説明

ペースト組成物と太陽電池素子

【課題】厚いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成する場合または薄いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成する場合のいずれに用いても従来と同等以上のBSF効果を達成することができ、薄いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成するために用いた場合には従来と同等以上のBSF効果を達成するとともに従来のペースト組成物で薄い裏面電極層を形成した場合よりも焼成後のシリコン半導体基板の変形を抑制することが可能なペースト組成物とそれを用いて形成された電極を備えた太陽電池素子を提供する。
【解決手段】ペースト組成物は、導電性粉末としてアルミニウム粉末を含むペースト組成物であって、アルミニウム粉末が薄片状アルミニウム粒子を含む。太陽電池素子は、上記のペースト組成物をシリコン半導体基板1の裏面上に塗布した後、焼成することにより形成した裏面電極8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的にはペースト組成物と太陽電池素子に関し、特定的には、結晶系シリコン太陽電池を構成するシリコン半導体基板の裏面上に電極を形成する際に用いられるペースト組成物、およびそれを用いて裏面電極が形成された太陽電池素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
p型シリコン半導体基板の裏面上に電極が形成された電子部品として、特開2000−90734号公報(特許文献1)、特開2004−134775号公報(特許文献2)に開示されているような太陽電池素子が知られている。
【0003】
図1は、太陽電池素子の一般的な断面構造を模式的に示す図である。
【0004】
図1に示すように、太陽電池素子は、厚みが200〜300μmのp型シリコン半導体基板1を用いて構成される。p型シリコン半導体基板1の受光面側には、厚みが0.3〜0.6μmのn型不純物層2と、その上に反射防止膜3とグリッド電極4が形成されている。
【0005】
また、p型シリコン半導体基板1の裏面側には、アルミニウム電極層5が形成されている。アルミニウム電極層5は、ほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末、ガラスフリットおよび有機質ビヒクルからなるペースト組成物をスクリーン印刷等によって塗布し、乾燥した後、660℃(アルミニウムの融点)以上の温度にて短時間焼成することによって形成されている。この焼成の際にアルミニウムがp型シリコン半導体基板1の内部に拡散することにより、アルミニウム電極層5とp型シリコン半導体基板1との間にAl−Si合金層6が形成されると同時に、アルミニウム原子の拡散による不純物層としてp+層7が形成される。このp+層7の存在により、電子の再結合を防止し、生成キャリアの収集効率を向上させるBSF(Back Surface Field)効果が得られる。
【0006】
たとえば、特開平5−129640号公報(特許文献3)に開示されているように、アルミニウム電極層5とAl−Si合金層6とから構成される裏面電極8を酸等により除去し、新たに銀ペースト等により集電極層を形成した太陽電池素子が実用化されている。しかしながら、裏面電極8を除去するために用いられる酸を廃棄処理する必要がある、その除去工程のために工程が煩雑になる等の問題がある。このような問題を回避するために、最近では、裏面電極8を残して、そのまま集電極として利用して太陽電池素子を構成することが多くなってきている。
【0007】
そして、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物を用いて、p型シリコン半導体基板の裏面上に塗布し、焼成することにより裏面電極が形成された太陽電池素子では、一定の生成キャリアの収集効率の向上が得られているが、変換効率を高めるために所望のBSF効果をさらに向上させることが求められている。
【特許文献1】特開2000−90734号公報
【特許文献2】特開2004−134775号公報
【特許文献3】特開平5−129640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、最近ではシリコン原料不足の解消や太陽電池のコストダウンを図るために、p型シリコン半導体基板の厚みを薄くすることが検討されている。
【0009】
特に、近年では地球環境への関心が高まり、太陽光発電の重要性が世界的に認識され、太陽光発電の分野に多くの企業が参入し、太陽電池の増産が相次いでいる。このため、太陽電池素子の原料であるp型シリコン半導体基板の入手が困難になってきている。これに対応して太陽電池の生産量を確保するために、p型シリコン半導体基板の厚みを、従来の厚みの主流であった200μm〜220μmよりさらに厚みを薄くして160μmにすることが試みられている。
【0010】
