説明

ホルダ本体

【課題】構造が簡単で、工具の自動交換が可能であり、さらに切削粉の吸引効率が高く、内部蓄積を防止できるホルダ本体を提供する。
【解決手段】刃具12を取り付け可能な装着穴14dを有し、工作機械の主軸3に取り付けられるホルダ本体14において、該ホルダ本体14は、前記装着穴14dに取り付けられた刃具12の軸心方向に貫通する第1吸引穴a1に連通するよう軸心方向に貫通して形成された第2吸引穴a2と、該第2吸引穴a2に連通し、前記第1吸引穴a1からの吸引空気以外の空気を吸引可能に形成された第3吸引穴a3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルダ本体に関し、詳細には、特に軽金属の加工時に発生する粉塵状の切削粉の回収効率を改善できるようにしたホルダ本体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばマグネシウム合金を切削加工する場合に発生する粉塵状の切削粉の回収を可能とするフライス工具として、特許文献1に記載されたものがある。このフライス工具は、シャンクの軸芯に形成された吸出し開口を有し、該吸出し開口は締付け・供給装置に装着された吸出しホッパに連通している。
【0003】
また、特許文献2には、以下の切屑排出構造が提案されている。これはカッタ本体の周囲に切屑収納体を設けて切屑排出空間を形成し、これを吸引機構に連通させる。またチップポケットに切屑案内部材を設けて切刃のすくい面との間に隙間を形成し、切屑を切屑排出空間に誘導するようにした切屑排出構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−532917号公報
【特許文献2】特開平10−43988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載のフライス工具では、締付け・供給装置に吸出しホッパを装着しているため、構造が複雑であり、しかもその構造上、工具の自動交換ができないといった問題がある。さらにまた、前記従来のフライス工具の場合、吸出し開口の通路面積に比べて吸出しホッパにおける通路面積が大きくなっているため、吸出し空気の流速が吸出しホッパ部分で低下し、この部分に切削粉が沈殿し、堆積してしまうといった問題も懸念される。
【0006】
前記特許文献2に記載の切屑排出構造では、切屑排出空間の、吸引機構の接続点から離れた部分に誘導された切屑は吸引されにくく、吸引効率が低いといった問題がある。
【0007】
本発明は、構造が簡単で、工具の自動交換が可能であり、さらに切削粉の吸引効率が高く、内部蓄積を防止できるホルダ本体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、刃具を取り付け可能な装着穴を有し、工作機械の主軸に取り付けられるホルダ本体において、該ホルダ本体は、前記装着穴に取り付けられた刃具の軸心方向に貫通する第1吸引穴に連通するよう軸心方向に貫通して形成された第2吸引穴と、該第2吸引穴に連通し、前記第1吸引穴からの吸引空気以外の空気を吸引可能に形成された第3吸引穴とを備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ホルダ本体に、刃具の第1吸引穴に連通するよう軸方向に貫通して形成された第2吸引穴と、第1吸引穴からの吸引空気以外の空気を吸引する第3吸引穴を設けたので、前記ホルダ本体を主軸に取り付け、前記ホルダ本体をクランプ・アンクランプするためのドローバー内の吸引穴を通して加工中の切削粉を吸引する場合、前記刃具の前記第1吸引穴が小さいため前記第2吸引穴における吸引空気の流速を十分に確保できないときでも、前記第3吸引穴から前記第1吸引穴における吸引空気以外の空気を吸引できるので、前記第2吸引穴における吸引空気の流速を高めることができ、前記切削粉が前記ホルダ本体や前記ドローバー内に堆積するのを防止できる。
【0010】
また、ホルダ本体の外部に切削粉の回収通路等を設ける必要がないので、従来の自動工具交換装置により工具の自動交換を支障なく行うことができる。
【0011】
本発明の1つの好適な実施態様では、前記第3吸引穴は、その通路面積を調整可能に構成されている。
【0012】
この実施態様によれば、第3吸引穴は、これの通路面積を調整可能に構成されているので、刃具の第1吸引穴や切削粉の発生量に応じた通路面積、ひいては吸引空気の流速とすることができ、切削粉のホルダ本体やドローバー内への堆積を防止できる。
