説明

ボンディング装置

【課題】ボンディング装置において、接合マシン部の容量成分を精度よく補償し、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を精度よく測定することである。
【解決手段】ワイヤボンディング装置10は、対象デバイス4にワイヤを接合するための機構部分である接合マシン部20と、対象デバイス4とワイヤとの間の接続状態を測定する測定部50と、装置全体の動作を制御する制御部40を含んで構成される。測定部50のAC−C測定回路60は、AC電源62、ボンディング前の接合マシン部20の容量成分と略等価な容量を作り出す等価容量回路64と、ボンディング後の接合マシン部20の容量と等価容量回路64の容量との差分をとる差動回路68、増幅回路70、整流回路72、A/D変換回路74、および接続状態を判定する判定部80、出力部90を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボンディング装置に係り、特に、対象デバイスを保持し接地に接続されるステージと、対象デバイスにワイヤを接合する接合マシン部と、対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定する測定部と、を含むボンディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の組立工程に用いられるワイヤボンディング装置では、例えばボンディングステージに保持された半導体チップのボンディングパッドに、細い金線等のワイヤがキャピラリにより運ばれてボンディングされる。ボンディングされたワイヤは延長されて、回路基板等のボンディングリードにおいてまたボンディングが行われ、これによって半導体チップのボンディングパッドと回路基板のボンディングリードとの間の接続が行われる。ワイヤと、ボンディングパッドあるいはボンディングリードとの間のボンディングがうまくいかないと、いわゆる不着と呼ばれる接続不良が起こる。
【0003】
ワイヤボンディングにおいて、通常ボンディングステージは金属で、その上に被ボンディング対象物が保持される。例えば、被ボンディング対象物がトランジスタやダイオードを含む半導体チップの場合には、ワイヤは半導体チップの電極に接続され、その電極と半導体チップの裏面との間は半導体チップの特性に応じた抵抗成分を有する。したがって、不着を検出するために、ワイヤから半導体チップに対し適当な直流電流を入力し、流れる電流値を測定して電気的に接続不良を判定することが行われる。
【0004】
また、特許文献1には、キャピラリを保持するボンディングアーム側からボンディングステージに至る電気経路を、交流信号発生器からの交流信号を受ける交流ブリッジ回路の一辺に含むように構成し、交流ブリッジ回路の平衡又は不平衡を検出することでワイヤと被ボンディング部品との間の不着を検出することが開示される。この方法によれば、容量成分の被ボンディング部品についても不着を検出できる。ここで交流ブリッジ回路は、固定容量と可変抵抗と固定抵抗を3辺の要素とし、残る一辺をボンディングアーム側とボンディングステージとの間のインピーダンスとしている。そして、ワイヤと被ボンディング部品との間を接続しない状態で可変抵抗を調整し、交流ブリッジの初期平衡をとることが述べられている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−213752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワイヤボンディングの対象として、ボンディングステージとの間に電気的導通がないものはかなりある。例えば、チップをダイボンディングによって搭載したガラスエポキシ回路基板は、基板自体が絶縁体である。したがって、その上のチップは、絶縁体を介してボンディングステージによって保持されていることになる。また、BGA(Ball Grid Array)の基板もガラスエポキシやセラミックを材料とする。このような場合、例えチップの裏面とボンディングパッドとの間が容量成分を含まないとしても、ボンディングアーム側からボンディングステージに至る電気経路は、直流的に導通がない。
【0007】
このような場合は、特許文献1に述べられるように、交流信号を用いて測定を行うのが好ましい。しかし、この方式において交流信号で測定するのは、対象デバイスにワイヤを接合する機構、これを接合マシン部と呼ぶことにすると、接合マシン部の容量成分と、絶縁基板と対象デバイスとを含んだデバイス側容量とを合わせたものである。したがって、接合マシン部の容量成分が大きいと、ワイヤの着/不着による変化分が埋もれてしまい、検出が困難となる。
【0008】
特許文献1では、接合マシン部の容量成分である、ボンディング装置のボンディングアーム側からボンディングステージに至る電気経路の容量成分を、可変抵抗の調整で補償しようとしている。勿論、この方法でも原理的に交流ブリッジの平衡をとることは可能であるが、現実にボンディング装置のボンディングアーム側からボンディングステージに至る電気経路の容量成分を補償しているわけではないので、容量成分の微小変化によって付着を検出することが困難なことがある。
【0009】
本発明の目的は、接合マシン部の容量成分を精度よく補償し、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を精度よく測定することが可能なボンディング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るボンディング装置は、対象デバイスを保持し接地に接続されるステージと、対象デバイスにワイヤを接合する接合マシン部と、対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定する測定部と、を含むボンディング装置において、測定部は、ステージとの間に導通を有しない対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定するため接合マシン部の容量成分を補償する等価回路であって、対象デバイスにワイヤが接触していないときの接合マシン部とステージとの間のマシン容量成分と略等価の容量を有する等価容量回路と、等価容量回路と、接合マシン部とにそれぞれ交流信号を供給する交流信号源と、対象デバイスにワイヤを接合したときの接合マシン部のインピーダンスと、等価容量回路のインピーダンスとを比較する容量比較回路と、容量比較回路の出力に基づき、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を判定する判定部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、等価容量回路は、複数の容量素子と、複数の容量素子を相互に接続し、接続の仕方によって互いに異なる複数の容量値を生成する複数のスイッチ素子と、各スイッチ素子のオン・オフを制御し、マシン容量成分の略等価の容量値を生成するスイッチ切替回路と、を有することが好ましい。
【0012】
