説明

ボールねじの使用方法

【課題】作動トルク変動を低減することによって作動トルク変動に伴う不具合を解消する。
【解決手段】ボールねじ110はねじ軸22を水平方向に配置した状態で両端をサポートユニット50によって回転自在に且つ軸方向移動不能に支持されている。ナット24は複数の循環部品27をナット24の上面に一列に配置した状態で相手部材である移動テーブル51に固定されている。ねじ軸22はその端部をモーター52の出力軸に連結され、モーター52によって回転させられる。このねじ軸22の回転によってナット24に固定され、かつ直動案内装置53によって案内される移動テーブル51がねじ軸22の長手方向に沿って移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの作動性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これには従来より作動トルク変動の低減という課題があった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特開2003‐314658号公報に示されたボールねじ装置があり、これは、図9に示す様に循環軌動に配置されるボール70の個数Nを、軸方向に投影したピッチ円C上に配置可能な最大の数よりも1乃至3個少ない数とし、セパレータ78の幅はピッチ円C上にN個のボール70を等間隔に配置した場合のボール70間の隙間の大きさに設定する。このことによってトルク変動を低減して滑らかに作動するボールねじ装置を得る、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−314658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この先行技術には、高精度の加工を要求される工作機械に使用されるボールねじとしては下記のような不具合が生じるおそれがある。
【0006】
近年、高精度のマシニングセンターでの金型加工では金型の加工面に縞模様が発生してしまうという問題が発生し、本発明者はその原因を究明すべく種々の実験を行った。
【0007】
その実験の中で特開2003−314658号公報(特許文献1)に示された様なセパレータ入りのボールねじを使用して実験を行ったが作動トルク変動の低減にはそれ程効果がないことが分った。加工表面の縞模様の発生は作動トルク変動が原因ということが分ってきており、したがって特許文献1に記載のボールねじを採用しても縞模様の発生の低減にはそれ程効果が期待できないという問題が有った。本発明は、この様な問題を解消するためになされたものであり、作動トルク変動を低減して作動トルク変動に伴う不具合を低減できるボールねじの使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有して前記ねじ溝に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間に転動可能に装填された多数のボールと、前記両ねじ溝間を転動するボールを無限循環させるボール循環回路を形成すべく前記ナットの外周面に固定される循環部品を備え、該循環部品は前記ボール循環回路内のボールを螺旋軌道の接線方向に掬い上げるボールねじの使用方法において、前記ボールねじは前記ねじ軸を水平方向に配置した状態で前記ねじ軸を回転させ、前記ナットは前記循環部品をナットの上面に配置した状態で相手部材に固定して使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、作動トルク変動に伴う不具合、例えば高精度マシニングセンターによる加工物の表面に縞模様が発生することを防止できるという効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】接線掬い上げ式ボールねじの構造を示す平面図を示すものである。
【図2】接線掬い上げ式ボールねじのナットの側面図を示すものである。
【図3】循環部品の断面斜視図を示すものである。
【図4】本発明のボールねじの使用方法を示すものである。
【図5】本発明のボールねじの使用方法による作動トルク変動の測定結果を示すものである。
【図6】比較例のボールねじの使用方法による作動トルク変動の測定結果を示すものである。
【図7】循環部品がナットの上面に配置されている場合の循環部品の内部のボールの状態を示すものである。
【図8】循環部品がナットの下面に配置されている場合の循環部品の内部のボールの状態を示すものである。
