説明

ボールねじ装置及びこれを使用した直動アクチュエータ

【課題】ボールねじナットがストッパ機構に当接したときに過大な慣性トルクがボールねじナットに連結された被回転力伝達部材に伝達されることを防止できるボールねじ装置及びこれを使用した直動アクチュエータを提供することにある。
【解決手段】ボールねじ軸と該ボールねじ軸に転動体を介して螺合するボールねじナット22とを有し、ボールねじナット22に伝達された回転運動をボールねじ軸24の直線運動に変換するボールねじ装置である。そして、前記ボールねじナット22と該ボールねじナットに連結される被回転力伝達部材26との間に、衝撃吸収機構27を配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動要素に伝達された回転運動を直線運動に変換するボールねじ装置及びこれを使用した直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なボールねじ装置には、ボールねじナットの外径側に貫通孔を設け、この貫通孔に別部材の循環路(コマ)を嵌合させる必要がある。このようなボールねじ装置において、ボールねじナットの内周面に塑性加工によってボールを循環する循環路を形成するようにしたボールねじ機構の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このように循環路をボールねじナットの内周面に形成することにより、ボールねじナットの外周面に他部材を嵌合させることが容易となる。
【0003】
このため、外周面に螺旋状のボール転走溝が形成されたねじ軸と、ボール転走溝に対向する負荷ボール転走溝及び負荷ボール転走溝の一端と他端を接続するボール循環溝を有するナットと、ボール転走溝及びボール循環溝に配列・収容される複数の転動体と、ナットの外周に嵌め込む等して設けられる減衰材料とを備えたねじ装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。ここで、減衰材料はボールねじ装置自体の制振性を高めるために用いられている。
【0004】
一方、無段変速機用ボールねじ装置では、外周面にねじ溝を形成したねじ軸と、このねじ軸の外周に同芯状に相対回転可能に設けられ内周面にねじ溝を形成したナット部材と、ねじ軸のねじ溝及びナット部材のねじ溝間に転動自在に介装した複数のボールと、ナット部材と変速用入力軸との間に設けたギア部材と、ねじ軸とナット部材のストローク量を規制するストッパ機構とを備え、ストッパ機構による急激な回転停止によって変速入力軸に慣性トルクが発生した際に、ストッパ機構やギア部材等の破損を防止するためにギア部材と変速用入力軸との間にトルクリミッタ機構を設けるようにしている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−281063号公報
【特許文献2】特開2005−321059号公報
【特許文献3】特開2003−113918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ボールねじ装置に、ボールねじナットのストローク量を規制するストッパ機構を設けた場合には、ボールねじナットがストッパ機構に当接する際に、ボールねじナットに嵌合されているナット嵌合部材の動力伝達部に過大な慣性トルク(衝撃力)が発生する。この過大な慣性トルクを緩和するために、特許文献3に記載されている従来例のように動力伝達経路にトルクリミッタを設けるようにしている。
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載されている従来例では、変速用入力軸とこれに装着される減速ギアとの間にトルクリミッタ機構を設けるようにしているので、ボールねじナットの外周面から離れた位置にトルクリミッタ機構が配置されることになり、ホールねじナットのストローク量を寄生するストッパ機構にボールねじナットが当接したときに生じる過大な慣性トルクがボールねじナットからギア部材を介して変速用入力軸に伝達されることになり、変速用入力軸のトルクリミッタ機構に過大な慣性トルクが入力される。
【0008】
このため、ボールねじナット及び変速用入力軸間のギア部材の剛性を高くする必要があり、製造コストが嵩むという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、ボールねじナットがストッパ機構に当接したときに過大な慣性トルクがボールねじナットに連結された被回転力伝達部材に伝達されることを防止できるボールねじ装置及びこれを使用した直動アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の目的を達成するために、本発明に係るボールねじ装置の第1の形態は、ボールねじ軸と該ボールねじ軸に転動体を介して螺合するボールねじナットとを有し、ボールねじナットに伝達された回転運動をボールねじ軸の直線運動に変換するボールねじ装置である。そして、前記ボールねじナットと該ボールねじナットに連結される被回転力伝達部材との間に、衝撃吸収機構を配設している。
