説明

ボイラ構成材料の腐食状況評価装置及びボイラ構成材料の監視システム

【課題】ユニット満水保管時のユニット構成材料の腐食状況程度をリアルタイムで評価することができるボイラ構成材料の腐食状況評価装置及びボイラ構成材料の監視システムを提供する。
【解決手段】ボイラ構成材料の腐食状況を評価するボイラ構成材料の腐食状況評価装置100であって、ボイラ構成材をボイラ水に浸漬してボイラ構成材の腐食を評価する腐食状況評価部101と、ボイラ水質を評価するボイラ水の水質評価部102とを具備してなり、ボイラ水の計測を連続又は所定間隔を持って計測することができ、腐食程度を総合評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ構成材料の腐食状況評価装置及びボイラ構成材料の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力発電プラント、原子力発電プラント、その他化学プラント等で用いられているボイラを停止する場合には、ボイラ配管等の構成材の腐食を防止する必要がある。そこで、短期間のユニット停止(2週間程度)から長期稼動停止に伴うユニット停止(数年間程度)時のユニット保管方法として、高純度水に防錆剤、pH調整剤を添加し満水保管する場合と、気化性防錆剤、窒素等の不活性ガス置換による乾燥保管の二種が採用されている。
【0003】
この保管においては、従来では、保管時水質の分析は実施しているが、ユニット構成材料の腐食状況評価手段が皆無であった(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】JIS B 8223「ボイラ給水及びボイラ水の水質3.3.1項」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来は長期保管期間中の腐食評価はその保管水質を分析評価することで間接的に材料腐食状況を評価しており、その構成材料の直接的評価は保管解除後に系内を確認することでのみ実施できた。
【0006】
しかし、従来法では保管期間中に構成材料の腐食が発生した場合の有効な腐食程度評価法が無く保管解除後に腐食が発見されたケースが少なくない、という問題がある。
また、従来の保管中水質サンプリング及び評価は手分析による方法を採用しているためユニット停止期間中にも関わらず専門の水質分析員の常駐が必要でランニングコストが高い、という問題がある。
【0007】
このため、ユニット満水保管時のユニット構成材料の腐食状況程度をリアルタイムで評価する装置の出現が望まれている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、ユニット満水保管時のユニット構成材料の腐食状況程度をリアルタイムで評価することができるボイラ構成材料の腐食状況評価装置及びボイラ構成材料の監視システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、ボイラ停止中のボイラ構成材料の腐食状況を評価するボイラ構成材料の腐食状況評価装置であって、ボイラ構成材をボイラ水に浸漬してボイラ構成材の腐食を評価する腐食状況評価部と、ボイラ水質を評価するボイラ水の水質評価部とを具備することを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記腐食状況評価部が、ボイラ構成材を実ボイラ水中に浸漬する密閉容器と、ボイラ構成材と参照電極との間の電位を計測する電位計とを具備することを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置にある。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、前記密閉容器がガラス容器又は窓部を有するプラスチックであることを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置にある。
【0012】
第4の発明は、第2の発明において、前記参照電極の健全性を評価する他の参照電極を具備することを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置にある。
【0013】
第5の発明は、第1の発明において、前記水質評価部が、サイクリックボルタメトリ法、腐食電位計測法、電気化学的評価手法のいずれか一つ又はこれらの組合せであることを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置にある。
【0014】
第6の発明は、第1の発明において、前記ボイラ水が実ボイラ水であることを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置にある。
【0015】
第7の発明は、第1乃至6のいずれか一つのボイラ構成材料の腐食状況評価装置と、評価結果から警報信号を発する警報装置とを具備することを特徴とするボイラ構成材料の監視システムにある。
【0016】
第8の発明は、第7の発明において、ボイラ水の計測を連続して計測する又は所定間隔を持って計測することを特徴とするボイラ構成材料の監視システムにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ボイラ構成材料の腐食状況評価装置により、ボイラ水の計測を連続又は所定間隔を持って計測することができ、腐食程度を総合評価することができる。これにより、従来法は所定時期毎の水質分析及び保管解除後の内面観察のみであったのが、実ボイラ水のリアルタイムの評価が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0019】
