説明

ペースト様骨セメント

【課題】高い初期安定性およびそれゆえ低後硬化を有する骨セメントを製造するように設計されている2つのペーストに基づくキットを提供すること。
【解決手段】本発明のキットは、ペーストAおよびペーストBを含み、(a)ペーストAは、(a1)5〜9の範囲の、水の中でのpHを有する重合性モノマーと、(a2)(a1)に不溶である充填剤と、(a3)1,5−二置換バルビツール酸誘導体、1,3,5−三置換バルビツール酸誘導体、および1,3,5−四置換バルビツール酸誘導体からなる群から選択されるバルビツール酸誘導体とを含有し、(b)ペーストBは、(b1)5〜9の範囲の、水の中でのpHを有する重合性モノマーと、(b2)(b1)に不溶である充填剤と、(b3)(b1)に可溶である過酸化物と、(b4)(b1)に不溶でありかつ重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される重金属化合物とを含有し、このペーストAおよびペーストBのうちの少なくとも1つは、ハロゲン化物塩を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨セメントを製造するためのキットおよびこのキットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポリメタクリル酸メチル骨セメント(PMMA骨セメント)は数十年にわたって知られており、Sir Charnleyの基礎研究(非特許文献1)に由来している。そのPMMA骨セメントの基本組成は、原理上はそのとき以来同じのままである。PMMA骨セメントは、液体モノマー成分および粉末成分からなる。このモノマー成分は、一般に、(i)モノマーであるメタクリル酸メチル、および(ii)このモノマーに溶解された活性化剤(例えばN,N−ジメチル−p−トルイジン)を含有する。上記粉末成分は、(i)メタクリル酸メチルおよびコモノマー(スチレンおよびメチルアクリレート、または類似のモノマーなど)に基づいて、重合、好ましくは懸濁重合により製造された1以上のポリマー、(ii)放射線不透過性物質、ならびに(iii)開始剤(例えば)ジベンゾイルペルオキシドを含む。この粉末成分が上記モノマー成分と混合されると、メタクリル酸メチルの中でのこの粉末成分のポリマー膨潤に起因して、塑性変形できるペーストが製造される。同時に、活性化剤であるN,N−ジメチル−p−トルイジンはこのジベンゾイルペルオキシドと反応し、このジベンゾイルペルオキシドはラジカルの形成を伴って分解する。このように形成されたラジカルはメタクリル酸メチルの重合を開始する。このメタクリル酸メチルの重合の進行に伴って、当該セメントペーストの粘度は、このペーストが固化しそして硬化するまで、上昇する。
【0003】
医療関係の使用者にとってのこれまでのPMMA骨セメントの本質的な短所は、使用者が、そのセメントの施用の直前にその液体モノマー成分および粉末成分を混合システムの中またはるつぼの中で混合しなければならないということにある。混合のエラーがこのプロセスで容易に起こる可能性があり、これが起こるとそのセメントの品質に悪影響を及ぼしかねない。さらに、これらの成分は迅速に混合されなければならない。この場合、セメント粉末全体が集塊の形成なしに当該モノマー成分と混合されること、およびその混合プロセスの間に気泡の入り込みが回避されることが重要である。手による混合とは異なり、真空混合システムを用いると、セメントペーストの中での気泡の形成はほぼ防止される。混合システムの例は、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に開示されている。しかしながら、真空混合システムは、付加的な真空ポンプを必要とし、それゆえ比較的高価である。さらに、セメントの種類によっては、そのモノマー成分を粉末成分と混合した後、そのセメントペーストが不粘着性であり施用することができるようになるまで、ある程度の長さの時間が経過しなければならない。従来のPMMA骨セメントの混合の際に多くのエラーが起こりうるため、適切に訓練された人材が必要とされる。この訓練には、無視することができないコストが伴う。さらには、上記液体のモノマー成分と上記粉末成分との混合は、使用者がモノマー蒸気に曝露されることおよび粉末状セメント粒子が放出されることにつながる。
【0004】
従来の粉末−液体ポリメタクリル酸メチル骨セメントの代替物としてのペースト様ポリメタクリル酸メチル骨セメントが、未審査の特許文献4および特許文献5に記載されている。この骨セメントは、保存の間も安定であるプレミックスされたペーストの形態で使用者に提供される。ペースト様二成分セメントの場合には、開始剤および促進剤は、各々、1つのセメントペーストの中に別々に溶解される。この2つのペーストが混合されると、促進剤は開始剤と反応し、そのペーストの中でのモノマーのラジカル重合を開始するラジカルを生成する。これによって、セメントペーストの硬化が開始する。ペースト様の一成分系の場合は、ペーストの中に含有される強磁性粒子または超常磁性粒子に対する磁場または電磁場の作用を通して開始剤を熱的に分解することによって重合を誘発することができる。
【0005】
メタクリレートモノマーおよびラジカル重合を受けやすい他のモノマーのラジカル重合のための開始剤系は、かなり以前から公知である。
【0006】
従って、特許文献6は、過酸化物および金属化合物の組み合わせを開示する。クメンヒドロペルオキシド、金属化合物、およびチオ尿素の組み合わせが、これに関して使用される。チオ尿素およびヒドロペルオキシドの同様の組み合わせが、特許文献7で提案されている。対照的に、特許文献8は、ヒドロペルオキシドおよび乾燥促進剤の混合物を開示する。ヒドロペルオキシド、アシルチオ尿素化合物、および銅塩に基づく興味深い新しい系は、特許文献9に提示されている。この種の開始剤系の長所は、その高い熱安定性である。しかしながら、ヒドロペルオキシドは刺激性の化合物であり、従って、生体骨組織に直接接触するPMMA骨セメントに対する開始のためには、限定的な程度でしか適切ではない。
【0007】
粉末成分およびモノマー液体から構成される従来のPMMA骨セメントとともに使用される、ジベンゾイルペルオキシドおよびN,N−ジメチル−p−トルイジンの開始剤系は、一般にその価値が証明されている(非特許文献2)。これに関して、ジベンゾイルペルオキシドはセメント粉末の中に固体として存在し、N,N−ジメチル−p−トルイジンはモノマー成分に溶解される。
【0008】
しかしながら、このジベンゾイルペルオキシド/N,N−ジメチル−p−トルイジン開始剤系を使用したセメントペーストについての本発明者らの実験では、N,N−ジメチル−p−トルイジンを含有するペーストは自発的に重合するという顕著な傾向を有するということが実証された。さらに、従来の粉末/液体ポリメタクリル酸メチル骨セメントに関してはその価値を証明している促進剤、N,N−ジメチル−p−トルイジンは、その毒物学的特性に起因するいくらかの批判を受けてきた。
【0009】
これらの酸化還元系のほかにも、バルビツール酸誘導体の使用に基づく開始剤系も記載されている。
【0010】
特許文献10は、ビニル化合物およびポリエステルの重合のための方法を記載する。この方法では、バルビツール酸誘導体、ハロゲン化物イオン供与体、および銅化合物は、モノマーまたはモノマー混合物の中に溶解される。これに関して、バルビツール酸誘導体、ハロゲン化物イオン供与体、および銅化合物の組み合わせが重合を開始する。有機過酸化物または過酸化水素を加えることも可能である。これに関する本発明者ら自身の実験では、大気中の酸素または過酸化物の不存在下でも開始は可能であるということが示された。これは、特許文献10でなされた仮定とは逆であり、その仮定に従うと、空気または過酸化物は、銅イオンおよび塩化物イオンの存在下でバルビツール酸誘導体による重合を誘発するために必要とされる。これは、バルビツール酸誘導体自身が明らかに開始剤として作用するということを意味する。
【0011】
特許文献11は、不飽和モノマーだけでなく、水、レドックス開始剤系、およびアンモニウム塩をも含有する、歯科での応用のための硬化性組成物を提案する。バルビツール酸誘導体に基づきかつ特許文献10から公知の開始剤系も、この文脈で触れられる。
【0012】
水、銅塩、塩化物イオン供与体、およびチオバルビツール酸誘導体ならびにバルビツール酸誘導体と混合することができるモノマーに基づくプライマーが、特許文献12に開示されている。水酸化銅(II)または塩基性炭酸銅の使用を証明するものはない。
