説明

ボールねじ機構

【課題】負荷ボール間にスペーサを配置しても、負荷容量や剛性の低減を招来することがなく、しかも、負荷ボールとスペーサとの摩擦を極めて小さくして、スペーサの循環性を向上すること。
【解決手段】隣接するボール5間に、ボール5に夫々対面する2個の凹面11,11を有するスペーサ10が配置され、当該スペーサ10の各凹面11の断面は、中心位置(X,X)が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されている。また、スペーサ10は、隣接するボール35に、外縁部または外縁近傍部で接触する形状を有している。さらに、スペーサ39は、隣接するボール35に、少なくとも3箇以上の外縁部または外縁近傍部で接触する形状を有している。さらに、スペーサ39は、その肉厚が最も薄くなる箇所に、貫通孔41を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷ボール間にスペーサを配置しても、負荷ボール数の減少を少なく抑えて負荷容量や剛性の低減を招来することがなく、しかも、負荷ボールとスペーサとの摩擦を極めて小さくして、スペーサの循環性を向上すると共に、ボール同士のせりあいによる作動性の悪化、騒音の発生、発生音質の悪化やボールの摩擦・損傷を防止したボールねじ機構、および直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ機構では、図33に示すように、ねじ軸1の外周面及びナット2の内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝3,4が形成され、双方のねじ溝3,4により形成された螺旋状の循環路内に多数のボール5が転動自在に配置されている。ねじ軸1とナット2を相対的に回転させて一方を軸方向に移動させると、多数のボール5の転動を介してねじ軸1とナット2が滑らかに相対螺旋運動するようになっている。
【0003】
このようなボールねじ機構では、ボール5がねじ溝3,4内に密に配置されており、個々のねじ溝3,4内を同方向に転動するが、その際、隣接するボール5,5同士の接触点では、互いに逆方向に転動するボール5が接触して、相互に転動を妨げる結果、この接触点ですべりを生じる。その結果、ボール5の自由な転動が妨げられ、ボール5の作動性が悪化され、ボール5の摩擦・損傷が生起され、トルク変動が生起されるといったこと、騒音が大きくなるといった種々の問題がある。
【0004】
このような問題に対処するため、特開昭56−116951号公報には、負荷を受けるボールの間に、ボールを互いに離間する弾性体が配置され、この弾性体の外側に、ボールと共に循環移動する環体が遊嵌された構成が開示されており、特開昭57−101158号公報には、隣接するボール間に、シムを保持し、このシムにより、ボール同士のころがり摩擦を防止する構成が開示されている。
【0005】
また、実開平1−113657号公報には、図34に示すように、負荷を受けるボール5の間に、樹脂により形成されたスペーサボール6が介在され、これにより、ボール5のすべりを防止し、ボール5の作動性を改善し摩擦・損傷を抑制して、トルク変動等を防止した構成が開示されている。
【0006】
ところで、上述したボールねじ機構に類似するものとして、軸方向に延在された案内レールと、これに跨ぐように設けられたスライダーとの間に、転動体としてのボールが介装されたリニアガイドがある。このようなボールねじ機構およびリニアガイドを総称して、本明細書では、直動装置と称し、この直動装置は、外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装されて構成されていると定義する。
【0007】
例えば、リニアガイドであれば、角柱状の案内レールを跨いで断面コ字状のスライダーが搭載され、その案内レールの外側面とこれに対向するスライダーの内側面とにそれぞれ軌道溝が形成され、その軌道溝に多数の転動体としてのボールが装填されていて、それらの転動体の転動循環によりスライダーと案内レールとが相対的に直線運動をする。このタイプのリニアガイドの場合、スライダーが外方部材であり、案内レールが内方部材といえる。一方、他のタイプのリニアガイドとして、断面コ字状の案内レールの凹所に角形のスライダーが収まり、その案内レールの内側面とこれに対向するスライダーの外側面とにそれぞれ形成された軌道溝にボールが装填されているものがあるが、その場合は案内部材が外方部材でスライダーが内方部材である。
【0008】
また、ボールねじ機構では、上述したように、内面に螺旋状のねじ溝を有するナットに、外面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸が挿入され、対向する両ねじ溝内に多数のボールが装填されていて、これらのボールの転動循環によりナットとねじ軸とが相対的に回転および直線運動する。したがって、ボールねじ機構の場合、ナットが外方部材であり、ねじ軸が内方部材である。
【0009】
すなわち、直動装置の外方部材とは、リニアガイドにあっては、スライダーまたは案内レール、ボールねじ機構にあっては、ナットを指す。また、内方部材とは、リニアガイドにあっては、案内レールまたはスライダー、ボールねじ機構にあっては、ねじ軸を指すものとする。
【0010】
このような直動装置に対応する従来技術として、特開平5−126148号公報に開示され、図35に示すように、隣接するボール5,5間に、これらボール5,5に夫々対面する2個の凹面6,6を有するスペーサ7が配置されている。この凹面6の曲率(1/R)は、ボール5の曲率(1/r)と同じになるように設定されている。また、特開昭62−118116号公報に開示され、図36に示すように、隣接するボール5,5の間に、中空で管状のスペーサ8が配置されている。このスペーサ8は、ボール5の径よりも小径の鋼製パイプを定寸切断して形成されたものである。さらに、特公昭40−24405号公報に開示されているように、隣接するボールの隔壁に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有すると共に、この2個の凹面の最も肉厚が薄くなる箇所に、貫通孔が形成され、この貫通孔は潤滑油倉として使用されている。これは、転がり軸受のようにボールの自転および公転速度が高い場合に、焼付き防止等に使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したボールねじ機構のみに対応する課題として、特開昭56−116951号公報や特開昭57−101158号公報に開示されたボールねじ機構では、弾性体や環体、シム等のスペーサが介在されているため、負荷を受けるボールの個数が削減され、ボールねじ機構の負荷容量や剛性が低減されるといったことがあり、しかも、弾性体や環体、シム等のスペーサは、ねじ溝とのせりを生起するため、スペーサ倒れが生じ、スペーサの循環性が良好でないといったことがある。
【0012】