【0013】
本発明の他の1つの好適な実施態様では、前記第3吸引穴は、ホルダ本体に回転可能に装着されたリング部材に軸方向に開口するよう形成された吸込部と、該吸込部と前記第1,第2吸引穴の接続部付近とを連通可能に前記ホルダ本体に形成された連通部とを有し、前記リング部材の角度位置を調整することにより前記第3吸引穴の実質的な通路面積が調整可能となっている。
【0014】
この実施態様によれば、前記第3吸引穴を、ホルダ本体に回転可能に装着されたリング部材に形成された吸込部と、該吸込み部と前記第1,第2吸引穴の接続部付近とを連通可能とする連通部とを有するものとしたので、前記リング部材の角度位置を調整することにより、前記第3吸引穴の実質的な通路面積を刃具の径や切削粉の発生量に応じた面積に調整することができ、切削粉の内部堆積を防止できる。
【0015】
本発明のさらに他の1つの好適な実施態様では、前記刃具はコレットによりホルダ本体に装着されており、前記第3吸引穴は、前記コレットに、前記第1吸引穴の径方向外側に位置し、かつ軸方向に貫通するように形成されている。
【0016】
この実施態様によれば、前記第3吸引穴を、コレットに形成したので、刃具の径及び第1吸引穴の通路面積に応じた第3吸引穴を予めコレットに開けておくことにより、最適のコレットを選択するだけで、前記刃具の前記第1吸引穴の通路面積が異なっても第2吸引穴における内部堆積を防止できる吸引空気の流速を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係るホルダ本体を備えた主軸装置の断面側面図である。
【図2】前記ホルダ本体の断面側面図である。
【図3】前記ホルダ本体の断面側面図(図2のIII-III線断面図)である。
【図4】前記ホルダ本体の斜視図である。
【図5】前記主軸装置のホルダ本体クランプ部分の断面側面図である。
【図6】前記主軸装置のドローバーの前部接続部分の断面側面図である。
【図7】前記主軸装置のドローバーの後部接続部分の断面側面図である。
【図8】前記ドローバーの後部接続部分のシール機構部分の断面側面図である。
【図9】本発明の実施例2に係る刃具及びホルダ本体の一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1〜図8は、本発明の実施例1に係るホルダ本体を説明するための図である。
【0020】
図において、符号1は縦型あるいは横型マシニングセンタ等の工作機械に備えられた主軸装置である。この主軸装置1は、コラムにより支持された主軸頭2と、該主軸頭2により回転自在に支持された主軸3と、該主軸3の先端部に支持される工具ホルダ4と、該工具ホルダ4を主軸3にクランプ・アンクランプするクランプ機構5とを備えている。
【0021】
前記主軸3は、軸心に貫通穴3aを有する筒体である。該主軸3は、これの前部及び後部が前軸受6a及び後軸受6bを介して前記主軸頭2により回転自在に支持されている。また前記主軸3の貫通穴3aの前端部にはテーパ穴3bが形成され、該テーパ穴3bに前記工具ホルダ4が嵌合固定される。なお、図示していないが、前記主軸3と主軸頭2との間には該主軸3を回転駆動する電動モータが配設されている。
【0022】
前記工具ホルダ4は、刃具12と、該刃具12が装着穴14dにコレット13を介して装着されたホルダ本体14とを有する。刃具12の径等に対応したコレット13により各種の刃具を共通のホルダ本体に取り付けることができる。
【0023】
前記クランプ機構5は、前記主軸3の貫通穴3a内に挿入配置され、前記工具ホルダ4を前記テーパ穴3bにクランプし、又はアンクランプするドローバー7と、該ドローバー7をアンクランプ方向に移動させる駆動機構(シリンダ機構)8とを有する。
【0024】
前記ドローバー7は、前記テーパ穴3bの近傍に配置された複数の係合爪11を前記ホルダ本体14の後端部に形成され係合段部14aに係合させる筒状の係合駆動部9と、該係合駆動部9に接続された筒状のドローバー本体10とを有する。
【0025】
前記係合爪11はこれの基端部11aを中心に前端の爪部11bを径方向に拡開可能に構成されている。前記係合駆動部9の前端にはカム9aが形成され、該カム9aは前記爪部11bの内面に摺接しており、後進位置(図1右方位置)にあるとき該爪部11bを係合段部14aに係合させ、前進位置(図1左方位置)にあるとき前記係合を解除する。
【0026】