しかし、厚みが薄くなったp型シリコン半導体基板に、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物を塗布し焼成した場合には、p型シリコン半導体基板のシリコンとアルミニウムとの熱膨張係数の差に起因して、ペースト組成物の焼成後に電極層が形成された裏面側が凹状になるようにp型シリコン半導体基板が変形し、反りが発生する。また、厚みが薄くなったp型シリコン半導体基板に、BSF効果を向上させるために塗布量を増やしてペースト組成物を塗布し焼成した場合にも、p型シリコン半導体基板のシリコンとアルミニウムとの熱膨張係数の差に起因して、ペースト組成物の焼成後に電極層が形成された裏面側が凹状になるようにp型シリコン半導体基板が変形し、反りが発生する。このため、太陽電池の製造工程で割れ等が発生し、その結果、太陽電池の製造歩留まりが低下するという問題がある。
【0011】
この反りの問題を解決するために、ペースト組成物の塗布量を減らし、裏面電極層を薄くする方法がある。しかしながら、ペースト組成物の塗布量を減らすと、p型シリコン半導体基板の裏面から内部に拡散するアルミニウムの量が不十分となる。その結果、所望のBSF効果を達成することができないため、太陽電池の特性が低下するという問題が生じる。
【0012】
さらに、p型シリコン半導体基板の厚みが非常に薄くなってきた状況では、大幅にペースト組成物の塗布量を減らしたとしても、ある程度の反りがp型シリコン半導体基板に発生してしまうという問題もある。
【0013】
なお、ペースト組成物の塗布量を減らさずにペースト組成物中のアルミニウム粉末の含有量を減少させた場合には、焼成後の裏面電極の電気抵抗が大きくなり、変換効率が低下し、ある程度の反りが発生してしまうという問題もある。
【0014】
そこで、この発明の一つの目的は、上記の課題を解決することであり、従来のような比較的厚いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成するために用いた場合には、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上のBSF効果を十分に達成することが可能なペースト組成物を提供することである。
【0015】
この発明のもう一つの目的は、薄いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成するために用いた場合には、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上のBSF効果を達成するとともに、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で薄い裏面電極層を形成した場合よりも焼成後のシリコン半導体基板の変形を大幅に抑制することが可能なペースト組成物を提供することである。
【0016】
この発明のさらにもう一つの目的は、上記のペースト組成物を用いて形成された裏面電極層を備えた太陽電池素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ペースト組成物中のアルミニウム粉末として、薄片状アルミニウム粒子を含むアルミニウム粉末を使用することにより、上記の目的を達成できることを見出した。この知見に基づいて、本発明に従ったペースト組成物は、次のような特徴を備えている。
【0018】
この発明に従ったペースト組成物は、結晶系シリコン太陽電池を構成するp型シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられ、導電性粉末としてアルミニウム粉末を含むペースト組成物であって、アルミニウム粉末が薄片状アルミニウム粒子を含むことである。ここで、薄片状アルミニウム粒子とは、粒子の外形状が板状、フレーク状、扁平状であること、あるいは、少なくとも板状の外形部分を含むアルミニウム粒子、または、少なくとも扁平な外形部分を含むアルミニウム粒子をいう。
【0019】
好ましくは、この発明のペースト組成物は、薄片状アルミニウム粒子の含有量が10質量%以上50質量%以下である。
【0020】
また、好ましくは、この発明のペースト組成物は、薄片状アルミニウム粒子の平均粒子径が3μm以上60μm以下である。
【0021】
より好ましくは、この発明のペースト組成物は、薄片状アルミニウム粒子の平均厚みに対する平均粒子径の比率である平均アスペクト比が30以上600以下である。
【0022】
さらに、好ましくは、この発明のペースト組成物は、有機質ビヒクルおよび/またはガラスフリットをさらに含む。
【0023】
この発明に従った太陽電池素子は、上述のいずれかの特徴を有するペースト組成物をp型シリコン半導体基板の裏面上に塗布した後、焼成することにより形成した電極を備える。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、この発明によれば、ペースト組成物中のアルミニウム粉末として、薄片状アルミニウム粒子を含むアルミニウム粉末を使用することにより、本発明のペースト組成物を、比較的厚いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成する場合、または、薄いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成する場合のいずれに用いても、少なくとも、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上のBSF効果を十分に達成することができる。