をそれぞれモニターしながらスラリーの加温を続けた。そして、スラリーの温度が58℃になった段階で、Ba(OH)2粉末をスラリーに投入するために、圧力制御弁24cを調整して第2のバルブ24aを開いた。第2のバルブ24aを開いた後、数秒後に、スラリーの温度の急激な上昇が観察されたら、すぐに第2のバルブ24aを締めて、密封容器12を第2のバルブ24aの開放前の状態にした。
【0060】
続いて、実施例1と同様に、加熱装置14を使って密封容器12の内部に密封されるスラリーを保温しながら、攪拌翼20を使ってスラリーを攪拌しつつ1時間反応させた。その後、密封容器12に対する加熱を止めて放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、比較例1におけるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0061】
比較例1は、反応工程において第1のバルブ22aを開放状態で行ったので、上記の実施例1ないし実施例3とは異なり、Ba(OH)2の投入直後のスラリーのピーク温度は95℃であり反応工程におけるスラリーの温度は100℃を超えず、反応工程におけるスラリーの最高温度は、95℃であった。
【0062】
(比較例2)
比較例2において、チタン酸バリウム粉末の作製は、いわゆる水熱合成法により行った。
【0063】
まず、TiO2粉末、およびBa(OH)2粉末を秤量し、BaTiO3換算で、スラリー濃度が1.0モル/Lとなるように純水を加え、スラリーを作製した。
【0064】
そして、作製されたスラリーを密封容器12に入れ、攪拌しながらスラリーの温度を200℃まで上昇させ、200℃で1時間保持し水熱反応を行った。その後、密封容器12の内部における圧力を大気圧に戻し、密封容器12に対する加熱を止めてスラリーを放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、比較例2におけるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0065】
2.チタン酸バリウム粉末の評価
上述した方法により得られた実施例1ないし実施例3、並びに比較例1および比較例2にかかるチタン酸バリウム粉末について(CuKαを線源とする)X線回折を行い、リートベルト法によって結晶構造、および格子定数を求めた。また、実施例1ないし実施例3、並びに比較例1および比較例2にかかるチタン酸バリウム粉末の比表面積をBET法により求めた。
【0066】
表2は、それらの測定結果を示す。また、図4は、比表面積と格子定数との関係を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示すように、実施例1ないし実施例3、並びに比較例1および比較例2にかかるチタン酸バリウムの結晶系は、すべて、立方晶であった。
【0069】
また、表2における格子定数に着目すると、Ba(OH)2の投入温度を高くするにしたがって、格子定数が小さくなっていることが確認できた。これは、チタン酸バリウムの粒子が生成される温度を高くすることにより、格子内において残留する水酸基が減少したためと考えられる。また、図4によると、反応工程全体におけるスラリーの温度が100℃未満である比較例1に比べ、結晶性の高いことが確認できた。
【0070】
さらに、表2における比較例2は、一般的な水熱合成法により得られたチタン酸バリウム粉末の評価結果を示す。比較例2の格子定数と比較例2と同等の比表面積を有する実施例2の格子定数とを比較すると、比較例2にかかる格子定数の方が大きいことから、結晶性が十分でないことが確認できた。これは、TiO2とBa(OH)2とを室温で混合し、この後、密封容器12に入れて、スラリーの温度を200℃まで徐々に上昇させているので、反応が開始される温度が低いことから、水酸基が残留したためと考えられる。
【0071】
また、得られたチタン酸バリウム粉末を800℃〜1000℃の温度で仮焼した。仮焼することで、粒成長し、結晶系が転位して、正方晶のチタン酸バリウムが得られた。また、比表面積が同程度の実施例および比較例を比較すると、結晶性が高い実施例では、軸比c/aが大きい正方晶のチタン酸バリウム粉末を得ることができた。
【0072】
3.チタン酸ストロンチウム粉末の作製
表3を参照しながら、ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置10を用いたチタン酸ストロンチウム粉末の作製方法について説明する。表3は、実施例4および比較例3におけるSr(OH)2の投入温度、Sr(OH)2の投入直後におけるピーク温度、および反応工程における最高温度を示す。
【0073】
【表3】

【0074】
(実施例4)
セラミック素原料として、Sr(OH)2、TiO2(比表面積300cm2/g)を準備した。まず、TiO2粉末を30.00g秤量し、純水0.1Lとともに密封容器12に入れ、軽く攪拌してTiO2粉末を含んだスラリー(原料液)を作製した。次に、Ti元素とのモル比が1:1になるように、Sr(OH)2粉末を45.70g秤量し、これを密封容器12の内部に設置している原料投入装置18に入れた。
【0075】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした後、加熱装置14を使ってスラリーを加熱した。第1の圧力計22b、および温度計16で密封容器12の内部における圧力、およびスラリーの温度をモニターしながらスラリーの加温を続けた。そして、スラリーの温度が100℃になった段階で、Sr(OH)2粉末をスラリーに投入するために、圧力制御弁24cを調整して第2のバルブ24aを開いた。第2のバルブ24aを開いた後、数秒後、第2の圧力計24bの値が上昇して第1の圧力計22bと一致するとともにスラリーの温度の急激な上昇が観察されたら、すぐに第2のバルブ24aを締めて密封容器12を密封状態にした。
【0076】
続いて、加熱装置14を使って密封容器12に内部に密封されるスラリーを保温しながら、攪拌翼20を使ってスラリーを攪拌しつつ1時間反応させた。その後、加熱を止め、第1のバルブ22aおよび第2のバルブ24aを開放し、密封容器12の内部における圧力を大気圧に戻した状態でスラリーを放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、実施例4におけるチタン酸ストロンチウム粉末を得た。
