説明

ボツリヌストキシンの局所適用及び経皮送達のための組成物及び方法

ボツリヌストキシン(ボツリヌストキシン誘導体を含む)を局所適用するための組成物は、ボツリヌストキシン、及び正に帯電した分枝基若しくは「効果」基が結合している長鎖ポリペプチド又は非ペプチジルのポリマーを含むポリマーの主鎖を含む担体を含んでいる。本発明は、筋肉の麻痺、及びボツリヌストキシンで処置することができる他の状態、詳しくは、皮下の麻痺、最も詳しくは、顔面の筋肉を、有効な量のボツリヌストキシン及び担体を組み合わせて、対象の皮膚又は上皮に局所的に適用することにより緩和するための方法にも関する。投与するためのキットも記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年3月3日に出願された米国仮特許出願第60/550015号の優先権の利益を主張するものである。米国特許仮出願第60/550015号の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外部環境の脅威から身体の器官を保護し、身体の温度を維持するためのサーモスタットの役割を果たす。皮膚は、いくつかの異なる層からなり、それぞれは特殊な機能を有する。主要な層には、表皮、真皮、及び下皮が含まれる。表皮は、結合組織からなる、真皮の上に横たわる上皮細胞の層状の層である。表皮と真皮の双方とも、皮下組織、即ち脂肪組織の内層によってさらに支持されている。
【0003】
表皮、即ち皮膚の最上層は、0.1〜1.5ミリメートルの厚さしかない(Inlander, Skin, New York, NY: People's Medical Society, 1-7 (1998))。表皮は、ケラチノサイトからなり、分化状態に基づいていくつかの層に分けられる。表皮は、角質層、並びに、顆粒メルピギー(melphigian)及び基底細胞からなる分裂可能な表皮にさらに分類することができる。角質層は吸湿性であり、その屈曲性及び柔軟性を維持するために少なくとも10%重量の水分を必要とする。吸湿性は、ある程度は、ケラチンの保水力に起因し得る。角質層は、その柔軟性及び屈曲性を失うと、粗く且つ脆くなり、乾燥した皮膚を生じる。
【0004】
表皮の真下に横たわる真皮は、1.5〜4ミリメートルの厚さである。これは、皮膚の3種の層のうちで最も厚い。さらに、真皮は、汗腺及び皮脂腺(孔(pore)と呼ばれる皮膚中の開口部、又は面ぽうを通して物質を分泌する)、毛穴、神経終末、並びに血管及びリンパ管を含めて、皮膚構造体の大部分が存在する場所でもある(Inlander, Skin, New York, NY:People's Medical Society, 1-7 (1998))。しかし、真皮の主成分は、コラーゲン及びエラスチンである。
【0005】
皮下組織は、皮膚の最下層である。皮下組織は、体温維持のための絶縁体としての役割と器官保護のための衝撃吸収材としての役割の両方を果たす(Inlander, Skin, New York, NY: People's Medical Society, 1-7 (1998))。さらに、皮下組織はまた、エネルギー備蓄のために脂肪を蓄える。皮膚のpHは、一般に5〜6である。この酸性度は、皮脂腺の分泌物に由来する両性のアミノ酸、乳酸、及び脂肪酸の存在に起因する。「酸外套(acid mantle)」という用語は、皮膚の大部分の領域に水溶性物質が存在することに関係する。皮膚の緩衝能は、一部には、皮膚の角質層で蓄積されているこれらの分泌物によるものである。
【0006】
しわは、加齢の証拠となる徴候の1つであり、環境的損傷から蓄積する生化学的、組織学的、及び生理的変化によって引き起こされ得る(Benedetto, International Journal of Dermatology, 38:641-655 (1999))。さらに、顔のしわの特徴的なひだ、溝、及び折り目を引き起こし得る他の2次因子もある(Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nded., St. Louis, MO: Mosby Year Book: 5-15 (1990))。これらの2次因子としては、重力の恒常的な引張り、皮膚に対する高頻度且つ恒常的な位置的圧力(即ち、就寝中)、及び顔筋の収縮によって生じる反復性の顔面運動が挙げられる(Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nded., St. Louis, MO: Mosby Year Book: 5-15 (1990))。加齢の徴候のうちのいくつかを潜在的に軽減するために、様々な技術が利用されている。これらの技術は、αヒドロキシ酸及びレチノールを含有する顔用保湿剤から、外科的処置及び神経毒素の注射にまで及ぶ。
【0007】
皮膚の主要機能のうちの1つは、水及び正常な恒常性に対して潜在的に有害な物質の輸送に対する障壁を提供することである。丈夫な半透性の皮膚が無ければ、身体は急速に水分を失うはずである。皮膚は、有害物質の身体への進入を防止するのに寄与する。大半の物質は、この障壁を透過することができないが、皮膚の透過性を選択的に高めるためにいくつかの戦略が開発され、いくらか成功を収めている。
【0008】
ボツリヌストキシン(ボツリヌス(botulin)トキシン又はボツリヌス神経毒素としても公知である)は、グラム陽性細菌のボツリヌス菌(Clostridium botulinum)によって産生される神経毒素である。これらは、神経筋接合部を通過するアセチルコリンのシナプス伝達又は放出を防止することによって、筋肉の麻痺を生じさせる作用を果たし、同様に他の方法でも作用すると考えられている。それらの作用は、本質的には、普通なら筋肉の痙攣又は収縮を引き起こして麻痺をもたらすはずであるシグナルを遮断する。
【0009】
ボツリヌストキシンは、血清学的に関連しているが異なる、8種の神経毒素に分類されている。これらのうち、7種、即ち、ボツリヌス神経毒素の血清型A、B、C、D、E、F、及びGは、麻痺を引き起こすことができる。これらのそれぞれは、型特異的抗体による中和によって区別される。それでもなお、ボツリヌストキシンタンパク質分子の分子量は、これらの活性なボツリヌストキシン血清型の7種すべてにおいて、約150kDである。細菌によって放出されるとき、ボツリヌストキシンは、結合した無毒性タンパク質と共に当該の150kDボツリヌストキシンタンパク質分子を含む複合体である。A型ボツリヌストキシン複合体は、900kD、500kD及び300kD型として、クロストリジウム(Clostridia)属細菌によって産生され得る。B型及びC型ボツリヌストキシンは、700kD又は500kDの複合体としてのみ産生されるようである。D型ボツリヌストキシンは、300kD及び500kDの双方の複合体として産生される。E型及びF型ボツリヌストキシンは、約300kDの複合体としてのみ産生される。これらの複合体(即ち分子量が約150kDより大きいもの)は、無毒素のヘマグルチニンタンパク質及び無毒素且つ無毒性の非ヘマグルチニン(nonhemaglutinin)タンパク質を含有すると考えられている。これら2種の無毒性タンパク質(ボツリヌストキシン分子と共に、当該の神経毒素複合体を含む)は、ボツリヌストキシン分子に対する変性に対抗する安定性、及びトキシンが経口摂取された場合の、消化酸からの保護を実現する役割を果たすことができる。さらに、より大型の(分子量が約150kDより大きい)ボツリヌストキシン複合体は、ボツリヌストキシン複合体の筋肉内注射部位から離れた場所に、より遅い速度でボツリヌストキシンを拡散させることができる。
【0010】
様々な血清型のボツリヌストキシンは、作用する動物種、並びに誘発する麻痺の重症度及び持続期間において異なる。例えば、ラットで生じる麻痺の速度で評価すると、A型ボツリヌストキシンは、B型ボツリヌストキシンより500倍強力であることが測定されている。さらに、B型ボツリヌストキシンは、A型に対する霊長類のLD50の約12倍である480U/kgの用量では、霊長類において無毒性であることが確認されている。ボツリヌストキシンの分子サイズ及び分子構造が原因となって、ボツリヌストキシンは、角質層及びその下にある皮膚構造の複数の層を通過することができない。
【0011】
ボツリヌス中毒、即ち、全身性のボツリヌストキシン暴露に起因する特徴的な症状群は、古代からヨーロッパで存在していた。1895年に、Emile P. van Ermengemは、ベルギーでボツリヌス中毒が原因で死んだ犠牲動物の死後組織から得た生の塩漬け豚肉から、嫌気性の胞子形成桿菌を初めて単離した。Van Ermengemは、彼がバチルスボツリヌス(Bacillus botulinus)と呼んだものによって産生される細胞外毒素によって疾患が引き起こされることを発見した(Van Ermengem, Z Hyyg Infektionskr, 26:1-56; Rev Infect (1897))。この名称は、1922年にクロストリジウムボツリヌス(Clostridium botulinum)に変更された。クロストリジウムという名称は、その微生物の嫌気性の性質、また、その形態学的特徴を反映するために使用された(Carruthers and Carruthers, Can J Ophthalmol, 31:389-400 (1996))。1920年代には、食中毒のさらなる集団発生後に、A型ボツリヌストキシンの粗製の型が単離された。サンフランシスコ州カリフォルニア大学のHerman Sommer博士は、神経毒素を精製しようと初めて試みた(Borodic et al., Ophthalmic Plast Recostr Surg, 7:54-60 (1991))。1946年に、Edward J. Schantz博士及び彼の同僚は、結晶型の神経毒素を単離した(Schantz et al., In: Jankovi J, Hallet M (Eds) Therapy with Botulinum Toxin, New York, NY: Marcel Dekker, 41-49 (1994))。1949年までに、Burgen及び彼の共同研究者は、 ボツリヌストキシンが、神経筋接合部を通過するインパルスを遮断することを実証することに成功した(Burgen et al., J Physiol, 109:10-24 (1949))。Allan B. Scottは、1973年に、サルでA型ボツリヌストキシン(BTX−A)を初めて使用した。Scottは、可逆性の眼筋麻痺が3カ月持続することを実証した(Lamanna, Science, 130:763-772 (1959))。その後すぐに、BTX−Aは、ヒトの斜視、眼瞼痙攣、及び痙性斜頚の上出来の治療薬であることが報告された(Baron et al., In: Baron EJ, Peterson LR, Finegold SM (Eds), Bailey & Scotts Diagnostic Microbiology, St. Louis, MO: Mosby Year Book, 504-523 (1994); Carruthers and Carruthers, Adv Dermatol, 12:325-348 (1997); Markowitz, In: Strickland GT (Eds) Hunters Tropical Medicine, 7th ed. Philadelphia: W.B. Saunders, 441-444 (1991))。1986年に、Jean及びAlastair Carruthers、即ち、眼科形成外科医及び皮膚科医からなる夫妻のチームは、眉間領域における動作に関連したしわを治療するためのBTX−Aの美容用途を開発し始めた(Schantz and Scott, In Lewis GE (Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York:Academic Press, 143-150 (1981))。CarruthersはBTX−Aをしわの治療用に使用し、1992年に彼らはこの手法に関する影響力の大きい論文を発表した。(Schantz and Scott, In Lewis GE (Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York: Academic Press, 143-150 (1981))。1994年までに、同チームは、動作に関連した顔面の他のしわを用いた経験を報告した(Scott, Ophthalmol, 87:1044-1049 (1980))。これは、結果として、美容用のBTX−A治療の時代の誕生をもたらした。
【0012】
A型ボツリヌストキシンは、人類に知られている最も致死的な天然の生物学的作用物質であると言われている。ボツリヌス菌(C.botulinum)の胞子は土壌中に存在し、また、不適切に滅菌され、密封された食品容器中で増殖することができる。この細菌を経口摂取すると、致死的になることがあるボツリヌス中毒を引き起こし得る。同時に、ボツリヌストキシンの筋肉麻痺効果は、治療効果のためにも使用されている。ボツリヌストキシンの制御投与は、病態、例えば、機能亢進性の骨格筋を特徴とする神経筋障害を治療するために筋肉麻痺を与えるのに使用されている。ボツリヌストキシンで治療されている病態としては、片側顔面痙攣、成人発症型痙性斜頚、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、頚部ジストニア、片頭痛、斜視、顎(temperomandibular)関節障害、並びに様々なタイプの筋痙攣及び痙攣が挙げられる。より最近では、ボツリヌストキシンの筋肉麻痺効果は、しわ、眉間のしわ、及び顔面筋肉の痙攣又は収縮による他の結果の治療など治療的及び美容的な顔への用途に利用されている。
【0013】
ボツリヌストキシンの局所適用は、適用が無痛性であること、包含され得る治療表面積がより大きいこと、より高い特異的活性を有する純粋な毒素を調製できること、ボツリヌス治療薬を使用するための訓練の必要性が軽減されること、所望の効果を発揮するのに必要な用量がより少ないこと、及び治療的な臨床結果に達するための大量の毒素の溜まり場がないことによって、より安全でより望ましい治療の代替手段となる。注射を必要としない数々の病状を処置し、又は予防するための、ボツリヌストキシンを経皮送達するための効果的な手段、及びボツリヌストキシンを投与するための効果的な手段は、このように非常に望ましい。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/550015号
【非特許文献1】Inlander, Skin, New York, NY:People's Medical Society, 1-7 (1998)
【非特許文献2】Benedetto, International Journal of Dermatology, 38:641-655 (1999)
