説明

ホスファチジン酸を含有する組成物

【課題】
腫瘍細胞の膜流動性を増加させ、それにより種々の細胞傷害性薬剤に対し該細胞が獲得した多剤耐性(multi−drug resistance;MDR)を一変させることを目的とする癌の治療のための手段の提供。更には離脱症候群の治療のための手段の提供。
【解決手段】
少なくとも約10%のホスファチジン酸(PA)を含有する脂質調製物を含有する薬学的組成物であって、該脂質調整物をホスホリパーゼDを用いた天然リン脂質調整物の酵素処理により得た薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質を基礎とした組成物と、離脱症候群または癌の治療における前記組成物の使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
離脱症候群は、薬物類、アルコール、煙草の常用からの更生期間、および閉経期の女性において生ずるような種々のホルモン水準の急激な減少からの回復期間に生じる可能性がある。発作、発汗、震顫、悪心、抑鬱、心拍数増加および血圧増加、並びにその他が症状として現れる。典型的には前述の常用は、「洗い流し(wash out)」期間により治療され、その期間に薬物の介在を伴なって、或いは薬物の介在を伴なわず、徐々に該常用性を除去するものである。この方法は苦痛を伴い、且つ長期に亘った短調な治療であることから、該治療の開始を思い止まってしまう志願者が非常に多い。それ故に、そのような困難な離脱期間を容易にし、ほとんどの合併症を生ずることなく人々を通常の生活に復帰させる解決方法が強く要望されている。
【0003】
大部分の離脱症候群に共通する基本的な生物化学的現象は、神経細胞膜の構成上および構造上の変化であり、これは膜の「流動性」の語により表される(例えば、非特許文献1乃至4を参照。)。
【0004】
これらの変化は、時として特定の天然調製物を投与することにより中和され、該離脱過程に関連した症状が減少する(例えば、非特許文献5及び6を参照。)。
【0005】
多剤耐性(multi−drug resisitance;MDR)もまた、該細胞膜の流動性における変化に関連している(例えば、非特許文献7を参照。)。MDRは、細胞傷害性薬剤の使用を伴なう癌治療、特に再発した癌の治療を無効にする主な原因である。
【0006】
ホスファチジン酸(PA)は、植物組織および動物組織中に見出された天然リン脂質である。大抵の場合、その含有量は、これらの供給源の何れにあっても総リン脂質量の5%を越えることはない。その結果、ヒトの消費に応じ得る脂質抽出物(例えば、大豆リン脂質)はPAに乏しいものである。経口的な消費または静脈内注射用の加工脂質混合物の他の供給源は、PAを含んでいない。これらは、AL721(Antonianら、Neurosci.Biobehav.Rev.11(1987)、399−413);BrosTM(Fidia Sp.A.AbanoTerme,イタリア)またはIntralipidTM(Vitrum Inc.,ストックホルム、スウェーデン)を含む。
【0007】
酵素ホスホリパーゼDを利用する酵素法によりリン脂質を加水分解し、PAを得る方法が知られている(例えば、非特許文献8を参照。)。しかしながら、天然リパーゼ調製物をPAにより強化するために、前述の方法は使用されていなかった。ホスファチジルコリン調製物を含有するリポソームに混合したPAが、毒性を低減し、抗真菌薬ハマイシン(Hamycin)の抗真菌活性を増強するということは知られていた。PAは強力な防御効果を有し、7日間の治療の後では、ハマイシン単独により治療したマウスと比較した場合、マウスの生存率は90%増加したことが示された(例えば、非特許文献9を参照。)。更に、PAを含有するリポソーム調製物は、アミノグルコシド系抗生物質によって惹起された腎毒性の症状を抑制することが示されたが、これは腎ホスファターゼ活性の回復が証明されたことによる(例えば、非特許文献10を参照。)。
【非特許文献1】Hannan,Am.Rev.Respir Dis.,140(1989)、1668−73.
【非特許文献2】Crews,Psychopharmacology,81(1983)、208−13.
【非特許文献3】Harris,Life Sci.,35(1984)、2601−8.
【非特許文献4】Heronら、Eur.J.Pharmacol.,83(1982)、253−261).
【非特許文献5】Heronら、Eur.J.Pharmacol.,83(1982)253−261.