【0077】
(比較例3)
まず、実施例4と同様のセラミック素原料を準備するために、TiO2粉末を含んだスラリーを密封容器12の内部で作製した。そして、Sr(OH)2粉末を原料投入装置18に入れた。
【0078】
次に、密封容器12に接続された第1のバルブ22aを開放状態とし、第2のバルブ24aを締めた状態にした後、加熱装置14を使ってスラリーを加熱した。第1の圧力計22b、および温度計16で密封容器12の内部における圧力、およびスラリーの温度をそれぞれモニターしながらスラリーの加温を続けた。そして、スラリーの温度が65℃になった段階で、Sr(OH)2粉末をスラリーに投入するために、圧力制御弁24cを調整して第2のバルブ24aを開いた。第2のバルブ24aを開いた後、数秒後、第2の圧力計24bの値が上昇して第1の圧力計22bと一致するとともにスラリーの温度の急激な上昇が観察されたら、すぐに第2のバルブ24aを締めて、密封容器12を第2のバルブ24aの開放前の状態にした。ここで、Sr(OH)2粉末をスラリーに投入してから、表3に示すピーク温度である95℃に達するのに、12分要した。
【0079】
続いて、実施例4と同様に、加熱装置14を使って密封容器12の内部に、密封されるスラリーを保温しながら、攪拌翼20を使ってスラリーを攪拌しつつ1時間反応させた。その後、密封容器12に対する加熱を止めてスラリーを放置した。そして、スラリーが冷却した後、スラリーが密封容器12から取り出され、乾燥機に入れて水分を蒸発させて、比較例3におけるチタン酸ストロンチウム粉末を得た。
【0080】
4.チタン酸ストロンチウム粉末の評価
上述した方法により得られた実施例4および比較例3にかかるチタン酸ストロンチウム粉末について、リートベルト法によって格子定数を求めた。
【0081】
格子定数の測定の結果、実施例4にかかるチタン酸ストロンチウム粉末の格子定数は、0.3914nmであり、比較例3にかかるチタン酸ストロンチウム粉末の格子定数は、0.3922nmであった。
【0082】
このように、密閉した製造方法では、反応に伴うと考えられる温度上昇が短時間で終了し、また、格子定数が小さくなる傾向が見られた。したがって、本製造方法により、均一で結晶性の高いチタン酸ストロンチウム粉末が得られていると考えられる。
【0083】
上述の実施の形態では、原料投入装置から原料液に粉末状の水酸化物を投入する方法として、原料投入装置における蓋部の開閉は、密封容器の外部に設けられた第2のバルブおよび圧力制御弁の操作により行われるが、これに限るものではなく、密封容器の外部からの操作により原料投入装置から原料液に粉末状の水酸化物を投入することができる他の手段が用いられてもよい。すなわち、密封容器の外部からの操作により蓋部を開閉するために、たとえば、蓋部を回転させることにより開閉させてもよく、また、蓋部に対する機械的な操作による開閉や、蓋部に対して原料投入装置の内側から外側に向けて水圧を加えることにより蓋部を開くようにしてもよい。
【0084】
また、上述の実施の形態では、原料投入装置は、密封容器の内部において配置されているが、これに限るものではなく、原料投入装置から粉末状の水酸化物が原料液に投入することが可能となるように、原料投入装置は、たとえば、密封容器の上部側において配置するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明にかかるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法およびその製造装置は、特に、たとえば各種電子機器の小型化等に伴い用いられる積層セラミックコンデンサなどの電子部品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0086】
10 ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置
12 密封容器
14 加熱装置
16 温度計
18 原料投入装置
18a 投入用容器
18b 蓋部
18c 連係部材
20 攪拌翼
20a 翼部
20b 軸部
22 第1の配管
22a 第1のバルブ
22b 第1の圧力計
24 第2の配管
24a 第2のバルブ
24b 第2の圧力計
24c 圧力制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3(AはBa、CaおよびSrのうちの少なくとも1つを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも酸化チタン粉末を含んだ原料液を密封容器の内部で加熱し、前記加熱された原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を加えて反応させる反応工程を含むことを特徴とする、ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記加熱された原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を加えて反応させることにより原料液の温度が100℃以上になることを特徴とする、請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程で得られた反応生成物を800℃〜1000℃で熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
一般式ABO3(AはBa、CaおよびSrのうちの少なくとも1つを含み、Bは少なくともTiを含む)で表されるペロブスカイト型複合酸化物を製造するためのペロブスカイト型複合酸化物の製造装置であって、
少なくとも酸化チタン粉末を含む原料液を密封するための密封容器と、
前記密封容器の内部において密封された前記原料液を加熱するための加熱手段と、
前記原料液にAサイト成分を構成する元素の水酸化物を投入するための投入手段と、
を備えることを特徴とする、ペロブスカイト型複合酸化物の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−14460(P2013−14460A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147383(P2011−147383)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】