【非特許文献3】Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nded., St. Louis, MO: Mosby Year Book: 5-15 (1990)
【非特許文献4】Van Ermengem, Z Hyyg Infektionskr, 26:1-56; Rev Infect (1897)
【非特許文献5】Carruthers and Carruthers, Can J Ophthalmol, 31:389-400 (1996)
【非特許文献6】Borodic et al., Ophthalmic Plast Recostr Surg, 7:54-60 (1991)
【非特許文献7】Schantz et al., In: Jankovi J, Hallet M (Eds) Therapy with Botulinum Toxin, New York, NY: Marcel Dekker, 41-49 (1994)
【非特許文献8】Burgen et al., J Physiol, 109:10-24 (1949)
【非特許文献9】Lamanna, Science, 130:763-772 (1959)
【非特許文献10】Baron et al., In: Baron EJ, Peterson LR, Finegold SM (Eds), Bailey & Scotts Diagnostic Microbiology, St. Louis, MO: Mosby Year Book, 504-523 (1994)
【非特許文献11】Carruthers and Carruthers, Adv Dermatol, 12:325-348 (1997)
【非特許文献12】Markowitz, In: Strickland GT (Eds) Hunters Tropical Medicine, 7th ed. Philadelphia: W.B. Saunders, 441-444 (1991)
【非特許文献13】Schantz and Scott, In Lewis GE (Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York:Academic Press, 143-150 (1981)
【非特許文献14】Scott, Ophthalmol, 87:1044-1049 (1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、ボツリヌストキシンを含む新規な組成物に関し、より詳しくはボツリヌストキシンの皮膚又は上皮による輸送又は送達(「経皮送達」とも呼ばれる)を可能にし、したがって本明細書に記載するように様々な治療上の、審美上の、及び/又は美容上の目的で対象にボツリヌストキシンを提供するための局所適用として用いることのできる組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、ボツリヌストキシン及び担体を含む組成物を提供することである。担体は、正の電荷を持つ分枝基が結合しているポリマーの主鎖を有する。担体とボツリヌストキシンの間の結合は、非共有結合性である。
【0016】
本発明の別の態様は、ボツリヌストキシンを対象に投与するためのキットを提供することである。キットは、その経皮送達に有効な量で存在するボツリヌストキシン、及び正に帯電した分枝基が結合しているポリマーの主鎖を有する担体を含む。担体とボツリヌストキシンの間の結合は、非共有結合性である。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、ボツリヌストキシンを対象に投与するためのキットを提供することである。このキットは、ボツリヌストキシンを皮膚に送達するための装置、並びに−(gly)n1−(arg)n2、HIV−TATとその断片、及びアンテナペディアPTDから選択される正に帯電した分枝基が結合しているポリマーの主鎖を有する担体を含む組成物を含み、式中、下付文字n1は0から約20までの整数であり、下付文字n2は独立に約5から約25までの奇数の整数である。
【0018】
本発明は、ボツリヌストキシンを有効な量の担体と組み合わせて対象の皮膚又は上皮に局所的に適用することに関する、ボツリヌストキシンを対象に投与する方法も提供する。担体は、正に帯電した分枝基が結合しているポリマーの主鎖を有し、ボツリヌストキシンと非共有結合で結合している。
【0019】
一態様では、本発明は、(本明細書で定義する)ボツリヌストキシンと、本明細書ですべて説明するような、正に帯電した分枝又は「効率」基を持つ正に帯電した「主鎖」を含む担体とを含む組成物に関する。最も好ましくは、正に帯電した担体は、長鎖の正に帯電したポリペプチド、又は正に帯電した非ペプチジルポリマー、例えばポリアルキレンイミンである。本発明はさらに、好ましくは、このような治療を必要とする対象又は患者の皮膚に、有効量のこのような組成物を局所的に適用することによって、筋肉麻痺、過分泌若しくは発汗の低減、神経性の疼痛若しくは片頭痛の治療、筋肉痙攣の低減、座瘡の予防若しくは軽減、又は、免疫応答の低減若しくは増進などの生物学的効果を生み出すための方法に関する。本発明はまた、例えば、顔筋に注射する方法の代わりに、顔にボツリヌストキシンを局所適用することによって、審美効果又は美容効果を生み出すための方法にも関する。
【0020】
本発明はまた、担体及びボツリヌストキシンを含む組成物を調製又は配合するためのキット、並びに、使用可能な調製物を作製するのに必要な追加品目、又はそのような調製物を作製するのに次いで使用することができるプレミックスも提供する。或いは、キットは、ボツリヌストキシン及び担体を、別々であるが組み合わせて対象に投与するための手段を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、ボツリヌストキシンを適切な製剤の局所適用により送達するための、特に経皮送達するための組成物、及び方法を提供する。
【0022】
本発明によると、本明細書に記載する、効果基を有する正に帯電した担体分子が、ボツリヌストキシンの輸送システムとして適切であることが見出されており、この毒素を筋肉及び/又は他の皮膚に関連する構造に経皮的に適用するのが可能となっている。輸送は、ボツリヌストキシンの共有結合性の修飾なしで起こる。
【0023】
「正に帯電した」とは、その担体が、少なくともいくつかの液相条件下で、より好ましくは少なくとも、いくつかの生理学的に適合する条件下で正電荷を有することを意味する。より詳細には、本明細書で使用する「正に帯電した」とは、問題の基が、例えば第4級アミンなど、すべてのpH条件下で帯電している官能基を含むこと、又は、第1級アミンの場合のpH変化など特定の液相条件下で正電荷を獲得することができる官能基を含むことを意味する。より好ましくは、本明細書で使用する「正に帯電した」とは、生理学的に適合する条件の間に、陰イオンと結合する挙動を起こすグループを意味する。当業者には明らかであるように、正に帯電した部分を多数有するポリマーが、ホモポリマーである必要はない。当業者には明らかであるように、正に帯電した部分の他の例は従来技術で周知であり、容易に使用することができる。
【0024】
一般に、正に帯電した担体(「正に帯電した主鎖」とも呼ぶ)は、典型的には、原子の直鎖であり、生理的pHで正電荷を有する基を鎖中に含み、又は、主鎖から伸びた側鎖に結合された、正電荷を有する基を含む。好ましくは、正に帯電した主鎖それ自体は、所定の酵素活性又は治療的生物活性を有していないと考えられる。直鎖状の主鎖は、炭化水素主鎖であり、いくつかの実施形態では、窒素、酸素、硫黄、ケイ素、及びリンから選択されるヘテロ原子が割り込んでいる。主鎖の原子の大半は、通常は、炭素である。さらに、主鎖は、しばしば、繰り返し単位(例えば、アミノ酸、ポリ(エチレンオキシ)、ポリ(プロピレンアミン)、ポリアルキレンイミンなど)のポリマーであるだけでなく、ヘテロポリマーであってもよい。実施形態の1つの群では、正に帯電した主鎖は、いくつかのアミン窒素原子が、正電荷を有するアンモニウム基(4置換型)として存在するポリプロピレンアミンである。別の実施形態では、正に帯電した主鎖は、ポリアルキレンイミン、例えばポリエチレンイミン又はポリプロピレンイミンなど、約10,000〜約2,500,000、好ましくは約100,000〜約1,800,000、最も好ましくは約500,000〜1,400,000の分子量を有する、ヘテロポリマーでもホモポリマーでもよい非ペプチジルポリマーである。実施形態の別の群では、主鎖は、正に帯電した基(例えば、アンモニウム基、ピリジニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、グアニジウム基、アミジニウム基)を含む複数の側鎖部分を結合している。実施形態のこの群における側鎖部分は、主鎖に沿って、距離が一定又は様々である間隔で配置されていてよい。さらに、側鎖の長さは類似していても異なっていてもよい。例えば、実施形態の1つの群では、側鎖は、1〜20個の炭素原子を有し、前述の正に帯電した基のうちの1つの(主鎖から離れた)末端で終わっている、直鎖状又は分枝状の炭化水素鎖でよい。本発明のすべての態様において、担体と生物学的に活性な作用物質との結合は、非共有結合性の相互作用によるものであり、その非限定的な例としては、イオン性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、又はそれらの組合せを挙げることができる。
【0025】
実施形態の1つの群では、正に帯電した主鎖は、正に帯電した複数の側鎖基(例えば、リジン、アルギニン、オルニチン、ホモアルギニンなど)を有するポリペプチドである。好ましくは、このポリペプチドは、約10,000〜約1,500,000、より好ましくは約25,000〜約1,200,000、最も好ましくは約100,000〜約1,000,000の分子量を有する。本発明のこの部分でアミノ酸が使用される場合、側鎖は、結合の中心においてD又はL型(立体配置R又はS)を形成してよいことが当業者には理解されよう。或いは、主鎖は、ペプトイドなどポリペプチドの類似体でもよい。例えば、Kessler, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 32:543 (1993); Zuckermann et al. Chemtracts-Macromol. Chem. 4:80 (1992);及びSimon et al. Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 89:9367 (1992)を参照されたい。手短に言えば、ペプトイドは、α炭素原子ではなく主鎖の窒素原子に側鎖が結合されているポリグリシンである。前述したように、側鎖の一部分は、通常、正に帯電した基で終結し、正に帯電した主鎖成分を構成すると考えられる。ペプトイドの合成は、例えば、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5877278号で記述されている。この用語を本明細書で使用する場合、ペプトイド主鎖構造を有する正に帯電した主鎖は、α炭素位置に天然に存在する側鎖を持つアミノ酸から構成されていないため、「非ペプチド」とみなされる。
【0026】
例えば、ペプチドのアミド結合が、チオアミド(−CSNH−)、逆向きのチオアミド(−NHCS−)、アミノメチレン(−NHCH−)若しくは逆向きのメチレンアミノ(−CHNH−)基、ケト−メチレン(−COCH−)基、ホスフィナート(−PORCH−)、ホスホンアミダート及びホスホンアミド酸エステル(−PORNH−)、逆向きのペプチド(−NHCO−)、トランス−アルケン(−CR=CH−)、フルオロアルケン(−CF=CH−)、ジメチレン(−CHCH−)、チオエーテル(−CHS−)、ヒドロキシエチレン(−CH(OH)CH−)、メチレンオキシ(−CHO−)、テトラゾール(CN)、スルホンアミド(−SONH−)、メチレンスルホンアミド(−CHRSONH−)、逆向きのスルホンアミド(−NHSO−)などの代用物によって置換されている、ポリペプチドの立体的又は電気的模倣物、並びに、例えば、Fletcher他((1998) Chem. Rev. 98:763)に総説があり、また、その中で引用されている参考文献によって詳述されている、マロン酸及び/又はgem−ジアミノ−アルキルサブユニットを有する主鎖を用いる、他の様々な主鎖を使用することができる。前述した置換の多くは、αアミノ酸から形成された主鎖に対してほぼ等配電子のポリマー主鎖を生じる。
【0027】
上記に提供した各主鎖に、正に帯電した基を有する側鎖基を結合させることができる。例えば、スルホンアミド結合の主鎖(−SONH−及び−NHSO−)は、窒素原子に結合された側鎖基を有することができる。同様に、ヒドロキシエチレン(−CH(OH)CH−)結合は、ヒドロキシ置換基に結合された側鎖基を有することができる。当業者なら、標準の合成法によって、正に帯電した側鎖基を与えるように、他の結合化学反応を容易に適合させることができる。
【0028】
一実施形態では、正に帯電した主鎖は、分枝基(効率基とも呼ぶ)を有するポリペプチドである。本明細書で用いる効果基又は分枝基は、正の電荷を持つ主鎖の、組織又は細胞膜による移動を促進する効果を有するあらゆる物質である。分枝基又は効果基の非限定的な例に、−(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT若しくはこの断片、又はアンテナペディアのタンパク質導入ドメイン若しくはその断片が含まれ、式中、下付文字n1は0から20までの、より好ましくは0から8までの、さらにより好ましくは2から5までの整数であり、下付文字n2は独立に約5から約25までの、より好ましくは約7から約17までの、最も好ましくは約7から約13までの奇数の整数である。HIV−TAT断片が、式(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR(gly)、又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)(下付き文字p及びqは、それぞれ独立に、0〜20の整数である)を有し、この断片が、その断片のC末端又はN末端を介して主鎖に結合しているような実施形態が、さらにより好ましい。好ましいHIV−TAT断片は、下付き文字p及びqがそれぞれ独立に、0〜8、より好ましくは2〜5の整数であるものである。別の好ましい実施形態では、正に帯電した側鎖又は分枝基は、アンテナペディア(Antp)タンパク質形質導入ドメイン(PTD)、又は活性を保持しているその断片である。好ましくは、正に帯電した担体は、側鎖の正に帯電した分枝基を、担体の全重量に対するパーセンテージとして、少なくとも約0.05%、好ましくは約0.05〜45重量%、最も好ましくは約0.1〜約30重量%の量で含む。式−(gly)n1−(arg)n2を有する正に帯電した分枝基の場合、最も好ましい量は、約0.1〜約25%である。
【0029】
