説明

ホットバルーンカテーテル、治療装置及びその制御方法

【課題】生体に不要な熱損傷を与えることなく、体腔の必要な部位を加温しながらの拡張術を実現可能とする。
【解決手段】ホットバルーンカテーテルは、加温のためのレーザ光を導光する光ファイバと、光ファイバの先端部分において光ファイバの軸方向に対して垂直な方向へ前記レーザ光を反射する側方照射部とを有する光照射部と、二重構造バルーンとを有する。二重構造バルーンは、第1バルーンと、前記第1バルーンを内包するように設けられた第2バルーンとを有する。更に、ホットバルーンカテーテルは、第1バルーンの内部へ連通して第1の流体を注入するための第1ルーメンと、第1バルーンの外面と第2バルーンの内面により形成される空間における、カテーテルの近位端で当該空間に連通し、第2の流体を注入するための第2ルーメンと、上記空間におけるカテーテルの遠位端で当該空間と連通し、第2ルーメンより注入された第2の流体を回収するための第3ルーメンとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔の狭窄部を拡張するホットバルーンカテーテル、該ホットバルーンカテーテルを用いた治療装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば血管などの体腔に生じた狭窄部、特に心臓血管の動脈硬化などによる狭窄部を拡張する、所謂血管拡張術などにホットバルーンカテーテルが利用されている。一般に、血管拡張術などに利用されるホットバルーンカテーテルとして、先端部に膨張および収縮が可能なバルーンを備え、内側チューブ内に高周波通電用電極を一体的に組み込んだもの(RFバルーン)が、提案されている。また、高周波誘電加温の代わりにレーザ光を生体に照射して加温を行うレーザバルーンも提案されている。
【0003】
上述のようなホットバルーンカテーテルを用いた血管狭窄部の治療では、高周波誘電加温(またはレーザ光の照射による加温)により狭窄部を適当な温度で加温しながら拡張処置が施される。このような加温及び拡張では、血管中膜の弾性繊維の伸展を良好にし、また、血栓やその他の脂質を可塑化させながら、バルーンを加圧膨張させて機械的に血管やアテロームを押し潰し、血管壁を伸展させて狭窄部を拡張し、血流を改善させる。このように狭窄部を加温しながらバルーンを加圧膨張させることにより、加温なしで行われる血管拡張術(PCI)に比べて、低圧で狭窄部を拡張させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−056825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、RFバルーンでは、生体への安全性を確保するために、高周波出力が低く抑えられ、生体の内腔を拡張するための十分な加温が得られるまでに時間がかかってしまう。また、高周波加温では加温部位を制限することが難しく、広範囲に加温が実行されてしまい、広範囲に熱損傷が生じる可能性がある。また、冷却は単に加温を止める(高周波出力を停止する)ことでなされるため、冷却にも時間がかかり、拡張処置に要する時間が長くなり、患者に負担が強いられてしまう。
【0006】
また、レーザバルーンでは、レーザ光の照射位置により加温部位を制御することができる。しかしながら、レーザ光を生体の加温部位に照射して加温すると、そのレーザ光が生体の内部へと浸透し、加温部位が血管外まで到達することにより、正常な組織に熱損傷を与えてしまう可能性がある。また、レーザ光の照射位置がスポット的に加熱されるため、必要な範囲を加温するのに時間がかかる。更に、RFバルーンと同様、冷却は単に加温を止める(レーザ光照射を停止する)ことでなされるため、冷却にも時間がかかり、拡張処置に要する時間も長くなり、患者に負担が強いられてしまう。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、生体に不要な熱損傷を与えることなく、体腔の必要な部位を加温しながらの拡張術を実現可能とするホットバルーンカテーテル及びこれを用いた治療装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の一態様によるホットバルーンカテーテルは以下の構成を備える。すなわち、
体腔を加温しながら拡張するためのホットバルーンカテーテルであって、
加温のためのレーザ光を導光する光ファイバと、前記光ファイバの先端部分において前記光ファイバを伝わる前記レーザ光を側方へ反射する側方照射部とを有する光照射部と、
前記カテーテルの先端部に設けられ、第1バルーンと、前記第1バルーンを内包するように設けられた第2バルーンとを有する二重構造バルーンと、
前記第1バルーンの内部へ連通して第1の流体を注入するための第1ルーメンと、
前記第1バルーンの外面と前記第2バルーンの内面により形成される空間に、前記カテーテルの近位端で連通して当該空間に第2の流体を注入するための第2ルーメンと、