【図9】特許文献1に記載されているボールねじ機構の循環軌道を軸方向に投影して見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るボールねじの使用方法の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の対象となる接線掬い上げ式ボールねじの構造を示す平面図である。図2は接線掬い上げ式ボールねじのナットの側面図である。また、図3は循環部品の断面斜視図である。
【0013】
図1は本発明のボールねじの使用方法の対象である接線掬い上げ式ボールねじの一例を示す平面図、図2は図1の側面図、図3は循環部品の分割体を示す断面斜視図である。
【0014】
本発明のボールねじの使用方法の対象であるボールねじ20は、図1及び図2に示すように、外周面に螺旋状のねじ溝21を有するねじ軸22に、内周面にねじ溝21に対応する螺旋状のねじ溝23を有するナット24が嵌合されており、ナット24のねじ溝23とねじ軸22のねじ溝21とは互いに対向して両者の間に負荷を受ける螺旋軌道を形成している。 該螺旋軌道には転動体としての多数のボール25が転動可能に装填されており、ねじ軸22(又はナット24)の回転により、ナット24(又はねじ軸22)がボール25の転動を介して軸方向に移動するようになっている。
【0015】
ナット24の周方向の側面の一部には平坦面24aが形成されており、該平坦面24aには循環部品27が押え具28を介して例えば止めねじ29等によって固定されている。該循環部品27は一対の脚部30と一対の脚部30を接続する本体31とを備えて内部がボール循環経路32とされており、該ボール循環経路32の経路方向に沿って点対称で二つに分割された分割体27a(図3参照)を分割面で互いに接合して構成され、分割体27aの分割面にはボール循環経路32を構成する循環溝33が形成されている。
【0016】
これにより、同一形状の2つの分割体27aを接合することで容易に循環部品27を組み立てることができると共に、分割体27aの成形型も一種類で済むためコスト低減を図ることができる。なお、この実施の形態では、循環部品27を2つ配置して2つの循環回路を形成している。
一対の脚部30は、ねじ軸22の軸方向に互いに離間し、且つねじ軸22の径方向に互いに離間して配置されており、各脚部30の先端には両ねじ溝21,23間の螺旋軌道を転動するボール25を螺旋軌道の接線方向に略一致する方向に掬い上げるタング部30aが設けられている。
【0017】
これらの脚部30は前記両ねじ溝21,23間の螺旋軌道に連通してナット24の平坦面24aに該ナット24の軸線に対して略直交する方向に穿孔された一対の循環孔34に嵌合されている。一対の循環孔34は、その軸心をねじ軸22の軸線から互いに反対方向に同一寸法離間させて配置されている。なお、循環部品27の分割体27aのタング部30aが設けられていない側の脚部30の先端はねじ軸22と接触しないように逃げ部35(図3参照)が形成されている。
そして、この循環部品27によって、前記両ねじ溝21,23間の螺旋軌道を転動するボール25を一方の脚部30から掬い上げてナット24外部の本体31内に導き、他方の脚部30から前記螺旋軌道に戻すボールの無限循環軌道を形成している。
【0018】
ボールねじ20は図4に示す様に前記ねじ軸22を水平方向に配置した状態で両端をサポートユニット50によって回転自在に且つ軸方向移動不能に支持されている。一方ナット24は複数の循環部品27(本実施の形態ではダブルナット方式で2つのナットの夫々に2個の循環部品が設けられている)をナット24の上面にナット24の軸方向に沿って一列に配置した状態で相手部材である移動テーブル51に固定されている。
【0019】
ねじ軸22はその一方の端部をモーター52の出力軸に連結され、モーター52によって回転させられる。
【0020】
このねじ軸22の回転によってナット24に固定され、かつ直動案内装置53によって案内される移動テーブル51がねじ軸22の長手方向に沿って移動する。
【0021】
本発明のボールねじの使用方法によれば循環部品27のボール循環経路32に常に隙間が生じる様になっているのでボールの詰まりが生じない。したがって作動トルク変動が低減され、作動トルク変動に伴う、例えば工作機械の加工物表面に生じる縞模様の発生等の不具合を解消することができる。
【0022】
図5に本発明のボールねじの使用方法に係る循環部品27をナット24の上面に一列に配置した状態での作動トルク変動の測定結果を示し、図6に比較例である循環部品27をナット24の下面に一列に配置した状態での作動トルク変動の測定結果を示す。
【0023】
