説明

ホウ素吸着材及びホウ素含有水の処理方法

【課題】 ホウ素に対して優れた吸着性能を有し、簡単に再生して再利用することができる安価なホウ素吸着材、及びそのホウ素吸着材を使用して排水中のホウ素を効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】 セリウム水酸化物と、セリウム以外の少なくとも一種の希土類金属の水酸化物と、シリコンとからなるホウ素吸着材である。セリウム水酸化物と希土類金属水酸化物とシリカとの組成比は、元素組成で、セリウム50〜95重量%、シリコン1〜5重量%、及び残部の希土類金属であることが好ましい。このホウ素吸着材を、水酸化ナトリウム処理した後、ホウ素含有排水とpH7〜10で接触させることにより、ホウ素を吸着除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有排水中のホウ素を吸着除去するための吸着材、及びこの吸着材を用いたホウ素含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ホウ素含有排水は、メッキ、ガラス、医薬、染料などの工場や、排煙脱硫設備、ゴミ焼却炉などから排出される。これらのホウ素含有排水からホウ素を吸着除去する方法としては、イオン交換樹脂や希土類系の吸着材を用いて吸着除去する方法が用いられる。
【0003】
例えば、特開2004−330012号公報や特開2005−205368号公報には、希土類金属成分に高分子樹脂あるいはベントナイトを混合した吸着材を用いて、ホウ素含有排水からホウ素を吸着除去する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、高分子樹脂あるいはベントナイトが希土類金属を被覆するため、ホウ素を十分に除去することができないという問題があった。
【0004】
また、イオン交換樹脂を用いたホウ素除去方法としては、ホウ素選択性キレート樹脂(三菱化学(株)製、登録商標:ダイヤイオン CRB02)を合成樹脂のポリスチレン担体に混合させたものを用いて、排水中のホウ素を除去する方法が知られている。しかし、この方法では、担体のポリスチレンが疎水性であるため、水中に溶存しているホウ素が担体内部まで拡散しにくく、吸着容量が小さいという問題があった。
【特許文献1】特開2004−330012号公報
【特許文献2】特開2005−205368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、ホウ素含有排水中のホウ素に対して優れた吸着性能を有し、簡単に再生して再利用することができ、且つ安価なホウ素吸着材を提供すること、及びそのホウ素吸着材を使用して排水中のホウ素を効率的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明が提供するホウ素吸着材は、排水中に含まれるホウ素を吸着するためのホウ素吸着材であって、セリウム水酸化物と、セリウム以外の少なくとも一種の希土類金属の水酸化物と、シリカとからなることを特徴とする。
【0007】
上記本発明のホウ素吸着材において、前記希土類金属水酸化物は、ランタン及びイットリウムから選ばれた少なくとも1種の水酸化物であることが好ましい。また、前記セリウム水酸化物と希土類金属水酸化物とシリカとの組成比は、元素組成で、セリウム50〜95重量%、ケイ素1〜5重量%、及び残部の希土類金属であることが好ましい。
【0008】
また、本発明が提供するホウ素吸着材の製造方法は、水酸化セリウムと、セリウム以外の少なくとも一種の希土類金属の水酸化物に、シリカゾルを添加して混合し、乾燥した後、大気中において100〜400℃で熱処理することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明が提供するホウ素含有排水の処理方法は、上記した本発明のホウ素吸着材を、水酸化ナトリウムで処理した後、ホウ素含有排水とpH7〜10で接触させることにより、ホウ素含有排水中のホウ素を吸着除去することを特徴とする。
【0010】