また、実開平1−113657号公報に開示されたボールねじ機構では、図34に示すように、負荷を受けるボール5の個数は、例えば10個であるのに対し、スペーサボール6の個数は、例えば10個であり、負荷を受けるボール5の間隔が離れ、負荷を受けるボール5の個数が約半分になってしまい、ボールねじ機構の負荷容量が減少し、剛性が低下するといったことがある。
【0013】
一方、上述した従来技術に係る直動装置に対応する課題として、直動装置の作動性を考えた場合には、スペーサとボールとのすべり摩擦は極力小さいことが望ましいが、図35に示すように、ボール5の曲率(1/r)とスペーサ凹面6の曲率(1/R)を同じとした場合、スペーサの凹面全体でボールと接触しすべりを生じるため、摩擦力の増大・作動性の悪化という問題があった。
【0014】
また、本直動装置においては、無限循環する各ボール列における最適な総隙間量の設定、すなわちスペーサを介装したときのボール間スパンの管理を行うために、スペーサの厚さを管理することは非常に重要な項目であるが、図35に示すように、ボール5の曲率(1/r)と同じ曲率(1/R)の凹面6を形成しようと狙ってスペーサ7を制作した場合、寸法のばらつきから、ボール5の曲率(1/r)に対して、大小のものが存在することになり、特に、スペーサ7の凹面6の曲率(1/R)がボール5の曲率(1/r)よりも小さい場合には、ボール5の間にスペーサ7を配置した時、ボール5が安定せず、ボール5の間の寸法(すなわち、スペーサ7の厚み)を測定することが極めて困難になることから、高精度を有するスペーサ7を制作することができないという問題があった。また、ボールを用いる直動装置において、スペーサは、ボールの径よりも小径である必要があるが、図36に示すように、管状のスペーサ8の場合には、その厚みによって、管状のスペーサ8の内径が小さくなり、ボール5が安定し難く、ボール5を安定させるためには、管状のスペーサ8の外径を大きくするしかなく、そのためスペーサ8が循環中に他の部品と干渉してしまうという問題があった。さらに、特公昭40−24405号公報では、隔壁の貫通孔を潤滑油倉として使用し、これにより、転がり軸受のようにボールの自転および公転速度が高い場合に、焼付き防止しているが、直動装置においては、転がり軸受に比較して、非常に低速であることから、焼付きの問題は、殆ど発生せず、又従来例では貫通孔内の潤滑油の保持力が不十分であるといった問題があった。
【0015】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、負荷ボール間にスペーサを配置しても、負荷ボール数の減少を少なく抑えて負荷容量や剛性の低減を招来することがなく、しかも、負荷ボールとスペーサとの摩擦を極めて小さくして、スペーサの循環性を向上すると共に、ボール同士のせりあいによる作動性の悪化、騒音の発生、発生音質の悪化やボールの摩擦・損傷を防止したボールねじ機構、および直動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明の請求項1に係るボールねじ機構は、ねじ軸の外周面及びナットの内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝が形成され、双方のねじ溝により形成された螺旋状の循環路内に多数のボールが転動自在に配置されたボールねじ機構において、
隣接するボール間に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有するスペーサが配置され、
当該スペーサの各凹面の断面は、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されていることを特徴とする。
【0017】
このように、本発明の請求項1によれば、隣接するボール間に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有するスペーサが配置され、当該スペーサは、隣接するボールに、線もしくは点で接触し、滑り抵抗が小さくなるような凹面形状、例えば、スペーサの各凹面の断面は、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されている。そのため、負荷ボールは、ゴシックアーチ形状の円弧により形成されたスペーサの凹面に極めて低摩擦で接触しながら、螺旋状のねじ溝内を良好に循環することができる。したがって、負荷ボールとスペーサとの摩擦が少なく、スペーサの循環性も良好であると共に、ボール同士のせりあいによる作動性の悪化、騒音の発生、発生音質の悪化やボールの摩擦・損傷を防止することができる。しかも、スペーサの形状を従来のスペーサボールに比べて薄くできるため、負荷ボール数の減少を少なく抑えて、負荷容量や剛性の低減を招来することがない。
【0018】
また、本発明の請求項2は、前記螺旋状の循環路内に挿入した全てのボールと全てのスペーサとを一方に寄せ集めたと仮定したとき、先頭に当たるボールと最後尾に当たるスペーサとの間にできた隙間を総隙間と規定し、
この総隙間の間隔(S1)が零より大きく(S1>0)、且つ
前記最後尾に当たる1個のスペーサを除去したと仮定したとき、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔(S2)が前記スペーサの径(ds)の0.8倍より小さく(S2<0.8×ds)なるように、
前記ボールとスペーサの個数が設定されていることを特徴とする。
【0019】
このように、本発明の請求項2によれば、循環路の総隙間が零より大きく設定され、且つ、1個のスペーサを除去したときの、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔が上記のような数値関係に設定されている。そのため、循環路内の隙間が大き過ぎてスペーサが循環路内で倒れることがないと共に、この循環路内の隙間が小さ過ぎてボールとスペーサの摩擦により作動不良を招来するといったことがなく、この循環路内の隙間が適切に設定されていることから、循環路内でスペーサが約60°以上に倒れることがなく、良好な作動性を維持することができる。
【0020】
さらに、本発明の請求項3は、前記スペーサは、隣接するボール間で、弾性変形自在に構成されていることを特徴とする。
【0021】
このように、本発明の請求項3によれば、スペーサは、隣接するボール間で、弾性変形自在に構成されているため、スペーサを弾性変形させることにより、ボール間距離を調整することができる。したがって、サーキット長に対するボールとスペーサの充填率を極めて容易に適正値に設定することができ、例えば、1種類のスペーサにより充填率を調整することができ、スペーサを数種類試作して種々に組み合わせるといった煩雑な設計作業を不要にすることができ、また、必要に応じて、充填率を100%(即ち、ボールとスペーサ間の隙間を零)にすることもできる。なお、スペーサの弾性変形は、構造的に弾性変形するものであってもよく、材質そのもののみにより弾性変形するものであってもよい。
【0022】