別の実施形態では、主鎖部分はポリリジンであり、正に帯電した分枝基は、リジン側鎖のアミノ基に結合している。このポリリジンは、約10,000〜約1,500,000、好ましくは約25,000〜約1,200,000、最も好ましくは約100,000〜1,000,000の分子量を有してもよい。これは、例えば、分子量が70,000より大きいポリリジン、分子量70,000〜150,000のポリリジン、分子量150,000〜300,000のポリリジン、及び分子量が300,000より大きいポリリジンなど、市販されている(Sigma Chemical Company社製、セントルイス(St. Louis)、ミズーリ州、米国)ポリリジンのうちの任意のものでよい。適切なポリリジンの選択は、組成物の残りの成分に応じて変わると考えられ、組成物に全体として正味の正電荷を与え、負に帯電した成分を合わせた長さの好ましくは1〜4倍の長さを与えるのに十分と考えられる。好ましい正に帯電した分枝基又は効率基としては、例えば、−gly−gly−gly−arg−arg−arg−arg−arg−arg−arg(−GlyArg)又はHIV−TATが挙げられる。別の好ましい実施形態では、正に帯電した主鎖は、ポリエチレンイミン、例えば分子量が約1,000,000のものなどの長鎖ポリアルキレンイミンである。
【0030】
前述の分枝基を有するポリペプチド又はポリアルキレンイミンを含む、正に帯電した主鎖又は担体分子は、新規な化合物であり、本発明の一態様を構成する。
【0031】
本発明の一実施形態では、正に帯電した分枝基を有する正に帯電した担体のみが、ボツリヌストキシンを経皮送達するのに必要である。ある一実施形態では、正に帯電した担体は、前述したように、正に帯電した複数の側鎖基を有するポリペプチド(例えば、リジン、アルギニン、オルニチン、ホモアルギニンなど)である。好ましくは、ポリペプチドの分子量は、少なくとも約10,000である。別の実施形態では、正に帯電した担体は、少なくとも約100,000の分子量を有する正に帯電した複数の側鎖基を有する、ポリアルキレンイミンなどの非ペプチジルポリマーである。このようなポリアルキレンイミンとしては、ポリエチレンイミン及びポリプロピレンイミンが挙げられる。いずれの場合も、経皮送達のために唯一必要な作用物質として使用するために、正に帯電した担体分子は、−(gly)n1−(arg)n2(式中、下付き文字n1は、0〜20、より好ましくは0〜8、さらにより好ましくは2〜5の整数であり、下付き文字n2は、独立に、約5〜約25、より好ましくは約7〜約17、最も好ましくは約7〜約13の奇数である)、HIV−TAT若しくはその断片、又はアンテナペディアPTD若しくはその断片を含む、正に帯電した分枝基又は効率基を含む。好ましくは、側鎖又は分枝基は、前述した一般式−(gly)n1−(arg)n2を有する。他の好ましい実施形態は、分枝基又は効率基が、式(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR(gly)、又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)(下付き文字p及びqは、それぞれ独立に、0〜20の整数である)を有するHIV−TAT断片であり、この断片が、その断片のC末端又はN末端を介して担体分子に結合しているような実施形態である。側鎖分枝基は、結合の中心においてD又はL型(立体配置R又はS)を形成してよい。好ましいHIV−TAT断片は、下付き文字p及びqがそれぞれ独立に、0〜8、より好ましくは2〜5の整数であるものである。他の好ましい実施形態は、分枝基がアンテナペディアPTD基、又はその基の活性を保持しているその断片であるものである。これらは、例えば、Console et al., J.Biol. Chem. 278:35109 (2003)により、当技術分野では公知である。好ましくは、正の電荷を持つ担体は、側鎖の正の電荷を持つ分枝基を、全部の担体の重量のパーセント値として少なくとも約0.05%の、好ましくは約0.05から約45重量%までの、最も好ましくは約0.1から約30重量%までの量で含む。−(gly)n1−(arg)n2の式を有する正の電荷を持つ分枝基では、最も好ましい量は約0.1から約25%までである。
【0032】
別の実施形態では、担体はポリリジンであり、正に帯電した分枝基は、リジン側鎖のアミノ基に結合している。この特定の実施形態で使用されるポリリジンは、例えば、分子量が70,000より大きいポリリジン、分子量70,000〜150,000のポリリジン、分子量150,000〜300,000のポリリジン、及び分子量が300,000より大きいポリリジンなど、市販されている(例えば、Sigma Chemical Company社製、セントルイス、ミズーリ州、米国)ポリリジンのうちの任意のものでよい。しかし、好ましくは、ポリリジンの分子量は、少なくとも約10,000である。好ましい正に帯電した分枝基又は効率基としては、例えば、−gly−gly−gly−arg−arg−arg−arg−arg−arg−arg(−GlyArg)、HIV−TAT又はその断片、及びアンテナペディアPTD又はその断片が挙げられる。
【0033】
本発明の他の実施形態では、担体は、比較的短いポリリジン又はポリエチレンイミン(PEI)の主鎖(直線状でも分枝していてもよい)であり、正の電荷を持つ分枝基を有する。このような担体は、治療用の組成物において、輸送の効率が劇的に減少することをもたらす、主鎖及びボツリヌストキシンの非制御の凝集を最小にするのに有用である。担体が比較的短い直線状ポリリジン又はPEI主鎖である場合、主鎖の分子量は、75,000未満であり、より好ましくは30,000未満であり、最も好ましくは25,000未満である。しかし、担体が比較的短い分枝ポリリジン又はPEI主鎖である場合は、主鎖の分子量は60,000未満であり、より好ましくは55,000未満であり、最も好ましくは50,000未満である。しかし、本明細書に記載するような分割剤が組成物に含まれる場合には、分枝ポリリジン及びPEI主鎖の分子量は75,000までであってよく、直線状のポリリジン及びPEI主鎖の分子量は150,000までであってよい。
【0034】
本明細書では、「ボツリヌストキシン」という用語は、細菌によって産生されたものであれ組換え技術によって作製されたものであれ、公知の型のボツリヌストキシンのうちの任意のもの、並びに、人工的に作り出された変異体又は融合タンパク質を含めて、続いて発見される可能性のあるような任意の型を指すことを意図されている。前述したように、現在のところ、7種の免疫学的に異なるボツリヌス神経毒素、即ち、ボツリヌス神経毒素の血清型A、B、C、D、E、F、及びGが明らかにされており、これらのそれぞれは、型特異的抗体による中和によって区別される。これらのボツリヌストキシン血清型は、Sigma-Aldrich社及びMetabiologics社(マディソン、ウィスコンシン州)、並びに他の供給元から入手可能である。異なる血清型のボツリヌストキシンの、それらが影響を及ぼす動物種、並びにそれらが誘発する麻痺の重症度及び持続期間は様々である。少なくとも2種の型のボツリヌストキシン、即ちA型及びB型が、いくつかの病態の治療用の製剤に入れられて市販されている。例えば、A型は、商標「BOTOX(登録商標)」を有するAllergan社製の薬剤及び商標「DYSPORT(登録商標)」を有するIpsen社製の薬剤中に含まれ、また、B型は、商標「MYOBLOC(登録商標)」を有するElan社製の薬剤中に含まれる。
【0035】
代替として、本発明の組成物中で使用されるボツリヌストキシンは、ボツリヌストキシン誘導体、即ち、ボツリヌストキシン活性を有するが、天然又は組換え天然ボツリヌストキシンに比べて、任意の部分又は任意の鎖上に1つ又は複数の化学的又は機能的改変を含む化合物でもよい。例えば、ボツリヌストキシンは、改変された神経毒素(例えば、天然のものと比較すると、そのアミノ酸のうちの少なくとも1つが欠失、改変、又は置換されている神経毒素、或いは組換えにより作製された神経毒素又はその誘導体若しくは断片)でもよい。例えば、ボツリヌストキシンは、例えば、その諸特性を増強し、又は、望ましくない副作用を低減するように改変されているが、所望のボツリヌストキシン活性をなお保持しているものでよい。ボツリヌストキシンは、前述のように、細菌によって産生されるボツリヌストキシン複合体のうちの任意のものでよい。或いは、ボツリヌストキシンは、組換え技術又は合成化学技術によって調製される毒素(例えば、組換えペプチド、融合タンパク質、又は)異なるボツリヌストキシン血清型のサブユニット若しくはドメインから調製されるハイブリッド神経毒素でもよい(例えば、米国特許第6444209号を参照されたい))。ボツリヌストキシンは、必要なボツリヌストキシン活性を有することが示されている分子全体の一部分でもよく、また、このような場合、それ自体で、又は組合せ若しくは共役分子、例えば融合タンパク質の一部として使用することができる。また、ボツリヌストキシンは、それ自体は無毒性でもよいボツリヌストキシン前駆体、例えば、タンパク質分解で切断されると毒性になる無毒性の亜鉛プロテアーゼの形態でもよい。
【0036】
本発明はまた、ボツリヌストキシンの組合せ及び混合物の一般的使用も企図するが、ボツリヌストキシン血清型の混合物は、それらの性質及び諸特性が様々であるため、医療業界又は化粧品業界では通常、現時点では投与されない。
【0037】
本発明の組成物は、好ましくは、対象又は患者、即ち、特定の治療を必要とするヒト又は他の哺乳動物の皮膚又は上皮に適用される製品の形態である。「必要である」は、薬剤上の又は健康に関する必要性、例えば望ましくない顔面の筋肉の攣縮を含む状態を処置すること、並びに化粧上及び自覚的な必要性、例えば顔面の組織の外観を変更し又は改善することの両者を含むことを意味する。一般に、ボツリヌストキシンを、通常は、1種又は複数の付加的な製薬上許容される担体又は賦形剤と共に、担体と混合することによって、組成物を調製する。最も単純な形態では、それらは、緩衝化された生理食塩水など、製薬上許容される単純な水性の担体又は希釈剤を含有してよい。しかし、これらの組成物は、皮膚科学的に又は製薬上許容される担体、ビヒクル、又は媒体(即ち、それらが適用される組織に適合性のある担体、ビヒクル、又は媒体)を含む、局所用の薬剤組成物又は薬用化粧組成物において一般的な他の成分を含有してよい。本明細書では、「皮膚科学的に又は製薬上許容される」という用語は、そのように説明された組成物又はその成分が、これらの組織と接触して使用するのに、又は、通常は、過度の毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応などを起こさずに、患者に使用するのに適していることを意味する。必要に応じて、本発明の組成物は、考察中の分野、特に化粧品及び皮膚科学の分野で従来使用されている任意の成分を含んでよい。組成物は、ある量の小型のアニオン、好ましくは多価アニオン、例えば、リン酸塩、アスパラギン酸塩、又はクエン酸塩も含むことができる。
【0038】
その形態の点で、本発明の組成物としては、液剤、乳剤(マイクロエマルジョンを含む)、懸濁剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、散剤、或いは、皮膚及び組成物を使用し得る他の組織に適用するために使用される他の一般的な固体又は液体組成物を挙げることができる。このような組成物は、ボツリヌストキシン、及び担体に加えて、場合によっては麻酔薬、かゆみ止め剤、植物エキス、コンディショニング剤、濃色化剤若しくは淡色化剤、光輝顔料、湿潤剤、マイカ、鉱物、ポリフェノール、シリコン若しくはその誘導体、日焼け止め、ビタミン、及び植物薬(phytomedicinal)を含めて、抗菌薬、保湿剤及び水和剤、浸透剤、保存剤、乳化剤、天然油又は合成油、溶剤、界面活性剤、洗浄剤、皮膚軟化剤、抗酸化剤、芳香剤、増量剤、増粘剤、ワックス、臭気吸収剤、染料、着色剤、散剤など、このような製品において一般に使用される他の成分を含有してもよい。
【0039】
特に好ましい実施形態では、組成物はゲル化剤、及び/又は粘度調整剤を含む。これらの物質は、一般的に、組成物の適用がより容易且つより的確になるように、組成物の粘度を増大するために加えられる。さらに、これらの物質は、ボツリヌストキシンの活性の低下をもたらす傾向がある、ボツリヌストキシン/担体の水溶液の乾燥を防止する助けとなる。特に好ましい物質は、電荷を持たず、ボツリヌストキシンの活性、又は毒素−担体複合体が皮膚を通過する効率を妨げない物質である。ゲル化剤は、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などの、ある種のセルロースベースのゲル化剤であってよい。いくつかの実施形態では、ボツリヌストキシン/担体の複合体を、HPC2〜4%を有する組成物に配合する。或いは、ボツリヌストキシン/担体の複合体を含む溶液の粘度を、ポリエチレングリコール(PEG)を添加することにより変更することができる。他の実施形態では、ボツリヌストキシン/担体の溶液をCetaphil(登録商標)モイスチャライザーなどの予め混合した粘稠剤と組み合わせる。
【0040】
本発明の組成物は、任意選択で分割剤を含むことができる。本明細書で用いる「分割剤」は、ボツリヌストキシンの本発明の担体との、不必要な、又は非制御の凝集を防止し、又は最小にする特徴を有するあらゆる物質又は添加物である。分割剤は、例えば、体積の制約により濃縮ボツリヌストキシン溶液を使用しなければならない場合に有用なことがある。このような場合に、分割剤はボツリヌストキシンの分散を保持し、それによって分割剤がなかったら生じるであろう毒素の凝集を防止する。一般的に分割剤は、(1)非刺激性で、(2)ボツリヌストキシンを破壊せず、(3)透過性のいかなる増大も与えず、(4)信頼性及び安定性のある粒子サイズを提供し、(5)電荷を持たず、(6)毒素と経皮の担体との複合体を妨害しない。適切な分割剤の一例は、エタノール(EtOH)である。好ましい実施形態では、EtOHは組成物の20%未満であり、最も好ましくは、組成物の5%未満である。
【0041】
例として、体積の制約が100Uのボツリヌストキシンの、2.5mlではなく0.5mlの溶液に再構成することを必要とする場合、ボツリヌストキシンが望ましくない凝集を示し、したがって活性を低下させることが、典型的に観察される。しかし、1%EtOHを分割剤として加えることにより、24時間後でもこの濃度で完全な活性が維持される。別の例として、0.9%NaCl 1.0mlで再構成したBotox(登録商標)は完全な活性を有し、1%及び5%のEtOHプラス0.9%NaClの0.5mlに再構成すると完全な活性を有する溶液が生じる。
【0042】
