説明

ホース曲げ剛性測定装置

【課題】可撓性を有するホースの曲げ剛性を客観的に、かつ、正確に測定することができるホース曲げ剛性測定装置を提供する。
【解決手段】クロスヘッドの上昇により引張ローラ13Cが索体4を牽引すると、一対のロータリーディスク2,2が相互に逆向きに回動し、このロータリーディスク2,2に一対のホース固定具3を介して両端部が固定された供試ホースHに曲げ荷重が作用する。その際、ロードセル5により計測された牽引荷重と、索体4が巻き回されたロータリーディスク2,2の有効半径とによって供試ホースHに作用する曲げモーメントが測定され、画像処理装置により計測されたロータリーディスク2,2の回動角度によって供試ホースHの曲率が測定される。そして、測定された曲げモーメントと曲率とによって供試ホースHの曲げ剛性が客観的に、かつ、正確に測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホース曲げ剛性測定装置に関し、詳しくは、可撓性を有するゴムホースや樹脂ホースなどの供試ホースの曲げ剛性を測定するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の液体や気体を送出するための輸送用ホース、あるいは所定の圧力を供給するための圧力供給用ホースには、可撓性があって取り廻しのし易いゴムホースや樹脂ホースなどが一般に使用されている。
【0003】
この種のホースは、取り廻しがし易い反面、曲げ荷重が作用すると、キンクや座屈などにより潰れが発生して所定の流量が確保できなくなるおそれがある。そこで、この種のホースについては、どの程度の曲げ荷重に耐えられるかを予め測定しておく必要があり、従来一般には、手動による折り曲げ試験や万能型引張・圧縮試験機を用いた3点曲げ試験が行われていた。
【0004】
なお、この種のホースの曲げ荷重を測定可能な装置として、ホースの両端部を把持可能な一対のチャックと、一対のチャック間にてホースの中間部に吊るされる錘とを備えた「構造部材の力学挙動観察装置」が一般に開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3336387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した手動による折り曲げ試験では、試験者によって測定結果に差が生じるため、客観的な測定が困難である。一方、万能型引張・圧縮試験機を用いた3点曲げ試験では、圧縮治具がホースの表面に接触するため、ホースの表面に不整が生じてホースがキンクする際のモーメントや曲率を正確に測定することができず、殊に、曲率の大きい領域でのホースの曲げ剛性を正確に測定することができない。なお、特許文献1に記載された「構造部材の力学挙動観察装置」は、原理的には3点曲げ試験と同様であるため、同様の問題をはらんでいる。
【0006】
すなわち、従来例においては、可撓性を有するホースのモーメントや曲率を正確に測定することができず、殊に、曲率の大きい領域でのホースの曲げ剛性を客観的かつ正確に測定することができない。
【0007】
ところで、この種のホースの応力解析を行うコンピュータシミュレーションにおいて、幾何学的非線形性を考慮した梁としてホースをモデル化すると、メッシュ作成が簡便となって計算時間を短縮できる。この梁の構成則としては剛性が用いられているが、梁の構成則としての剛性は、線形としてだけではなく非線形な曲げモーメントと曲率の関係として計算することが可能である。
【0008】
そこで、この発明は、可撓性を有するホースの曲げ剛性を客観的に、かつ、正確に測定することができるホース曲げ剛性測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るホース曲げ剛性測定装置は、可撓性を有する供試ホースの曲げ剛性を測定するための装置であって、軸間距離が離れた状態から軸間方向に相互に接離可能に支持された一対のロータリーディスクと、各ロータリーディスクの軸心を通る中心線上にて各ロータリーディスクの側面の左右対称位置に前記供試ホースの両端部を固定する一対のホース固定具と、前記一対のロータリーディスクに対して端部が相互に逆向きに巻き回されて止着された索体と、前記一対のロータリーディスクを相互に逆向きに回動させるように前記索体を牽引可能な牽引手段と、前記索体の牽引荷重を測定する牽引荷重測定手段と、前記一対のロータリーディスクの回動角度を測定する回動角度測定手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