また、スイッチ切替回路は、ワイヤが対象デバイスに接触していないときの容量比較回路の出力が最小となるように各スイッチ素子を切り替えることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係るボンディング装置において、各容量素子はそれぞれ、マシン容量成分の値の2%以上50%以下の容量値を有し、各スイッチ素子はそれぞれ、最小の容量素子における容量値の2%以上50%以下の容量値を有することが好ましい。
【0014】
また、判定部は、容量比較回路の出力を任意のサンプリング期間で平均化して出力する平均化処理手段を有することが好ましい。
【0015】
また、判定部は、平均化出力に対し任意に設定した閾値を基準にしてワイヤと対象デバイスとの間の接触状態を判定する判定処理手段を有することが好ましい。
【0016】
また、判定処理手段は、ワイヤと対象デバイスとの間の接合作業の繰り返しに応じ、閾値を更新することが好ましい。また、判定処理手段は、対象デバイスの種類によって異なる閾値を設定することが好ましい。
【0017】
また、本発明に係るボンディング装置において、等価回路は、複数の容量素子と、複数の容量素子を相互に接続し、接続の仕方によって互いに異なる複数の容量値を生成する複数のスイッチ素子と、各スイッチ素子のオン・オフを制御し、マシン容量成分の略等価の容量値を生成する回路であって、ワイヤが対象デバイスに接触していないときの容量比較回路の出力が最小となるように各スイッチ素子を切り替えるスイッチ切り替え回路と、を有し、判定処理手段は、スイッチ切り替え回路によって最小にした容量比較回路の出力に対応する値を閾値に設定することが好ましい。
【0018】
また、判定処理手段は、対象デバイスの着不着の検出が可能であるか否かを判定することが好ましい。また、判定処理手段は、ワイヤと、対象デバイスとの間の着不着を判定することがこのましい。また、判定処理手段は、ワイヤのテール長さの適不適を判定することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るボンディング装置において、測定部は、さらに、ステージとの間に導通を有する対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定するために接合マシン部に直流信号を供給する直流信号源と、対象デバイスにワイヤを接合したときの接合マシン部の抵抗成分を測定する抵抗成分測定回路と、を備え、電位測定回路の出力に基づき、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を判定することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係るボンディング装置において、測定部は、容量比較回路による接続状態測定と、抵抗成分測定回路による接続状態測定とを切り替える測定切替回路を備えることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係るボンディング装置において、接合マシン部は、ワイヤの先端を丸めるトーチを有し、マシン容量成分には、トーチの容量成分を含み、さらに、トーチとの接続先を、測定部又はトーチに接続される高圧電源に切り替えるトーチ切替回路を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
上記構成により、測定部は、接合マシン部の容量成分を補償する等価回路として、対象デバイスにワイヤが接触していないときの接合マシン部とステージとの間のマシン容量成分と略等価の容量を有する等価容量回路を有し、交流信号を用いて、対象デバイスにワイヤを接合したときの接合マシン部のインピーダンスと、等価容量回路のインピーダンスとを比較し、その容量比較回路の出力に基づき、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を判定する。したがって、接合マシン部の容量成分を精度よく補償し、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を精度よく測定することができる。
【0023】
また、等価容量回路は、複数の容量素子を複数のスイッチ素子のオン・オフの制御により、各容量素子の接続方法を変更し、マシン容量成分の略等価の容量値を生成するので、電子的に接合マシン部の容量成分を精度よく補償できる。
【0024】
また、スイッチ切替回路は、ワイヤが対象デバイスに接触していないときの容量比較回路の出力が最小となるように各スイッチ素子を切り替えるので、自動的に接合マシン部の容量成分を精度よく補償できる。
【0025】
また、各容量素子はそれぞれ、マシン容量成分の値の2%以上50%以下の容量値を有し、各スイッチ素子はそれぞれ、最小の容量素子における容量値の2%以上50%以下の容量値を有するとしたので、接合マシン部の容量成分に比べ十分に小さい合わせこみ精度で補償できる。
【0026】
また、容量比較回路の出力を任意のサンプリング期間で平均化処理するので、交流信号である容量比較回路の出力の変動を少なくし、接続状態の判定を安定して行うことができる。
【0027】
また、接続状態の判定は、平均化出力に対し任意に設定した閾値を基準にするので、安定した基準による判定を行うことができる。
【0028】
また、閾値は更新されるので、接続作業の経時変化に追従した接続状態判定を行うことができる。また、対象デバイスの種類によって閾値を変えて設定するので、対象デバイスの特性に合わせた接続状態判定を行うことができる。
【0029】
また、スイッチ切り替え回路によって最小にした容量比較回路の出力に対応する値を閾値に設定するので、マシン容量を補償した後に残された、接続に関わる容量変化に基づいて接続状態判定が行われ、マシン容量に左右されずに精度よい接続状態判定を行うことができる。
【0030】
また、接続状態の判定処理は、対象デバイスの着不着の検出が可能であるか否かを判定するので、例えば、異物等の存在で接続がそもそも不能なものを判定できる。また、ワイヤと、対象デバイスとの間の着不着を判定するので、接続が正常かどうか判定できる。また、ワイヤのテール長さの適不適を判定するので、接続の後、ワイヤが正常に切断されたかどうかを判定できる。ここで、テール長さとは、ワイヤボンディングのセカンドボンディングが終わった後、キャピラリを若干上げてワイヤを切断するが、そのときにキャピラリの先にテール状に残る長さのことである。このテール長さが不適であると、次のファーストボンディングにおけるワイヤの先端のボール状部分が不適当になる。
【0031】
また、さらに、直流信号により接合マシン部の抵抗成分を測定するので、対象デバイスがステージと導通する対象デバイスの抵抗成分を利用して接続状態を測定できるときには、より簡単な方法で接続状態を判定できる。
【0032】
また、容量比較回路による接続状態測定と、抵抗成分測定回路による接続状態測定とを切り替えることができるので、対象デバイスの状態に応じて、適切な測定方法を選択できる。
【0033】