【非特許文献6】Shinitzky、膜流動性の生理学、(1984)、VolI、Chapt.1.
【非特許文献7】Seydelら、Arch.Pharm.,327、601−610、1994.
【非特許文献8】Waite,M.Ed.ホスホリパーゼ類、Plenum Press,ニューヨーク、1987.
【非特許文献9】Moonis M.ら、J.Anti.Microb.Chemother.,31:569−579、1993.
【非特許文献10】Mingert−Leclercq、M.P.,ら、Biochem.Pharmacol.、40:489−497、1990.
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
用語解説
下記は、本明細書中で使用される一部の用語の意味を示す:
離脱症候群
長期間に亘り持続的に身体に暴露していた物質が、該身体から喪失した結果生じる症候群。前述の物質は、その個体により摂取される外因性物質であってもよく、また内因性物質の一つであってもよい。外因性物質は、例えば濫用される薬物(ヘコイン、コカイン、モルヒネおよびその他の薬物等);ある種の治療用薬物(例えば鎮静剤等);煙草、アルコールおよびその他の物質等を含むと言える。内因性物質は、ある種のホルモン類、特にある年齢でそのレベルの変化が見られるホルモンを含むと言える。典型的な例となる脱離症候群は、薬物、アルコール、煙草およびその他の外因性因子への常用からの更生途中にある常用者において発症する。もう一つの例は、閉経期の女性において発生するものであり、閉経中に生じるホルモンレベルの変化に起因する。
【0009】
離脱症状
離脱症候群に罹患する個体において出現する症状。例として、薬物濫用に付随する離脱症候群における発作、発汗、震顫および物質切望;閉経期の女性における顔面潮紅が挙げられる。
【0010】
PA強化脂質調製物(PA−E−LP)
その組成物の総脂質含有量のうち、少なくとも10%(w/w)のPA、好ましくは約10%より多い、典型的には約20%−75%の範囲内のPAを含有する脂質調製物。
【0011】
天然PA−E−LP
天然脂質調製物に由来するPA−E−LP。例えば植物由来若しくは動物組織由来のリン脂質調製物、またはその何れかの組合せである。前述の天然リン脂質調製物は、典型的に大豆、卵黄または動物の血清に由来するものが可能である。該天然PA−E−LPは、天然リン脂質調製物から、概して酵素法により製造される。天然PA−E−LPにおいて、主に、例えば0.1−10%の他の脂肪親和性物質等(例えばコレステロール、脂肪酸等)のリン脂質からなる脂質残留物が該調製物中に少量であれば含まれていてもよい。
【0012】
発明の包括的な説明
本発明に従って、天然PA−E−LPを酵素法により製造した。前述の天然PA−E−LPは、本発明の1つの側面を構成するものである。
【0013】
また、本発明に従って、PA−E−LP、特に天然PA−E−LPはヒトにおけるある症状の治療に有効である、ということも認められた。更に意外にも、本発明によって、PA−E−LP、特に天然PA−E−LPは、細胞膜の流動性の増加、離脱症候群のような膜流動性の変化に関連する症状または該変化に伴なう症状の抑制、またはMDR耐性癌細胞を感作することを目的とした治療において効果的であることが明らかになった。
【0014】
従って、本発明はその側面の1つにより、天然供給源に由来する強化脂質調製物であって、少なくとも約10%のPA、好ましくは少なくとも約20%のPA、最も望ましくは約50%のPAを含有する強化脂質調製物を提供する。典型的には、PAの濃度は、総脂質成分として75%を超過しないことが望ましい。
【0015】
前述および後述する濃度は「%」として示し、組成物全体の100重量単位当たりの成分の重量単位数(w/w)で示す。
【0016】
該天然PA−E−LPは、好ましくは天然リン酸調製物から、酵素ホスホリパーゼDを含有する合成供給源または天然供給源を用いて酵素処理することにより得る。該天然リン脂質調製物は、植物性オリジンであってもよく、動物性オリジンであってもよく、またはその組合せであってもよい。本発明の天然PA−E−LPを製造するために有用な天然リン脂質調製物の典型的な例は、大豆レクチン、卵黄および動物血清に由来するリン脂質である。ホスホリパーゼDの供給源の例は、ピーナッツ、典型的には粉砕したピーナッツであり、或いはそれに由来するホスホリパーゼDの画分である。ホスホリパーゼDまたはホスホリパーゼDの供給源を、少なくとも約10%、または好ましくは約25%、最も好ましくは約50%のリン脂質を加水分解するために十分な量で添加し、十分な時間に亘って反応させてPA−E−LPを得る。
