説明

ボイラ水系処理剤、及び、それを用いたボイラ水系の処理方法

【課題】ボイラ停止に際しても何等追加的な手段を講ずることなく、そのまま防食効果が発揮でき、また、再稼働に入っても何等支障を生じることなく、かつ、停止時の鉄スラッジの堆積による腐食発生を防止することができ、さらに、スケール防止効果をも有するボイラ水系処理剤を提供する。
【解決手段】ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上とを含有するボイラ水系処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ水系の処理技術に関し、稼働中のボイラ機器において高い防食効果及びスケール防止効果が得られるのみならず、ボイラ停止中にも鉄スラッジの発生が防止されているために鉄スラッジに起因する腐食が生じないボイラ水系処理剤、及び、それを用いたボイラ水系の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラは発生蒸気の使用状況に応じて稼働−停止が繰り返されることが多い。ここで通常は、稼働中のボイラ水系には防食剤を添加し、長期停止の際には保缶剤として例えばヒドラジンや亜硫酸塩を高濃度に添加するなどの他の防食手段を併せて講じ、再起働に際してはボイラ水を交換した上、新しく防食剤を添加する必要があるなど、運転操作を煩雑にするばかりか、ランニングコストも増大するという問題があった。
【0003】
このような問題に加え、さらに、ボイラの設置台数や運転方法により、上記停止の期間が数日間となったり、あるいは、数週間になったりと、状況により変動する場合がある。このため、このような、停止前に特別な処置が不要なボイラ水系処理剤が求められていた。
【0004】
ここで、例えば特開平6−108274号公報(特許文献1)では、タンニン類、リグニン類及び糖類より選ばれる天然物系の腐食抑制剤と、ホスホン酸もしくはその塩と、不飽和カルボン酸重合体とを併せて添加するボイラ水の処理方法が提案されている。
【0005】
この方法は安全性が高い薬品を用い、さらにスケールを安定的に分散させることにより、防食効果を実現できる方法であったが、ボイラ停止時の防食性は不充分であり、上記課題は解決されない。
【0006】
また、特開昭51−108101号公報(特許文献2)では、水系の腐食防止方法に関しジエチルヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン類を脱酸素剤(特許文献2中では「酸素清掃剤」として記載されている)として用いる技術が提案されているが、ボイラ停止時の防食性は不充分であり、やはり、上記課題は解決されない。
【特許文献1】特開平6−108274号公報
【特許文献2】特開昭51−108101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、ボイラ停止に際しても何等追加的な手段を講ずることなく、そのまま防食効果が発揮でき、また、再稼働に入っても何等支障を生じることなく、かつ、停止時の鉄スラッジの堆積による腐食発生を防止することができ、さらに、スケール防止効果をも有するボイラ水系処理剤及びボイラ水系の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のボイラ水系処理剤は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上とを含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のボイラ水系の処理方法は、ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上とを、ボイラ水中に添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のボイラ水系処理剤及び本発明のボイラ水系の処理方法によれば、ボイラ稼働中は勿論のこと、ボイラ停止に際しても何等追加的な手段を講ずることなく、そのまま防食効果が発揮でき、また、再稼働に入っても何等支障を生じることがない。さらに、本発明のボイラ水系処理剤及び本発明のボイラ水系の処理方法によれば、鉄スラッジの堆積による腐食発生を防止することができ、このため、鉄スラッジの多いボイラ水系においても高い防食効果が維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のボイラ水系処理剤は、ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上とを含有することが必要である。このような2つの構成要件の相乗効果により、鉄スラッジの発生が抑制され、従って、ボイラ停止時のボイラ内の鉄スラッジ堆積が防止され、その結果、鉄スラッジの堆積による腐食発生を効果的に防止することができる。
【0012】
本発明におけるジエチルヒドロキシルアミンはボイラ分野において脱酸素剤としての効果が知られているが、本発明ではその効果に加え、ジエチルヒドロキシルアミンは不飽和カルボン酸重合体共存下で、ボイラ停止時のボイラ内の鉄スラッジ堆積を防止すると云う機能を果たす。
【0013】
また、本発明における不飽和カルボン酸重合体とは、不飽和カルボン酸モノマーからなる重合体であり、不飽和カルボン酸モノマーの不飽和結合としては通常エチレン基由来の不飽和結合を指す。このような不飽和カルボン酸重合体はボイラ分野において、スケール防止剤として用いられており、本発明においても稼働時のスケール防止成分としても機能する。
【0014】