上記本発明のホウ素含有排水の処理方法において、前記ホウ素を吸着したホウ素吸着材は、酸又はアルカリ水溶液によりホウ素を脱着して再生することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホウ素の吸着性能に優れ、且つ安価なホウ素吸着材を提供することができる。従って、本発明のホウ素吸着材を用いることによって、排水中に含有されるホウ素を効率的に吸着除去することができる。また、本発明のホウ素吸着材は、排水中のホウ素を吸着した後、酸又はアルカリ水溶液と接触させるだけでホウ素を脱着できるため、ホウ素吸着材を簡単に再生させて再利用することができ、低コストでホウ素含有排水を処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のホウ素吸着材は、セリウム水酸化物と、セリウム以外の少なくとも1種の希土類金属の水酸化物と、シリカ(二酸化ケイ素)とで構成されている。尚、本発明において、「セリウム水酸化物」とは、原料の水酸化セリウムを大気中にて100〜400℃で熱処理したときの生成物であって、水酸基を有する含水型の酸化セリウムを総称したものである。
【0013】
上記セリウム水酸化物及び希土類金属水酸化物は、微細な水酸化物粒子として存在し、シリカ表面においてシリカとの複合体を形成して、ホウ素の吸着に好ましい表面特性を与える役割を果たすものと考えられる。希土類金属水酸化物としては、ランタン(La)あるいはイットリウム(Y)の水酸化物が好ましく、そのいずれか1種又は2種を用いることができる。尚、シリカは各成分を結合し、吸着材の強度に寄与するものである。
【0014】
本発明のホウ素吸着材を構成するセリウム水酸化物と希土類金属水酸化物とシリカの組成は、元素組成において、セリウム(Ce)が50〜95重量%、ケイ素(Si)が1〜5重量%、及び残部の希土類金属からなることが好ましい。セリウムが50重量%未満では満足すべき吸着特性が得られず、逆に95重量%を超えると吸着材の耐久性が低下する。また、ケイ素が1重量%未満では吸着材の強度が低下し、5重量%を超えるとホウ素吸着量が低下するため好ましくない。
【0015】
ホウ素吸着材の形状としては、特に制限はなく、粉状、粒状、糸状、その他の任意の形状を採用することができる。また、ホウ素吸着材の平均粒径は0.3〜2mmが好ましく、0.6〜1mmが更に好ましい。平均粒径が0.3mm未満では、充填密度が高くなって処理水の通水抵抗が高くなるため、処理能力が低下する。逆に、平均粒径が2mmを超えると、ホウ素吸着材の単位時間当たりの接触面積が低下するため、やはり処理能力が低下する。
【0016】
本発明のホウ素吸着材を製造する方法としては、水酸化セリウムと希土類金属水酸化物とシリカゾルを、所定量秤量して混合し、混合物を造粒し若しくは成形して所望の形状とした後に乾燥する。その後、ホウ素吸着材の強度を増すため、大気中において熱処理する。この場合の熱処理温度としては、100〜400℃が必要である。熱処理温度が100℃未満では、ホウ素含有排水のような酸性溶液と接触させた場合に、セリウムの溶出量が多くなり、成形体が粉化し、通水抵抗が高くなって処理能力が低下する。逆に熱処理温度が400℃を超えると、吸着材の比表面積が低下するため、ホウ素吸着量が低下する。
【0017】
次に、本発明のホウ素含有排水の処理方法について説明する。上記した本発明のホウ素吸着材は、水酸化ナトリウムで処理することによって、ホウ素吸着量が増加する。この処理に用いる水酸化ナトリウム水溶液濃度は、0.1〜0.5mol/lの範囲が好ましい。
【0018】
水酸化ナトリウム処理したホウ素吸着材は、ホウ素含有排水とpH7〜10で接触させることにより、ホウ素含有排水中のホウ素を効率的に吸着除去することができる。本発明のホウ素吸着材によるホウ素の吸着量は、pH条件によって大きく変化するため、pH7〜10の範囲で処理するが、pH8〜9で吸着処理を行うことが更に好ましい。
【0019】
具体的なホウ素含有排水の処理方法としては、例えば、充填塔に本発明のホウ素吸着材を充填し、この充填塔にホウ素含有排水を通水して処理する方法がある。この場合、充填するホウ素吸着材は、水流により塔外へ流出することがないような粒度に調整することが好ましい。また、充填塔への通水は、上向流であっても下向流であっても良い。
【0020】
