ボロメータ型THz波検出器
【課題】高性能かつ高歩留まりで製造可能なボロメータ型THz波検出器の提供。
【解決手段】ボロメータ薄膜7を含む温度検出部14(ダイアフラム)が支持部13によって回路基板2から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造において、回路基板2上にTHz波を反射する反射膜3を形成し、温度検出部14上にTHz波を吸収する吸収膜11を形成し、反射膜3と温度検出部14とで光学的共振構造を形成すると共に、反射膜3と温度検出部14との間隔は赤外線の波長を基準にして赤外線の波長の略1/4(例えば、略1.5乃至2.5の範囲)に設定し、温度検出部14のシート抵抗はTHz波を基準にしてTHz波の吸収率が所定値以上となる範囲(略10乃至100Ω/sq.の範囲)に設定する。これにより、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造技術を利用しつつTHz波の吸収率を大幅に改善する。
【解決手段】ボロメータ薄膜7を含む温度検出部14(ダイアフラム)が支持部13によって回路基板2から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造において、回路基板2上にTHz波を反射する反射膜3を形成し、温度検出部14上にTHz波を吸収する吸収膜11を形成し、反射膜3と温度検出部14とで光学的共振構造を形成すると共に、反射膜3と温度検出部14との間隔は赤外線の波長を基準にして赤外線の波長の略1/4(例えば、略1.5乃至2.5の範囲)に設定し、温度検出部14のシート抵抗はTHz波を基準にしてTHz波の吸収率が所定値以上となる範囲(略10乃至100Ω/sq.の範囲)に設定する。これにより、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造技術を利用しつつTHz波の吸収率を大幅に改善する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、THz周波数帯の電磁波(THz波)を検出する検出器に関し、特に、ボロメータ型THz波検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光と電波の狭間にあるテラヘルツ周波数帯の電磁波(すなわち、周波数が1012Hz,波長が略30μm〜1mmの電磁波、以下、THz波と呼ぶ。)が物質の情報を直接反映する電磁波として注目されている。このTHz波を検出する検出器(以下、THz検出器と呼ぶ。)は、THz波を捕捉するダイポールアンテナやボータイ(Bow-tie)アンテナなどのアンテナ部と、アンテナ部で捕捉したTHz波を電気信号に変換する電気信号変換部とで構成される構造が一般的であり、電磁波を電気信号に変換する方式としてCapacitive coupling方式やResistive coupling方式などが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、図16に示すようなCapacitive coupling方式のTHz波検出器が開示されている。このTHz波検出器は、基板20上にガラス層21が形成され、ガラス層21上に4つの金属アンテナ22(ボータイアンテナ)が形成され、4つの金属アンテナ22の中央部に、ガラス層21や金属アンテナ22から所定の間隔(GAP1及びGAP2)を隔てて、ヒータ膜23と絶縁体24と感熱抵抗層25と絶縁体26とが積層された検知素子27が形成された構造となっている。
【0004】
また、同特許文献1には、図17に示すようなResistive coupling方式のTHz波検出器も開示されている。このTHz波検出器は、基板20上にガラス層21が形成され、ガラス層21上に4つの金属アンテナ22(ボータイアンテナ)が形成され、4つの金属アンテナ22の中央部に、ガラス層21から所定の間隔(GAP3)を隔てて、4つの金属アンテナ22に接続されるヒータ膜23が形成され、ヒータ膜23上に絶縁体24と感熱抵抗層25と絶縁体26とが積層された検知素子27が形成された構造となっている。この構造では、金属アンテナ22で集めたエネルギーをヒータ膜23に有効に伝達するため、50〜100Ωにインピーダンス整合させた脚28が必要になるため、熱コンダクタンスが大きくなり、Capacitive coupling方式に比べて感度が1桁ほど低くなると記載されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6329655号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、Capacitive coupling方式でTHz波を検出する場合は、金属アンテナ22で集めたエネルギーを効率的にヒータ膜23に伝達するためには、ガラス層21と検知素子27との間隔(GAP1)と金属アンテナ22と検知素子27との間隔(GAP2)を正確に制御する必要があり、上記特許文献1では、GAP2の値として0.1〜1μmの範囲が好ましいと記載されている。しかしながら、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)技術を用いて、検知素子27を脚28によってガラス層21から浮かせる場合、その間隔を0.1〜1μmの範囲にすることは困難であり、歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、Resistive coupling方式でTHz波を検出する場合も、金属アンテナ22で集めたエネルギーを効率的にヒータ膜23に伝達するためには、ガラス層21とヒータ膜23との間隔(GAP3)を正確に制御する必要があり、上記特許文献1では、GAP3の値として0.2〜1μmの範囲が好ましいと記載されている。しかしながら、MEMS技術を用いて、ヒータ膜23をガラス層21から浮かせる場合に、その間隔を0.2〜1μmの範囲にすることは困難であり、歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0008】
また、一般的に、アンテナで電磁波を捕捉できる面積(effective aperture)は半波長を半径とする円の面積程度にしかならないことから、THz波を効率的に捕捉するために金属アンテナ22を大きくする必要があるが、上記構造のTHz波検出器を2次元アレイ化する場合は、各々の検出器のサイズが限られるため、必然的に検知素子27のサイズは小さくなる。例えば、波長1mmのTHz波では検知素子27のサイズは数μm程度になってしまい、数μmの小さな領域に検知素子27を作り込むのは非常に困難であり、更に歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、高性能かつ高歩留まりで製造可能なボロメータ型THz波検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、基板内に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されるものである。
【0011】
また、本発明は、基板内に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間に前記THz波を透過する光学膜が配置され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されるものである。
【0012】
本発明においては、前記光学膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、シリコン膜のいずれかとすることができる。
【0013】
また、本発明においては、更に、前記温度検出部上に、該温度検出部の周縁部から外側に延びる庇が形成され、前記吸収膜が、前記温度検出部上及び前記庇上に形成される構成とすることができる。
【0014】
また、本発明においては、前記反射膜と前記温度検出部との間隔は、略1.5乃至2.5μmの範囲に設定され、前記温度検出部のシート抵抗は、前記反射膜と前記温度検出部との間の光路長における、前記温度検出部のシート抵抗と前記THz波の吸収率との相関関係に基づいて、前記THz波の吸収率がピーク近傍となる範囲に設定される構成とすることができ、前記温度検出部のシート抵抗は、前記THz波の吸収率が略10%以上となる範囲に設定される構成、又は、略10乃至100Ω/squareの範囲に設定される構成とすることもできる。
【0015】
このように、本発明では、反射膜と温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定し、温度検出部のシート抵抗はTHz波を基準にして設定することにより、赤外線検出器の構造及び製造方法を利用しつつTHz波の吸収率を格段に向上させることができ、これにより、高性能のTHz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高性能のボロメータ型THz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【0017】
その理由は、ボロメータ薄膜を含む温度検出部(ダイアフラム)が支持部によって回路基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造において、回路基板上にTHz波を反射する反射膜を形成し、温度検出部上にTHz波を吸収する吸収膜を形成し、反射膜と温度検出部とで光学的共振構造を形成すると共に、反射膜と温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして赤外線の波長の略1/4(例えば、略1.5乃至2.5の範囲)に設定し、温度検出部のシート抵抗はTHz波を基準にしてTHz波の吸収率が所定値以上となる範囲(略10乃至100Ω/sq.の範囲)に設定することにより、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造技術を利用しつつ、THz波の吸収率を大幅に改善することができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
従来技術で示したように、周波数が1012Hz,波長が略30μm〜1mmのTHz波を検出するTHz波検出器として、Capacitive coupling方式やResistive coupling方式などが知られているが、これらの方式では、各部材の間隔を0.1μm程度の高い精度で制御しなければならず、かつ、アンテナに比べて検知素子のサイズが圧倒的に小さくなるため、高性能のTHz検出器を高い歩留まりで製造することが難しいという問題があった。
【0019】
一方、波長8〜12μm程度の赤外線を検出するボロメータ型赤外線検出器が知られており、監視目的などで広く利用されている。このボロメータ型赤外線検出器は、内部に読出回路が形成され、上面に反射膜が形成された基板上に犠牲層を形成し、犠牲層の上面にボロメータ薄膜と該ボロメータ薄膜を挟み込む保護膜とを含む温度検出部を形成すると共に、犠牲層の側面に一端がボロメータ薄膜に接続され他端が読出回路に接続される電極配線を含む2つの支持部を形成し、その後、犠牲層をエッチング除去するという方法で製造される。そして、基板上に形成された反射膜と温度検出部とで構成される光学的共振構造(いわゆる光共振器)によって入射した赤外線をより効率的に吸収し、吸収した赤外線によるボロメータ薄膜の抵抗変化を読出回路で読み出すことにより、赤外画像を得ている。
