説明

ボールねじ装置

【課題】耳障りな高周波音の発生やボールの早期摩耗を招くことなくボールを循環させることのできるボールねじ装置を提供する。
【解決手段】ナット12の両端部に樹脂製のエンドデフレクタ18を有するボールねじ装置において、ナット12の内周面の両端部に形成されたエンドデフレクタ組付け面とエンドデフレクタ18との間に樹脂製プレート20をエンドデフレクタ18の方向変更部18aと対向するように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する機械要素として工作機械のテーブル送り機構などに用いられるボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボールねじ装置は、ねじ軸と、このねじ軸の外周面に形成された螺旋状のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を有するナットと、これらねじ軸及びナットのボール転動溝間に形成されたボール転動路をねじ軸またはナットの回転運動に伴って転動する多数のボールとを備えた構成となっており、ボールを循環させる方式としては、たとえばU字状のボール戻しチューブを用いてボールを循環させる方式(以下「チューブ循環方式」と称す)などがある。しかし、上述したチューブ循環方式はボール戻しチューブの端部に形成されたタングにボールを衝突させて循環させる方式であるため、ボールがタングに衝突した際に振動や騒音が発生し、ナットの作動性や送り精度の低下を引き起こすことがある。
【0003】
そこで、ボールを循環させる部品として、エンドデフレクタと称されるものを用いたボールねじ装置が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。この種のボールねじ装置は、図7に示すように、ねじ軸1およびナット2を備えており、ねじ軸1の外周面には、螺旋状のボール転動溝3がねじ軸1の一端部から他端部にわたって形成されている。
【0004】
ボール転動溝3はナット2の内周面に形成された螺旋状のボール転動溝4と対向しており、ボール転動溝3とボール転動溝4との間には、ボール転動溝3,4間に形成されたボール転動路5をねじ軸1またはナット2の回転運動に伴って転動する多数のボール6が設けられている。
ねじ軸1、ナット2およびボール6は鋼などの金属材料で形成されており、ナット2の内部には、ボール転動路5を転動したボール6をボール転動路5に戻すためのボール戻り路7が形成されている。このボール戻り路7はねじ軸1の軸方向に沿ってナット2の内部に形成されており、ナット2の両端部には、ボール6をボール転動路5からボール戻り路7またはボール戻り路7からボール転動路5に導入するために、一対のエンドデフレクタ8,8が組み込まれている。
【0005】
エンドデフレクタ8,8は合成樹脂材からなり、ナット2の内周面の両端部には、エンドデフレクタ8をナット2に組み付けるためのエンドデフレクタ組付け面2a(図9参照)が形成されている。また、エンドデフレクタ8,8はナット2の内径方向に突出してボール6の転がり方向を変更する方向変更部8aと、この方向変更部8aにより転がり方向が変更されたボールをボール戻り路7に案内するボール案内部8bとを有しており、方向変更部8aにより転がり方向が変更されたボール6は、ナット2のエンドデフレクタ組付け面2aとエンドデフレクタ8の方向変更部8aとの間を通過してボール戻り路7に導入されるようになっている。
【特許文献1】特開2003−61882号公報
【特許文献2】特開2003−269565号公報
【特許文献3】ドイツ特許明細書第29504812号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなボールねじ装置では、エンドデフレクタ8が合成樹脂材から形成されているため、振動レベルや騒音レベルの増大を抑えることができるが、次のような問題点を有していた。すなわち、上述したボールねじ装置では、ボール転動路5を転動したボール6がナット2のエンドデフレクタ組付け面2aと金属接触しながらボール戻り路7に導入される。このため、人間にとって耳障りな高周波音が発生したり、ボール6が早期に摩耗したりするなどの問題があった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、耳障りな高周波音の発生やボールの早期摩耗を招くことなくボールを循環させることのできるボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のうち請求項1に係るボールねじ装置は、ねじ軸と、該ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を有するナットと、前記ねじ軸および前記ナットのボール転動溝間に形成されたボール転動路を前記ねじ軸または前記ナットの回転運動に伴って転動する多数のボールと、該ボールの転がり方向を前記ナットの両端側で変更して前記ボールを前記ボール転動路から前記ナット内に形成されたボール戻り路または該ボール戻り路から前記ボール転動路に導入する一対のエンドデフレクタとを備えてなり、前記エンドデフレクタが合成樹脂材からなり、かつ前記ナットの内径方向に突出して前記ボールの転がり方向を変更する方向変更部と、該方向変更部により転がり方向が変更されたボールを前記ボール戻り路に案内するボール案内部とを有するボールねじ装置において、前記ナットの内周面に形成されたエンドデフレクタ組付け面と前記エンドデフレクタとの間に樹脂製プレートを前記方向変更部と対向するように設けたことを特徴とする。
【0008】
本発明のうち請求項2の発明は、請求項1記載のボールねじ装置において、前記方向変更部が前記ボール案内部と別体に樹脂成形されていることを特徴とする。
本発明のうち請求項3の発明は、請求項2記載のボールねじ装置において、前記樹脂製プレートを前記ボール案内部と一体に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るボールねじ装置によれば、ボール転動路を転動したボールがエンドデフレクタの方向変換部と樹脂製プレートとの間を通ってボール戻り路に導入されることになる。これにより、ボール転動路を転動したボールがナットのエンドデフレクタ組付け面と金属接触しながらボール戻り路に導入されることがないので、耳障りな高周波音の発生やボールの早期摩耗を招くことなくボールを循環させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1〜図6を参照して本発明に係るボールねじ装置について説明する。
図1において符号10は本発明の第1の実施形態に係るボールねじ装置であって、このボールねじ装置10は、ねじ軸11およびナット12を備えている。ねじ軸11は鋼などの金属材料で形成されており、このねじ軸1の外周面には、螺旋状のボール転動溝13がねじ軸11の一端部から他端部にわたって形成されている。
