説明

ペンタガストリンを含む胃酸分泌刺激用経口組成物

本発明は、胃酸分泌についての効果的な診断用薬として、ペンタガストリン(PG)を含む経口組成物を開示する。本組成物は、PGの生物学的活性が維持されるように、胃液中でPGの有効性を保存する一以上の薬剤を更に含む。本発明による薬学的組成物は、最大胃酸分泌の決定における診断用薬および治療として適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、異常な胃酸分泌と関連した疾患を診断するための、経口投与される、効果的な胃酸分泌刺激剤に関する。
【発明の背景】
【0002】
胃酸分泌の評価は、胃腸管における多くの疾患の状態を診断する際に重要な役割を果たし得る。これら状態には、萎縮性胃炎など、酸分泌が異常に低い状況が含まれる。かかる疾患において、酸分泌の刺激は、胃粘膜の機能不全を証明するか、または胃粘膜の機能不全が誤りであることを証明するのに役に立つ。消化性疾患の手術後の不完全な迷走神経切断、または無制限の上部消化管出血などの他の状況において、胃酸の相対的な分泌過多が起こり得る。かかるケースにおいて、胃酸分泌の刺激は、胃酸の分泌能を試験するのに役に立つ。また、酸分泌の評価は、胃酸の次に粘膜損傷により引き起こされる状態に重要であり得る。これらには、たとえば、ゾリンジャー/エリソン症候群(ZES)、胃食道逆流疾患(食道炎を含む)、および消化性潰瘍疾患が含まれる
現在、胃における酸分泌の調査は、化学的刺激の助けを借りて行われる。当該技術分野で公知の化学的分泌刺激剤には、ヒスタミン、ガストリン−類似体調製物およびヒスタロッグ(ヒスタミンの類似体)が含まれる。胃酸分泌に加えて、患者に多くの副作用、たとえば皮膚の赤色化、悪心、嘔吐、頭痛、めまい、気管支痙攣、声門水腫、低血圧およびショックが生じるため、ヒスタミンの選択は制限される。多くのケースでは、これら副作用は、メピラミン、タベルジル(tavelgil)およびスプラスチン(suprastin)を含むH1−アンタゴニストなどの伝統的な抗ヒスタミン薬を導入することにより完全に除去することができる。この理由のため、ヒスタミンは、病院でのみ、限られた数のケースで、ヒスタミン試験として公知のものについて使用される。
【0003】
胃酸分泌の別の公知の刺激剤は、ガストリンのカルボキシル末端テトラペプチドを含有するペンタペプチドであるペンタガストリン(PG)である。このカルボキシル末端テトラペプチドは、殆ど全ての天然のガストリンに見出される活性な部分である。動物においてPGは、主に、胃に存在する類エンテロクロマフィン(ECL)細胞からのヒスタミンの放出を誘導することにより、胃酸の分泌を誘導するように作用する。ヒスタミンの放出およびその後の壁細胞に存在するヒスタミン受容体の活性化は、壁細胞の活性化につながり、プロトンイオンを胃管腔に活発に分泌する。またPGは、壁細胞に直接作用し、その活性化を誘導することも可能である。
【0004】
酸性状況でのPGの溶解度の低さ、およびPGが胃でペプシン分解されやすいという事実より、本出願人が発見するまで明らかに予測できない経口投与後の胃酸分泌のインデューサーとしてのPGの用途が提示された。本出願人の発見前には、PGは非経口ルートにより投与された場合のみ、酸分泌の誘導において効果的に活性であると全ての当業者により考えられていた。このファクターは、かかる注入が滅菌器具および専門センターの有資格スタッフを必要とするため、前記化合物のルーチンの適用を妨害する。実際、酸分泌に対する効果は、PGの経口投与を受けた正常な4被検体では検出されなかったが、胃腸の異常を伴う別の3患者では幾らかの効果が検出された(Morrell & Keynes Lancet. 1975; 2 (7937): 712)。実際、この研究は、経口投与したときにPG活性が失われる証拠として薬理学の教科書に引用された(Martindale Thirty-second edition, pl616, the Chapter: "Supplementary Drugs and Other Substances")。更に、ウシガエルのモデルを用いたインビトロの研究により、PGは、管腔の表面に適用したときに、胃粘膜に影響を及ぼさないことが示唆された(Ayalon A. et al., 1981 The Am. J. Surg. 141: 94-97)。
【0005】
経口投与され得る診断目的の効果的な胃酸分泌のインデューサーを開発することにより、長期の切実な要求が満たされるでしょう。現存の技術は何れも、PGが経口投与後に効果的な診断用薬として使用され得ることを開示も示唆もしていない。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、胃酸分泌能を評価するため、および異常に高いかまたは低い胃酸分泌状態に苦しむ被検体を診断するための、胃酸分泌の刺激剤を含む経口組成物を提供することである。
【0007】
本発明は、壁細胞のアクチベーターとしてアミノ酸配列Trp-Met-Asp-PheNH2(配列番号1として示される)を含むペプチドを薬学的に効果的な量含む、胃酸分泌刺激用の経口組成物に関する。本発明で使用される好ましいペプチドは、ペンタガストリン(PG)および/またはPG類似体である。組成物は、PGの生物学的活性を維持することによりPGが胃で局所的に作用可能なように、胃液においてPGの有効性を保存する一以上の薬剤を更に含む。
【0008】
本発明は、PGが、経口投与された場合に、好ましくは胃管腔で局所的に作用して酸分泌細胞を活性化することにより、局所的に活性であるという驚くべき発明者らの発見に基くものである。本発明の経口組成物は、公知の胃酸分泌刺激剤よりも優れている。本発明の組成物は、胃管腔におけるPGの局所的効果により、PGの全身投与と関連した副作用を生じることなく、PGによる壁細胞の活性化を可能にする。
【0009】
好ましい態様において、本発明による経口組成物は、胃管腔における壁細胞の局所的アクチベーターとして、PGまたはPG類似体を含む。アミノ酸配列βAla-Trp-Met-Asp-PheNH2(配列番号2)を含むPGに加えて、本発明は、壁細胞のアクチベーターとして、ガストリンまたはPG類似体またはその誘導体の使用を想定する。かかる変異体には、ガストリンの34-、17-、および14-アミノ酸種、および完全な薬理活性を有することが文献(Tracey and Gregory (1964) Nature (London), 204: 935参照)で報告されているガストリンの活性なC末端テトラペプチドTrp-Met-Asp-PheNH2(配列番号1)を含む他のトランケーション変異体が含まれるが、これらに限定されない。
【0010】
天然のアミノ酸が保存的置換で置換されているガストリンの変異体および/またはトランケートされたガストリンも含まれる。これら分子の種々の類似体には、たとえば、PGのN−保護誘導体Boc-βAla-Trp-Met-Asp-PheNH2(Bocはtert-ブチルオキシカルボニル基である)またはF-Moc-βAla-Trp-Met-Asp-PheNH2(Mocはメトキシカルボニルである)が含まれるがこれらに限定されない。