また、薄いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成するために本発明のペースト組成物を用いた場合には、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上のBSF効果を達成するとともに、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で薄い裏面電極層を形成した場合よりも焼成後のシリコン半導体基板の変形を大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者らは、太陽電池素子の特性と、ペースト組成物中のアルミニウム粉末との関連性、特にアルミニウム粒子の形状に注目し、ペースト組成物中のアルミニウム粉末として、特定の外形状のアルミニウム粒子を含むアルミニウム粉末を使用することにより、太陽電池素子の特性を向上させることができることを見出した。
【0026】
本発明のペースト組成物は、導電性粉末としてアルミニウム粉末を含むペースト組成物であって、アルミニウム粉末が薄片状アルミニウム粉末を含む。従来から、p型シリコン半導体基板の裏面上にアルミニウム電極層を形成するために用いられるペースト組成物において、そのペースト組成物に含められるアルミニウム粉末としては、球形または球形に近い形状を有するアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末が使用されていた。
【0027】
本発明においては、薄片状アルミニウム粒子を含むアルミニウム粉末を使用することによって、p型シリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成しても、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上のBSF効果を達成することができる。
【0028】
特開2000−90734号公報(特許文献1)に記載されているように、裏面電極層を薄くすることによってp型シリコン半導体基板に生じる反り量を小さくすることは一般的に知られているが、変換効率が低くなっていた。
【0029】
これに対して、薄いシリコン半導体基板に薄い裏面電極層を形成するために本発明のペースト組成物を用いた場合には、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上のBSF効果を達成するとともに、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で薄い裏面電極層を形成した場合よりも焼成後のシリコン半導体基板の変形を大幅に抑制することができる。
【0030】
この理由は定かではないが、本発明のペースト組成物を使用した場合には光エネルギーを閉じ込める作用があるものと推測される。従来のペースト組成物を用いて裏面電極層を形成した場合、焼成後の裏面電極層はつや消しの灰色調の態様を有している。これに対して、本発明のペースト組成物を用いて裏面電極層を形成した場合、焼成後の裏面電極層は光を反射するシルバー調の態様を有している。このため、本発明においては、焼成後の裏面電極層が、シリコン半導体基板の表面から内部へ入った光を反射させる反射層として働くことにより、光エネルギーをシリコン半導体基板の内部に閉じ込める作用が働くものと推測される。したがって、この作用により光エネルギーの損失が少なくなるので、薄い裏面電極層を形成した場合でも、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末を含むペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合と同等程度または同等以上の変換効率を保つことができると推測される。
【0031】
なお、本発明のペースト組成物において、ペースト組成物に含有されるアルミニウム粉末を構成するアルミニウム粒子がすべて薄片状アルミニウム粒子である必要はない。ペースト組成物に含有されるアルミニウム粉末が薄片状アルミニウム粒子を含んでいれば、上述した作用効果を達成することができる。従来から用いられている球形または球形に近い粒子形状を有するアルミニウム粒子と薄片状アルミニウム粒子との混合物からなるアルミニウム粉末をペースト組成物に含有させても、上述した作用効果を達成することができる。
【0032】
薄片状アルミニウム粒子は、どのような方法で作製されたものであってもよいが、たとえば、プラスチックフィルムの表面に蒸着により形成されたアルミニウム薄膜をプラスチックフィルムの表面から剥離した後に破砕することにより、あるいは、従来から公知のアトマイズ法により得られるアルミニウム粒子を、有機溶媒の存在下でボールミルを用いて粉砕することによって、薄片状アルミニウム粒子を作製してもよい。
【0033】
一般的に前述のボールミルを用いて粉砕することにより得られた薄片状アルミニウム粒子の表面には、たとえば、高級脂肪酸等の粉砕助剤が付着しているが、本発明においては薄片状アルミニウム粒子の表面に粉砕助剤が付着したものを使用してもよく、薄片状アルミニウム粒子の表面から粉砕助剤が除去されたものを使用してもよい。いずれの薄片状アルミニウム粒子を用いても、上述した作用効果を達成することができる。