【0013】
非常に興味深い系が特許文献13に記載されている。この系では、非酸性のモノマーに不溶性であるバルビツール酸のアルカリ塩またはアルカリ土類塩がペーストの中で使用される。このバルビツール酸誘導体に対して作用する酸性モノマーは、カチオン交換によってバルビツール酸を放出する。このようにして放出されるバルビツール酸は、ハロゲン化物イオン供与体の存在下で、ペーストの中に存在する溶解した銅イオンと反応し、従ってラジカル重合を開始する。
【0014】
いくらかより複雑な系が特許文献5に記載されている。この系では、バルビツール酸のアルカリ土類塩および塩基性銅塩は、1つのペーストの中に含有される。これらの2つの塩は、メタクリレートモノマーには不溶性である。2−エチルヘキサン酸などの弱い有機酸は第2のペーストの中に存在する。さらに、塩化物イオン供与体もこのペーストの中に存在する。これらの2つのペーストを混合すると、この弱い有機酸は、バルビツール酸誘導体を可溶性の酸形態に、そして銅を可溶性の銅塩に、と両方を同時に変換する。この系の長所、特に、多官能性モノマーを用いるペーストの場合の長所は、より早期の拡散およびイオン交換プロセスによって加工時間が延びるということであり、この系を用いなければ、多官能性モノマーが使用される場合、加工時間は非常に短く、通常は数秒のオーダーである。
【0015】
特許文献14は、骨セメントを製造するための別の系を開示する。この特許文献に記載される発明は、各々がメタクリレートモノマーを含有する2つのペーストを提供するというアプローチに基づく。このペーストでは、メタクリレートモノマーに可溶のポリマーは溶解しており、メタクリレートモノマーに不溶性のポリマーはこのペーストに懸濁している。これによって、ポリマーがペーストの中に溶解していることに起因して高い内部凝集を示す、生地(dough)様ペーストを製造することが可能になる。このメタクリレートモノマーを硬化させるために、このペーストのうちの1つは、例えばバルビツール酸誘導体などのラジカル開始剤を含有し、および他方のペーストは、例えば有機銅(II)塩などの促進剤を含有する。この2つのペーストが混合された後、この開始剤の活性化によって、当該メタクリレートモノマーの重合が開始し、その結果として高い4点曲げ強度および高い曲げ弾性率を有する骨セメントが形成される。
【0016】
メタクリレートモノマーに不溶性である充填剤(例えば、ポリマー粒子)を含有するペースト様二成分セメントの使用を伴う実験では、低い初期安定性および後に続く後硬化を示す顕著な傾向が実証された。この効果は、その不溶性の充填剤の中に含有されるモノマーに起因する。硬化プロセスの間、このモノマーは、不溶性のポリマー粒子の外側で主に重合する。その後、残留モノマー、および溶解した開始剤または溶解した促進剤はポリマー粒子から拡散し、その後モノマーは後硬化を受ける。実験により、この後硬化の影響は、促進剤が溶解しているペーストによって主に引き起こされるということが示された。この理由から、できれば二成分骨セメントの両方のペーストに開始剤を具えることが好都合であろう。しかしながら、これには、技術的矛盾を伴う。なぜなら、促進剤は両方の開始剤にラジカルを形成させる必要があるが、他方で、セメントペーストが保存されている間は、時期尚早の重合を誘発してはいけないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第4015945号明細書
【特許文献2】欧州特許第0674888号明細書
【特許文献3】特開2003−181270号公報
【特許文献4】独国特許出願公開第102007052116号明細書
【特許文献5】独国特許第102007050763号明細書
【特許文献6】独国特許第69621500号明細書
【特許文献7】欧州特許第1479364号明細書
【特許文献8】欧州特許第19501933号明細書
【特許文献9】欧州特許第1754465号明細書
【特許文献10】独国特許第1495520号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第2003/0195273号明細書
【特許文献12】英国特許第2256875号明細書
【特許文献13】国際公開第2007/1400440号パンフレット
【特許文献14】独国特許出願公開102007050762号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Charnley,J.、「Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur」、J.Bone Joint Surg.、1960年、第42巻、28−30頁
【非特許文献2】K.−D.Kuehn、「Knochenzemente fuer die Endoprothetik:ein aktueller Vergleich der physikalischen und chemischen Eigenschaften handelsueblicher PMMA−Zemente」、Springer−Verlag、Berlin Heidelberg New York、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
それゆえ本発明は、高い初期安定性およびそれゆえ低後硬化を有する骨セメントを製造するように設計されている2つのペーストに基づくキットを提供するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的は、ペーストAとペーストBとを含むキットであって、
(a)ペーストAは、
(a1)5〜9の範囲の、水の中でのpHを有する重合性モノマーと、
(a2)(a1)に不溶である充填剤と、
(a3)1,5−二置換バルビツール酸誘導体、1,3,5−三置換バルビツール酸誘導体、および1,3,5−四置換バルビツール酸誘導体からなる群から選択されるバルビツール酸誘導体と
を含有し、
(b)ペーストBは、
(a1)5〜9の範囲の、水の中でのpHを有する重合性モノマーと、
(b2)(b1)に不溶である充填剤と、
(b3)(b1)に可溶である過酸化物と、
(b4)(b1)に不溶でありかつ重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される重金属化合物と
を含有し、
このペーストAおよびペーストBのうちの少なくとも1つは、ハロゲン化物塩を含有する、キット
によって満たされる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、1つのペーストの中で、メタクリレートモノマーに溶解している過酸化物タイプの開始剤を使用し、加えて、このペーストの中に、当該メタクリレートモノマーに不溶性である塩基性重金属塩を懸濁させるという着想に基づく。驚くべきことに、メタクリレートモノマーの中に懸濁している不溶性の重金属塩(水酸化銅(II)など)はメタクリレートモノマーに溶解している過酸化物を分解しないということが明らかになっている。従って、このペーストの中での自発的な重合はない。本発明はさらに、メタクリル酸メチルに可溶であるバルビツール酸誘導体を含有する第2のペーストを使用するという着想に基づく。これら2つのペーストを混合すると、この可溶性のバルビツール酸誘導体は、その酸性のため、当該塩基性重金属塩と反応する。驚くべきことに、これにより、可溶性のハロゲン化物イオン供与体の存在下で重合反応を開始できるということが見出された。この塩基性重金属塩に対するバルビツール酸誘導体の作用によって、明らかに、重金属イオンを可溶性の塩形態に変え、この可溶性の塩形態が、バルビツール酸および過酸化物に対するその作用を介してメタクリレートモノマーの重合を開始する。これに関して、芳香族アミンを促進剤として使用することはもはや必要とはされない。
【0022】
その結果、骨セメントを製造するための当該キットのペースト様成分は、各々、開始剤(バルビツール酸誘導体および/または過酸化物)を含有し、これらのペースト様成分のうちの少なくとも1つに、促進剤(不溶性の重金属化合物)を含有する。驚くべきことに、これら2つのペーストの明確に意図された混合の前の望まれない時期尚早の重合はない。これは、一方で促進剤は両方の開始剤にラジカルを形成させる必要があるが、他方で、セメントペーストが保存されている間は、時期尚早の重合を誘発してはいけないという技術的矛盾を克服する。本発明に係る開始剤系の使用およびキット成分の各々の中への重合開始剤の提供により、当該骨セメントの高い初期安定性が達成され、骨セメントの顕著な後硬化が防止されるようになる。