さらに、本発明の請求項4は、ねじ軸の外周面及びナットの内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝が形成され、双方のねじ溝により形成された螺旋状の循環路内に多数のボールが転動自在に配置されたボールねじ機構において、
隣接するボール間に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有するスペーサが配置され、
螺旋状の循環路内に挿入した全てのボールと全てのスペーサとを一方に寄せ集めたと仮定したとき、先頭に当たるボールと最後尾に当たるスペーサとの間にできた隙間を総隙間と規定し、
この総隙間の間隔(S1)が零より大きく(S1>0)、且つ
前記最後尾に当たる1個のスペーサを除去したと仮定したとき、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔(S2)がスペーサの径(ds)の0.8倍より小さく(S2<0.8×ds)なるように、ボールとスペーサの個数が設定されていることを特徴とする。
【0023】
このように、本発明の請求項4によれば、循環路の総隙間が零より大きく設定され、且つ、1個のスペーサを除去したときの、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔が上記のような数値関係に設定されている。そのため、循環路内の隙間が大き過ぎてスペーサが循環路内で倒れることがないと共に、この循環路内の隙間が小さ過ぎてボールとスペーサの摩擦により作動不良を招来するといったことがなく、この循環路内の隙間が適切に設定されていることから、循環路内でスペーサが約60°以上に倒れることがなく、良好な作動性を維持することができる。
【0024】
さらに、本発明の請求項5は、外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、隣接するボールに、外縁部または外縁近傍部で接触する形状を有していることを特徴とする。
【0025】
このように、本発明の請求項5によれば、スペーサは、隣接するボールに、外縁部または外縁近傍部で接触する形状を有しているため、より広い領域でボールを保持することができ、また、スペーサがボールを保持する保持代も極めて大きくとることができる。また、ボールが安定し易く、ボールの間の寸法(すなわち、スペーサの厚み)の測定が容易となることから、高精度を有するスペーサを制作することができる。
【0026】
さらに、本発明の請求項6は、外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、隣接するボールに、線接触となるような凹面形状を有していることを特徴とする。
【0027】
このように、本発明の請求項6によれば、ボール間に、スペーサが介装され、当該スペーサは、隣接するボールに、線接触となるような凹面形状を有している。したがって、ボールとスペーサとの摩擦が少なく、スペーサの循環性も良好であると共に、ボール同士のせりあいによる作動性の悪化、騒音の発生、発生音質の悪化やボールの摩擦・損傷を防止することができる。
【0028】
さらに、本発明の請求項7は、外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、隣接するボールに、少なくとも3箇以上の部位で接触する形状を有していることを特徴とする。
【0029】
このように、本発明の請求項7によれば、スペーサは、隣接するボールに、少なくとも3箇以上の部位で接触するため、ボールはスペーサに極めて低摩擦で接触することができ、これらボールとスペーサとのすべり抵抗を小さくして、これらの摩擦を著しく小さくすることができ、ボールとスペーサの循環性が向上すると共に、ボールが安定し易くなるだけでなく、スペーサに潤滑剤を容易に引き込むことができ、ボールとスペーサとのすべり抵抗をより一層小さくすることができる。
【0030】
さらに、本発明の請求項8は、外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、その肉厚が最も薄くなる箇所に、貫通孔を有していることを特徴とする。
【0031】
このように、本発明の請求項8によれば、スペーサは、その肉厚が最も薄くなる箇所に、貫通孔を有している。しかも、従来と異なり、直動装置においては、転がり軸受に比較して、ボールの自転および公転速度が非常に低速であることから、焼付きの問題は、殆ど発生しない。しかしながら、スペーサの貫通孔により、ボールとスペーサとの接触面積が格段に小さくなり、動摩擦力変動を極めて著しく小さくすることができると共に、貫通孔は、凹面の最も肉厚が薄くなる箇所に形成しているため、強度面への影響も著しく小さいといった利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は、本発明の第1実施の形態に係るボールねじ機構の側面図であり、(b)は、図1(a)に示したボールねじ機構に装着されたスペーサの断面図である。
【図2】(a)は、図1に示したボールねじ機構のボールとスペーサとを拡大して示す図であり、(b)は、ゴシックアーチ形状の説明図である。
【図3】図1の(b)に示したボールねじ機構のスペーサを拡大してC方向より示す図である。
【図4】(a)は、本発明の第1実施の形態の第1変形例に係るボールねじ機構の側面図であり、図4(b)は、この第1変形例の原理を説明するための図である。
【図5】本発明の第1実施の形態の第2変形例に係るボールねじ機構の側面図である。
【図6】本発明の第1実施の形態の第3変形例に係るボールねじ機構の側面図である。
【図7】本発明の第1実施の形態の第4変形例に係るボールねじ機構の平面図である。
【図8】(a)は、本発明の第2実施の形態に係るボールねじ機構の原理を説明する図であり、図8(b)は、スペーサの断面図である。
【図9】本発明の第2実施の形態に係るボールねじ機構の側面図である。
【図10】本発明の第2実施の形態の変形例に係るボールねじ機構の側面図である。
【図11】本発明の第3実施の形態に係るボールねじ機構のボールとスペーサとを拡大して示す図である。
【図12】本発明の第3実施の形態に係るボールねじ機構の側面図である。
【図13】本発明の第3実施の形態の変形例に係るボールねじ機構のボールとスペーサとを拡大して示す図である。
【図14】本発明の第4実施の形態に係るリニアガイドの斜視図である。
【図15】図14に示したリニアガイドの断面図である。
【図16】図14に示したリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図17】本発明の第4実施の形態の第1変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図18】本発明の第4実施の形態の第2変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図19】本発明の第4実施の形態の第3変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図20】本発明の第4実施の形態の第4変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図21】本発明の第4実施の形態の第5変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図22】本発明の第4実施の形態の第6変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図23】本発明の第4実施の形態の第7変形例に係るリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【図24】(a)は、本発明の第5実施の形態に係るリニアガイドに装着されたスペーサの断面図であり、(b)は、このスペーサの側面図である。
