説明

ホタテガイ乾燥貝柱の生産方法

【課題】 調味乾燥したホタテガイ(帆立貝)の乾燥貝柱を生産するに当り、製品の歩留まりを向上させ、かつ旨味及び光沢(てり)が改善された高品質な製品を生産する方法を提供する。
【解決手段】 ホタテガイの貝柱を、焙乾した後にあん蒸を行う方法により乾燥貝柱を製造するに当たり、焙乾工程を経た貝柱を該工程後の任意の段階で、焙乾工程でホタテ貝柱から発生した焙乾ドリップに浸漬することにより、製品の歩留まりを大幅に向上させ、かつ旨味及び光沢(てり)が優れた高品質な製品を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホタテガイ(帆立貝)の貝柱を用いて「白干し」などの乾燥貝柱を良好な歩留まりで生産する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホタテガイは、古くから、その貝柱が刺身などの生食用と、「白干し」で代表される乾燥貝柱として食用に供せられている。
【0003】
従来、かかるホタテガイの白干しなどの乾燥貝柱は、例えば、特開平11−42051号公報(特許文献1)、特開2005−137340号公報(特許文献2)などに記載されているように、原貝洗浄→一番煮(水煮)→貝柱摘出→二番煮(塩水煮)→焙乾(通風乾燥)→あん蒸(乾燥)→選別・計量・包装の各工程を経て生産されるのが一般的である。しかし、このような従来の方法による場合は、歩留まりが低く、これが生産コスト高につながることから、歩留まりの向上が求められている。また、その旨味や光沢(照り)などについても、さらなる向上が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開平11−42051号公報
【特許文献2】 特開2005−137340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述のようなホタテガイの乾燥貝柱の製品歩留まりを向上させるとともに、味覚が各段に向上し、かつ製品表面の光沢(てり)も良好な乾燥貝柱を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を続けた結果、ホタテガイの白干しなど乾燥貝柱の製造における焙乾工程で貝柱から出るドリップ(以下「焙乾ドリップ」という)を巧みに利用することによって、歩留まりを向上させ、しかも、味覚や表面光沢も大幅に改善することができるという知見を得て、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下のような生産方法が提供される。
(1)ホタテガイの貝柱を、焙乾した後にあん蒸を行う方法により乾燥貝柱を製造するに当たり、焙乾工程を経た貝柱を、該工程後の任意の段階で、焙乾工程でホタテガイ貝柱から発生したドリップに浸漬することを特徴とするホタテガイ乾燥貝柱の生産方法
(2)焙乾工程において、 温度110〜250℃の過熱水蒸気により3〜30分間焙乾を行うことによって、貝柱重量が焙乾前の1/5〜4/5(2/10〜9/10)となる程度まで減少するように焙乾を行うことを特徴とする上記(1)に記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
(3)原料の貝柱が、生鮮貝から一番煮などの加熱脱殻により得られた生鮮貝柱又は冷凍された貝柱である上記(1)〜(2)のいずれかに記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
(4)貝柱を、NaCl濃度0.5〜10(重量)%でかつ温度−5〜10℃の食塩水中に1時間以上、好ましくは4時間以上浸漬した後、二番煮を行うことなく、過熱水蒸気にて焙乾し、次いで、あん蒸を行った後、焙乾ドリップへの浸漬を行うことを特徴とする上記(3)に記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
(5)貝柱を、NaCl濃度0.5〜10(重量)%の食塩水により二番煮を行った後、過熱水蒸気にて焙乾し、次いで、あん蒸を行い、引き続き、焙乾ドリップへの浸漬を行うことを特徴とする上記(3)に記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
(6)焙乾ドリップの固形分濃度が5〜15(重量%)である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
【発明の効果】
【0008】