前記ドローバー本体10と主軸3の貫通穴3aとの間には多数の皿ばね15が介在されている。なお、15aは皿ばね15の軸方向位置を規制するカラー部材である。前記皿ばね15は前記ドローバー7をクランプ方向(図1右方向)に付勢している。この付勢力により係合駆動部9がクランプ方向に移動すると、前記カム9aが爪部11bを拡開させて前記係合段部14aに係合させ、ホルダ本体14のテーパ部14bを前記テーパ穴3bに強固に嵌合させる。
【0027】
前記駆動機構8は、前記主軸頭2の後端部にボルト締め固定されたケーシング18aと、蓋部材18bとで形成されたシリンダ穴18c内にピストン18dを挿入配置した構造のものである。油室bに油圧が供給されると、このピストン18dが図1左方に移動し、押圧プレート24を介して前記ドローバー7を前記皿ばね15の付勢力に抗してアンクランプ方向(図1左方向)に移動させ、前記ホルダ本体14のテーパ部14bとテーパ穴3bとの嵌合を解除する。
【0028】
前記ドローバー7の前部を構成する係合駆動部9の後端部9bは、後部を構成するドローバー本体10の前端部10a内に挿入され、これの内面にねじ込まれている。このようにドローバー本体10内に係合駆動部9を挿入し、ねじ込んだので、ドローバー7の最大径を大きくすることなく後述する第4吸引穴a4の径を大きく確保することができる。
【0029】
また前記係合駆動部9のカム9a内には、連結パイプ17が同軸をなすように挿入されており、該連結パイプ17はナット部材17aによりホルダ本体14内に固定されている。
【0030】
さらにまた前記ドローバー本体10の後端部10bは、前記駆動機構8のインナパイプ16の前端部16a内に挿入されている。このインナパイプ16は前記蓋部材18b内に挿入され、かつ該蓋部材18bに固定されている。
【0031】
前記インナパイプ16と前記ドローバー本体10の後端部10bとの間には、外部から空気がインナパイプ16内に吸引されるのを回避するためのシール機構21が設けられている。このシール機構21は、前記ドローバー本体10の後端部10bの外周面に摺接するカーボン製のシールリング22と、該シールリング22を前記インナパイプ16の段部16cにスペーサ23aを介在させて圧接させる弾性部材製の押圧リング23と、該押圧リング23の軸方向位置を規制する止め輪24とを備えている。前記弾性部材の弾性力により前記シールリング22は前記段部16cに圧接し、かつドローバー本体10の外周面に摺接しており、これにより外部空気の進入を防止している。なお、シールリング22の外周面とインナパイプ16との間には隙間cが設けられている。これにより、ドローバー本体10とインナパイプ16との振れによりシールリング22が損傷するのを回避している。
【0032】
そして前記連結パイプ17,ドローバー7及びインナパイプ16の軸芯部には、これらを軸方向に貫通する第4吸引穴a4が形成されている。この第4吸引穴a4は、前記連結パイプ17内部分、係合駆動部9内部分、ドローバー本体10内部分及びインナパイプ16内部分共に略同じ径に設定されている。また、図示していないが、前記インナパイプ16の後端部16bには、吸引装置が接続されている。
【0033】
また前記工具ホルダ4の刃具12の軸芯には、第1吸引穴a1が軸方向に貫通するように形成されている。また、前記ホルダ本体14には、第2吸引穴a2が前記第1吸引穴a1と連通するように、かつ軸方向に貫通するように形成されている。さらにまた前記ホルダ本体14には第3吸引穴a3が前記第2吸引穴a2に連通するように形成されている。この第3吸引穴a3は、前記刃具12の第1吸引穴a1からの吸引空気以外の空気を吸引可能に形成され、第2吸引穴a2の流速を高めるようになっており、その実質的な通路面積を調整可能に構成されている。
【0034】
前記第3吸引穴a3は、以下のように構成されている。ホルダ本体14の外周の、前記第2吸引穴a2に対応する部分、つまり刃具12と連結パイプ17との間の部分に環状をなすリング部材19が回動可能に、かつ止めねじ20により所望の角度位置に固定可能に装着されている。該リング部材19の内面には、軸方向前方に開口する溝状の吸込部19aが90°毎に形成されている。また前記ホルダ本体14には、連通部14cが前記各吸込部19aと前記第2吸引穴a2とを連通可能に形成されている。この吸込部19aと連通部14cとにより、前記第2吸引穴a2に前記第1吸引穴a1からの吸引空気以外の空気を吸引可能とし、該第2吸引穴a2の流速を高める第3吸引穴a3が構成されている。また、前記リング部材19の角度位置を調整することにより、前記吸込部19aと連通部14cとの連通面積、つまり前記第3吸引穴a3の実質的な通路面積を調整可能となっている