【0011】
非限定的な態様において、本発明による経口組成物は、酸性胃液中でPGまたはその類似体の有効性を保存する一以上の薬剤を更に含む。これら薬剤は、好ましくは、胃液中でPGの溶解性を保持しその分解を防ぐことにより胃液中でPGの有効性を保存するのに充分な量で存在し、その結果、胃においてPGの局所的な生物学的活性が保存される。これにより、PGは胃で局所的に作用し壁細胞を活性化することができる。かかる薬剤は、好ましくは、胃液中に溶解されたときに、ペプシンを阻害する値まで胃液のpHを一時的に上昇させることにより、ペプシンによる胃液中のPGの分解を阻害することができる制酸剤またはアルカリ性薬剤である。PGは、アルカリ性状況でのみ可溶であるため、胃液のpHの一時的な上昇は、PGの少なくともかなりの割合が胃液中に可溶なまま残ることを保証する。
【0012】
任意の弱塩基または強塩基(およびその混合物)が、本発明の経口組成物においてアルカリ性薬剤として利用可能であることに注目されたい。アルカリ性薬剤または制酸剤は、酸性胃液においてPGの安定性および溶解性を実質的に保存するのに充分な量で組成物中に存在する。したがって、本発明のアルカリ性薬剤は、胃液に溶解されたときに、PGの十分な有効性を達成し治療作用を発揮するのに充分な値まで胃のpHを上昇させることができる。
【0013】
好ましい態様に従って、組成物中のアルカリ性薬剤は、PGが胃で壁細胞に到達しそれを活性化するのに充分な期間にわたって、4を超える値、より好ましくは5を超える値まで胃液のpHを上昇させるのに充分な量で存在する。より好ましい態様において、アルカリ性薬剤は、5〜60分の期間、好ましくは5〜30分の期間にわたって、5を超える値まで胃液のpHを上昇させることができる。このように、本発明によるアルカリ性薬剤は、PGが壁細胞を活性化するのに充分な期間にわたって、胃液中でPGの溶解性を保存する。更に、胃液中の一時的なアルカリ性状況は、酸性pHにおいてのみ活性であるペプシンによるPGの分解を妨害する。
【0014】
種々の態様に従って、本発明の組成物は、酸性胃液中でPGまたはその類似体の有効性を保存する他の薬剤を更に含む。かかる薬剤は、たとえば、胃においてペプチドの分解を低減するペプシンインヒビター(すなわちペプスタチンおよびその誘導体バシトラシン−環状ドデカペプチド)、または胃粘膜の粘度を低減し、これにより酸分泌を担う細胞に到達するPGの能力を促進する粘液溶解剤である。かかる粘液溶解剤は、たとえば還元剤、たとえばN-アセチルシステイン、ジチオトレイトール、クエン酸またはマンニトールである。本発明の組成物は、胃に存在する細菌に対して効果的な抗生物質を更に含んでいてもよい。
【0015】
好ましい態様において、本発明の経口組成物は、胃液分泌を刺激する効果的な量のPGを含む。かかる経口組成物は、即時放出形態または持続放出形態で胃液分泌刺激剤を含有する。経口組成物は、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性または油性懸濁剤、分散性粉剤または顆粒剤、乳剤、マルチ粒子製剤、シロップ剤、エリキシル剤などの形態であり得る。
【0016】
本発明の経口組成物は、PGを一つの投与形態で含有し、胃液中でPGの有効性を保存する薬剤を別の投与形態で含有するキットとして提供されてもよい。
【0017】
種々の態様に従って、経口組成物は、賦形剤、たとえば充填剤、潤滑剤、胃におけるPGまたはその類似体の生体接着(bio-adhesion)を高める薬剤、および可溶化剤を更に含む。胃におけるPGの放出は、制御放出により、好ましくは胃保持剤により、制御され延長されてもよい。
【0018】
本発明による胃酸分泌刺激用の経口組成物は、診断および治療目的のために使用され得る。具体的に、本発明による組成物は、異常な胃酸分泌と関連した病状に罹患している被検体を診断するため、被検体における胃酸分泌の程度を決定するため、プロトンポンプインヒビターなどの酸分泌インヒビターの効力を評価するため、並びに胃酸分泌の刺激が必要な被検体における治療組成物として、使用することができる。
【0019】
よって一つの態様において、本発明は、異常な胃酸分泌、好ましくは異常に高い胃酸分泌と関連した障害に罹患している被検体を診断する方法であって、
(a)胃酸刺激を誘導するために、薬学的に効果的な量の本発明の経口組成物を被検体に投与すること;および
(b)前記被検体における胃酸分泌のレベルを決定し、ここで前記被検体における胃酸分泌のレベルが、コントロールの被検体で決定されるレベルより高いかまたは低い場合、前記被検体が異常な胃酸分泌と関連した障害に罹患していること
を含む方法に関する。
【0020】
異常な胃酸分泌と関連した障害に罹患している被検体を診断する方法は、工程(a)の前に被検体における胃酸分泌のベースラインレベルを決定し、ベースライン分泌レベルに対する、刺激後の前記被検体における胃酸分泌の程度を評価する工程を更に含んでいてもよい。
【0021】
異常な胃酸分泌と関連した障害に罹患している被検体を診断する方法は、工程(b)の後に薬学的に効果的な量のプロトンポンプインヒビターを前記被検体に投与し、プロトンポンプインヒビターの投与後の胃酸分泌のレベルを決定する工程を更に含んでいてもよい。
【0022】
ベースライン胃酸分泌レベルおよび刺激後の分泌レベルを決定するための好ましい方法は、たとえば、胃管腔におけるpHの測定、または胃十二指腸管腔におけるトータルの酸分泌量の測定を伴う。
【0023】
本発明の方法で使用される好ましいペプチドは、ペンタガストリン(PG)(配列番号2として示される)である。しかし、本発明は、他のガストリンまたはPG類似体またはその誘導体の使用を想定する。
【0024】
これら方法は、異常な胃酸分泌と関連した疾患について患者をスクリーニングするために使用され得る。また本方法は、異常な胃酸分泌と関連した疾患に罹患している患者に投与される薬物、たとえばプロトンポンプインヒビターおよびH2ブロッカーの効力をモニターするために使用され得る。一つの態様において、かかる病状には、異常に高い胃酸分泌と関連した疾患が含まれる。またこれら方法は、萎縮性胃炎などの異常に低い胃酸分泌と関連した疾患について患者をスクリーニングするために使用され得る。
【0025】
更に本発明は、被検体において胃酸分泌を刺激する方法であって、胃酸刺激を誘導するために、本発明の経口組成物を被検体に投与することを含む方法に関する。本発明の方法で使用される好ましいペプチドは、PG(配列番号2として示される)である。しかし、本発明は、他のガストリンまたはPG類似体またはその誘導体の使用を想定する。
【0026】