【0010】
また、本発明に係るボールねじ装置の第2の形態は、前記第1の形態において、前記衝撃吸収機構が、緩衝部材で構成されている。
また、本発明に係るボールねじ装置の第3の形態は、前記第2の形態において、前記緩衝部材が、緩衝ゴムで構成されている。
本発明に係るボールねじ装置の第4の形態は、前記第1〜第3の態様の何れか1つの態様において、前記緩衝部材が、前記ボールねじナットに形成した係止片に前記ボールねじ軸に固定されたストッパが当接する回転方向で前当該ボールねじナットと前記被回転伝達部材との間に介挿されるようにしている。
【0011】
また、本発明に係るボールねじ装置の第5の形態は、前記第1の形態において、前記緩衝部材が、トルクリミッタで構成されている。
また、本発明に係るボールねじ装置の第6の形態は、前記第5の形態において、前記トルクリミッタが、前記ボールねじナット及び前記被回転力伝達部材の何れか一方に嵌合される嵌合部と、該嵌合部に形成されて前記ボールねじナット及び前記被回転力伝達部材の他方に接触する弾性部とで構成されている。
【0012】
また、本発明に係る直動アクチュエータの第1の形態は、前記第1乃至第6の形態の何れか1つの形態に記載されたボールねじ装置を備え、前記被回転部材を外周面に歯を形成した歯車で構成し、当該歯車に固定部に固定された電動モータの回転軸に形成した歯車を噛合させている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ボールねじ装置のボールねじナットとこれに連結される被回転力伝達部材との間に衝撃吸収機構を配設したので、ボールねじナットがそのストローク量を規定するストッパ機構に当接したときに生じる過大な慣性トルクを衝撃吸収機構で吸収させて被回転力伝達部材に過大な慣性トルクが伝達されることを抑制する。このため、被回転力伝達部材の剛性を低下させることが可能となり、ボールねじ装置の製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る直動アクチュエータの第1の実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】図1のA−A線上の断面図である。
【図4】図2のB−B線上の断面図である。
【図5】ボールねじ装置の正面図である。
【図6】図5のC−C線上の断面図である。
【図7】ボールねじナットを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は(b)のE−E線上の断面図、(d)はボールねじナットに装着する平歯車の斜視図である。
【図8】ボールねじナットに装着する衝撃吸収機構を示す図であって、(a)衝撃吸収機構の斜視図、(b)は衝撃吸収機構の正面図、(c)は衝撃吸収機構の側面図、(d)は衝撃吸収機構を装着した平歯車の斜視図である。
【図9】ボールねじナットに衝撃吸収機構を装着した図であって、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)はボールねじナットに衝撃吸収機構及び平歯車を装着した状態を示す斜視図である。
【図10】第1の実施形態の案内突起とストッパ部との位置関係を示す説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態を示す図3と同様の断面図である。
【図12】第2の実施形態におけるボールねじナットを示す図であり、(a)はボールねじナットの斜視図、(b)はボールねじナットの正面図、(c)は(b)のF−F線上の断面図、(d)はボールねじナットに装着する前の平歯車の斜視図である。
【図13】平歯車の内周面に装着するトルクリミッタを示す図であって、(a)は斜視図、(b)は正面図、(d)は側面図、(d)はトルクリミッタを装着して平歯車を示す斜視図である。
【図14】ボールねじナットにトルクリミッタを装着した状態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)はボールねじナットにトルクリミッタ及び平歯車を装着した状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る直動アクチュエータの第1の実施形態を示す正面図、図2は側面図、図3は図1のA−A線上の断面図、図4は図2のB−B線上の断面図である。
