説明

ペーパー状触媒の製造方法

【課題】
ペーパー中の金属触媒の分散状態が良好で、かつ金属触媒の保持率も高い、600℃のような低温でも触媒活性の高いペーパー状触媒を提供する。
【解決手段】
金属触媒、無機繊維、無機結合剤、有機繊維と、ポリアミンエピハロヒドリン樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリアリルアミン樹脂から選ばれる少なくとも1種類からなるカチオン性高分子と、アニオン性高分子とを含有する水懸濁液を調製し、この懸濁液をろ過し、残渣を乾燥・焼成して得られるペーパー状触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はペーパー状多孔質構造に成形されたガス改質用ペーパー状触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスの改質反応に用いられる金属触媒は第8族、第9族、第10族、第11族、第12族に属する金属あるいはその酸化物であり、中でも比較的安価なニッケルはベンゼンの水素化や炭化水素の水蒸気改質反応など工業分野の各方面において利用されてきた。
【0003】
ガスの改質反応には、原料であるガスを高温の雰囲気下で金属触媒に接触させて反応させる方法がとられている。金属触媒は、原料ガスとの接触面積を増やすために、多数の連通孔からなるハニカム状構造体に成形されたセラミックスの内表面に担持された状態で使用されている。セラミックスは、例えばシリカ、アルミナ、マグネシア等の原料を成形及び焼成して成るものである。この表面に湿式粉砕された金属触媒粒子のスラリーをコーティングすることで、金属触媒が担持された構造体を得ている。
【0004】
ところで特許文献1、特許文献2、あるいは非特許文献1では、ペーパー状に成形された金属触媒が担持された構造体、すなわちペーパー状触媒を用いると、金属触媒とガスの接触効率が更に向上することが開示されている。このペーパー状触媒は、ハニカム状に成形した触媒構造体よりも緻密な空隙構造によって、触媒とガスが接する面積が広くなり、より高い触媒活性を示す。作成方法は、金属触媒及びセラミックス繊維を所定量の水に分散させ、コロイダルシリカや硫酸バンド、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、高分子凝集剤等を添加した後、通常の抄紙技術を用いてろ過し、残渣を乾燥し、焼成するものであり、従来に比べ成形性にも優れている。ペーパー状触媒の用途としては、例えば自動車排ガス中の窒素酸化物の分解除去、光触媒による空気中の揮発性化合物の分解除去、メタノールの水蒸気改質反応による水素の製造など、ガス改質反応全般において利用できることが示唆されている。
【0005】
しかしながら、従来の技術では、ペーパー状触媒中に金属触媒を確実に保持させるために高分子凝集剤を使用していた。このとき、金属触媒を含めた各原料が過度に凝集するため、金属触媒の表面積が減少したり、ペーパー状触媒中の空隙構造が不均一になるために、触媒活性を十分に発揮することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−303494
【特許文献2】特開2008−307471
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chemical Engineering Science, Vol.65,p208-213(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ペーパー状触媒中の金属触媒の分散状態が良好で、かつ金属触媒の保持率も高い、600℃のような低温でも触媒活性の高いペーパー状触媒の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来技術によって製造されたペーパー状触媒よりもペーパー中の金属触媒の分散状態が良好で、かつ金属触媒の保持率も高く、結果として触媒活性の高いペーパー状触媒を完成するに至った。すなわち本発明は、
<1>金属触媒、無機繊維、無機結合剤から成るペーパー状触媒の製造方法において、
(1)金属触媒、無機繊維、無機結合剤、有機繊維と、ポリアミンエピハロヒドリン樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂から選ばれる少なくとも1種類からなるカチオン性高分子と、アニオン性高分子とを含有する水懸濁液を調製する工程、
(2)工程(1)で製造した懸濁液をろ過し、残渣を乾燥しペーパー状物を得る工程、
(3)工程(2)で製造したペーパー状物を焼成する工程
からなるペーパー状触媒の製造方法
<2>アニオン性高分子がカルボキシル基を含有することを特徴とする上記<1>に記載のペーパー状触媒の製造方法
<3>金属触媒が第8族、第9族、第10族、第11族、第12族のいずれかの金属を含むことを特徴とする上記<1>または<2>に記載のペーパー状触媒の製造方法