【0020】
ここで、従来のTHz波検出器はTHz波をアンテナで捕捉するものであるのに対して、赤外線検出器は赤外線を光学的共振構造で吸収するものであり、電磁波を取り込む方法が全く異なるが、THz波検出器は検出素子を脚で支持するものであり、赤外線検出器は温度検出部を支持部で支持するものであり、その構造に共通点がある。そこで、本願発明者は、上記ボロメータ型赤外線検出器の光学的共振構造を利用してTHz波を吸収するTHz波検出器を提案する。
【0021】
その際、ボロメータ型赤外線検出器では赤外線を効率的に吸収できるように光学的共振構造が形成されているため、ボロメータ型赤外線検出器をそのまま利用してもTHz波をほとんど検出することはできない。具体的には、温度検出部はTHz波を透過しやすく、反射膜と温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定されており、かつ、温度検出部のシート抵抗は数百〜数kΩ/sq.程度になるため、この条件では、THz波の吸収率は赤外線の吸収率の数%程度にしかならず、THz波検出器として十分な性能を得ることはできない。
【0022】
THz波の吸収率を向上させる方法として、光学的共振構造の間隔をTHz波を基準にして設定する方法も考えられるが、間隔を大きくするためには、犠牲層をTHz波の波長の1/4、すなわち数十〜数百μm程度の厚みで形成しなければならず、そのような大きな膜厚の犠牲層に温度検出部や支持部を形成するのは困難であり、また、温度検出部や支持部が形成できたとしても、犠牲層をエッチングで除去することは困難であり、歩留まりが著しく低下してしまう。更に、温度検出部が基板から数十〜数百μmの高さで支持された構造では振動や衝撃によって形状が変形しやすく、高い性能を維持することは困難である。
【0023】
以上の知見から、本発明では、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用してTHz波を検出可能にするために、第1に、温度検出部にTHz波を吸収する吸収膜を追加する。また、第2に、光学的共振構造の間隔を変えると製造条件がずれて歩留まりが著しく低下することから、その間隔は変えずに、赤外線の波長を基準にして赤外線の波長の1/4程度に設定する。また、第3に、温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関データに基づいて、温度検出部のシート抵抗を、THz波の吸収率が所定値以上となる範囲に設定する。これらにより、ボロメータ型赤外線検出器の構造や製造方法を利用してTHz波の吸収率を向上させることが可能となり、高性能なTHz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例1】
【0024】
上記実施形態について更に詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図1乃至図7を参照して説明する。図1は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の1画素の構造を模式的に示す断面図であり、図2乃至図5は、その製造方法を示す工程断面図である。また、図6及び図7は、温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関を示す図である。
【0025】
図1に示すように、本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部14(ダイアフラム)が中空に保持され、ボロメータ薄膜7の両端部は電極配線9が接続されている。
【0026】
ここで、上述したように、THz波を効率的に吸収するためには、光学的共振構造の条件を適切に設定する必要があるが、反射膜3と温度検出部14の間隔を変更するためには犠牲層の厚みを変えなければならず、犠牲層の厚みが変わると製造条件が大きくずれて歩留まりが著しく低下することから、反射膜3と温度検出部14の間隔(詳細には、反射膜3の表面と温度検出部14の厚み方向の中心との間隔、実際には吸収膜11が支配的であるため、反射膜3の表面と吸収膜11との間隔)は赤外線を基準に設定する。なお、赤外線の波長を8〜12μmとすると波長の1/4は2〜3μmとなるが、製造上、犠牲層は極力薄い方が好ましいことから、製造上の優位性を勘案して、本実施例では、反射膜3と温度検出部14の間隔を略1.5乃至2.5μmの範囲に設定する。
【0027】
また、温度検出部14のシート抵抗は図6及び図7に基づいて、THz波を基準に設定する。
【0028】
図6は、反射膜3と温度検出部14の間隔を1.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図6(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図6(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図6より、温度検出部14のシート抵抗を従来の赤外線検出器の条件(例えば、1kΩ/sq.)に設定した場合、波長10μmの赤外線の吸収率は略60%であるのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略1.5%であり、通常の赤外線検出器の条件ではTHz波をほとんど検出することはできない。しかしながら、温度検出部14のシート抵抗をピーク位置(30Ω/sq.)に近づけると、波長10μmの赤外線の吸収率は減少するのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略18%となり大幅に増加する。
【0029】
また、図7は、反射膜3と温度検出部14の間隔を2.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図7(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図7(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図7より、温度検出部14のシート抵抗を従来の赤外線検出器の条件(例えば、1kΩ/sq.)に設定した場合、波長10μmの赤外線の吸収率は略80%であるのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略3.8%であり、通常の赤外線検出器の条件ではTHz波をほとんど検出することはできない。しかしながら、温度検出部14のシート抵抗をピーク位置(50Ω/sq.)に近づけると、波長10μmの赤外線の吸収率は減少するのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略18%となり大幅に増加する。
【0030】
以上の結果より、ピーク位置は、反射膜3と温度検出部14の間隔に依存するが、温度検出部14のシート抵抗をピーク位置に近い値に設定すれば、THz波の吸収率は大幅に増加させることができる。ここで、通常の赤外線検出器では犠牲層の形成や除去のしやすさを考慮して反射膜3と温度検出部14の間隔を略1.5〜2.5μmに設定していることから、温度検出部14のシート抵抗の好ましい範囲は30〜50Ω/sq.となるが、多少ピーク位置からずれていても、吸収率が10%以上であれば十分にTHz波を検出可能であることから、温度検出部14のシート抵抗は10乃至100Ω/sq.の範囲であれば良いと言える。なお、温度検出部14のシート抵抗を上記範囲に設定しても赤外線はかなり吸収されてしまうが、ボロメータ型THz波検出器1の入射面側に赤外線を遮断するバンドパスフィルタなどを挿入すれば、THz波のみを効率的に検出することができる。
【0031】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について、図2乃至図5を参照して説明する。
【0032】
まず、図2に示すように、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、スパッタ法によりAl、Ti等の金属を500nm程度の膜厚で成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、各画素の温度検出部14に入射するTHz波を反射するための反射膜3及び電極配線9と読出回路2aとを接続するためのコンタクト4を形成する。なお、上記金属はTHz波の反射率が高く、電気抵抗が小さい材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0033】
次に、回路基板2全面に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO2)、シリコン窒化膜(SiN、Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、反射膜3及びコンタクト4を保護する第1保護膜5を形成する。
【0034】
次に、図3に示すように、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、コンタクト4及び画素間の領域が露出するように露光・現像を行った後、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層17を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、後に形成する第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11の厚みを考慮して、反射膜3と温度検出部14との間隔が赤外線の波長の略1/4程度(例えば、1.5〜2.5μm)になるように設定する。
【0035】
次に、図4に示すように、犠牲層17の上に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO2)、シリコン窒化膜(SiN、Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、第2保護膜6を形成する。
【0036】
次に、第2保護膜6の上に、酸素雰囲気の反応性スパッタにより酸化バナジウム(V2O3、VOXなど)や酸化チタン(TiOX)などを50〜200nm程度の膜厚で堆積し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14となる部分にボロメータ薄膜7を形成する。なお、ここではボロメータ薄膜7として酸化バナジウムや酸化チタンを用いているが、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の大きい他の材料を用いることもできる。
【0037】
次に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO,SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを50〜200nm程度の膜厚成膜し、ボロメータ薄膜7を保護する第3保護膜8を形成する。その後、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。