【図25】本発明の第6実施の形態に係るリニアガイドに装着されたスペーサの断面図である。
【図26】本発明の第6実施の形態の変形例に係るリニアガイドに装着されたスペーサの断面図である。
【図27】本発明の第2実施の形態の実施例の実験結果を示すグラフである。
【図28】本発明の第2実施の形態の比較例1の実験結果を示すグラフである。
【図29】本発明の第2実施の形態の比較例2の実験結果を示すグラフである。
【図30】本発明の第2実施の形態の比較例3の実験結果を示すグラフである。
【図31】本発明の第6実施の形態の実施例の実験結果を示すグラフである。
【図32】本発明の第6実施の形態の比較例の実験結果を示すグラフである。
【図33】従来に係るボールねじ機構の側面図である。
【図34】他の従来に係るボールねじ機構の側面図である。
【図35】従来に係るボールとスペーサの断面図である。
【図36】他の従来に係るボールとスペーサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係るボールねじ機構、および直動装置を図面を参照しつつ説明する。
【0034】
第1ないし第3実施の形態は、ボールねじ機構に係り、第4ないし第6実施の形態は、リニアガイドに係るものである。
【0035】
(第1実施の形態:請求項1に対応)
図1(a)は、本発明の第1実施の形態に係るボールねじ機構の側面図であり、図1(b)は、図1(a)に示したボールねじ機構に装着されたスペーサの断面図であり、図2(a)は、図1に示したボールねじ機構のボールとスペーサとを拡大して示す図であり、図2(b)は、ゴシックアーチ形状の説明図である。図3は、図1に示したボールねじ機構のスペーサを拡大して示す図である。
【0036】
図1(a)に示すように、ねじ軸1の外周面及びナット2の内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝3,4が形成され、双方のねじ溝3,4により形成された螺旋状の循環路内に多数のボール5が転動自在に配置されている。ねじ軸1とナット2を相対的に回転させて一方を軸方向に移動させると、多数のボール5の転動を介してねじ軸1とナット2が滑らかに相対螺旋運動されるようになっている。なお、本実施の形態に係るボールねじ機構のボール循環方法としては、循環駒式、エンドキャップ式、チューブ式等あらゆる種類に適用できる。
【0037】
これら負荷を受けるボール5の間に、球体から形成された多数のスペーサ10が介在されている。このスペーサ10には、図1(b)に示すように、球体から2個の凹面11,11が形成されている。
【0038】
各凹面11の断面は、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されている。すなわち、ゴシックアーチ形状は、図2(b)に示すように、半径Rの2個の円弧の中心位置が所定距離だけ互いにずらされて形成された形状である。図2(a)に示すように、各凹面11の2個の円弧の中心位置(X,X)は、途中でボール5の中心位置(Y)で交差されているが、所定距離だけ互いにずらされている。
【0039】
このように、各凹面11の断面がゴシックアーチ形状により形成されているため、図3に示すように、ボール5は、スペーサ10の凹面11に、符号Zで破線で示す円状に線接触することができる。
【0040】
したがって、ボール5は、スペーサ10の凹面11に、極めて低摩擦で接触することができ、これらボール5とスペーサ10とのすべり抵抗を小さくして、これらの摩擦を著しく小さくすることができる。そのため、スペーサ10の循環性も良好であると共に、ボール5,5同士のせりあいによる作動性の悪化やボール5の摩擦・損傷を著しく向上することができ、トルク変動や騒音の問題を招来するといったこともない。
【0041】
しかも、スペーサ10の形状を従来のスペーサボールに比べて小さくできるため、負荷を受けるボール5の個数の低減を招来することもない。すなわち、図34に示したスペーサボールを有するボールねじ機構では、負荷ボール5の個数が10個であり、スペーサボール6の個数が10個であるのに対し、図1(a)に示した第1実施の形態に係るボールねじ機構では、負荷ボール5の個数が18個であり、スペーサ10の個数が18個であり、従来に比べて負荷ボール5の個数をほぼ倍増することができる。したがって、負荷ボール5の個数の低減に起因する負荷容量や剛性の低減を招来することがない。
【0042】
なお、ボール5とスペーサ10との個数割合は、図1(a)に示した例では、1:1であるが、この個数割合は、2:1または3:1であってもよいことは勿論である。
【0043】
図4(a)は、本発明の第1実施の形態の第1変形例に係るボールねじ機構の側面図であり、図4(b)は、この第1変形例の原理を説明するための図である。
【0044】
スペーサ10を形成するための球体の径をボール5と同一にした場合、図4(b)に示すように、スペーサ10の凹面11にボール5が接触するように配置したとき、スペーサ10がねじ溝3とせりあいすることになる。
【0045】
従って、第1実施の形態の第1変形例では、図4(a)に示すように、2個のボール5,5の中心位置(Y,Y)の中点Cを、スペーサ10を形成するための球体の中心とし、この中点Cからねじ溝3までの距離又は、それ以下を半径として、球体外径の直径(d)を設定している。そのため、スペーサ10がねじ溝3とせりあいするといったことがなく、スペーサ10の径を小さくして、スペーサ10をボール5間に安定して作動性良好に配置することができる。
【0046】
図5は、本発明の第1実施の形態の第2変形例に係るボールねじ機構の側面図である。
【0047】
第1実施の形態の第2変形例では、スペーサ10の2個の凹面11の間に、貫通孔12が形成され、この貫通孔12内に、潤滑グリース、含油樹脂等の潤滑剤が配置されている。この潤滑剤により、ボール5とスペーサ10とのすべり抵抗をより一層小さくして、これらの摩擦を著しく小さくでき、スペーサ10の循環性もより良好にすることができる。なお、本実施の形態に係るボールねじ機構のボール循環方法は、循環駒式、エンドキャップ式、チューブ式等あらゆる種類に適用できる。又、グリース、含油樹脂を使用すれば貫通孔12への保持性も高まる。
【0048】
図6は、本発明の第1実施の形態の第3変形例に係るボールねじ機構の側面図である。
【0049】