<4>金属触媒がニッケル触媒であることを特徴とする上記<3>に記載のペーパー状触媒の製造方法
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
ペーパー状触媒中の金属触媒の分散状態が良好で、かつ金属触媒の保持率も高い、600℃のような低温でも触媒活性の高いペーパー状触媒の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかるペーパー状触媒は金属触媒、無機繊維、無機結合剤、有機繊維と、ポリアミンエピハロヒドリン樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリアリルアミン樹脂から選ばれる少なくとも1種類からなるカチオン性高分子と、アニオン性高分子とを含有する水懸濁液を調製し、この懸濁液をろ過し、残渣を乾燥して金属触媒を含有したペーパー状物を得、さらにこれを焼成することで得られる。
【0012】
本発明に用いる金属触媒として、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族に属する金属を含むものが挙げられる。前記金属として例えば鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀が挙げられる。これらの中から望むガス改質反応によって適切な触媒を選ぶことができるが、中でも比較的安価で多くの触媒プロセスに用いられているニッケルが好ましい。これらの金属触媒は金属単体、あるいは金属の化合物のみから成るものだけでなく、他の金属単体あるいは金属の化合物との混合物から成るもの、あるいは他の金属との錯体でも良い。
【0013】
金属触媒の配合量は金属触媒の組成、またペーパー状触媒の用途等によって異なるが、通常焼成前のペーパー状物の重量総和の10%〜40%、好ましくは20%〜30%である。配合量が40%を越えるような場合はペーパー状に成形することができなくなってしまうことがあり、10%未満のような場合はペーパー状触媒の触媒活性が低くなってしまうことがある。
【0014】
本発明に用いる無機繊維として、セラミックス繊維、ガラス繊維、鉱滓繊維、石綿等が挙げられるが、安定性、安全性、強度等に優れたセラミックス繊維が好ましい。無機繊維の配合量はペーパー状触媒の用途等によって異なるが、通常焼成前のペーパー状物の重量総和の50%〜80%、好ましくは60%〜70%である。配合量が80%を越えるような場合はペーパー状触媒の触媒活性が低くなってしまうことがあり、10%未満のような場合はペーパー状に成形することができなくなってしまうことがある。
【0015】
本発明に用いる有機繊維として、木材パルプ、リンター、バガス、ケナフ、稲わら等の非木材パルプ、合成パルプ、合成有機繊維等が挙げられるが、安価で入手しやすい木材パルプが好ましい。有機繊維の配合量はペーパー状触媒の用途等によって異なるが、通常焼成前のペーパー状物の重量総和の2%〜6%、好ましくは3%〜5%である。配合量が6%を越えるような場合は焼成時に有機繊維が除去されることによって、ペーパー状触媒中に望まない空隙が多数生じてしまい触媒活性の低下につながることがある。一方、配合量が2%未満のような場合は乾燥前のペーパー状物の強度が低く、取扱いが困難になることがある。
【0016】
本発明に用いる無機結合剤として、アルミナゾル、シリカゾル、リン酸ナトリウム等が挙げられるが、他の材料との親和性等の適したアルミナゾル、シリカゾルが優位に用いられる。本発明に用いる無機結合剤の配合量はペーパー状触媒の用途等によって異なるが、通常焼成前のペーパー状物の重量総和の2%〜10%、好ましくは4%〜8%である。配合量が10%を越えるような場合はペーパー状触媒の触媒活性が低くなってしまうことがあり、2%未満のような場合は金属触媒がペーパー状触媒から脱落してしまうことがある。
【0017】
本発明に用いるカチオン性高分子として、ポリアミンエピハロヒドリン樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、ポリアリルアミン樹脂等が挙げられ、これらは単独、又は複数のカチオン性高分子を併用して用いることが出来る。
【0018】
前記ポリアミンエピハロヒドリン樹脂としては、ポリアルキレンポリアミン類にエピクロロヒドリンやエピブロモヒドリン等のエピハロヒドリンを反応させて得られる樹脂、ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類とを反応させて得られるポリアミドアミン樹脂にエピハロヒドリンを反応させて得られる樹脂、ポリアルキレンポリアミン類とジカルボン酸類と尿素化合物とを反応させて得られるポリアミドアミン尿素樹脂にエピハロヒドリンを反応させて得られる樹脂等が挙げられる。
【0019】
前記カチオン性ポリアクリルアミド樹脂としては、(メタ)アクリルアミドと、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム塩のうち1種以上の官能基を有するカチオン性不飽和単量体との共重合体が挙げられる。