図中、10は直動アクチュエータである。この直動アクチュエータ10は、図2に示すように、ともに例えばアルミニウム又はアルミニウム合金でダイキャスト成形された主ハウジング11A及び副ハウジング11Bを有する。
【0016】
主ハウジング11Aは、図3に示すように、電動モータ12を前面側(図3の左側)に装着するモータ装着部13と、このモータ装着部13と並列に配設されたボールねじ機構20を背面側(図3の右側)に装着するボールねじ機構装着部14とを有する。これらモータ装着部13及びボールねじ機構装着部14は、互いの中心軸が平行となるように形成されている。
【0017】
モータ装着部13は、前面側に形成された電動モータ12の取付フランジ12aを取付けるフランジ取付部13aと、このフランジ取付部13aの背面側に形成された電動モータ12の大径部12bを挿入する大径孔部13bと、この大径孔部13bの背面側に連通する電動モータ12の小径部12cを挿入する小径孔部13cと、この小径孔部13cの背面側に連通するピニオン収納部13dとを有する。
【0018】
ボールねじ機構装着部14は、背面側に形成したモータ装着部13の小径孔部13cに対応する軸方向位置に形成したボールねじ機構収納部14aと、このボールねじ機構収納部14aに連通して前方に延長する円筒部14bと、この円筒部14bの前端に連通するシール収納部14cとを有する。ボールねじ機構収納部14aには、図示しないが円筒部14bとの間で空気を通過させる空気孔が形成されている。
【0019】
副ハウジング11Bは、図3に示すように、主ハウジング11Aの背面側に形成したピニオン収納部13d及びボールねじ機構収納部14aを覆う形状に構成されている。この副ハウジング11Bは、主ハウジング11Aのピニオン収納部13d及びボールねじ機構収納部14aに対応するピニオン収納部16及びボールねじ機構収納部17を形成し、さらに下部側にブリーザ18を形成している。ここで、ボールねじ機構収納部17には背面側にボールねじ収納部17aを形成している。このボールねじ収納部17aの後述するボールねじナット22の軸方向端面と接触する位置にスラストニードル軸受17bを配置している。
【0020】
電動モータ12は、図3に示すように、その出力軸12dの先端にドライブギヤとしてのピニオンギヤ15を装着している。そして、電動モータ12をモータ装着部13に装着する。この電動モータ12の装着は、電動モータ12をピニオンギヤ15側からモータ装着部13に挿入して、ピニオンギヤ15をピニオン収納部13dに収納した状態で、取付フランジ12aをフランジ取付部13aに取付けることにより行う。
【0021】
一方、ボールねじ機構20は、主ハウジング11A及び副ハウジング11Bのボールねじ機構収納部14a及び17にシール付の転がり軸受21a及び21bによって回転自在に支持した回転運動要素としてのボールねじナット22と、このボールねじナット22に多数のボール(不図示)を介して螺合する直線運動要素としてのボールねじ軸24とを備えている。
【0022】
ボールねじナット22は、図7(a)〜(c)に示すように、内周面にボールねじ溝25a及びボール循環溝25bを形成した円筒部材25で構成している。ここで、ボールねじナット22のボール循環方式としては、図7(c)に示すように、例えばボール循環部が1巻きに1箇所存在するS字状の循環溝25bをボールねじナット22と一体に形成した形態を採用している。そして、循環溝25bは冷間鍛造によって形成され、ボールねじ溝25aは切削加工により形成される。
【0023】
この円筒部材25は、外周面における軸方向の両端部側をボールねじ機構収納部14aに転がり軸受21a及び21bを介して回転自在に支持されている。そして、円筒部材25の外周面の転がり軸受21a及び21bの内輪間に円環状突条25cが形成され、この円環状突条の円周方向に例えば90°の間隔で軸方向に延長する凹部25dを形成している。さらに、背面から見て扇状の係止部となるストッパ部25eを円筒部材25の前面側端面に一体に突出形成している。ここで、凹部25dは、後述するドリブンギヤ26に形成されたキー26aと後述する衝撃吸収機構27のゴム突起27cとを挿入可能な幅に選定されている。
【0024】
ここで、ストッパ部25eは、回転運動要素となるボールねじナット22のボールねじ溝25a及び循環溝25bの少なくとも一方の溝加工前に成形し、ボールねじ溝25a及び循環溝25bの少なくとも一方の加工基準とすることが好ましい。また、ストッパ部25eは、循環溝25bと同時に鍛造することにより形成してもよい。
また、円筒部材25には、円環状突条25cに例えばガラス繊維入り合成樹脂材等を射出成形した被回転力伝達部材としてのドリブンギヤ26を、衝撃吸収機構27を介して連結している。
【0025】
このドリブンギヤ26は、内周面に前述したボールねじナット22の凹部25dに挿入されるキー26aが円周方向の4等分した位置にそれぞれ軸方向に延長して形成されている。
衝撃吸収機構27は、緩衝ゴムを射出成形することにより形成されている。この衝撃吸収機構27は、図8に示すように、所定間隔を保って配置された一対の円環状部27a及び27bとこれら円環状部27a及び27b間における円周方向の4等分位置に内方に突出し且つ軸方向に延長するゴム突起27cが形成されている。
【0026】
そして、上記構成を有する衝撃吸収機構27が、図8(d)に示すように、ドリブンギヤ26に、その内周面に形成されたキー26aの反時計方向側にゴム突起27cが接触するように装着される。この場合、衝撃吸収機構27をボールねじナット22に装着した状態では、図9(a)〜(c)に示すように、衝撃吸収機構27のゴム突起27cがボールねじナット22の円環状突条25cの凹部25d内に図9(b)で見て反時計方向側面に接触するように挿入される。
【0027】
さらに、衝撃吸収機構27を装着したドリブンギヤ26が図9(d)に示すように、ドリブンギヤ26のキー26a及び衝撃吸収機構27のゴム突起27cをボールねじナット22の円環状突条25cの凹部25d内に挿入されて一体化される。そして、ドリブンギヤ26のキー26a及び衝撃吸収機構27のゴム突起27cは軸方向の両端が転がり軸受21a及び21bの内輪によって軸方向の移動が規制される。
【0028】
このため、ボールねじナット22が正転時にボールねじ軸24が図3において矢印Xで示す方向に移動し、このボールねじナット22の正転時はドリブンギヤ26のキー26aがボールねじナット22の凹部25dの側面を直接押圧する。しかしながら、ボールねじナット22が逆転時にボールねじ軸24が図3において矢印Yで示す方向に移動し、後述するようにストッパ部25eが案内突起36に接触して停止されるときにはドリブンギヤ26のキー26aが衝撃吸収機構27のゴム突起27cを介してボールねじナット22の凹部25dの側面を押圧する。
【0029】
そして、ドリブンギヤ26は外周面に形成され平歯が電動モータ12の出力軸12dに装着されたピニオンギヤ15に噛合している。
ボールねじ軸24は、図3及び図4に示すように、主ハウジング11Aに形成した円筒部14b及び副ハウジング11Bに形成したボールねじ収納部17aに装着されている。このボールねじ軸24は、図6に示すように、軸方向の中央部より前端側(図6の右側)に形成されたボールねじ部31と、このボールねじ部31の後端側(図6の左側)に連接するボールねじ部31より小径のインボリュートスプライン軸部32と、このインボリュートスプライン軸部32の後端に連接するインボリュートスプライン軸部32より小径で、先端に二面幅33aを形成した連結軸部33とで構成されている。
【0030】
このボールねじ軸24のインボリュートスプライン軸部32に、図4及び図6に示すように、回り止め部材34をスプライン係合している。この回り止め部材34は、内周面にインボリュートスプライン孔部35aを形成した円筒部35と、この円筒部35の外周面における左右対称位置に形成された半径方向に突出する案内突起36及び37とを有する。ここで、案内突起36は、軸方向の長さを案内突起37に比較して長く設定し、後述するストロークエンドで軸方向後端側にボールねじナット22に形成したストッパ部25eが当接する突出部36aが形成されている。
【0031】
そして、回り止め部材34は、インボリュートスプライン孔部35aにボールねじ軸24のインボリュートスプライン軸部32をスプライン結合した状態で、インボリュートスプライン軸部32の後端側を軸方向から、円周方向複数箇所、例えば上下左右の4箇所を加締めることにより加締め部32aを形成する。したがって、回り止め部材34は、スプライン結合によって回転不能とされるとともに、加締め部32aによってボールねじ軸24の軸方向に移動不能とされてボールねじ軸24に固定されている。また、案内突起36とボールねじナット22のストッパ部25eとが突き当たる位相をスプラインの山で調整することが可能となる。
【0032】
ここで、案内突起36の軸方向長さLcは、図10に示すように、ボールねじ溝25aのリードLbより長く設定されている。すなわち、案内突起36の突出部36aとストッパ部25eとの係止長さをLdとし、回り止めに必要な案内突起36のガイド部材40の案内溝40cとの係合長さをLeとし、ストッパ部25eの軸方向先端と案内溝40cのボールねじナット22側の端面との間の隙間をLfとしたときに、案内突起36の軸方向長さLcを、
Lc=Ld+Le+Lf>Lb …………(1)
に設定する。また、係止長さLdはリードLbより小さく設定する(Ld<Lb)。
【0033】
また、案内突起37は、図6に示すように、後方への突出長さを案内突起36の突出長さに比較して短く設定している。すなわち、案内突起36の突出部36aがストッパ部25eに当接してストロークエンドに達している状態からボールねじナット22を時計方向に回動させてストッパ部25eが案内突起37と周方向に重複する位置に達したときに、案内突起37がストッパ部25eに接触しない軸方向位置に設定している。
【0034】
一方、主ハウジング11Aの円筒部14bの内周面には、図5に示すように180°対称位置に、案内突起36及び37を案内するガイド部材40が設けられている。
また、主ハウジング11Aには、図3及び図4に示すように、ボールねじ機構装着部14におけるシール収納部14cにボールねじ軸24の連結軸部33の外周面に摺接するシール50を装着し、このシール50を止め輪51によって固定している。
【0035】
次に、上記直動アクチュエータ10の組立方法を説明する。
先ず、ボールねじ機構20を組立てる。このボールねじ機構20の組立ては、ドリブンギヤ26の内周面に、衝撃吸収機構27を装着する。このとき、衝撃吸収機構27は、図8(d)に示すように、ドリブンギヤ26のキー26aの時計方向端面に衝撃吸収機構27のゴム突起27cが接触するようにして装着する。この状態で、ドリブンギヤ26及び衝撃吸収機構27をボールねじナット22に装着する。このとき、ドリブンギヤ26のキー26a及び衝撃吸収機構27のゴム突起27cがボールねじナット22に形成した円環状突条25cの凹部25d内に挿入されるようにドリブンギヤ26及び衝撃吸収機構27をボールねじナット22に装着する。
【0036】
そして、ドリブンギヤ26のキー26a及び衝撃吸収機構27のゴム突起27cの軸方向両端に転がり軸受21a及び21bを装着し、これら転がり軸受21a及び21bの内輪によってドリブンギヤ26及び衝撃吸収機構27を固定する。
その後又はその前に、ボールねじ軸24を、ボールねじナット22内に不図示のボールを介して螺合させる。その後又はその前にボールねじ軸24に回り止め部材34をスプライン結合した状態で、インボリュートスプライン軸部32を加締めることにより、回り止め部材34をボールねじ軸24に軸方向及び回転方向に移動不可能に固定する。これにより、図9に示すボールねじ機構20が構成される。
【0037】
ここで、回り止め部材34の装着位置は、ボールねじナット22及びボールねじ軸24間のボールの外部への抜け出しを阻止可能なストロークエンドで案内突起36の突出部36aを案内溝40cから軸方向に突出させ、この突出部36aにボールねじナット22のストッパ部25eを当接させる位置に設定している。
そして、ボールねじ機構20を主ハウジング11Aのボールねじ機構収納部14aに連結軸部33側から挿入し、回り止め部材34の案内突起36及び37を主ハウジング11Aに装着されたガイド部材40の案内溝40aに係合させる。最後に、転がり軸受21aの外輪をボールねじ機構収納部14aの内周面に嵌合させながらドリブンギヤ26ボールねじ機構収納部14aに収納して、主ハウジング11Aへのボールねじ機構20の装着を完了する。
【0038】
その後、電動モータ12をそのピニオンギヤ15側から主ハウジング11Aのモータ装着部13内に挿入して、ピニオンギヤ15をボールねじ機構20のドリブンギヤ26に噛合させる。次いで、電動モータ12の取付フランジ12aをフランジ取付部13aにボルト締めする。
なお、電動モータ12の主ハウジング11Aへの装着は、主ハウジング11Aへのボールねじ機構20の装着前に行うようにしてもよい。
【0039】
このように主ハウジング11Aへの電動モータ12及びボールねじ機構20の装着を終了すると、主ハウジング11Aの背面側に図示しないパッキンを介して副ハウジング11Bを装着してボルト締め等の固定手段で固定し、図3及び図4に示すように、主ハウジング11Aのシール収納部14cにシール50を挿入し、止め輪51で抜け止めすることにより、直動アクチュエータ10の組立を完了する。
【0040】
この組立完了状態では、図4及び図5に示すように、ガイド部材40の案内溝40a内に、回り止め部材34の案内突起36及び37が係合した状態となる。
この状態で、電動モータ12を回転駆動して、ピニオンギヤ15からドリブンギヤ26に回転駆動力を伝達して、ボールねじナット22を例えば図5で見て反時計方向に回動させる場合を考える。この場合には、ボールねじナット22の回転力はボール23を通じてボールねじ軸24に伝達されることにより、ボールねじ軸24はボールねじナット22と同一方向の反時計方向に回動しようとする。このとき、案内突起36及び37がガイド部材40の凹部である案内溝40aに係合しているので、ボールねじ軸24の回動を規制して回り止め機能を発揮する。
【0041】
そして、ボールねじナット22を図5で見て反時計方向に回動し続けることにより、ボールねじ軸24は図3及び図4で見て左方に矢印X方向に移動する。
同様に、電動モータ12を逆回転させて、ボールねじ軸24に図5で見て時計方向の回転力を伝達したときには、案内突起36及び37の左側面がガイド部材40の案内溝40aで案内されて図3で矢印Y方向に移動する。
【0042】
そして、ボールねじナット22をストロークエンドから反時計方向に回転させるとストッパ部25eが案内突起37の位置に達するが、この案内突起37の後端側への突出長さを案内突起36より短く決定しているので、ストッパ部25eが案内突起37の後端に接触することはない。その後、ボールねじナット22がストロークエンドから一回転すると、図10に示すように、係止長さLd<リードLbの関係より、ボールねじナット22のストッパ部25eの先端が案内突起36の後端より離間しており、ストッパ部25eが案内突起36の円周方向端面に当接することはなくなる。
【0043】
その後、ボールねじナット22の回転を継続してボールねじ軸24が所望の後退位置に達したときに、電動モータ12を停止させることにより、ボールねじ軸24の後退を停止させる。
その後、ボールねじ軸24が後方側の所望の後退位置に達している状態から電動モータ12を逆転駆動して、ボールねじナット22を図5で時計方向に回転させると、ボールねじ軸24は、その案内突起36及び37がガイド部材40の案内溝40aに係合しているので、回り止めされて軸方向に前進する。
【0044】
そして、ボールねじ軸24の案内突起36がボールねじナット22のストッパ部25eに対向する(ストロークエンドの1回転手前)位置となったとき、前述したように、係止長さLd<リードLbの関係としているため、ストッパ部25eが案内突起36に接触することはなく、ボールねじナット22の逆転を許容する。このため、案内突起36の前端がボールねじナット22に形成したストッパ部25eの先端の軌跡内に入り込むことになる。
【0045】
そして、ボールねじ軸24をさらに前進させて、ストッパ部25eが案内突起37位置となったときにも、前述したように案内突起37の後方への突出長さが案内突起36より短いことにより、ストッパ部25eが案内突起37に当接することなくボールねじナット22の逆転を許容する。
その後、図10に示すように、ストッパ部25eが案内突起36の突出部36aの円周方向端面に当接することになる。この状態では、図3及び図4に示すように、案内突起36の軸方向長さの半分程度がガイド部材40の案内溝40aに係合している。このため、ボールねじ軸24は回り止め状態にあり、この案内突起36の突出部36aにストッパ部25eが係止長さLdをもって当接するので、ストッパ部25eが案内突起36に係止されてボールねじナット22のこれ以上の逆回転が規制され、ボールねじ軸24が前方側ストロークエンドに達する。この前方側ストロークエンドでは、ボールねじ軸24の後端面が副ハウジング11Bのボールねじ機構収納部17の底面に近接した位置で停止する。
【0046】
このように、ボールねじ軸24が前方側ストロークエンドに達して、ストッパ部25eが案内突起36に当接する状態となると、過大な慣性トルクを生じることになる。この過大な慣性トルク(衝撃力)がボールねじナット22を介してドリブンギヤ26に伝達されることになるが、ボールねじナット22とドリブンギヤ26との間には衝撃吸収機構27が設けられているので、この衝撃吸収機構27によって過大な慣性トルク(衝撃力)がゴム突起27cの弾性変形によりエネルギが消費されて吸収される。
【0047】
したがって、ドリブンギヤ26には、過大な慣性トルク(衝撃力)が伝達されないので、ドリブンギヤ26を樹脂ギヤ等の比較的剛性が低く軽い部材で構成をしても、ドリブンギヤ26が損傷することを確実に防止することができる。
このとき、衝撃吸収機構27はボールねじ軸24がその案内突起36の突出部36aがストッパ部25eから離れる方向のボールねじナット22の正転方向では、ドリブンギヤ26のキー26aが直接ボールねじナット22の円環状突条25cの凹部25dの側壁に接触するので、衝撃吸収機構27を介することなく、ドリブンギヤ26の回転力をボールねじナット22に伝達することができる。
【0048】
このように、上記第1の実施形態によると、ボールねじナット22を時計方向に回転させる逆転時に、ボールねじ軸24が前進して前側ストロークエンドに達したとき、ボールねじ軸24の案内突起36の突出部36aにボールねじナット22のストッパ部25eが当接したときに生じる過大な慣性トルクがボールねじナット22の外周面とドリブンギヤ26の内周面との間に衝撃吸収機構27が介挿されているので、過大な慣性トルクを衝撃吸収機構27のゴム突起27cで吸収することができる。このため、過大な慣性トルクがドリブンギヤ26に伝達されることを抑制することができ、ドリブンギヤ26を低剛性且つ軽量の樹脂ギヤで構成することが可能となり、ボールねじ装置自体の製造コストを低減することができるとともに、軽量化を図ることができる。
【0049】
また、電動モータ12の出力軸12dが前方側とされ、この出力軸12dにピニオンギヤ15及びドリブンギヤ26を介してボールねじナット22を連結し、このボールねじナット22に螺合するボールねじ軸24の連結軸部33を後方側に突出するようにしているので、直動アクチュエータ10の軸方向長さを短くすることができる。
【0050】
次に、本発明の第2の実施形態を図11〜図14について説明する。
この第2の実施形態では、衝撃吸収機構を緩衝ゴムで構成する場合に代えてトルクリミッタを適用するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図11及び図12に示すように、ボールねじナット22に前述した第1の実施形態における凹部25dを省略した円環状突条25cが設けられている。これに応じてドリブンギヤ26の内周面が円環状突条25cの外径よりも僅かに大きい内径とされている。
【0051】
また、ボールねじナット22の円環状突条25cの外周面とドリブンギヤ26の内周面との間にトルクリミッタ41が介挿されている。このトルクリミッタ41は、図13に示すように、バネ部材で円環状に形成されたリング部42と、このリング部42の軸方向の両端部を除く中央部に軸方向に延長する多数の突出バネ部43とで構成されるトレランスリングの構成を有する。
【0052】
そして、トルクリミッタ41が、図14(a)〜(c)に示すように、内周面をボールねじナット22の円環状突条25cの外周面に嵌合させた状態で、図14(d)に示すように、突出バネ部43の外周側をドリブンギヤ26の内周面に所定の面圧で接触されている。
この第2の実施形態によると、ボールねじ軸24が前端ストロークエンドに達して、案内突起36の突出部36aにボールねじナット22のストッパ部25eが当接して過大な慣性トルクを生じる場合以外の通常状態では、トルクリミッタ41の内周面がボールねじナット22の円環状突条25cに嵌合し、突出バネ部43がドリブンギヤ26の内周面に所定の面圧で接触しているので、突出バネ部43の先端部とドリブンギヤ26の内周面との摩擦力によってボールねじナット22とドリブンギヤ26とが相対回転不能に固定される。
【0053】
ところが、前述したように、ボールねじ軸24が前端ストロークエンドに達して、案内突起36の突出部36aにボールねじナット22のストッパ部25eが当接して過大な慣性トルクを生じる場合には、この過大な慣性トルクがボールねじナット22からドリブンギヤ26に伝達されることになる。しかしながら、過大な慣性トルクがトルクリミッタ41の突出バネ部43とドリブンギヤ26の内周面との間の摩擦力に打ち勝った場合には、突出バネ部43aとドリブンギヤ26の内周面との間に滑りが生じ、過大な慣性トルクのエネルギは熱と両者間で滑らせる動力で消費されて、過大な慣性トルクがドリブンギヤ26に伝達されることを抑制することができる。
【0054】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、ボールねじナット22に扇状のストッパ部25eを形成する場合について説明したが、ストッパ部25eの形状は任意形状とすることができる。
また、上記第1の実施形態では、円筒部35の外周面に案内突起36及び37を形成して回り止め部材34を構成し、この回り止め部材34をボールねじ軸24にスプライン結合した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、内周にインボリュートスプライン孔部が形成されていれば、外周を角筒として、この角筒部に案内突起36及び37を形成してもよい。また、ボールねじ軸24に角柱部を形成し、この角柱部に係合する角筒部に案内突起36及び37を形成して回り止め部材34を構成するようにしてもよい。この場合も、回り止め部材34の軸方向位置を角形ワッシャ等で調整することにより、ボールねじ軸24のストロークエンド位置を調整することができる。
【0055】
また、上記第1及び第2の実施形態では、電動モータ12とボールねじ機構20の連結軸部33とを並設した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、電動モータ12をボールねじ軸24のボールねじ部31と並設するようにしてもよい。
また、上記第1及び第2の実施形態では、電動モータ12とボールねじ機構20のボールねじナット22とをピニオンギヤ15及びドリブンギヤ26とで構成される歯車式動力伝達機構で連結した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ウォーム及びウォームホイールとで構成される歯車式動力伝達機構で連結することもでき、その他のギヤを使用した歯車式動力伝達機構を適用することができる。
【0056】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、歯車式動力電鉄機構を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、プーリーとタイミングベルトとによるベルト式動力伝達機構やその他の動力伝達機構で連結するようにしてもよい。
また、上記第1及び第2の実施形態においては、ボールねじナット22を回転駆動源によって回転駆動して、ボールねじ軸24を直線運動要素とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、上記とは逆にボールねじ軸24を回転駆動源によって回動する回転運動要素とし、ボールねじナット22を直線運動要素とした場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…直動アクチュエータ、11A…主ハウジング、11B…副ハウジング、12…電動モータ、13…モータ装着部、14…ボールねじ機構装着部、15…ピニオンギヤ、16…ピニオン収納部、17…ボールねじ機構収納部、18…ブリーザ、20…ボールねじ機構、21a,21b…転がり軸受、22…ボールねじナット、24…ボールねじ軸、25a…ボールねじ溝、25b…循環溝、25c…円環状突条、25d…凹部、25e…ストッパ部、26…ドリブンギヤ、26a…キー、27…衝撃吸収機構、27a,27b…円環状部、27c…ゴム突起、31…ボールねじ部、32…インボリュートスプライン軸部、33…連結軸部、34…回り止め部材、35…円筒部、35a…インボリュートスプライン孔部、36…案内突起、36a…突出部、37…案内突起、40…ガイド部材、40a…案内溝、41…トルクリミッタ、42…リング部、43…突出バネ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ軸と該ボールねじ軸に転動体を介して螺合するボールねじナットとを有し、ボールねじナットに伝達された回転運動をボールねじ軸の直線運動に変換するボールねじ装置であって、
前記ボールねじナットと該ボールねじナットに連結される被回転力伝達部材との間に、衝撃吸収機構を配設したことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記衝撃吸収機構は、緩衝部材で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記緩衝部材は、緩衝ゴムで構成されていることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記緩衝部材は、前記ボールねじナットに形成した係止片に前記ボールねじ軸に固定されたストッパが当接する回転方向で前当該ボールねじナットと前記被回転伝達部材との間に介挿されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記緩衝部材は、トルクリミッタで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記トルクリミッタは、前記ボールねじナット及び前記被回転力伝達部材の何れか一方に嵌合される嵌合部と、該嵌合部に形成されて前記ボールねじナット及び前記被回転力伝達部材の他方に接触する弾性部とで構成されていることを特徴とする請求項5に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記請求項1乃至6の何れか1項に記載されたボールねじ装置を備え、前記被回転部材を外周面に歯を形成した歯車で構成し、当該歯車に固定部に固定された電動モータの回転軸に形成した歯車を噛合させたことを特徴とする直動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−229797(P2012−229797A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280411(P2011−280411)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】