第1実施の形態の第3変形例では、スペーサ10の2個の凹面11の間に、貫通孔12が形成され、この貫通孔12内に、小径ボール13が配置されている。
【0050】
この小径ボール13は、ボール5ところがり接触し、スペーサ10は、ボール5と点(線接触ではなく)接触する。そのため、ボール5とスペーサ10とのすべり抵抗をより一層小さくして、これらの摩擦を著しく小さくでき、スペーサ10の循環性もより良好にすることができる。
【0051】
なお、本実施の形態に係るボールねじ機構のボール循環方法は、循環駒式、エンドキャップ式、チューブ式等あらゆる種類に適用できる。
【0052】
図7は、本発明の第1実施の形態の第4変形例に係るボールねじ機構の平面図である。
【0053】
第1実施の形態の第4変形例に係るボールねじ機構は、チューブ循環式のボールねじ機構であり、ねじ溝3,4内になるボール5及びスペーサ10を循環するための循環チューブ14が形成されている。
【0054】
この循環チューブ14にも、曲げアールが形成されているが、第1実施の形態の第4変形例では、この曲げアールの半径(R)は、ねじ軸1のねじ溝3のボールセンターダイアメータ(BCD)の半径と同一に設定されている。これにより、スペーサ10は、第1実施の形態の第1変形例において設定したスペーサ10の球体外径の直径(d)のままで、曲げアールのついた循環チューブ14を作動性良好に通過することができる。
【0055】
なお、本発明の請求項1は、上述した第1実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、スペーサ10を形成するための材料は、鋼、含油樹脂、樹脂、又は含油焼結金属であってもよい。含油樹脂の場合には、含油樹脂から螺旋状のねじ溝循環路内に常時油を供給できるため、長期間にわたる潤滑機能を確保でき、メンテナンスフリーや耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0056】
(第2実施の形態:請求項2と請求項4に対応)
図8(a)は、本発明の第2実施の形態に係るボールねじ機構の原理を説明する図であり、図8(b)は、スペーサの断面図であり、図9は、本発明の第2実施の形態に係るボールねじ機構の側面図である。
【0057】
本第2実施の形態では、図8(a)に示すように、ねじ溝3,4により形成された螺旋状の循環路内に挿入した全てのボール5と全てのスペーサ10とを一方に寄せ集めたと仮定したとき、先頭に当たるボール(LEAD−B)と最後尾に当たるスペーサ(TAIL−S)との間にできた隙間を総隙間と規定し、
この総隙間の間隔(S1)が零より大きく(即ち、S1>0)、且つ
最後尾に当たる1個のスペーサ(TAIL−S)を除去したと仮定したとき、先頭のボール(LEAD−B)と最後尾のボール(TAIL−B)との隙間の間隔(S2)がスペーサの径(ds、図8(b)参照)の0.8倍より小さく(即ち、S2<0.8×ds)なるように、ボール5とスペーサ10の個数が設定されている。
【0058】
このような隙間の間隔(S1,S2)の調整は、具体的には、図9に示すように、循環チューブ14の切欠き高さ(h)、ボール5のすくい上げ角度(γ)、および循環チューブ14の曲げアールの半径(R)の設計値を変更することにより実現することができる。
【0059】
このように、循環路の総隙間の間隔(S1)が、S1>0に設定され、且つ、1個のスペーサ(TAIL−S)を除去したときの、先頭のボール(LEAD−B)と最後尾のボール(TAIL−B)との隙間の間隔(S2)が、S2<0.8×dsに設定されている。そのため、循環路内の隙間が大き過ぎてスペーサ10が循環路内で倒れることがないと共に、この循環路内の隙間が小さ過ぎてボール5とスペーサ10の摩擦により作動不良を招来するといったことがなく、この循環路内の隙間(S1,S2)が適切に設定されていることから、循環路内でスペーサ10が約60°以上に倒れることがなく、良好な作動性を維持することができる。
【0060】
図10は、本発明の第2実施の形態の変形例に係るボールねじ機構の側面図である。この変形例では、スペーサ10の幅の異なるものを数種類準備する。例えば、図10に示すように、スペーサ10の幅がAのものを数個、スペーサ10の幅がBのものを数個、スペーサ10の幅がCのものを数個、……、準備し、これらの幅の違いにより、上記の隙間の間隔(S1,S2)の調整を行っている。この場合にも、循環路内の隙間(S1,S2)が適切に設定されていることから、循環路内でスペーサ10が約60°以上に倒れることがなく、良好な作動性を維持することができる。なお、スペーサ10の径を変更していないため、ナット2は特殊設計にする必要はない。
【0061】
なお、本発明の請求項2も、上述した第2実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、スペーサの凹断面形状はゴシックアーチではなく単一R、又はU形としても適用できる。
【0062】
また、本第2実施の形態の実施例および比較例については、後述する。
【0063】
(第3実施の形態:請求項3に対応)
図11は、本発明の第3実施の形態に係るボールねじ機構のボールとスペーサとを拡大して示す図であり、図12は、本発明の第3実施の形態に係るボールねじ機構の側面図である。
【0064】
図12に示す第3実施の形態に係るボールねじ機構は、チューブ循環式のボールねじ機構であり、ねじ溝3,4内になるボール5及びスペーサ10を循環するための循環チューブ14が形成されている。
【0065】
この循環チューブ14にも、曲げアールが形成されているが、本実施の形態においても、この曲げアールの半径(R)は、ねじ軸1のねじ溝3のボールセンターダイアメータ(BCD)の半径と同一に設定されている。
【0066】
図11に示すように、スペーサ10には、球体から2個の凹面11,11が形成されている。各凹面11の断面は、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されていてもよく、他の形状であってもよい。このスペーサ10は、符号20で示す接点でボール5に接触するようになっている。
【0067】
本第3実施の形態では、スペーサ10は、樹脂等の弾性変形可能な材質から形成され、スペーサ10の外周面に、スリット21が形成されている。これにより、スペーサ10は、ボール5,5の間で、スリット21の撓みにより弾性変形し、接点20でボール5に接触すると共に、スペーサ10の凹面11とボール5の外周面との間隔(d)を伸縮することができる。したがって、スペーサ10を弾性変形させることにより、ボール5,5間の距離(L)を調整することができ、サーキット長に対するボール5とスペーサ10の充填率を極めて容易に適正値に設定することができ、例えば、1種類のスペーサにより充填率を調整することができ、スペーサを数種類試作して種々に組み合わせるといった煩雑な設計作業を不要にすることができ、また、必要に応じて、充填率を100%(即ち、ボールとスペーサ間の隙間を零)にすることもできる。
【0068】