本発明の方法は、哺乳類において胃酸分泌を診断または誘導する際に有効である。かかる哺乳類は、たとえば齧歯類、ウシ属、ウマ、イヌ科、ウマ科、非ヒト霊長類、またはヒトである。好ましい態様によれば、前記哺乳類はヒトである。
【0027】
これらの態様および更なる態様は、後述の詳細な説明および実施例から明らかでしょう。
【発明の詳細な説明】
【0028】
「アルカリ性薬剤」の用語は、PGとともに(たとえば、PGの前、間および/または後に)調合されるかまたはデリバーされたときに、胃内でPGの有効性を実質的に保存する値まで胃管腔のpHを一時的に上昇させるように機能する任意の薬学的に適切な弱塩基または強塩基(およびその混合物)をいう。
【0029】
「胃内でPGの有効性を保存する薬剤」の用語は、胃におけるPGの溶解性および安定性を維持することができる任意の薬剤をいう。具体的には、かかる薬剤は、可溶性形態で少なくともかなりの量のPGを維持することができ、かつ胃液で分解されず、その結果、胃におけるPGの生物学的活性が維持される。
【0030】
「胃におけるPGの生物学的活性」の用語は、胃管腔に位置する壁細胞の活性化をいう。
【0031】
本発明は、胃酸分泌を誘導するために、非経口ルートを経由してPGを適用する必要がないことを初めて開示する。よって、経口投与されるPGは、胃酸分泌についての効果的な診断用薬として使用され得る。本発明による薬学的組成物は、最大胃酸分泌の決定における診断用薬として適用することができる。加えて、本発明の薬学的組成物は、治療目的のため、たとえば胃酸分泌の刺激が必要な疾患を治療するために使用され得る。
【0032】
本出願人は、5.0を超えるようpHを上昇させるのに充分な濃度でNaHCO3などのアルカリ性薬剤を添加すると、ペプシンによるPGの分解が妨害されることを予期し得ないことに発見した。またインビボ実験により、経口投与されたPGが、動物モデルにおいて胃酸分泌を誘導することが明らかにされた。更にインビボ実験により、PGが、血流への吸収を介してよりも、胃壁に対して局所的に作用し得ることが明らかにされた。従って、経口投与されたPGは、胃において局所的効果を発揮することができる。
【0033】
本明細書で開示されるとおり、錠剤または液剤の形態で経口投与されたPGは、胃酸分泌の誘導において効果的である。よって、経口投与されたPGを用いて、サブ最大および最大の酸分泌試験を行うことができる。胃酸分泌の診断のためのPGの経口投与は、当該技術分野で使用される調製物(非経口ヒスタミンまたはPG)よりも多くの重要な利点を有する。最も重要な特徴は、経口投与され得るということ、非常に選択的であり、安全であり、臨床条件下での使用が便利であるということである。PGの投与は、その後、ヒスタミン試験に典型的な有意な副作用を引き起こさない;したがって、前もって抗ヒスタミン調製物を導入する必要がない。更に、当該薬剤の経口投与は、PGの非経口投与と比較して、さらに低い副作用を引き起こすことが予測される。
【0034】
胃酸分泌を誘導するために本発明で使用されるペプチドは、アミノ酸配列βAla-Trp-Met-Asp-PheNH2(配列番号2として示される)を含む。しかし、他のガストリンまたはPG類似体、またはその誘導体が、本発明の範囲内である。かかる類似体または誘導体は、当業者に周知である。かかる変異体には、ガストリンの34-、17-、および14-アミノ酸種、および完全な薬理活性を有することが文献(Tracey and Gregory (1964) Nature (London), 204: 935参照)で報告されている配列番号1として示される活性なC末端テトラペプチドTrp-Met-Asp-PheNH2を含む他のトランケーション変異体が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
天然のアミノ酸が保存的置換で置換されているガストリンの変異体および/またはトランケートされたガストリンも含まれる。また、たとえばPGのN−保護誘導体を含むがこれに限定されない、これら分子の種々の類似体も含まれる。PGの適切な保護基には、当該技術分野で公知の標準的ヒドロキシル保護基、たとえば、メトキシメチル(MOM)、β−メトキシエトキシメチル(MEM)、トリアルキルシリル、トリフェニルメチル(trityl)、tert−ブトキシカルボニル(t-BOC)、エトキシエチル(EE)、f-MOC(メトキシカルボニル)、TROCなどが含まれる。保護基は、当業者に一般に公知の標準的手法を用いることにより除去し、所望のPG誘導体を得ることができる(T. W. Green, Protective Groups in Organic Synthesis, Chapter 2, pages 10-69 (1981))。
【0036】
ガストリン、ペンタガストリン、またはその類似体は、商業的に入手可能である。加えて、合成のプロトコールが周知である。このため、たとえば、PGは周知のペプチド合成方法を用いて化学的に合成することができる(たとえば、Barany and Merrifield Solid-Phase Peptide Synthesis; pp. 3-284 in The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology. Vol. 2: Special methods in peptide synthesis, part a.; Merrifield et al. (1963) J. Am. Chem. Soc., 85: 2149-2156; and Stewart et al. (1984) Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed. Pierce Chem. Co., Rockford, ILL.を参照)。更にPGは、たとえばBoc-Ala残基をテトラペプチドTrp-Met-Asp-PheNH2に結合させることにより化学的に合成することができる。
【0037】
PGの経口調合物は、胃酸分泌の程度を診断する際、および最大胃酸分泌能力を決定する際に有効である。経口PG調合物は、異常な胃酸分泌と関連した疾患について患者をスクリーニングするために使用され得る。また、PGの経口調合物は、胃酸分泌に続くダメージと関連した疾患に罹患している患者に投与されるような胃酸分泌の低減を目的とした薬物治療の効力をモニターするために使用され得る。かかる病状には、たとえば、逆流性食道炎、胃炎、十二指腸炎、胃潰瘍および十二指腸潰瘍が含まれる。
【0038】
更に、本発明のPGの経口調合物は、たとえば、(低用量アスピリンを含む)抗炎症薬(NSAID)治療中の患者、非潰瘍性消化不良の患者、症候性胃食道逆流疾患(GERD)の患者、ガストリン産生腫瘍の患者、急性上部消化管出血の患者、ストレス潰瘍の症状において、異常に高い胃酸分泌を伴う他の胃腸障害の疾患について患者をスクリーニングするために使用され得る。更に、PGの経口調合物は、ヘリコバクター感染症およびこれらに関連した疾患をスクリーニングするために使用され得る。本発明に従ってスクリーニングするのに適した他の症状には、ゾリンジャー−エリソン症候群(ZES)、ウェルナー症候群、および全身性肥満細胞症が含まれるがこれらに限定されない。