【0017】
本発明のもう一つの側面により、PA−E−LPを活性成分として含有する薬学的組成物が提供される。特に好ましくは、活性成分として天然PA−E−LPを含有する前述の組成物である。例として、離脱症状を減少することを目的として使用する薬学的組成物;癌治療の観点から、癌細胞(特にMDR特性を獲得している癌細胞)の細胞傷害性薬剤に対する感受性を増加することを目的として使用する薬学的組成物等が挙げられる。
【0018】
また、本発明に従えば、ヒトの症状または疾患を治療する方法であって、かかる治療を必要とする患者に有効量のPA−E−LPを投与することを含む方法が提供される。
【0019】
「有効量」の語は、所望される治療効果を十分に得られる成分量として理解されるべきである。例えば、離脱症候群を治療する観点から、有効量は、永久的若しくは一時的な個体における離脱症状の緩和、離脱症状の強度の減弱若しくは前述の症状の発現頻度の減少の何れかの緩和、または前述の離脱症状の何れかのパラメータ特性における一般的な改善を生ずる量である。抗癌治療の場合における有効量は、腫瘍細胞の細胞傷害性薬剤に対する感受性の増強を生じる量であり、例えば腫瘍質量の大きさが減少することを指標に決定される。
【0020】
本発明の薬学的組成物は、典型的に経口投与に用いることが可能であるが、局所投与用または非経口投与用として製造することも可能である。経口投与用の該組成物には、種々の調味料、食用着色料等が含有されてもよい。更にまた、経口用の該組成物をカプセル(例えば腸溶コートゼラチンカプセル)に包入して使用することも可能である。
【0021】
非経口投与用の該組成物は、典型的には静脈内(I.V.)に注射されるであろう。そのような非経口組成物は、例えば、大豆マルチトリグリセリド類(multi−triglycerides)、鶏卵リン脂質、本発明に従い製造されたPA、グリセロールおよび蒸留水を含む。
【0022】
典型的な組成物は、ゲル状または軟膏状形態にあってもよく、従って、組成物を前述の物理的形態にすることでそれ自体知られる種々の添加剤(例えば・ケル化剤等)を含有することが可能である。
【0023】
該組成物は、多様なヒトの症状および疾患を治療するために使用できる。本発明の好ましい1態様は、離脱症候群の治療に関する。該治療により、個体の症状を永久に改善すること(例えば該離脱症状の消失若しくはその強度の減弱すること)、或いは発作時における前述の症状を一時的に消失若しくは減弱することが可能である。
【0024】
本発明に従って治療することの可能な離脱症候群には、閉経期の女性の治療(特に前述の女性を治療することによって閉経期の顔面潮紅の発症を減少することが可能);喫煙または薬物またはアルコール常用から更生する場合の離脱症候群の治療;等が含まれる。
【0025】
本発明のもう一つの好ましい態様は、癌の治療、特に多剤耐性MDRの獲得した癌に関する治療である。MDRの発現は、インビトロおよびインビボの両環境において細胞傷害性薬剤に継続して暴露されたことによる腫瘍細胞の反応である。この機序は、癌患者により発現された化学療法に対する耐性の原因であると考えられており、目下のところ癌治療における最も重大な問題の1つである。種々の細胞傷害性薬剤に対する腫瘍細胞の感受性は、膜を流動化するそれらの能力に相関することが明らかになっている。本発明の組成物で治療することにより、個体に存在する腫瘍細胞の膜の流動性を増加することが可能である。それにより種々の細胞傷害性薬剤に対してそれらが獲得した多剤耐性を逆転し、その結果、化学療法プログラムを継続することが可能になり、結果として治療を受けた個体の症状は改善される。
【0026】
添付図面に随時言及しながら、本発明について後述の例を用いて更に説明する。
【実施例】
【0027】
例1:PA混合物の製造
(a) 反応生成物の製造
図1は、本発明に従うPA混合物の製造方法のスキームを示す。そこに示されるように、出発物質は以下の物質である(例中に算出された量は1L混合物に必要な量である):
1.ホスホリパーゼDのオリジンとして150グラムの粒状の新鮮なピーナッツ、