なお、スペーサ10の弾性変形は、上記のスリット21のように、構造的に弾性変形するものであってもよく、樹脂、ゴム等のように、材質そのもののみにより弾性変形するものであってもよい。
【0069】
また、図11に示すように、スペーサ10の2個の凹面11の間に、油たまりための貫通孔12が形成されていてもよい。
【0070】
図13は、本発明の第3実施の形態の変形例に係るボールねじ機構のボールとスペーサとを拡大して示す図である。
【0071】
この変形例では、スペーサ10の凹面11が若干円錐状に形成されており、スペーサ10の凹面11とボール5の外周面との間隔(d)が図11の場合より大きくされている。
【0072】
また、スペーサ10のスリット21も、V字型形状に形成されている。この場合にも、スペーサ10は、ボール5,5の間で、スリット21の撓みにより弾性変形し、接点20でボール5に接触すると共に、スペーサ10の凹面11とボール5の外周面との間隔(d)を伸縮することができるため、ボール5,5間の距離(L)を調整することにより、サーキット長に対するボール5とスペーサ10の充填率を極めて容易に適正値に設定することができる。
【0073】
なお、本発明の請求項3も、上述した第3実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【0074】
(第4実施の形態:請求項5と6に対応)
図14は、本発明の第4実施の形態に係るリニアガイドの斜視図であり、図15は、図14に示したリニアガイドの断面図であり、図16は、図14に示したリニアガイドに装着されたボールと、これの間に介装されたスペーサとの断面図である。
【0075】
図14に示すように、横断面略角型の内方部材である案内レール31の上に、外方部材である断面コ字状のスライダー32が跨架されている。図15に示すように、案内レール31の左右両側面に、それぞれ軸方向に延びる円弧状の軌道溝33aが形成されている。
【0076】
スライダー32の左右両側の脚部34にも、それぞれ軸方向に延びる円弧状の軌道溝33bが形成されている。この案内レール31の軌道溝33aと、スライダー32の軌道溝33bとにより、ボール35の往路33が構成されている。
【0077】
また、スライダー32の両脚部34の往路33より外側に、孔状の復路36が形成されている。これら往路33と、復路36とは、その端部において、反転路37により連通されている。これにより、往路33、復路36、および反転路37により、ボール35の循環路が構成されている。
【0078】
さらに、図16に示すように、隣接するボール35,35の間に、これらボール35,35に夫々対面する2個の凹面38,38を有するスペーサ39が配置されている。この凹面38の曲率(1/R)は、ボール35の曲率(1/r)に対し大きくとることによって、スペーサ39は、隣接するボール35,35に、外縁部または外縁近傍部で線接触するように構成されている。
【0079】
したがって、スペーサ39は、より広い領域でボール35を保持することができ、またスペーサ39がボール35を保持する保持代も極めて大きくとることができる。そのため、ボール35が安定し易く、ボール35の間の寸法(すなわち、スペーサ39の厚み)の測定が容易となることから、高精度を有するスペーサ39を制作することができる。
【0080】
図17は、本発明の第4実施の形態の第1変形例に係るボールとスペーサの断面図である。
【0081】
この第1変形例では、スペーサ39は、断面形状において、その両方の中央部40,40を逃がし、この中央部40,40と外縁部を直線的につないだ形状を有している。これにより、スペーサ39は、隣接するボール35,35に、外縁部または外縁近傍部で線接触するように構成され、ボール35が安定し易くされている。
【0082】
図18は、本発明の第4実施の形態の第2変形例に係るボールとスペーサの断面図である。
【0083】
この第2変形例では、隣接するボール35,35の間に、これらボール35,35に夫々対面する2個の凹面38,38を有するスペーサ39が配置されている。この凹面38の断面は、第1実施の形態で説明した場合と同様に、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されている。これにより、第1実施の形態と同様に、ボール35は、スペーサ39の凹面38に、極めて低摩擦で接触することができ、これらボール35とスペーサ39とのすべり抵抗を小さくすることができると共にボール35が安定し易くなる。そのため、スペーサ35の循環性も良好であると共に、ボール35,35同士のせりあいによる作動性の悪化やボール35の摩擦・損傷を著しく向上することができ、トルク変動、動摩擦変動や騒音の問題を招来するといったこともない。
【0084】
図19、図20、および図21は、それぞれ、本発明の第4実施の形態の第3、第4、および第5変形例に係るボールとスペーサの断面図である。
【0085】
これら第3、第4、および第5変形例では、上述した第4実施の形態および第1、第2変形例において、スペーサ39の中央部に、それぞれ、貫通孔41が形成されている。例えば、この貫通孔41内に、潤滑グリース、含油樹脂等の潤滑剤が設けられれば、これらの保持性がよくなる。この潤滑剤により、ボール35とスペーサ39とのすべり抵抗をより一層小さくして、これらの摩擦を著しく小さくでき、スペーサ39の循環性もより良好にすることができる。
【0086】
図22および図23は、それぞれ、本発明の第4実施の形態の第6および第7変形例に係るボールとスペーサの断面図である。
【0087】
これら第6および第7変形例では、上述した第1および第2変形例において、スペーサ39の外縁部が面取り処理され、スペーサ39の外縁近傍部が、ボール35に接触するように構成されている。この場合にも、ボール35が安定し易くされている。また、スペーサ39のボール35と接触する凹面部の摩耗・へたりを抑えることにより、スペーサ39の耐久性の向上をはかっている。
【0088】
なお、本発明の請求項5と6も、上述した第4実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、第6および第7変形例以外では、ボール35が接触するスペーサ39の外縁部は、エッジ状に形成してあるが、C面取り、またはR面取りを施してもよい。
【0089】
(第5実施の形態:請求項7に対応)
図24(a)は、本発明の第5実施の形態に係るリニアガイドに装着されたスペーサの断面図であり、(b)は、このスペーサの側面図である。
【0090】
図24(a)(b)に示すように、本第5実施の形態では、図16に示すようなスペーサ39の両側面に、十字状の溝42が形成され、これにより、この十字状の溝42の交差部には、4個に等配された外縁部a,b,c,dが形成されている。したがって、ボール35は、これら4個に等配された外縁部a,b,c,dに接触できるため、ボール35は、スペーサ39に、極めて低摩擦で接触することができ、これらボール35とスペーサ39とのすべり抵抗を小さくして、ボール35とスペーサ39の循環性を向上することができる。
【0091】