前記カテーテルの遠位端で前記空間と連通し、前記第2ルーメンより注入された第2の流体を回収するための第3ルーメンとを備える。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様による治療装置は以下の構成を備える。すなわち、
上述したホットバルーンカテーテルを用いて、体腔を加温し拡張する治療装置であって、
前記レーザ光を発生する光源と、
インデフレータにより前記第1ルーメンに前記第1の流体を注入することによって前記第1バルーンに加えられている圧力よりも大きい圧力を前記空間において維持しながら、前記第2の流体を前記第2ルーメンより注入して前記第3ルーメンを介して回収する注入/回収手段と、
前記注入/回収手段により前記第2の流体を前記空間を還流させながら、前記光源より前記レーザ光を発生させる制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体に不要な熱損傷を与えることなく、体腔の必要な部位を加温しながらの拡張術を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態による治療装置の構成例を示す図である。
【図2】実施形態によるホットバルーンカテーテルの構成例を示す図である。
【図3】実施形態による二重構造のバルーンを説明する図である。
【図4】ホットバルーンカテーテルを用いた拡張加圧、加温処理を説明する図である。
【図5】実施形態による拡張加圧、加温処理を説明するフローチャートである。
【図6】血管拡張術を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本実施形態によるホットバルーンカテーテルを用いた治療装置の構成例を示す図である。治療装置100において、レーザ光源101は生体による吸収の少ない波長(例えば、800,1300,1500nm)を有するレーザ光を発生する。生体による吸収の少ない波長のレーザ光とは、例えば、生体の主な吸収体である水やヘモグロビン等の色素吸収係数が3μm以下のものである。コントローラ102は、不図示のメモリ、CPU等を具備し、レーザ光源101、スキャナ部103、光吸収液体の供給回収部300を制御する。スキャナ部103は、ホットバルーンカテーテル200を装着し、レーザ光源101から出力されたレーザ光をホットバルーンカテーテル200内の光ファイバへ伝達する。また、スキャナ部103は、コントローラ102の制御下で、ホットバルーンカテーテル200内の光照射部(後述する駆動シャフト218及び側方照射レンズ217)の回転動作(ラジアル動作)及び光ファイバの軸方向への移動(プルバック動作)を行う。
【0014】
ホットバルーンカテーテル200の全体構成について図2を用いて説明する。本実施形態のホットバルーンカテーテル200は、その先端側に拡張可能な二重構造バルーン201を有する。
【0015】
図2の(a)に示すように、ホットバルーンカテーテル200は、血管内に挿入される長尺のカテーテルシース211と、ユーザが操作するために血管内に挿入されずユーザの手元側に配置されるコネクタ212により構成される。シースの先端には、ガイドワイヤルーメン220が形成されており、カテーテルシース211は、ガイドワイヤルーメン220との接続部からコネクタ212との接続部にかけて連続する管腔として形成されている。221はガイドワイヤであり、ホットバルーンカテーテル200をこのガイドワイヤ221に沿って進ませることにより、血管内の所望の処置部位へ二重構造バルーン201を到達させることができる。したがって、ガイドワイヤルーメン220は、予め体腔内に挿入されたガイドワイヤ221を受け入れ、ガイドワイヤ221によってカテーテルシース211が患部まで導かれるのに使用される。
【0016】
コネクタ212は、カテーテルシース211の基端に一体化して構成されたシースコネクタ212aと駆動シャフト218の基端に設けられ、駆動シャフト218を回転可能に保持するよう構成された駆動シャフトコネクタ212bとからなる。シースコネクタ212aとカテーテルシース211の境界部には、耐キンクプロテクタ213が設けられている。これにより所定の剛性が保たれ、急激な変化による折れ曲がり(キンク)を防止することができる。駆動シャフトコネクタ212bの基端は、スキャナ部103と接続可能なアダプタを構成している。
【0017】
カテーテルシース211の先端側であって、ガイドワイヤルーメン220の手前には、流体の注入により膨張が可能な二重構造バルーン201が設けられている。二重構造バルーン201は、図3に示すような二重構造を有している(詳細は図3により後述する)。シースコネクタ212aには、インデフレータ400や、供給回収部300と接続するためのポート214〜216が設けられている。ポート214〜216はそれぞれ二重構造のバルーンの内側バルーンまたは外側バルーンに連通している(図3により後述する)。