【0039】
本発明の組成物は、過度な有害な副作用を起こすことなく、壁細胞に対して薬理効果を達成するのに効果的な量でPGまたはその類似体を含む。組成物に存在するPGの標準的概算量は、好ましくは1-100 mg、より好ましくは2-60 mg、最も好ましくは4-40 mgのPGの量(または等価な量のPGの類似体)である。
【0040】
本発明の組成物で投与されるPGの量は、胃酸分泌の測定可能な増大を引き起こすのに充分であり、より好ましくは、胃酸分泌の有意な増大(たとえば、90%、より好ましくは95%、最も好ましくは98%または99%の信頼水準の統計学的に有意な増大)を引き起こすのに充分である。
【0041】
好ましい態様において、本発明の組成物は、酸性胃液中でPGの有効性を保存する一以上の薬剤を更に含む。より具体的には、保存剤は、胃液中でPGの安定性または溶解性を維持する。これにより、PGが胃において局所的に作用し壁細胞を活性化することが可能になる。かかる薬剤は、好ましくは、それらを胃液に溶解したときに、胃に存在するペプチダーゼを阻害し、かつ少なくともかなりの割合のPGが胃液中に可溶なまま残るpHまで、胃液のpHを上昇させることができるアルカリ性薬剤または制酸剤である。
【0042】
本発明で使用されるアルカリ性薬剤には、たとえば以下のものが含まれる:重炭酸ナトリウムまたはカリウム、酸化、水酸化または炭酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸、リン酸またはクエン酸のアルミニウム、カルシウム、ナトリウムまたはカリウムとの塩、炭酸二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリシン酸アルミニウムとバッファーとの混合物、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、およびその他のカルシウム塩。重炭酸ナトリウムは水に容易に溶解するが、炭酸カルシウムは水不溶性であり、酸性環境でのみゆっくり溶解できることに注意されたい。したがって炭酸カルシウムは、胃内でアルカリ性薬剤の持続した溶解が望まれるときに有効であり得る。
【0043】
本発明で使用される制酸剤の例には、一以上の以下のものが含まれる:アルミナ、炭酸カルシウム、および重炭酸ナトリウム;アルミナおよびマグネシア;アルミナ、マグネシア、炭酸カルシウム、およびシメチコン;アルミナ、マグネシア、および炭酸マグネシウム;アルミナ、マグネシア、炭酸マグネシウム、およびシメチコン;アルミナ、マグネシア、およびシメチコン;アルミナ、アルギン酸マグネシウム、および炭酸マグネシウム;アルミナおよび炭酸マグネシウム;アルミナ、炭酸マグネシウム、およびシメチコン;アルミナ、炭酸マグネシウム、および重炭酸ナトリウム;アルミナおよび三ケイ酸マグネシウム;アルミナ、三ケイ酸マグネシウム、および重炭酸ナトリウム;アルミナおよびシメチコン;アルミナおよび重炭酸ナトリウム;塩基性炭酸アルミニウム;塩基性炭酸アルミニウムおよびシメチコン;水酸化アルミニウム;炭酸カルシウム;炭酸カルシウムおよびマグネシア;炭酸カルシウム、マグネシア、およびシメチコン;炭酸カルシウムおよびシメチコン;炭酸カルシウムおよびマグネシウム;マガルドレート;マガルドレートおよびシメチコン;炭酸マグネシウムおよび重炭酸ナトリウム;水酸化マグネシウム;酸化マグネシウム。
【0044】
好ましくは、本発明の組成物は、一以上のアルカリ性薬剤または制酸剤を、薬理効果を達成するのに効果的な量で含む。具体的には、組成物中のアルカリ性薬剤または制酸剤は、PGが胃の壁細胞を活性化するのに充分な期間にわたって、胃に存在するプロテアーゼに最適なpHより高いpHまで胃液のpHを上昇させるのに充分な量で存在する。好ましい態様において、アルカリ性薬剤または制酸剤は、5〜60分の期間にわたって、好ましくは5〜30分の期間にわたって、5を超えるpHまで胃液のpHを上昇させるのに充分な量で存在する。本発明の組成物に必要なアルカリ性薬剤の量は、使用されるアルカリ性薬剤のタイプおよび所定のアルカリ性薬剤により提供される塩基に相当するものなど、幾つかの因子により必然的に変動する。実際、胃においてPGの優れた有効性を提供するのに必要な量は、(米国薬局方(USP)ガイドラインに従って調製される)200ミリリットルの人工胃液の溶液に添加したときに、そのHCl溶液のpHを少なくともpH5.0まで上昇させる量である。好ましくは少なくとも100ミリグラム、より好ましくは少なくとも300ミリグラム、最も好ましくは少なくとも500ミリグラムのアルカリ性薬剤が、本発明の薬学的組成物で使用される。
【0045】
別の態様において、本発明の組成物は、酸性胃液中でPGの有効性を保存する他の薬剤を更に含む。たとえば、本発明の組成物は、ペプシンインヒビター、たとえば活性化されたペンタペプチドペプスタチン、および天然または合成由来のその誘導体を含んでいてもよい。これらインヒビターは、ペプシンによるPGの分解を減少させる。更に、本発明の組成物は、胃粘膜の粘度を減少させることによりPGが壁細胞に到達する能力を促進する粘液溶解剤を含んでいてもよい。かかる粘液溶解剤は、たとえば還元剤、たとえばN-アセチルシステイン、ジチオトレイトール、クエン酸またはマンニトールである。あるいは、本発明の組成物は、PGのためのポリマーコーティング、たとえば胃の酸性環境からPGを保護するポリマーの腸溶性コーティングを含んでいてもよい。
【0046】
PGを含有する薬学的組成物は、経口投与形態で投与される。かかる経口投与形態は、即時放出形態または持続放出形態の薬剤および適切な薬学的に許容可能なキャリアを含有する。本発明の組成物は、固体または液体形態の何れかで調合され得る。液体製剤と比較して固体製剤の安定性が改良されていることから固体製剤が好ましいことに注意されたい。経口投与形態は、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性または油性懸濁剤、分散性粉剤または顆粒剤、乳剤、マルチ粒子製剤、シロップ剤、エリキシル剤などの形態であり得る。
【0047】
PGおよび胃液中でPGの有効性を保存する一以上の薬剤は、好ましくは、単一の固体投与形態、たとえば多層錠剤、懸濁錠剤、発泡錠剤、粉剤、ペレット、顆粒剤、または複数のビーズを含むカプセル剤で調合される。別の態様において、活性薬剤は、単一の液体投与形態、たとえば全ての有効成分を含有する懸濁剤、または使用前に再構成されるドライ懸濁剤で調合されてもよい。
【0048】