【0020】
本発明に用いるカチオン性高分子は抄造に用いる各原料の過度の凝集を抑えるため、重量平均分子量1万以上200万以下のものが好ましい。前記重量平均分子量はGPC−MALSにより測定したものである。
【0021】
本発明に用いるアニオン性高分子として、例えば、カルボキシル基を含有する高分子、スルホン酸基を含有する高分子、リン酸基を含有する高分子等が挙げられるが、高分子へのアニオン性基の導入の容易さや、コストの面からカルボキシル基を含有する高分子が好ましい。
【0022】
カルボキシル基を含有するアニオン性高分子として、カルボキシル基又はそのナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩を含有する(メタ)アクリル高分子や、カルボキシル基を含有する多糖類、あるいは多糖類誘導体とそのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0023】
前記カルボキシル基又はそのアルカリ金属塩を含有する(メタ)アクリル高分子として(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等とその塩から選ばれる不飽和カルボン酸、及びそれらと共重合可能な不飽和単量体との共重合体が挙げられるが、抄造に用いる各原料の過度の凝集を起こさない平均重合度1500以上3万以下のものが好ましい。前記平均重合度はGPC−MALSより測定される数平均分子量を、重合に用いた不飽和単量体の平均分子量で割ることにより算出したものである。
【0024】
前記カルボキシル基を含有する多糖類として、例えばアルギン酸およびそのアルカリ金属塩が挙げられ、また多糖類誘導体として、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース及びそのアルカリ金属塩、セルロースを過ヨウ素酸塩と亜塩素酸塩を用いて酸化した酸化セルロース誘導体、セルロースをニトロキシラジカル誘導体とハロゲン化アルカリ金属塩と酸化剤を用いて酸化したセルロース誘導体等が挙げられるが、抄造に用いる各原料の過度の凝集を起こさない平均重合度100以上2000以下のものが好ましい。前記平均重合度は粘度法より測定される平均分子量を、多糖類誘導体を構成する単糖あるいはその誘導体の平均分子量で割ることにより算出したものである。
【0025】
本発明に用いるカチオン性高分子とアニオン性高分子は、ペーパー状触媒製造時に使用する原料を過度に凝集させないことを特徴とする。
【0026】
従来の技術では、各原料を含有する水懸濁液を調製する工程において、高分子凝集剤を用いることによって強固で再分散しにくい凝集物が形成される。この時生じる凝集物の粒径は数百μmといった巨大な物から10μm程度といった小さな物まで様々である。その結果得られるペーパー状触媒中の空隙の大きさも不均一となる。
【0027】
空隙の大きさが不均一なペーパー状触媒中に原料ガスを通過させてガス改質反応を行った場合、ガスはペーパー中の比較的大きな空隙を優先的に通過すると考えられる。その結果、小さい空隙に存在する触媒は、大きな空隙に存在する触媒よりも原料ガスとの接触機会が減り、反応に有効利用できないこととなる。また、巨大な凝集物によって構成された箇所は表面積も小さくなるため、触媒と原料ガスが接して反応するための有効な面積が減ってしまうことになる。
【0028】
一方、本発明に係るカチオン性高分子とアニオン性高分子を用いた場合、添加直後に原料は激しく凝集し、フロック(凝集物)を形成するが、その後の攪拌により容易に再分散し、従来技術に比べて小さくかつ粒径のそろったフロックとなる。この小さなフロックを用いて抄造したペーパー状触媒はペーパー中の金属触媒の分散状態が良好で、かつ金属触媒の保持率も高く、ペーパー中の空隙構造も均一となり、触媒と原料ガスが接する表面積も従来技術によって製造されるペーパー状触媒に比べて広くなるため、従来のペーパー状触媒よりも高い触媒活性を有する。
【0029】
次に、本発明におけるペーパー状触媒の製造方法について説明する。
始めに、金属触媒、無機繊維、無機結合剤、有機繊維、カチオン性高分子、アニオン性高分子を含有する水懸濁液を調製する(工程(1))。工程(1)において原料の添加順序は問わないが、具体的な調製方法の一例として以下に示す。
まず、無機繊維、金属触媒、カチオン性高分子、無機結合剤、有機繊維を投入した水懸濁液を調製する。次いでこの水懸濁液にアニオン性高分子を添加してフロックを生じさせ、その後十分に攪拌し、各原料を含む水懸濁液を得る。ここで、アニオン性高分子を添加してから十分に攪拌しないと生じたフロックの大きさが不均一となり、地合いの悪化、ひいては触媒活性の低下につながる。また、無機繊維、有機繊維は予め水に分散させてから前記水懸濁液に添加することが好ましい。
なお、工程(1)において、原料の凝集性に過度に影響を及ぼさなければメタノールやエタノール、イソプロパノール等の水と混和可能な有機溶媒や消泡剤等を併用してもかまわない。
【0030】