本発明のある実施形態では、オリゴアニオン又はポリアニオンの架橋をボツリヌストキシン組成物に加えて、毒素と正電荷を持つ主鎖の担体との複合体形成を改善する。当技術分野ではよく知られているように、ボツリヌストキシンは実際、正の電荷を持つものも負の電荷を持つものもある様々なタンパク質の複合体である。毒素の構成成分の正確な分布は毒素の供給源に応じて変化するが、ある種の供給源からのボツリヌストキシンは、本明細書に記載する正の電荷を持つ主鎖と複合体を形成する傾向がより低いことがある。しかし、本発明の一態様は、このようなボツリヌストキシンにオリゴアニオン又はポリアニオンの架橋を加えることにより、局所適用の有効性及び効力が劇的に増大するという発見である。このようなオリゴアニオン/ポリアニオン架橋の適切な例には、リン酸ナトリウム(5%)、PBS、又は5%ポリ−L−アスパラギン酸(例えば、分子量3000を有するもの)が含まれる。
【0043】
本発明による組成物は、ボツリヌストキシンと担体とが、それらが制御された方式で時間をかけて皮膚上に放出されるように、ある物質内にカプセル化又は別の方法で含有されている、制御放出組成物又は持続放出組成物の形態でよい。ボツリヌストキシンと担体は、マトリックス、リポソーム、小胞、マイクロカプセル、マイクロスフェアなどの内部に、又は、固体粒子物質内部に含有されてよく、これらはすべて、ボツリヌストキシンを時間をかけて放出するように選択及び/又は構築される。ボツリヌストキシン及び担体は、一緒に(例えば、同じカプセル内に)、又は別々に(別々のカプセル内に)カプセル化されてよい。
【0044】
本明細書に記載した組成物を用いて、ボツリヌストキシンを皮膚の下にある筋肉、又は皮膚の中にある腺構造に、麻痺を生じ、弛緩を生じ、収縮を軽減し、痙攣を予防若しくは軽減し、腺の排出量を減少させ、又は他の望ましい効果を表すのに効果的な量で送達することができる。この方法でボツリヌストキシンを局所送達すると、投与量を減少させ、毒性を減少させ、注射可能な又は埋め込み可能な材料に対する望ましい効果に対してより正確な投与量の最適化ができるようになる。
【0045】
本発明の組成物は、有効量のボツリヌストキシンを投与するために適用される。本明細書では、「有効量」という用語は、所望の筋肉麻痺又は他の生物学的又は美的効果を生じるのに十分であるが、暗黙のうちに安全な量、即ち、重大な副作用を回避するのに十分な少なさの量である、上記に定義したボツリヌストキシンの量を意味する。所望の効果としては、例えば、特に顔の細い線及び/又はしわの出現を低減させること、又は、目の拡大、口角の持ち上げ、若しくは上唇から扇形に広がる線の平滑化など他の方法で顔の外観を調整することを目的として特定の筋肉を弛緩させること、或いは、筋肉の緊張の全般的な軽減が挙げられる。最後に述べた効果、即ち筋肉の緊張の全般的な軽減は、顔又は別の場所において達成することができる。本発明の組成物は、一回投与量処置として適用するために適切な有効な量のボツリヌストキシンを含んでいてもよく、或いは、投与する場所での希釈、又は複数の適用における使用のいずれかのために、より濃縮していてもよい。本発明の正に帯電した担体の使用によって、顔筋若しくは他の筋肉の望ましくない痙攣などの病態、多汗症、座瘡、又は、筋肉の疼痛若しくは痙攣の軽減が望まれる、身体の別の場所の病態を治療するために、対象に経皮的にボツリヌストキシンを投与することができる。ボツリヌストキシンは、筋肉、又は皮膚に結合した他の構造体への経皮送達のために局所的に投与される。例えば、下肢、肩、下背部を含む背中、腋か、手掌、足、頚部、鼠径部、手又は足の甲、肘、上腕、膝、上脚、臀部、胴、骨盤、又はボツリヌストキシンの投与が望まれる身体の他の任意の部分に投与してよい。
【0046】
神経性の疼痛の治療、片頭痛若しくは他の頭痛の疼痛の予防若しくは低減、座瘡の予防若しくは低減、自覚的若しくは臨床的に関わらずジストニア(dystonia)若しくはジストニー収縮(dystonic contractions)の予防若しくは低減、自覚的若しくは臨床的な多汗症に関連している症状の予防若しくは低減、過分泌若しくは発汗の低減、免疫応答の低減若しくは増進、又は、注射によるボツリヌストキシンの投与が提案若しくは実施されている他の状態の治療を含めて、他の状態を治療するために、ボツリヌストキシンの投与を実施してもよい。
【0047】
ボツリヌストキシン又は、本明細書で説明する他の治療用タンパク質の投与は、免疫化に関連した目的のために実施してもよい。驚くべきことに、本明細書に記載したボツリヌストキシンの投与は、免疫応答を低下させるために行うことができる。より詳しくは、本発明により、ボツリヌストキシンを改変された投与経路により送達することができ、それによりその物質の複合抗原の提示を変更する。このように、本発明は、ボツリヌストキシンに対する抗原に対する免疫応答を低下させ、免疫に関連した活性を低下させないで繰返し投与を容易にするのに有用であることができる。或いは、免疫応答を増強するために、例えば、例えば注射を用いない幼児期の免疫化のために、様々なタンパク質に対する免疫化を実現するために、複合体を調製し局所適用することもできる。免疫に関連した活性に関しての使用に対する、「有効な量」は、ボツリヌストキシンの適用又はその一連の適用の後、対象がボツリヌストキシンに対する免疫応答を増大することができるのに十分な量のボツリヌストキシンを意味する。
【0048】
最も好ましくは、医師又は他の医療従事者によって、又はその指示のもとで組成物を投与する。1回の治療で、又は、長期にわたる一連の定期的治療においてそれらを投与してよい。前述の目的のためにボツリヌストキシンを経皮送達するために、効果が望まれる皮膚の1つ又は複数の位置に前述の組成物を局所的に適用する。ボツリヌストキシン/担体の水溶液を皮膚に直接適用する実施形態では、毒素の活性の低下をもたらす溶液の乾燥を防ぐために、処置した領域を覆い(例えば、Cetaphil(登録商標)モイスチャライザーで)、又は処置した領域をバリア(例えば、Telfa)で塞ぐことが好ましい。その性質が原因となって、最も好ましくは、適用するボツリヌストキシンの量は、いかなる有害又は望ましくない結果ももたらさずに所望の結果を生み出すと考えられる適用速度及び適用頻度で、注意して使用すべきである。したがって、例えば、本発明の局所用の組成物は、皮膚表面のcm当たりのボツリヌストキシンが約1Uから約20000Uまでの、好ましくは約1Uから約10000Uまでの割合で適用するべきである。これらの範囲内のより多い投与量は、好ましくは、例えば、制御放出物質と組み合わせて使用し、又は、除去する前の、皮膚上での存在時間をより短くさせる。
【0049】
ボツリヌストキシン/担体の組成物を適用する前に皮膚表面を適切に準備することは、溶液の効力を維持するために重要である。例えば、界面活性剤はボツリヌストキシンの活性を破壊する様子であるので、適用前に皮膚の表面の油を拭き取る目的で皮膚の表面に界面活性剤を採用することは、驚くべきことに逆効果である。これは、ボツリヌストキシン/担体の溶液を適用する前に、数回引き続き水で皮膚を洗浄した場合でさえも起こる。乳児用ウェッティーに見られるものなどの特に穏和な界面活性剤でさえも、この現象を引き起こす様子である。したがって、本発明の組成物を投与する好ましい方法では、水だけを用いて皮膚を前洗浄する。水だけで洗浄すると、ボツリヌストキシンの経皮輸送を適度に向上させる様子でもある。
【0050】
さらに、ボツリヌストキシン/担体の複合体を適用する前に、角質層を減少させるために皮膚を剥離してもよい。原則として、皮膚を剥離する過程により、ボツリヌストキシンの経皮輸送の有効性の増大がもたらされなければならない。しかし、皮膚を剥離するのに用いる方法が重要である。例えば、ヒト又は動物で、アセトンを介して角質層を減少させると、引き続き適用するボツリヌストキシンの活性を低下させる様子である。それとは対照的に、テープ剥離(即ち、テープを皮膚の表面上に適用し、次いでテープを取り除く)は、マウスのモデルでもヒトでも、ボツリヌストキシンをより深く浸透させ、投与量を減少させる様子である。皮膚表面の擦過(例えば、剥離パッドの使用による)は、テープ剥離と同様の効果をもたらすであろうと予想される。
【0051】
本発明は、ボツリヌストキシン、及び本明細書に定義した分枝基が結合している正の電荷を持つ主鎖を有する担体を含む組成物の経皮の伝達のための装置も含む。このような装置は、皮膚パッチのように単純な構成でもよく、又は、組成物を分配し組成物の分配をモニターする手段、及び任意選択で、対象の状態をモニターする(例えば、分配されている物質に対する対象の反応をモニターする)手段を含めた、より複雑な装置でもよい。
【0052】
装置の構成のための材料を選択することが重要であることを注意されたい。送達の装置の構成に好ましい材料は、分解又はボツリヌストキシンの装置の表面上への不必要な吸着のいずれかにより、ボツリヌストキシン/担体の溶液の活性の損失をもたらさない材料である。このような望ましくない振る舞いは、例えば、ボツリヌストキシン/担体の水溶液がポリプロピレンの表面に接触した場合に観察されているが、ボツリヌストキシン/担体の溶液が塩化ポリビニル(PVC)の表面に接触した場合には観察されていない。
【0053】
一般的に、組成物を予め配合し、且つ/又は装置中に予め設置することができ、或いは、例えば、2つの成分(ボツリヌストキシン及び担体)を別々に収容するが適用時に又は適用前にこれらを組み合わせる手段を提供するキットを用いて、後で調製することができる。ボツリヌストキシンに対する担体分子の量又は比率は、問題となる組成物に用いるように選択された担体に依存する。所与の場合における担体分子の適切な量又は比率は、例えば、以下に記載するもののような1つ又は複数の実験を行うことにより、容易に決定することができる。
【0054】
一般的に、本発明は、ボツリヌストキシンを必要とする対象又は患者に投与するための方法も含む。この方法は、有効な量のボツリヌストキシンを、本明細書に記載した正の電荷を持つ分枝基が結合した正の電荷を持つ主鎖を有する担体と組み合わせて局所的に投与することを含む。「組み合わせて」は、2つの構成成分(ボツリヌストキシン及び担体)を組合せの手順で投与することを意味し、この手順は、これらを、引き続き対象に投与し、又は別々であるが一緒に作用して有効な量の治療用のタンパク質の必要な送達を提供する方法で投与する組成物に組み合わせることを伴うことができる。例えば、担体を含む組成物を最初に対象の皮膚に適用し、その後ボツリヌストキシンを含む皮膚パッチ又は他の装置を適用してもよい。ボツリヌストキシンは、皮膚パッチ又は他の分配用装置に乾燥形態で組み込むことができ、正の電荷を持つ担体は、この2つが一緒に作用し望ましい経皮送達をもたらすように、パッチを適用する前に皮膚表面に適用してもよい。したがって、この2つの物質(担体及びボツリヌストキシン)は、組み合わさって作用し、又はおそらく相互作用してその部位で組成物又は組合せを形成する。したがって、本発明は、皮膚によりボツリヌストキシンを分配するための装置、及び担体又は主鎖を含み、対象の皮膚又は上皮に適用するのに適する液体、ゲル、クリームなどの両方を含むキットも含む。医療従事者の指示のもとで、又は患者若しくは対象によって、本発明の組成物を投与するためのキットは、この目的に適する特別仕様でつくられた(custom)アプリケーターも含んでよい。
【0055】
本発明の組成物、キット、及び方法により、より純粋なボツリヌストキシンを、より高い比活性で、且つ潜在的に改善された薬物動態で送達するのが可能となっている。さらに、担体は安定化剤として働き、外来の付属タンパク質(例えば、400〜600mgの範囲のヒト血清アルブミン、若しくは250〜500mgの範囲の組換え血清アルブミン)、及び/又は多糖類の安定化剤の必要性を減少させ、ボツリヌストキシンに対する免疫応答を有益に低下させることができる。さらに、組成物は、約4.5から約6.3までの範囲のpHの生理学的環境で使用するのに適しており、したがってこのようなpHを有することができる。本発明の組成物は、室温で、又は冷蔵条件下のいずれかで貯蔵することができる。
【0056】
以下は、本発明の代表的な実施例である。これらは、送達される神経毒の共有結合性の修飾を必要としないで、機能上のボツリヌス神経毒複合体を皮膚を通して送達することを説明するものである。
【実施例1】
【0057】
ペプチジル担体を用いたin vivoでのボツリヌストキシンの輸送
本実験は、1回の投与後に、標識した完全なタンパク質ボツリヌストキシンを含有する大型複合体を無傷の皮膚を通して輸送するためのペプチジル担体の使用を対照と比べて実証する。
【0058】
主鎖の選択
リジン側鎖の遊離アミンに対する末端グリシンのカルボキシルを介して、18%の飽和度で(即ち、100個のリジン残基毎に18個が−GlyArgにコンジュゲートしている)、分子量112,000のポリリジンに−GlyArgをコンジュゲートさせることによって、正に帯電した主鎖を構築した。修飾した主鎖を「KNR」と呼んだ。対照のポリカチオンは、同じサイズ及び同じロットの未修飾のポリリジン(「K」と呼ぶ、Sigma Chemical社製、セントルイス、ミズーリ州)であった。
【0059】
治療薬
ボツリヌストキシンAの「Botox(登録商標)」ブランド(Allergan社製)を本実験のために選択した。その分子量は、約150,000である。
【0060】
試料の調製
製造業者の取扱い説明書に従って、ボツリヌストキシンに水を加えて元に戻した。計算上12倍モル過剰のスルホNHS−LCビオチン(Pierce Chemical社製)を用いて、一定分量のタンパク質をビオチン標識した。標識した生成物を「Btox-b」と呼んだ。
【0061】
各事例において、陰性度の高い大型ヌクレオチド複合体の送達の際のように、過剰なポリカチオンを使用して、過剰な正電荷を有する最終複合体を構築した。正味の中性又は正電荷は、陰性度の高い細胞表面プロテオグリカン及び細胞外基質からタンパク質複合体が反発するのを防止する。局所適用される組成物の合計体積及び最終pHと同様に、Btox-bの用量を全グループにわたって標準化した。以下のように試料を調製した。
【0062】
「JMW−7」と名づけた群:アリコート当たり2.0ユニットのBtox-b(即ち、合計20U)及びペプチジル担体KNRを計算上の分子量比4:1で混合して均質にし、リン酸緩衝化生理食塩水で200マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を1.8mlのCetaphil(登録商標)ローションと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0063】
「JMW−8」と名づけた群:アリコート当たり2.0ユニットのBtox-b(即ち、合計20U)及びKを電荷比4:1で混合して均質にし、リン酸緩衝化生理食塩水で200マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を1.8mlのCetaphilと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0064】
ペプチジル担体及び標識したBtoxを用いた1回の処置後の経皮送達効率を測定するための動物実験