本発明の有効成分は、不活性な薬学的に許容可能なビーズ内に組み込まれてもよい。この場合、薬剤は、ビーズにコーティングされる前に、更なる成分と混合されてもよい。成分には、結合剤、界面活性剤、充填剤、崩壊剤、アルカリ性添加剤または他の薬学的に許容可能な成分の単一物または混合物が含まれるがこれらに限定されない。結合剤には、たとえば、セルロース、たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチル−セルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、糖、デンプン、および凝集性を備えた他の薬学的に許容可能な物質が含まれる。適切な界面活性剤には、薬学的に許容可能な非イオン系またはイオン系界面活性剤が含まれる。適切な界面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0049】
粒子は、慣用的な技術により、パックされた経口摂取用の塊に形成されてもよい。たとえば、粒子は、公知のカプセル化の手法および材料を用いて、「硬質充填カプセル」としてカプセル化されてもよい。カプセル化材料は、カプセルが摂取された後に粒子が胃で迅速に分散するように、胃液中で可溶性が高くなければならない。
【0050】
別の態様において、本発明の有効成分は、圧縮錠剤にパッケージングされる。「圧縮錠剤」の用語は、一般に、一回の圧縮により、またはプレ圧密タッピングとその後の最終圧縮により調製される、経口摂取用の扁平な非コーティング錠剤をいう。かかる固体形態は、当該技術分野で周知のとおり製造することができる。錠剤形態は、たとえば、一以上のラクトース、マンニトール、コーンスターチ、ポテトスターチ、微結晶性セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝化剤、湿潤剤、保存剤、香味剤、および薬学的に適合可能なキャリアを含むことができる。製造プロセスは、4つの確立された方法の一つまたはその組合せを採用することができる:(1)乾燥混合;(2)直接圧縮;(3)圧延(milling);および(4)非水系顆粒化。Lachman et al., The Theory and Practice of Industrial Pharmacy (1986)。かかる錠剤は、フィルムコーティングを備えていてもよく、これは、好ましくは経口摂取したときまたは希釈剤と接触したときに溶解する。
【0051】
別の代案において、本発明の組成物は、圧縮形態、たとえば懸濁錠剤および発泡錠剤で調合され、水または他の希釈剤と反応したときに、経口投与のための組成物の水性形態がつくられる。これらの形態は、錠剤の飲込みまたは咀嚼よりずっと受け入れられる用法で子供や老人などに投薬するために特に有用である。本発明の薬学的錠剤または他の固体投与形態は、わずかな振盪または攪拌により、アルカリ性薬剤を崩壊させる。
【0052】
本明細書で使用される「懸濁錠剤」の用語は、水中に置かれた後急速に崩壊する圧縮錠剤をいい、容易に分散可能であり、正確な投与量のPGおよびアルカリ性薬剤を含有する懸濁液を形成する。一つの非限定的な例において、懸濁錠剤は、4-20 mgのPG、およびアルカリ性薬剤として約1-4グラムの重炭酸ナトリウムまたはカルシウムを含み得る。錠剤の急速な崩壊を達成するために、クロスカルメロースナトリウムなどの崩壊剤を製剤に添加してもよい。崩壊剤は、単独で、または圧縮困難な錠剤の材料の圧縮性を高める能力に関して周知である微結晶性セルロースと組合せて、圧縮錠剤に混合され得る。また、微結晶性セルロースは、単独で、または他の成分と共にプロセスされた状態で、圧縮錠剤のための一般的な添加剤であり、圧縮困難な錠剤の材料の圧縮性を高める能力に関して周知である。これは、商標Avicelで商業的に入手可能である。
【0053】
懸濁錠剤組成物は、当業者に明らかなように、上述の成分に加えて、薬学的錠剤でしばしば用いられる他の成分、たとえば香味剤、甘味剤、フロー助剤、潤滑剤、または他の一般的な錠剤アジュバントを含有してもよい。他の崩壊剤、たとえばクロスピビドン(crospividone)およびグリコール酸デンプンナトリウム(sodium starch glycolate)を使用してもよいが、クロスカルメロースナトリウムが好ましい。
【0054】
上記成分に加えて、上述の経口投与形態は、薬学の分野で慣用的な適量の他の材料、たとえば希釈剤、潤滑剤、結合剤、顆粒化助剤、着色剤、香味剤および滑り剤(glidant)を含有してもよい。これら追加材料の量は、所望の製剤に所望の効果を提供するのに充分なものである。経口投与形態を調合するために使用され得る薬学的に許容可能なキャリアおよび賦形剤の具体的な例は、Handbook of Pharmaceutical Excipients, American Pharmaceutical Association (1986)に記載され、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
ある状況においては、胃内保持製剤を用いることにより、管腔におけるPGの効果を延長するために、胃でのPGの保持時間を延長することが望ましい。かかる製剤は、たとえば、胃内容物排出に抵抗するサイズまで、胃内で急速に広がる製剤であり得る。かかるシステムは、長期間にわたって完全な状態を保持し、小さなピースへの分解が起こるまで、胃から排出されることはない。Caldwell et al. (Caldwell, L. J., Gardener, C. R., Cargill, R. C. (1988), 米国特許第4,767,627号)は、侵食性ポリマーから作成され、硬質ゼラチンカプセルに折り畳まれ挿入された薬剤を充填した十字デバイスを開示する。経口投与後、ゼラチンシェルは崩壊し、折り畳まれたデバイスは展開する。システムは、最小サイズ1.6 cmおよび最大サイズ5 cmであるため、胃からの通過が可能なほど充分小さくなるポイントまでポリマーが侵食してはじめて、胃から幽門へ移動する。
【0056】
胃でのPGの保持時間を延長する別のアプローチは、ヒトへの投与に都合がよい、親水性侵食性ポリマーシステム、たとえばポリ(エチレンオキシド)(Polyox)およびヒドロキシプロピル−メチルセルロース(HPMC)を使用することである。このシステムは、流体を吸収すると、胃内の保持を延長させるサイズまで短期間で膨張し、上部消化管において含有薬剤の吸収部位への持続性デリバリーを可能にする。これらシステムは、侵食性および親水性ポリマーまたはポリマー混合物からつくられるため、適度な期間をかけて容易に侵食され、胃から出ていく。膨張の期間は、これが食道で起こらないような期間であり、もしシステムが部分的に膨張した状態で腸に移動した場合、水和ポリマーの侵食性および弾性が、デバイスによる腸閉塞の機会を除去するでしょう。
【0057】