続いて、工程(1)で製造した懸濁液をろ過し、残渣を乾燥しペーパー状物を得る(工程(2))。工程(2)において通常の抄紙方法を用いればペーパー状物を得ることができるが、具体的な一例としては以下の通りである。
工程(1)で得られた無機繊維等の水懸濁液をメッシュ等で濾過し、濾過残を圧締して余分な水分を除去した後に高温で乾燥することで金属触媒を保持したペーパー状物を得る。
濾過に用いるメッシュ等の材質は特に問わないが、メッシュの目開き(メッシュの孔径)は30μm〜230μmが好ましい。メッシュの目開きが大きすぎると原料がメッシュを通過してしまうため、最終的に得られるペーパー状触媒の重量歩留まりが低下してしまう。一方メッシュの目開きが小さすぎるとメッシュが目詰まりし、濾水時間が長くなるため製造効率の低下を招く。また、濾水時間が長くなると局所的に水の通り道が形成されてしまうため、最終的にペーパー状触媒の空隙構造が不均一になってしまう恐れがある。
脱水方法は特に制限はなく自然脱水、減圧脱水の何れかを選択することが出来る。
乾燥する際、ペーパーの収縮を避けるため、緊張乾燥(湿紙が動かないように保持しながら乾燥する方法)が好ましい。
【0031】
最後に、工程(2)で得られた金属触媒を保持したペーパー状物を高温の電気炉等にて焼成し、本発明のペーパー状触媒を得る(工程(3))。
焼成温度、焼成時間は用いる金属触媒、有機繊維の種類や量により異なるが、金属触媒がシンタリングしない程度の範囲で行うのが好ましい。
【0032】
本発明の実施形態では工程(1)においてアニオン性高分子の添加直後に原料が激しく凝集するが、その後の攪拌により容易に再分散し、従来技術に比べて小さく粒径のそろった凝集物となる。これにより得られたペーパー状触媒はペーパー中の金属触媒の分散状態が良好で、かつ金属触媒のペーパー中の保持率も高く、ペーパー中の空隙構造も均一となり、触媒と原料ガスが接する表面積も従来技術によって製造されるペーパー状触媒に比べて広くなるため、従来のペーパー状触媒よりも高い触媒活性を有する。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、実施例中に特に記載が無い場合、カチオン性高分子の重量平均分子量はいずれも1万以上200万以下、カルボキシル基又はそのアルカリ金属塩を含有する(メタ)アクリル高分子の平均重合度はいずれも1500以上3万以下、カルボキシル基を含有する多糖類の平均重合度はいずれも100以上2000以下の範囲であった。
【0034】
実施例1
無機繊維であるセラミックス繊維(イビデン株式会社製「イビウール」)を家庭用ミキサーで平均繊維長500μm程度になるまで裁断した。このセラミックス繊維の1.25重量%水懸濁液400重量部を攪拌している所に、金属触媒としてニッケル触媒粉末(ズードケミー触媒株式会社製「FCR−4」を粉砕したもの)の1.67重量%水懸濁液100重量部、カチオン性高分子としてポリアミンエピハロヒドリン樹脂(星光PMC株式会社製「T−NT102」、重量平均分子量約150万)の0.1重量%水溶液22部、無機結合剤としてアルミナゾル(日産化学工業株式会社製「アルミナゾル520」)の5重量%水溶液10重量部を加え、さらにアニオン性高分子としてカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬株式会社製「セロゲン4H」)の0.2重量%水溶液34重量部を加えて3分間攪拌した。その後有機繊維としてカナディアン・スタンダード・フリーネス300に叩解した広葉樹漂白クラフトパルプの0.25重量%水懸濁液100重量部を加え、さらに3分間攪拌することでセラミックス繊維等の各原料を含む水懸濁液1を得た。次に、200メッシュ(目開き77μm)の金網を設置したJIS P 8222に準じた丸型手抄き機の抄紙筒に、4000重量部の懸濁液1を全量入れ、攪拌翼を用いて静かに攪拌した。抄紙筒下部から自然脱水することで金属触媒を含有する湿紙を得た。この湿紙の上にNo.2の濾紙(アドバンテック東洋株式会社製)をのせてクーチングした後、手抄き紙用プレスを用いて3.5kgf/cmの圧力で3分間圧締し、余分な水分を除去した。その後得られた湿紙をリングで固定して105℃で1時間緊張乾燥を行うことで金属触媒を含有したペーパー状物を得た。更にこの金属触媒を含有したペーパー状物を350℃の電気炉中で12時間焼成し、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留り、触媒活性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0035】
実施例2
実施例1において、アニオン性高分子として用いたカルボキシメチルセルロースナトリウムの代わりにアニオン性ポリアクリルアミド(星光PMC株式会社製「T−NT103」、平均重合度約2700)の0.1重量%水溶液48重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留り、触媒活性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0036】