2.大豆リン脂質のオリジンとして150グラムの顆粒化大豆レシチン、
3.1000mlにするためにH2Oを添加する。
【0028】
上述した出発物質を肉用ベンダーで混合してホモジナイズし、次に該混合物のpHを、乳酸カルシウム、ソルベート、ベンゾエート、アスコルビン酸、クエン酸および抗酸化剤(各々図中に記載した用量)を添加することによりpH5.3−5.4に調整した。次に該混合物を4時間、36−38℃で連続して混合することにより反応させ、その後、pHを、クエン酸および糖を図中に記載した用量で添加することにより、pH3.9に再度調整した。続いて該混合物を4℃で一晩保存した。
【0029】
(b) 脂質画分の分離
上記の方法により得た該反応混合物を、次に図2のスキーム図に示した方法により更に分離した。該図に示されるように、該反応生成物を、主要な3回の分離(図中には分離I、IIおよびIIIと表示する)に供した。ここで、一般的には、各々の分離において、最終的に脂質層が回収されるまで該混合物の水層を底部から除去し、回収された脂質層を冷凍庫(−18℃)に保存した。
【0030】
(C) 充填容器用の液状組成物の調製
上記で得られた液体混合物に幾つかの追加処理を行い、充填容器用に調製した。図3に示されるように、先ず上記の分離方法により得られた該液状混合物を解凍し、次に加熱、冷却、ホモジネーションおよび混合を行い、充填容器に適切な組成物を形成した。次に該容器を4℃で保存した。典型的に、該容器の大きさは該混合物が1.5リットル収容されるものである。
【0031】
(D) PAを含有する錠剤の調製
また、上述の例1(a)−1(c)および図1−3に示された方法により得られたPA混合物から錠剤を製造することも可能である。該PA混合物を含有する錠剤の製造方法は図4に示される。該図に示されるように、一般的に上記の方法で得られたリン脂質ペーストを先ず解凍し、次に加熱し、その混合物を約pH9の高pHに調整した。酢酸亜鉛を該混合物に添加するのに続いて、白色沈澱物が出現する。該沈澱物を洗浄し、乾燥した後に錠剤を形成した。
【0032】
(E) PA組成のプロフィール
PA組成のプロフィールを図5に示した。そこに示されるように、約24時間後、大豆リン脂質の80%より多い部分が加水分解を受け、PA強化調製物が得られた。
【0033】
例2:ヒトリンパ球膜の脂質粘度におけるホスファチジン酸(PA)の効果
10人の健常人から得たヒトリンパ球(3×106/ml)を、1mg/mlの異なる4種類のリン脂質調製物および1対照用調製物(リン酸緩衝塩水−PBS)と共にインキュベートした。
【0034】
図6に示した結果は、膜粘度の減少にPAが有効であることを示している(即ち、細胞膜流動性を増加した)。全ての時点において、上記PAまたはPCとの1:1混合物の効果は、試験された他の2調製物よりも非常に強いものであることが示された。
【0035】
例3:閉経期の女性に対する50%脂質混合物による治療
各々、顔面潮紅症候群に罹患する50歳以上の女性10人からなる3群を試験に用いた。群Aは、治療を行わずに日常生活を継続した。群Bは、50mlの水に分散した12gの50%PA脂質混合物(例1のように調製)を40日間、朝食後に服用した。群Cは、同様に100mlの水に分散した24gの50%PA強化脂質混合物を40日間服用した。群A、BおよびCに参加した各被験者に、試験の第3日目から第40日目までの1日当たりの顔面潮紅の回数および強度を記録するように依頼した。群Cの被験者は、該試験の終了後、1ヶ月に3日間これらのパラメータについて解答することを依頼した(群D)。その結果を以下の表1に示した:
【表1】

【0036】
例4:50%PA強化脂質混合物によるモルヒネ離脱症状の緩和
試験は、ハーロンら(Heronら、Eup.J.Pharmacol.,83(1982)、253−261)の概略に従い実施した。マウス20匹からなる2群に、1日2回の皮下注射により、各々、100mg/kgまでの塩水中のモルヒネHCl溶液(10mg/ml)を9日間、または塩水単独(対照群)を投与した。処理群を2小群に分け、各々6%脂質飼料を与えた。1群のマウスにはコーン油を、他群にはPA強化飼料(例1のように製造したPA調製物)を与えた。離脱症候群を、ナロキソン(2.5mg/kg)を注射(i.p.)することにより誘導し、続いて盲検形式で25分毎に記録した。
