説明

ホウ素系木材保存剤

【課題】高濃度のホウ酸塩粉末を含み、長期間安定で適度の流動性を維持するペースト状の木材保存剤を低コストで実現する。
【解決手段】ホウ酸塩粉末と水の混合物に安定化剤として少量の水溶性高分子を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木材を腐朽菌、食材性甲虫、シロアリ等の木材劣化生物から保護するための、ホウ酸塩を有効成分とするペースト状木材保存剤に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は再生可能な優れた建築材料として高く評価されているが、腐朽や虫害などの生物劣化を受けやすい欠点がある。この欠点を克服する手段として、真空や加圧のような物理的手段によって乾燥した製材中に保存剤を含む溶液や分散液を強制的に注入する方法や、未乾燥の製材中に、保存剤の濃度差を利用して水溶性保存剤を拡散浸透させる方法などが実施されている。
【0003】
しかし、上記の保存処理は、処理設備を備えた工場で実施するもので、既設の建造物などを構成する木質部材には適用できない。
【0004】
既設の建造物を構成する木質部材を劣化生物から保護する方法としては、対象とする木部にドリルで孔をあけ、水溶性ホウ素化合物を埋め込む方法がある。埋め込んだ水溶性ホウ素化合物は、木材が吸湿し生物劣化を蒙りやすい状況になると、水分を媒体として木材組織中を拡散し、劣化生物を制御することが出来る。
【0005】
例をあげれば、八ホウ酸二ナトリウム(Na13)を1200℃前後の高温で溶融し、型に入れて直径数ミリから十数ミリの棒状に成形したものは、ボロンロッドとして市販されている。また、八ホウ酸二ナトリウムを高温でエチレングリコールやプロピレングリコールと縮合反応した粘性液を使い捨ての注入器に充填したものも市販されている。前者では、ロッドを注入孔に挿入し、後者では注入孔に粘性液を注入した後栓で入口を塞ぐ。
【0006】
これらの製品の性能は高く評価され、用途も拡大しているが、いずれの場合も製造コストが高いという欠点がある。また、グリコールとの縮合物では、流動性を確保するため、ホウ酸塩の含有率は、ホウ酸換算で40%程度しかない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、製造コストが安く、しかもホウ酸塩換算で40%以上のホウ酸塩を含有し、長期間にわたり適度の流動性と安定性を維持するホウ素系木材保存材の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホウ酸塩粉末、水、水溶性高分子を混合攪拌して均一なペーストにすることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペーストでは、水溶性高分子の作用により、水中に高濃度で分散するホウ酸塩粒子は凝集して水相と分離することがなく、スラリーの分散性、流動性は長期間保持される。
【0010】
本発明でいうホウ酸塩とは、ホウ素のオキソ酸とその塩を総称するが、特に、ホウ酸、ホウ砂、八ホウ酸二ナトリウム、およびこれらの混合物があげられる。八ホウ酸二ナトリウムは水によく溶解し、また湿気を含んだ木材組織中を拡散しやすい点で特に優れている。
【0011】
本発明は、所定比率のホウ酸塩粉末、水、水溶性高分子を混合攪拌して均一なスラリーを調整するが、場合によっては、始めに水溶性高分子を水に溶解し、この溶液にホウ酸塩粉末を加えて混合してもよい。また、溶液を安定化し、木材組織中でのホウ酸塩の拡散を促進する目的で少量の糖アルコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリアルキレングリコールなどを添加してもよい。
【0012】
本発明のスラリーを構成する成分の割合は、ホウ酸塩粉末40〜70部、水60〜30部、水溶性高分子0.01〜2部の範囲である。ホウ酸塩が上記割合より少ないと保存性能が低下し、また上記割合より多いと流動性が損なわれる。
【0013】
本発明のスラリーを構成する水溶性高分子は、文字通り水に溶ける高分子で、ホウ酸塩との適度の相互作用を有するカルボキシメチルセルロースや高分子量のポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース等があげられる。ポリビニルアルコールは、ホウ酸塩とキレート結合する傾向が強すぎるため不適等である。
【0014】
本発明のスラリーを構成する水溶性高分子の割合は、水とホウ酸塩の合計を100部とした場合、0.01〜2部が好ましい。0.01部より少ないと、スラリーの安定性が低下し、流動性も損なわれる。2部以上になると、スラリーが弾性を示すようになる。ただし、水溶性高分子の好ましい割合は、ポリエチレンオキサイドのように、分子量が大幅に変化しうる場合は、分子量によりかなり変動しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、高濃度のホウ酸塩を含みながら、ホウ酸塩粒子が安定して分散し、適度の流動性を長期間保持できるスラリーを、水とホウ酸塩粒子の混合物に少量の水溶性高分子を添加することで実現した。
【実施例1】
【0016】
市販のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC)を水に溶解し、0.4重量パーセントの水溶液を調製した。この水溶液とU.S.Borax社製の八ホウ酸二ナトリウム四水和物(商品名Timbor)を所定の割合で混合し、乳鉢に入れてペースト状に練りあげたものを、蓋付きのガラス瓶に入れ保管し、定期的に観察した。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から明らかなように、水溶性高分子物質のCMCを添加することにより、八ホウ酸二ナトリウム四水塩62.5重量パーセントを含むペーストは2ヶ月以上にわたり安定した分散性と流動性とを維持できた。水溶性高分子を添加しない比較例では、数日で八ホウ酸二ナトリウム四水塩の粒子は水相と完全に分離して沈降し、粒子同士が結合・固化して流動性は失われる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のペースト状木材保存剤は、高濃度のホウ酸塩(固形分)を含みながら長期間流動性を維持するので、木質材料の保存処理に効果的である。例えば、本発明のペーストを注入ノズル付きチューブに入れておけば、劣化の危険性のある木質部材にドリルに孔をあけ、この孔にノズルからペーストを注入・充満することにより、長期間にわたり該木質部材を生物劣化から保護できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40重量%以上、70重量%未満のホウ酸塩粉末と、2%以下の水溶性高分子と、水とを必須成分とする長期間安定なペースト状木材保存剤。
【請求項2】
請求項1においてホウ酸塩が実質的に八ホウ酸二ナトリウムであることを特徴とするペースト状木材保存剤。
【請求項3】
請求項1において水溶性高分子が実質的にカルボキシメチルセルロースであることを特徴とするペースト状木材保存剤。
【請求項4】
請求項1において水溶性高分子が実質的にポリエチレンオキサイドであることを特徴とするペースト状木材保存剤。

【公開番号】特開2006−248206(P2006−248206A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110301(P2005−110301)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504180398)有限会社ボロンテクノロジー (7)
【Fターム(参考)】