【0038】
次に、スパッタ法によりAl、Cu、Au、Ti、W、Moなどの金属を50〜200nm程度の膜厚で成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、電極配線9を形成する。この電極配線9はコンタクト4を介してボロメータ薄膜7と回路基板2内の読出回路2aとを電気的に接続すると共に、ボロメータ薄膜7を中空に保持する支持部13としての役割を果たす。
【0039】
その後、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO,SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、電極配線9を保護する第4保護膜10を形成する。
【0040】
次に、図5に示すように、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、吸収膜11を形成する。その際、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11を合わせた温度検出部14のシート抵抗が略10乃至100Ω/sq.となるように膜厚を設定する。この吸収膜11はTHz波を効率的に吸収する役割を果たす。なお、上記金属は温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定可能な材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0041】
その後、一フッ化メタンと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層17上の所定の領域にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、O2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層17を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0042】
なお、犠牲層17をポリシリコンやAlで構成することもできる。ポリシリコンを用いる場合は、例えば、ヒドラジンやテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いたウェットエッチング、XeF2プラズマを用いたドライエッチング等により犠牲層17を除去することができる。また、Alを用いる場合は、例えば、塩酸やホットリン酸を用いたウェットエッチングにより犠牲層17を除去することができる。
【0043】
また、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層17をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。シリコン窒化膜を犠牲層17とする場合は、例えば、ホットリン酸を用いたウェットエッチングで除去することができ、シリコン酸化膜を犠牲層17とする場合は、例えば、弗酸を用いたウェットエッチングで除去することができる。
【0044】
このように、本実施例では、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用し、温度検出部14上に吸収膜11を追加すると共に、反射膜3と温度検出部14の間隔は変えずに、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定することにより、THz波の吸収率を格段に向上させることができるため、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。また、このボロメータ型THz波検出器1では、赤外線もかなり高い吸収率で吸収することができるため、そのままボロメータ型赤外線検出器としても利用可能である。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図8乃至図10を参照して説明する。図8は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の1画素の構造を模式的に示す断面図であり、図9及び図10は、その製造方法の一部を示す工程断面図である。
【0046】
図8に示すように、本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部14(ダイアフラム)が中空に保持され、ボロメータ薄膜7の両端部は電極配線9が接続されている。また、温度検出部14の周囲には、温度検出部14の周囲に入射するTHz波を吸収できるようにするための庇12が形成されている。
【0047】
このような構造においても、反射膜3と温度検出部14の間隔が1.5〜2.5μmの場合において、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.の範囲に設定することにより、赤外線検出器の構造や製造方法を利用して、高性能なボロメータ型THz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【0048】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について、図9及び図10を参照して説明する。
【0049】
まず、前記した第1の実施例と同様に、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、反射膜3及びコンタクト4を形成し、その上に第1保護膜5を形成した後、温度検出部14となる領域に犠牲層17を形成する。次に、犠牲層17の上に第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8を形成し、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。次に、電極配線9、第4保護膜10を形成する。
【0050】
次に、本実施例では、一フッ化メタンと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層17上の所定の領域にスルーホールを形成し、ポリイミドを部分的に露出させる。
【0051】
次に、図9に示すように、回路基板2全面に感光性ポリイミドを塗布し、温度検出部14の周縁部が露出するように露光・現像を行った後、熱処理を施して、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層18を形成する。第2犠牲層18の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
【0052】
次に、シリコン酸化膜(SiO、SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などの絶縁材料を300〜600nm程度の膜厚で形成した後、温度検出部14中央部の上記絶縁材料を除去して庇12を形成する。
【0053】
次に、図10に示すように、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14中央部及び庇12上に吸収膜11を形成する。その際、第1の実施例と同様に、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11、庇12を合わせた温度検出部14のシート抵抗が略10乃至100Ω/sq.となるように膜厚を設定する。
【0054】
その後、隣接する画素間の庇12にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、O2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層17及び第2犠牲層18を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0055】
なお、本実施例においても、犠牲層17をポリシリコンやAlで構成することもできるし、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層17をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。
【0056】
このように、本実施例でも、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用し、温度検出部14上及び庇12上に吸収膜11を追加すると共に、反射膜3と温度検出部14の間隔は変えずに、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定することにより、温度検出部14に入射するTHz波のみならず、温度検出部14周囲に入射するTHz波も庇12で吸収することができるため、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。また、このボロメータ型THz波検出器1では、赤外線もかなり高い吸収率で吸収することができるため、そのままボロメータ型赤外線検出器としても利用可能である。
【実施例3】
【0057】
次に、本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図11乃至図15を参照して説明する。図11は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の1画素の構造を模式的に示す断面図であり、図12及び図13は、その製造方法の一部を示す工程断面図である。また、図14及び図15は、温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関を示す図である。
【0058】
本発明のボロメータ型THz波検出器では、THz波に適した光学的共振構造を形成するためには反射膜3と温度検出部14の間隔は広い方がよいが、一方、反射膜3と温度検出部14の間隔を広くすると、犠牲層17の形成や除去が困難になる。そこで、本実施例では、反射膜3と温度検出部14の間に所定の屈折率の部材(光学膜16と呼ぶ。)を介在させ、反射膜3と温度検出部14の実際の間隔を変えずに、屈折率を加味した光学的な長さ(すなわち、光路長)を変える。
【0059】
なお、光学膜16は、屈折率が大きく、THz波の吸収が小さく、プロセス適合性のよい部材であれば良く、例えば、シリコン酸化膜(SiO、SiO2)やシリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)、シリコン膜など用いることができる。また、光学膜16を介在させることによって反射膜3と温度検出部14の光路長が変化することから、温度検出部14のシート抵抗は図14、図15及び前記した第1の実施例の図6、図7に基づいて設定する。
【0060】