処置を施す間、イソフルランの吸入によって動物を麻酔した。麻酔をかけた後、C57 black6マウス(1群当たりn=4)は、背部皮膚の頭側部分(マウスの口や肢がこの領域に届かないために選択された)に適用される、計量した用量200マイクロリットルの適切な処置の局所適用を受けた。動物は、脱毛処理は受けなかった。初回の処置の30分後に、マウスをCO吸入によって安楽死させ、盲検化された観察者が、処置した皮膚部分の全層を採取した。処置部分を3つの部分に等分し、頭側部分を10%中性緩衝ホルマリン中で12〜16時間固定し、次いで、パラフィン包埋するまで70%エタノール中で保存した。中央部分は急速凍結し、以下に要約するような、盲検化された観察者によるビオチン可視化に直接使用した。尾側の処置部分は、可溶化調査のために急速凍結した。
【0065】
以下のようにしてビオチン可視化を行った。手短に言えば、各切片を「NeutrAvidin(登録商標)」緩衝溶液に1時間浸した。アルカリホスファターゼ活性を可視化するために、断面を生理食塩水中で4回洗浄し、次いで、NBT/BCIP(Pierce Scientific社製)に1時間浸した。次いで、切片を生理食塩水中ですすぎ、平面アポクロマートレンズの付いたNikon E600顕微鏡で全体を撮影した。
【0066】
データ処理及び統計分析
盲検化された観察者は、Image Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics社製、シルバースプリング、メリーランド州)を用いて、バッチ式画像解析によって陽性染色の総量を測定し、それぞれについて陽性染色のパーセントを決定するために、横断面領域全体にそれを標準化した。続いて、Statviewソフトウェア(Abacus社製、バークリー、カリフォルニア州)を用いた、反復測定による1元配置分散分析における95%信頼度の有意性分析により、各群の平均値及び標準誤差を測定した。
【0067】
結果
ビオチン標識したボツリヌストキシンに対して陽性な断面領域の平均を、KNR(「EB-Btox」)又はK(「nl」)のいずれかと共にBtox-bを1回局所投与した後の全領域に対するパーセントとして報告した。これらの結果を以下の表1に示し、図1に例示する。図1では、標識に対して陽性の領域を、Btox-b及びペプチジル担体KNRを含む「EB-Btox」、並びに対照としてのポリカチオンKと共にBtox-bを含む「nl」による1日1回の処置を3日間行った後の全領域に対するパーセントとして決定した。各群について平均及び標準誤差を示す。
表1.KNR(JMW−7)又はK(JMW−8)と共にBtox-bを30分間、1回局所投与した後の、全断面に対するパーセントとしての、標識されたボツリヌストキシン領域の平均値及び標準誤差
【0068】
【表1】

【実施例2】
【0069】
ボツリヌストキシンのペプチジル担体との局所用の調製物の治療上の効力
実施例1は、ペプチジル経皮担体が、無傷の皮膚のマウスモデルにおける局所適用後の効率的なボツリヌストキシン輸送を可能にすることを実証した。しかし、本実験は、皮膚を通過して移動した後に、タンパク質ボツリヌストキシン複合体が機能的な形態で放出されるかどうかは示さなかった。したがって、このペプチジル担体を用いて(さらに、タンパク質を共有結合で修飾せずに)、無傷の皮膚を通って、ボツリヌストキシンを局所薬として治療的に送達させることができるかどうかを評価するために、以下の実験を構成した。
【0070】
リジン側鎖の遊離アミンに対する末端グリシンのカルボキシルを介して、18%の飽和度で(即ち、100個のリジン残基毎に18個が−GlyArgにコンジュゲートしている)、分子量112,000のポリリジンに−GlyArgをコンジュゲートさせることによって、正に帯電した主鎖を再び構築した。修飾された主鎖を「KNR」と呼んだ。対照のポリカチオンは、同じサイズ及び同じロットの未修飾のポリリジン(「K」と呼ぶ、Sigma Chemical社製、セントルイス、ミズーリ州)であった。実施例1の場合と同じボツリヌストキシン治療物質を使用し、同じ方法で調製した。以下のように試料を調製した。
【0071】
「JMW−9」と名づけた群:アリコート当たり2.0ユニットのボツリヌストキシン(即ち、合計60U)及びペプチジル担体KNRを計算上の分子量比4:1で混合して均質にし、リン酸緩衝化生理食塩水で600マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を5.4mlのCetaphilと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0072】
「JMW−10」と名づけた群:アリコート当たり2.0ユニットのボツリヌストキシン(即ち、合計60U)及びKをMW比4:1で混合して均質にし、リン酸緩衝化生理食塩水で600マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を5.4mlのCetaphilと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0073】
「JMW−11」と名づけた群:ポリカチオン無しの、アリコート当たり2.0ユニットのボツリヌストキシン(即ち、合計60U)をリン酸緩衝化生理食塩水で600マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を5.4mlのCetaphilと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0074】
ペプチジル担体及びボツリヌストキシンを用いた1回の処置後の治療効率を測定するための動物実験
処置を施す間、イソフルランの吸入によって動物を麻酔した。麻酔をかけた後、C57 black6マウス(1群当たりn=4)は、つま先から大腿中央まで均一に適用される適切な処置の計量した用量400マイクロリットルの局所適用を受けた。両方の肢に処置し、両側に無作為に処置を施した。動物は、脱毛処理は受けなかった。初回の処置の30分後に、公表されているボツリヌストキシン投与後の足の可動性に関する指外転スコア[Aoki, KR.. A comparison of the safety margins of botulinum neurotoxin serotypes A, B, and F in mice. Toxicon. 2001 Dec; 39(12): 1815-20]に従って、マウスの指の外転能力を評価した。マウスの可動性も主観的に評価した。
【0075】
データ処理及び統計分析
2名の盲検化された観察者が、それぞれ独立に、指外転スコアを表にした。続いて、Statviewソフトウェア(Abacus社製、バークリー、カリフォルニア州)を用いた、反復測定による1元配置分散分析における95%信頼度の有意性分析により、各群の平均値及び標準誤差を測定した。
【0076】
結果
KNR(「JMW−9」)、K(「JMW−10」)、又はポリカチオン無しの希釈剤(「JMW−11」)と共にボツリヌストキシンを1回局所投与した後の平均指外転スコアを以下の表2に示し、以下の図2の代表的な顕微鏡写真において例示する。ペプチジル担体KNRは、互いに同等である両方の対照と比べて、統計学的に有意な、皮膚を通過してのボツリヌストキシンの機能的送達をもたらした。本実験をさらに独立して反復することにより(合計3回の独立した実験のすべてで、KNRを伴う局所的ボツリヌストキシンから統計学的に有意な麻痺が起こり対照では起こらないという同一の結論が得られた)、本発明の研究結果が確認され、Kのある場合又は無い場合(即ち、双方の対照)に局所的ボツリヌストキシンの間で有意な差は明らかにされなかった。興味深いことに、マウスは、一貫して、麻痺した肢の方へ移動した(処置された動物の100%、並びに両対照群の対照の0%で起こった)。図2で示すように、対照のポリカチオンを加えたボツリヌストキシン、又はポリカチオン無しのボツリヌストキシン(「Botox単独」)で処置された肢は、(持ち上げられたときの防衛機構として)指を動かすことができるが、ペプチジル担体KNRを加えたボツリヌストキシン(「Essentia Botoxローション剤」)で処置された肢は動かすことができなかった。
表2.ペプチジル担体KNR(「JMW−9」)と共に、対照のポリカチオンK(「JMW−10」)と共に、又は単独(「JMW−11」)でボツリヌストキシンを1回局所適用した30分後の指外転スコア
【0077】
【表2】

【0078】
結論
本実験は、ペプチジル経皮担体が、治療薬を共有結合で修飾せずに、治療有効量のボツリヌス治療薬を皮膚を通過して輸送できることを実証するのに役立つ。本実験はまた、対照において局所適用された場合はボツリヌストキシンが機能しないことも裏付ける。
【実施例3】
【0079】
ボツリヌストキシンの非ペプチジル担体との局所用の調製物の治療上の効力
本実験は、本発明の非ペプチジル担体の能力を実証する。
【0080】
方法
主鎖の選択
PEI側鎖の遊離アミンに対する末端グリシンのカルボキシルを介して、30%の飽和度で(即ち、100個のリジン残基毎に30個が−GIyArgにコンジュゲートしている)、分子量1,000,000のポリエチレンイミン(PEI)に−GlyArgをコンジュゲートさせることによって、正に帯電した主鎖を構築した。修飾された主鎖は、大型の非ペプチジル担体を示すために「PEIR」と呼んだ。対照のポリカチオンは、同じサイズ及び同じロットの未修飾のPEI(「PEI」と呼ぶ、Sigma Chemical社製、セントルイス、ミズーリ州)であった。実施例1と同じボツリヌストキシン治療物質を使用した。
【0081】
製造業者の取扱い説明書に従って、Botox製品からボツリヌストキシンを元に戻した。各事例において、陰性度の高い大型ヌクレオチド複合体の送達の際のように、過剰なポリカチオンを使用して、過剰な正電荷を有する最終複合体を構築した。正味の中性又は正電荷は、陰性度の高い細胞表面プロテオグリカン及び細胞外基質からタンパク質複合体が反発するのを防止する。局所適用される組成物の合計体積及び最終pHと同様に、ボツリヌストキシンの用量を全グループにわたって標準化した。以下のように試料を調製した。
【0082】
「AZ」と名づけた群:アリコート当たり2.0ユニットのボツリヌストキシン(即ち、合計60U)及び超高純度型の非ペプチジル担体PEIRを計算上の分子量比5:1で混合して均質にし、リン酸緩衝化生理食塩水で600マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を5.4mlのCetaphilと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0083】
「BA」と名づけた群:アリコート当たり2.0ユニットのボツリヌストキシン(即ち、合計60U)及びPEIを電荷比5:1で混合して均質にし、リン酸緩衝化生理食塩水で600マイクロリットルに希釈した。得られた組成物を5.4mlのCetaphilと混合して均質にし、200マイクロリットルずつ分取した。
【0084】
1回処置後の治療効率を測定するための動物実験
処置を施す間、イソフルランの吸入によって動物を麻酔した。麻酔をかけた後、C57 black6マウス(1群当たりn=3)は、つま先から大腿中央まで均一に適用される適切な処置の計量した用量400マイクロリットルの局所適用を受けた。両方の肢に処置し、両側に無作為に処置を施した。動物は、脱毛処理は受けなかった。初回の処置の30分後に、公表されているボツリヌストキシン投与後の足の可動性に関する指外転スコア[Aoki, KR.. A comparison of the safety margins of botulinum neurotoxin serotypes A, B, and F in mice. Toxicon. 2001 Dec; 39(12): 1815-20]に従って、マウスの指の外転能力を評価した。マウスの可動性も主観的に評価した。
【0085】
データ処理及び統計分析
2名の盲検化された観察者が、それぞれ独立に、指外転スコアを表にした。続いて、Statviewソフトウェア(Abacus社製、バークリー、カリフォルニア州)を用いた、反復測定による1元配置分散分析における95%信頼度の有意性分析により、各群の平均値及び標準誤差を測定した。
【0086】
結果
ボツリヌストキシンと、ウルトラピュアPEIR(「AZ」)、又は対照のポリカチオンPEI(「BA」)の1回局所投与後の平均指外転スコアを表3に示し、繰り返したもの(この実験に対する1回の独立した繰返し)を表4に示した。非ペプチジル担体PEIRは、対照と比べて、統計学的に有意な、皮膚を通過してのボツリヌストキシンの機能的送達をもたらした。先と同様に、動物は、麻痺した肢の方向へ同じ所をめぐりながら歩くのが観察された。
【0087】
表3.超高純度PEIR(「AZ」)、又は対照のポリカチオンPEI(「BA」)と共にBotoxを1回局所投与した30分後の指外転スコア。平均値及び標準誤差を示す。
【表3】

【0088】
表4.超高純度PEIR(「AZ1」)、又は対照のポリカチオンPEI(「BA1」)と共にBotoxを1回局所投与した30分後の指外転スコア。平均値及び標準誤差を示す。
【表4】

【0089】
結論
本実験は、非ペプチジル経皮担体が、ボツリヌストキシンを事前に共有結合で修飾せずに、治療量のボツリヌストキシンを皮膚を通過して輸送できることを実証した。これらの研究結果は、ペプチジル輸送物質によるものを補完する。治療効果を得るために非ペプチジル又はペプチジル担体の使用を選択できることにより、個々の状況、環境、及び適用方法に合わせることが可能になり、本発明の経皮送達の場の幅が広げられる。
【実施例4】
【0090】
ボツリヌストキシンのペプチジル担体との局所用の調製物の前額部多汗症及びしわに対する治療上の効力
この実験は、ヒト対象における前額部多汗症及びしわを処置するための、このペプチジル担体を用いた局所用薬剤として、ボツリヌストキシンが無傷の皮膚を通して治療的に送達できることを説明するものである。
【0091】
前額部多汗症及びしわの研究の実験手順
Nikon社製TTL Macro-speedlight SB29sフラッシュ付きのNikon社製D70カメラ(Nikon社製、米国)を用い、青色背景で対象の前額部のベースライン時及び処置後の写真を撮影した。
【0092】
Sony社製Digital Hadycamカメラ一体型VTRを用いて、青色背景で対象の前額部のベースライン時及び処置後のビデオを撮影した。
【0093】
10%の局所用ポビドンヨード溶液(Deerfield、Walgreen社製、イリノイ州)及びKingsfordの100%コーンスターチ(Memphis、ACH Food Companies社製、テネシー州)を用いてMinorのヨウ素/デンプン試験を行って、汗の生成を視覚化した。滅菌綿球(Johnson & Johnson Consumer Product Company社製、ニュージャージー州、Skillman)を用いてヨウ素溶液を対象の前額部に塗り、次いで完全に乾燥させた。この領域に、滅菌綿球を用いてデンプン粉を軽く散布した。周囲の室温で、身体を動かして発汗を誘発した。汗がヨウ素を溶解しデンプン粉と反応すると、暗い青黒色の斑点が現れた。ヨウ素−デンプン試験のベースライン時及び処置後の写真を、Nikon社製TTL Macro-speedlight SB29sフラッシュ付きのNikon社製D70カメラを用いて青色背景で撮影した。対象の前額部を、70%EtOHで、次いで脱イオン水で清浄にした。
