説明

ボールねじ装置

【課題】ねじ軸及びナットとボールとの接触部で発生した摩擦熱によって焼付などが発生することを防止することのできるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ12のナット外表面とこれに接触するテーブル13のブラケット部14との間に多数の高熱伝導性粒子を液状またはゲル状物質と共に介在させ、ボールねじ12で発生した摩擦熱を高熱伝導性粒子を介してテーブル13側に伝わりやすくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばテーブル送り装置などで用いられるボールねじ装置に関し、特に、ボールねじ装置の発熱対策の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置などで用いられるテーブル送り装置は、ベースと、このベース上に固定された駆動モータと、この駆動モータにより回転駆動されるボールねじ軸を有するボールねじと、このボールねじのボールねじナットにより送り駆動されるテーブルとを備えた構成となっている。
このようなテーブル送り装置は、ボールねじのボールねじ軸を高速回転させると摩擦熱がボールねじに発生し、焼付きを起こすことがある。そこで、従来においては、たとえばボールねじ軸の軸芯部に貫通孔を穿設し、この貫通孔を通流する冷却液によりボールねじを冷却して温度上昇による寿命低下を防止するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−270649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来技術では、冷却液を流すための貫通孔をボールねじ軸の軸芯部に加工する必要があるため、コスト高になるという問題があった。また、冷却液を循環させるためも設備をボールねじの周辺に設置しなければならないため、設置スペースの増大を招くという問題があった。さらに、上述した従来技術では、ボールねじのボールねじ軸は冷却できるもののボールねじナットは冷却できないため、ナットの熱膨張によりナット側ボール転動溝の径が拡大し、ボールねじの隙間が増大する。特に、セラミック製のボールを使用した場合、熱膨張係数が鋼製のボールよりも小さいために、この傾向が顕著になるという問題があった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ねじ軸及びナットとボールとの接触部で発生した摩擦熱に起因する温度上昇により寿命が低下することを防止することのできるボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係るボールねじ装置は、ねじ軸と、該ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のボール転動溝と対向するボール転動溝を内周面に有するナットと、該ナットのボール転動溝と前記ねじ軸のボール転動溝との間に設けられた多数のボールと、前記ナットをブラケットに固定するためのナット取付フランジとを備えたボールねじ装置において、前記ブラケットと接触または対向する前記ナットの外表面の少なくとも一部に多数の高熱伝導性粒子を液状物質またはゲル状物質と共に付着させたことを特徴とする。
【0005】
本発明に係るボールねじ装置において、前記ブラケットは前記ナットに形成されたナット取付フランジのフランジ面に当接するフランジ当接面を有し、前記ナット取付フランジのフランジ面及び前記フランジ当接面は切削加工または研削加工されていることが好ましい。
また、本発明に係るボールねじ装置において、前記ボールはセラミックスから形成されたものを好適に使用できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るボールねじ装置によれば、ねじ軸及びナットとボールとの接触部で発生した摩擦熱が高熱伝導性粒子を介してブラケット側に伝わりやすくなり、ねじ軸及びナットとボールとの接触部に摩擦熱が発生してもブラケット側に摩擦熱を逃すことができるため、ねじ軸及びナットとボールとの接触部で発生した摩擦熱に起因する温度上昇により寿命が低下することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図1〜図6を参照して本発明の実施形態について説明する。
本発明をテーブル送り装置に適用した場合の一実施形態を図1に示す。同図において符号10はテーブル送り装置であって、このテーブル送り装置10は、ベース11、ボールねじ12及びテーブル13を備えている。
ボールねじ12はねじ軸121を有しており、このねじ軸121を回転駆動する駆動モータ(図示せず)はベース11上に固定されている。また、ボールねじ12はナット122を有しており、このナット122に形成されたナット取付フランジ123は、図示しない複数のボルトによりテーブル13のブラケット部14に固定されている。
【0008】
さらに、ボールねじ12はねじ軸121の外周面に形成されたボール転動溝124とナット122の内周面に形成されたボール転動溝125との間に多数のボール126を有しており、これらのボール126はセラミックスから形成されている。なお、ベース11の上面部には駆動モータの他に、ボールねじ12のねじ軸端部を回転自在に支持する二つの軸受15(図1参照)が設けられている。
【0009】
テーブル13は、ボールねじ12のナット122により図1中矢印方向に送り駆動されるようになっている。また、テーブル13のブラケット部14はボールねじ12のナット取付フランジ123に当接するフランジ当接面16を有しており、このフランジ当接面16とナット取付フランジ123との間には、図3に示すように、多数の高熱伝導性粒子17が液状またはゲル状物質と共に介在している。