以上の如き本発明方法によれば、焙乾ドリップによる浸漬処理を行わない従来の方法に比べ、歩留まりが大幅に向上し、かつ製品中にホタテガイ貝柱の旨味成分が含まれた、食味の改善された製品が得られるという利点がある。また、ドリップ処理なしに生産されたものに比べ、製品に光沢(てり)が良好であり、外観においても優れた、高品質の乾燥貝柱製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】は本発明による乾燥貝柱(白干し)生産方法と他の方法との歩留まりを調べた結果を対比して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<原料となるホタテガイ貝柱>
本発明方法において原料となるホタテガイ(帆立貝)の貝柱としては、殻付きの生鮮原貝を従来の一番煮(水煮)法、あるいは、本発明者が特開2006−280348号で提案した過熱水蒸気による方法などで開殻させ、摘出してウロ、ヒモなどの部分を除去した貝柱が使用される。この貝柱は、必要に応じて、摘出後、水晒し処理を行ってもよい。殻つきの原貝から貝柱を摘出する方法としては、手作業など貝柱を摘出する方法、一番煮(水煮)又は水蒸気処理を行って開殻させ貝柱を摘出する方法などが適宜採用される。過熱水蒸気を使用する方法は、凍結原貝を効率的に開殻・脱殻することが可能であり、生鮮原貝は勿論、凍結原貝からでも貝柱を得ることができるので、本発明においても有効に採用することができる。また、本発明では、生鮮原貝から手作業などで貝柱を取り出し、そのまま凍結した「玉冷」と呼ばれる凍結貝柱も使用可能である。
一番煮の条件としては、殻つきの原貝を約100℃の水中で2〜5分間程度煮るのが、歩留まりの観点から好ましい。
【0011】
<二番煮>
一番煮、水蒸気処理などを経てホタテガイの原貝を開殻し摘出された貝柱は、必要により水晒し処理(水洗)を行った後、引き続き、食塩含有水中で煮る二番煮工程に供給されるのが一般的である。二番煮液は、NaCl濃度が0.5重量%〜飽和濃度、好ましくは1.0〜10.0重量%、の食塩水を使用し、70〜100℃の温度で5〜20分間程度処理するのが適当である。この二番煮液には食塩のほかに塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属塩を含んでもよい。また、通常の食塩水に代えてNaCl濃度が上記範囲内にある海洋深層水、海水、アルカリ水などを使用することもできる。
【0012】
<二番煮に代わるNaCl含有水溶液への浸漬処理>
本発明では、ホタテガイの貝柱を、必要により水洗を行った後、二番煮を行う代わりに、NaCl濃度が0.5重量%〜飽和濃度、好ましくは1.0〜10.0重量%で、かつ、温度が−5〜40℃、好ましくは−1〜10℃、の水溶液(例えば、食塩水)中に1時間以上常低温で浸漬することにより塩味を付与することにより、二番煮を省略することができ、二番煮に要するエネルギーコストを低減させ、かつ旨味を向上させることができる。
【0013】
二番煮あるいは上記の常低温浸漬処理に用いる水溶液のNaCl濃度は、既に述べたように0.5重量%〜飽和濃度、好ましくは1.0〜10.0重量%とする。この範囲より低いと、製品の白干しに必要な塩味が不足するだけでなく、次の焙乾によって貝柱の水分率を必要程度まで低減させることが困難となる。一方、浸漬液の温度が上記範囲を超えると、浸漬中に貝柱中の旨味成分が抜け出すおそれが生じるため、好ましくない。
なお、乾燥貝柱の用途によっては、この浸漬処理に供給する貝柱を予め複数の小片に分割(切り分け)し、その状態で浸漬処理を行ってもよく、その場合は、浸漬処理時間を短縮することができる。上記水溶液としては、NaCl濃度が上記範囲内にあ海洋深層水、海水、アルカリ水なども使用することができる。
この際、1気圧を超えるように加圧した雰囲気下で浸漬処理を行うのが好ましく、かかる加圧下での浸漬処理を採用することによって、処理時間を大幅に短縮することが可能である。特に好ましい圧力は1.5〜3気圧である。
【0014】
凍結状態にあるホタテガイの凍結貝柱(例えば玉冷)を用いる場合は、NaCl濃度が0.5〜10重量%(好ましくは1.0〜10.0重量%)で温度が−5〜10℃の範囲内の水溶液からなる解凍液を使用し、これに浸漬して解凍すると同時に塩味付けを行うのが好ましい。凍結貝柱をこの温度範囲で解凍すると、貝柱中の旨味成分であるATP(アデノシン三リン酸)関連物質の分解を抑えつつ円滑に解凍することができる。
【0015】
二番煮に代わる上記の浸漬時間は、通常、1時間以上あれば十分であり、解凍と同時に塩味付与する場合は、通常、4〜24時間浸漬するのがよい。この浸漬によって、凍結している貝柱が解凍されると同時に適度の塩味が付与される。
なお、一番煮貝柱などの加熱脱殻を行った貝柱については、すでに加熱変性しているので、ATP関連物質の分解は進行しない。