また、トーチとの接続先を、測定部又はトーチに接続される高圧電源に切り替えるトーチ切替回路を備えるので、トーチに高圧電源が接続されるときに測定部はトーチから分離され、高圧電源により測定部の損傷を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、ボンディング装置として、ボンディングリードが配線されたガラスエポキシ回路基板にチップが搭載され、金ワイヤを用いてチップのボンディングパッドにファーストボンディングを行い、ボンディングリードにセカンドボンディングを行って、チップと回路基板との間を相互接続するワイヤボンディング装置を説明する。この他に、ファーストボンドだけ行う、いわゆるバンプ形成ボンディング装置であってもよい。
【0035】
また、ボンディング対象は、チップが搭載されたガラスエポキシ回路基板に限られず、ステージと電気的導通を有しない対象デバイスであればよい。例えば、セラミック基板の上にチップが搭載され、セラミック基板上のボンディングリードとチップのボンディングパッドにワイヤがボンディングされるものでもよい。また、ステージと導通を有しない対象デバイスは、絶縁基板とチップの組み合わせ以外のものであってもよく、例えば、絶縁基板と電子部品の組み合わせ、絶縁基板とその上の単なる配線パターンの組み合わせ等であってもよい。また、ワイヤは金線以外のものでもよく、例えばワイヤボンディング用のアルミニウム線、銅線等であってもよい。これらの場合、ファーストボンディングの際にワイヤの先端を丸めることの必要がなければ、トーチの設備部分を省略してもよい。
【0036】
図1は、ワイヤボンディング装置10の構成図である。ここでは、ワイヤボンディング装置10の構成要素ではないが、ボンディングの対象である対象デバイス4として、ガラスエポキシ回路基板6とその上に搭載されたチップ8とが図示されている。ガラスエポキシ回路基板6にはボンディングリードが設けられ、チップ8にはボンディングパッドが設けられる。チップ8は、例えば半導体LSIである。ワイヤボンディング装置10は、対象デバイス4にワイヤを接合するための機構部分である接合マシン部20と、対象デバイス4とワイヤとの間の接続状態を測定する測定部50と、装置全体の動作を制御する制御部40と、それ以外の要素である超音波装置42、トーチ電源44、トーチ46を含んで構成される。
【0037】
超音波装置42は、ボンディングのための超音波エネルギの発生装置で、その超音波エネルギは、ボンディング作業の際に、図示されていないボンディングアームを介し、キャピラリ30に伝達される。
【0038】
トーチ電源44、及びトーチ46は、ファーストボンディングの直前にワイヤ24の先端を溶融してボール状に形成する機能を有し、具体的には、高圧電源であるトーチ電源44の一方極性側がトーチ46に、他方極性側がワイヤ24に接続され、トーチ46とワイヤ24の先端とを適当な空間距離だけ離して、その間に高圧を印加し、放電等によりワイヤ24の先端を溶融させてボール状の形状を形成する。このボール状形状のワイヤ先端が、ファーストボンディングの際、対象デバイス4に押し付けられ、超音波エネルギが供給されてボンディングが行われることになる。
【0039】
トーチ電源44の他方極性側は、直接ワイヤ24に接続されず、一旦コネクタ33を介し、測定部50に接続され、後述のトーチ切替回路54の制御の下で、測定が行われないときに限り、ワイヤ24と接続される。このようにすることで、高圧信号が測定部50の測定回路に侵入することを防止できる。
【0040】
接合マシン部20は、対象デバイス4を保持するステージ22と、ワイヤ24を巻きつけてあるスプール26と、ワイヤ24を挟みあるいは開放してその移動を制御するワイヤクランパ28と、ワイヤ24を挿通し、超音波装置42からワイヤボンディングのための超音波エネルギの供給を受けるキャピラリ30とを含んで構成される。ステージ22は金属で構成され、接地に接続される。ステージ22はまた、ワイヤボンディングのために対象デバイス4を加熱するヒータを内蔵してもよい。スプール26、ワイヤクランパ28、トーチ46は、測定部50とのインタフェースであるコネクタ33に適当な導体線で接続される。
【0041】
このような構成において、コネクタ32の各端子は、スプール26、ワイヤクランパ28等の、対象デバイス4にワイヤボンディングするための機構について、接地電位であるステージ22を基準にしたインピーダンスを測定するときの端子となる。したがって、コネクタ32に、インピーダンスを測定できる測定器を接続し、ワイヤ24を対象デバイス4に接続する前と後とでその変化を測定することで、接続状態の判定を行うことができる。上記の要素以外に、対象デバイス4とワイヤ24の接続に関し、インピーダンス成分となるものがあるときは、それらをさらにコネクタ32に接続することができる。たとえば、キャピラリ30をコネクタ32に接続することもできる。
【0042】
測定部50は、接合マシン部20のインピーダンスを測定する回路で、特に、ワイヤボンディング前後の容量の変化を測定して、接続状態の判定を行う機能を有する。そのために、接合マシン部20の元々固有に有しているマシン容量を補償する機能を有する。また、付加機能として、ワイヤボンディング前後の抵抗の変化による接続状態の判定を行うことが便利なときにはそれに切り替える機能、トーチ46に供給されるトーチ電源44の高圧から測定回路を保護する機能等を有する。
【0043】
測定部50は、接合マシン部20及びトーチ電源44とのインタフェース回路で、コネクタ32,33を含み、適当な保護回路等で構成することができるマシンI/F(52)と、マシンI/F(52)の接続先を、トーチ電源44又は測定切替回路56に切り替えるトーチ切替回路54と、測定切替回路56側に切り替えたときに、その先の接続先をDC−R測定回路58又はAC−C測定回路60に切り替える測定切替回路56と、DC−R測定回路58、AC−C測定回路60を含んで構成される。
【0044】
トーチ切替回路54は、トーチ電源44からの高圧信号が測定回路に回りこまないように、トーチ作業を行うときは、コネクタ33のトーチ電源44用端子を測定回路側から遮断する機能を有するスイッチ回路である。
【0045】
図2は、トーチ切替回路54の具体的構成を示す回路図である。スイッチ素子としては、高圧の回り込みを防ぐため、光によってMOSトランジスタをオン・オフさせることができる素子を用いている。勿論、他の適当なスイッチング素子を用いることができる。図2の構成においては、測定を行っていないときをノーマリとして2つのスイッチ素子が、ノーマリ・オンと、ノーマリ・オフに設定されている。この2つのスイッチ素子に、トーチ電源44用端子、スプール26用端子及びワイヤクランパ用端子、測定切替回路56側端子を適切に接続することで、ノーマリの非測定時に、トーチ電源44用端子と、スプール26用端子及びワイヤクランパ用端子との間を接続し、測定時にはこれらの間の接続を遮断し、スプール26用端子及びワイヤクランパ28用端子すなわちコネクタ32の各端子を、測定切替回路56側端子に接続することができる。
【0046】