【0037】
以下の表2に示された結果は、PAはマウスにおける離脱症状を非常に強力に減少する効果を有することを示している。
【表2】

【0038】
例5:50%PA強化脂質混合物による喫煙離脱症状の緩和
1日当たり20−40本を喫煙する慢性的な喫煙者37人を、喫煙中止に関連する離脱症状における本発明のPA脂質混合物の効果を試験するための試験群とした。該試験に参加するための先行必要条件は:
(a) 喫煙を中止することに対する被験者の同意と;
(b) 外的補助なしで喫煙を中止することが不可能であると自認していることと;
である。
【0039】
始めに、試験のためのボランティアである被験者を、同等な2群に無作為に分けた:第1の群の被験者には50%PA混合物(上述の例1のように調製した)の1日当たりの投与量を与え、第2群(対照群)の被験者には非活性調製物の1日当たりの投与量を与えた。試験の開始時に被験者の数人が放棄し、並びに該試験は完了したが全く喫煙する割合の減少がなかった他の数人の被験者の結果を削除したので、残りの37被験者を以下の表3に示す通りに上述の2群に分けた:
【表3】

【0040】
被験者は、PA混合物または非活性混合物の何れかを1ヶ月間の期間に亘り服用した。
以下の6つのパラメータを該試験を通して調査した:
(a) 喫煙の重度の改善についてのパラメータ
(i) 1日当たりに喫煙した煙草の本数;
(ii) 起床と第1本目の煙草の喫煙との間の時間;および
(iii) 公共の場において喫煙を抑制することの困難度。
上記の3パラメータを試験の第0日、第7日および第21日に試験した。
【0041】
(b) 離脱症状の重症度を評価するためのパラメータ
(i) 不安;
(ii) 余分な食欲(extra appetite);および
(iii) 喫煙の要求。
【0042】
上述したパラメータを試験の第7日と第21日に試験した。また各被験者についての種々の血液パラメータ(T細胞数、B細胞数およびNK細胞数の完全なサブポピュレーション計数評価並びに細胞内サイトカイン類の評価を含む)を試験第0日および3週間の試験の最終日に評価した。
【0043】
全パラメータについて、0−4の評価で成績点を付した(幾つかの試験は、パラメータとして評点0は付さなかったので、最終的に、各々1−5の評価で現された)。
【0044】
ロジスティック曲線回帰分析を使用することにより、該試験における指標パラメータは、試験の最終日である第3週(第21日)に、被験者により喫煙される1日当たりの煙草の本数、および同日における同被験者により明示される喫煙に対する要求であることが決定された。比較により、該試験の第3週の最終日に、PA混合物により処置された被験者が、非活性混合物を服用した対照群の被験者に比較してより少ない喫煙量であったか否か、並びにまた、該試験の第3週の最終日において、上述の第1群の被験者は、同対照群の被験者に比較して喫煙を切望する気持ちがより減少しているか否かを評価するために行った。
【0045】
結果
スチューデント検定およびマン−ウイットニーU検定を用いた上記試験の結果の統計学的解析を以下に示した:
1. 図7に示す通り、該試験の第3週末日において1日当たりに喫煙された煙草の本数は、PA混合物を処置した群の被験者の方が、対照群の被験者に比較して有意に少なかった(α<0.05)。
【0046】
2. 独立した試験標本の性向は正規分布に従っておらず、また比較された2群の分散は等分散でなかったという事実から、統計解析はコルモゴロフ−マーノフ検定により行うべきであると示された。この検定に従って、図8に示されるような、PA混合物を与えられた群の被験者の該試験の3週間の最終日における喫煙要求は、対照群の被験者の喫煙要求よりも有意に小さいものであった(α<0.05)。
【0047】
例6:50%PA強化脂質混合物によるアルコール離脱症状の緩和
本試験のボランティアは、年齢25−65のアルコール常用者であり、彼らは度々「酩酊」する慢性的な「アルコール依存者(alcoholics)」と定義された。上記の「アルコール依存者」および「酩酊」の2語は、世界保健機関により1951年に提供され今日まで使用される定義(各々、Jelinek,E.M.,「アルコール依存症の疾患概念」New Haven、Hill House Press、1960およびHamburg S.,「家族および地域社会におけるアルコール離脱」(In Hebrew)、1976)に従って使用している。