【0023】
本発明によれば、キットは、少なくとも2つの成分から構成される系であると理解されるものとする。以下では2つの成分について言及されるが、当該キットは、必要に応じて、2よりも多い成分、例えば3成分、4成分、5成分または5よりも多い成分も同様に含有することができる。1つのキット成分の含有物が別のキット成分の含有物と接触しないように、個々の成分は、互いに別々に包装されることが好ましい。従って、例えば、キット成分を互いに別々に包装し、それらを一緒に保存容器の中で保存することが可能である。
【0024】
本発明によれば、当該キットは、少なくとも1つのペーストAおよび1つのペーストBを含む。
【0025】
ペーストAは、5〜9の範囲の水の中でのpHを有する少なくとも1つの重合性モノマー(a1)を含有する。
【0026】
好ましくは、重合性モノマー(a1)は25℃の温度および1013hPaの圧力で液体である。
【0027】
重合性モノマー(a1)は、好ましくはメタクリル酸エステルである。好ましくは、メタクリル酸エステル(a1)は一官能性のメタクリル酸エステルである。この一官能性のメタクリル酸エステルは、好ましくは疎水性である。疎水性の一官能性メタクリル酸エステル(a1)の使用によって、後の、水の吸収(uptake)に起因する当該骨セメントの体積の拡大、従って骨への損傷が防止されることが可能になる。好ましい実施形態によれば、この一官能性のメタクリル酸エステルは、それが、エステル基の他にはさらなる極性基を含有しない場合には、疎水性である。この一官能性の疎水性のメタクリル酸エステルは、好ましくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、スルホン酸基、スルフェート基、ホスフェート基またはホスホネート基を含まない。
【0028】
このエステルは、好ましくはアルキルエステルである。本発明によれば、シクロアルキルエステルもこのアルキルエステルの中に包含される。好ましい実施形態によれば、このアルキルエステルは、メタクリル酸と、1〜20個の炭素原子、より好ましくは1〜10個の炭素原子、さらにより好ましくは1〜6個の炭素原子、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を含むアルコールとのエステルである。このアルコールは、置換されていてもよいし、または非置換であってもよいが、好ましくは非置換である。さらに、このアルコールは、飽和であってもよいし、または不飽和であってもよいが、好ましくは飽和である。
【0029】
特に好ましい実施形態によれば、重合性モノマー(a1)は、メタクリル酸メチルエステルおよびメタクリル酸エチルエステルである。
【0030】
さらに特に好ましい実施形態によれば、重合性モノマー(a1)はビスフェノールA由来のメタクリル酸エステルではない。
【0031】
本発明に従って使用される重合性モノマー(a1)は、好ましくは、1,000g/mol未満のモル質量を有する。またこれは、モノマーの混合物の成分である重合性モノマーも含み、このモノマーの混合物の重合性モノマーのうちの少なくとも1つは1,000g/mol未満のモル質量とともに明確な構造を有する。
【0032】
重合性モノマー(a1)は、この重合性モノマー(a1)の水溶液が5〜9の範囲の、好ましくは5.5〜8.5の範囲の、さらにより好ましくは6〜8の範囲の、特に好ましくは6.5〜7.5の範囲のpHを有するということを特徴とする。
【0033】
ペーストAは、好ましくは、ペーストAに含有される成分の総重量に対して、15〜85重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらにより好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%の少なくとも1つの重合性モノマー(a1)を含有する。従って、ペーストAは、構造が異なる1以上の重合性モノマー(a1)を含有することができる。
【0034】
さらに、ペーストAは、(a1)に不溶である少なくとも1つの充填剤(a2)を含有する。
【0035】
充填剤(a2)は、ペーストAに含有される他の成分から構成される混合物の粘度を高めることができる、室温で固体の物質である。充填剤(a2)は生体適合性であるべきである。
【0036】
好ましい実施形態によれば、充填剤(a2)は、ポリマー、無機塩、無機酸化物、金属、および金属合金から選択される。
【0037】
充填剤(a2)は、好ましくは、微粒子である。特に好ましい実施形態によれば、充填剤(a2)は、10nm〜100μmの範囲、特に好ましくは100nm〜10μmの範囲の平均粒径を有する。この平均粒径は、本願明細書中では、その粒子の少なくとも90%に当てはまるサイズ範囲を意味すると理解されるものとする。
【0038】
本発明の範囲では、用語「ポリマー」は、ホモポリマーおよびコポリマーの両方を包含するものとする。
【0039】
充填剤として使用されるポリマーは、好ましくは、少なくとも150,000g/molの(重量)平均モル質量を有するポリマーである。このモル質量の仕様は、粘度測定によって決定されるモル質量を指す。このポリマーは、例えば、メタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーであることができる。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのポリマーは、ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルエステル(PMAE)、ポリメタクリル酸プロピルエステル(PMAP)、ポリメタクリル酸イソプロピルエステル、ポリ(メタクリル酸メチル−co−アクリル酸メチル)、およびポリ(スチレン−co−メタクリル酸メチル)からなる群から選択される。しかしながら、このポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリブタジエンからなる群からも同様に選択することができる。さらに、ペーストは、架橋されてもよいし、または非架橋であってもよい。
【0040】
充填剤(a2)として使用することができる無機塩は、上記重合性モノマーに可溶または不溶である塩であることができる。好ましくは、この無機塩は、元素の周期律表の第2主族から選択される元素の塩である。好ましい実施形態によれば、この無機塩はカルシウム、ストロンチウムまたはバリウム塩である。特に好ましい実施形態によれば、この無機塩は、硫酸カルシウム、硫酸バリウムまたは炭酸カルシウムである。
【0041】
充填剤(a2)として使用することができる無機酸化物は、好ましくは、金属酸化物であることができる。好ましい実施形態によれば、この無機酸化物は遷移金属酸化物である。特に好ましい実施形態によれば、この無機酸化物は二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムである。
【0042】
充填剤(a2)として使用することができる金属は、例えば、遷移金属であることができる。好ましい実施形態によれば、この金属は、タンタルまたはタングステンである。
【0043】
充填剤(a2)として使用することができる金属合金は、少なくとも2つの金属の合金である。好ましくは、この合金は、少なくとも1つの遷移金属を含有する。特に好ましい実施形態によれば、この合金は、少なくともタンタルまたはタングステンを含む。この合金は、タンタルおよびタングステンの合金であることもできる。
【0044】
充填剤(a2)は、5〜9の範囲のpHを有する重合性モノマー(a1)に不溶である。本発明によれば、25℃の温度での重合性モノマー(a1)に対する充填剤(a2)の溶解度が50g/l未満である、好ましくは25g/l未満である、より好ましくは10g/l未満である、さらにより好ましくは5g/l未満である場合、充填剤(a2)は5〜9の範囲のpHを有する重合性モノマー(a1)に不溶である。
【0045】
