説明

ボールねじ

【課題】シールの密封性を図ると共に、低コストで、シールの装着性を向上させたボールねじを提供する。
【解決手段】シール7が、ナット5の端部外周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部13aと、この嵌合部13aから径方向内方に延び、ナット5の端面5cに密着する鍔部13bと、この鍔部13bからさらに径方向内方に延びる内径部13cとを備えた芯金13、およびこの芯金13の内径部13cに加硫接着により一体に接合され、ボールねじ1の内方側に傾斜して形成されたグリースリップ14bとを一体に備えたシール部材14からなり、グリースリップ14bがねじ軸3の外周面に所定のシメシロを介して摺接されると共に、ナット5の端部内周に面取り状の環状凹所19が形成され、この環状凹所19にシール部材14のグリースリップ14bが収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のVベルト式無段変速機等のアクチュエータに使用されるボールねじに関し、詳しくは、ボールをねじ軸の内径側に沈み込ませて下流側から上流側へ戻すボール循環溝で接続された軸循環タイプのボールねじに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、外周に螺旋状のねじ溝が形成されたボールねじ軸と、円筒面内に螺旋状のねじ溝が形成されたボールねじナットと、対向する両ねじ溝で構成されたボール転動路内に転動自在に収容された多数のボールとからなり、ボールねじ軸あるいはボールねじナットの回転を軸方向の並進運動に変換する機械要素である。
【0003】
従来、ボールねじは、ねじ軸とナットとの伸縮動作に関係なく、それらの各ねじ溝内に収容される多数のボールの抜け出しを防止するために、ねじ軸のねじ溝とナットのねじ溝とで構成されるボール転動路の両端を連通連結させて閉ループとし、ボールをこの閉ループ内で無限循環させている。
【0004】
このようなボールねじには、ボールの循環機構が異なる、例えば、リターンチューブやエンドプレートあるいは駒式と呼ばれる種々の形式のものがあるが、例えば、図7に示すような無段変速機のアクチュエータ51は、シーブ軸(主軸)52の外周にスプライン53を介して軸方向に移動自在に装備されると共に、可動シーブ(図示せず)が固定されたスライダ54と、このスライダ54の外周に転がり軸受55を介して回転不可に、かつ軸方向に移動可能に連結された円筒状のねじ軸56、およびこのねじ軸56に多数のボール57を介して外嵌され、スライダ54に対する軸方向の相対移動が規制されることにより、可動シーブに対し、回転自在、かつ軸方向に移動不可に構成されたナット58からなるボールねじ59と、シーブ軸52の外周に転がり軸受60を介して回転自在に支承された歯車61とを備えている。ナット58は、そのフランジ部58bに締結された固定ボルト62を介して歯車61に固定され、この歯車61と一体に回転する。
【0005】
ボールねじ59は、内周に螺旋状のねじ溝58aが形成された円筒状のナット58と、このナット58に内挿され、外周にねじ溝58aのリード角と同一のリード角からなる複数のねじ溝56a、56bが形成されたねじ軸56と、両ねじ溝間に転動自在に収容された多数のボール57とを備え、ねじ軸56の軸方向で隣り合うねじ溝の間に存在するランド部に、ねじ溝56a、56bを個別に閉ループとするボール循環溝が設けられた軸循環タイプで構成されている。
【0006】
また、このボールねじ59は、図8に拡大して示すように、ナット58とねじ軸56との間に形成される環状空間の開口部にシール63が装着されている。このシール63はニトリルゴム等の弾性部材からなり、ナット58の一端部内周に形成された環状溝64に嵌合される基部65と、この基部65から内径側に二股状に延びるラジアルリップ66、67とからなる。そして、これらラジアルリップ66、67がねじ軸56の外周面に所定のシメシロを介して摺接されている。こうした二股状に延びるラジアルリップ66、67を有するシール63を使用することにより、ボールねじ59の内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等の異物が内部に侵入するのを効果的に防止することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−79655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
然しながら、こうした従来のボールねじ59では、シール63が、ナット58とねじ軸56との間に形成される環状空間の開口部に装着されているため、コンパクトで効果的にグリースの漏洩を防止することができるが、シール63の径方向の位置はナット58の内径で規制されているため、所望の密封性を得るには、ラジアルリップ66、67とねじ軸56の外周面とのシメシロを確保する必要がある。すなわち、シール63の形状や寸法精度だけでなく、ナット58の環状溝64やねじ軸56の外周面の精度を上げる必要がありコスト高となる。また、環状溝64自体の加工性や、シール63をこの環状溝64に装着する際の作業性が悪く、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、こうした従来の問題に鑑みてなされたもので、シールの密封性を図ると共に、低コストで、シールの装着性を向上させたボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、内周に螺旋状のねじ溝が形成された円筒状のナットと、このナットに内挿され、外周に前記ねじ溝のリード角と同一のリード角からなる複数のねじ溝が形成されたねじ軸と、前記両ねじ溝間に転動自在に収容された多数のボールとを備え、前記ねじ軸の軸方向で隣り合うねじ溝の間に存在するランド部に、当該複数のねじ溝を個別に閉ループとするボール循環溝が設けられ、このボール循環溝が、前記ねじ溝の下流のボールを内径側へ沈み込ませ、前記ナットのランド部を乗り越えさせて上流側へ戻すように略S字状に形成されると共に、前記ナットとねじ軸との間に形成される環状空間の開口部にシールが装着されたボールねじにおいて、前記シールが、前記ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入固定される断面が略L字状の芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記ボールねじの内方側に傾斜して形成されたグリースリップとを一体に備えたシール部材からなり、前記グリースリップが前記ねじ軸の外周面に所定のシメシロを介して摺接されている。