ここで、不飽和カルボン酸重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸、あるいはマレイン酸のいずれかのホモポリマーであるか、アクリル酸、メタクリル酸、及び、マレイン酸から選ばれる2種以上の不飽和カルボン酸モノマーからなる共重合体、あるいは、アクリル酸、メタクリル酸、及び、マレイン酸から選ばれる1種以上の不飽和カルボン酸モノマーと、これら不飽和カルボン酸モノマーと共重合し得る他の化合物(モノマー)との共重合体が挙げられる。
【0015】
このような他の化合物としては、例えば、フマル酸、イタコン酸、アクリルアミド、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、エチレンオキサイド、エチレン、n−ブチレン、イソブチレン、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタアクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0016】
ここで、より高い鉄スラッジ分散性および防食性が得られるため、上記不飽和カルボン酸重合体がポリアクリル酸であることが好ましい。また、不飽和カルボン酸重合体としてスルホン酸基および/またはホスフィン酸基を含むものであっても良い。
【0017】
本発明における不飽和カルボン酸重合体の分子量としては、優れた防食効果が得られる点で、通常500以上100000以下、好ましくは1000以上20000以下であることが好ましい。
【0018】
本発明で用いられる上記成分のボイラ水系への添加量は、ジエチルヒドロキシルアミンが1mg/L以上500mg/L以下、不飽和カルボン酸重合体が1mg/L以上200mg/L以下であることが、鉄スラッジの堆積防止効果及び防食効果あるいは経済上の観点から好ましい。上記各成分は、定められた濃度になるように別々に添加しても良いし、予め混合して添加しても良い。また、上記各成分はボイラ水系の補給水ラインに添加しても良く、あるいは、ボイラに直接添加しても良い。
【0019】
本発明に係るボイラ水系処理剤は、ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上以外にも、ボイラ水系処理剤の効果を高め、あるいは、他の効果を付与するものとして通常、配合される他の成分を適量含んでいても良い。
【0020】
このような他の成分として、例えば、他の防食剤、スケール防止剤、復水処理剤、pH調整剤等、具体的には、亜硝酸塩、亜鉛塩、錫塩、モリブデン酸又はその塩、ヒドラジン、カルボヒドラジド、メチルエチルケトオキシム、没食子酸、タンニン、リグニン、リグニンスルホン酸、糖類、アスコルビン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩、オキシカルボン酸又はその塩、燐酸又はその塩、アミノトリメチレンホスホン酸又はその塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸又はその塩、ホスホノブタントリカルボン酸又はその塩、エチレンジアミン四酢酸又はその塩、ニトリロ三酢酸又はその塩、アミノメチルプロパノール、オクタデシルアミン、モルホリン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などの一種又は二種以上を挙げることができる。
【0021】
本発明に係るボイラ水系処理剤は従来のボイラ用防食剤同様に、ボイラ水系に適量添加して用いることができる。ボイラ水系処理剤は、このようなボイラ水系への添加により、ボイラ停止時、あるいは、停止前に特別な措置を行うことなく、ボイラ停止に際しても、そのまま防食効果が発揮でき、また再稼働に入っても何等支障を生じることなく、かつ、ボイラ停止時における鉄スラッジの堆積による腐食発生を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明のボイラ水系処理剤の実施例について具体的に説明する。
<鉄スラッジ抑制能の評価>
基礎検討として、いくつかのボイラ水系処理剤組成物について、鉄スラッジ発生防止能力を評価した。
【0023】
水酸化カリウムを用いてpH11.5に調整した、つくば市水道水をカチオン交換樹脂によりカチオンをナトリウムイオンとした軟化水(「つくば市軟化水」と云う。)に対して、塩化鉄(II)(塩化第一鉄)を鉄濃度として40mg/Lとなるように添加し、その後75℃に保ち、300rpmで2時間攪拌した。その後さらに、表1に示された、実施例1〜4及び比較例1〜6、計10種のボイラ水系処理剤サンプルのいずれかを添加し、75℃に保ちながら、300rpmで24時間撹拝した。
【0024】
その後、試験水を孔径が0.45μm、あるいは0.2μmのフィルタを用いてそれぞれ濾過し、濾液中の全鉄濃度を原子吸光光度法により測定した。これら実験結果を表1に併せて記載する。
【0025】
なお、表1中、ポリアクリル酸としては東亜合成社製アロンA−20UK(平均分子量:6000)を、AA−AMPS共重合体はアクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体(東亜合成社製アロンA−6016、平均分子量:2000)を、ホスフィン酸基を含むアクリル酸共重合体であるビス(ポリカルボキシエチル)ホスフィン酸はグレートレークスケミカル社製ベルスパース164(平均分子量:1200)を、HEDPはヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸を、PBTCは2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸をそれぞれ示す。また表中濾過した濾液中の全鉄濃度「<0.5」は鉄濃度が検出下限の0.5mg/L未満であったことを示す(以下同じ)。
【0026】
【表1】