【0094】
処置を適用する前に、対象の前額部上の予め決められた処置領域を、角質層に対する非侵襲性のテープ剥離法により準備した。予めカットしたテープを処置領域に適用し、数秒間しっかりと押圧した。テープの一角を引っ張って、テープを速やかに取り除いた。第1のテープを取り除いた後、直ちに第2のテープを同じ領域に注意深く適用した。テープ剥離を3〜5回繰り返した。
【0095】
処置準備
滅菌0.9%塩化ナトリウム(Abbott Laboratories社製、イリノイ州、North Chicago)プラス5%EtOHプラス5%のA−3Cとラベルしてある短鎖ポリアスパラギン酸溶液(Donlar BioPolymer社製、イリノイ州、Bedford Park)のBotoxの再構成溶液を調製した(即ち、溶液1.0ミリリットルにつき、滅菌0.9%塩化ナトリウム900マイクロリットルプラス100%EtOH50マイクロリットルプラス短鎖ポリアスパラギン酸溶液50マイクロリットル)。Kn21Tは、0.9%塩化ナトリウムプラス5%EtOHで1ミリグラム/ミリリットルの濃度に調製した(即ち、Kn21T500マイクロリットルを等分し、100%EtOH25マイクロリットルを加えた)。本明細書で用いるKn21Tは、分子量21000でTAT分枝基を有する正の電荷を持つポリリジンの主鎖を意味する。1811/2付の滅菌した3mlのラテックスフリーのシリンジ(Becton Dickinson & Co.社製、ニュージャージー州、Franklin Lakes)を用いて、1.0ミリリットルの再構成溶液で、100単位のBotox(カリフォルニア州、Irvine、Allergan社製)を再構成した。再構成したBotoxを、注意深く8回転倒混和した。各対象にBotox200単位を用いた。「Essentia Botox溶液」は、200単位のBotox、及びKn21Tプラス5%EtOHで調製し(即ち、Kn21T500マイクロリットルプラス100%EtOH25マイクロリットルにBotox2.0ミリリットルを加え)、室温で5分間静置して複合体を形成させた。
【0096】
再構成溶液、及びKn21Tプラス5%EtOHで対照の溶液を調製し(即ち、Kn21T500マイクロリットルプラス100%EtOH25マイクロリットルに再構成溶液2.0mlを加え)、室温で保持した。
【0097】
処置の適用
対象は、目、顔面、及び上半身の周りを保護被覆してテーブル上に横になった。ピペットを用いて対象の前額部に処置を均等に施し、パウダーフリーのニトリル手袋を着用して、指で円を描いて皮膚中にマッサージした。処置領域をCetaphil(登録商標)モイスチャライジングクリーム(Galderma社製、テキサス州、Fort Worth)の薄層で覆い、60分間インキュベートした。60分間インキュベート後、滅菌ガーゼパッドで処置を除去した。ガーゼパッドと手袋は、バイオハザートバックに捨てた。
【0098】
結果
図3は、Peptidyl担体及びボツリヌスの組合せで局所的に処置した後、しわの長さ、深さ、及び幅が大幅に減少したことを表している。この実験により、ボツリヌストキシンを経皮の担体と組み合わせて局所的に適用した場合に、著しい筋肉の麻痺をもたらして化粧上の効果をもたらすことができることが確認された。図4は、処置した皮膚(A)対、非処置の皮膚(B)のMikrosilキャストである。非処置の皮膚のキャスト上に、しわが見える。
【0099】
図5及び図6はMinorのヨウ素/デンプン試験の結果を示す。図5は、適用2分後に撮影した写真を示し、パネル(A)はEssentia Botoxローションで処置した側に対応し、パネル(B)はKn21T担体を単独で含む対照のローションで処置した側に対応する。図6は、4分後に撮影したことの他は、図5と同じである。対照のローションの側では、着色がより明らかであり、そちら側の皮膚が汗をより多く分泌していることを指摘していることに注意されたい。非処置の側では、発汗がより早く始まったことも注意されたい。
【0100】
結果
この実施例は、局所的に適用したボツリヌストキシンの複合体は、細かいしわ、及び粗いしわを減少させる上で著しい美容上の利点をもたらすことができることを実証している。この経上皮の効果により、本明細書に開示したもののようなボツリヌストキシン複合体を局所的に適用した後、適切な担体で筋肉の麻痺を成し遂げることができることが、さらに確立されている。したがって、この実施例は、ボツリヌストキシンを局所的に適用することにより、眼瞼痙攣、又は斜頚などの筋肉の痙攣の緩和、及び背下部痛などの筋肉の痙攣に関連する疼痛の緩和をもたらすことができることを示している。
【実施例5】
【0101】
ボツリヌストキシンのペプチジル担体との局所用の調製物の腋窩多汗症に対する治療上の効果
この実施例は、ヒト対象で腋窩多汗症を処置するために、このペプチジル担体を用いた局所用薬剤として、ボツリヌストキシンが無傷の皮膚を通して治療的に送達されるか否かを実証するものである(無作為化した2重盲検法で1グループ当たりn=10の腋窩で、患者1人当たり1つの腋窩を処置し1つを対照とする)。
【0102】
腋窩多汗症の試験の組み入れ基準
年齢:18歳以上
健康な志願者である
志願者はインフォームドコンセントに署名、提出する
対象は快く指示に従い、フォローアップに来訪する
対象には先在する自覚的な多汗症がある
対象は妊娠しておらず、又はこの先3カ月以内に妊娠する予定が無い
対象はサンフランシスコ、又は近郊の研究地区に居住し、及び/又は勤務している
対象は過去6カ月以内に脇の下の発汗の処置を受けていない
対象はこの先3カ月以内に脇の下の発汗の処置を受ける予定が無い
【0103】
重量測定法の手順
重量測定法の手順の一部として、対象は最初に試験領域に順化させられた。詳しく述べると、各対象は、72〜77°F(22.2〜25℃)の室温で、安静位で15分間腰をかけた。
【0104】
腋窩の準備:(以下の手順では、パウダーフリーのニトリル手袋を着用した)
対象は、両腋窩を完全に曝すように、使い捨てのケープ及びブラジャーに着替え(女性の場合)、又は上半身の着衣をすべて脱いだ(男性の場合)。投与領域は、毛髪が生えている皮膚が覆っている領域プラス各腋窩の毛髪が生えている皮膚から1cm拡張している領域と予め決定した。50mlのコニカルチューブからの予め湿らせた滅菌ガーゼパッドで、ガーゼの片側を用いて上から下に同じ方向で5回の長めの動作で拭って投与領域を清浄にした。この手順を、さらなる3回、各回とも清浄な予め湿らせたガーゼパッドで、皮膚を刺激又は擦過しないように気をつけて繰り返した。ガーゼパッドはゴミ箱に捨てた。他方の腋窩に同じ洗浄の手順を繰り返した。腋窩を乾燥した滅菌ガーゼで、皮膚を刺激又は擦過しないように気をつけて腋窩の上から下までしっかりとパディングする動きを用いて乾燥させた。次いで、腋窩のしわの下にろ紙を配置して腋窩をさらに乾燥させ、ろ紙を5分間試験部位に留まらせ、重量分析の評価の手順を続けた。患者は、安静位で腕を彼の/彼女の身体にもたせかけて腰をかけていた。ろ紙はゴミ箱に捨てた。対象は、最初の重量分析の評価の前は、腋窩の操作なしで1分間安静にさせられていた。
【0105】
汗の生成の測定(重量測定法):(これらの測定の前に、新しい1双のパウダーフリーのニトリル手袋を着用した)
対象は、彼又は彼女の手を頭の後ろでつないで腋窩を完全に曝し、半ばリクライニングした(約45°)。予め重量を測定したろ紙を、貯蔵用コニカルチューブから取り出し、ろ紙の先端を腋窩のしわの線の中央に合わせて、対象の腋窩下に配置した。ろ紙は指を使って所定の位置に保持し、対象は腕を体の側面にだらりとさせた。対象は、5分間、彼の/彼女の胴体に両腕をもたせかけてしっかりと保持し腰をかけていた。ろ紙が確実に両腋窩の下に配置されたときに、時間の測定を開始した。両腋窩を同時に測定した。5分後にろ紙を腋窩から取り除き、それぞれ同じコニカルチューブ中に戻した。最初に配置したろ紙を最初に取り除いた。コニカルチューブのキャップを固く閉めてチューブから汗が蒸発するのを防いだ。汗の生成は、1分間の間隔で、さらなる2回繰り返した。
【0106】
Minorのヨウ素/デンプン試験
対象は、彼の/彼女の手を頭の後ろでつないで腋窩を完全に曝した。予め決定した腋窩の領域に、先のように滅菌ガーゼパッドでヨウ素溶液を塗り、空気乾燥させた。ヨウ素が完全に乾燥したら、ヨウ素で覆った領域上にデンプンの薄層を綿球でパディングした。擬陽性及びバックグラウンドを低減させるために、ヨウ素を空気乾燥させた後にデンプンを適用した。次いで、対象は彼の/彼女の胴体に両腕をもたせかけてしっかりと保持し腰をかけていた。5分後、対象は彼の/彼女の腕を上げ、頭の後で手をつないで腋窩を完全に曝した。左右の腋窩及び日付をはっきりとラベルした各腋窩の写真を撮影した。腋窩を70%EtOHで、次いで滅菌脱イオン水で清浄にした。
【0107】
処置の準備
Kn21prを、食塩水プラス5%EtOHで1ミリグラム/ミリリットルの濃度に調製した(即ち、Kn21pr500マイクロリットルを等量にし、100%EtOH25マイクロリットルを加えた)。本明細書で用いるKn21prは、分子量21000の、正の電荷を持つポリリジン主鎖、及び保護されたオリゴアルギニンを含む分枝基を意味する。Botox(登録商標)(Allergan社製、カリフォルニア州、Irvine)100単位を、0.9%塩化ナトリウム(Abbott Laboratories社製、イリノイ州、North Chicago)0.75ミリリットルで、1811/2付きの滅菌3mlのラテックスフリーのシリンジ(Beckton Dickinson and Company社製、ニュージャージー州、Franklin Lakes)を用いて再構成した。再構成したBotox(登録商標)を、注意深く8回転倒混和した。各対象に、Botox(登録商標)200単位を用いた。処置溶液は、Botox(登録商標)200単位及びKn21prプラス5%EtOHで調製し(即ち、Botox(登録商標)1.5ミリリットルを、Kn21pr500マイクロリットルプラス100%EtOH25マイクロリットルに加え)、室温に5分間保って複合体を形成させた。5分間のインキュベーション時間の後、約1.0ミリリットルの4%HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)(1%EtOHを含む)を加え、金属の小型ヘラで穏やかに且つ完全に混和した。均一の処置用液を、シリンジ先端キャップつき3mlシリンジ(Beckton Dickinson and Company社製、ニュージャージー州、Franklin Lakes)中に移した。
【0108】
対照の溶液を、0.9%塩化ナトリウム、及びKn21prプラス5%EtOHで調製し(即ち、0.9%塩化ナトリウム1.5ミリリットルに、Kn21pr500マイクロリットルプラス100%EtOH25マイクロリットルを加え)、室温に5分間放置した。インキュベーション後、4%HPC(1%EtOHを含む)を約1.0ミリリットル加え、金属の小型ヘラで穏やかに且つ完全に混和した。均一の対照溶液を、シリンジ先端キャップ付3mlシリンジ中に移した。
【0109】
処置の適用(パウダーフリーのニトリル手袋を着用のこと):
対象は、彼の/彼女の手を指を組んでつなぎ、頭の後ろに置いて、対象の腋窩を完全に曝した。次いで、対象は約45度の角度に椅子でリクライニングした。図7に示すように、適用するために投与領域を視覚的に精密に記した(即ち、毛髪の生えている皮膚を1cm超えたところ)。投与領域が乾燥していることを確かめた。左には「L」、右には「R」としるしたラベルのあるシリンジからシリンジ先端のキャップを取り除き、対象の腋窩上に適用する準備をした。処置用液を投与領域周辺にシリンジで均等に広げ、1分間指で皮膚中にマッサージした。次いで、対象は、彼の/彼女の腕を体の側面に沿って降ろし、60分間インキュベートした。60分間インキュベート後、滅菌ガーゼパッドで処置を清浄にした。ガーゼパッド及び手袋は、バイオハザートバックに捨てた。対象を開放した。
【0110】
結果
Essentia局所用BTは発汗を65%減少させ、図8aに示した。Kn21pr主鎖単独(対照)又はKn21pr主鎖プラスBotox200U(ベースライン時に対する比率)で処置4週間後(左右各々無作為化)の汗の生成。前述したPでNPSSを用いてWilcoxonの符号付順位検定による統計学的分析を行い、P<0.05で有意差があった[対象n=10]。
【0111】
第2の比較:ベースライン時対4週間後(図8bを参照されたい)
Kn21pr主鎖単独(対照)、又はKn21pr主鎖プラスBotox200U(対照に対する処置の比率)で腋窩処置4週間後(左右各々無作為化)の汗生成(5分間当たりのmg)を表6に示した。前述したPでNPSSを用いてWilcoxonの符号付順位検定による統計学的分析を行い、P<0.05で有意差があった(PrTp=0.0217)[n=10]。
【0112】
図9は、腋窩多汗症を処置するための、「Essentia Botoxローション」で局所的に処置する前、及び後の、Minorのヨウ素/デンプン試験を表す写真を示している。対象#12に対し、右腋窩は「Essentia Botoxローション」で処置し(a及びc)、左腋窩は対照を適用した(b及びd)場合の、ベースライン時対2週間後のヨウ素/デンプン試験を示す。これらの写真は、ヨウ素デンプンにおける、担体+Botoxで処置した後に観察される典型的な利点を示している。対照側では、ある程度のクロスオーバーが観察されたが(重量分析データにおける25%の減少に一致し)、処置で大幅な減少がもたらされている(処置側に対する重量分析データにおける65%の減少に一致した)。
【0113】
結果
本明細書に開示された本発明により形成されたボツリヌス複合体を局所適用すると、自覚的又は量的に、多汗症の患者の同齢集団における発汗を減少させる治療上の利点が容易にもたらされることが、この実施例により確認された。発汗を減少させるこの効果は、先に示した前額部の場合、及び滞留時間中に製剤の広がりを制限するための手袋と組み合わせた場合の掌/足裏への適用においてももたらされている。治療のためのボツリヌストキシン複合体のこの経上皮の送達は、この取組みが、膀胱の機能不全若しくは痙攣、消化管への適用、又は臭いを減少させ若しくはざ瘡を予防/処置するための皮脂腺分泌など、SNAP機能又はアセチルコリンのシグナルが決定的である他の症例に拡張できることをさらに確かにしている。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】ペプチドの主鎖を含む本発明の組成物を用いて、ボツリヌストキシンの経皮送達の効果を実証する実験の結果を表す図である。