本発明による実施例1に係るボイラ構成材料の腐食状況評価装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例1に係るボイラ構成材料の腐食状況評価装置を示す概念図である。図1に示すように、本実施例に係るボイラ構成材料の腐食状況評価装置は、ボイラ停止中のボイラ構成材料の腐食状況を評価するボイラ構成材料の腐食状況評価装置100であって、ボイラ構成材をボイラ水に浸漬してボイラ構成材の腐食を評価する腐食状況評価部101と、ボイラ水質を評価するボイラ水の水質評価部102とを具備するものである。
【0020】
前記腐食状況評価部101は、図2にその一例を示すように、ボイラ構成材12を実ボイラ水13中に浸漬する第1密閉容器11と、ボイラ構成材12と第1参照電極23との間の電位を計測する電位計30とを具備するものである。図2中、符号14はボイラからの実ボイラ水13を供給する配管、15は実ボイラ水13の供給を停止する弁、16は所定間隔毎に実ボイラ水13を排出する排出管、17は排出を停止する弁である。
なお、実ボイラ水13はそのまま連続して評価することもできるが、定期的な入れ替えをして、所定期間毎の交換により、ボイラ配管内部の状況をより適切に判断するようにしてもよい。
【0021】
前記ボイラ構成材12は、裸鋼板又は裸鋼板に皮膜(例えば黒皮皮膜)を被覆した鋼板を用いる。裸鋼板の場合には、ボイラ内部の皮膜材料よりも腐食が早く進行するので、腐食の進行の傾向を予知することができ、好ましい。なお、両者を併用するようにしてもよい。
【0022】
また、前記第1密閉容器11がガラス容器又は窓部を有する容器であることが好ましい。これにより、ボイラ構成材12の腐食状況を目視観察することもできる。
これにより、従来法では保管解除後の内面観察のみであったのが、保管中の内面観察が可能となる。前記容器としては、例えばプラスチックあるいはガラス製の容器を使用が望ましい。
【0023】
以上の構成によるボイラ構成材料の腐食状況評価装置によれば、第1密閉容器11内の実ボイラ水13に試験片であるボイラ構成材12を浸漬し、外観と腐食電位の判定により、鋼板の腐食状態を判断し、実管の状態を推定することができる。
この結果、簡便に、実管の腐食状態を観察できる。また、実ボイラ水13を実ボイラと同じ環境(温度等)において計測を行うことで、誤差を低減することができる。ボイラ構成剤2の腐食評価と外観観察とを組み合わせることで、信頼性が向上する。
また、酸化皮膜のない裸鋼板を試験片として使用することで、保護皮膜を有する実ボイラ管が腐食する前に、腐食を感知することができる。
さらに、これらの評価結果を、中央処理装置(CPU)31で処理し、その結果をモニタ装置32で表示して、作業員に対して、警告等を発するようにすることができる。
【0024】
また、例えば図3に示すように、第3密閉容器40内の飽和KCl溶液22に浸漬した第2参照電極41を設け、ボイラ構成材12と第1参照電極23との電位を計測する第1電位計30−1と、第1参照電極23と第2参照電極41との電位を計測する第2電位計30−2とを具備することで、電気化学的評価に用いる標準電極を検定するにしている。これは、ヒドラジン還元雰囲気であるため標準電極電位が安易にずれやすく計測に影響を及ぼすことを防止し、標準電極の健全性確認をするためである。
【0025】
また、一例として記した図3においては、第1密閉容器11から第2密閉容器12まで、塩橋25で直接つながっているが、実ボイラ水13と飽和KCl液22の混合を低減させるため、その間に、別の密閉容器を設置し、塩橋で連結させるようにすることが望ましい。
【0026】
前記水質評価部102が、サイクリックボルタメトリ法、腐食電位計測法、電気化学的評価手法のいずれか一つ又はこれらの組合せである。
その一例を図4に示す。
図4に示すように、水質評価部102は、第4密閉容器60内に、実ボイラ水13を充填し、この実ボイラ水13に一対の白金(Pt)電極61、61を設置すると共に、第5密閉容器70内の飽和KCl溶液22に浸漬する第3参照電極71を設置し、これらをポテンショスタット53にて計測するようにしている。
【0027】
水質評価は、鉄の腐食への影響が大きいと考えられるヒドラジン、ORP(酸化還元電位計測)、pH等を計測する。
なお、実ボイラ水13は電気伝導度が低いため、無関係塩水溶液(Na2SO4)75を添加して、伝導率を増大させた条件で計測を行うようにしている。
この水質計測結果より、水質が鉄を腐食させる環境かどうかを判定することができる。
【0028】
この結果、サイクリックボルタメトリ法等を使用することで、水質の状態を簡便に、かつ多項目に亙って計測できる。また、図2に示す試験片の腐食評価と組み合わせることで、腐食状態の判定の信頼度が向上する。
【0029】
評価のモニタリング計測フロー図を図5及び図7に示す。
図5はボイラ構成材の計測フローであり、実ボイラ水を供給する(S−1)。次に、電気伝導度を計測する(S−2)。計測の結果を評価する(S−3)。電位が評価の範囲内であるときには、S−2において、次回の電気伝導度計測を行う。
評価の結果、範囲外の場合には、参照電極評価を行う(S−4)。この参照電極の評価におおいて、参照電極が不良である場合には、参照電極の交換を行う(S−5)。
一方、参照電極が良好である場合には、警報を出力する(S−6)。
【0030】
図6は、計測結果の一例を示すものであり、2週間毎に実ボイラ水13を交換して計測した結果である。I)及びII)の図面に示すように、4週間は全く変化が無かった。しかしながら、III)の図面に示すように、38日を過ぎるところから、電位に変化が見られ始めた。なお、ボイラ鋼材の材質及び防錆剤の種類・濃度及び保管環境により、電位は一定ではなく、ある程度の傾きで推移する場合があるので、所定の閾値はボイラ固有の閾値となり、個々に設定する必要がある。また、予めデータベースを取得してそのデータベースに基づき評価するようにしてもよい。
