説明

ボルト継手構造

【課題】被結合部材の接合部で、接合部の形状とは無関係に複数の結合ボルトの分担荷重を平均化でき、接合部の加工を低減する。
【解決手段】互いに結合される被結合板材12a、12bの接合部14を複数の結合ボルト16a〜dで結合する。結合ボルト16a〜dは引張荷重Fの付加方向に配置されている。被結合板材12a、12bの接合部14は、弾性率が異なる4つの領域T〜Tで構成されている。領域T〜Tの弾性率は、弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)の関係にある。端側ボルト36a、36dほど低弾性領域T、Tに配置したので、各結合ボルトの分担荷重を平均化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の翼パネル部分の胴体部分への結合など、軽量を要求されかつ結合強度を厳格に要求される結合部に用いられて好適なボルト継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
引張荷重や圧縮荷重に対して、被結合部材の接合部の結合強度が厳格に要求される場合、結合手段として、荷重付加方向に複数のボルトを配列したボルト継手が用いられている。複数のボルトで接合部に付加される荷重を分担するようにしている。
特許文献1には、こうしたボルト継手を航空機の翼パネル等の結合に用いることが開示されている。
【0003】
複数のボルトを用いた従来のボルト継手構造を図7に示す。図7において、ボルト継手構造100は、2枚の被結合板材102a及び102bのが、複数(図7では4個)の結合ボルト104a〜dが、引張荷重Fの作用する方向に沿って配置されている。
ボルト継手構造100では、中央側に配置された結合ボルト104b及び104cと、端側に配置された結合ボルト104a及び104dとでは、結合部に付加される荷重を結合部に伝達する被結合板材の微小なたわみ量の違いにより、一般的に、端側ボルトのほうが分担荷重が大きくなる。この状態を図3の荷重線Aで示す。
【0004】
被結合部材の結合部が複合材料で構成されている場合、複合材料は金属に比べ、延性が小さいため、端側ボルトの分担荷重が大きくなる傾向がある。そのため、結合部を結合するボルトの数を増やしても、結合部に付加する荷重を増大させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−539702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者等は、各結合ボルトに付加される分担荷重の平均化を可能にするボルト継手構造を種々検討した。本発明者等によって案出されたボルト継手構造を図8に示す。図8において、このボルト継手構造110は、結合部における被結合板材102a、102bの板厚を端側にいくほど薄くしたものである。これによって、各結合ボルト周辺の被結合板材102a、102bの弾性率を、端側へいくほど小さくできる。弾性率を小さくすることで、被結合部材の剛性を小さくできるので、各結合ボルトの分担荷重を従来より平均化できることがわかった。
【0007】
しかし、ボルト継手構造110は、被結合板材102a、102bの端側部の板厚を薄くすることで、被結合板材の強度面等、他の設計基準を満たさなくなるおそれがあると共に、結合部の形状が複雑になり、結合部の加工工数が増加するという問題がある。特に、被結合板材が複合材料であるとき、複合材料は多数の薄膜シートで構成されているため、複合材料を板厚変化させるためには、複合材料を構成する積体の数を減少させる必要がある。このことで、加工がさらに面倒になると共に、結合部の板厚変更によって、強度の対称性等を保持することができなくなるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明者等は、代替案として、被結合板材102a、102bの幅寸法を、端側にいくほど小さくすることにした。これによって、被結合部材の弾性率を端側へいくほど小さくでき、各結合ボルトの分担荷重を同様に平均化できることがわかった。しかしながら、このボルト継手構造も、強度等の設計基準を満たす上で障害になるおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、被結合部材の結合部で、各結合ボルトの分担荷重を平均化する共に、結合部の設計条件を満たし、かつ加工が面倒にならないボルト継手構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明のボルト継手構造は、被結合部材の結合部に、荷重付加方向に沿って複数の結合ボルトを列状に配置して該結合部を結合してなるボルト継手構造において、結合部の材質又は該結合部に付加される荷重を結合ボルトに伝達する伝達部材の材質を、端側に配置された結合ボルトほど弾性率が小さい材質で構成し、各結合ボルトに付加される分担荷重を平均化させるように構成したものである。