【図2】一方の肢の領域を本発明の組成物で処置し、他方の領域を本発明の担体を含まない、別のボツリヌストキシン含有組成物で処置したマウスの後肢の状態を示す写真である。
【図3】「Essentia Botoxローション」で局所的に処置する前、及び後の対象の前額部のしわを示す写真である。
【図4】「Essentia Botoxローション」でしわを局所的に処置した後(A)の、及び処置する前(b)の前額部のMikrosilキャストを示す図である。これらのMikrosilキャストは、実際の対象の写真撮影に起因することがあるアーチファクトを最小にするため有用であり、非処置の側に深いしわがあることをはっきりと示している。
【図5】「Essentia Botoxローション」(A)及び対照のローション(B)を、対象の前額部に適用して5日後に行った、Minorのヨウ素/デンプン試験を示す写真である。対照のローションには、分子量約21000を有しTAT分枝基を有する正の電荷を持つポリリジンの主鎖が含まれていた。これらの写真は、適用2分後に撮影した。
【図6】図5と同じであるが、4分経過後に撮影した写真である。
【図7】腋窩多汗症の試験で用いた投与領域を示す図である。投与領域は、腋毛で覆われている皮膚の領域を1センチメートル拡張していることに注意されたい。
【図8a】ヒト対象で腋窩多汗症を処置するために、短いペプチジルの担体を用いた局所用薬剤として無傷の皮膚を通して治療的に送達されたボツリヌストキシンの効果を実証する実験の結果を表す図である。グラフは、Botoxプラス短いペプチジルの担体、又は担体のみで処置し、4週間後に重量測定法で測定した汗の量(5分当たりのmg)に有意な減少があったことを示している。結果は、同じグループで、ベースライン値に対する比率で表した4週間後の値であり、N=10の患者でWilcoxonの分析で決定してP<0.05で有意差があった。
【図8b】ヒト対象で腋窩多汗症を処置するために、短いペプチジルの担体を用いた局所用薬剤として無傷の皮膚を通して治療的に送達されたボツリヌストキシンの効果を実証する実験の結果を表す図である。グラフは、Botoxプラス短いペプチジルの担体、又は担体のみで処置し、4週間後に重量測定法で測定した汗の量(5分当たりのmg)に有意な減少があったことを示している。結果は、両時間点で、対照値に対する比率で表した処置の値であり、N=10の患者でWilcoxonの分析で決定してP<0.05で有意差があった。
【図9】腋窩多汗症を処置するために「Essentia Botoxローション」で局所的に処置する前、及び後の、Minorのヨウ素/デンプン試験を示す写真である。対象#12の、右腋窩を「Essentia Botoxローション」で処置し(a及びc)、左腋窩に対照を適用した(b及びd)場合の、ベースライン時対2週間後のヨウ素/デンプン試験を示してある。これらの写真は、担体+Botoxで処置した後にヨウ素デンプンで観察された、典型的な利点を示している。対照側にいくらかの交差が観察されるが(重量分析のデータにおける25%の減少に一致する)、処置で大幅な減少がもたらされている(処置側に重量分析のデータにおける65%の減少に一致する)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌストキシンと、正に帯電した分枝基が結合しているポリマー主鎖を含む担体とを含む組成物であって、担体とボツリヌストキシンとの結合が非共有結合性である組成物。
【請求項2】
ボツリヌストキシンがボツリヌストキシン誘導体である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ボツリヌストキシンが組換えボツリヌストキシンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
ボツリヌストキシンが修飾されたボツリヌストキシンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ボツリヌストキシンが、血清型A、B、C、D、E、F、及びG型のボツリヌストキシンから選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ボツリヌストキシンがA型ボツリヌストキシンである、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
ボツリヌストキシンがB型ボツリヌストキシンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
ボツリヌストキシンがC型ボツリヌストキシンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
ボツリヌストキシンがD型ボツリヌストキシンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
ボツリヌストキシンがE型ボツリヌストキシンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
担体が、−(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT、アンテナペディアPTD及びHIV−TAT若しくはアンテナペディアPTDの断片(式中、下付き文字n1は、0〜約20の整数であり、下付き文字n2は、独立に、約5〜約25の奇数である)から選択される、正に帯電した分枝基が結合しているポリペプチドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
担体が、−(gly)n1−(arg)n2から選択される正に帯電した分枝基を有するポリペプチドを含み、式中、下付文字n1は約0から約20までの整数であり、下付文字n2は独立に約5から約25までの奇数である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
下付き文字n1が、0〜約8の整数である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
下付き文字n1が、約2〜約5の整数である、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
下付き文字n2が、約7〜約17の奇数である、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
下付き文字n2が、約7〜約13の奇数である、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
担体が、HIV−TAT及びその断片から選択される、正に帯電した分枝基が結合しているポリペプチドを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項18】
分枝基が、式(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR−(gly)、又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)(下付き文字p及びqは、それぞれ独立に、0〜20の整数である)を有する正に帯電したHIV−TAT断片である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
正に帯電した分枝基が、担体全体の重量の少なくとも約0.05重量%を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
正に帯電した分枝基が、担体全体の重量の約0.5重量%〜約45重量%を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
正に帯電した分枝基が、担体全体の重量の約0.1重量%〜30重量%を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
主鎖が、正に帯電したポリペプチドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
主鎖が、正に帯電したポリリジンを含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
ポリリジンが、約10,000〜1,500,000の分子量を有する、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
ポリリジンが、約25,000〜約1,200,000の分子量を有する、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
ポリリジンが、約100,000〜約1,000,000の分子量を有する、請求項23に記載の組成物。
【請求項27】
主鎖が、正に帯電した非ペプチジル担体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
主鎖が、正に帯電したポリアルキレンイミンを含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
ポリアルキレンイミンが、ポリエチレンイミンである、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
ポリエチレンイミンが、約10,000〜約2,500,000の分子量を有する、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
ポリエチレンイミンが、約100,000〜約1,800,000の分子量を有する、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
ポリエチレンイミンが、約500,000〜約1,400,000の分子量を有する、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
pHが約4.5〜約6.3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項34】
室温で、又は冷蔵条件下で貯蔵した場合に安定である、請求項1に記載の組成物。
【請求項35】
請求項1に記載の制御放出組成物。
【請求項36】
請求項1に記載の液体組成物。
【請求項37】
請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項38】
クリーム剤、ローション剤、又は軟膏剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項39】
食塩水をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項40】
食塩水及びpH緩衝系をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項41】
ボツリヌストキシン、及びその経皮送達に有効な量の正に帯電した分枝基が結合している、ポリマーの主鎖を含む担体を含み、担体とボツリヌストキシンの間の結合が非共有結合である、ボツリヌストキシンを対象に投与するためのキット。
【請求項42】
特別仕様でつくられたアプリケーターをさらに含む、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
特別仕様でつくられたアプリケーターが、医療専門家が使用するために設計されている、請求項42に記載のキット。
【請求項44】
特別仕様でつくられたアプリケーターが、対象が自己投与するために設計されている、請求項42に記載のキット。
【請求項45】
ボツリヌストキシン及び担体を含む予め配合された組成物を含む、請求項41に記載のキット。
【請求項46】
ボツリヌストキシン及び担体が、投与の前に混合するために別々に配合されている、請求項41に記載のキット。
【請求項47】
ボツリヌストキシンが、ボツリヌストキシンを対象に皮膚から投与するための装置に含まれている、請求項41に記載のキット。
【請求項48】
装置が皮膚パッチである、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
ボツリヌストキシンを皮膚に送達するための器具と、−(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT及びその断片、並びにアンテナペディアPTD(式中、下付き文字n1は、0〜約20の整数であり、下付き文字n2は、独立に、約5〜約25の奇数である)から選択される、正に帯電した分枝基が結合しているポリマー主鎖を含む担体を含む組成物とを含む、ボツリヌストキシンを対象に投与するためのキット。
【請求項50】
器具が皮膚パッチである、請求項49に記載のキット。
【請求項51】
正に帯電した分枝基が結合しているポリマー主鎖を含む有効量の担体と共に、ボツリヌストキシンを対象の皮膚又は上皮に局所的に適用することを含む、ボツリヌストキシンを対象に投与する方法であって、担体とボツリヌストキシンとの結合は非共有結合性である方法。
【請求項52】
有効量の請求項1に記載の組成物を、対象の皮膚又は上皮に局所的に適用することを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
対象の皮膚又は上皮にボツリヌストキシン及び担体を別々に適用することを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
望ましい生物学的効果を達成するためにボツリヌストキシンを投与する、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
審美上の又は美容上の利点を達成するために、ボツリヌストキシンを投与する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
免疫応答を低下させ又は防止するためにボツリヌストキシンを適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
後の組成物の繰返し再投与の際に、低下し、又は防止された免疫応答が治療効果を増強する、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
自覚的な又は臨床上の多汗症に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを投与する、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
自覚的な又は臨床上のジストニー収縮(dystonic contractions)又はジストニア(dystonia)を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
筋痙攣に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
ボツリヌストキシンを対象の背下部に局所的に適用する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