【0031】
図7は水質モニタリングのフローであり、実ボイラ水を供給する(S−11)。次に、水質を評価する(S−12)。評価の結果が良好であれば、評価を継続する。
評価の結果、範囲外の場合には、参照電極評価を行う(S−13)。この参照電極の評価において、参照電極が不良である場合には、参照電極の交換を行う(S−14)。
一方、参照電極が良好である場合には、警報を出力する(S−15)。
【0032】
これらの評価結果を、中央処理装置31で処理し、その結果をモニタ装置32で表示して、作業員に対して、警告等を発するようにすることができる。
このように、ボイラ構成材料の腐食状況評価装置100と、評価結果から警報信号を発する警報装置とを具備することでボイラ水の計測を連続又は所定間隔を持って計測することができ、腐食程度を総合評価することができる。これにより、従来法は所定時期毎の水質分析及び保管解除後の内面観察のみであったのが、実ボイラ水のリアルタイムの評価が可能となる。
【0033】
また、腐食状況のモニタリングは中央制御室(遠隔地)で監視可能であるので、本装置を用いた場合、材料腐食状況を腐食電位の推移及び変化状況で「正常」「危険」「異常」等の例えば三段階程度で警報信号を発信させることができる。よって、化学専門外の係員でも保管状況を把握することができる。この結果、従来法のように化学専門技術者による水質サンプリングし評価することが省略することができる。
【0034】
また、本発明では、実際のボイラ保管水を使用して腐食状況及び水質を評価するので、保管状況の把握が確実となる。
また、計測頻度を任意に設定可能であるため、短期保管から長期保管に亙って装置適用が可能である。
【0035】
また、保管範囲が広範囲に及ぶ場合、本装置を例えば上段、中段、下段等の多部位に設置し総合的に腐食評価することができる。
【0036】
さらに、評価対象がボイラ構成材料で無い場合も、その構成材料と電気化学的特性の関係を明確にできる場合、本装置のテストピース部を変更するのみで他対象物の腐食評価法としても使用可能である。また、評価適用対象は化学プラント冷却水ライン等の腐食又は水質評価にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明にかかるボイラ構成材料の腐食状況評価装置は、ニット満水保管時のユニット構成材料の腐食状況程度をリアルタイムで評価することができ、ボイラの長期満水保管の評価に用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例にかかるボイラ構成材料の腐食状況評価装置の概略図である。
【図2】実施例にかかる腐食状況評価部の概略図である。
【図3】実施例にかかる他の腐食状況評価部の概略図である。
【図4】実施例にかかる水質評価部の概略図である。
【図5】構成材評価のモニタリング計測フロー図である。
【図6】電位計測結果の一例を示す図である。
【図7】水質評価のモニタリング計測フロー図である。
【符号の説明】
【0039】
100 ボイラ構成材料の腐食状況評価装置
101 腐食状況評価部
102 水質評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ停止中のボイラ構成材料の腐食状況を評価するボイラ構成材料の腐食状況評価装置であって、
ボイラ構成材をボイラ水に浸漬してボイラ構成材の腐食を評価する腐食状況評価部と、
ボイラ水質を評価するボイラ水の水質評価部とを具備することを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記腐食状況評価部が、ボイラ構成材を実ボイラ水中に浸漬する密閉容器と、
ボイラ構成材と参照電極との間の電位を計測する電位計とを具備することを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記密閉容器がガラス容器又は窓部を有するプラスチックであることを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記参照電極の健全性を評価する他の参照電極を具備することを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記水質評価部が、サイクリックボルタメトリ法、腐食電位計測法、電気化学的評価手法のいずれか一つ又はこれらの組合せであることを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記ボイラ水が実ボイラ水であることを特徴とするボイラ構成材料の腐食状況評価装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つのボイラ構成材料の腐食状況評価装置と、評価結果から警報信号を発する警報装置とを具備することを特徴とするボイラ構成材料の監視システム。
【請求項8】
請求項7において、
ボイラ水の計測を連続して計測する又は所定間隔を持って計測することを特徴とするボイラ構成材料の監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−337331(P2006−337331A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165729(P2005−165729)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】