少なくとも1つの充填剤(a2)の分率は、ペーストAに含有される成分の総重量に対して、好ましくは85重量%未満、より好ましくは80重量%未満、さらにより好ましくは75重量%未満である。ペーストAは、好ましくは、ペーストAに含有される成分の総重量に対して、15〜85重量%、より好ましくは15〜80重量%、さらにより好ましくは20〜75重量%の少なくとも1つの充填剤(a2)を含有する。
【0046】
さらに、ペーストAは、少なくとも1つのバルビツール酸誘導体(a3)を含有する。このバルビツール酸誘導体(a3)は、1,5−二置換バルビツール酸誘導体、1,3,5−三置換バルビツール酸誘導体、および1,3,5−四置換バルビツール酸誘導体からなる群から選択される。
【0047】
好ましい実施形態によれば、バルビツール酸誘導体(a3)は重合性モノマー(a1)に可溶である。少なくとも1g/l、好ましくは少なくとも3g/l、さらにより好ましくは少なくとも5g/l、特に好ましくは少なくとも10g/lのバルビツール酸誘導体(a3)が、25℃の温度で重合性モノマー(a1)に溶解する場合、バルビツール酸誘導体(a3)は重合性モノマー(a1)に可溶である。
【0048】
このバルビツール酸上の置換基の種類に関しては、限定はない。この置換基は、例えば、脂肪族または芳香族の置換基であってもよい。これに関して、アルキル、シクロアルキル、アリルまたはアリール置換基が好ましい可能性がある。この置換基はヘテロ原子を含むこともできる。特に、置換基はチオール置換基であってもよい。従って、1,5−二置換チオバルビツール酸誘導体または1,3,5−三置換チオバルビツール酸誘導体が好ましい場合がある。
【0049】
好ましい実施形態によれば、この置換基は、各々、1〜10個の炭素原子の長さ、より好ましくは1〜8個の炭素原子の長さ、特に好ましくは2〜7個の炭素原子の範囲の長さを有する。
【0050】
1位および5位に各々1つの置換基、1位、3位、および5位に各々1つの置換基、または1位および3位に各々1つの置換基ならびに5位に2つの置換基を有するバルビツール酸誘導体は、本発明によれば好ましい。
【0051】
別の好ましい実施形態によれば、このバルビツール酸誘導体は、1,5−二置換バルビツール酸誘導体または1,3,5−三置換バルビツール酸誘導体である。1,3,5−四置換バルビツール酸誘導体は血液脳関門を横断することができ、従って薬理活性を有するが、この1,3,5−四置換バルビツール酸誘導体も使用することができる。
【0052】
特に好ましい実施形態によれば、バルビツール酸誘導体は、1−シクロヘキシル−5−エチル−バルビツール酸、1−フェニル−5−エチル−バルビツール酸、および1,3,5−トリメチル−バルビツール酸からなる群から選択される。
【0053】
少なくとも1つのバルビツール酸誘導体(a3)によって占められるペーストAの分率は、ペーストAに含有される成分の総重量に対して、好ましくは、0.1〜10重量%の範囲、より好ましくは0.5〜8重量%の範囲、さらにより好ましくは1〜5重量%の範囲にある。
【0054】
ペーストAは、好ましくは、実質的に重金属化合物を含まない。これに関して用語「重金属化合物」は、20℃の温度で少なくとも3.5、好ましくは少なくとも5の密度を有する金属を意味するものとする。重金属化合物によって占められるペーストAの分率は、好ましくは50ppm未満であり、より好ましくは25ppm未満であり、さらにより好ましくは10ppm未満であり、特に好ましくは5ppm未満である。
【0055】
ペーストBは、5〜9の範囲の水の中でのpHを有する少なくとも1つの重合性モノマー(b1)を含有する。
【0056】
好ましくは、重合性モノマー(b1)は、25℃の温度および1013hPaの圧力で液体である。
【0057】
重合性モノマー(b1)は、好ましくはメタクリル酸エステルである。好ましくは、メタクリル酸エステル(b1)は、一官能性のメタクリル酸エステルである。この一官能性のメタクリル酸エステルは、好ましくは疎水性である。疎水性の一官能性メタクリル酸エステル(b1)の使用によって、後の、水の吸収に起因する当該骨セメントの体積の拡大、従って骨への損傷が防止されることが可能になる。好ましい実施形態によれば、この一官能性のメタクリル酸エステルは、それが、エステル基の他にはさらなる極性基を含有しない場合には、疎水性である。この一官能性の疎水性のメタクリル酸エステルは、好ましくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、スルホン酸基、スルフェート基、ホスフェート基またはホスホネート基を含まない。
【0058】
このエステルは、好ましくはアルキルエステルである。本発明によれば、シクロアルキルエステルもこのアルキルエステルの中に包含される。好ましい実施形態によれば、このアルキルエステルは、メタクリル酸と、1〜20個の炭素原子、より好ましくは1〜10個の炭素原子、さらにより好ましくは1〜6個の炭素原子、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を含むアルコールとのエステルである。このアルコールは、置換されていてもよいし、または非置換であってもよいが、好ましくは非置換である。さらに、このアルコールは、飽和であってもよいし、または不飽和であってもよいが、好ましくは飽和である。
【0059】
特に好ましい実施形態によれば、重合性モノマー(a1)は、メタクリル酸メチルエステルおよびメタクリル酸エチルエステルである。
【0060】
さらに特に好ましい実施形態によれば、重合性モノマー(b1)はビスフェノールA由来のメタクリル酸エステルではない。
【0061】
本発明に従って使用される重合性モノマー(b1)は、好ましくは、1,000g/mol未満のモル質量を有する。またこれは、モノマーの混合物の成分である重合性モノマーも含み、このモノマーの混合物の重合性モノマーのうちの少なくとも1つは1,000g/mol未満のモル質量とともに明確な構造を有する。
【0062】
重合性モノマー(b1)は、この重合性モノマー(a1)の水溶液が5〜9の範囲の、好ましくは5.5〜8.5の範囲の、さらにより好ましくは6〜8の範囲の、特に好ましくは6.5〜7.5の範囲のpHを有するということを特徴とする。
【0063】
ペーストBは、好ましくは、ペーストBに含有される成分の総重量に対して、15〜85重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらにより好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは25〜50重量%の少なくとも1つの重合性モノマー(b1)を含有する。従って、ペーストBは、構造が異なる1以上の重合性モノマー(b1)を含有することができる。
【0064】
さらに、ペーストBは、(b1)に不溶である少なくとも1つの充填剤(b2)を含有する。
【0065】
充填剤(b2)は、ペーストBに含有される他の成分から構成される混合物の粘度を高めることができる、室温で固体の物質である。充填剤(b2)は生体適合性であるべきである。
【0066】
好ましい実施形態によれば、充填剤(b2)は、ポリマー、無機塩、無機酸化物、金属、および金属合金から選択される。
【0067】
充填剤(b2)は、好ましくは、微粒子である。特に好ましい実施形態によれば、充填剤(b2)は、10nm〜100μmの範囲、特に好ましくは100nm〜10μmの範囲の平均粒径を有する。この平均粒径は、本願明細書中では、その粒子の少なくとも90%に当てはまるサイズ範囲を意味すると理解されるものとする。
【0068】
本発明の範囲では、用語「ポリマー」は、ホモポリマーおよびコポリマーの両方を包含するものとする。
【0069】
充填剤として使用されるポリマーは、好ましくは、少なくとも150,000g/molの(重量)平均モル質量を有するポリマーである。このポリマーは、例えば、メタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーであることができる。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのポリマーは、ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルエステル(PMAE)、ポリメタクリル酸プロピルエステル(PMAP)、ポリメタクリル酸イソプロピルエステル、ポリ(メタクリル酸メチル−co−アクリル酸メチル)、およびポリ(スチレン−co−メタクリル酸メチル)からなる群から選択される。しかしながら、このポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリブタジエンからなる群からも同様に選択することができる。さらに、このペーストは、架橋されてもよいし、または非架橋であってもよい。