【0016】
<焙乾>
本発明方法では、上記のような特定条件にて上記NaCl含有水溶液濃度で二番煮又は浸漬処理をした貝柱に対して、次に焙乾を実施する。焙乾は通常の方法でもよいが、過熱水蒸気で焙乾するのが好ましい。具体的には、貝柱を過熱水蒸気焙乾装置内へ供給して貝柱中の水分活性が0.9以下まで水分を除去するのが好適である。水分活性測定はRotronic社製測定装置(HygroPalm)を用いるのが適当である。この過熱水蒸気焙乾によって、貝柱重量が焙乾前の1/5〜4/5(2/10〜9/10)となる程度まで減少させるのが好ましい。
【0017】
この過熱水蒸気焙乾では、温度が110〜250℃、好ましくは120〜180℃の過熱水蒸気で、3〜30分間加熱するのが適当である。白干しの表面成分を保持し、表面の艶(光沢)を出すために、過熱水蒸気による焙乾は1回だけでよいが、何回かに分けて行ってもよく、例えば、5分×4回実施してもよい。ただし、焙乾工程は1日だけでよい。いずれの場合も、あん蒸工程に入る前に貝重量が1/5〜4/5(2/10〜9/10)になるように1回又は複数回焙乾を実施する。
なお、この過熱水蒸気による焙乾を行うに当り、被処理貝柱を複数の小片に分割して焙乾しても差しつかえない。なお、焙乾工程における過熱水蒸気処理の具体的条件は、本発明者が先に提案した特開2005−137340号に記載した条件が好ましい。
【0018】
過熱水蒸気による焙乾では、焙乾により発生するドリップの量が多く、かつドリップの成分も良好なので、本発明を実施する上で好適なドリップを採取することができる。ただし、通常の通風乾燥による焙乾を行っても差しつかえない。
焙乾ドリップ採取の方法としては、例えば、焙乾装置の下部に受皿を設けて貝柱から滴下するドルップを受皿にためる方法、焙乾装置の下部に樋を設けて滴下するドリップを装置外へ導出し、ビンなどの適当な容器にためる方法などが採用される。
本発明において使用する焙乾ドリップの国形分濃度は5〜15(重量%)が好ましい。したがって、焙乾工程で採取したドリップの濃度がこの範囲外のときは、濃縮または希釈によりこの濃度に調整することが推奨される。
【0019】
<焙乾ドリップへの浸漬処理>
本発明では、上記の焙乾工程で発生したドリップ(焙乾ドリップ)を用いて、焙乾後のホタテガイの貝柱をこれに浸漬し、該貝柱中に焙乾ドリップを十分含浸させる。具体的な処理の方法としては、まず、焙乾工程でドリップを採取し、これに焙乾工程後の任意の段階、例えば、焙乾工程とあん蒸工程との間、あん蒸工程の途中、あるいは、あん蒸工程の後に、貝柱を焙乾ドリップ中に浸漬する。
本発明では、焙乾ドリップとして別の貝柱の焙乾工程で生じたドリップを使用してもよく、その貝柱の焙乾工程で生じたドリップを使用してもよく、また、両者を併用してもよい。また、焙乾ドリップを凍結乾燥などでいったん粉粒体とし、それを水に再溶解して使用してもよい。
【0020】
浸漬の時間は1〜3時間が適当であり、浸漬温度は常温でも良いが、0〜15℃が好ましい。浸漬を加圧下に行うこともでき、例えばオートクレーブなどの中でこのドリップ浸漬処理も1気圧を超える加圧下で行ってもよい。このように加圧下で浸漬すると貝柱内部への浸透が促進され浸漬時間の短縮を図ることができる。かくして、焙乾ドリップに貝柱に浸漬することにより、乾燥貝柱の歩留まりが向上する。
ちなみに、本発明者らの研究によれば、ドリップ浸漬による全糖量の増大効果については、焙乾終了後にドリップ浸漬するだけで約1.8倍となり、白干し1g(乾物)に対して8%の向上がみられた。また、タンパク質についても、ドリップ浸漬ではコントロールに比べ10%程度の成分増が見られた。
さらに、焙乾ドリップへの浸漬により、乾燥貝柱(白干し)の旨み及び光沢(てり)を向上させることができる。すなわち、焙乾工程でホタテガイ貝柱から出たドリップ中には各種のアミノ酸や糖分などの旨味成分が多く含まれるため、浸漬処理によって、貝柱にホタテガイのこれらの成分を再吸収させて、乾燥貝柱の食味性を向上させることができる。また、焙乾ドリップにはグリシン、アラニン等のアミノ酸類やグリコーゲン等の糖類が多く含まれるため、これで浸漬処理した貝柱は表面の光沢(てり)がよくなるという効果もある。
この焙乾ドリップ浸漬加工は、2回以上実施してもよく、例えば焙乾工程後とあん蒸工程後でそれぞれ実施してもよい。
【0021】
<あん蒸>
上記のように焙乾した貝柱は、引き続き、温湿度が調節された空間内であん蒸が行われる。このあん蒸では、温度及び時間の条件を選定することによって製品の白干しの色調をコントロールすることができる。本発明者は先に特開2009−5791号において、二番煮を行った貝柱について好適な色調を実現するあん蒸の方法を提案し、また、特願2009−142727号において、二番煮を行わずに焙乾しい貝柱をあん蒸する場合に方法を述べたが、それらのあん蒸方法は本発明でも同様に適用可能である。