測定切替回路56は、上記のように、ワイヤボンディング前後の抵抗の変化による接続状態の判定を行うことが便利なときにはそれに切り替える機能を有する回路である。具体的には、トーチ切替回路54によって、測定時においては、コネクタ32の各端子が測定切替回路56の入力側に接続され、これを、対象デバイス4の特性により、制御部40の指示あるいはユーザの指定を経由した制御部40の指示に従い、DC−R測定回路58又はAC−C測定回路60に出力する。出力切り替えには、図2で説明したようなスイッチ素子を用いることができる。
【0047】
測定切替回路56の切り替えは、対象デバイス4がステージ22に保持されたときに、ステージ22との間に導通を有するか、有しないかで決定することができる。後者の場合にはAC−C測定回路60に出力するように切り替える。前者の場合は、AC−C測定回路60に出力してもよいが、DC−R測定回路58に出力するように切り替える方が簡単な測定となり、好ましいことが多い。
【0048】
DC−R測定回路58は、対象デバイス4に直流(DC)信号を供給し、その抵抗(R)成分の変化を測定して、ワイヤ24と対象デバイス4との間の接続状態の判定を行うための回路である。抵抗成分の変化は、コネクタ32に直流信号を加え、そのときのコネクタ32における電位又はそこに流れる電流を測定することで検出できる。ワイヤ24が対象デバイス4に接続されていないときは、コネクタ32は接地電位のステージ22に対し開放端となり、ワイヤ24が対象デバイス4に接続されているときは、コネクタ32からワイヤ24、対象デバイス4を介し接地電位のステージ22の電流が流れる。したがって、コネクタ32の電位又はそこに流れる電流を測定することで、容易にワイヤ24と対象デバイス4との間の接続状態を検出できる。
【0049】
図3は、DC−R測定回路の具体的構成を示す回路図である。コネクタ32には図示されていない直流電源からDCが印加され、そのときのコネクタ32に流れる電流が抵抗素子、増幅器等で検出されて、測定部50の出力部90に、例えば表示される。直流電源から供給されるDC信号としては、+1Vを用いることができ、好ましくは極性を変更して−1Vも供給可能とすることがよい。
【0050】
AC−C測定回路60は、対象デバイス4に交流(AC)信号を供給し、その容量(C)成分の変化を測定して、ワイヤ24と対象デバイス4との間の接続状態の判定を行うための回路である。AC−C測定回路60は、AC電源62、ボンディング前の接合マシン部20の容量成分と略等価な容量を作り出す等価容量回路64と、ボンディング後の接合マシン部20の容量と等価容量回路64の容量との差分をとる差動回路68、その差動信号を増幅する増幅回路70、増幅後の信号を整流する整流回路72、整流回路72の出力をディジタル信号に変換するA/D変換回路74、およびディジタル信号を処理して接続状態を判定する判定部80、判定部80の結果を出力する出力部90を含んで構成される。
【0051】
AC電源62は、容量成分を検出するために等価容量回路64、および接合マシン部20に交流信号を供給する機能を有する。具体的には、4.1kHzのデューティが50%の±1Vの矩形波信号が出力され、等価容量回路64の出力端子、及び測定切替回路56、トーチ切替回路54、マシンI/F(52)を介して接合マシン部20のコネクタ32にそれぞれ供給される。
【0052】
等価容量回路64は、ボンディング前のマシン容量成分、すなわち対象デバイス4にワイヤ24が接触していないときの接合マシン部20の容量成分であるマシン容量成分と略等価の容量を作り出し、保持する回路である。ここで、マシン容量成分とは、接合マシン部20側に供給されるAC電源62の出力と差動回路68の入力を結ぶ線と、接地との間の容量である。具体的には、AC電源62の出力と差動回路68の入力を結ぶ線は、測定切替回路56、トーチ切替回路54、マシンI/F(52)、コネクタ32を介してスプール26、ワイヤクランパ28に至るので、マシン容量成分とは、これらの経路を含んだ接合マシン部20の、接地に対する容量である。等価容量回路64は、複数の容量とこれらを相互に接続あるいは開放するための複数のスイッチで構成される部分65と、この複数のスイッチのオン・オフを制御して、所望の容量値にするスイッチ切替回路66とで構成される。
【0053】
図4は、等価容量回路64及び差動回路68、増幅回路70周辺の具体的構成を示す回路図である。等価容量回路64の複数の容量・複数のスイッチの部分65は、図4に示すように互いに容量値が異なる3つの容量76と、その3つの容量をさまざまな組み合わせで並列接続するための3つのスイッチ78とで構成される。3つの容量の容量は、2倍ずつ異なる値のものが好ましい。図4の例では、10pF、20pF、40pFに選ばれている。なお、小型電子部品であるコンデンサの容量値は、規格等で標準化されていることが多いので、実際には、これらの値に最も近い容量値の部品を用いてもよい。例えば、10pF、22pF、39pFのものを用いてもよい。容量の3つのスイッチ78は、図2で説明した光によってMOSトランジスタをオン・オフさせることができる素子を用いているが、特に、寄生容量の少ないスイッチング素子を用いることが好ましい。上記の例で、3つの容量の最小値が10pFのときは、その2%以上50%以下の寄生容量のスイッチング素子を用いることが好ましい。こうすることで、寄生容量の影響を少なくして、より正確な組み合わせ容量を生成することができる。このような素子として、たとえば、松下電工社の型式AQY221N2S(商品名ホトモスリレー)等を用いることができる。
【0054】
スイッチ切替回路66は、3つのスイッチ78を適切にオン又はオフさせて、3つの容量76の接続関係を変更することで、全体の容量の値を所望の値に設定する機能を有する回路である。図4ではその一部が図示され、3つの制御端子によって、それぞれ10pF,20pF,40pFを並列接続で付加できるようになっている。すなわち、10pF用制御端子をONにすることで、全体容量は10pFとなり、10pF用制御端子と20pF用制御端子を共にONにすることで、全体容量は30pFとなり、10pF用制御端子、20pF用制御端子、40pF用制御端子を全部ONにすることで、全体容量は70pFとなる。このように、3つの制御端子の状態の組み合わせの選択により、0pF、10pF、20pF、30pF、40pF、50pF、60pF、70pFの8種類の容量を設定できる。例えば、マシン容量成分の値が60pFであるとすると、20pF用制御端子と40pF用制御端子を共にONにすればよい。
【0055】
差動回路68は、実際の接合マシン部20の容量と等価容量回路64の容量との差分をとって出力する機能を有する回路で、ボンディング作業においては、そのボンディングの際の実際の接合マシン部20の容量と等価容量回路64の容量との差分が出力される。かかる差動回路68として、一般的な差動増幅回路に適切に設定された回路素子を接続するものを用いることができる。
【0056】