このように実施例1では、刃具12に第1吸引穴a1を、ホルダ本体14に第2,第3吸引穴a2,a3を、さらにドローバー7及びインナパイプ16に第4吸引穴a4を形成し、インナパイプ16に吸引装置を接続したので、粉塵状の切削粉の吸引を簡単な構造で実現できる。
【0035】
また、工具ホルダ4やドローバー7を貫通する吸引穴を設けたので、工具ホルダの外部に切削粉の回収通路等を設けた従来装置に比較して構造が簡単であり、しかも従来の自動工具交換装置により工具の自動交換を支障なく行うことができる。
【0036】
さらにまた、ホルダ本体14に、第2吸引穴a2を形成するとともに第3吸引穴a3を形成したので、刃具の径が小さいため第1吸引穴a1の通路面積を十分に確保できない場合でも、第3吸引穴a3により、第1吸引穴a1からの吸引空気以外の空気を吸引でき、そのため第2吸引穴a2の流速を高めることができ、その結果、切削粉が工具ホルダやドローバー内に堆積するのを防止できる。
【0037】
また、第3吸引穴a3を、ホルダ本体14に回転可能に装着されたリング部材19の吸込部19aと、該吸込部19aと前記第2吸引穴a2とを連通可能とする連通部14cとを有するものとしたので、前記リング部材19の角度位置を調整することにより、前記第3吸引穴a3の実質的な通路面積を刃具の径や切削粉の発生量に応じた面積に調整することができ、切削粉の内部堆積を防止できる。
【実施例2】
【0038】
図9は本発明の実施例2を説明するための図であり、図中、図3と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0039】
本実施例2では、刃具12をホルダ本体14に固定するためのコレット13に第3吸引穴a3が90°毎に形成されている。この第3吸引穴a3は、前記第2吸引穴a2の径方向外側に位置し、かつ軸方向に貫通するように前記コレット13に、形成されている。この第3吸引穴a3は、前記第1吸引穴a1からの吸引空気以外の空気を吸引することにより前記第2吸引穴a2の流速を高めるように機能する。
【0040】
本実施例2では、第3吸引穴a3を、コレット13に形成したので、刃具の径及び第2吸引穴a2の通路面積等に応じた第3吸引穴a3を予めコレット13に開けておくことにより、最適のコレットを選択するだけで、刃具12の第1吸引穴a1の通路面積が異なっても第2吸引穴a2における内部堆積を防止できる吸引空気の流速を維持することができる。
【符号の説明】
【0041】
3 主軸
12 刃具
13 コレット
14 ホルダ本体
14c 連通部
14d 装着穴
19 リング部材
19a 吸込部
a1 第1吸引穴
a2 第2吸引穴
a3 第3吸引穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃具を取り付け可能な装着穴を有し、工作機械の主軸に取り付けられるホルダ本体において、該ホルダ本体は、前記装着穴に取り付けられた刃具の軸心方向に貫通する第1吸引穴に連通するよう軸心方向に貫通して形成された第2吸引穴と、該第2吸引穴に連通し、前記第1吸引穴からの吸引空気以外の空気を吸引可能に形成された第3吸引穴とを備えている。
【請求項2】
請求項1に記載のホルダ本体において、前記第3吸引穴は、その通路面積を調整可能に構成されている。
【請求項3】
請求項2に記載のホルダ本体において、前記第3吸引穴は、ホルダ本体に回転可能に装着されたリング部材に軸方向に開口するよう形成された吸込部と、該吸込部と前記第1,第2吸引穴の接続部付近とを連通可能に前記ホルダ本体に形成された連通部とを有し、前記リング部材の角度位置を調整することにより前記第3吸引穴の実質的な通路面積が調整可能となっている。
【請求項4】
請求項1に記載のホルダ本体において、前記刃具はコレットによりホルダ本体に装着されており、前記第3吸引穴は、前記コレットに、前記第1吸引穴の径方向外側に位置し、かつ軸方向に貫通するように形成されている。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−274206(P2009−274206A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114774(P2009−114774)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000146847)株式会社森精機製作所 (204)
【Fターム(参考)】