このあん蒸方法では、例えば過熱水蒸気などで焙乾した貝柱を、あん蒸装置(恒温恒湿槽)内のネット上に並べ、装置内へ温度及び湿度を調整した空気を循環させるが、この際、温度・湿度を以下のようにコントロールする。
【0022】
本発明では、あん蒸工程において、処理雰囲気を、当初から5〜50℃でかつ20〜80%RHに調整するか、又は、当初は室温であん蒸を行い、開始から2〜7日後に、雰囲気を5〜70℃で20〜80%RHに調整することが好適である。
【0023】
焙乾した貝柱のあん蒸工程では、これまで天日・通風乾燥が主として行われているが、上述のように、槽内の温湿度を積極的にコントロールできる恒温恒湿機や恒温恒湿室を使用した温湿度調整あん蒸を行う。後述する実施例に示すように、この工程で意図的に雰囲気の温湿度調整をすることにより非常に高く評価されるアメ色(a値2.0付近)の製品が得られる。
【0024】
あん蒸の具体的条件としては、例えば、
(a)当初から温度5〜50℃、相対湿度20〜80%RHに調整した雰囲気中で実施する方法、あるいは、
(b)当初は室温で行い、開始から2〜7日後に、雰囲気を温度5〜70℃、相対湿度20〜80%RHに調製して実施する方法、
のいずれかが採用される。
【0025】
上記のあん蒸工程により貝柱の水分率が16(重量)%以下になっている場合は、それを製品とするが、水分がそれより多い場合は、引き続き、水分率が16%になるまで再度のあん蒸を繰り返す。すなわち、過熱水蒸気による焙乾を行う場合、焙乾は1回限りでもよいが、上記のあん蒸は、上記の温湿度条件コントロールを1セットとして2回以上繰り返し行ってもよい。特に、1回のあん蒸では貝柱の水分率が16重量%以下まで低下しない場合には、2回以上行うことが望ましい。あん蒸工程中の雑菌繁殖を抑える目的であん蒸時にUV(紫外線)照射を行うことが推奨される。
【0026】
一般に、製品の色調の調整を念頭に置いた生産では、焙乾後に比較的高水分含量にすることがポイントになる。この場合、菌繁殖のリスクが高まるが、表面殺菌法としても有用性が知られている過熱水蒸気による焙乾が有効であり、特にこれとUV(紫外線)照射を組み合わせたあん蒸法が高品質白干しの生産法として好適である。
【0027】
ホタテガイ貝柱は、上記のごとき乾燥貝柱(白干し)の生産において過度の褐変を引き起こす可能性があるが、本発明では、上記の各工程と温湿度コントロール下でのあん蒸を組み合わせることで、製造期間を5〜10日程度と従来の35日〜40日間から1/4〜1/7に短縮するとともに、好ましい色調と呈味をもつ製品を生産することが可能になる。
なお、本発明では、このあん蒸を行う際も、焙乾したホタテガイ貝柱を複数の小片に分割して、あん蒸工程に供給するようにしても差しつかえない。
【0028】
なお、一般に、ホタテガイ貝柱の煮汁の濃縮液(ホタテエキス)を調製し、これで貝柱を処理することで味付けする方法が知られているが(特開平8−84574号公報参照)、この方法では、旨味付与が不十分となり、しかも、光沢(てり)の良好な乾燥貝柱の製品を得ることができない。ただし、本発明では、上記の焙煎ドリップ浸漬処理に加えて、二番煮液などを濃縮した液への浸漬処理を行っても差しつかえない。
【0029】
上述のごとき本発明によれば、製品の歩留まりが従来の方法によれば通常と比べて格段に向上する。なお、ここでいう「歩留まり」とは、原貝の重量に対する白干し製品の重量%で示される値である、従来の方法の歩留まりは通常3.0〜3.5重量%程度であるが、本発明によれば、これが4.0〜5.0重量%にまで上昇する。歩留まりの重量%で表示すると僅か1〜2重量%の上昇ではあるが、ホタテガイの白干しなどの乾燥貝柱は、もともと歩留まりが3重量%程度であるから、これが1重量%も上昇することは、増産率にして30%以上となり、生産性の大幅な改善となる。
【0030】
さらに、貝柱からドリップ中に抜け出たアミノ酸類や糖類の旨味成分が浸漬によって貝柱に戻されるので、旨味が大幅に向上する。また、製品が光沢(てり)のある外観となるので、商品価値の高い品質のすぐれた乾燥貝柱(白干し)を生産することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を詳述するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。なお、例中の%は特に断らない限り重量%を意味する。
【0032】
[実施例1]