胃でのPGの有効性を保存する別のアプローチは、PGを含有するエマルジョンまたはミクロエマルジョンの形成に基づくものである。ミクロエマルジョンは、界面活性剤により安定化される、水中油の液体分散物である。ミクロエマルジョン粒子は、エマルジョンの粒子より小さく、これによりミクロエマルジョンは実質的に光学的に透明である。ミクロエマルジョンは、ほぼミセル構造を有するが、ミセル「コア」に別個の油相を含有するミセル様粒子であると一般に信じられている。その結果、ミクロエマルジョンベースのデリバリーシステムにおける疎水性の治療薬剤は、トリグリセリド相に優先的に溶媒和し、これが次いで膨張したミセルにカプセル化される。トリグリセリド相における優先的パーティショニングにより、匹敵するミセルベースのシステムより高いローディング能力につながるが、デリバリーシステムへの導入という犠牲を払って、脂肪分解依存およびトリグリセリドの存在と関連した他の欠点につながる。その上、本当のミセルと比較してミクロエマルジョン粒子のサイズが大きいことにより、粒子の拡散速度は遅くなり、その結果治療薬剤の吸収速度が遅くなる。
【0058】
以下の実施例は、本発明のある態様を更に充分に説明するために提示する。しかし、これらを本発明の広い範囲を限定するものと解釈すべきではない。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される原理の多くの変更および改変を容易に考案することができる。
【実施例】
【0059】
例1:経口投与されたPGは、インビボで胃酸分泌を刺激する際に有効である
実験は、経口投与されたPGの胃酸分泌に対する生物活性を決定するために行った。図1Aに示されるとおり、麻酔をかけたラットにPG(200μg/kg)を胃内投与すると胃pHは低下し、これは、PGが酸分泌を刺激したことを示す。この効果は、PG投与の10分後に観察され(データ示さず)、PGの経口投与から30分後に最大レベルに達した(p=0.053)。PGの皮下(S.C.)投与(6μg/kg)は、ポジティブコントロールとしての役割を果たし、胃pHを低下させた(p=0.01)。この観察により、経口投与されたPGは、胃において生物活性であることが示された。
【0060】
この観察は、PGが、胃粘膜に対する直接的作用により酸分泌に対して効果を及ぼすのか、あるいはPGが、血流を介して胃粘膜に到達し、その後小腸(多くのタンパク質が通常吸収される部位)から吸収されるのか問題を提起した。これら二つの可能性を識別するために、PGの酸分泌に対する効果を、幽門を結紮したラットに経口投与した後に試験した。図1Bに示されるとおり、幽門結紮されたラットにおいて、PG(250μg/kg)は胃pHを低下させ、このことは、PGが胃内で直接作用したことを示す。
【0061】
図2は、幽門結紮されたラットにおける胃酸分泌量に対する経口PGの効果(A)および胃酸分泌に対する経口投与されたPGの用量依存的効果(B)を示す。更に、酸分泌を刺激する際の様々なバッチのPGの活性を図3に示す。
【0062】
例2:経口投与されたテトラガストリンは、ラットで胃酸分泌を刺激する際に有効である
経口投与されたテトラガストリン(Trp-Met-Asp-PheNH2)の胃酸分泌の刺激における効果を調査した。図4は、ウィスターラットに皮下(s.c.)または経口の何れかで投与したテトラガストリンが、胃pHを低下させ(A)、酸分泌を増大させた(B)ことを示す。テトラガストリンを、s.c.(25μg/kg)または経口(206μg/kg)の何れかで投与し、処置の30分後に胃液を回収した。酸濃度を、NaOHを用いてサンプルをpH=7に滴定することにより測定した。結果は、3−4動物の平均±SEMで表す。PGと同様、等モル用量のテトラガストリンは、胃酸分泌を局所的に刺激したが、この効果は、PGほど大きくなかった。
【0063】
例3:NaHCO3は人工胃液中でPGの安定性を保存する
NaHCO3の存在下で酸性pHにおけるPGの安定性を、人工胃液を用いてインビトロで試験した。人工胃液は、米国薬局方(USP) 2000 Ed., P.235に従って調製した。200 mlの胃液を調製するために、0.4 gのNaClおよび0.64 gのペプシンを、16 ml 1M HClおよび184 mlの水に溶解した。胃液のpHは1.2であった。10または20 mlの8.4%(1M)NaHCO3(それぞれ最終濃度3.72 mg/mlまたは7.12 mg/ml)および16 mlの250 ppm PG 溶液 (0.25 mg/ml)を、当該溶液に添加した。最終溶液におけるPGの濃度は16 ppmであった。表示された場合には、オメプラゾール顆粒を更に添加した(溶液BおよびC)。最終溶液中でのPGの経時的安定性を決定するために、調製後の以下の時点: 0'(調製直後)、5'、10'、20'、40'、60'で採取したサンプルについてHPLC分析を行った。反応を停止させるために、NH4OHを用いてpHを7.5−8.5に調整した。
【0064】
図5に示されるとおり、3.72 mg/mlのNaHCO3(pH 1.2)の存在下にPGを含む溶液AおよびBでは、PGの迅速な分解が観察された。しかし、7.12 mg/mlのNaHCO3(pH 5.7)を含む溶液Cでは、PGは1h間安定なままであった。これらの結果から、pHを5.0より高くするのに充分な濃度でNaHCO3などのアルカリ性薬剤を添加すると、ペプシンによるPGの分解が妨害されることが分かる。更に図6は、少なくとも80%のPGがpH4.8において少なくとも15分間分解されないまま残ることを示す。
【0065】
例4:3H−標識PGの経口投与後のPGの全身吸収の欠如
3H−標識PGの経口投与後のラットにおいてPGのバイオアベイラビリティを調査した。オスのウィスターハノーバーラットに麻酔をかけ、血液サンプリングのために頸静脈にカテーテルを配置した。50μg/kg用量の3H−PG(用量あたり50×106 CPM)を用いてラットを経口的に処置し、5、15および30分に血液サンプルを採取した。各時点において血液サンプル中の放射能を、β−カウンターにより決定した。
【表1】

【0066】
このデータより、経口投与された全放射能(50×106 CPM)の約1.5%(5、15および30分のそれぞれにおいて748×103、982×103および832×103 CPM)が、体循環に入ったことが分かる。この観察は、完全なPGに関して時間依存的な分解カイネティクスが予測されるため、放射能がトリチウム化アミノ酸に相当し、トリチウム化PGに相当しないことを示唆する。これらデータは、PGの経口投与が、分解の速さと全身吸収の遅さのために、局所的な活性という結果になりやすいことを示唆する。
【0067】
例5:ラットにおけるPG介在性胃酸分泌に対するCCK-Bアンタゴニストの効果
PGはガストリンホルモン同族体であるため、その局所的効果は、ガストリン経路を介して、すなわちガストリンレセプター(CCKB)の活性化を介して介在されると考えられる。この仮説を試験するために、ラットにおいてPG介在性の酸分泌に対する特定のCCKBアンタゴニスト(Itriglumide)の効果を調査した。
【0068】