【0011】
本発明では、被結合部材の接合部の材質又は該接合部に付加される荷重を結合ボルトにする伝達部材の材質の弾性率を各結合ボルトで変更するようにしたものである。即ち、端側に配置された結合ボルトの周囲領域を弾性率が小さい材質で構成し、該周囲領域の剛性を低下させる。これによって、端側ボルトの分担荷重を低減させるようにしている。このように、各結合ボルトの分担荷重を平均化できるため、結合ボルトの数に比例して結合部の伝達可能な荷重を増大できる。また、結合部の形状とは無関係に、結合ボルトの分担荷重を平均化できるため、結合部に余分な加工を要しない。
【0012】
本発明において、被結合部材が複合材料であるとき、結合部の母材中に含まれる強化繊維の種類又は含有量を荷重付加方向に沿って変え、該結合部の弾性率を荷重付加方向に沿って変化させるように構成するとよい。これによって、荷重付加方向に沿って連続的に弾性率が変わる性質を、複合材料の製造時に容易に付与できる。そのため、本発明のボルト継手構造に適用可能な結合部の形成が容易になる。
【0013】
本発明において、前記伝達部材が、結合部の被結合部材と前記結合ボルトとの間に介在された補強板であるとよい。荷重付加方向に沿って弾性率が変わる補強板を用いることによって、被結合部材に特別な加工を必要としなくなり、弾性率を考慮しない被結合部材を用いることができる。そのため、ボルト継手構造を簡素化かつ低コストにできる。
【0014】
本発明において、前記伝達部材が結合部の被結合部材と前記結合ボルトとの間に介在されたスリーブであり、被結合部材の端側に配置された結合ボルトに、被結合部材より弾性率が小さいスリーブを装着してなるものであるとよい。このように、端側ボルトにのみ弾性率が小さなスリーブを装着することで、端側ボルトの分担荷重を低減できる。そのため、弾性率を考慮しない被結合部材を用いることができると共に、前記補強板も不要となり、ボルト継手構造をさらに簡素化し、かつ低コストにできる。
【0015】
また、被結合部材の端側に配置された結合ボルトほど弾性率が小さいスリーブを装着するようにしてもよい。これによって、複数の結合ボルトの分担荷重をより精度良く平均化できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被結合部材の結合部に、荷重付加方向に沿って複数の結合ボルトを列状に配置して該結合部を結合してなるボルト継手構造において、結合部の材質又は該結合部に付加される荷重を結合ボルトに伝達する伝達部材の材質を、端側に配置された結合ボルトほど弾性率が小さい材質で構成し、各結合ボルトに付加される分担荷重を平均化させるように構成したので、被結合部材の結合部の形状とは無関係に結合ボルトの分担荷重を平均化できる。そのため、該結合部に特別な加工を必要としないので、設計基準と抵触しないボルト継手構造を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るボルト継手構造を模式的に示す説明図である。
【図2】前記第1実施形態の接合部の構成を示す説明図である。
【図3】本発明のボルト継手構造によるボルト付加荷重の平均化を示す線図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るボルト継手構造を模式的に示す説明図である。
【図5】前記第2実施形態の補強板の構成を示す説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るボルト継手構造を模式的に示す説明図である。
【図7】従来のボルト継手構造の説明図である。
【図8】本発明者が案出した中間技術となるボルト継手構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0019】
(実施形態1)
本発明の第1実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るボルト継手構造10を模式的に示す図である。図1のボルト継手構造10において、互いに結合される被結合板材12a及び12bは複合材料で構成されている。被結合板材12a、12bの結合部14は、夫々被結合部材の内側から端側に向かって、弾性率が異なる4つの領域T〜Tで構成されている。これら領域の弾性率は、弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)の関係にある。