図14は、反射膜3の上に屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を設け、反射膜3と温度検出部14の間隔を1.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図14(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図14(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図14と図6とを比較すると、赤外線の吸収特性はあまり変化していないが、THz波の吸収特性は、そのピーク位置が右方向(シート抵抗が大きい方向)にシフトしており、かつ、吸収率が全体的に大きくなっている。これは、屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を介在させることによって光路長が3.2μmになり、THz波の光学的共振条件に近くなったためと考えられる。
【0061】
また、図15は、反射膜3の上に屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を設け、反射膜3と温度検出部14の間隔を2.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図15(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図15(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図15と図7とを比較すると、赤外線の吸収特性は、そのピーク位置が左方向(シート抵抗が小さい方向)にシフトしており、かつ、吸収率が全体的に小さくなっているが、THz波の吸収特性は、そのピーク位置が右方向(シート抵抗が大きい方向)にシフトしており、かつ、吸収率が全体的に大きくなっている。これは、屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を介在させることによって光路長が4.2μmになり、赤外線の光学的共振条件から大きく外れて、THz波の光学的共振条件に近くなったためと考えられる。
【0062】
以上の結果より、反射膜3上に所定の屈折率の光学膜16を介在させることにより、反射膜3と温度検出部14の間隔を変えなくても、THz波の吸収率を大幅に増加させることができる。この場合、温度検出部14のシート抵抗の好ましい範囲は光学膜16の屈折率及び膜厚に依存するが、第1の実施例と同様に、多少ピーク位置からずれていても、吸収率が10%以上であれば十分にTHz波を検出可能であることから、温度検出部14のシート抵抗は10乃至100Ω/sq.の範囲であれば良いと言える。なお、本実施例においても、温度検出部14のシート抵抗を上記範囲に設定しても赤外線はかなり吸収されてしまうが、ボロメータ型THz波検出器1の入射面側に赤外線を遮断するバンドパスフィルタなどを挿入すれば、THz波のみを効率的に検出することができる。
【0063】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について、図12及び図13を参照して説明する。
【0064】
まず、前記した第1及び第2の実施例と同様に、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、反射膜3及びコンタクト4を形成し、その上に第1保護膜5を形成する。
【0065】
次に、本実施例では、図12に示すように、プラズマCVD法などにより、所定の膜厚のシリコン酸化膜(SiO,SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)、シリコン膜などを成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、反射膜3上に光学膜16を形成する。なお、この光学膜16は必ずしも反射膜3の全面に形成する必要はなく、少なくとも温度検出部14に対向する部分に形成すればよい。また、この光学膜16の膜厚が大きくなると、光路長が増加してTHz波の吸収が大きくなる。
【0066】
次に、図13に示すように、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層17を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、光学膜16の屈折率及び膜厚、後に形成する第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11の膜厚を考慮して、反射膜3と温度検出部14との間隔が赤外線の波長の略1/4程度(例えば、1.5〜2.5μm)になるように設定する。
【0067】
その後、第1及び第2の実施例と同様に、犠牲層17の上に第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8を形成し、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。次に、電極配線9、第4保護膜10を形成する。
【0068】
次に、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14中央部及び庇12上に吸収膜11を形成する。その際、第1及び第2の実施例と同様に、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11を合わせた温度検出部14のシート抵抗が略10乃至100Ω/sq.となるように膜厚を設定する。なお、第2の実施例のように、温度検出部14上に庇12を形成する場合は、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層18を形成し、第2犠牲層18上に絶縁部材を形成し、温度検出部14の中央部の絶縁部材を除去して庇12を形成し、温度検出部14の中央部及び庇12上に吸収膜11を形成すればよい。
【0069】
その後、O2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層17(又は犠牲層17及び第2犠牲層18)を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0070】
なお、本実施例においても、犠牲層17をポリシリコンやAlで構成することもできるし、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層17をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。
【0071】
このように、本実施例でも、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用し、温度検出部14上に吸収膜11を追加すると共に、反射膜3と温度検出部14の間隔は変えずに反射膜3上に光学膜16を形成して反射膜3と温度検出部14の光路長を大きくし、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定することにより、THz波の吸収率を更に向上させることができるため、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。また、このボロメータ型THz波検出器1では、赤外線もかなり高い吸収率で吸収することができるため、そのままボロメータ型赤外線検出器としても利用可能である。
【0072】
なお、上記各実施例では、温度検出部としてボロメータ薄膜を備えたボロメータ型THz波検出器1について述べたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば温度検出部としてサーモパイルを備えたものなどにも同様に適用することができる。また、上記各実施例では、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する場合について述べたが、更に長波長の電磁波に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する検出器に利用可能であると共に、各種波長の電磁波を検出する検出器にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が1.5μmの場合)を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が2.5μmの場合)を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の構造を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図10】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図11】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の構造を模式的に示す断面図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図13】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図14】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が1.5μmの場合)を示す図である。
【図15】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が2.5μmの場合)を示す図である。
【図16】従来のTHz波検出器の構造を示す断面図及び上面図である。
【図17】従来のTHz波検出器の構造を示す断面図及び上面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ボロメータ型THz波検出器
2 回路基板
2a 読出回路
3 反射膜
4 コンタクト
5 第1保護膜
6 第2保護膜
7 ボロメータ薄膜
8 第3保護膜
9 電極配線
10 第4保護膜
11 吸収膜
12 庇
13 支持部
14 温度検出部
15 空洞部
16 光学膜
17 犠牲層
18 第2犠牲層
20 基板
21 ガラス層
22 金属アンテナ
23 ヒータ膜
24、26 絶縁体
25 感熱抵抗層
27 検知素子
28 脚
【技術分野】
【0001】
本発明は、THz周波数帯の電磁波(THz波)を検出する検出器に関し、特に、ボロメータ型THz波検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光と電波の狭間にあるテラヘルツ周波数帯の電磁波(すなわち、周波数が1012Hz,波長が略30μm〜1mmの電磁波、以下、THz波と呼ぶ。)が物質の情報を直接反映する電磁波として注目されている。このTHz波を検出する検出器(以下、THz検出器と呼ぶ。)は、THz波を捕捉するダイポールアンテナやボータイ(Bow-tie)アンテナなどのアンテナ部と、アンテナ部で捕捉したTHz波を電気信号に変換する電気信号変換部とで構成される構造が一般的であり、電磁波を電気信号に変換する方式としてCapacitive coupling方式やResistive coupling方式などが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、図16に示すようなCapacitive coupling方式のTHz波検出器が開示されている。このTHz波検出器は、基板20上にガラス層21が形成され、ガラス層21上に4つの金属アンテナ22(ボータイアンテナ)が形成され、4つの金属アンテナ22の中央部に、ガラス層21や金属アンテナ22から所定の間隔(GAP1及びGAP2)を隔てて、ヒータ膜23と絶縁体24と感熱抵抗層25と絶縁体26とが積層された検知素子27が形成された構造となっている。
【0004】
また、同特許文献1には、図17に示すようなResistive coupling方式のTHz波検出器も開示されている。このTHz波検出器は、基板20上にガラス層21が形成され、ガラス層21上に4つの金属アンテナ22(ボータイアンテナ)が形成され、4つの金属アンテナ22の中央部に、ガラス層21から所定の間隔(GAP3)を隔てて、4つの金属アンテナ22に接続されるヒータ膜23が形成され、ヒータ膜23上に絶縁体24と感熱抵抗層25と絶縁体26とが積層された検知素子27が形成された構造となっている。この構造では、金属アンテナ22で集めたエネルギーをヒータ膜23に有効に伝達するため、50〜100Ωにインピーダンス整合させた脚28が必要になるため、熱コンダクタンスが大きくなり、Capacitive coupling方式に比べて感度が1桁ほど低くなると記載されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第6329655号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、Capacitive coupling方式でTHz波を検出する場合は、金属アンテナ22で集めたエネルギーを効率的にヒータ膜23に伝達するためには、ガラス層21と検知素子27との間隔(GAP1)と金属アンテナ22と検知素子27との間隔(GAP2)を正確に制御する必要があり、上記特許文献1では、GAP2の値として0.1〜1μmの範囲が好ましいと記載されている。しかしながら、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)技術を用いて、検知素子27を脚28によってガラス層21から浮かせる場合、その間隔を0.1〜1μmの範囲にすることは困難であり、歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0007】
また、Resistive coupling方式でTHz波を検出する場合も、金属アンテナ22で集めたエネルギーを効率的にヒータ膜23に伝達するためには、ガラス層21とヒータ膜23との間隔(GAP3)を正確に制御する必要があり、上記特許文献1では、GAP3の値として0.2〜1μmの範囲が好ましいと記載されている。しかしながら、MEMS技術を用いて、ヒータ膜23をガラス層21から浮かせる場合に、その間隔を0.2〜1μmの範囲にすることは困難であり、歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0008】
また、一般的に、アンテナで電磁波を捕捉できる面積(effective aperture)は半波長を半径とする円の面積程度にしかならないことから、THz波を効率的に捕捉するために金属アンテナ22を大きくする必要があるが、上記構造のTHz波検出器を2次元アレイ化する場合は、各々の検出器のサイズが限られるため、必然的に検知素子27のサイズは小さくなる。例えば、波長1mmのTHz波では検知素子27のサイズは数μm程度になってしまい、数μmの小さな領域に検知素子27を作り込むのは非常に困難であり、更に歩留まりが低下してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、高性能かつ高歩留まりで製造可能なボロメータ型THz波検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、基板内に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されるものである。
【0011】
また、本発明は、基板内に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間に前記THz波を透過する光学膜が配置され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されるものである。
【0012】
本発明においては、前記光学膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、シリコン膜のいずれかとすることができる。
【0013】
また、本発明においては、更に、前記温度検出部上に、該温度検出部の周縁部から外側に延びる庇が形成され、前記吸収膜が、前記温度検出部上及び前記庇上に形成される構成とすることができる。
【0014】
また、本発明においては、前記反射膜と前記温度検出部との間隔は、略1.5乃至2.5μmの範囲に設定され、前記温度検出部のシート抵抗は、前記反射膜と前記温度検出部との間の光路長における、前記温度検出部のシート抵抗と前記THz波の吸収率との相関関係に基づいて、前記THz波の吸収率がピーク近傍となる範囲に設定される構成とすることができ、前記温度検出部のシート抵抗は、前記THz波の吸収率が略10%以上となる範囲に設定される構成、又は、略10乃至100Ω/squareの範囲に設定される構成とすることもできる。
【0015】
このように、本発明では、反射膜と温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定し、温度検出部のシート抵抗はTHz波を基準にして設定することにより、赤外線検出器の構造及び製造方法を利用しつつTHz波の吸収率を格段に向上させることができ、これにより、高性能のTHz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高性能のボロメータ型THz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【0017】
その理由は、ボロメータ薄膜を含む温度検出部(ダイアフラム)が支持部によって回路基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造において、回路基板上にTHz波を反射する反射膜を形成し、温度検出部上にTHz波を吸収する吸収膜を形成し、反射膜と温度検出部とで光学的共振構造を形成すると共に、反射膜と温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして赤外線の波長の略1/4(例えば、略1.5乃至2.5の範囲)に設定し、温度検出部のシート抵抗はTHz波を基準にしてTHz波の吸収率が所定値以上となる範囲(略10乃至100Ω/sq.の範囲)に設定することにより、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造技術を利用しつつ、THz波の吸収率を大幅に改善することができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
従来技術で示したように、周波数が1012Hz,波長が略30μm〜1mmのTHz波を検出するTHz波検出器として、Capacitive coupling方式やResistive coupling方式などが知られているが、これらの方式では、各部材の間隔を0.1μm程度の高い精度で制御しなければならず、かつ、アンテナに比べて検知素子のサイズが圧倒的に小さくなるため、高性能のTHz検出器を高い歩留まりで製造することが難しいという問題があった。
【0019】
一方、波長8〜12μm程度の赤外線を検出するボロメータ型赤外線検出器が知られており、監視目的などで広く利用されている。このボロメータ型赤外線検出器は、内部に読出回路が形成され、上面に反射膜が形成された基板上に犠牲層を形成し、犠牲層の上面にボロメータ薄膜と該ボロメータ薄膜を挟み込む保護膜とを含む温度検出部を形成すると共に、犠牲層の側面に一端がボロメータ薄膜に接続され他端が読出回路に接続される電極配線を含む2つの支持部を形成し、その後、犠牲層をエッチング除去するという方法で製造される。そして、基板上に形成された反射膜と温度検出部とで構成される光学的共振構造(いわゆる光共振器)によって入射した赤外線をより効率的に吸収し、吸収した赤外線によるボロメータ薄膜の抵抗変化を読出回路で読み出すことにより、赤外画像を得ている。
【0020】
ここで、従来のTHz波検出器はTHz波をアンテナで捕捉するものであるのに対して、赤外線検出器は赤外線を光学的共振構造で吸収するものであり、電磁波を取り込む方法が全く異なるが、THz波検出器は検出素子を脚で支持するものであり、赤外線検出器は温度検出部を支持部で支持するものであり、その構造に共通点がある。そこで、本願発明者は、上記ボロメータ型赤外線検出器の光学的共振構造を利用してTHz波を吸収するTHz波検出器を提案する。
【0021】
その際、ボロメータ型赤外線検出器では赤外線を効率的に吸収できるように光学的共振構造が形成されているため、ボロメータ型赤外線検出器をそのまま利用してもTHz波をほとんど検出することはできない。具体的には、温度検出部はTHz波を透過しやすく、反射膜と温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定されており、かつ、温度検出部のシート抵抗は数百〜数kΩ/sq.程度になるため、この条件では、THz波の吸収率は赤外線の吸収率の数%程度にしかならず、THz波検出器として十分な性能を得ることはできない。
【0022】
THz波の吸収率を向上させる方法として、光学的共振構造の間隔をTHz波を基準にして設定する方法も考えられるが、間隔を大きくするためには、犠牲層をTHz波の波長の1/4、すなわち数十〜数百μm程度の厚みで形成しなければならず、そのような大きな膜厚の犠牲層に温度検出部や支持部を形成するのは困難であり、また、温度検出部や支持部が形成できたとしても、犠牲層をエッチングで除去することは困難であり、歩留まりが著しく低下してしまう。更に、温度検出部が基板から数十〜数百μmの高さで支持された構造では振動や衝撃によって形状が変形しやすく、高い性能を維持することは困難である。
【0023】
以上の知見から、本発明では、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用してTHz波を検出可能にするために、第1に、温度検出部にTHz波を吸収する吸収膜を追加する。また、第2に、光学的共振構造の間隔を変えると製造条件がずれて歩留まりが著しく低下することから、その間隔は変えずに、赤外線の波長を基準にして赤外線の波長の1/4程度に設定する。また、第3に、温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関データに基づいて、温度検出部のシート抵抗を、THz波の吸収率が所定値以上となる範囲に設定する。これらにより、ボロメータ型赤外線検出器の構造や製造方法を利用してTHz波の吸収率を向上させることが可能となり、高性能なTHz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例1】
【0024】
上記実施形態について更に詳細に説明すべく、本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図1乃至図7を参照して説明する。図1は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の1画素の構造を模式的に示す断面図であり、図2乃至図5は、その製造方法を示す工程断面図である。また、図6及び図7は、温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関を示す図である。
【0025】
図1に示すように、本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部14(ダイアフラム)が中空に保持され、ボロメータ薄膜7の両端部は電極配線9が接続されている。
【0026】
ここで、上述したように、THz波を効率的に吸収するためには、光学的共振構造の条件を適切に設定する必要があるが、反射膜3と温度検出部14の間隔を変更するためには犠牲層の厚みを変えなければならず、犠牲層の厚みが変わると製造条件が大きくずれて歩留まりが著しく低下することから、反射膜3と温度検出部14の間隔(詳細には、反射膜3の表面と温度検出部14の厚み方向の中心との間隔、実際には吸収膜11が支配的であるため、反射膜3の表面と吸収膜11との間隔)は赤外線を基準に設定する。なお、赤外線の波長を8〜12μmとすると波長の1/4は2〜3μmとなるが、製造上、犠牲層は極力薄い方が好ましいことから、製造上の優位性を勘案して、本実施例では、反射膜3と温度検出部14の間隔を略1.5乃至2.5μmの範囲に設定する。
【0027】
また、温度検出部14のシート抵抗は図6及び図7に基づいて、THz波を基準に設定する。
【0028】
図6は、反射膜3と温度検出部14の間隔を1.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図6(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図6(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図6より、温度検出部14のシート抵抗を従来の赤外線検出器の条件(例えば、1kΩ/sq.)に設定した場合、波長10μmの赤外線の吸収率は略60%であるのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略1.5%であり、通常の赤外線検出器の条件ではTHz波をほとんど検出することはできない。しかしながら、温度検出部14のシート抵抗をピーク位置(30Ω/sq.)に近づけると、波長10μmの赤外線の吸収率は減少するのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略18%となり大幅に増加する。
【0029】
また、図7は、反射膜3と温度検出部14の間隔を2.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図7(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図7(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図7より、温度検出部14のシート抵抗を従来の赤外線検出器の条件(例えば、1kΩ/sq.)に設定した場合、波長10μmの赤外線の吸収率は略80%であるのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略3.8%であり、通常の赤外線検出器の条件ではTHz波をほとんど検出することはできない。しかしながら、温度検出部14のシート抵抗をピーク位置(50Ω/sq.)に近づけると、波長10μmの赤外線の吸収率は減少するのに対して、波長100μmのTHz波の吸収率は略18%となり大幅に増加する。
【0030】
以上の結果より、ピーク位置は、反射膜3と温度検出部14の間隔に依存するが、温度検出部14のシート抵抗をピーク位置に近い値に設定すれば、THz波の吸収率は大幅に増加させることができる。ここで、通常の赤外線検出器では犠牲層の形成や除去のしやすさを考慮して反射膜3と温度検出部14の間隔を略1.5〜2.5μmに設定していることから、温度検出部14のシート抵抗の好ましい範囲は30〜50Ω/sq.となるが、多少ピーク位置からずれていても、吸収率が10%以上であれば十分にTHz波を検出可能であることから、温度検出部14のシート抵抗は10乃至100Ω/sq.の範囲であれば良いと言える。なお、温度検出部14のシート抵抗を上記範囲に設定しても赤外線はかなり吸収されてしまうが、ボロメータ型THz波検出器1の入射面側に赤外線を遮断するバンドパスフィルタなどを挿入すれば、THz波のみを効率的に検出することができる。
【0031】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について、図2乃至図5を参照して説明する。
【0032】
まず、図2に示すように、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、スパッタ法によりAl、Ti等の金属を500nm程度の膜厚で成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、各画素の温度検出部14に入射するTHz波を反射するための反射膜3及び電極配線9と読出回路2aとを接続するためのコンタクト4を形成する。なお、上記金属はTHz波の反射率が高く、電気抵抗が小さい材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0033】
次に、回路基板2全面に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO2)、シリコン窒化膜(SiN、Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、反射膜3及びコンタクト4を保護する第1保護膜5を形成する。
【0034】
次に、図3に示すように、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、コンタクト4及び画素間の領域が露出するように露光・現像を行った後、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層17を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、後に形成する第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11の厚みを考慮して、反射膜3と温度検出部14との間隔が赤外線の波長の略1/4程度(例えば、1.5〜2.5μm)になるように設定する。
【0035】
次に、図4に示すように、犠牲層17の上に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO、SiO2)、シリコン窒化膜(SiN、Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、第2保護膜6を形成する。
【0036】
次に、第2保護膜6の上に、酸素雰囲気の反応性スパッタにより酸化バナジウム(V2O3、VOXなど)や酸化チタン(TiOX)などを50〜200nm程度の膜厚で堆積し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14となる部分にボロメータ薄膜7を形成する。なお、ここではボロメータ薄膜7として酸化バナジウムや酸化チタンを用いているが、抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の大きい他の材料を用いることもできる。
【0037】
次に、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO,SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを50〜200nm程度の膜厚成膜し、ボロメータ薄膜7を保護する第3保護膜8を形成する。その後、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。
【0038】
次に、スパッタ法によりAl、Cu、Au、Ti、W、Moなどの金属を50〜200nm程度の膜厚で成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、電極配線9を形成する。この電極配線9はコンタクト4を介してボロメータ薄膜7と回路基板2内の読出回路2aとを電気的に接続すると共に、ボロメータ薄膜7を中空に保持する支持部13としての役割を果たす。
【0039】
その後、プラズマCVD法によりシリコン酸化膜(SiO,SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などを100〜500nm程度の膜厚で成膜し、電極配線9を保護する第4保護膜10を形成する。
【0040】
次に、図5に示すように、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、吸収膜11を形成する。その際、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11を合わせた温度検出部14のシート抵抗が略10乃至100Ω/sq.となるように膜厚を設定する。この吸収膜11はTHz波を効率的に吸収する役割を果たす。なお、上記金属は温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定可能な材料であればよく、Al、Tiに限定されない。
【0041】
その後、一フッ化メタンと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層17上の所定の領域にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、O2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層17を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0042】
なお、犠牲層17をポリシリコンやAlで構成することもできる。ポリシリコンを用いる場合は、例えば、ヒドラジンやテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いたウェットエッチング、XeF2プラズマを用いたドライエッチング等により犠牲層17を除去することができる。また、Alを用いる場合は、例えば、塩酸やホットリン酸を用いたウェットエッチングにより犠牲層17を除去することができる。
【0043】
また、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層17をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。シリコン窒化膜を犠牲層17とする場合は、例えば、ホットリン酸を用いたウェットエッチングで除去することができ、シリコン酸化膜を犠牲層17とする場合は、例えば、弗酸を用いたウェットエッチングで除去することができる。
【0044】
このように、本実施例では、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用し、温度検出部14上に吸収膜11を追加すると共に、反射膜3と温度検出部14の間隔は変えずに、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定することにより、THz波の吸収率を格段に向上させることができるため、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。また、このボロメータ型THz波検出器1では、赤外線もかなり高い吸収率で吸収することができるため、そのままボロメータ型赤外線検出器としても利用可能である。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図8乃至図10を参照して説明する。図8は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の1画素の構造を模式的に示す断面図であり、図9及び図10は、その製造方法の一部を示す工程断面図である。
【0046】
図8に示すように、本実施例のボロメータ型THz波検出器1は、読出回路2a等が形成された回路基板2上に、入射するTHz波を反射する反射膜3と読出回路2aに接続するためのコンタクト4が形成され、その上に第1保護膜5が形成されている。また、コンタクト4上に、第2保護膜6、第3保護膜8、電極配線9、第4保護膜10からなる支持部13が形成され、コンタクト4を介して読出回路2aと電極配線9とが接続されている。また、この支持部13によって、第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11からなる温度検出部14(ダイアフラム)が中空に保持され、ボロメータ薄膜7の両端部は電極配線9が接続されている。また、温度検出部14の周囲には、温度検出部14の周囲に入射するTHz波を吸収できるようにするための庇12が形成されている。
【0047】
このような構造においても、反射膜3と温度検出部14の間隔が1.5〜2.5μmの場合において、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.の範囲に設定することにより、赤外線検出器の構造や製造方法を利用して、高性能なボロメータ型THz波検出器を高い歩留まりで製造することができる。
【0048】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について、図9及び図10を参照して説明する。
【0049】
まず、前記した第1の実施例と同様に、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、反射膜3及びコンタクト4を形成し、その上に第1保護膜5を形成した後、温度検出部14となる領域に犠牲層17を形成する。次に、犠牲層17の上に第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8を形成し、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。次に、電極配線9、第4保護膜10を形成する。
【0050】
次に、本実施例では、一フッ化メタンと酸素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより、第2保護膜6と第3保護膜8と第4保護膜10とを部分的にエッチングして、犠牲層17上の所定の領域にスルーホールを形成し、ポリイミドを部分的に露出させる。
【0051】
次に、図9に示すように、回路基板2全面に感光性ポリイミドを塗布し、温度検出部14の周縁部が露出するように露光・現像を行った後、熱処理を施して、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層18を形成する。第2犠牲層18の厚さは、例えば、0.5〜3μm程度である。
【0052】
次に、シリコン酸化膜(SiO、SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)などの絶縁材料を300〜600nm程度の膜厚で形成した後、温度検出部14中央部の上記絶縁材料を除去して庇12を形成する。
【0053】
次に、図10に示すように、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14中央部及び庇12上に吸収膜11を形成する。その際、第1の実施例と同様に、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11、庇12を合わせた温度検出部14のシート抵抗が略10乃至100Ω/sq.となるように膜厚を設定する。
【0054】
その後、隣接する画素間の庇12にスルーホールを形成してポリイミドを部分的に露出させ、O2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層17及び第2犠牲層18を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0055】
なお、本実施例においても、犠牲層17をポリシリコンやAlで構成することもできるし、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層17をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。
【0056】
このように、本実施例でも、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用し、温度検出部14上及び庇12上に吸収膜11を追加すると共に、反射膜3と温度検出部14の間隔は変えずに、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定することにより、温度検出部14に入射するTHz波のみならず、温度検出部14周囲に入射するTHz波も庇12で吸収することができるため、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。また、このボロメータ型THz波検出器1では、赤外線もかなり高い吸収率で吸収することができるため、そのままボロメータ型赤外線検出器としても利用可能である。
【実施例3】
【0057】
次に、本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器について、図11乃至図15を参照して説明する。図11は、本実施例のボロメータ型THz波検出器の1画素の構造を模式的に示す断面図であり、図12及び図13は、その製造方法の一部を示す工程断面図である。また、図14及び図15は、温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関を示す図である。
【0058】
本発明のボロメータ型THz波検出器では、THz波に適した光学的共振構造を形成するためには反射膜3と温度検出部14の間隔は広い方がよいが、一方、反射膜3と温度検出部14の間隔を広くすると、犠牲層17の形成や除去が困難になる。そこで、本実施例では、反射膜3と温度検出部14の間に所定の屈折率の部材(光学膜16と呼ぶ。)を介在させ、反射膜3と温度検出部14の実際の間隔を変えずに、屈折率を加味した光学的な長さ(すなわち、光路長)を変える。
【0059】
なお、光学膜16は、屈折率が大きく、THz波の吸収が小さく、プロセス適合性のよい部材であれば良く、例えば、シリコン酸化膜(SiO、SiO2)やシリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)、シリコン膜など用いることができる。また、光学膜16を介在させることによって反射膜3と温度検出部14の光路長が変化することから、温度検出部14のシート抵抗は図14、図15及び前記した第1の実施例の図6、図7に基づいて設定する。
【0060】
図14は、反射膜3の上に屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を設け、反射膜3と温度検出部14の間隔を1.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図14(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図14(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図14と図6とを比較すると、赤外線の吸収特性はあまり変化していないが、THz波の吸収特性は、そのピーク位置が右方向(シート抵抗が大きい方向)にシフトしており、かつ、吸収率が全体的に大きくなっている。これは、屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を介在させることによって光路長が3.2μmになり、THz波の光学的共振条件に近くなったためと考えられる。
【0061】
また、図15は、反射膜3の上に屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を設け、反射膜3と温度検出部14の間隔を2.5μmに設定した場合の温度検出部14のシート抵抗と吸収率との相関を示す図であり、図15(a)は、波長100μmのTHz波の吸収特性、図15(b)は、波長10μmの赤外線の吸収特性を示している。図15と図7とを比較すると、赤外線の吸収特性は、そのピーク位置が左方向(シート抵抗が小さい方向)にシフトしており、かつ、吸収率が全体的に小さくなっているが、THz波の吸収特性は、そのピーク位置が右方向(シート抵抗が大きい方向)にシフトしており、かつ、吸収率が全体的に大きくなっている。これは、屈折率3.4、膜厚0.5μmのシリコン膜を介在させることによって光路長が4.2μmになり、赤外線の光学的共振条件から大きく外れて、THz波の光学的共振条件に近くなったためと考えられる。
【0062】
以上の結果より、反射膜3上に所定の屈折率の光学膜16を介在させることにより、反射膜3と温度検出部14の間隔を変えなくても、THz波の吸収率を大幅に増加させることができる。この場合、温度検出部14のシート抵抗の好ましい範囲は光学膜16の屈折率及び膜厚に依存するが、第1の実施例と同様に、多少ピーク位置からずれていても、吸収率が10%以上であれば十分にTHz波を検出可能であることから、温度検出部14のシート抵抗は10乃至100Ω/sq.の範囲であれば良いと言える。なお、本実施例においても、温度検出部14のシート抵抗を上記範囲に設定しても赤外線はかなり吸収されてしまうが、ボロメータ型THz波検出器1の入射面側に赤外線を遮断するバンドパスフィルタなどを挿入すれば、THz波のみを効率的に検出することができる。
【0063】
以下、上記構造のボロメータ型THz波検出器1の製造方法について、図12及び図13を参照して説明する。
【0064】
まず、前記した第1及び第2の実施例と同様に、CMOS回路等の読出回路2aを形成した回路基板2上に、反射膜3及びコンタクト4を形成し、その上に第1保護膜5を形成する。
【0065】
次に、本実施例では、図12に示すように、プラズマCVD法などにより、所定の膜厚のシリコン酸化膜(SiO,SiO2)、シリコン窒化膜(SiN,Si3N4)、シリコン酸窒化膜(SiON)、シリコン膜などを成膜し、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、反射膜3上に光学膜16を形成する。なお、この光学膜16は必ずしも反射膜3の全面に形成する必要はなく、少なくとも温度検出部14に対向する部分に形成すればよい。また、この光学膜16の膜厚が大きくなると、光路長が増加してTHz波の吸収が大きくなる。
【0066】
次に、図13に示すように、回路基板2全面に感光性ポリイミド膜等の有機膜を塗布し、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層17を形成する。その際、キュア後の感光性ポリイミド膜は、光学膜16の屈折率及び膜厚、後に形成する第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8、第4保護膜10、吸収膜11の膜厚を考慮して、反射膜3と温度検出部14との間隔が赤外線の波長の略1/4程度(例えば、1.5〜2.5μm)になるように設定する。
【0067】
その後、第1及び第2の実施例と同様に、犠牲層17の上に第2保護膜6、ボロメータ薄膜7、第3保護膜8を形成し、コンタクト4上の第1保護膜5、第2保護膜6及び第3保護膜8、ボロメータ薄膜7端部の第3保護膜8を除去する。次に、電極配線9、第4保護膜10を形成する。
【0068】
次に、スパッタ法によりAl、Tiなどの金属を成膜した後、レジストをマスクとしてパターン形成を行い、温度検出部14中央部及び庇12上に吸収膜11を形成する。その際、第1及び第2の実施例と同様に、第2保護膜6、第3保護膜8、ボロメータ薄膜7、第4保護膜10、吸収膜11を合わせた温度検出部14のシート抵抗が略10乃至100Ω/sq.となるように膜厚を設定する。なお、第2の実施例のように、温度検出部14上に庇12を形成する場合は、温度検出部14の中央部及び隣接する温度検出部14の間の領域に第2犠牲層18を形成し、第2犠牲層18上に絶縁部材を形成し、温度検出部14の中央部の絶縁部材を除去して庇12を形成し、温度検出部14の中央部及び庇12上に吸収膜11を形成すればよい。
【0069】
その後、O2ガスプラズマを用いたアッシングにより犠牲層17(又は犠牲層17及び第2犠牲層18)を除去し、温度検出部14が支持部13によって回路基板2から浮いたマイクロブリッジ構造のボロメータ型THz検出器1が完成する。
【0070】
なお、本実施例においても、犠牲層17をポリシリコンやAlで構成することもできるし、第2保護膜6、第3保護膜8、第4保護膜10にシリコン酸化膜を用いる場合には、犠牲層17をシリコン窒化膜で構成することも可能であり、さらに、その逆も可能である。
【0071】
このように、本実施例でも、ボロメータ型赤外線検出器の構造及び製造方法を利用し、温度検出部14上に吸収膜11を追加すると共に、反射膜3と温度検出部14の間隔は変えずに反射膜3上に光学膜16を形成して反射膜3と温度検出部14の光路長を大きくし、温度検出部14のシート抵抗を略10乃至100Ω/sq.に設定することにより、THz波の吸収率を更に向上させることができるため、高性能なボロメータ型THz波検出器1を歩留まりよく製造することができる。また、このボロメータ型THz波検出器1では、赤外線もかなり高い吸収率で吸収することができるため、そのままボロメータ型赤外線検出器としても利用可能である。
【0072】
なお、上記各実施例では、温度検出部としてボロメータ薄膜を備えたボロメータ型THz波検出器1について述べたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば温度検出部としてサーモパイルを備えたものなどにも同様に適用することができる。また、上記各実施例では、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する場合について述べたが、更に長波長の電磁波に対しても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、波長30μm〜1mm程度のTHz波を検出する検出器に利用可能であると共に、各種波長の電磁波を検出する検出器にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が1.5μmの場合)を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が2.5μmの場合)を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の構造を模式的に示す断面図である。
【図9】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図10】本発明の第2の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図11】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の構造を模式的に示す断面図である。
【図12】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図13】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の製造方法を示す工程断面図である。
【図14】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が1.5μmの場合)を示す図である。
【図15】本発明の第3の実施例に係るボロメータ型THz波検出器の温度検出部のシート抵抗と吸収率との相関(反射膜と温度検出部の間隔が2.5μmの場合)を示す図である。
【図16】従来のTHz波検出器の構造を示す断面図及び上面図である。
【図17】従来のTHz波検出器の構造を示す断面図及び上面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ボロメータ型THz波検出器
2 回路基板
2a 読出回路
3 反射膜
4 コンタクト
5 第1保護膜
6 第2保護膜
7 ボロメータ薄膜
8 第3保護膜
9 電極配線
10 第4保護膜
11 吸収膜
12 庇
13 支持部
14 温度検出部
15 空洞部
16 光学膜
17 犠牲層
18 第2犠牲層
20 基板
21 ガラス層
22 金属アンテナ
23 ヒータ膜
24、26 絶縁体
25 感熱抵抗層
27 検知素子
28 脚
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、
前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項2】
基板に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間に前記THz波を透過する光学膜が配置され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、
前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項3】
前記光学膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、シリコン膜のいずれかであることを特徴とする請求項2記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項4】
更に、前記温度検出部上に、該温度検出部の周縁部から外側に延びる庇が形成され、前記吸収膜が、前記温度検出部上及び前記庇上に形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項5】
前記反射膜と前記温度検出部との間隔は、略1.5乃至2.5μmの範囲に設定され、
前記温度検出部のシート抵抗は、前記反射膜と前記温度検出部との間の光路長における、前記温度検出部のシート抵抗と前記THz波の吸収率との相関関係に基づいて、前記THz波の吸収率がピーク近傍となる範囲に設定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項6】
前記温度検出部のシート抵抗は、前記THz波の吸収率が略10%以上となる範囲に設定されることを特徴とする請求項5記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項7】
前記温度検出部のシート抵抗は、略10乃至100Ω/squareの範囲に設定されることを特徴とする請求項5又は6に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項1】
基板に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、
前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項2】
基板に形成された読出回路に接続される電極配線を含む支持部により、前記電極配線に接続されるボロメータ薄膜を含む温度検出部が、前記基板から浮いた状態で支持されるマイクロブリッジ構造を有するボロメータ型THz波検出器であって、
前記基板上の前記温度検出部に対向する位置にTHz波を反射する反射膜が形成され、前記温度検出部上に前記THz波を吸収する吸収膜が形成され、前記反射膜と前記温度検出部との間に前記THz波を透過する光学膜が配置され、前記反射膜と前記温度検出部とで光学的共振構造が形成され、
前記反射膜と前記温度検出部との間隔は赤外線の波長を基準にして設定され、かつ、前記温度検出部のシート抵抗は前記THz波を基準にして設定されることを特徴とするボロメータ型THz波検出器。
【請求項3】
前記光学膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、シリコン膜のいずれかであることを特徴とする請求項2記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項4】
更に、前記温度検出部上に、該温度検出部の周縁部から外側に延びる庇が形成され、前記吸収膜が、前記温度検出部上及び前記庇上に形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項5】
前記反射膜と前記温度検出部との間隔は、略1.5乃至2.5μmの範囲に設定され、
前記温度検出部のシート抵抗は、前記反射膜と前記温度検出部との間の光路長における、前記温度検出部のシート抵抗と前記THz波の吸収率との相関関係に基づいて、前記THz波の吸収率がピーク近傍となる範囲に設定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項6】
前記温度検出部のシート抵抗は、前記THz波の吸収率が略10%以上となる範囲に設定されることを特徴とする請求項5記載のボロメータ型THz波検出器。
【請求項7】
前記温度検出部のシート抵抗は、略10乃至100Ω/squareの範囲に設定されることを特徴とする請求項5又は6に記載のボロメータ型THz波検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−241438(P2008−241438A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81827(P2007−81827)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】
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