この研究では、ラットにKetamineおよびDomitor混合物で麻酔をかけ、20 mg/kgのItriglumideを十二指腸内に(i.d.)投与した。15分後、胃の幽門を結紮し、300μg/kg PGを胃内に(i.g.)投与した。30分後、胃液を得て、遠心分離し、上清の体積とpHを測定した。酸濃度(滴定酸性度)を、胃液サンプルをNaOHで滴定することにより分析し、μEq HClで表されるトータル酸分泌量を、サンプル体積と酸濃度を掛け合わせることにより計算した。下記表2に示される結果から明らかなように、CCKBアンタゴニスト(ant.)の十二指腸内注入により、ラットにおける胃酸分泌に対するPGの局所的効果は阻害される。
【表2】

【0069】
例6:麻酔され幽門結紮されたラットにおける酸分泌に対するPGの十二指腸内注入の効果
麻酔され幽門結紮されたラットにおいて酸分泌に対するPGの十二指腸内注入の効果を調査した。この研究では、300μg/kg PGを、麻酔され幽門結紮されたラットの十二指腸内に投与し、胃酸分泌のレベルを30分後に決定した。胃液を得て、遠心分離し、上清の体積とpHを測定した。酸濃度(滴定酸性度)を、胃液サンプルをNaOHで滴定することにより分析し、μEq HClで表されるトータル酸分泌量を、サンプル体積と酸濃度を掛け合わせることにより計算した。コントロールとして、等量のPGを胃内に注入し、胃液分泌に対するPGの効果を決定した。表3に示されるとおり、PGの胃内注入および十二指腸内注入のいずれも、麻酔され幽門結紮されたラットにおいて胃酸分泌を誘導する。
【表3】

【0070】
例7:PG、重炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウムを含む錠剤
錠剤を、単一の投与形態として調合し、各錠剤は、以下の成分を含有する:
PG 4 mg
NaHCO3 500 mg
CaCO3 500 mg
クロスカルメロースナトリウム
微結晶性セルロース (Avicel)
ステアリン酸マグネシウム
デンプン。
【0071】
例8:PGおよび重炭酸ナトリウムを含む発泡サック
発泡錠剤を、以下の成分を含有する単一の投与形態として調合する:
PG 4 mg
NaHCO3 958 mg
クエン酸 832 mg
炭酸カリウム 312 mg
ステアリン酸マグネシウム
デンプン。
【0072】
例9:スクロース−PGビーズおよび炭酸カルシウムを含むカプセル剤
硬質ゼラチンカプセルを、混合集団の粒子を含む単一の投与形態として調合する。各カプセルは、以下の成分を含有する:
不活性な糖ビーズに充填した4 mg PG
600 mg炭酸カルシウム(CaCO3
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)。
【0073】
PG溶液を、流動層式装置で不活性な糖ペレット(Nu-Pareils, 25/30)にスプレーする。乾燥後、PG-糖ビーズを、CaCO3およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)で更にコーティングし、最終PG粒子を形成する。最終PG粒子および炭酸カルシウムパウダーを、カプセルにつき4 mg PGおよび600 mg炭酸カルシウムに相当する量で、サイズ0の硬質ゼラチンカプセルにパックする。
【0074】
ゼラチンカプセルが胃で解離すると、PGビーズが、PG含有ビーズのHPMC層と胃液との接触により膨張し、これにより粒子からのPGの放出が遅延する。PG放出速度は、PGビーズのHMPC層の厚みおよび侵食速度により決定される。
【0075】
本発明が、特別に示されたものおよび上述のものに限定されないことは当業者に認識されるでしょう。むしろ、本発明の範囲は特許請求の範囲により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、PGのラットへの胃内投与が、無傷のラット(A)および幽門結紮されたラット(B)の両方において、胃pHを低下させるのに有効であることを示す。
【図2】図2は、幽門結紮されたラットにおける胃酸分泌量に対する経口PGの効果(A)および当該効果の用量依存性を示す。
【図3】図3は、酸分泌を刺激する際の様々なバッチのPGの活性を示す。
【図4】図4は、幽門結紮されたラットにおける、皮下注射と比較した経口投与されたテトラガストリンの胃pHに対する効果(A)および酸分泌量(B)を示す。
【図5】図5は、NaHCO3が人工胃液中でPGの安定性を保存することを示す。
【図6】図6は、種々のpH値における非分解性PGのパーセンテージを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)薬学的に効果的な量の配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、および(ii)胃液において前記ペプチドの有効性を保存する少なくとも一の薬剤を、有効成分として含む経口薬学的組成物。
【請求項2】
前記ペプチドが、配列番号2のアミノ酸配列を有するペンタガストリン(PG)またはその合成類似体である、請求項1に記載の経口組成物。
【請求項3】
前記保存薬剤が、一以上のアルカリ性薬剤であり、前記アルカリ性薬剤の量が、PGの生物学的活性を維持するように、胃においてPGの有効性を保存するのに充分である、請求項2に記載の経口組成物。
【請求項4】
前記アルカリ性薬剤が、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウムまたはカリウム、酸化、水酸化または炭酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸、リン酸またはクエン酸のアルミニウム、カルシウム、ナトリウムまたはカリウムとの塩、炭酸二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリシン酸アルミニウムとバッファーとの混合物、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、および重炭酸カルシウムから成る群より選択される、請求項3に記載の経口組成物。
【請求項5】
前記経口組成物が単一の単位投与形態で調合され、前記アルカリ性薬剤が少なくとも300 mgの量である、請求項3に記載の経口組成物。
【請求項6】
前記ペプチドが、胃管腔に位置する壁細胞を局所的に活性化するのに充分な量である、請求項2に記載の経口組成物。
【請求項7】
前記PGの量が2〜60 mgである、請求項6に記載の経口組成物。
【請求項8】
前記単一の単位投与形態が、PG粒子および少なくとも一のアルカリ性薬剤を含む、圧縮錠剤、二層の錠剤、プレスコート錠剤、マルチ粒子カプセル剤、発泡錠剤、懸濁錠剤、液剤、または懸濁剤である、請求項5に記載の経口組成物。
【請求項9】
前記アルカリ性薬剤の量が、PGの生物学的活性を維持するように、胃においてPGの有効性を保存するのに充分である、請求項8に記載の経口組成物。