【0048】
以下のパラメータを試験の開始時および終了時に検査する:
(a)独立パラメータ
(i)個人的データ;
(ii)人口統計学的、社会経済的および保健学的データ;および
(iii)常用癖の特徴(量的および質的)。
【0049】
適切なボランティアは、アルコールを常用し(これはテーブルワインまたはビールといったものではない)、並びに飲酒から離脱する意志を明示しているものである。被験者は就業者であり、他の慢性疾患または該常用に伴なう神経疾患若しくは精神疾患に罹患していない者である。加えて、被験者は、薬物を常用せず、規則正しく精神医学的な薬剤を服用していない。更に、全被験者は、支えとなる家族を有し、また、該家族が試験中に該被験者が被る変化について質問を受けることが可能である者である。
【0050】
(b)従属パラメータ
(i)生理学的変化:脈拍、血圧、振動に対する感受性、温和な行動を実 行する能力、カロリー摂取(アルコールに由来しない)の全体像:
(ii)以下のパラメータに従った機能レベル:
(a)家庭内および社会的機能時間;
(b)被験者が家庭および社会から断絶している時間;
(c)金銭的問題への対処;
(d)家庭内分担における「パートナーシップ」の質。
【0051】
(iii)有効な評価を、治療前と治療後のアンケートを用いて実行する。
【0052】
該試験の被験者を2群に分ける:
(1)本発明のPA混合物を含有するシロップを1日2回1月間服用する被験者;
(2)PA混合物を含まない該シロップを1日2回1月間服用する被験者。
【0053】
上記グループ(a)(処置群)の被験者の従属パラメータおよび独立パラメータと、上記グループ(b)(対照群)の被験者の同様なパラメータとを、試験開始時および試験終了時(1月後)に比較する。
【0054】
例7:ホスファチジン酸(PA)および大豆リン脂質類(SP)を用いて処理をした薬剤耐性細胞系の膜流動性
耐性細胞系を、ラムら(Ramuら、Cancer Chemother.Pharmacol.,515、367−394、1978)の記述に従い発現した。P388マウス白血病細胞(Ramu A.ら、Cancer Res.,43、5533−7、1983)を、10-6Mの濃度まで、メトトレキサート(MET)およびドキソルビシン(DOX)の量を増加しながら用いて培養した。得られた細胞系を、夫々P388/METおよびP388/DOXとした。
【0055】
次に、上記の耐性細胞系の細胞を以下の脂質を分散した塩水で1時間室温で処理した:大豆リン脂質(SP);ホスホリパーゼD処理により>90%のホスファチジン酸(PA)に変換した大豆リン脂質、並びにこれらの調製物の1:1混合物(W/W)。結果(以下の表4に示す)は、1,3,5ジフェニルヘキサトリエン(DPH)の蛍光偏光値(P)またはシニツキーら(Shinitzkiら、Biochem.Biophys.Acta.509、188−193、1978)に記述されるリニアスケール2P/(0.46−P)により表す。
【表4】

【0056】
この結果は、従来示されていたように、非処理細胞に比較して薬剤耐性獲得P388細胞はより固定化された膜を獲得していることを明確に示している。癌患者の食餌療法に関連した流動化脂質に対する短時間(1時間)の暴露において、spと組合わせた場合には、微弱な効果しか得られなかったのに対し、本発明に従ってPAおよびPA÷SPを組合わせて該細胞を処理した場合はより効果的であり、且つ薬剤に順応させていない非薬剤耐性細胞の膜流動性レベルにまで殆ど回復した。
【0057】
例8: P388細胞の増殖率におけるPAまたはSP処理の効果
P388/METおよびP388/DOX耐性細胞系を上記例7と同様に発現させた。非処理P388細胞およびこれらの耐性細胞系を以下の表5に示す通り、10-8MのMETまたはDOXの存在下および不在下で培養した。上記の細胞の増殖率をモニターし、表に示した。
【表5】

【0058】