また、この十字状の溝42を介して、スペーサ39とボール35との間に、潤滑剤を取り入れることができ、ボール35とスペーサ39とのすべり抵抗をより一層小さくすることができる。
【0092】
なお、本発明の請求項7も、上述した第5実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、ボール35が接触する外縁部a,b……は、必ずしも4個に等配されている必要はなく、少なくとも3個以上に配されていればよい。また、ボール35が接触するのは、外縁部である必要はなく、外縁近傍部であってもよい。さらに接触面積を極力小さくでき、かつ、ボール35を安定して保持できれば、スペーサ39の凹面の任意の3箇所以上の位置でもよい。さらにまた、ボール35が接触するスペーサ39の外縁部は、エッジ状に形成してあるが、C面取り、またはR面取りを施してもよい。
【0093】
(第6実施の形態:請求項8に対応)
図25は、本発明の第6実施の形態に係るリニアガイドに装着されるスペーサの断面図である。
【0094】
図25に示すように、本第6実施の形態では、隣接するボール35,35の間に、これらボール35,35に夫々対面する2個の凹面38,38を有するスペーサ39が配置されている。スペーサ39は、この2個の凹面38の最も肉厚が薄くなる箇所に、貫通孔41を有している。したがって、スペーサ39の貫通孔41により、ボール35とスペーサ39との接触面積が格段に小さくなり、トルク変動、動摩擦力変動を極めて著しく小さくすることができると共に、貫通孔41は、凹面38の最も肉厚が薄くなる箇所に形成しているため、強度面への影響も著しく小さいといった利点もある。
【0095】
図26は、本発明の第6実施の形態の変形例に係るリニアガイドに装着されるスペーサの断面図である。
【0096】
この変形例では、スペーサ39の両側面に、上記の凹面38に代えて、略台形状の窪み43,43が形成されており、スペーサ39の肉厚が最も薄くなる箇所に、貫通孔41が形成されている。したがって、この場合にも、ボール35とスペーサ39との接触面積が格段に小さくなると共に、強度面への影響も著しく小さくすることができる。
【0097】
なお、本発明の請求項8も、上述した第6実施の形態に限定されず、種々変形可能である。
【0098】
また、本第6実施の形態の実施例および比較例については、後述する。
【実施例】
【0099】
上述した第2実施の形態に関して、実施例および比較例を以下のように行った。
【0100】
(第2実施の形態の実施例)
上述した第2実施の形態の実施例として、径dsが5.6mmのスペーサ(リテーニングピース)を挿入したボールねじ機構を準備し、表1に示すように、充填率を99.0%、上述した総隙間の間隔(S1)を3.6mm、隙間の間隔(S2)を4.4mm、S2/dsを0.79とした。
【0101】
【表1】

【0102】
この実施例の実験結果を図27に示す。このように、トルクの微小変動が極めて少ないことから、作動状態が良好であることが確認された。
【0103】
(第2実施の形態の比較例1)
比較例1として、スペーサ(リテーニングピース)を挿入したボールねじ機構を準備し、表1に示すように、充填率を100.6%、上述した総隙間の間隔(S1)を0以下、隙間の間隔(S2)を0.8mm、S2/dsを0.14とした。 この比較例1の実験結果を図28に示す。総隙間等を小さく設定しすぎていることから、トルクの微小変動が上記実施例の場合(図27)に比べて大きく、作動状態があまり良くないことが確認された。
【0104】
(第2実施の形態の比較例2)
比較例2として、スペーサ(リテーニングピース)を挿入したボールねじ機構を準備し、表1に示すように、充填率を97.3%、上述した総隙間の間隔(S1)を10.7mm、隙間の間隔(S2)を11.5mm、S2/dsを2.1とした。
【0105】
この比較例2の実験結果を図29に示す。初期の作動は良好であったが、総隙間等を大きく設定しすぎていることから、ストローク中に良好な作動状態を維持できず、ロックした。
【0106】
(第2実施の形態の比較例3)
比較例3として、スペーサを用いないボールねじ機構を準備し、表1に示すように、充填率を96.5%とした。
【0107】
この比較例3の実験結果を図30に示す。トルクの微小変動が上記実施例の場合(図27)に比べて若干大きく、作動状態は、比較的良好であるが、実施例(図27)に比べると劣ることが確認された。
【0108】
次に、第6実施の形態の実施例と比較例を示す。
【0109】
(第6実施の形態の実施例および比較例)
図31に示すように、実施例では、スペーサに貫通孔が形成されている場合の動摩擦力が測定された。図32に示すように、比較例では、スペーサに貫通孔が形成されていない場合の動摩擦力が測定された。実施例(図31)では、比較例(図32)に比べて、動摩擦力の変動が極めて著しく格段に低減されたことが確認された。
【0110】
なお、上記実施例にかかるスペースのいくつかのものについて断面はゴシックアーチ形状のものについて説明したが、ゴシックアーチ形状でなくとも、例えば単一RやV形の断面でも適用できる。
【0111】
(発明の効果)
以上説明したように、本発明の請求項1によれば、隣接するボール間に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有するスペーサが配置され、当該スペーサの各凹面の断面は、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されている。そのため、負荷ボールは、ゴシックアーチ形状の円弧により形成されたスペーサの凹面に線又は点で接触するので極めて低摩擦で接触しながら、螺旋状のねじ溝内を良好に循環することができる。したがって、負荷ボールとスペーサとの摩擦が少なく、スペーサの循環性も良好であると共に、ボール同士のせりあいによる作動性の悪化や騒音の発生、ボールの摩擦・損傷を防止することができる。しかも、スペーサの形状を従来のスペーサボールに比べて小さくできるため、負荷ボール数の減少を少なく抑えて、負荷容量や剛性の低減を招来することがない。
【0112】
また、本発明の請求項2又は4によれば、循環路の総隙間が零より大きく設定され、且つ、1個のスペーサを除去したときの、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔が上記のような数値関係に設定されている。そのため、循環路内の隙間が大き過ぎてスペーサが循環路内で倒れることがないと共に、この循環路内の隙間が小さ過ぎてボールとスペーサの摩擦により作動不良を招来するといったことがなく、この循環路内の隙間が適切に設定されていることから、循環路内でスペーサが約60°以上に倒れることがなく、良好な作動性を維持することができる。
【0113】