差動出力を得るために、接合マシン部20にAC電源62より交流信号を印加し、そのときの応答を差動回路68の一方側の入力端子に供給し、同様に等価容量回路64にAC電源62より交流信号を印加し、そのときの応答を差動回路68の他方側の入力端子に供給する。具体的には、図4に示すように、コネクタ32にAC電源62を接続するとともに、コネクタ32を差動回路68の一方側の入力端子に接続する。また、等価容量回路64の出力端子にAC電源62を接続するとともに、その出力端子を差動回路68の他方側の入力端子に接続する。なお、等価容量回路64の出力端子とAC電源との間に適当な保護回路を設けて、過大信号が等価容量回路64に印加されることを防止することが好ましい。
【0057】
増幅回路70は、このようにして得られた、等価容量回路64の容量成分による信号と、実際の接合マシン部20の容量成分による信号との差分信号を適当に増幅するための回路である。かかる増幅回路70は、一般的な作動増幅器を用いて構成することができる。
【0058】
整流回路72は、増幅後の交流信号が、プラスマイナスの符号を有するように現れるものを、マイナス側の成分を整流しプラス側の信号とする機能を有する回路である。
【0059】
図5は、差動回路68、増幅回路70、整流回路72のそれぞれにおける信号波形の変化の様子を模式的に示す図である。図5(a)は、差動回路68の2つの入力波形をそれぞれ実線及び破線で示したものである。上記のようにAC電源62から供給される交流信号が4.1kHzのときは、この2つの信号もほぼ同じ周期、すなわちほぼ4.1kHzで繰り返す。(b)は差動回路68の出力波形で、(a)における2つの信号の差分が表されている。(c)は増幅回路70の出力波形で、差動信号が増幅されている。(d)は整流回路72の出力波形で、(c)の基準電位に対しプラスマイナスに振れる信号を、プラス側に整流する様子が示される。
【0060】
A/D変換回路74は、整流後の信号を、ディジタル信号に変換する機能を有する回路で、この出力を用いることで、以後の判定部80の処理がソフトウェアによるディジタル演算で行うことができ、高速で、かつ精度よく判定を行うことができる。かかるA/D変換回路74は、公知のA/D変換IC等を用いることができる。
【0061】
判定部80は、A/D変換回路74によりディジタル化した信号を処理して、ワイヤ24と対象デバイス4との間の接続状態を判定する機能を有する。この機能は、サンプリング・平均化処理82と、しきい値設定・更新処理84と、接続不能・着付着・テール適不適判定処理を含む。これらの処理はコンピュータ上でソフトウェアを実行することで実現できる。コンピュータは、測定部50に設けてもよく、制御部40がコンピュータで構成されるときは、そのコンピュータを用いることとしてもよい。ソフトウェアの実行は、対応する接続状態判定プログラムを用いて実現することができる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0062】
サンプリング・平均化処理82は、A/D変換回路74の出力を平均化して、ノイズを減らす機能を有する処理である。平均化処理は、まずA/D変換回路74の出力を適当なサンプリングレートでサンプリングし、つぎに各サンプリング時における各データをに任意に定めた期間の間で加算し、これをその期間の間のサンプリング数で除算して行うことができる。平均化の際、適当な重み付けを行ってもよい。サンプリングの1例をあげると、上記の例で、A/D変換回路74の出力の周期が1/(4.1kHz)=0.244msecとして、サンプリングレートを12μsec、平均化のための期間を1msecと定めることができる。もちろんこれ以外のサンプリング条件を定めることができる。
【0063】
次の処理の説明の前に、このサンプリング・平均化処理82のデータを用いた等価容量回路64の合わせこみについて述べる。サンプリング・平均化処理82によって得られた平均化データは、実際の接合マシン部20の容量と等価容量回路64の容量との差分を反映したデータで、しかも増幅し、ディジタル化し、平均化してあるので、かなり感度がよく、安定して信頼できるデータと考えられる。このデータを用いて、スイッチ切替回路66を制御することで、等価容量回路64の容量値を、ボンディング前の接合マシン部20の容量成分の値に自動的に正確にあわせこむことができる。
【0064】
すなわち、接合マシン部20を、ボンディング前の状態とし、接合マシン部20のコネクタ32と、等価容量回路64の出力端子にAC電源62から交流信号を供給し、そのときのサンプリング・平均化処理82の出力を見る。もし、ボンディング前の接合マシン部20の容量成分の値が、等価容量回路64の容量値と同じであれば、サンプリング・平均化処理82の出力はゼロになる。同じでなければ、その差異に応じたデータ値が出力される。したがって、サンプリング・平均化処理82の出力に応じて、スイッチ切替回路66の制御を行えば、その差異を少なくし、理想的にはゼロにできる。実際に差異を短時間で完全にゼロにすることは困難であるので、サンプリング・平均化処理82の出力をゼロに近づけるようにスイッチ切替回路66の制御を行い、その出力が最小となるところでスイッチ切替回路66の制御状態を固定すればよい。このように、サンプリング・平均化処理82の出力をスイッチ切替回路66にフィードバックして、等価容量回路64の容量値を、ボンディング前の接合マシン部20の容量成分の値と略同じ値に、自動的にあわせこむことができる。なお、スイッチ切替回路66にフィードバックする信号は、サンプリング・平均化処理82の出力に限られず、差動回路68以降の信号であれば他の信号を用いることもできる。
【0065】
再び図1の判定部80に戻り、しきい値設定・更新処理84は、サンプリング・平均化処理82の出力を判定するのに用いる閾値を設定し、ボンディング作業の進展に応じてその閾値を更新する処理である。接続状態の判定に用いる閾値は2種類設定される。第1の閾値は、接続不能かどうかを判定するためのもので、第2の閾値は、接続が可能であるときに、ワイヤ24と対象デバイス4との間の接続が着状態か不着状態か判定するためのものである。第2の閾値は、ワイヤ24が対象デバイス4に接続された後に切断されたときに、テールとして残る長さが適当であるか不適当であるかを判定するための閾値としても用いられる。もちろんテール適・不適判定のための閾値を第3の閾値として設定することもできる。閾値の更新は、第2の閾値について行われる。
【0066】
図6は、2つの閾値の設定と、第2の閾値の更新の方法を説明する図である。ここで説明する方法は、実際にはコンピュータ上でソフトウェアによりデータ処理を実行することで実現できる。図6の各図は、横軸は時間で、縦軸はサンプリング・平均化処理82の出力値を示し、例えば電圧値に換算した値を用いることができる。図6(a)は、上記のように等価容量回路64の合わせこみを行って、サンプリング・平均化処理82の出力値を最小にした状態である。このように、実際にはサンプリング・平均化処理82の出力値はゼロにはならず、オフセット100を示す。以下の説明のため、例としてオフセット100は、1000mVであるとする。
【0067】