【0020】
次に、図2により、被結合板材12a、12bの結合部14の構成を、被結合板材12aを例にして説明する。図2において、被結合板材12aを構成する複合材料の強化材は、2種の繊維C及びGで構成されている。繊維Cは極太線で示され、繊維Gは繊維Cより細い太線で示されている。繊維Cと繊維Gとの弾性率の関係は、繊維C>繊維Gの関係にある。例えば、繊維Cが炭素繊維であり、繊維Gがガラス繊維である。
【0021】
荷重付加方向に沿って繊維Cと繊維Gの配分を変えていくことにより、弾性率が異なる4つの領域T〜Tを形成できる。繊維C及びDは、母材となる樹脂又は金属等に含浸される。被結合部材12bも被結合部材12aと同様の方法で製造する。
被結合板材12a又は12bは、夫々、繊維と母材からなる複数の薄膜シートを別々に形成した後、これら薄膜シートを互いに貼り合わせて製造してもよく、あるいは貼り合わせ工程をなくし、始めから被結合板材の厚さをもつ板状体で製造してもよい。
【0022】
このように製造した被結合板材12a、12bの結合部14に、各領域T〜T毎に夫々1本の結合ボルト16a〜dを配置し、該結合ボルトで結合部14を結合する。結合部14には引張荷重Fが付加される。かかる構成のボルト継手構造10においては、被結合板材12a、12bの端側にいくほど弾性率が小さい領域が形成されているため、端側にいくほど被結合板材12a、12bの剛性が低下している。そのため、端側に配置された結合ボルトの分担荷重を低減できる。即ち、各結合ボルトに付加される荷重は、図3中の荷重線Bのようになる。
【0023】
このように、各結合ボルトの分担荷重を平均化できるため、結合ボルトの数に比例して伝達可能な荷重を増大できる。そのため、航空機の翼や胴体の結合部分のように、厳格な結合強度が要求される結合部に適用できる。複合材料は、強化部材と母材とからなる多数の薄膜シートを積層し接着して成形する場合、板厚変更が困難であり、また板厚を変更した場合、強度の対称性を保持するのが困難となる。
【0024】
本実施形態では、被結合板材12a、12bの板厚を変更する必要がないので、複合材料を用いても余分な加工を要しない。また、被結合板材12a、12bが複合材料である場合、強化部材である繊維の種類及び配合割合を変えることにより、荷重付加方向に沿って弾性率が異なる領域を形成するのが容易になるという利点がある。
【0025】
(実施形態2)
次に、本発明の第2実施形態を図4及び図5により説明する。本実施形態のボルト継手構造20は、結合部24に補強板28を用いている。被結合板材22a及び22bは複合材料であるが、この複合材料は、前記第1実施形態のように荷重付加方向に沿って弾性率を変えたものではない。2枚の補強板28が、夫々被結合板材22aと各結合ボルト26a〜dとの間、及び被結合板材22a、22bと各結合ボルト間に介在されている。
【0026】
次に、補強板28の構成を図5により説明する。図5において、補強板28は複合材料で構成され、図2に示す第1実施形態の被結合板材12a、12bと同様の方法で製造されている。即ち、引張荷重Fの付加方向に補強材となる繊維の種類及び含有割合を変えることにより、弾性率が異なる4つの領域T〜Tで構成されている。これら領域の弾性率は、弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)>弾性率E(領域T)の関係にある。
【0027】
かかる構成の2枚の補強板28を、弾性率が小さい領域Tが被結合板材22a、22bの端側に配置され、弾性率が大きい領域Tが内側に配置されている。各結合ボルト26a〜dには、被結合板材22a、22bから補強板28を介して引張荷重Fが伝達される。しかし、分担荷重が大きい端側結合ボルトは、弾性率が小さくかつ剛性が小さい補強板28から荷重が伝達されるので、分担荷重を低減できる。即ち、本実施形態の各結合ボルト26a〜dに付加される荷重は、図3中の荷重線Bのようになる。
【0028】
本実施形態のボルト継手構造20によれば、前記第1実施形態で得られる作用効果に加えて、被結合板材22a、22bを構成する複合材料自体に加工を施す必要がないので、製作が容易になるという利点がある。
【0029】
(実施形態3)
本発明の第3実施形態を図6により説明する。本実施形態のボルト継手構造30は、結合部34に設けられる4個の結合ボルト36a〜dのうち、端側ボルト36a及び36dのネジ部37と、被結合板材32a、32bとの間に、スリーブ38を介装したものである。本実施形態の被結合板材32a、32bは、前記第2実施形態と同様に、弾性率を変えない複合材料を用いている。