この例に明確に示された通り、順応化した薬剤耐性P388細胞のPAまたはPA−SP1:1による処理は、それらのMETまたはDOXの何れかに対する感受性を回復したのに対し、他方、SP単独処理は、該細胞に対して弱い効果を示すのみであった。また、P388/METに発現した耐性は、METではなくDOXに対しても応用できることに注目されたい。同様に、PAまたはPA+SPを処理したことによる、P388/MET細胞またはP388/DOX細胞における薬剤感受性の回復は、非特異的なものであり、両薬剤に対して共に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のPA強化混合物の製造方法を示すスキーム図。該図に示されるように、出発物質(ピーナッツ、大豆レシチンおよび水)の割合は各々1:1:7.5である。
【図2】図1で示した反応により製造したPA混合物の脂質層の分離を示すスキーム図。
【図3】図1及び2に記述したように製造した本発明のPA混合物を充填容器に対して適切な形態に製造する方法を示すスキーム図。
【図4】図1及び2に記述した通りに製造した該PA混合物から錠剤を製造する方法を示したスキーム図。
【図5】大豆リン脂質を酵素加水分解したときのPA形成プロフィール(結果は、組成物全体からの%として表す)。
【図6】ヒトリンパ球の脂質粘度におけるPAの効果を示す。結果は、洗浄したリンパ球の膜におけるDPHの蛍光偏光度(P)として表し、更に脂質粘度のリニアスケール(linear scale)である2P/(0.46−P)に変換した(ShinitzkyおよびBarenholtz、Biochim,Biophys.Acta.515(1978)、367−394)。[PC−卵黄由来のホスファチジルコリン;AL721−トリグリセリド類、PCおよび卵黄由来のホスファチジルエタノールアミノ(PE)の混合物;PA−大豆のリン脂質の酵素反応により得たホスファチジン酸;PA+鶏卵PC1:1−PAとPCの均等な比率(重量による)の混合物]
【図7】本発明のPA混合物の喫煙離脱症候群における作用を評価する試験に参加した被験者により喫煙された煙草の平均数を示したグラフ(例5)。該試験開始後の複数の異なる時点で、治療群の被験者(本発明のPA混合物により治療した)により1日当たり喫煙された煙草の本数と、対照群の被験者(非活性混合物を投与した)により喫煙された煙草の本数とを比較した。煙草の本数は、例5に説明されたように算出した平均値スコアにより表示される。
【図8】本発明のPA混合物の喫煙脱離症候群における作用を評価する試験に参加した被験者の喫煙に対する要求を示すグラフ(例5)。治療群の被験者(本発明のPA混合物による連日投与により治療した)の喫煙に対する要求と、対象群の被験者(非活性混合物の連日投与した)の喫煙に対する要求とを、試験開始後の複数の異なる時点において比較した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞の膜流動性を増加させ、それにより種々の細胞傷害性薬剤に対し該細胞が獲得した多剤耐性を一変させるための癌治療のための薬学的組成物であって、活性成分として、少なくとも10%(w/w)のホスファチジン酸(PA)を含む脂質調製物を含有する薬学的組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の薬学的組成物であって、活性成分として、少なくとも20%(w/w)のPAを含む脂質調製物を含有する薬学的組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の薬学的組成物であって、活性成分として、少なくとも50%(w/w)のPAを含む脂質調製物を含有する薬学的組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか1項に記載の薬学的組成物であって、該脂質調製物をホスホリパーゼDを用いた天然リン脂質調製物の酵素処理により得た薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−143744(P2006−143744A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376178(P2005−376178)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【分割の表示】特願平9−539715の分割
【原出願日】平成9年5月6日(1997.5.6)
【出願人】(500024702)モダス・バイオロジカル・メンブランズ・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】