さらに、本発明の請求項3によれば、スペーサは、隣接するボール間で、弾性変形自在に構成されているため、スペーサを弾性変形させることにより、ボール間距離を調整することができる。したがって、サーキット長に対するボールとスペーサの充填率を極めて容易に適正値に設定することができ、例えば、1種類のスペーサにより充填率を調整することができ、スペーサを数種類試作して種々に組み合わせるといった煩雑な設計作業を不要にすることができ、また、必要に応じて、充填率を100%(即ち、ボールとスペーサ間の隙間を零)にすることもできる。なお、スペーサの弾性変形は、構造的に弾性変形するものであってもよく、材質そのもののみにより弾性変形するものであってもよい。
【0114】
さらに、本発明の請求項5によれば、スペーサは、隣接するボールに、外縁部または外縁近傍部で接触する形状を有しているため、より広い領域でボールを保持することができ、また、スペーサがボールを保持する保持代も極めて大きくとることができる。また、ボールが安定し易く、ボールの間の寸法(すなわち、スペーサの厚み)の測定が容易となることから、高精度を有するスペーサを制作することができる。
【0115】
このように、本発明の請求項6によれば、ボール間に、スペーサが介装され、当該スペーサは、隣接するボールに、線接触となるような凹面形状を有している。したがって、ボールとスペーサとの摩擦が少なく、スペーサの循環性も良好であると共に、ボール同士のせりあいによる作動性の悪化、騒音の発生、発生音質の悪化やボールの摩擦・損傷を防止することができる。
【0116】
さらに、本発明の請求項7によれば、スペーサは、隣接するボールに、少なくとも3箇以上の部位で接触するため、ボールはスペーサに極めて低摩擦で接触することができ、これらボールとスペーサとのすべり抵抗を小さくして、これらの摩擦を著しく小さくすることができ、ボールとスペーサの循環性が向上すると共に、ボールが安定し易くなるだけでなく、スペーサに潤滑剤を容易に引き込むことができ、ボールとスペーサとのすべり抵抗をより一層小さくすることができる。
【0117】
さらに、本発明の請求項8によれば、スペーサは、その肉厚が最も薄くなる箇所に、貫通孔を有している。したがって、スペーサの貫通孔により、ボールとスペーサとの接触面積が格段に小さくなり、動摩擦力変動を極めて著しく小さくすることができると共に、貫通孔は、凹面の最も肉厚が薄くなる箇所に形成しているため、強度面への影響も著しく小さいといった利点もある。
【符号の説明】
【0118】
1 ねじ軸
2 ナット
3 ねじ溝
4 ねじ溝
5 ボール
6 スペーサボール
10 スペーサ
11 凹面
12 貫通孔
13 小径ボール
14 循環チューブ
S1 総隙間
S2 隙間
ds スペーサの径
LEAD−B 先頭のボール
TAIL−S 最後尾のスペーサ
TAIL−B 最後尾のボール
20 接点
21 スリット
L ボール間距離
d スペーサの凹面とボールの外周面との間隔
31 案内レール
32 スライダー
33 往路
33a,33b 軌道溝
34 脚部
35 ボール
36 復路
37 反転路
38 凹面
39 スペーサ
40 中央部
41 貫通孔
42 十字状の溝
43 台形状の窪み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸の外周面及びナットの内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝が形成され、双方のねじ溝により形成された螺旋状の循環路内に多数のボールが転動自在に配置されたボールねじ機構において、
隣接するボール間に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有するスペーサが配置され、
当該スペーサの各凹面の断面は、中心位置が互いにずらされたゴシックアーチ形状の2個の円弧により形成されていることを特徴とするボールねじ機構。
【請求項2】
前記螺旋状の循環路内に挿入した全てのボールと全てのスペーサとを一方に寄せ集めたと仮定したとき、先頭に当たるボールと最後尾に当たるスペーサとの間にできた隙間を総隙間と規定し、
この総隙間の間隔(S1)が零より大きく(S1>0)、且つ
前記最後尾に当たる1個のスペーサを除去したと仮定したとき、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔(S2)が前記スペーサの径(ds)の0.8倍より小さく(S2<0.8×ds)なるように、
前記ボールとスペーサの個数が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ機構。
【請求項3】
前記スペーサは、隣接するボール間で、弾性変形自在に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ機構。
【請求項4】
ねじ軸の外周面及びナットの内周面に、互いに対応する螺旋状のねじ溝が形成され、双方のねじ溝により形成された螺旋状の循環路内に多数のボールが転動自在に配置されたボールねじ機構において、
隣接するボール間に、ボールに夫々対面する2個の凹面を有するスペーサが配置され、
螺旋状の循環路内に挿入した全てのボールと全てのスペーサとを一方に寄せ集めたと仮定したとき、先頭に当たるボールと最後尾に当たるスペーサとの間にできた隙間を総隙間と規定し、
この総隙間の間隔(S1)が零より大きく(S1>0)、且つ
前記最後尾に当たる1個のスペーサを除去したと仮定したとき、先頭のボールと最後尾のボールとの隙間の間隔(S2)がスペーサの径(ds)の0.8倍より小さく(S2<0.8×ds)なるように、ボールとスペーサの個数が設定されていることを特徴とするボールねじ機構。
【請求項5】
外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、隣接するボールに、外縁部または外縁近傍部で接触する形状を有していることを特徴とする直動装置。
【請求項6】
外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、隣接するボールに、線接触となるような凹面形状を有していることを特徴とする直動装置。
【請求項7】
外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、少なくとも3箇所以上の部位で接触していることを特徴とする上記請求項5又は6に記載の直動装置。
【請求項8】
外方部材と、これに隙間を介して対向された内方部材との間に、多数のボールが配設され、これらボールの間にスペーサが介装された直動装置において、
前記スペーサは、その肉厚が最も薄くなる箇所に、貫通孔を有していることを特徴とする直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2010−96356(P2010−96356A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22495(P2010−22495)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【分割の表示】特願2006−245780(P2006−245780)の分割
【原出願日】平成11年2月3日(1999.2.3)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】