【0018】
駆動シャフト218は内部に、レーザ光源101からのレーザ光を導光するための光ファイバを有し、その先端部分には側方照射レンズ217が設けられている。側方照射レンズ217は、光ファイバを伝わってきたレーザ光を反射して、光ファイバの軸方向に対しほぼ垂直な方向へレーザ光を反射させ、照射する。これら駆動シャフト218、側方照射レンズ217により、レーザ光源101から出力されたレーザ光をバルーンの内壁へ向けて照射するための光照射部が形成される。光照射部は、ホットバルーンカテーテル200のカテーテルシース211内部において、カテーテルの軸方向への移動(プルバック動作)及び、該軸方向を軸とした回転(ラジアル動作)が可能である。すなわち、駆動シャフト218はスキャナ部103により回転駆動され、これによりレーザ光を二重構造バルーン201の内部でラジアル走査させることができる。また、駆動シャフト218は、図2の(b)に示されるように、カテーテルシース211に対して相対的にスライド可能に挿入されている。
【0019】
図2の(b)は、駆動シャフト218をカテーテルシース211に対して相対的にスライドさせた様子を示す図である。同図に示すように、シースコネクタ212aは固定された状態で、駆動シャフトコネクタ212bを基端側方向に(矢印250方向に)スライドさせれば、内部の駆動シャフト218やその先端に固定された側方照射レンズ217が軸方向にスライドすることとなる。この軸方向のスライド(プルバック動作)は、ユーザが手動で行ってもよいし、スキャナ部103により電動で行っても良い。なお、駆動シャフトコネクタ212bの先端側には、回転する駆動シャフト218が露出しないように、保護内管251が設けられている。
【0020】
図3(a),図3(b)は、二重構造バルーン201の詳細を説明する図である。二重構造バルーン201は第1バルーンとしての内側バルーン202と、内側バルーン202を内包するように設けられた第2バルーンとしての外側バルーン203とを有する。このような二重構造により、内側バルーン202の外面と外側バルーン203の内面により空間204が形成されている。なお、バルーンの材質には耐圧性と耐熱性が求められるが、そのような素材としてはポリイミドやナイロンなどが挙げられる。但し、内側バルーン202は外側バルーン203よりも熱伝導度が低くなるように構成される。これは例えば、熱伝導度の低い材質で内側バルーン202を形成するほか、内側バルーン202のフィルムに気体(空気)が充填された層を設けることで熱伝導性を低くするようにしてもよい。
【0021】
ポート214は、第1ルーメン214aに連通している。そして、図3の(a)に示されるように、第1ルーメン214aは内側バルーン202の内面により形成される空間と連通する。従って、ポート214を介して注入された流体は内側バルーン202の内側の空間205を満たすことになる。また、ポート215、ポート216はそれぞれ第2ルーメン215a、第3ルーメン216aと連通しており、これらのルーメンはそれぞれ内側バルーン202の外面と外側バルーン203の内面とにより形成される空間204と連通している。
【0022】
図3(b)から明らかなように、第2ルーメン215aは、ホットバルーンカテーテル200における近位端側(コネクタ212側)で空間204に連通して、空間204に第2の流体を注入するのに用いられる。また、第3ルーメン216aは、ホットバルーンカテーテル200における遠位端側で空間204に連通し、第2ルーメン215aを介して注入された第2の流体を回収するのに用いられる。ポート215及び第2ルーメン215aを介して連続的に注入され、ポート216から排出される流体の流量を調整することで、空間204において所定圧を維持しながら流体を還流させることができる。
【0023】
なお、第1ルーメン214a、第2ルーメン215a、第3ルーメン216aはそれぞれカテーテルシース211に設けられており、例えば図3(c)に示されるように配置される。この場合、図3(a)は図3(c)のA−A方向から見た図であり、図3(b)は図3(c)のB−B方向から見た図に対応する。なお、図3(c)において、第4ルーメン218aは光照射部(側方照射レンズ217及び駆動シャフト218)を通すためのルーメンである。
【0024】
図1に戻り、供給回収部300は、光吸収液体を内側バルーン202と外側バルーン203の間の空間204において還流させるための構成である。供給タンク301は上記第2の流体であるところの光吸収液体を貯蔵する。光吸収液体は、レーザ光源101が出力するレーザ光の波長に対して吸収ピークを有する色素を含む。ポンプ302は、供給タンク301に貯蔵されている光吸収液体を、ポート215を介して空間204に送り込む。開閉弁303は、コントローラ102の制御下でポンプ302とポート215との間の流路の開閉を行う。回収タンク304は、ポンプ302によりポート215を介して空間204へと注入され、ポート216を介して回収された光吸収液体を収容する。開閉弁305は、コントローラ102の制御下で、ポート216から回収タンク304へつながる流路における流量を制御する。圧力計306はポート216と開閉弁305の間の流路における光吸収液体の圧力を計測し、計測結果をコントローラ102に伝える。こうして、第3ポート216、開閉弁305及び圧力計306を含む回収部は、加圧可能な系を構成する。
【0025】
インデフレータ400は、ポート214に接続され、内側バルーン202の内部の空間205に第1の液体を注入する。なお、インデフレータ400による液体の注入は、手動で行われても良いし、コントローラ102によって自動で行われても良い。なお、開閉弁305は、流体の流路を、回収タンク304へ直接に向かう流路と、ポンプ307へ向かう流路のいずれかへ切り替える機能を有する。治療を終えて、二重構造バルーン201を収縮させる際には、インデフレータ400により内側バルーン202内の流体を抜き取るとともに、開閉弁305の流路をポンプ307の側に切り替えて、ポンプ307により空間204内の流体を抜き取るようにする。なお、このようなポンプ307とポンプ307へ流路を切り替える機構により自動的に空間204内の流体を抜き取る構成はオプションである。例えば、回収タンク304への流路(或いはポート216)にインデフレータを接続して、マニュアルで空間204内の流体を抜き取るようにしても良い。
【0026】
以上のような構成を備えた本実施形態の治療装置100による、血管における狭窄部位を拡張させるための処置について説明する。図6は、ホットバルーンカテーテル200による血管狭窄部位の拡張処置の概要を説明する図である。二重構造バルーン201を収縮させた状態で、ガイドワイヤ221に沿ってカテーテルシース211を血管10の内部を進ませ、処置対象である狭窄部位12の位置でカテーテルシース211を固定する(図6の(a))。続いて、図4、図5により後述する手順で、レーザ光による加温を行いながら二重構造バルーン201により狭窄部位12を拡張する(図6の(b))。こうして、拡張した後、生体を冷却し、二重構造バルーン201を再び収縮して抜き取ることにより、図6の(c)に示されるように狭窄部位12が拡張された状態が維持される。
【0027】
図4は、拡張処置におけるバルーンへの流体の注入制御とレーザ光による加温制御を模式的に示す図である。また、図5は、本実施形態の治療装置100による拡張処置における、バルーンへの流体の注入制御とレーザ光による加温制御の手順を示すフローチャートである。
【0028】
まず、S501において、インデフレータ400により、ポート216、第1ルーメン214aを介して内側バルーン202の内部の空間205への第1の流体の注入を行う(図4(a))。第1の流体は、血管拡張のための拡張圧力を血管壁に加えるとともに、レーザ光源101から出力されたレーザ光を吸収しない特性を持つものである。生体に吸収されない波長のレーザを用いることから、本実施形態では、第1の流体として生体と光吸収特性が類似した生理食塩水が用いられるが、これに限定されるものではない。なお、この段階では、開閉弁303、開閉弁305はともに閉じた状態とする。また、このときの第1の流体による内側バルーン202の拡張の圧力は1〜5気圧程度が好ましく、特に2気圧程度が最も好ましい。なお、インデフレータ400による液体の注入は、マニュアルで行っても良いし、コントローラ102により、圧力監視下で自動的に行われても良い。
【0029】
次に、S502において、コントローラ102は、ポンプ302を駆動し、開閉弁303を開くことにより、外側バルーン203と内側バルーン202により形成される空間204に、供給タンク301に貯蔵されている光吸収液体を注入する(図4の(b))。ここで空間204に注入される光吸収液体は、特定の波長の光(レーザ光源101が出力するレーザ光の波長)を吸収して発熱するとともに、当該発熱により吸収特性が変化するものである。例えば、特定の波長の光を吸収して発熱し、発熱後に脱色する色素を含む液体が用いられる。生体において吸収の少ない波長のレーザ光を選択し、光吸収液体の吸収ピークの波長と当該選択されたレーザ光の波長とを一致させることで、光吸収体から熱を発生させるとともに、レーザ光が生体に照射されても加熱が生じないようにすることができる。
【0030】
このようなレーザ光と光吸収液体の組み合わせの例としては、波長800nmのレーザ光と波長800nmの近傍に吸収ピークがあるインドシアニングリーン(Indocyanine Green:ICG)との組み合わせが挙げられる。なお、ICGは、肝機能の検査に用いられる血管への投与が意図されている検査薬であり、既に医療現場において容易に入手可能なものである。
【0031】
S502においては、開閉弁305による閉鎖または流量制御、或いは第3ルーメン216aの圧力損失により、空間204はポンプ302により注入されるICG溶液により加圧される。その結果、内側バルーン202と外側バルーン203の間は潰された状態から空間204が形成されることになる。コントローラ102は圧力計306により空間204における圧力を監視し、S503において空間204内が所定圧になったかどうかを判定する。所定圧になったことが検出されると、S504において、コントローラ102は開閉弁306を制御して、所定圧を維持しながらICG溶液の回収を開始する。なお、S504では、開閉弁305を閉鎖してICG溶液の注入を開始させた場合には開閉弁を開くとともに空間204内を所定圧に維持する処理となる。また、開閉弁305を閉鎖せずに流量制御によって空間204の加圧を行った場合には、S504において当該加圧を維持するように開閉弁305を制御することになる。また、第3ルーメン216aの圧力損失のみを利用する場合には、ポンプ302によるICG溶液の輸送量を調整して、空間204を所定圧に維持する。この場合、開閉弁303により流量制御を行い、開閉弁305の開閉機構、流量制御機構は不要となる。
【0032】
以上のように、コントローラ102は圧力計306が示す圧力をチェックしながら開閉弁306(或いは開閉弁303)による流量を制御することで、空間204における圧力を維持しながらICGを還流させる。ここで、空間204における圧力は、インデフレータ400によって第1ルーメン214aを介して第1の流体を注入することによって内側バルーン202に加えられている圧力よりも大きい圧力とする。例えば、本実施形態では、空間205の圧力がおよそ2気圧であり、空間204の圧力はおよそ2〜5気圧とする。また、空間204の圧力は、圧力計306により計測される圧力を、開閉弁305の流量調整で発生する回収部加圧圧力とすると、
[空間204の内圧]=[第3ルーメン216aの圧力損失]+[回収部加圧圧力]
となり、空間204の内圧を開閉弁305によって調整できることがわかる。
【0033】
次に、S505において、コントローラ102はレーザ光源101によるレーザ出力を開始させ、加温を開始する。このとき、コントローラ102はスキャナ部103を制御して、駆動シャフト218を回転(ラジアル動作)させるとともに、図2の(b)に示したようにカテーテルの軸方向へ駆動シャフト218を移動(プルバック動作)させる。なお、光照射部の回転は例えば1800rpm、プルバックのスピードは例えば5mm/20秒程度とする。
【0034】
この様子を図4(c)に示す。ICGを還流させている状態が同図において小さい矢印で示されている。レーザ光の照射部位401におけるICGは、レーザ光を吸収して発熱することにより脱色し、光吸収特性が変化する。この発熱により当該レーザ光の照射部位401が加熱される。この熱は、血管壁へ伝わり、血管拡張処置に必要な加温が行われることになる。レーザ光の照射をON/OFFしながら駆動シャフト218をラジアル動作、プルバック動作させることにより、血管内の所望の部位を加温することができる。
【0035】
脱色したICGは第3ルーメン216aを通って回収タンク304に排出される。脱色したICGはレーザ光に対して透明な特性を有するようになり、第3ルーメン216aを通る間にレーザ光の照射を受けても、これを吸収することはない。従って、レーザ光は第3ルーメン216aをとおる(脱色後の)ICGにより妨げられることはなく、効率よく空間204内のICGを照射することができる。特に、光照射部を回転させながらレーザ光照射を行えば、レーザ光の照射位置より下流側(遠位端側)のICGはほとんどが脱色済みとなり、第3ルーメン216aを通るICGもほとんどが脱色済みとなる。
【0036】
また、ICGが透明となった部位にレーザ光が照射された場合、当該レーザ光はほぼそのまま生体へ到達するが、レーザ光が生体において吸収されにくい波長を有するため、当該レーザ光の照射で生体が加熱されることはない。また、空間204においても、レーザ光が照射された位置のICGのみが発熱するので、上述した駆動シャフト218の回転やプルバックを制御することで、生体の所望の範囲を加温することができる。
【0037】
以上のようにして加温治療を行った後、ユーザが加温の終了を指示すると、処理はS506からS507へ進む。S507において、コントローラ102は、開閉弁303を閉じ、開閉弁305の流路をポンプ307に接続することで、開閉弁303からホットバルーンカテーテル200内のICG溶液を抜き取る。なお、内側バルーン202内の流体はインデフレータ400によりマニュアルで抜き取られる。また、ポンプ307を設けずに、インデフレータをポート216に接続することでICG溶液を抜き取る場合には、S507において開閉弁303を閉状態にするのみでよい。
【0038】
以上のように、本実施形態の治療装置によれば、2つのバルーンからなる二重構造を有する二重構造バルーン201の空間204で発生した熱が生体に伝わることで生体が加温される。すなわち、二重構造バルーン201の表面を温めて、熱伝導により血管内面から血管壁が加温される。そのため、従来のレーザバルーンやRFバルーンと比べて、生体の深部の熱損傷を抑えることができる。また、上述したように、局所的な加温が可能であり、RFバルーンのように不必要に広い範囲を加温してしまうようなこともない。また、空間204を流れる第2の流体(本実施形態ではICG溶液)は、その照射部位401における容量が少ないためにレーザ光の照射によって瞬時に発熱する。更に、レーザ光の照射が停止されると(加温を停止すると)、空間204内のICG溶液の還流により液冷を行うのと同等の冷却効果が得られる。このため、血管壁の昇温や降温を迅速に行うことができ、深部の熱損傷を抑える働きをするだけでなく、血管拡張術などの処置時間を短縮させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔を加温しながら拡張するためのホットバルーンカテーテルであって、
加温のためのレーザ光を導光する光ファイバと、前記光ファイバの先端部分において前記光ファイバを伝わる前記レーザ光を側方へ反射する側方照射部とを有する光照射部と、
前記カテーテルの先端部に設けられ、第1バルーンと、前記第1バルーンを内包するように設けられた第2バルーンとを有する二重構造バルーンと、
前記第1バルーンの内部へ連通して第1の流体を注入するための第1ルーメンと、
前記第1バルーンの外面と前記第2バルーンの内面により形成される空間に、前記カテーテルの近位端で連通して当該空間に第2の流体を注入するための第2ルーメンと、
前記カテーテルの遠位端で前記空間と連通し、前記第2ルーメンより注入された第2の流体を回収するための第3ルーメンとを備えることを特徴とするホットバルーンカテーテル。
【請求項2】
前記第1バルーンは前記第2バルーンより低い熱伝導度を有するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のホットバルーンカテーテル。
【請求項3】
前記光照射部は、前記カテーテルの内部においてカテーテルの軸方向への移動及び、該軸方向を軸とした回転が可能であることを特徴とする請求項1または2に記載のホットバルーンカテーテル。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のホットバルーンカテーテルを用いて、体腔を加温し拡張する治療装置であって、
前記レーザ光を発生する光源と、
インデフレータにより前記第1ルーメンに前記第1の流体を注入することによって前記第1バルーンに加えられている圧力よりも大きい圧力を前記空間において維持しながら、前記第2の流体を前記第2ルーメンより注入して前記第3ルーメンを介して回収する注入/回収手段と、
前記注入/回収手段により前記第2の流体を前記空間を還流させながら、前記光源より前記レーザ光を発生させる制御手段とを備えることを特徴とする治療装置。
【請求項5】
前記レーザ光は生体による吸収、発熱が生じない波長を有し、
前記第1の流体は前記レーザ光を吸収せず、
前記第2の流体は、前記レーザ光を吸収して発熱し、該吸収により脱色した後は前記レーザ光を吸収しなくなる特性を有することを特徴とする請求項4に記載の治療装置。
【請求項6】
前記制御手段は、更に前記光照射部をカテーテルの軸方向を軸として回転させながら前記レーザ光を照射させることを特徴とする請求項4または5に記載の治療装置。
【請求項7】
前記レーザ光は800nmの波長を有し、前記第2の流体はインドシアニングリーンであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のホットバルーンカテーテルを用いて、体腔を加温し拡張する治療装置の制御方法であって、
インデフレータにより前記第1ルーメンに前記第1の流体を注入することによって前記第1バルーンに加えられている圧力よりも大きい圧力を前記空間において維持しながら、前記第2の流体を前記第2ルーメンより注入して前記第3ルーメンを介して回収する注入/回収工程と、
前記注入/回収工程により前記第2の流体を前記空間を還流させながら、前記レーザ光を発生する光源を制御して前記レーザ光を発生させる制御工程とを有するを特徴とする治療装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−206208(P2011−206208A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76172(P2010−76172)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】