ボツリヌストキシンを対象の頚部に局所的に適用する、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
ボツリヌストキシンを対象の少なくとも1本の脚に局所的に適用する、請求項60に記載の方法。
【請求項64】
ボツリヌストキシンを対象の顔面に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項65】
ボツリヌストキシンを対象の腋窩に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項66】
ボツリヌストキシンを対象の掌に、若しくは足に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項67】
ボツリヌストキシンを対象の背部若しくは頚部に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項68】
ボツリヌストキシンを対象の鼠径部に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項69】
組成物を対象の手若しくは足に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項70】
ボツリヌストキシンを対象の肘、上腕、膝、若しくは上脚に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項71】
ボツリヌストキシンを対象の臀部に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項72】
ボツリヌストキシンを対象の胴に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項73】
ボツリヌストキシンを対象の骨盤に、又はその一部分に局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項74】
ボツリヌストキシンを、免疫応答を生じさせる、又は増強するために適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項75】
ボツリヌストキシンを偏頭痛に関連する症状を予防し、又は緩和するために局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項76】
ボツリヌストキシンを、座瘡を予防し、又は緩和するために局所的に適用する、請求項51に記載の方法。
【請求項77】
ボツリヌストキシンがボツリヌストキシン誘導体である、請求項51に記載の方法。
【請求項78】
ボツリヌストキシンが組換えボツリヌストキシンを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項79】
ボツリヌストキシンが修飾されたボツリヌストキシンを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項80】
ボツリヌストキシンが血清型A、B、C、D、E、F、及びG型のボツリヌストキシンから選択される、請求項51に記載の方法。
【請求項81】
ボツリヌストキシンがA型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。
【請求項82】
ボツリヌストキシンがB型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。
【請求項83】
ボツリヌストキシンがC型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。
【請求項84】
ボツリヌストキシンがD型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。
【請求項85】
ボツリヌストキシンがE型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。
【請求項86】
担体が、−(gly)n1−(arg)n2、HIV−TAT、アンテナペディアPTD、及びHIV−TAT若しくはアンテナペディアPTDの断片(式中、下付き文字n1は、0〜約20の整数であり、下付き文字n2は、独立に、約5〜約25の奇数である)から選択される、正に帯電した分枝基が結合しているポリマー主鎖を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項87】
担体が、−(gly)n1−(arg)n2から選択される正に帯電した分枝基を有するポリペプチドを含む(式中、下付文字n1は約0〜約20の整数であり、下付文字n2は独立に約5〜約25の奇数である)請求項86に記載の方法。
【請求項88】
下付き文字n1が、0〜約8の整数である、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
下付き文字n1が、約2〜約5の整数である、請求項87に記載の方法。
【請求項90】
下付き文字n2が、約7〜約17の奇数である、請求項87に記載の方法。
【請求項91】
下付き文字n2が、約7〜約13の奇数である、請求項87に記載の方法。
【請求項92】
担体が、HIV−TAT及びその断片から選択される正に帯電した分枝基が結合しているポリペプチドを含む、請求項86に記載の方法。
【請求項93】
分枝基が、式(gly)−RGRDDRRQRRR−(gly)、(gly)−YGRKKRRQRRR−(gly)、又は(gly)−RKKRRQRRR−(gly)(下付き文字p及びqは、それぞれ独立に、0〜20の整数である)を有する正に帯電したHIV−TAT断片である、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
正に帯電した分枝基が、担体全体の重量の少なくとも約0.05重量%を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項95】
正に帯電した分枝基が、担体全体の重量の約0.5重量%〜約45重量%を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項96】
正に帯電した分枝基が、担体全体の重量の約0.1重量%〜約30重量%を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項97】
主鎖が、正に帯電したポリペプチドを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項98】
主鎖が、正に帯電したポリリジンを含む、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
ポリリジンが、約10,000〜1,500,000の分子量を有する、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
ポリリジンが、約25,000〜約1,200,000の分子量を有する、請求項98に記載の方法。
【請求項101】
ポリリジンが、約100,000〜約1,000,000の分子量を有する、請求項98に記載の方法。
【請求項102】
主鎖が、正に帯電した非ペプチジル担体を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項103】
正に帯電した非ペプチジルポリマーが、ポリアルキレンイミンである、請求項102に記載の方法。
【請求項104】
ポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである、請求項102に記載の方法。
【請求項105】
ポリエチレンイミンが、約10,000〜約2,500,000の分子量を有する、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
ポリエチレンイミンが、約100,000〜約1,800,000の分子量を有する、請求項104に記載の方法。
【請求項107】
ポリエチレンイミンが、約500,000〜約1,400,000の分子量を有する、請求項104に記載の方法。
【請求項108】
ボツリヌストキシンが組換えボツリヌストキシンを含む、請求項51に記載の方法。
【請求項109】
ボツリヌストキシンが約4.5〜約6.3のpHを有する組成物に適用される、請求項51に記載の方法。
【請求項110】
ボツリヌストキシンが制御放出組成物に適用される、請求項51に記載の方法。
【請求項111】
ボツリヌストキシンが液体組成物に含まれる、請求項51に記載の方法。
【請求項112】
ボツリヌストキシンがゲル組成物に含まれる、請求項51に記載の方法。
【請求項113】
ボツリヌストキシンが、クリーム剤、ローション剤、又は軟膏剤である組成物に含まれる、請求項51に記載の方法。
【請求項114】
ボツリヌストキシンが、食塩水をさらに含む組成物に含まれる、請求項51に記載の方法。
【請求項115】
ボツリヌストキシンが、食塩水及びpH緩衝系をさらに含む組成物に含まれる、請求項51に記載の方法。
【請求項116】
ボツリヌストキシンがボツリヌストキシンを投薬するための装置に含まれており、装置を対象の皮膚又は上皮に局所的に適用する請求項51に記載の方法。
【請求項117】
装置が皮膚パッチである、請求項116に記載の方法。
【請求項118】
装置が細胞封入装置である、請求項117に記載の方法。
【請求項119】
粘液分泌に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項120】
肥満又はその症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項121】
炎症又はその症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項122】
乾癬に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項121に記載の方法。
【請求項123】
組成物を他の治療形態と組み合わせて適用する、請求項122に記載の方法。
【請求項124】
いびきを予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項125】
糖尿病に関連する皮膚の症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項126】
創傷治癒を改善するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項127】
自律神経障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項128】
脳性麻痺に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項129】
橋本甲状腺炎に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項130】
乳腺の障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項131】
発毛を変調するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項132】
副甲状腺疾患に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項133】
運動障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項134】
パーキンソン病に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項133に記載の方法。
【請求項135】
振戦に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項133に記載の方法。
【請求項136】
てんかんに関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項137】
内耳の障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項138】
泌尿器の障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項139】
他のコリン作動性に制御される分泌を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項140】
神経精神障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項141】
負傷した筋肉に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項142】
耳の障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項143】
癌に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項144】
神経絞扼障害に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項145】
高カルシウム血症に関連する症状を予防し、又は緩和するために、ボツリヌストキシンを局所的に適用する、請求項54に記載の方法。
【請求項146】
ボツリヌストキシンが融合タンパク質を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項147】
ボツリヌストキシンがF型ボツリヌストキシンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項148】
ボツリヌストキシンがG型ボツリヌストキシンである、請求項5に記載の組成物。
【請求項149】
ボツリヌストキシンがF型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。
【請求項150】
ボツリヌストキシンがG型ボツリヌストキシンである、請求項51に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−526340(P2007−526340A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502108(P2007−502108)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2005/007524
【国際公開番号】WO2005/084410
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(504319459)ルバンス セラピュティックス (12)
【Fターム(参考)】