ホウ素含有排水を処理した後のホウ素を吸着したホウ素吸着材は、酸水溶液又はアルカリ水溶液を通水することによって、ホウ素を脱着させて簡単に再生することができる。この脱着処理において、ホウ素吸着材に吸着したホウ素を十分に脱着させるためには、脱着液である酸水溶液又はアルカリ水溶液を、ホウ素吸着材体積量に対して3〜5倍量通水することが望ましい。また、再生されたホウ素吸着材は、ホウ素の吸着性能が殆ど低下しないため、ホウ素含有排水の処理に再利用することができる。
【0021】
ホウ素含有排水の処理と共にホウ素吸着材の再生を行う場合、1つの充填塔で吸着と脱着とを交互に行うようにしても良いし、複数の充填塔を並設して、その一部の充填塔で排水からのホウ素の吸着処理を行い、他の充填塔で吸着したホウ素の脱着処理を行うようにしても良い。後者の場合には、ホウ素含有排水を通水する充填塔と、脱着液である酸水溶液又はアルカリ水溶液を通水する充填塔とを切り換えることにより、連続通水処理が可能となる。
【実施例】
【0022】
[実施例1〜3]
水酸化セリウム(試薬、セリウム品位60%)142gと、水酸化ランタン(試薬、ランタン品位75%)13.5gと、シリカゾル(ケイ素品位20%)25gとを秤量し、これら全てを転動造粒機に挿入して造粒し、粒径0.5〜1.5mm(平均粒径1.0mm)の球状の造粒物を得た。これを大気乾燥機により50℃で20時間乾燥した後、大気中において200℃で熱処理して、ホウ素吸着材を製造した。得られたホウ素吸着材を分析したところ、その元素組成は、Ce:La:Si=85:10:5であった。
【0023】
得られたホウ素吸着材は、0.3mol/lの水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬して、水酸化ナトリウム処理を行った。ホウ素濃度100mg/lのホウ素含有排水を50ml採取し、上記水酸化ナトリウム処理後のホウ素吸着材を下記表1に示す量だけ添加した。ホウ素吸着材の添加後76時間振盪撹拌し、固液分離を行い、得られた処理水中のホウ素濃度を測定した。この測定結果からホウ素吸着容量を求め、得られた結果を下記表1に併せて示した。
【0024】
【表1】

【0025】
[実施例4〜6]
水酸化セリウム(試薬、セリウム品位60%)142gと、水酸化イットリウム(試薬、イットリウム品位65%)15.5gと、シリカゾル(ケイ素品位20%)25gとを秤量し、これら全てを転動造粒機に挿入して造粒し、粒径0.5〜1.5mm(平均粒径1.0mm)の球状の造粒物を得た。この造粒物を大気乾燥機により50℃で20時間乾燥した後、大気中において200℃で熱処理して、ホウ素吸着材を製造した。得られたホウ素吸着材を分析したところ、その元素組成は、Ce:Y:Si=85:10:5であった。
【0026】
得られたホウ素吸着材は、0.3mol/lの水酸化ナトリウム液に1時間浸漬し、水酸化ナトリウム処理を行った。ホウ素濃度100mg/lのホウ素含有排水を50ml採取し、上記水酸化ナトリウム処理後のホウ素吸着材を下記表2に示す量だけ添加した。ホウ素吸着材の添加後76時間振盪撹拌し、固液分離を行い、得られた処理水中のホウ素濃度を測定した。この測定結果からホウ素吸着容量を求め、得られた結果を下記表2に併せて示した。
【0027】
【表2】

【0028】
[比較例1〜3]
上記実施例1〜6で用いたものと同じホウ素濃度100mg/lのホウ素含有排水50mlに、市販品のホウ素選択性キレート樹脂(三菱化学(株)製、登録商標:ダイヤイオン CRB02)を、下記表3に示す量だけ添加した。その後、実施例1〜6と同じ方法で処理し、同様にホウ素吸着容量を求め、得られた結果を下記表3に併せて示した。
【0029】
【表3】

【0030】
[比較例4〜6]
乾燥後に450℃で熱処理した以外は上記実施例1〜3と同様にして、ホウ素吸着材を製造した。このホウ素吸着材を、実施例1〜6で用いたものと同じホウ素濃度100mg/lのホウ素含有排水50mlに、下記表3に示す量だけ添加した。その後、実施例1〜6と同じ方法で処理し、同様にホウ素吸着容量を求め、得られた結果を下記表4に併せて示した。
【0031】
【表4】

【0032】