【0034】
また、薄片状アルミニウム粒子のペースト組成物中の含有量は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、さらに15質量%以上30質量%以下であることが好ましい。薄片状アルミニウム粒子の含有量が上記の範囲内であれば、薄片状アルミニウム粒子を含むペースト組成物は、p型シリコン半導体基板への塗布性や印刷性の点で優れる。
【0035】
従来のペースト組成物では、ペースト組成物中に占める、ほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末の含有量が非常に高い割合を占めているために、ペースト組成物の塗布は、一般的にスクリーン印刷によって形成されている。しかし、本発明のペースト組成物においては、薄片状アルミニウム粒子を含むアルミニウム粉末のペースト組成物中の含有量を少なくすることができるので、塗布方法は、スクリーン印刷法に限られることなく、たとえば、スプレー法による塗布も可能となる。スプレー法による塗布が可能となると、スクリーン印刷法の場合と比較して大量生産が可能となり、塗布の手間も大幅に削減できる可能性がある。
【0036】
また、従来のペースト組成物中に含まれるアルミニウム粉末の含有量は、70質量%程度であり、上述したようにペースト組成物中でかなり高い割合を占めていた。これは、たとえば、アルミニウム粉末の含有量を60質量%以下にした場合には、p型シリコン半導体基板の裏面上にペースト組成物を塗布・焼成することによって形成された裏面電極層の電気抵抗が高くなり、太陽電池素子の特性の低下、具体的には変換効率の低下を招くからであった。
【0037】
これに対して、本発明においては、薄片状アルミニウム粒子のペースト組成物中の含有量は60質量%以下であるにもかかわらず、上記のような問題が発生しない。
【0038】
この理由は、定かではないが、ほぼ球状のアルミニウム粒子よりも薄片状アルミニウム粒子の方が厚みが薄いため、焼成時の熱影響を受けやすくなる結果、シリコン基板との反応性が良くなり、アルミニウムの拡散が促進されるものと推測される。
【0039】
薄片状アルミニウム粒子の平均粒子径は、3μm以上60μm以下であることが好ましく、さらには7μm以上30μm以下であることが好ましい。薄片状アルミニウム粒子の平均粒子径が上記の範囲内であれば、薄片状アルミニウム粒子を含むペースト組成物は、p型シリコン半導体基板への塗布性や印刷性の点で優れる。なお、薄片状アルミニウム粒子の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定することができる。
【0040】
また、薄片状アルミニウム粒子の平均厚みに対する平均粒子径の比率である平均アスペクト比は、30以上600以下であることが好ましく、さらには70以上300以下であることが好ましい。薄片状アルミニウム粒子の平均アスペクト比が上記の範囲内であれば、薄片状アルミニウム粒子を含むペースト組成物は、p型シリコン半導体基板への塗布性や印刷性の点で優れる。なお、平均アスペクト比は、レーザー回折法によって測定された平均粒子径と、平均厚みとの比(平均粒子径[μm]/平均厚み[μm])により算出される。
【0041】
なお、平均厚みは、特開平06−200191号公報および国際公開第WO2004/026970号パンフレットに記載されるように、薄片状アルミニウム粉末の水面拡散面積を測定して特定の式に代入するという算出方法により得られるが、具体的な算出方法は以下のとおりである。
【0042】
薄片状アルミニウム粒子をアセトンで洗浄後、乾燥させた薄片状アルミニウム粒子の質量w(g)と、薄片状アルミニウム粒子を水面に均一に浮かべたときの被覆面積A(cm)を測定し、下記式1より、WCA(水面拡散面積)を算出した。次いで、WCA値を下記式2に代入して、薄片状アルミニウム粒子の平均厚みを算出した。
【0043】
式1:WCA(cm/g)=A(cm)/w(g)
式2:平均厚み(μm)=10/(2.5(g/cm)×WCA)
このような平均厚みの求め方は、例えば、Aluminum Paint and Powder,J.D.Edeards and R.I.Wray著、第三版、Reinhold Publishing Corp,New York(1955)出版、Pages16〜22等に記載されている。
【0044】
なお、薄片状アルミニウム粒子の表面にステアリン酸等の飽和高級脂肪酸が付着していない場合や飽和高級脂肪酸ではなく不飽和高級脂肪酸が付着している場合には、特開平06−200191号公報に記載されるようにリーフィング化処理して被覆面積Aを測定し、WCAを算出する。
【0045】
本発明のペースト組成物は、有機質ビヒクルをさらに含有することが好ましい。含有される有機質ビヒクルの成分は特に限定されず、エチルセルロース系やアルキッド系等の樹脂と、グリコールエーテル系やターピネオール系などの溶剤を使用することができる。有機質ビヒクルの含有量は、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。有機質ビヒクルの含有量が上記の範囲内であれば、薄片状アルミニウム粒子を含むペースト組成物は、p型シリコン半導体基板への塗布性や印刷性の点で優れる。