図6(b)は第1の閾値の設定を説明する図である。第1の閾値102は、オフセット100より、ある程度の余裕Δを持たせて設定される。余裕Δの値は、測定誤差等を考慮し、実験あるいは経験によって定めることができる。余裕Δは、ワイヤボンディング装置10によって異なる値となってもよい。例えば上記のオフセット100の例で、余裕Δを150mVとすることができる。したがって、サンプリング・平均化処理82の出力値が1150mV以下のときは、接続不能と判定される。接続不能の原因は、たとえば異物がワイヤ24と対象デバイス4との間に介在する場合等である。
【0068】
図6(c)は、第2の閾値の設定を説明する図である。第1の閾値102が設定されたら、ワイヤ24を対象デバイス4に接触させ、サンプリング・平均化処理82の出力値を測定点として図6(c)にプロットする。なお、ワイヤ24を対象デバイス4に強く押し付け、あるいは超音波エネルギを与えて実際に接合を形成した場合と、単に接触させた場合とは、ほとんどサンプリング・平均化処理82の出力値が変化しないことが多い。以下の説明では、実際のボンディング作業の代わりに接触を用いて説明する。図6(c)における測定点104は、第1の閾値102以下の出力であるので、上記のように接続不能である。接続不能のデータを除外してゆき、測定点106は第1の閾値102以上で接続可能である。このときの出力値とオフセット100との差をXとすると、第2の閾値108は、(オフセット100)+αXのところに設定される。αは、任意に定める割合(%)である。図6の例ではα=0.5としてある。一例として測定点106の出力値を2000mVとすれば、X=1000mVとなり、第2の閾値108は、1500mVとなる。以後、1500mV以下の測定点は、不着と判定される。
【0069】
図6(d)は、第2の閾値108の更新の様子を説明する図である。上記のように第1の閾値102が1150mV、第2の閾値108が1500mVと設定されると、以後のボンディング作業における接続状態の判定は、この閾値102,108を基準に進められるが、測定点が増えてゆき、第2の閾値108以下の測定点110が現れると、そこで、この新しい測定点110を用いて第2の閾値が更新される。すなわち、図6(d)において、測定点105は接続不能、複数の測定点107は、図6(c)で設定した第2の閾値108以上である接続が「着」状態であるが、測定点110は、図6(c)で設定した第2の閾値108を下回ったとする。このときの出力値とオフセット100との差をYとすると、更新される第2の閾値110は、(オフセット100)+αYのところに設定される。いま、測定点110の出力値を1400mVとすれば、Y=200mVとなり、更新後の第2の閾値110は、1200mVとなる。以後、1200mVが第2の閾値109として用いられる。以下同様に、第2の閾値を下回る測定点が現れるたびに第2の閾値が更新される。
【0070】
このように閾値をボンディング作業の進展に従って更新してゆくことで、継時変化等の影響を少なくして、接続状態の判定を確実に行うことができる。また、一旦閾値を上記のようにして更新を含めて設定がなされると、以後において、同じワイヤボンディング装置10を用いて同種類の対象デバイス4についてボンディングを行うときに、同じ閾値を用いてもよい。一方、対象デバイス4が異なるときは、閾値の設定を異なるものとすることが好ましい。また、1つの対象デバイス4の中に複数の異なる接続個所があるときは、その条件により、接続個所ごとに閾値を異なるものとしてもよい。
【0071】
図7は、1つの対象デバイス4について複数の接続個所があり、それらが同種の条件であるときに、同種であるが別の個体の対象デバイス4に同じ閾値を設定する様子を示す図である。この場合の閾値の設定は、最初に測定された対象デバイス4についての複数の測定点のデータから行われ、その設定値が固定されて以後の同種であるが別の個体の対象デバイス4の閾値として用いられる。すなわち、上記のようにオフセット120によって第1の閾値122が設定されるが、第2の閾値126は更新が行われるので、結局、図7に示すように、最初に測定された対象デバイス4における複数の測定点のうち、もっともオフセット120に近い値を示す測定点124によって設定される。この測定点124の出力値とオフセット120との差をAとすれば、第2の閾値126は、上記の例でα=0.5を用いると、(オフセット120)+A/2 である。次に同種であるが別の個体の対象デバイス4のボンディングを行うときは、改めてしきい値設定・更新処理84を行うことなく、この第1の閾値122、第2の閾値126を固定値として用いることができる。
【0072】
図8は、1つの対象デバイス4について複数の接続個所があり、それらが同種の条件であるときに、同種であるが別の個体の対象デバイス4に、第2の閾値として、出力値に固定の係数αを乗じたものを次の測定点の第2の閾値として用いる例を示すものである。図8は、図7と異なり、最初に測定された対象デバイス4についての複数の測定点のデータから係数αを設定し、その後の同種であるが別の個体の対象デバイス4についての測定点の様子を示す図で、各測定点に、それぞれ係数αによって定められる第2の閾値のレベルが示されている。
【0073】
このように、同種の複数の対象デバイス4に繰り返しボンディングを行うときは、以前に多数の測定点に基づいて設定された閾値の値をそのまま用いることとすることができる。
【0074】
再び図1に戻り、判定部80の接続不能・着不着・テール適不適判定処理は、閾値を用いて、サンプリング・平均化処理82の出力値を判定し、接続状態を次の3つについて判定を行うものである。すなわち、第1の閾値を用いて、接続不能か可能か、第2の閾値を用いて着状態か不着状態か、また、テールの長さが適か不適か、について判定する。判定結果は出力部90により外部に表示される。接続不能か可能かの判定は、上記のように、サンプリング・平均化処理82の出力値が第1の閾値より小さいか大きいかで行われる。着状態か不着状態かの判定と、テールの長さが適か不適かの判定とは、第2の閾値の取り扱いが異なるので、その様子を次に説明する。
【0075】
図9は、着状態か不着状態かによって容量がどのように異なるかを、図10は、テールの長さが適か不適かによって容量がどのように異なるかを、それぞれ模式的に説明する図である。図1と同様の要素については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0076】
図9において、(a)は、ワイヤ24がチップ8に正常に接続された「着」状態で、(b)は、ワイヤ24がチップ8から外れており正常に接続が行われていない「不着」状態である。このとき、接合マシン部20の容量成分であるステージ22とコネクタ32との間の容量の大きさを比べると、ワイヤ24は導体であるので、ワイヤ24の下端とステージ22との間の距離が小さいほど容量が大きい。すなわち、「着」状態の方が「不着」状態より容量値が大きくなる。換言すれば、サンプリング・平均化処理82の出力値は、「着」状態の方が「不着」状態より大きい値となる。なお、図9はファーストボンディングについて示したが、セカンドボンディングにおいても同様な結果となる。
【0077】