【請求項10】
前記PG粒子が、腸溶性コーティングまたは時間依存性放出ポリマーで必要に応じてコーティングされている、請求項8に記載の経口組成物。
【請求項11】
前記時間依存性放出ポリマーが、水性環境において膨張可能な少なくとも一のポリマーを含む、請求項10に記載の経口組成物。
【請求項12】
水性環境において膨張可能な前記ポリマーが、合成ポリマーおよびセルロース系ポリマーから成る群より選択されるか、またはその置換誘導体である、請求項11に記載の経口組成物。
【請求項13】
前記組成物が、ペプシンインヒビター、粘液溶解剤、制御放出剤、生体接着性(bioadhesive)ポリマー、または胃に存在する細菌に対して効果的な抗生物質を更に含む、請求項1に記載の経口組成物。
【請求項14】
前記ペプチドが、メトキシメチル(MOM)、β−メトキシエトキシメチル(MEM)、トリアルキルシリル、トリフェニルメチル(trityl)、TIPSO、tert−ブトキシカルボニル(t-BOC)、エトキシエチル(EE)、F-MOC、およびTROCから成る群より選択されるPGのN−保護誘導体である、請求項2に記載の経口組成物。
【請求項15】
(i)薬学的に効果的な量の配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、および(ii)胃液において前記ペプチドの有効性を保存する少なくとも一の薬剤を、有効成分として含む経口薬学的キット。
【請求項16】
前記有効成分が、別々の単位投与形態で調合される、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
胃酸分泌の刺激が必要な被検体において胃酸分泌を刺激する方法であって、(i)薬学的に効果的な量の配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドおよび(ii)胃液において前記ペプチドの有効性を保存する少なくとも一の薬剤を有効成分として含む経口薬学的組成物を、前記被検体に投与することを含む方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、ガストリンのフラグメントまたはその合成類似体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが、PG(配列番号2として示される)、その活性なフラグメント、またはPGの合成類似体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ペプチドが、メトキシメチル(MOM)、メトキシエトキシメチル(MEM)、トリアルキルシリル、トリフェニルメチル(trityl)、TIPSO、tert−ブトキシカルボニル(t-BOC)、エトキシエチル(EE)、F-MOC、およびTROCから選択されるPGのN−保護誘導体である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記被検体がヒト被検体である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
異常な胃酸分泌と関連した障害に罹患している被検体を診断する方法であって、
(a)(i)薬学的に効果的な量の配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドおよび(ii)胃液において前記ペプチドの有効性を保存する少なくとも一の薬剤を有効成分として含む、胃酸分泌を刺激する経口薬学的組成物を、前記被検体に投与すること、および
(b)前記刺激後の前記被検体における胃酸分泌のレベルを決定し、ここで前記刺激後の前記被検体における胃酸分泌のレベルが、コントロールの被検体で決定されるレベルより高いかまたは低い場合、前記被検体を異常な胃酸分泌と関連した障害に罹患していると決定すること
を含む方法。
【請求項23】
前記ペプチドが、ガストリンのフラグメントまたはその合成類似体である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ペプチドが、PG(配列番号2として示される)、その活性なフラグメント、またはその合成類似体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ペプチドが、メトキシメチル(MOM)、メトキシエトキシメチル(MEM)、トリアルキルシリル、トリフェニルメチル(trityl)、TIPSO、tert−ブトキシカルボニル(t-BOC)、エトキシエチル(EE)、F-MOC、およびTROCから選択されるPGのN−保護誘導体である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記被検体がヒト被検体である、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記障害が、異常に高い胃酸分泌と関連している、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記障害が、逆流性食道炎、胃炎、十二指腸炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)治療と関連した病状、非潰瘍性消化不良、胃食道逆流疾患(GERD)、ガストリン産生腫瘍、急性上部消化管出血、ストレス潰瘍、ヘリコバクターピロリ感染症、ゾリンジャー−エリソン症候群(ZES)、ウェルナー症候群、および全身性肥満細胞症から成る群より選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
工程(a)の前に前記被検体における胃酸分泌のベースラインレベルを決定すること、および前記ベースライン分泌レベルに対する、前記刺激後の前記被検体における胃酸分泌の程度を評価することを更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
工程(b)の後に薬学的に効果的な量のプロトンポンプインヒビターを前記被検体に投与すること、および前記プロトンポンプインヒビターの投与後の胃酸分泌のレベルを決定することを更に含む、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−506730(P2007−506730A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527507(P2006−527507)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003076
【国際公開番号】WO2005/027955
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506068070)ベクタ・リミテッド (6)
【Fターム(参考)】