【0030】
スリーブ38は、被結合板材32a、32bの弾性率より小さい弾性率を持つ材質で構成されている。端側ボルト36a、36dでは、引張荷重Fはスリーブ38を介して端側ボルト36a、36dに伝達される。そのため、端側ボルト36a、36dの分担荷重は、図3中の荷重線Bのように低減され、各結合ボルト36a〜dに付加される分担荷重は平均化される。
【0031】
本実施形態のボルト継手構造30によれば、被結合板材32a、32bは、弾性率を変化させる必要がなく、通常の複合材料でよい。また第2実施形態のように弾性率が変化した補強板28を用いる必要もない。単に被結合板材32a、32bより弾性率が小さいスリーブ38を端側ボルト36a、36dに介設するだけでよいので、前記第1実施形態及び第2実施形態と比べて、最も加工が容易である。
【0032】
なお、第3実施形態では、端側ボルト36a、36dにスリーブ38を装着した構成としたが、代わりに、端側ボルト36a、36dだけでなく、内側ボルト36b及び36cにもスリーブを装着させると共に、内側ボルト36b、36cのスリーブの弾性率を端側ボルト36a、36dのスリーブ28の弾性率より大きな材質で構成するようにしてもよい。これによっても、各結合ボルトの分担荷重を平均化できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、複数の結合ボルトを荷重付加方向に配置したボルト継手構造において、各結合ボルトの分担荷重を簡単かつ低コストな手段で平均化できるので、ボルト数に比例して、結合強度を高めることができ、軽量を要求され、厳格な結合強度を要求される航空機の翼部材と胴体部分の結合等に好適である。
【符号の説明】
【0034】
10,20,30、100,110 ボルト継手構造
12a、12b、22a、22b、32a、32b、102a、102b、112a、112b 被結合板材
14,24,34,104,114 結合部
16a〜d、26a〜d、36a〜d、106a〜d、116a〜d 結合ボルト
28 補強板
37 ネジ部
38 スリーブ
A、B 荷重線
C 炭素繊維
G ガラス繊維
、T、T、T 領域
、E,E,E 弾性率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被結合部材の結合部に、荷重付加方向に沿って複数の結合ボルトを列状に配置し該結合部を結合してなるボルト継手構造において、
前記結合部の材質又は該結合部に付加される荷重を前記結合ボルトに伝達する伝達部材の材質を、被結合部材の端側に配置された結合ボルトほど弾性率が小さい材質で構成し、各結合ボルトに付加される分担荷重を平均化させるように構成したことを特徴とするボルト継手構造。
【請求項2】
前記被結合部材が複合材料であり、結合部の母材中に含まれる強化繊維の種類又は含有量を荷重付加方向に沿って変え、該結合部の弾性率を荷重付加方向に沿って変化させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載のボルト継手構造。
【請求項3】
前記伝達部材が、結合部の被結合部材と前記結合ボルトとの間に介在された補強板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボルト継手構造。
【請求項4】
前記伝達部材が被結合部材の結合部と前記結合ボルトとの間に介在されたスリーブであり、被結合部材の端側に配置された結合ボルトに、被結合部材より弾性率が小さいスリーブを装着してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のボルト継手構造。
【請求項5】
前記伝達部材が被結合部材の結合部と前記結合ボルトとの間に介在されたスリーブであり、被結合部材の端側に配置された結合ボルトほど弾性率が小さいスリーブを装着してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のボルト継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127387(P2012−127387A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277755(P2010−277755)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】