【0010】
高熱伝導性粒子17は例えば真鍮、銅などの軟質金属粒子あるいはカーボン粒子などからなり、全体の熱伝導率λはλ≧0.7W/mkとなっている。また、高熱伝導性粒子17は1nm〜25μm程度の粒径を有しており、これらの高熱伝導性粒子を含んだ液状物質またはゲル状物質の具体例としては、信越化学製オイルコンパウンドG−751、信越化学製シリコーンRTVゴムKE−3467、東洋ドライループ製ナノカーボンなどが挙げられる。
なお、ナット取付フランジ123のフランジ面とブラケット部14のフランジ当接面16は、高熱伝導性粒子17の脱落を防止するために、25S程度の粗さで切削加工または研削加工されている。
【0011】
このように構成される本発明の第1の実施形態では、ボールねじ12のナット取付フランジ123とテーブル13のフランジ当接面16との間に多数の高熱伝導性粒子17を液状またはゲル状物質と共に介在させたことにより、ボールねじ12で発生した摩擦熱が高熱伝導性粒子17を介してテーブル13側に伝わりやすくなる。したがって、ボールねじ12に摩擦熱が発生してもテーブル13側に摩擦熱を逃すことができるため、摩擦熱に起因する温度上昇により寿命が低下することを防止することができる。
さらに、テーブル送り装置の一般的な使い方としては、テーブル13の上にワークを固定し、位置決めするものであるが、位置決め精度を悪化させる要因にボールねじ軸とワークの温度の相異が挙げられる。本発明では、ナットとテーブルとの温度差が減少するため、この点でも改善される。
【0012】
また、前述した従来技術のように、冷却液を通流させるための貫通孔をねじ軸の軸芯部に加工したり、冷却液を循環させる設備をボールねじの周辺に設置したりする必要がないので、コストの上昇や設置スペースの増大などを抑制することができる。さらに、ねじ軸外周面に形成されたボール転動溝とナット内周面に形成されたボール転動溝との間に摩擦熱に起因するリード誤差が生じることもないので、比較的小さな回転トルクでねじ軸を回転させることができる。
上述した第1の実施形態ではボールねじのナットとして円筒状のものを例示したが、これに限定されるものではなく、例えば図4に示すように、ボールねじのナット122として角形のものを使用してもよい。
【0013】
また、上述した第1の実施形態ではボールねじ12のナット取付フランジ123とテーブル13のフランジ当接面16との間に多数の高熱伝導性粒子17を液状またはゲル状物質と共に充填したが、図5に示すように、ボールねじナット122の外周面とこれに嵌合するテーブル13のナット装着孔18との間に多数の高熱伝導性粒子17を液状またはゲル状物質と共に充填させてもよいし、あるいは図6に示すように、ボールねじ12のナット取付フランジ123とテーブル13のフランジ当接面16との間およびボールねじナット122の外周面とテーブル13のナット装着孔18との間に、多数の高熱伝導性粒子17を液状またはゲル状物質と共に充填させてもよい。
また、上述した各実施形態では本発明に係るボールねじ装置をテーブル送り装置に適用した場合を例示したが、テーブル送り装置以外のものにも本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明をテーブル送り装置に適用した場合の第1の実施形態を示す図である。
【図2】図1に示すボールねじ装置の概略構成を示す図である。
【図3】図1に示すA部を拡大して示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態におけるボールねじナットを示す図である。
【図5】本発明の第3の実施形態を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
11 ベース
12 ボールねじ
121 ねじ軸
122 ナット
123 ナット取付フランジ
124,125 ボール転動溝
126 ボール
13 テーブル
14 ブラケット部
15 軸受
16 フランジ当接面
17 高熱伝導性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、該ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のボール転動溝と対向するボール転動溝を内周面に有するナットと、該ナットのボール転動溝と前記ねじ軸のボール転動溝との間に設けられた多数のボールと、前記ナットをブラケットに固定するためのナット取付フランジとを備えたボールねじ装置において、
前記ブラケットと接触または対向する前記ナットの外表面の少なくとも一部に多数の高熱伝導粒子を液状物質またはゲル状物質と共に付着させたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記ブラケットは前記ナットに形成されたナット取付フランジのフランジ面に当接するフランジ当接面を有し、前記ナット取付フランジのフランジ面及び前記フランジ当接面は切削加工または研削加工されていることを特徴とする請求項1記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記ボールはセラミックスから形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−177921(P2007−177921A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377842(P2005−377842)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】