【0070】
充填剤(b2)として使用することができる無機塩は、上記重合性モノマーに可溶または不溶である塩であることができる。好ましくは、この無機塩は、元素の周期律表の第2主族から選択される元素の塩である。好ましい実施形態によれば、この無機塩はカルシウム、ストロンチウムまたはバリウム塩である。特に好ましい実施形態によれば、この無機塩は、硫酸カルシウム、硫酸バリウムまたは炭酸カルシウムである。
【0071】
充填剤(b2)として使用することができる無機酸化物は、好ましくは、金属酸化物であることができる。好ましい実施形態によれば、この無機酸化物は遷移金属酸化物である。特に好ましい実施形態によれば、この無機酸化物は二酸化チタンまたは二酸化ジルコニウムである。
【0072】
充填剤(b2)として使用することができる金属は、例えば、遷移金属であることができる。好ましい実施形態によれば、この金属は、タンタルまたはタングステンである。
【0073】
充填剤(b2)として使用することができる金属合金は、少なくとも2つの金属の合金である。好ましくは、この合金は、少なくとも1つの遷移金属を含有する。特に好ましい実施形態によれば、この合金は、少なくともタンタルまたはタングステンを含む。この合金は、タンタルおよびタングステンの合金であることもできる。
【0074】
充填剤(b2)は、5〜9の範囲のpHを有する重合性モノマー(b1)に不溶である。本発明によれば、25℃の温度での重合性モノマー(b1)に対する充填剤(b2)の溶解度が50g/l未満である、好ましくは25g/l未満である、より好ましくは10g/l未満である、さらにより好ましくは5g/l未満である場合、充填剤(b2)は5〜9の範囲のpHを有する重合性モノマー(b1)に不溶である。
【0075】
少なくとも1つの充填剤(b2)によって占められるペーストBの分率は、ペーストBに含有される成分の総重量に対して、好ましくは85重量%未満であり、より好ましくは80重量%未満であり、さらにより好ましくは75重量%未満である。ペーストBは、好ましくは、ペーストBに含有される成分の総重量に対して、15〜85重量%、より好ましくは15〜80重量%、さらにより好ましくは20〜75重量%の少なくとも1つの充填剤(b2)を含有する。
【0076】
さらに、ペーストBは、重合性モノマー(b1)に可溶である少なくとも1つの過酸化物(b3)を含有する。
【0077】
本発明によれば、過酸化物(b3)は、少なくとも1つのペルオキソ基(−O−O−)を含有する化合物を意味すると理解される。
【0078】
過酸化物(b3)は、好ましくは、遊離の酸基を含まない。
【0079】
過酸化物(b3)は、無機過酸化物(例えば、毒物学的に許容できるヒドロペルオキシドなど)、または有機過酸化物であることができる。
【0080】
本発明によれば、少なくとも1g/l、好ましくは少なくとも3g/l、さらにより好ましくは少なくとも5g/l、特に好ましくは少なくとも10g/lの過酸化物(b3)が25℃の温度で重合性モノマー(b1)に溶解する場合、過酸化物(b3)は重合性モノマー(b1)に可溶である。
【0081】
特に好ましい実施形態によれば、過酸化物(b3)は、ジベンゾイルペルオキシドおよびジラウロイルペルオキシドからなる群から選択される。
【0082】
ペーストBは、ペーストBに含有される成分の総重量に対して、好ましくは、0.01〜12重量%、好ましくは0.03〜10重量%、より好ましくは0.05〜8重量%、さらにより好ましくは0.1〜5重量%の少なくとも1つの過酸化物(b3)を含有する。
【0083】
さらに、ペーストBは、(b1)に不溶でありかつ重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される少なくとも1つの重金属化合物(b4)を含む。
【0084】
本発明によれば、重金属化合物は、20℃の温度で少なくとも3.5、好ましくは少なくとも5の密度を有する金属を意味すると理解されるものとする。
【0085】
好ましい実施形態によれば、(b1)に不溶である重金属化合物(b4)は塩基性重金属化合物である。塩基性重金属化合物は、水に溶解または懸濁されたときに少なくとも6.5、好ましくは少なくとも7、さらにより好ましくは少なくとも7.5のpHを有する重金属化合物を意味すると理解されるものとする。
【0086】
特に好ましい実施形態によれば、この重金属化合物は、酸化状態を変えることができる金属の化合物である。
【0087】
銅(II)、鉄(II)、鉄(III)、マンガン(II)、マンガン(III)、コバルト(II)、およびコバルト(III)の化合物が本発明によれば好ましい。
【0088】
本発明に係る重金属化合物は、バルビツール酸誘導体(a3)の存在下で、重合性モノマー(a1)および/または(a2)に可溶である形態に変わることができる。
【0089】
本発明によれば、この重金属化合物は、重金属塩または重金属錯体である。
【0090】
この重金属塩は、好ましくは重金属のハロゲン化物、水酸化物、炭酸塩または炭酸の塩である。銅(II)、鉄(II)、鉄(III)、マンガン(II)、マンガン(III)、コバルト(II)、およびコバルト(III)の塩が好ましい重金属塩である。
【0091】
1つの実施形態によれば、この重金属塩は、水酸化銅、水酸化コバルト(II)、および塩基性炭酸銅からなる群から選択される。
【0092】
特に好ましい実施形態によれば、(b1)に不溶である重金属化合物(b4)はハロゲン化物塩である。上記実施形態によれば、ハロゲン化物塩がペーストAおよびペーストBのうちの少なくとも1つに存在する必要があることは、この不溶性の重金属化合物であるハロゲン化物塩によって満たされる。それゆえ、本発明によれば、ハロゲン化物塩は、(b1)に不溶である重金属化合物およびハロゲン化物イオン供与体であるペーストBのハロゲン化物塩の両方であることができる。それゆえ、ペーストBに含有されるハロゲン化物塩および(b1)に不溶である重金属化合物(b4)は、同じ化合物であってもよい。
【0093】
このハロゲン化物塩は、好ましくは、重金属の塩化物および臭化物からなる群から選択することができる。特に好ましい実施形態によれば、このハロゲン化物塩は、塩化銅(II)、塩化マンガン(II)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化コバルト(II)、および塩化コバルト(III)からなる群から選択される化合物である。
【0094】
重金属化合物(b4)によって占められるペーストBの分率は、ペーストBの総重量に対して、好ましくは、0.0005〜0.5重量%の範囲、より好ましくは0.001〜0.05重量%の範囲、特に好ましくは0.001〜0.01重量%の範囲にある。
【0095】
さらに、少なくとも1つのハロゲン化物イオン供与体が、ペーストAおよびBのいずれかに存在する。
【0096】
1つの実施形態によれば、このハロゲン化物イオン供与体はハロゲン化物塩である。このハロゲン化物塩は、例えば、無機のハロゲン化物塩または有機ハロゲン化物塩であることができる。これらの場合には、このハロゲン化物塩は、好ましくは、塩素塩または臭素塩である。
【0097】
特に好ましい実施形態によれば、このハロゲン化物塩はハロゲン化物の第四級アンモニウム塩である。この第四級アンモニウム塩は、好ましくは、第四級のアルキル、アリール、アリールジアルキル、ジアリールアルキルまたはシクロアルキルジアルキルアンモニウム塩であることができる。塩化トリオクチルメチルアンモニウムは、例えば、好ましいハロゲン化物塩である。
【0098】
別の特に好ましい実施形態によれば、このハロゲン化物塩は、ハロゲン化水素酸塩、好ましくは塩酸塩または臭化水素酸塩であることもできる。これに関して、このハロゲン化物塩は、好ましくは、第三級アンモニウム化合物のハロゲン化水素酸塩であることができる。
【0099】