【0027】
表1により、本発明に係るボイラ水系処理剤を添加した系では、液中の溶存鉄の濃度がまったく、ないし、殆ど低下しないことが判り、本発明に係るボイラ水系処理剤により鉄スラッジの発生を低く抑えられることが判る。
【0028】
<ボイラ停止時の鉄スラッジ発生抑制・防食能の評価>
ボイラ停止時の鉄スラッジ堆積による腐食発生を想定して防食能の評価を行った。
【0029】
上記同様のつくば市軟化水に水酸化カリウムを添加してpHを11.5に調整し、次いで鉄濃度が40mg/Lとなるように塩化鉄(II)を添加し、その後、300rpmで攪拌をしながら75℃に2時間保った後、表2に示す実施例5、6及び比較例7及び8の計4種のボイラ水系処理剤サンプルのいずれかを添加し、75℃に保ちながら、300rpmで24時間撹拝した。
【0030】
これら鉄を含むサンプル液(1000mL)を容れた容器中に40mm×60mm×2mmの大きさの軟鋼製テストピースを容器の底に水平になるように浸漬し、60℃に保ち、3日間静置し、そのときのテストピースの腐食度を測定した。結果を表2に併せて記載する。なお、表2中、「薬品無添加」はボイラ水系処理剤組成物を添加しなかった系での結果である。
【0031】
【表2】

【0032】
表2により本発明に係るボイラ水系処理剤を添加した系では、ボイラ停止時を想定した条件であっても、腐食の進行が著しく抑制できることが判る。なお、比較例7〜9での腐食は、水平に置かれた上側の面に甚だしく生じており、かつ、それらの面には鉄スラッジの堆積が確認された。
【0033】
一方、本発明に係るボイラ水系処理剤を添加した系では、水平に置かれたテストピースにおける上側の面へのスラッジの堆積は殆ど観察されず、腐食もテストピースの固定部位に認められただけであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ボイラ稼働中は勿論のこと、ボイラ停止に際しても何等追加的な手段を講ずることなく、そのまま防食効果が発揮でき、また再稼働に入っても何等支障を生じることなく、かつ、停止時の鉄スラッジの堆積による腐食発生を防止することができる、高い防食効果が維持され、さらに、スケール防止効果をも有するボイラ水系処理剤と、それを用いたボイラ水系の処理方法であり、特に稼働−停止の頻度の高いボイラ水系で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上とを含有することを特徴とするボイラ水系処理剤。
【請求項2】
前記不飽和カルボン酸重合体がアクリル酸、メタクリル酸、及び、マレイン酸のいずれかのホモポリマーであるか、アクリル酸、メタクリル酸、及び、マレイン酸から選ばれる2種以上の不飽和カルボン酸モノマーからなる共重合体、あるいは、アクリル酸、メタクリル酸、及び、マレイン酸から選ばれる1種以上の不飽和カルボン酸モノマーと、該モノマーと共重合し得る他の化合物との共重合体であることを特徴とする請求項1記載のボイラ水系処理剤。
【請求項3】
前記不飽和カルボン酸重合体がポリアクリル酸であることを特徴とする請求項1記載のボイラ水系処理剤。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸重合体がスルホン酸基および/又はホスフィン酸基を含むことを特徴とする請求項1記載のボイラ水系処理剤。
【請求項5】
ジエチルヒドロキシルアミンと、不飽和カルボン酸重合体の1種または2種以上とを、ボイラ水中に添加することを特徴とするボイラ水系の処理方法。

【公開番号】特開2006−225742(P2006−225742A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−43688(P2005−43688)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】