【0011】
ボール転動溝13はナット12の内周面に形成された螺旋状のボール転動溝14と対向しており、ボール転動溝13とボール転動溝14との間には、ボール転動溝13,14間に形成されたボール転動路15をねじ軸11またはナット12の回転運動に伴って転動する多数のボール16が設けられている。
ナット12およびボール16はねじ軸11と同様に鋼などの金属材料で形成されており、ナット12の内部には、ボール転動路15を転動したボール16をボール転動路15に戻すためのボール戻り路17が形成されている。このボール戻り路17はねじ軸11の軸方向に沿ってナット12の内部に形成されており、ナット12の両端部には、ボール16をボール転動路15からボール戻り路17またはボール戻り路17からボール転動路15に導入するために、一対のエンドデフレクタ18,18が組み込まれている。
【0012】
エンドデフレクタ18,18は合成樹脂材からなり、ナット12の内周面には、エンドデフレクタ18をナット12に組み付けるためのエンドデフレクタ組付け面12a(図3参照)が形成されている。また、エンドデフレクタ18,18はナット12の内径方向に突出してボール16の転がり方向を変更する方向変更部18a(図2参照)と、この方向変更部18aにより転がり方向が変更されたボールをボール戻り路17に案内するボール案内部18b(図3参照)とを有しており、ボール転動路15を転動したボール16は、ナット12のエンドデフレクタ組付け面12aとエンドデフレクタ18の方向変更部18aとの間を通過してボール戻り路17に導入されるようになっている。
【0013】
エンドデフレクタ組付け面12aはナット内周面の両端部に形成されており、このエンドデフレクタ組付け面12aとエンドデフレクタ18との間には、樹脂製プレート20(図2及び図3参照)がエンドデフレクタ18の方向変更部18aと対向するように設けられている。
このように、エンドデフレクタ組付け面12aとエンドデフレクタ18との間に樹脂製プレート20をエンドデフレクタ18の方向変更部18aと対向するように設けると、ボール転動路15を転動したボー16はエンドデフレクタ18の方向変換部17aと樹脂製プレート20との間を通過してボール戻り路17に導入される。したがって、前述した従来例のように、ボール転動路15を転動したボール16がナット12のエンドデフレクタ組付け面19と金属接触しながらボール戻り路17に導入されることがないので、耳障りな高周波音の発生やボールの早期摩耗を招くことなくボール16を循環させることができる。
【0014】
上述した第1の実施形態ではエンドデフレクタ18の方向変更部18aがボール案内部18bと一体に樹脂成形されたものを例示したが、これに限定されるものではない。たとえば、図4〜図6に示す第2の実施形態のように、エンドデフレクタ18の方向変更部18aがボール案内部18bと別体に樹脂成形されたものについても本発明を適用することができ、この場合、図6に示すように、樹脂製プレート20をエンドデフレクタ18のボール案内部18bと一体に形成してもよい。
【0015】
なお、第1の実施形態において樹脂製プレート20をエンドデフレクタ18と一体に樹脂成形しなかった理由は、樹脂製プレート20をエンドデフレクタ18と一体に樹脂成形すると、エンドデフレクタ18の形状が成形金型から抜けない形状となってしまうためである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るボールねじ装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すナットの両端部に組み込まれたエンドデフレクタの正面図である。
【図3】ナットの内周面に形成されたエンドデフレクタ組付け面とエンドデフレクタを示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るボールねじ装置の要部を示す斜視図である。
【図5】エンドデフレクタのボール案内部と別体に樹脂成形された方向変換部を示す図である。
【図6】エンドデフレクタのボール案内部と一体に形成された樹脂製プレートを示す図である。
【図7】従来のボールねじ装置の概略構成を示す断面図である。
【図8】図7に示すナットの両端部に組み込まれたエンドデフレクタの正面図である。
【図9】ナットの内周面に形成されたエンドデフレクタ組付け面とエンドデフレクタを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0017】
1,11 ねじ軸
2,12 ナット
2a,12a エンドデフレクタ組付け面
3,4,13,14 ボール転動溝
5,15 ボール転動路
6,16 ボール
7,17 ボール戻り路
8,18 エンドデフレクタ
8a,18a 方向変換部
8b,18b ボール案内部
20 樹脂製プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸と、該ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を有するナットと、前記ねじ軸および前記ナットのボール転動溝間に形成されたボール転動路を前記ねじ軸または前記ナットの回転運動に伴って転動する多数のボールと、該ボールの転がり方向を前記ナットの両端側で変更して前記ボールを前記ボール転動路から前記ナット内に形成されたボール戻り路または該ボール戻り路から前記ボール転動路に導入する一対のエンドデフレクタとを備えてなり、前記エンドデフレクタが合成樹脂材からなり、かつ前記ナットの内径方向に突出して前記ボールの転がり方向を変更する方向変更部と、該方向変更部により転がり方向が変更されたボールを前記ボール戻り路に案内するボール案内部とを有するボールねじ装置において、
前記ナットの内周面に形成されたエンドデフレクタ組付け面と前記エンドデフレクタとの間に樹脂製プレートを前記方向変更部と対向するように設けたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
請求項1記載のボールねじ装置において、前記方向変更部が前記ボール案内部と別体に樹脂成形されていることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項3】
請求項2記載のボールねじ装置において、前記樹脂製プレートを前記ボール案内部と一体に形成したことを特徴とするボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−177950(P2007−177950A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379063(P2005−379063)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】