さらに別の好ましい実施形態によれば、ハロゲン化物塩は、金属カチオンまたはオキシ金属カチオンを伴うハロゲン化物であることができる。考えられる金属カチオンは、例えば、リチウム(Li)、亜鉛(Zn2+)、およびジルコニウム(Zr4+)カチオンである。オキシジルコニウムカチオン、ZrO2+は、例えば、好ましいオキシ金属カチオンである場合がある。好ましくは、金属カチオンまたはオキシ金属カチオンを伴うこのハロゲン化物塩は、塩化リチウム(LiCl)、二塩化亜鉛(ZnCl)、およびオキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl)からなる群から選択されるハロゲン化物塩である。
【0100】
さらに、別の好ましい実施形態によれば、当該ペースト(このペーストの中に上記ハロゲン化物イオン供与体も存在する)の中に存在する重合性モノマー(a1)および/または(b1)への、このハロゲン化物イオン供与体の溶解度は、少なくとも10g/l、より好ましくは少なくとも25g/l、さらにより好ましくは少なくとも50g/l、さらにより好ましくは少なくとも100g/lである。
【0101】
特に好ましい実施形態によれば、このハロゲン化物塩はペーストBの中に含有され、かつ(b1)に不溶である重金属化合物(b4)と同一であるということが可能である。それゆえ、ペーストBの中に含有されるハロゲン化物塩および(b1)に不溶である重金属化合物(b4)は同じ化合物であることができる。上記実施形態によれば、このハロゲン化物塩は重金属の塩化物および臭化物からなる群から選択されることが好ましい場合がある。特に好ましい実施形態によれば、このハロゲン化物塩は、塩化銅(II)、塩化マンガン(II)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化コバルト(II)、および塩化コバルト(III)からなる群から選択される化合物である。
【0102】
このハロゲン化物イオン供与体によって占められるそれぞれのペーストの分率は、このハロゲン化物イオン供与体を含有するペーストの総重量に対して、好ましくは、0.005〜10重量%であり、より好ましくは0.001〜8重量%であり、さらにより好ましくは0.01〜5重量%であり、特に好ましくは0.3〜3重量%である。
【0103】
ハロゲン化物イオン供与体として作用する少なくとも1つの化合物および(b1)に不溶である少なくとも1つの重金属化合物(b4)が同じハロゲン化物塩であるかまたは同じ複数のハロゲン化物塩である場合、このハロゲン化物塩または複数のハロゲン化物塩によって占められるペーストBの分率が、ペーストBの重量に対して、0.005〜10重量%の範囲、より好ましくは0.001〜8重量%の範囲、さらにより好ましくは0.01〜5重量%の範囲、特に好ましくは0.001〜0.01重量%の範囲にあることが好ましい場合がある。
【0104】
さらに、本発明に係るキットのペーストは、さらなる成分を含むことができる。
【0105】
例えば、これらのペーストのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの接着促進剤を含有することができる。この接着促進剤は、人工器官(プロテーゼ)への骨セメントの接着に有利に働く。例えばメタクリルアミドは、適切な接着促進剤であることが判明している。
【0106】
さらに、これらのペーストのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの架橋剤を含むことができる。この架橋剤は、好ましくは、二官能性のまたは三官能性化合物である。本発明によれば、この架橋剤の目的は、骨セメントの硬化の間に重合するモノマーを架橋することである。好ましい実施形態によれば、この架橋剤は、少なくとも2つの(メタ)アクリレート基を含む。この架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート(例えばブタン−1,4−ジオール−ジメタクリレート)、およびヘキサメチレンジメタクリレート(例えばヘキサン−1,6−ジオール−ジメタクリレート)からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0107】
さらに、これらのペーストのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの放射線不透過性物質を含むこともできる。この放射線不透過性物質は、好ましくは、金属酸化物(例えば、酸化ジルコニウムなど)、硫酸バリウム、毒物学的に許容できる重金属粒子(例えば、タンタルなど)、フェライト、および磁鉄鉱(できれば超常磁性磁鉄鉱)からなる群から選択される。この放射線不透過性物質は、好ましくは、10nm〜500μmの範囲の平均粒径を有する。加えて、当該重合性モノマーに可溶である放射線不透過性化合物を使用することが適切である場合がある。このような放射線不透過性化合物の例は、3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨード安息香酸エステルである。1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−四酢酸(DOTA)のエステルとのガドリニウムキレートなどのガドリニウム化合物を、磁気共鳴画像法における造影剤としてこれらのペーストのうちの少なくとも1つの中に組み込むことも、同様に可能である。
【0108】
好ましい実施形態によれば、これらのペーストのうちの少なくとも1つ、しかし好ましくは両方のペーストは、当該ペーストの中に含有される重合性モノマーに可溶である少なくとも1つのポリマーを含有する。本発明によれば、少なくとも10g/l、好ましくは少なくとも25g/l、より好ましくは少なくとも50g/l、特に好ましくは少なくとも100g/lのポリマーが、可溶性ポリマーも同様に含有する当該ペーストの中に含有される重合性モノマーに溶解するならば、このポリマーは、その重合性モノマーに可溶である。この重合性モノマーに可溶であるポリマーは、ホモポリマーまたはコポリマーであることができる。このポリマーは、好ましくは、少なくとも150,000g/molの(重量)平均モル質量を有するポリマーである。このポリマーは、例えば、メタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーであることができる。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つのポリマーは、ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルエステル(PMAE)、ポリメタクリル酸プロピルエステル(PMAP)、ポリメタクリル酸イソプロピルエステル、ポリ(メタクリル酸メチル−co−アクリル酸メチル)、およびポリ(スチレン−co−メタクリル酸メチル)からなる群から選択される。この重合性モノマーに可溶であるポリマーによって占められる、当該ポリマーを含有するペーストの分率は、好ましくは、5〜50重量%の範囲、より好ましくは10〜40重量%の範囲、特に好ましくは20〜30重量%の範囲にある。
【0109】
さらに、これらのペーストのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの安定剤を含むことができる。この安定剤は、当該ペーストの中に含有されるモノマーの自発的な重合を防止するのに適切なものでなければならない。さらに、この安定剤は、当該ペーストの中に含有される他の成分との干渉的な相互作用を受けてはならない。このような種類の安定剤は、先行技術によって公知である。好ましい実施形態によれば、この安定剤は、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールおよび/または2,6−ジ−tert−ブチル−フェノールである。
【0110】
さらに、これらのペーストのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの医薬物質を含有することができる。特に好ましい実施形態によれば、ペーストAがこの医薬物質を含有する。しかしながら、この医薬物質は、ペーストBに含有される成分に対する十分な安定性を示す限り、ペーストBの中にも同様にまたはペーストBの中だけに含有されてもよい。この少なくとも1つの医薬物質は、溶解した形態または懸濁した形態でペーストAおよび/またはペーストBの中に含有されてもよい。
【0111】