この発明に係るホース曲げ剛性測定装置では、牽引手段が索体を牽引すると、一対のロータリーディスクが相互に逆向きに回動し、この一対のロータリーディスクに一対のホース固定具を介して両端部が固定された供試ホースに曲げ荷重が作用する。その際、牽引荷重測定手段により計測された牽引荷重と、索体が巻き回されたロータリーディスクの有効半径とによって供試ホースに作用する曲げモーメントが測定され、回動角度測定手段により計測されたロータリーディスクの回動角度によって供試ホースの曲率が測定される。そして、測定された供試ホースの曲げモーメントと曲率とによって可撓性を有する供試ホースの曲げ剛性が客観的に、かつ、正確に測定される。
【0011】
ここで、索体とは、単線または撚線からなる糸、ワイヤ、コード、ケーブル、ロープ等を意味する。これらの索体の材料としては、天然繊維、合成繊維、鋼線、高強度繊維などが使用可能である。
【0012】
この発明のホース曲げ剛性測定装置において、前記牽引手段は万能引張試験機のクロスヘッドにより構成することができる。また、牽引手段は重量既知の錘により構成することもできる。
【0013】
また、前記牽引荷重測定手段はロードセルで構成し、このロードセルを介してクロスヘッドまたは錘が前記索体を牽引するように構成することができる。
【0014】
さらに、前記一対のロータリーディスクには、前記回動角度測定手段としての角度目盛またはエンコーダを付設することができる。また、一対のロータリーディスクには、前記牽引荷重測定手段に代わるトルクゲージを付設することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係るホース曲げ剛性測定装置によれば、牽引手段により索体を牽引して一対のロータリーディスクを相互に逆向きに回動させると、供試ホースに曲げ荷重が作用する。その際、牽引荷重測定手段により計測された牽引荷重と、索体が巻き回されたロータリーディスクの有効半径とによって供試ホースに作用する曲げモーメントが測定され、回動角度測定手段により計測されたロータリーディスクの回動角度によって供試ホースの曲率が測定される。従って、測定された供試ホースの曲げモーメントと曲率とによって可撓性を有する供試ホースの曲げ剛性を客観的に、かつ、正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照してこの発明に係るホース曲げ剛性測定装置の実施形態を説明する。参照する図面において、図1は一実施形態に係るホース曲げ剛性測定装置の全体構造を概略的に示す正面図、図2は図1に示したホース曲げ剛性測定装置の各部の構造を示す斜視図、図3は図2に示したホース曲げ剛性測定装置の正面図、図4は図2に示したホース曲げ剛性測定装置の側面図である。
【0017】
図1〜図4に示す一実施形態のホース曲げ剛性測定装置は、可撓性を有するゴムホースや樹脂ホースなどの供試ホースHの曲げ剛性を測定するための装置であって、図1に示した万能型引張試験機1を利用してその固定台1Aとクロスヘッド1Bとの間に構成されている。
【0018】
このホース曲げ剛性測定装置は、供試ホースHの両端部を一対のロータリーディスク2,2に着脱自在に固定するためのホース固定具3,3と、供試ホースHに曲げ荷重を作用させるように一対のロータリーディスク2,2を相互に逆向きに回動させるための索体4と、この索体4を牽引する牽引手段としてのクロスヘッド1Bと、索体4の牽引荷重測定手段としてのロードセル5と、一対のロータリーディスク2,2の回動角度を測定する回動角度測定手段としての画像処理装置6とを備えて構成されている。
【0019】
ここで、一対のロータリーディスク2,2の支持構造について説明すると、万能型引張試験機1の固定台1A上にはベースプレート7が固定され、このベースプレート7上には横長の前後一対の架台8,8がそれぞれ左右一対の支柱9,9を介して支持されている。前後一対の架台8,8上には左右方向に延びる前後一対のガイドレール10,10が略水平な姿勢で相互に平行に固定されており、各ガイドレール10にはそれぞれスライダ11が摺動自在に装着されている。そして、各スライダ11上にはそれぞれベアリングホルダ12が固定され、各ベアリングホルダ12には前後方向に延びるロータリーディスク2の中心軸2Aがそれぞれ回転自在に支持されている。
【0020】
このような支持構造により、一対のロータリーディスク2,2は、中心軸2A,2Aの軸間距離が左右に離れた状態で前後にオフセットして支持されており、中心軸2A,2Aの軸間方向に相互に干渉することなく接近できるようになっている。そして、このロータリーディスク2,2は、外周溝に索体4を巻き回させる滑車として構成されている。
【0021】