【0046】
さらに、本発明のペースト組成物はガラスフリットを含んでもよい。ガラスフリットの含有量は、0.5質量%以上5質量%以下であるのが好ましい。ガラスフリットは、焼成後においてアルミニウム電極層の密着性を向上させる作用があるが、ガラスフリットの含有量が5質量%を超えると、ガラスの偏析が生じ、裏面電極層としてのアルミニウム電極層の抵抗が増大する恐れがある。ガラスフリットの平均粒子径は、本発明の効果に悪影響を与えないものであれば特に限定されないが、通常1〜4μm程度のものが好適に使用することができる。
【0047】
本発明のペースト組成物に含められるガラスフリットは、特に組成や各成分の含有量が限定されず、通常、その軟化点が焼成温度以下のものを用いる。通常、ガラスフリットとして、SiO-Bi−PbO系の他に、B−SiO−Bi系、B−SiO−ZnO系、B−SiO−PbO系等を使用することができる。
【0048】
また、本発明のペースト組成物は、本発明の効果を妨げないものであれば種々のものを含有することができる。たとえば、適宜公知の樹脂、粘度調整剤、表面調整剤、沈降防止剤、消泡剤などの他の構成成分と混合され、ペースト組成物として調製されることができる。
【0049】
なお、本発明のペースト組成物の製造方法は、例えば、公知の攪拌機を用いて各成分を攪拌混合することにより製造する方法や、ロールミル等の混練機により各成分を混練する方法などにより製造することができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0051】
まず、表1に示すアルミニウム粉末A、Bと表2に示すガラスフリットを準備し、これらを実施例1〜4と比較例1〜4の原料粉末とした。アルミニウム粉末Aは、アトマイズ粉をボールミルで粉砕することによって、アルミニウム粒子が所定の平均粒子径と平均アスペクト比を有するように調製されたものである。アルミニウム粉末Bは、アトマイズ粉そのままである。なお、アルミニウム粉末Aを構成する薄片状アルミニウム粒子の平均粒子径(表1に示すアルミニウム粉末Aの平均粒子径)と、アルミニウム粉末Bを構成するほぼ球形状のアルミニウム粒子の平均粒子径(表1に示すアルミニウム粉末Bの平均粒子径)と、ガラスフリットの平均粒子径(表2に示す平均粒子径)は、レーザー回折法により測定した値である。なお、表1に示すアルミニウム粉末A、Bの平均粒子径は、レーザー回折法でマイクロトラックX100(日機装社製の測定器)で測定した。また、アルミニウム粉末Aを構成する薄片状アルミニウム粒子の平均厚みは、上述のように薄片状アルミニウム粒子の水面拡散被覆面積を測定して特定の式に代入するという算出方法で測定した。これらの測定値を用いて、表1に示すようにアルミニウム粉末Aの平均アスペクト比を算出した。
【0052】
次に、表3に示す割合で、表1に示すアルミニウム粉末A、Bと、表2に示すガラスフリットとを混合するとともに、有機質ビヒクルとして、エチルセルロースがペースト組成物に対して8質量%となるようにグリコールエーテル系有機溶剤に溶解したものをさらに加えることによって、各種のペースト組成物(総量100質量%)を作製した。
【0053】
具体的には、有機質ビヒクルとして、エチルセルロースをグリコールエーテル系有機溶剤に溶解したものに、アルミニウム粉末A、Bとガラスフリットを加えて、周知の混合機にて混合することにより、実施例1〜4および比較例1〜4のペースト組成物を作製した。
【0054】
一方、図1に示すように、pn接合が形成された、厚みが160μmまたは200μmで、大きさが125mm×125mmのp型シリコン半導体基板1としてのシリコンウェハーの受光面に、Agからなるグリッド電極4を形成した。
【0055】
スクリーン印刷法によって、上記のシリコンウェハーの裏面上に、実施例1〜4と比較例1〜4のペースト組成物を0.1kg/cmの印刷圧力で塗布することにより、乾燥後の塗布量が0.2g/枚(250メッシュのスクリーン印刷版使用)または1.5g/枚(160メッシュのスクリーン印刷版使用)になるように調整して、ペースト組成物の塗布層を形成した。
【0056】
上記で形成された塗布層を温度100℃で乾燥させた後、赤外炉において最高温度830℃で焼成して裏面電極層を形成し、実施例1〜4と比較例1〜4の試料を作製した。
【0057】
上記で作製された各試料の反り(変形)量をレーザー変位計(表示部:LK−GD500、センサー:LK−G85、いずれも株式会社キーエンス製)で測定した。反りの測定方法は次の通りである。
【0058】
まず、試料の裏面(凹面)、すなわち、ペースト組成物を塗布したシリコンウエハーの面を下向きにして平坦面の上に置く。平坦面に置いたシリコンウェハーは、図2に示すように、P1とP4を結ぶ辺とP2とP3を結ぶ辺とは平坦面に接触するが、P1とP2を結ぶ辺とP3とP4を結ぶ辺とは反りによる変形のため平坦面の上方へ膨らんでいる。
【0059】