図10は、ボンディングリード9に正常なセカンドボンディングがされたあと、ワイヤ24がテール25を残して切断される前の様子を示すもので、(a)は、ワイヤ24が正常な長さに保持され、テール25の長さが「適」状態である。このあと、ワイヤクランパ28が閉じて、所望のテール25の長さを残してワイヤが切断される。このように、テール25の長さが「適」のときは、テール25はボンディングリード9に接続されており、容量は大きい。(b)は、ワイヤ24が正常な長さに保持される前に切断された場合で、テールの長さが「不適」状態である。この場合にはテール25はボンディングリード9に接続されていないので、容量は小さい。このように、接合マシン部20の容量成分であるステージ22とコネクタ32との間の容量の大きさを比べると、「適」状態の方が「不適」状態より容量値が大きくなる。換言すれば、サンプリング・平均化処理82の出力値は、「適」状態の方が「不適」状態より大きい値となる。「着」、「不着」のときの容量の閾値と、「適」、「不適」の容量の閾値とは、必ずしも同じにならなくてもよい。
【0078】
このようにして、サンプリング・平均化処理82の出力値と、第1の閾値、第2の閾値との大小を比較することで、接続状態の判定が、接続不能か可能か、着状態か不着状態か、テールが適状態か不適状態か、についてそれぞれ判定を行うことができる。これら3種の判定をすべて行うこととしてもよく、これらの中で省略できるものは省略するものとしてもよい。
【0079】
次に、上記構成の作用を、ワイヤボンディングの作業手順に従って説明する。図11は、ステージ22の上にガラスエポキシ回路基板6が保持され、ガラスエポキシ回路基板6の上には、チップ8とボンディングリード9が設けられ、このチップ8の図示されていないボンディングパッドとボンディングリード9との間をワイヤ24で接続する工程を順に示す図である。図1と同様の要素については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0080】
図11(a)は、チップ8に対しファーストボンディングを行う直前の状態を示す図である。ワイヤ24の先端はトーチ電源44、トーチ46を用いてボール状に丸められていることは上記のとおりである。このボール状の先端を有するワイヤ24をキャピラリ30の下降によってチップ8に向かって引き下げる。このときワイヤクランパ28は開放のままで、ワイヤ24はキャピラリ30の下降に従い、図示されていないスプール26より繰り延ばされる。このときまで、すなわちワイヤ24がチップ8に接触するまでに、測定部50の等価容量回路64の容量値は、接合マシン部20の容量成分の値に合わせこまれる。そして、さらに、第1の閾値が設定される。また、第2の閾値も、すでに同種のボンディング結果から設定されているものとする。
【0081】
図11(b)は、ワイヤ24がチップ8のボンディングパッドに接触したときを示す図である。このときに接合マシン部20の容量値は、ボンディング前に比べ変化するので、測定部50はこれを合わせこまれた等価容量回路64の容量値と比較し、差分を出力し、増幅、整流、A/D変換の後、サンプリング・平均化処理を行い、その出力を第1の閾値と比較し、図6で説明した方法で、接続不能か可能か判定する。
【0082】
接続可能と判定されると、次に第2の閾値を用いて、図9で説明した方法で、着不着が判定される。接続が「着」状態であると判定されると、次の工程に進む。接続状態が「不着」状態であると判定された場合、あるいはそれ以前に接続不能と判定されると、その結果は、適当なディスプレイ又は知らせランプ等で出力される。ワイヤボンディング装置10の稼動を停止させるものとしてもよい。作業員は、その出力をみて、適切な処置をとることができる。
【0083】
図11(c)は、ファーストボンディングの接続状態が「着」状態と判定された場合に引き続き行われる状態を示す図である。図11(b)において「着」状態と判定されると、あるいはそれに先立って、キャピラリ30に超音波エネルギが供給されて、ボンディングが行われる。そして、キャピラリ30は、予め定められた移動軌跡に従いボンディングリード9の方向に移動する。このときも、測定部50は、着・不着を継続して監視している。キャピラリ30の移動に伴って不着状態となるときは、その結果が出力され、作業員が適切な処置を行うことができる。
【0084】
図11(d)は、セカンドボンディングを行うために、ワイヤ24がボンディングリード9に接触した状態を示す図である。このときも、図9で説明した方法に従って、着・不着が判定される。判定の結果が出力されることも同様である。
【0085】
図11(e)は、セカンドボンディングの接続状態が「着」状態と判定された場合に引き続き行われる状態を示す図である。図11(d)において「着」状態と判定されると、あるいはそれに先立って、キャピラリ30に超音波エネルギが供給されて、ボンディングが行われる。そして、キャピラリ30は、上方に向けて上昇する。このときも、測定部50は、着・不着を継続して監視していることは上記と同様である
【0086】
図11(f)は、キャピラリ30がテール切断のため任意に定められた高さまで上昇したときに、ワイヤクランパ28が閉じ、キャピラリ30の動きに伴ってワイヤ24が切断される直前の状態を示す図である。テール切断のための高さは、例えば300μm程度と定めることができる。こののち、図10で説明した方法に従って、テール長さの適・不適が判定される。その結果が出力されるのは上記と同様である。
【0087】
このようにして、対象デバイス4とワイヤ24との間の接続状態は、ワイヤボンディングの一連の工程を通してリアルタイムで測定され、その結果もリアルタイムで出力される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る実施の形態におけるワイヤボンディング装置の構成図である。
【図2】本発明に係る実施の形態におけるトーチ切替回路の具体的構成を示す回路図である。
【図3】本発明に係る実施の形態におけるDC−R測定回路の具体的構成を示す回路図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、等価容量回路及び差動回路、増幅回路周辺の具体的構成を示す回路図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、差動回路、増幅回路、整流回路のそれぞれにおける信号波形の変化の様子を模式的に示す図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、2つの閾値の設定と、第2の閾値の更新の方法を説明する図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、同種の複数の対象デバイスに繰り返しボンディングを行うときの閾値設定の例を示す図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、同種の複数の対象デバイスに繰り返しボンディングを行うときの閾値設定の別の例を示す図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、着状態か不着状態かによって容量がどのように異なるかを模式的に説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、テールの長さが適か不適かによって容量がどのように異なるかを模式的に説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態における接続状態の判定を行う様子を、ワイヤボンディングの作業手順に従って説明する図である。