北海道常呂漁業協同組合から購入したホタテガイ原貝を100℃で3分間一番煮を行った後、二番煮を行うことなく、焙乾を行った。焙乾では清本鐵工社製小型過熱水蒸気装置(K・SO−0935S)を用いて,150℃の過熱水蒸気(SHS)により上記貝柱を4分30秒間加熱した。焙乾は1回とし、引き続いてあん蒸を40〜60℃,40〜75%RHの範囲で製品の水分活性が0.65以下になるまで行った。水分活性測定は、Rotronic社製測定装置(Hygro Palm)を用いた。測定に当り、試料貝柱の15個のうち10個を無作為に選択して測定した。
【0033】
続いて、焙乾後の貝柱をあん蒸するに当り、あん蒸方法としては、干物用ネット上に室温放置(15〜20℃、RH約30%)する方法を採用し、貝柱水分が16%になるまで繰り返し行った。
【0034】
それぞれの貝柱を、SHSによる焙乾前に、固形分濃度の異なる4種類のSHS焙乾ドリップに1℃で20時間浸漬して貝柱にドリップを含浸させた後、上記の工程を経て製品とした。
【0035】
それぞれの歩留まりは以下の表1に示す通りであった。
比較のため、同じロットの原貝を用いて、同じ条件で一番煮を行った後、7%NaCl水溶液中で100℃にて14分間二番煮を行い、以後は上記と同様に焙乾とあん蒸を行って歩留まりを測定した。その結果を表1のコントロール欄に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
このようにして得られたホタテガイ貝柱の白干しを、それぞれ、男女計5名の官能検査により評価した。評価では、市販白干しに比べて、1(不良)、2(やや悪い)、3(普通)、4(やや良好)、5(非常に良好)に区分し、5名の平均を四捨五入して表示した。その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
[実施例2]
実施例1と同様の方法において、貝柱を浸漬する液体として、6%NaCl水溶液、二番煮後の煮汁を濃縮したエキス(SuperEX)と本発明による焙乾ドリップを用いた場合およびコントロールとして従来のごとく7%NaCl水溶液中で100℃にて14分間二番煮を行った場合について、歩留まりの測定を行った。その結果を図1に示す。
【0040】
以上の結果から、夲発明によれば、歩留まりが大幅に向上し、しかも、食味表面光沢が改善されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法によれば、高い歩留まりで良好な高品質のホタテガイ乾燥貝柱(特に白干し)を生産することが可能になるため、本発明は、漁業及び食品工業にとって有用な技術である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテガイの貝柱を、焙乾した後にあん蒸を行う方法により乾燥貝柱を製造するに当たり、焙乾工程を経た貝柱を、該工程後の任意の段階で、焙乾工程でホタテガイ貝柱から発生したドリップに浸漬することを特徴とするホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
【請求項2】
焙乾工程において、温度110〜250℃の過熱水蒸気により3〜30分間焙乾を行うことによって、貝柱重量が焙乾前の1/5〜4/5(2/10〜9/10)となる程度まで減少するように焙乾を行うことを特徴とする請求項1に記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
【請求項3】
原料の貝柱が、生鮮貝の加熱脱殻により得られた生鮮貝柱又は冷凍された貝柱である請求項1〜請求項2のいずれかに記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
【請求項4】
貝柱を、NaCl濃度0.5〜10(重量)%でかつ温度−5〜10℃の食塩水中に1時間以上浸漬した後、二番煮を行うことなく、過熱水蒸気にて焙乾し、次いで、あん蒸を行った後、焙乾ドリップへの浸漬を行うことを特徴とする請求項3に記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
【請求項5】
貝柱を、NaCl濃度0.5〜10(重量)%の食塩水で二番煮を行った後、過熱水蒸気にて焙乾し、次いで、あん蒸を行い、引き続き、焙乾ドリップへの浸漬を行うことを特徴とする請求項3に記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。
【請求項6】
焙乾ドリップの固形分濃度が5〜15(重量%)である請求項1〜請求項5のいずれかに記載のホタテガイ乾燥貝柱の生産方法。

【図1】
image rotate