このことから、P1とP2を結ぶ辺上をレーザー変位計にて移動しながら測定していくと、レーザー変位計による測定値としては、P2(またはP1)の位置では平坦面と接しているので、最小変位値(X1)がシリコンウェハーの厚み(裏面電極層の厚みを含む)を示すことになり、最大変位値(X2)がシリコンウェハーの厚みと反り(変形)量の合計値を示すことになる。これにより、レーザー変位計による測定値の最大変位値(X2)と最小変位値(X1)から、次の式で各試料の反り量を算出した。
【0060】
反り(mm)量=最大変位値(X2)―最小変位値(X1)
次に、反対側の辺であるP3とP4を結ぶ辺においても同様にして、レーザー変位計で測定することによって、上記の式で反り量を算出した。
【0061】
このようにして、P1とP2を結ぶ辺の測定から得られた反り量の値と、P3とP4を結ぶ辺の測定から得られた反り量の値との平均値を各試料の反り量の値として算出した。
【0062】
また、上記で作製された試料の太陽電池素子としての変換効率(Eff)は、ソーラーシュミレーター(WXS−155S−10:株式会社ワコム電創)を用いて、温度25℃、AM1.5Gスペクトルの条件で、実施例1〜4と比較例1〜4の試料のそれぞれについて測定した。
【0063】
以上の測定結果を表3に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表3に示す結果から、比較的厚いシリコン半導体基板(厚み200μm)に薄い裏面電極層を形成するために本発明のペースト組成物を用いた場合(実施例1)には、従来のペースト組成物を用いて厚い裏面電極層を形成した場合(比較例1)とほぼ同等のBSF効果(変換効率)を十分に達成することができ、比較的薄いシリコン半導体基板(厚み160μm)に薄い裏面電極層を形成するために本発明のペースト組成物を用いた場合(実施例2〜4)には、比較的薄いシリコン半導体基板(厚み160μm)に従来のペースト組成物で厚い裏面電極層を形成した場合(比較例2)と同等程度、または、ほぼ同等のBSF効果を達成するとともに、比較的厚いシリコン半導体基板(厚み200μm)に従来のペースト組成物で薄い電極層を形成した場合(比較例3)よりも、焼成後のシリコン半導体基板の変形を大幅に抑制することができる。また、従来のペースト組成物で薄い裏面電極層を形成した場合(比較例3)や、従来のほぼ球状のアルミニウム粒子からなるアルミニウム粉末をペースト組成物に少量含有させて厚い裏面電極層を形成した場合(比較例4)は、低いBSF効果しか得ることができなかった。
【0068】
以上に開示された実施の形態や実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態や実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものと意図される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】一つの実施の形態として本発明が適用される太陽電池素子の一般的な断面構造を模式的に示す図である。
【図2】実施例と比較例において裏面電極層としてアルミニウム電極層を形成した焼成後のp型シリコン半導体基板の反り量を測定する方法を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1:p型シリコン半導体基板、2:n型不純物層、3:反射防止膜、4:グリッド電極、5:アルミニウム電極層、6:Al−Si合金層、7:p+層、8:裏面電極。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶系シリコン太陽電池を構成するp型シリコン半導体基板の裏面上に電極を形成するために用いられ、導電性粉末としてアルミニウム粉末を含むペースト組成物であって、
前記アルミニウム粉末が、薄片状アルミニウム粒子を含む、ペースト組成物。
【請求項2】
前記薄片状アルミニウム粒子の含有量が10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載のペースト組成物。
【請求項3】
前記薄片状アルミニウム粒子の平均粒子径が3μm以上60μm以下である、請求項1または請求項2に記載のペースト組成物。
【請求項4】
前記薄片状アルミニウム粒子の平均厚みに対する平均粒子径の比率である平均アスペクト比が30以上600以下である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のペースト組成物。
【請求項5】
有機質ビヒクルおよび/またはガラスフリットをさらに含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のペースト組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のペースト組成物をp型シリコン半導体基板の裏面上に塗布した後、焼成することにより形成した電極を備えた、太陽電池素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−129600(P2009−129600A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301271(P2007−301271)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】