実施例3
実施例1において、アニオン性高分子として用いたカルボキシメチルセルロースナトリウムの代わりに、特許文献3(特開2008−303361)の製造例において紹介されている方法で調製した酸化セルロース微小繊維の0.1重量%水分散液56重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留り、触媒活性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0037】
実施例4
実施例1においてカチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂の代わりに、ポリビニルアミン樹脂(重量平均分子量約50万)の0.1重量%水溶液4.6重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例5
実施例1においてポリアミンエピハロヒドリン樹脂の代わりにポリジメチルアリルアミン樹脂(日東紡株式会社製「PAS−M−1」、重量平均分子量約2万)の0.1重量%水溶液5.4重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例6
実施例1においてカチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂の代わりにカチオン性ポリアクリルアミド樹脂(星光PMC株式会社製「T−NT104」、重量平均分子量約150万)の0.1重量%水溶液25重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例7
実施例1においてカチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂の代わりにポリエチレンイミン樹脂の0.1重量%水溶液7.3重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例8
実施例1においてカチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂の代わりにポリアリルアミン樹脂(日東紡株式会社製「PAA−25」、重量平均分子量約25,000)の0.1重量%水溶液5.4重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0042】
比較例1
実施例1において、カチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂と、アニオン性高分子として用いたカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加しない以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0043】
比較例2
実施例1において、アニオン性高分子として用いたカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加しない以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0044】
比較例3
実施例1において、カチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂を添加せず、またアニオン性高分子として用いたカルボキシメチルセルロースナトリウムの代わりにアニオン性凝集剤(SNF FLOERGER社製「EM430」、平均重合度約14万)の0.1重量%水溶液37重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留りを評価した。結果を表1に示す。
【0045】
比較例4
実施例1において、カチオン性高分子として用いたポリアミンエピハロヒドリン樹脂の代わりにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、重量平均分子量約30万)の0.1重量%水溶液6.2重量部を、アニオン性高分子として用いたカルボキシメチルセルロースナトリウムの代わりにアニオン性高分子凝集剤(SNF FLOERGER社製「EM430」、平均重合度約14万)の0.1重量%水溶液37重量部を添加する以外は実施例1と全く同じ処理を行い、ペーパー状触媒を得た。得られたペーパー状触媒について重量歩留り、触媒活性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0046】
[重量歩留まりの評価方法]
重量歩留まりは以下の式から算出して評価を行った。数値は高いほうが、歩留まりが良いことを示している。
【数1】

【0047】
[地合いの評価方法]