この医薬物質は、好ましくは、抗生物質、消炎薬、ステロイド、ホルモン、成長因子、ビスホスホネート、細胞分裂抑制剤、および遺伝子ベクターからなる群から選択することができる。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの医薬物質は抗生物質である。
【0112】
この少なくとも1つの抗生物質は、好ましくは、アミノグリコシド系抗生物質、糖ペプチド抗生物質、リンコサミド抗生物質、ジャイレース阻害剤、カルバペネム類、環状リポペプチド類、グリシルサイクリン類、オキサゾリドン類、およびポリペプチド抗生物質の群から選択される。
【0113】
特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの抗生物質は、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダルババンシン、リンコサミン、クリンダマイシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ドリペネム、メロペネム、チゲサイクリン、リネゾリド(linezolide)、エペレゾリド、ラモプラニン、メトロニダゾール、チニダゾール、オミダゾール(omidazole)、およびコリスチン、ならびにこれらの塩およびエステルからなる群から選択されるメンバーである。
【0114】
従って、この少なくとも1つの抗生物質は、硫酸ゲンタマイシン、塩酸ゲンタマイシン、硫酸アミカシン、塩酸アミカシン、硫酸トブラマイシン、塩酸トブラマイシン、塩酸クリンダマイシン、塩酸リンコサミン、およびモキシフロキサシンからなる群から選択することができる。
【0115】
少なくとも1つの消炎薬は、好ましくは、非ステロイド系消炎薬およびグルココルチコイド類からなる群から選択される。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの消炎薬は、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェン、デキサメサゾン、プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、およびフルチカゾンからなる群から選択される。
【0116】
少なくとも1つのホルモンは、好ましくは、セロトニン、ソマトトロピン、テストステロン、およびエストロゲンからなる群から選択される。
【0117】
少なくとも1つの成長因子は、好ましくは、線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換成長因子(TGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成タンパク質(BMP)、インターロイキン−1B、インターロイキン8、および神経成長因子からなる群から選択される。
【0118】
少なくとも1つの細胞分裂抑制剤は、好ましくは、アルキル化剤、白金類似体、挿入剤、有糸分裂阻害剤、タキサン類、トポイソメラーゼ阻害剤、および代謝拮抗物質からなる群から選択される。
【0119】
少なくとも1つのビスホスホネートは、好ましくは、ゾレドロン酸塩およびアレンドロン酸塩からなる群から選択される。
【0120】
さらに、これらのペーストのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの着色料を含むことができる。この着色料が食品用着色料であることが特に好ましい。特に好ましい実施形態によれば、この着色料は、E101、E104、E132、E141(クロロフィリン)、E142、リボフラビン、およびリサミングリーンからなる群から選択される。本発明によれば、用語「着色料」は、例えば、緑色着色用ニス(colour varnish green)、E104およびE132の混合物のアルミニウム塩などの着色用ニスも包含するものとする。
【0121】
特に好ましい実施形態によれば、ペーストAは、少なくとも20重量%の重合性モノマー(a1)、少なくとも20重量%の不溶性の充填剤(a2)、少なくとも0.1重量%のバルビツール酸誘導体(a3)、および少なくとも0.05重量%のハロゲン化物イオン供与体を含有し、ペーストBは、少なくとも20重量%の重合性モノマー(b1)、少なくとも20重量%の不溶性の充填剤(b2)、少なくとも0.01重量%の可溶性過酸化物(b3)、少なくとも0.01重量%の重金属化合物(b4)、および少なくとも0.05重量%のハロゲン化物イオン供与体を含有する。
【0122】
別の特に好ましい実施形態によれば、ペーストAは、15〜85重量%の重合性モノマー(a1)、15〜85重量%の不溶性の充填剤(a2)、0.1〜10重量%のバルビツール酸誘導体(a3)、および0.05〜10重量%のハロゲン化物イオン供与体を含有し、ペーストBは、15〜85重量%の重合性モノマー(b1)、15〜85重量%の不溶性の充填剤(b2)、0.01〜12重量%の可溶性過酸化物(b3)、0.001〜0.05重量%の重金属化合物(b4)、および0.05〜10重量%のハロゲン化物イオン供与体を含有する。
【0123】
本発明によれば、少なくともペーストAおよびBを含有するこのキットの目的は、骨セメントの製造である。
【0124】
この目的のために、少なくとも2つのペーストAおよびBは互いに混合され、この際に、別のペースト、ペーストC、が得られる。
【0125】
混合比は、好ましくは、0.5〜1.5重量部のペーストAおよび0.5〜1.5重量部のペーストBである。特に好ましい実施形態によれば、ペーストAおよびBの総重量に対して、ペーストAの分率は30〜70重量%であり、ペーストBの分率は30〜70重量%である。
【0126】
混合プロセスは、一般的な混合装置、例えばスタティックミキサーまたはダイナミックミキサーを含むことができる。
【0127】
この混合プロセスは、真空中で進行することができる。しかしながら、本発明に係る開始剤系の使用によって、ペーストAおよびBを、当該骨セメントの特性に対する悪影響なしに、真空の不存在下で混合することも可能になる。
【0128】
当該キットのペーストを混合した後に最終的に得られるペーストCは、ISO 5833基準によればタックなしであり、遅延なく加工することができる。
【0129】
硬化によってペーストCから生成される骨セメントは、当該キットの中に含有されるペーストを混合してからおよそ6〜8分間後に、高強度を達成する。
【0130】
好ましい実施形態によれば、本発明に係るキットは、関節の内部人工器官の機械的固定のために、頭蓋骨欠陥を被覆するために、骨空洞を充填するために、大腿骨形成術(femuroplasty)のために、椎体形成術のために、椎骨形成術のために、スペーサの製造のために、および局所的な抗生物質療法のための担体材料の製造のために、使用することができる。
【0131】
これに関して、用語「スペーサ」は、腐敗性の再置換(septic revision)手術における人工器官の二期的交換の範囲で一時的に使用することができるインプラントを意味すると理解されるものとする。
【0132】
局所的な抗生物質療法のための担体材料は、球または球様の物体としてまたは梁形状の物体として提供されてもよい。加えて、本発明に係るキットから作製される骨セメントを含有する棒(ロッド)形状または円板形状の担体材料を製造することも可能である。さらに、この担体材料は、ビーズの様な様式で吸収性または非吸収性の縫合糸材料を通されてもよい。
【0133】
上記の骨セメントの本発明に係る使用は、文献から公知であり、その中に多くの事例についてすでに記載されている。
【0134】
本発明によれば、好ましくは、このキットの中に含有されるペーストは互いに混合されて、まさに先行技術から公知のペーストのような上記の使用においてあとで使用されるペーストを製造するという点で、当該キットは、上記の使用のために使用される。
【0135】
本発明は、以下に記載される実施例を通して例証されるが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0136】
骨セメントを製造するための種々のキットを実施例で準備し、骨セメントを製造するために使用し、そしてそのようにして得た骨セメントの特性を比較した。
【0137】
実施例1は、2つのペースト、AおよびBを含有する本発明に係るキットに関する。
【0138】
実施例2は、2つのペースト、AおよびBと、加えて、抗生物質としての硫酸ゲンタマイシンとを含有する本発明に係るキットに関する。