上記実施例1〜6及び比較例1〜6で得られた表1〜4の結果から、ホウ素吸着等温線(処理水中のホウ素濃度とホウ素吸着容量の関係)を作成し、その結果を図1にまとめて示す。この図1から分るように、本発明の実施例1〜6によるホウ素吸着材は、市販品のホウ素選択性キレート樹脂を用いた比較例1〜3、熱処理温度を450℃とした比較例4〜6に比べて、高い吸着容量が得られた。
【0033】
[実施例7]
上記実施例1と同様に製造した本発明のホウ素吸着材30mlと、比較例として市販品のホウ素選択性キレート樹脂(三菱化学(株)製、登録商標:ダイヤイオン CRB02)30mlとを、それぞれカラムに充填して、ホウ素濃度30mg/lのホウ素含有水を通水した。その際、空間速度(吸着材1リットル当たりの通水速度)を10に設定し、通水倍率(充填粒子容量当たりの通水容量の倍率)を変化させて処理した。
【0034】
上記処理で得られた通水倍率と処理液中のホウ素濃度の関係を図2に示す。この図2から分るように、本発明のホウ素吸着材(実施例7)は、市販品のホウ素選択性キレート樹脂(比較例7)に比べて、ホウ素をより効率的に除去することができた。
【0035】
[実施例8]
上記実施例1〜3の各ホウ素吸着材1gについて、濃度1mol/lの塩酸溶液100ml中に24時間放置する耐久試験を行った。その後、濾過を行い、濾液中のセリウム濃度を分析したところ、平均で0.2mg/lであった。
【0036】
比較のために、上記実施例1〜3と同様であるが、50℃で20時間の乾燥のみ行い、熱処理せずに製造した各ホウ素吸着材について、上記と同様に塩酸溶液中に24時間放置する耐久試験を行った。この比較例では、濾液中のセリウム濃度は平均で10.0mg/lであった。
【0037】
この結果から、乾燥のみで熱処理を行わずに製造したホウ素吸着材は、酸性溶液中にセリウムが溶出しやすいことが分った。一方、乾燥後に大気中において200℃で熱処理した本発明のホウ素吸着材は、セリウムが溶出しにくくなり、耐久性が改善していることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1〜6と比較例1〜6で得られた各ホウ素吸着材によるホウ素吸着等温線を示すグラフである。
【図2】実施例7と比較例7で得られた通水倍率と処理液ホウ素濃度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水中に含まれるホウ素を吸着するためのホウ素吸着材であって、セリウム水酸化物と、セリウム以外の少なくとも一種の希土類金属の水酸化物と、シリカとからなることを特徴とするホウ素吸着材。
【請求項2】
前記希土類金属水酸化物は、ランタン及びイットリウムから選ばれた少なくとも1種の水酸化物であることを特徴とする、請求項1に記載のホウ素吸着材。
【請求項3】
前記セリウム水酸化物と希土類金属水酸化物とシリカとの組成比は、元素組成で、セリウム50〜95重量%、ケイ素1〜5重量%、及び残部の希土類金属であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のホウ素吸着材。
【請求項4】
水酸化セリウムと、セリウム以外の少なくとも一種の希土類金属の水酸化物に、シリカゾルを添加して混合し、乾燥した後、大気中において100〜400℃で熱処理することを特徴とするホウ素吸着材の製造方法
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のホウ素吸着材を、水酸化ナトリウムで処理した後、ホウ素含有排水とpH7〜10で接触させることにより、ホウ素含有排水中のホウ素を吸着除去することを特徴とするホウ素含有排水の処理方法。
【請求項6】
前記ホウ素を吸着したホウ素吸着材を、酸又はアルカリ水溶液によりホウ素を脱着して再生することを特徴とする、請求項4に記載のホウ素含有排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−237168(P2007−237168A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27797(P2007−27797)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】