一対のホース固定具3(一方のみ図示する)は、前後にオフセットして左右に配置されている一対のロータリーディスク2,2の対向面において、そのロータリーディスク2,2の中心間を結ぶ基準線上の左右対称位置に配設されている。このホース固定具3は、図5に示すように、ロータリーディスク2の対向面に一片が固定されるL型ブラケット3Aと、このL型ブラケット3Aの他片に固定されるニップル3Bとを有する。そして、このニップル3Bに供試ホースHの端部を嵌合し、その嵌合部を図示しないクリップで締め付けることにより、前記基準線上に配置された供試ホースHの両端部が着脱自在に固定される。
【0022】
図2〜図4に示すように、索体4は、例えば細い鋼線を撚った細径のワイヤケーブルで構成されている。この索体4は、両端部が一対のロータリーディスク2,2に対し相互に逆向きに巻き回された状態で適宜の手段により止着されており、その中間部が一対のロータリーディスク2,2の内側部分から上方に引き出されている。そして、この上方に引き出された索体4の中間部は、引張治具13を介してロードセル5に吊持されており、このロードセル5は万能型引張試験機1のクロスヘッド1Bに固定されている。
【0023】
引張治具13は、ロードセル5の下部に縦軸廻りに回転自在に連結された支持ブロック13Aと、この支持ブロック13Aに上端部が横軸廻りに回転自在に連結された一対のアーム13B,13Bと、一対のアーム13B,13Bの下端部間に両端部が横軸廻りに回転自在に支持された横向きの引張ローラ13Cとを備えて構成されている。
【0024】
そして、一対のロータリーディスク2,2の内側部分から上方に引き出された索体4の中間部は、応力集中がないように、引張治具13の引張ローラ13Cの上面を周回してこれに支持されている。そして、この索体4の中間部は、クロスヘッド1Bの上方移動に応じて引張ローラ13Cが上方移動する際、索体4の両端部を介して一対のロータリーディスク2,2を相互に逆向きにバランス良く回動させるように構成されている。
【0025】
図1に示した画像処理装置6は、データ処理用のパーソナルコンピュータPCにデータを出力可能なCCDカメラ6Aを備えている。このCCDカメラ6Aは、例えば図5に示した一対の標線マーカM,Mを撮像することにより、両者の間隔の変化を観察する。すなわち、標線マーカM,Mが設けられた一対のベアリングホルダ12,12の間隔の変化から一対のロータリーディスク2,2の中心軸2A,2A間の距離の変化を観察する。
【0026】
また、CCDカメラ6Aは、例えば一方のロータリーディスク2に設けられたラインマークLの角度変化を観察してロータリーディスク2の回動角度を測定する。
【0027】
以上のように構成された一実施形態のホース曲げ剛性測定装置では、図1に示した万能型引張試験機1の作動に伴いクロスヘッド1Bが徐々に上昇すると、クロスヘッド1Bに固定されたロードセル5を介して引張治具13の引張ローラ13Cが上昇する。これに伴い、索体4の中間部が上方に引き上げられることにより、索体4の両端部を介して一対のロータリーディスク2,2が相互に逆向きにバランス良く回動する。そして、この一対のロータリーディスク2,2に一対のホース固定具3,3を介して両端部が固定された供試ホースHに曲げ荷重が作用する。
【0028】
その際、ロードセル5により索体4の牽引荷重(張力)Tが測定され、この牽引荷重(張力)Tと、索体4が巻き回されたロータリーディスク2の有効半径rとによって供試ホースHに作用する曲げモーメントMθがMθ=Trとして測定される。
【0029】
なお、このような供試ホースHの曲げモーメントMθの測定において、索体4とロータリーディスク2,2との間の摩擦力は、牽引荷重(張力)Tに較べて極めて小さいものと仮定して無視することとする。また、ロータリーディスク2,2間に働く水平分力は、ロータリーディスク2,2から引張ローラ13Cまでの距離が十分に長いものとして無視することとする。
【0030】
一方、画像処理装置6のCCDカメラ6Aによって観察されたラインマークLの角度変化からロータリーディスク2の回動角度が測定され、このロータリーディスク2の回動角度に基づいて供試ホースHの曲率が測定される。そして、測定された供試ホースHの曲げモーメントMθと曲率とによって可撓性を有する供試ホースHの曲げ剛性が客観的に、かつ、正確に測定される。
【0031】
なお、ロータリーディスク2の回動角度は、クロスヘッド1Bの移動量から推定される索体4の引出量と、ロータリーディスク2の有効半径rとから算出してもよい。
【0032】
このように、一実施形態のホース曲げ剛性測定装置によれば、測定された供試ホースHの曲げモーメントMθと曲率とによって可撓性を有する供試ホースHの曲げ剛性を客観的に、かつ、正確に測定することができる。
【0033】