地合いを評価するにあたっては、ペーパー状物を実施例より薄くして評価する必要がある。このため、丸型手抄き機の抄紙筒に、4000重量部の水と、懸濁液1のうち20重量%を入れ、攪拌翼を用いて静かに攪拌した以外は実施例1と同様にして地合い評価用のペーパー状物を得た。また、実施例2〜8、比較例1〜4も同様にして地合い評価用のペーパー状物を得た。得られた地合い評価用の金属触媒含有ペーパー状物に裏側から光を当て、光を透過せず直径500μm以上の影となる点が地合い評価用のペーパー中に見られるものは、過度の凝集を起こしていることを示しているため「不良」として評価し、光を透過せず直径500μm以上の影となる点が地合い評価用のペーパー中に見られないもの、すなわち、光を均一に透過するものは、過度の凝集を起こしていないことを示しているため「良好」として評価した。
【0048】
[触媒性能の評価]
ペーパー状触媒を反応管に充填し、この反応管に600℃で2時間水素を流して触媒の還元処理を行った後、プロパンと水蒸気の混合気体(モル比1:9)を流して水蒸気改質反応を行い、反応管出口部に設置したガスクロマトグラフを用いてプロパンの転化率と反応により生じた水素量、すなわち水素生成量を測定して評価した。なお、参考までに比較例4で得られたペーパー状触媒を反応管に充填し、この反応管に水素を流す温度を700℃、800℃に変えた以外は上記と同じ条件でプロパンの転化率と反応により生じた水素量、すなわち水素生成量を測定した結果を表2に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1における地合いの評価結果から実施例1〜8はいずれも地合いが良好でかつ重量歩留まりが高かったことがわかる。一方、比較例1、比較例2は地合いが良好ではあるものの重量歩留まりが極めて低く、金属触媒などの原料が十分に留まっていないことがわかる。また、比較例3、4は原料を凝集させる薬品として従来技術であるポリジメチルジアリルアンモニウムや高分子凝集剤を使用しているが、重量歩留まりこそ高いものの原料の過度な凝集により地合いが悪化していることがわかる。
【0051】
次に、得られたペーパー状触媒の触媒活性評価結果を表2に示す。実施例1〜8はいずれも地合いが同等であり、かつ重量歩留まりも同等であるので、代表例として実施例1〜3について触媒活性を評価した。また、比較例1〜4については代表例として従来の技術で製造した比較例4について触媒性能を評価した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2において、実施例1〜3の600℃における触媒性能はプロパン転化率、水素生成量ともに従来技術である比較例4よりも高かった。比較例4は水蒸気改質反応の反応温度を700℃、800℃と上げることによって高いプロパン転化率、水素生成量を得ることができるが、産業上利用する場合、低温で高活性を有する触媒、すなわち本実施例の方が圧倒的に有利である。
【0054】
以上説明したように、本発明方法により調製したペーパー状触媒は従来技術で調製したペーパー状触媒と同等以上の重量歩留まりと、従来よりも良好な地合いを有しており、またペーパー中の空隙構造がより均一であることから高い触媒活性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明方法により得られるペーパー状触媒は、従来金属触媒を担持した触媒構造体を利用する分野、例えば自動車排ガス中の窒素酸化物の分解除去、光触媒による空気中の揮発性化合物の分解除去、メタノールや各種炭化水素の水蒸気改質反応による水素の製造、ベンゼンや不飽和結合を有する炭化水素の水素化反応、炭化水素の水素化分解反応などにおいて利用できることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒、無機繊維、無機結合剤から成るペーパー状触媒の製造方法において、
(1)金属触媒、無機繊維、無機結合剤、有機繊維と、ポリアミンエピハロヒドリン樹脂、カチオン性ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂から選ばれる少なくとも1種類からなるカチオン性高分子と、アニオン性高分子とを含有する水懸濁液を調製する工程、
(2)工程(1)で製造した懸濁液をろ過し、残渣を乾燥しペーパー状物を得る工程、
(3)工程(2)で製造したペーパー状物を焼成する工程
からなるペーパー状触媒の製造方法。
【請求項2】
アニオン性高分子がカルボキシル基を含有することを特徴とする請求項1に記載のペーパー状触媒の製造方法。
【請求項3】
金属触媒が第8族、第9族、第10族、第11族、第12族のいずれかの金属を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のペーパー状触媒の製造方法。
【請求項4】
金属触媒がニッケル触媒であることを特徴とする請求項3に記載のペーパー状触媒の製造方法。

【公開番号】特開2012−143714(P2012−143714A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4631(P2011−4631)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】