【0139】
比較例1は、独国特許第10 2007 050 762(B3)号明細書から公知であり、かつ2つのペースト、AおよびBを含有するキットに関する。
【0140】
比較例2は、重合するべきモノマーを含有する液体成分、およびポリマーを充填剤として含有する固体成分を含有する市販のキット、Palacos(登録商標) Rに関する。
【0141】
比較例3は、重合するべきモノマーを含有する液体成分、およびポリマーを充填剤として含有する固体成分を含有する市販のキット、Palacos(登録商標) R+Gに関する。Palacos(登録商標) R+Gは、加えて抗生物質、硫酸ゲンタマイシンも含有するという点で、Palacos(登録商標) R+Gは、Palacos(登録商標) Rとは異なる。
【0142】
a)キットを準備すること:
実施例1および実施例2および比較例1のキットを準備するために、それぞれのペーストAおよびBを、それぞれの成分(表1に特定されるとおり)を十分に混合することによって、製造した。比較例2のキット(Palacos(登録商標) R;バッチ7034)および比較例3のキット(Palacos(登録商標) R+G;バッチ7047)は、商業的供給源から入手した。
【0143】
【表1】

表1:実施例1および実施例2および比較例1のキットの中に含有されるペーストの組成
【0144】
b)上記キットを使用する骨セメントの製造
実施例1および実施例2および比較例1では、それぞれのキットのペーストAおよびBを、1:1の混合比で互いに十分混合した。次いで、このようにして得られた混合物を、高さ3.3mmの長方形の型の中へと導入し、硬化が完結するまでその中で放置した。比較例2および比較例3のそれぞれのキットの固体成分および液体成分を、真空混合装置を使用して十分に混合した。次いで、このようにして得られた混合物を、高さ3.3mmの長方形の型の中へと導入し、硬化が完結するまでその中で放置した。
【0145】
c)このようにして得られた骨セメントの特性
4点曲げ強度試験および曲げ弾性率試験のために、長さ75mmおよび幅10mmの細片を、硬化が完結した後に得たセメントのプレートから切り出した。
【0146】
空気に曝露した試験体を23℃で24時間保存した後に、Zwick Universal試験機を使用して4点曲げ強度試験および曲げ弾性率試験を行った。
【0147】
高さ12mmおよび直径6mmの円筒形の試験体を、圧縮強度の試験のために製造した。この測定も、試験体を23℃で24時間保存した後に、Zwick Universal試験機を使用して行った。
【0148】
これらの試験の結果を表2に示す。
【0149】
【表2】

表2:空気に曝露し24時間保存した後の骨セメントに対する4点曲げ強度および曲げ弾性率試験の結果
【0150】
加えて、いくつかの試験体を、その製造直後に37℃の水の中で48時間保存した。その後、4点曲げ強度および曲げ弾性率を上記のとおりに測定した。これらの試験の結果を表3に示す。
【0151】
【表3】

表3:水の中で48時間保存した後の骨セメントに対する4点曲げ強度および曲げ弾性率試験の結果
【0152】
表2から明らかなように、本発明に係るキットを使用して製造した実施例1および実施例2の骨セメントは、24時間の保存後に、先行技術に従って公知でありかつ同じく2つのペーストの使用に基づく骨セメント(比較例1)と比べて、明らかにより高い4点曲げ強度および明らかにより高い曲げ弾性率を示す。これは、本発明に係るペースト系のはるかに増大した初期安定性を実証する。特に、本発明に係るキットを使用して製造した実施例1および実施例2の骨セメントは、24時間の保存後の4点曲げ強度および曲げ弾性率の値は、固体成分および液体成分を含む従来のキットの値と同等であるということを示すが、実施例1および実施例2の骨セメントには、従来の系に付随する一般的な短所(例えば高価な真空混合システム、有毒なモノマー蒸気)がない。
【0153】
表3は、得られた骨セメントの安定性は、比較例1に係る先行技術に従って公知の系では、本発明に係る系ならびに固体成分および液体成分を含む公知の系とは異なり、究極的には移植環境を模擬することになる水の中での保存の間に、不都合なほどに劇的に増大するということを示す。
【0154】
表4は、空気に曝露し24時間保存した後の4点曲げ強度および曲げ弾性率の値と、水の中で48時間保存した後の4点曲げ強度および曲げ弾性率の値(初期4点曲げ強度および初期曲げ弾性率)の関係を示す。
【0155】
【表4】

表4:実施例1および実施例2および比較例1で得た骨セメントの初期4点曲げ強度および初期曲げ弾性率
【0156】
表4は、本発明に係るキットを用いて製造した骨セメントについて、4点曲げ強度および曲げ弾性率は、有利にも、先行技術から公知の骨セメントよりも著しく早期に確立されるということを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーストAとペーストBとを含むキットであって、
(a)ペーストAは、
(a1)5〜9の範囲の、水の中でのpHを有する重合性モノマーと、
(a2)(a1)に不溶である充填剤と、
(a3)1,5−二置換バルビツール酸誘導体、1,3,5−三置換バルビツール酸誘導体、および1,3,5−四置換バルビツール酸誘導体からなる群から選択されるバルビツール酸誘導体と
を含有し、
(b)ペーストBは、
(a1)5〜9の範囲の、水の中でのpHを有する重合性モノマーと、
(b2)(b1)に不溶である充填剤と、
(b3)(b1)に可溶である過酸化物と、
(b4)(b1)に不溶でありかつ重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される重金属化合物と
を含有し、
前記ペーストAおよびペーストBのうちの少なくとも1つは、ハロゲン化物塩を含有する、キット。
【請求項2】
ペーストAの中の前記重合性モノマーはメタクリレートモノマーである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
ペーストAは、(a1)に可溶であるポリマーを含有する、請求項1または請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記不溶性の充填剤(a2)は微粒子ポリマーである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
ペーストBの中の前記重合性モノマーはメタクリレートモノマーである、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
ペーストBは、(b1)に可溶であるポリマーを含有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
前記不溶性の充填剤(b2)は微粒子ポリマーである、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
(b1)に不溶である前記重金属化合物(b4)は、塩基性重金属化合物である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
前記ハロゲン化物塩は、ペーストBの中に含有され、かつ(b1)に不溶である前記重金属化合物(b4)と同一である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
関節の内部人工器官の機械的固定のための、頭蓋骨欠陥を被覆するための、骨空洞を充填するための、大腿骨形成術のための、椎体形成術のための、椎骨形成術のための、スペーサの製造のための、および局所的な抗生物質療法のための担体材料の製造のためのペーストを製造するための、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のキットの使用。

【公開番号】特開2012−5829(P2012−5829A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−132322(P2011−132322)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(510340506)ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】