この発明に係るホース曲げ剛性測定装置は、前述した一実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、索体4を上方に引き上げる構成としたが、逆に索体4を引き下げる構成としてもよい。また、例えば、索体4を牽引する牽引手段は、図6および図7に示すように、重量既知の錘Wで構成してもよい。この場合、一対のロータリーディスク2,2には一対の索体14,14の一端部が相互に逆向きに巻き回されて止着され、この一対の索体14,14の他端部に一対の錘W,Wが吊り下げられる。
【0034】
また、一対のロータリーディスク2,2には、その回動角度測定手段としての角度目盛やエンコーダを付設することができるし、ロードセル5に代わるトルクゲージを付設することができる。
【0035】
さらに、手前側の架台8には、一対のロータリーディスク2,2の中心軸2A,2A間の距離を測定するためのスケールSを必要に応じて適宜付設することができる。また、このスケールSに代えてリニヤゲージ、デジタルノギスなどの電気信号を出力できる変位計を付設すれば、一対のロータリーディスク2,2の中心軸2A,2A間の距離をリアルタイムで計測可能となる。
【0036】
また、牽引荷重測定手段としてのロードセル5は、これをばね秤やプッシュプルゲージ等に変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の一実施形態に係るホース曲げ剛性測定装置の全体構造を概略的に示す正面図である。
【図2】図1に示したホース曲げ剛性測定装置の各部の構造を示す斜視図である。
【図3】図2に示したホース曲げ剛性測定装置の正面図である。
【図4】図2に示したホース曲げ剛性測定装置の側面図である。
【図5】図2に示したロータリーディスク付近の構造を拡大して示す部分斜視図である。
【図6】図5に示したロータリーディスク付近の構造の変形例を示す部分斜視図である。
【図7】図6に示したロータリーディスク付近の構造の正面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 万能型引張試験機
1A 固定台
1B クロスヘッド
2 ロータリーディスク
3 ホース固定具
4 索体
5 ロードセル
6 画像処理装置
6A CCDカメラ
7 ベースプレート
8 架台
9 支柱
10 ガイドレール
11 スライダ
12 ベアリングホルダ
13 引張治具
13C 引張ローラ
H 供試ホース
W 錘
PC パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する供試ホースの曲げ剛性を測定するための装置であって、
軸間距離が離れた状態から軸間方向に相互に接離可能に支持された一対のロータリーディスクと、
各ロータリーディスクの軸心を通る中心線上にて各ロータリーディスクの側面の左右対称位置に前記供試ホースの両端部を固定する一対のホース固定具と、
前記一対のロータリーディスクに対して端部が相互に逆向きに巻き回されて止着された索体と、
前記一対のロータリーディスクを相互に逆向きに回動させるように前記索体を牽引可能な牽引手段と、
前記索体の牽引荷重を測定する牽引荷重測定手段と、
前記一対のロータリーディスクの回動角度を測定する回動角度測定手段とを備えていることを特徴とするホース曲げ剛性測定装置。
【請求項2】
前記牽引手段が万能引張試験機のクロスヘッドにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載のホース曲げ剛性測定装置。
【請求項3】
前記牽引手段が重量既知の錘により構成されていることを特徴とする請求項1に記載のホース曲げ剛性測定装置。
【請求項4】
前記牽引荷重測定手段がロードセルで構成されており、このロードセルを介してクロスヘッドまたは錘が前記索体を牽引するように構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のホース曲げ剛性測定装置。
【請求項5】
前記回動角度測定手段として前記一対のロータリーディスクに角度目盛が付設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のホース曲げ剛性測定装置。
【請求項6】
前記回動角度測定手段として前記一対のロータリーディスクにエンコーダが付設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のホース曲げ剛性測定装置。
【請求項7】
前記牽引荷重測定手段に代わるトルクゲージが前記一対のロータリーディスクに付設されていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のホース曲げ剛性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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