図5に示す測定結果から明らかな様に本願発明に係るボールねじの使用方法によれば、比較例の使用方法に比べて作動トルク変動が著しく低減されていることが分かる。また、作動トルクが全体的に低減していることが分かる。
【0024】
測定に使用したボールねじの仕様及び測定条件は以下の通りである。
ボールねじの仕様:
軸径70mm、リード12mm、ダブルナット予圧方式、回路数2.5巻×2列(×2)、予圧荷重4500N
測定条件:
回転速度10min−1、ストローク12mm(1rev.)、ISO VG#68潤滑、50往復後
【0025】
次に本発明のボールねじの使用方法が比較例の使用方法よりも作動トルク変動の低減において有効であることを以下に説明する。
1.循環部品27がナット24の下面に配置されている場合
(1)図8の<1>においてねじ軸が回転し、負荷圏内のボールが転動する。
(2)図8の<2>において1つ目のボールが循環部品内に進入する。ボールは自重で循環部品底部へ移動する。
(3)図8の<3>において2つ目のボールが循環部品内に進入する。
(4)図8の<4>において3つ目のボールが循環部品内に進入する。
(5)図8の<5>において7つ目までのボールが循環部品内に進入する。
(6)図8の<6>において9つ目のボールが循環部品内に進入すると、循環部品内に入ってくるボールに押されて循環部品内のボール
が循環部品出口側へ移動する。
(7)図8の<7>において循環部品内に次のボールが入ろうと循環部品内のボールを押すが、循環部品出口側にボールがあるため入れない。その結果ボールの詰まりが発生し、ボールねじの作動トルクが瞬間的に増加する。しかし、出口側のボールが負荷圏に移動することで作動トルクの増加が解消される。この作動トルクの増加と減少を繰り返すことによってボール通過周期の作動トルク変動が発生する。
【0026】
2.循環部品27がナット24の上面に配置されている場合
(1)図7の<1>においてねじ軸が回転し、負荷圏内のボールが転動する。
(2)図7の<2>において1つ目のボールが循環部品内に進入するとボールは自重で循環部品入り口部に留まる。
(3)図7の<3>において2つ目、3つ目のボールが循環部品内に進入する。
(4)図7の<4>において4つ目、5つ目のボールが循環部品内に進入する。
(5)図7の<5>において次のボールが進入する際、先頭のボールが押されて自重で負荷圏入り口にまで移動するため、循環部品内に常にスキマが発生する。したがって、ボールの詰まり現象が生じないため、ボール通過周期の作動トルク変動が発生しない。
【0027】
上記実施の形態のボールねじの循環部品27は1つのナット24に2つの循環部品を設けた例を示したが、1つのナット24に1つ又は3つ以上の循環部品27を設けてもよい。また、作動トルク変動の測定にはナットを2つ連結したダブルナットを使用したが、単一のナットを用いた場合でも本発明の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、循環部品を備えたボールねじの使用方法として、各種機械装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0029】
21 ねじ溝(ねじ軸側ねじ溝)
22 ねじ軸
23 ねじ溝(ナット側ねじ溝)
24 ナット
25 ボール
27 循環部品
30 循環部品脚部
31 循環部品本体
32 ボール循環経路
33 循環溝
50 サポートユニット
51 移動テーブル
52 モーター
53 直動案内装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、該ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有して前記ねじ溝に螺合されるナットと、前記両ねじ溝間に転動可能に装填された多数のボールと、前記両ねじ溝間を転動するボールを無限循環させるボール循環回路を形成すべく前記ナットの外周面に固定される循環部品を備え、該循環部品は前記ボール循環回路内のボールを螺旋軌道の接線方向に掬い上げるボールねじの使用方法において、前記ボールねじは前記ねじ軸を水平方向に配置した状態で前記ねじ軸を回転させ、前記ナットは前記循環部品をナットの上面に配置した状態で相手部材に固定して使用されることを特徴とするボールねじの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−236963(P2011−236963A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108276(P2010−108276)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】