【符号の説明】
【0089】
4 対象デバイス、6 ガラスエポキシ回路基板、8 チップ、9 ボンディングリード、10 ワイヤボンディング装置、20 接合マシン部、22 ステージ、24 ワイヤ、25 テール、26 スプール、28 ワイヤクランパ、30 キャピラリ、32,33 コネクタ、40 制御部、42 超音波装置、44 トーチ電源、46 トーチ、50 測定部、52 マシンI/F、54 トーチ切替回路、56 測定切替回路、58 DC−R測定回路、60 AC−C測定回路、62 AC電源、64 等価容量回路、65 複数容量・複数スイッチ部分、66 スイッチ切替回路、68 差動回路、70 増幅回路、72 整流回路、74 A/D変換回路、76 容量、78 スイッチ、80 判定部、82 サンプリング・平均化処理、84 しきい値設定・更新処理、90 出力部、100,120 オフセット、102,108,109,122,126 閾値、104,105,106,107,110,124 測定点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象デバイスを保持し接地に接続されるステージと、対象デバイスにワイヤを接合する接合マシン部と、対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定する測定部と、を含むボンディング装置において、
測定部は、
ステージとの間に導通を有しない対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定するため接合マシン部の容量成分を補償する等価回路であって、対象デバイスにワイヤが接触していないときの接合マシン部とステージとの間のマシン容量成分と略等価の容量を有する等価容量回路と、
等価容量回路と、接合マシン部とにそれぞれ交流信号を供給する交流信号源と、
対象デバイスにワイヤを接合したときの接合マシン部のインピーダンスと、等価容量回路のインピーダンスとを比較する容量比較回路と、
容量比較回路の出力に基づき、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を判定する判定部と、
を備えることを特徴とするボンディング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のボンディング装置において、
等価容量回路は、
複数の容量素子と、
複数の容量素子を相互に接続し、接続の仕方によって互いに異なる複数の容量値を生成する複数のスイッチ素子と、
各スイッチ素子のオン・オフを制御し、マシン容量成分の略等価の容量値を生成するスイッチ切替回路と、
を有することを特徴とするボンディング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のボンディング装置において、
スイッチ切替回路は、
ワイヤが対象デバイスに接触していないときの容量比較回路の出力が最小となるように各スイッチ素子を切り替えることを特徴とするボンディング装置。
【請求項4】
請求項2に記載のボンディング装置において、
各容量素子はそれぞれ、マシン容量成分の値の2%以上50%以下の容量値を有し、
各スイッチ素子はそれぞれ、最小の容量素子における容量値の2%以上50%以下の容量値を有することを特徴とするボンディング装置。
【請求項5】
請求項1に記載のボンディング装置において、
判定部は、
容量比較回路の出力を任意のサンプリング期間で平均化して出力する平均化処理手段を有することを特徴とするボンディング装置。
【請求項6】
請求項5に記載のボンディング装置において、
判定部は、
平均化出力に対し任意に設定した閾値を基準にしてワイヤと対象デバイスとの間の接触状態を判定する判定処理手段を有することを特徴とするボンディング装置。
【請求項7】
請求項6に記載のボンディング装置において、
判定処理手段は、
ワイヤと対象デバイスとの間の接合作業の繰り返しに応じ、閾値を更新することを特徴とするボンディング装置。
【請求項8】
請求項6に記載のボンディング装置において、
判定処理手段は、
対象デバイスの種類によって異なる閾値を設定することを特徴とするボンディング装置。
【請求項9】
請求項6に記載のボンディング装置において、
等価回路は、
複数の容量素子と、
複数の容量素子を相互に接続し、接続の仕方によって互いに異なる複数の容量値を生成する複数のスイッチ素子と、
各スイッチ素子のオン・オフを制御し、マシン容量成分の略等価の容量値を生成する回路であって、ワイヤが対象デバイスに接触していないときの容量比較回路の出力が最小となるように各スイッチ素子を切り替えるスイッチ切り替え回路と、
を有し、
判定処理手段は、
スイッチ切り替え回路によって最小にした容量比較回路の出力に対応する値を閾値に設定することを特徴とするボンディング装置。
【請求項10】
請求項6に記載のボンディング装置において、
判定処理手段は、
対象デバイスの着不着の検出が可能であるか否かを判定することを特徴とするボンディング装置。
【請求項11】
請求項6に記載のボンディング装置において、
判定処理手段は、
ワイヤと、対象デバイスとの間の着不着を判定することを特徴とするボンディング装置。
【請求項12】
請求項6に記載のボンディング装置において、
判定処理手段は、
ワイヤのテール長さの適不適を判定することを特徴とするボンディング装置。
【請求項13】
請求項1に記載のボンディング装置において、
測定部は、さらに、
ステージとの間に導通を有する対象デバイスとワイヤとの間の接続状態を測定するために接合マシン部に直流信号を供給する直流信号源と、
対象デバイスにワイヤを接合したときの接合マシン部の抵抗成分を測定する抵抗成分測定回路と、
を備え、電位測定回路の出力に基づき、ワイヤと対象デバイスとの間の接続状態を判定することを特徴とするボンディング装置。
【請求項14】
請求項13に記載のボンディング装置において、
測定部は、
容量比較回路による接続状態測定と、抵抗成分測定回路による接続状態測定とを切り替える測定切替回路を備えることを特徴とするボンディング装置。
【請求項15】
請求項1又は請求項13に記載のボンディング装置において、
接合マシン部は、ワイヤの先端を丸めるトーチを有し、
マシン容量成分には、トーチの容量成分を含み、さらに、
トーチとの接続先を、測定部又はトーチに接続される高圧電源に切り替えるトーチ切替回路を備えることを特徴とするボンディング装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate