説明

ボールねじ装置

【課題】フランジ部を設けたナットを形成する材料の無駄を排除し、多品種少量生産に容易に対応することができる手段を提供する。
【解決手段】外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットと、このナットの外周面に形成したフランジ部とを備え、軸軌道溝とナット軌道溝とを複数のボールを介して螺合させたボールねじ装置において、フランジ部を別体として形成し、このフランジ部をナットの外周面に電子ビーム溶接により接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や産業機械、半導体製造装置、射出成形機、プレス成形機、精密機械等の機械装置の移動台の位置決め用や搬送用、動力伝達用の送り機構等に用いられるボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のボールねじ装置は、ねじ軸の外周面に螺旋状に形成した軸軌道溝と、ナットの内周面に形成した軸軌道溝に対向するナット軌道溝とを複数のボールを介して螺合させ、ナットの端部の外周面に一体に形成したフランジ部により機械装置の移動台に取付けて送り機構を形成している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−301916号公報(第3頁段落0013−段落0015、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の技術においては、フランジ部をナットと一体に形成しているため、フランジ部を設けたナットを形成する場合には、合金鋼等からなる丸棒から切削加工により、または鍛造加工により粗形状に成形した粗形材を切削加工により成形することが必要になる。
丸棒から切削加工により成形すると、ナットの外径およびフランジ部の外径の組合せに応じてその形状を加工することは容易であるが、フランジ部の外径とナットの外径との差が大きいために多くの材料を削り取らなければならず、材料に無駄が生ずるという問題がある。
【0004】
また、鍛造加工による粗形材を用いると、切削加工により削り取る量が少なくなるので材料の無駄を排除することができるが、ナットの外径およびフランジ部の外径の組合せに応じて多数の鍛造型を準備する必要があり、鍛造型に要する費用が増大するために多品種少量生産に対応することが困難であるという問題がある。
ねじ軸の端部に相手機械要素を取付けるための取付部を設けた場合にも同様の問題が生ずる。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、フランジ部を設けたナットや取付部を設けたねじ軸を形成する材料の無駄を排除し、多品種少量生産に容易に対応することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に前記軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットと、該ナットの外周面に形成したフランジ部とを備え、前記軸軌道溝とナット軌道溝とを複数のボールを介して螺合させたボールねじ装置において、前記フランジ部を別体として形成し、前記ナットの外周面に電子ビーム溶接により接合したことを特徴とする。
【0007】
また、外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に前記軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットとを備え、前記軸軌道溝とナット軌道溝とを複数のボールを介して螺合させたボールねじ装置において、前記ねじ軸の端部に取付部を設け、該取付部を別体として形成し、前記ねじ軸の端部に電子ビーム溶接により接合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これにより、本発明は、フランジ部およびナットの削り代を最小にすることができ、製造時の材料の無駄を排除することができると共に、相手部品により組付仕様の異なる各種の仕様のボールねじ装置を迅速かつ容易に製作することができ、ボールねじ装置のナットの多品種少量生産に容易に対応することができるという効果が得られる。
また、ねじ軸および取付部の削り代を最小にすることができ、製造時の材料の無駄を排除することができると共に、相手要素部品により取付仕様の異なる各種の仕様のボールねじ装置を迅速かつ容易に製作することができ、ボールねじ装置のねじ軸の多品種少量生産に容易に対応することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明によるボールねじ装置の実施例について説明する。
【実施例】
【0010】
図1は実施例のボールねじ装置を示す断面図である。
図1において、1はボールねじ装置である。
2はボールねじ装置1のねじ軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、その外周面には略半円弧状断面形状の軸軌道溝3が所定のリードで螺旋状に形成されており、その軸軌道溝3の表面には浸炭焼入れ等の焼入れ処理により硬化層が形成されている。
【0011】
4は取付部であり、合金鋼等の鋼材で製作され、ねじ軸2を回転支持するための図示しない転がり軸受やねじ軸2を回転させるための図示しないモータ等の相手機械要素を取付けるためにねじ軸2と同軸に設けられた円柱状部材または段付軸状部材であって、ねじ軸2の一方の端部2aの端面に形成された取付部嵌合穴5に取付部4の外周面を嵌合させた後に電子ビーム溶接により接合される。
【0012】
6はボールねじ装置1のナットであり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、その内周面には軸軌道溝3と対向する略半円弧状断面形状のナット軌道溝7が軸軌道溝3と同じリードで形成されており、そのナット軌道溝7の表面には焼入れ処理により硬化層が形成されている。
また、ナット6の一方の端部の端面にはボールねじ装置1の内部からの潤滑剤の漏洩や外部からの塵埃等の異物の浸入等を防止する図示しないシール体を取付けるためのシール体取付穴8設けられている。
【0013】
9はフランジ部であり、合金鋼等の鋼材で製作され、ナット6と同軸に設けられた円盤状部材であって、その一方のフランジ面9aにはナット6の他方の端部の外周面が嵌合するナット嵌合穴10が、他方のフランジ面9bには前記と同様のシール体取付穴8が設けられており、フランジ部9に設けた段付ボルト穴11により図示しない機械装置の移動台の相手部品にボルト等により組付けられる。
【0014】
フランジ部9は、ナット嵌合穴10にナット6の他方の端部の外周面を嵌合させた後に電子ビーム溶接によりナット6の外周面に接合される。
12はボールであり、合金鋼等の鋼材またはセラミック材等で製作された球体であって、軸軌道溝3とナット軌道溝7の間を転動してねじ軸2とナット6を螺合させる。
なお、ボール12が鋼材で製作される場合にはその表面に焼入れ処理により硬化層が形成されている。
【0015】
上記のねじ軸2の軸軌道溝3とこれに対向するナット6のナット軌道溝7およびこれを連結する図示しないリターンチューブにより循環路が形成され、この循環路に複数のボール12と所定の量の潤滑剤、例えばグリースが封入される。
これにより、軸軌道溝3とナット軌道溝7とがボール12を介して螺合し、ねじ軸2を回転させることによってボール12が循環路を循環しながらナット6を軸方向に移動させ、ボール軸2の回転運動がナット6の直線運動に変換される。
【0016】
上記の構成のボールねじ装置1の製造方法について説明する。
フランジ部9を設けたナット6を製造する場合は、低炭素系の鋼材、例えばSCM420等の比較的外径の小さい丸棒を用いてナット6を切削加工によりナット軌道溝7の研磨代を残す等して荒加工し、調質処理後にナット6の内周面を除く領域に防炭処理を施して浸炭焼入れを行い、その後防炭処理を除去してナット6の素材を形成する。
【0017】
また、低炭素系の鋼材、例えばSCM420等の比較的外径の大きい丸棒を用いてフランジ部9を切削加工により相手部品との当接面(図1の例ではフランジ面9a)の研磨代を残す等して荒加工し、調質処理を行ってフランジ部9の素材を形成する。
そして、フランジ部9のナット嵌合穴10にナット6の他方の端部の外周面を嵌合させた後に、溶接部15を電子ビーム溶接により溶接してナット6の外周面にフランジ部9を接合する。
【0018】
フランジ部9の接合後に、ナット6の内周面を基準としてフランジ部9の外径のナット6との同軸度および相手部品との当接面(フランジ面9a)のナット6との直角度を確保するように研削加工により研磨して仕上げ、ナット6のナット軌道溝7を溝研削により仕上げて本実施例の焼入れ処理を施さないフランジ部9を設けたナット6を製造する。
取付部4を設けたねじ軸2を製造する場合は、低炭素系の鋼材、例えばSCM420等のねじ軸2より外径の大きい丸棒を用いてねじ軸2を切削加工、または転造加工により軸軌道溝3の研磨代を残す等して荒加工し、調質処理後にねじ軸2の端部2aに防炭処理を施して浸炭焼入れを行い、その後防炭処理を除去してねじ軸2の素材を形成する。
【0019】
また、低炭素系の鋼材、例えばSCM420等の取付部4より外径の大きい丸棒を用いて取付部4を切削加工により取付部4の相手部品の取付面(図1の例では取付部4の外周面)の研磨代を残す等して荒加工し、調質処理を行って取付部4の素材を形成する。
そして、ねじ軸2の端部2aの取付部嵌合穴5に取付部4の外周面を嵌合させた後に、溶接部17を電子ビーム溶接により溶接してねじ軸2の端部に取付部4を接合する。
【0020】
取付部4の接合後に、ねじ軸2の外周面を基準として取付部4の外径のねじ軸2との同軸度を確保するように研削加工により研磨して仕上げ、ねじ軸2の軸軌道溝3を溝研削により仕上げて本実施例の焼入れ処理を施さない取付部4を設けたねじ軸2を製造する。
上記のようにして形成したナット6のフランジ部9やねじ軸2の取付部4の強度は、通常加わる最大荷重(静定格荷重)の約10倍の荷重を加えても破損しないことを検証してある。
【0021】
このようにして形成したナット6やねじ軸2は、それぞれの部品の削り代を最小にすることができるので、製造時に材料の無駄が生じることはない。
また、フランジ部9や取付部4を別体として形成するので、ナット6とねじ軸2を標準化することが可能になり、潤滑仕様や取付形状等のフランジ部9の組付仕様や取付形状等の取付部4の取付仕様が異なった各種の仕様のボールねじ装置1を迅速かつ容易に製作することができ、多品種少量生産を行う必要のあるボールねじ装置1の製造に容易に対応することができる。このことは、近年の顧客の要求の多様化に伴う各種のボールねじ装置1を製造する場合に特に有効である。
【0022】
更に、フランジ部9や取付部4をナット6やねじ軸2と電子ビーム溶接により接合するので、溶接に伴う歪を微小なものとすることができ、接合後の仕上げ代を減少させて更に材料の無駄を排除することができる。
更に、フランジ部9や取付部4を別体として形成し、ナット6の内周面やねじ軸2の外周面に浸炭焼入れ等の焼入れ処理を施しても、焼入れ処理を施していないフランジ部9や取付部4を設けたナット6やねじ軸2を容易に製造することができ、組付仕様や取付仕様の小変更等に伴うフランジ部9や取付部4の追加工を容易に行うことができる。
【0023】
なお、本実施例では、ナット6および取付部4の嵌合部は、それぞれの外周面を用いるとして説明したが、外周面のそれぞれの端部に段付部を設け、これを嵌合部とするようにしてもよい。
また、フランジ部9をナット6の端部の外周面に接合するとして説明したが、フランジ部9を接合する位置は端部に限らず、ナット6の軸方向の中央部等軸方向のどこであってもよい。
【0024】
この場合に、ナット嵌合穴10はフランジ部9を軸方向に貫通するように形成し、治具等を用いてフランジ部9を位置決めを行った後に、フランジ部9の一方または両方から電子ビーム溶接により接合すればよい。
更に、取付部4をねじ軸2の一方の端部2aに設けるとして説明したが、他方の端部にも同様にして転がり軸受等の取付部を設けるようにしてもよい。
【0025】
更に、ナット6の防炭処理は内周面を除く領域に施すとして説明したが、防炭処理を施す部位は前記に限らず、フランジ部9との嵌合部の外周面のみとしてもよい。
以上説明したように、本実施例では、フランジ部を別体として形成し、ナットの外周面に電子ビーム溶接により接合するようにしたことによって、フランジ部およびナットの削り代を最小にすることができ、製造時の材料の無駄を排除することができると共に、相手部品により組付仕様の異なる各種の仕様のボールねじ装置を迅速かつ容易に製作することができ、ボールねじ装置のナットの多品種少量生産に容易に対応することができる。
【0026】
また、ナットの内周面には焼入れ処理を施し、フランジ部には焼入れ処理を施さないようにしたことによって、組付仕様の小変更等に伴う追加工を容易に行うことが可能になる。
更に、フランジ部の相手部品との当接面を、ナットとの接合後に仕上げるようにしたことによって、電子ビーム溶接時の誤差等を吸収して相手部品との組付精度を容易に確保することができる。
【0027】
更に、取付部を別体として形成し、ねじ軸の端部に電子ビーム溶接により接合するようにしたことによって、ねじ軸および取付部の削り代を最小にすることができ、製造時の材料の無駄を排除することができると共に、相手要素部品により取付仕様の異なる各種の仕様のボールねじ装置を迅速かつ容易に製作することができ、ボールねじ装置のねじ軸の多品種少量生産に容易に対応することができる。
【0028】
更にねじ軸には焼入れ処理を施し、取付部には焼入れ処理を施さないようにしたことによって、取付仕様の小変更等に伴う追加工を容易に行うことが可能になる。
なお、本実施例においては、ナットやねじ軸のナット軌道溝や軸軌道溝の硬化層を形成する焼入れ処理を浸炭焼入れとして説明したが、硬化層を形成する焼入れ処理は前記に限らず、高周波焼入れ等であってもよい。このようにすれば防炭処理を省略して製造工程の簡素化を図ることができると共に接合後においても硬化層を形成することができる。
【0029】
また、本実施例では、リターンチューブを連結路としてボールを循環させるチューブ式の循環方式を用いたボールねじ装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、連結路は上記に限らず連結路をこま式やエンドキャップ式等とした循環方式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
更に、本実施例においては、ボールねじ装置のねじ軸を回転させてナットを軸方向に移動させるとして説明したが、ナットを回転させてねじ軸を軸方向に移動させる形式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例のボールねじ装置を示す斜視図
【符号の説明】
【0031】
1 ボールねじ装置
2 ねじ軸
2a 端部
3 軸軌道溝
4 取付部
5 取付部嵌合穴
6 ナット
7 ナット軌道溝
8 シール体取付穴
9 フランジ部
9a、9b フランジ面
10 ナット嵌合穴
11 段付ボルト穴
12 ボール
15、17 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に前記軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットと、該ナットの外周面に形成したフランジ部とを備え、前記軸軌道溝とナット軌道溝とを複数のボールを介して螺合させたボールねじ装置において、
前記フランジ部を別体として形成し、前記ナットの外周面に電子ビーム溶接により接合したことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
請求項1において、
内周面に焼入れ処理を施した前記ナットに、前記フランジ部を接合したことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記フランジ部は、該フランジ部により取付ける相手部品と当接する面を、前記接合後に仕上げた当接面を有することを特徴とするボールねじ装置。
【請求項4】
外周面に螺旋状の軸軌道溝を形成したねじ軸と、内周面に前記軸軌道溝に対向するナット軌道溝を形成したナットとを備え、前記軸軌道溝とナット軌道溝とを複数のボールを介して螺合させたボールねじ装置において、
前記ねじ軸の端部に取付部を設け、
該取付部を別体として形成し、前記ねじ軸の端部に電子ビーム溶接により接合したことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項5】
請求項4において、
外周面に焼入れ処理を施した前記ねじ軸の端部に、前記取付部接合したことを特徴とするボールねじ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−113611(P2007−113611A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303478(P2005−303478)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】