説明

ホットプレス成形方法および成形装置

【課題】加熱した鋼板をプレス成形するホットプレス技術において、生産性の向上を図ることができるホットプレス成形方法および成形装置を提供する。
【解決手段】鋼板1のホットプレスを行うに際して、鋼板1を金型(ダイ11、パンチ13)でプレス成形した後、金型間(ダイ11とパンチ13の間)で鋼板1を冷却中(下死点保持中)に鋼板1の温度を測定し、マルテンサイト変態終了温度に達した直後に、金型(ダイ11、パンチ13)を開放して鋼板1を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト温度領域で鋼板をプレス成形した後、金型間で鋼板を急冷してマルテンサイトとすることにより、高強度のプレス成形品を製造するホットプレス成形方法および成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車体などに用いられる構造部材は、所定の強度を有する鋼板をプレス成形して製造されてきた。そして、近年、自動車の軽量化と衝突安全性能を両立させるため、車体の構造部材として、高強度鋼板の適用が増加している。
【0003】
一方、鋼板を高強度化すると加工性が劣化し、所定の部品形状に加工することが困難になる。特に、高強度鋼板は、冷間でプレス成形すると、製品をプレス金型から取り外した際に、弾性変形して形状がくずれるスプリングバックが発生しやすく、寸法精度を向上させることが難しい。
【0004】
そこで、鋼板の高強度化と加工性、製品精度を同時に満足する手段として、加熱した鋼板をプレス成形するホットプレスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ホットプレスは、鋼板をオーステナイト域まで加熱した後、金型でプレス成形し、金型間での冷却により焼入れを行い、高強度の材質を得るものである。ホットプレスでは、鋼板が高温で軟質、高延性となっているため、成形時の割れ発生などの加工性が改善され、かつ、良好な製品精度を有する製品の製造が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−96031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に提案されている従来のホットプレス技術では、オーステナイト温度領域で鋼板を金型でプレス成形した後、金型間で鋼板を冷却し、マルテンサイト変態を起こさせるため、金型間での鋼板の冷却時間(下死点保持時間)を少なくとも10秒以上、可能であれば15秒以上確保する必要があり、生産性が低かった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、加熱した鋼板をプレス成形するホットプレス技術において、生産性の向上を図ることができるホットプレス成形方法および成形装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]オーステナイト温度領域で鋼板を金型でプレス成形した後、金型間で鋼板を冷却してマルテンサイト変態を起こさせ、高強度のプレス成形品を製造するホットプレス成形方法において、金型間で冷却中の鋼板の温度を測定し、鋼板の温度がマルテンサイト変態終了温度に達した直後に、金型を開けてプレス成形を終了することを特徴とするホットプレス成形方法。
【0010】
[2]金型間で冷却中の鋼板の温度を測定する温度測定手段として、光ファイバー温度計を用いることを特徴とする前記[1]に記載のホットプレス成形方法。
【0011】
[3]前記[1]または[2]に記載のホットプレス成形方法を実施するためのホットプレス成形装置であって、オーステナイト温度領域で鋼板をプレス成形する金型と、金型間で冷却中の鋼板の温度を計測する温度測定手段を備えていることを特徴とするホットプレス成形装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、鋼板のホットプレスを行うに際して、金型でプレス成形した後、金型間で鋼板を冷却中(下死点保持中)に鋼板の温度を測定し、マルテンサイト変態終了温度に達したときに、金型を開放して鋼板を取り出すため、金型間における鋼板の冷却時間を必要最低限にすることができ、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態におけるホットプレス成形装置を示す概略図である。
【図2】本発明の実施例1における下死点保持時間と縦壁中央のビッカース硬度との関係を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における下死点保持時間と縦壁中央の下死点保持終了時の温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を以下に述べる。
【0015】
本発明の一実施形態におけるホットプレス成形方法は、被成形材(鋼板)をオーステナイト温度域の所定温度に加熱する工程と、加熱された被成形材をホットプレス装置に装着する搬送工程と、被成形材をオーステナイト域温度で金型を用いてプレス成形するプレス成形工程と、下死点で被成形材を金型間に保持してマルテンサイト変態を生じさせる冷却工程よりなる。なお、被成形材をホットプレス装置に装着してから通電加熱などの手段により加熱工程を採ることも可能である。
【0016】
その上で、この実施形態においては、冷却工程中に温度測定手段にて被成形材の表面温度を測定し、被成形材の温度がマルテンサイト変態終了温度に達したら速やかに金型を開放して被成形材を取り出すようにしている。
【0017】
図1は、この実施形態におけるホットプレス成形装置を示す概略図である。図1に示すように、この実施形態におけるホットプレス成形装置10は、被成形材(鋼板)1のホットプレスを行うために、ダイ(凹金型)11と、ホルダー12と、パンチ(凸金型)13とを備えているとともに、下死点で金型間(ダイ11とパンチ13の間)に保持中の被成形材1の表面温度を測定するための光ファイバー温度計20(プローブ21、温度処理装置22)を備えている。
【0018】
ここで、光ファイバー温度計20は、放射光を利用して温度を測定する非接触型の温度計であり、図1に示すように、金型(ここでは、パンチ13)に開けた穴14にプローブ21を挿入し、プレス成形中の被成形材1の温度を測定することができる。
【0019】
ちなみに、熱電対のように測定物にプローブを接触させて温度を測定する方法は、プレス成形に用いることは困難である。また、IRカメラのように測定物からの熱放射を用いて非接触で温度分布を測定する方法は、プレス成形では測定物(被成形材)が金型に遮られるため、使用することができない。
【0020】
そして、光ファイバー温度計20(プローブ21)で温度を測定する位置は、被成形材1の最も焼きが入りにくい場所(すなわち、冷却中に温度が最も下がりにくい場所)とする。過去のホットプレス成形品の硬度分布を測定すれば、最も焼きが入りにくい場所を特定することができる。あるいは、ホットプレスのコンピュータ・シミュレーションにより、冷却中に温度が最も下がりにくい場所を特定することも可能である。
【0021】
このようにして、この実施形態においては、鋼板1のホットプレスを行うに際して、鋼板1を金型(ダイ11、パンチ13)でプレス成形した後、金型間(ダイ11とパンチ13の間)で鋼板1を冷却中(下死点保持中)に鋼板1の温度を測定し、マルテンサイト変態終了温度に達したときに、金型(ダイ11、パンチ13)を開放して鋼板1を取り出すため、金型間における鋼板の冷却時間を必要最低限にすることができ、生産性が向上する。
【0022】
なお、マルテンサイト変態終了温度は、CCT線図から求めることができる。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1を以下に述べる。
【0024】
この実施例1においては、図1に示したホットプレス成形装置10を用いて、350mm×350mm×1.6mmの被成形材1をホットプレスして、ウェブの幅80mm、縦壁の高さ60mm、ダイ肩およびパンチ肩がいずれもR5mmのハット成形品を製造することとし、被成形材1を窒素雰囲気に保たれた電気炉で950℃に加熱した後、ホットプレス成形装置10にセットし、プレス成形開始温度を750℃としてプレス成形した。
【0025】
その際に、事前にコンピュータ・シミュレーションにより、下死点保持中(金型間での冷却中)に温度が最も下がりにくい場所が縦壁の高さ方向中央であることを確認していたので、図1に示すように、縦壁中央部分にプローブ21の先端が位置するようにパンチ13に穴14をあけ、光ファイバー温度計20のプローブ21を穴14に挿入して、下死点保持中の縦壁中央の温度を測定した。
【0026】
図2に、下死点保持時間を変えてホットプレスを行って、縦壁中央のビッカース硬度を測定した結果を示す。下死点保持時間が8秒以上で、マルテンサイト相の硬度の基準である425以上となった。また、該当箇所のミクロ組織を観察し、下死点保持時間が8秒以上では、全面がマルテンサイト組織になっていることを確認した。
【0027】
一方、図3に、光ファイバー温度計20で測定した温度が最も下がりにくい縦壁中央の下死点保持終了時の温度を示す。下死点保持時間が8秒以上で、当該鋼種のマルテンサイト変態終了温度である300℃以下まで温度低下していた。
【0028】
以上の結果から、下死点保持中の縦壁中央の温度を測定し、マルテンサイト変態終了温度以下に温度低下してから下死点保持を終了することにより、マルテンサイトの生成を担保できることが明らかになった。
【0029】
これまでは、下死点保持中(金型間での冷却中)の鋼板の温度を測定していないため、下死点保持時間(金型間での冷却時間)は、安全をみて15秒としていたが、本発明を適用した場合には、下死点保持中(金型間での冷却中)の鋼板の温度を測定し、マルテンサイト変態終了温度に達した直後に、金型を開放して鋼板を取り出すので、8〜10秒で下死点保持を終了させることができ、ホットプレスの生産性が大幅に向上した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、被成形材を金型間で必要以上の時間をとって冷却することがなくなり、ホットプレス成形の生産性が向上する。
【符号の説明】
【0031】
1 被成形材(鋼板)
10 ホットプレス成形装置
11 ダイ(凹金型)
12 ホルダー
13 パンチ(凸金型)
14 穴
20 光ファイバー温度計
21 プローブ
22 温度処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト温度領域で鋼板を金型でプレス成形した後、金型間で鋼板を冷却してマルテンサイト変態を起こさせ、高強度のプレス成形品を製造するホットプレス成形方法において、金型間で冷却中の鋼板の温度を測定し、鋼板の温度がマルテンサイト変態終了温度に達した直後に、金型を開けてプレス成形を終了することを特徴とするホットプレス成形方法。
【請求項2】
金型間で冷却中の鋼板の温度を測定する温度測定手段として、光ファイバー温度計を用いることを特徴とする請求項1に記載のホットプレス成形方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のホットプレス成形方法を実施するためのホットプレス成形装置であって、オーステナイト温度領域で鋼板をプレス成形する金型と、金型間で冷却中の鋼板の温度を計測する温度測定手段を備えていることを特徴とするホットプレス成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−13906(P2013−13906A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146916(P2011−146916)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】