【0011】
このように、ねじ軸の軸方向で隣り合うねじ溝の間に存在するランド部に、複数のねじ溝を個別に閉ループとするボール循環溝が設けられ、このボール循環溝が、ねじ溝の下流のボールを内径側へ沈み込ませ、ナットのランド部を乗り越えさせて上流側へ戻すように略S字状に形成されると共に、ナットとねじ軸との間に形成される環状空間の開口部にシールが装着されたボールねじにおいて、シールが、ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入固定される断面が略L字状の芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、ボールねじの内方側に傾斜して形成されたグリースリップとを一体に備えたシール部材からなり、グリースリップがねじ軸の外周面に所定のシメシロを介して摺接されているので、シールの密封性を図ると共に、低コストで、シールの装着性を向上させたボールねじを提供することができる。
【0012】
好ましくは、請求項2に記載の発明のように、前記芯金が、前記ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記ナットの端面に密着する鍔部と、この鍔部からさらに径方向内方に延びる内径部とを備え、この芯金の内径部に前記シール部材が一体に接合されていれば、装着作業が容易になり、シールの位置決め固定を精度良く行うことができる。
【0013】
また、請求項3に記載の発明のように、前記芯金の嵌合部の端部内周に15〜30°の傾斜角を有する面取り部が形成されていれば、シールをナットの外周面に圧入する時の作業性を向上させることができる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明のように、前記ナットの端部内周に面取り状の環状凹所が形成され、この環状凹所に前記シール部材のグリースリップが収容されていれば、シール部材がナットの端面から突出することなく、グリースリップが損傷するのを防止することができると共に、コンパクト化を図ってナットのストローク量を長く有効に設定することができる。
【0015】
また、請求項5に記載の発明のように、前記シール部材が、前記基部から二股状に形成されたダストリップとグリースリップを一体に備えていれば、ボールねじの内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等の異物が内部に侵入するのを効果的に防止することができる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明のように、前記ダストリップとグリースリップの間の環状空間にボールねじの内部に封入されるグリースと同一のグリースが予め塗布されていれば、ボールねじの起動時のトルクを低減することができ、スムーズな作動が得られると共に、ダストリップとグリースリップの偏摩耗を抑制することができ、シールの耐久性を向上させてボールねじの信頼性を高めることができる。
【0017】
また、請求項7に記載の発明のように、前記ナットの端部外周に15〜30°の傾斜角を有する面取り部が形成されていれば、シールをナットの外周面に圧入する時の作業性を向上させることができる。
【0018】
また、請求項8に記載の発明のように、前記ナットの外周面に凹部が形成され、この凹部に前記芯金の嵌合部を外径側から塑性変形させることにより当該芯金が加締固定されていれば、運転中の振動や衝撃等で、芯金がナットの端部から脱落するのを確実に防止することができると共に、芯金の圧入シメシロを軽減することができ、シール装着の際の作業性を向上させることができる。
【0019】
また、請求項9に記載の発明のように、前記芯金が鋼鈑からプレス加工にて形成され、その表面に軟窒化処理が施されていれば、機械的強度を向上させることができ、芯金がナットのストローク端でねじ軸に接触しても、変形や損傷するのを防止することができる。
【0020】
また、請求項10に記載の発明のように、前記ねじ軸のねじ溝が、2条または3条の限られた閉塞螺旋溝で構成されていれば、ボールねじのコンパクト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るボールねじは、内周に螺旋状のねじ溝が形成された円筒状のナットと、このナットに内挿され、外周に前記ねじ溝のリード角と同一のリード角からなる複数のねじ溝が形成されたねじ軸と、前記両ねじ溝間に転動自在に収容された多数のボールとを備え、前記ねじ軸の軸方向で隣り合うねじ溝の間に存在するランド部に、当該複数のねじ溝を個別に閉ループとするボール循環溝が設けられ、このボール循環溝が、前記ねじ溝の下流のボールを内径側へ沈み込ませ、前記ナットのランド部を乗り越えさせて上流側へ戻すように略S字状に形成されると共に、前記ナットとねじ軸との間に形成される環状空間の開口部にシールが装着されたボールねじにおいて、前記シールが、前記ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入固定される断面が略L字状の芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記ボールねじの内方側に傾斜して形成されたグリースリップとを一体に備えたシール部材からなり、前記グリースリップが前記ねじ軸の外周面に所定のシメシロを介して摺接されているので、シールの密封性を図ると共に、低コストで、シールの装着性を向上させたボールねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るボールねじの第1の実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1のシール部を示す要部拡大図である。
【図3】図1のボールねじを示す概念図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿って断面した横断面図である。
【図5】本発明に係るボールねじの第2の実施形態を示す要部断面図である。
【図6】図5のシール部を示す要部拡大図である。
【図7】従来のボールねじが適用された無段変速機のアクチュエータを示す要部断面図である。
【図8】図7の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
内周に螺旋状のねじ溝が形成された円筒状のナットと、このナットに内挿され、外周に前記ねじ溝のリード角と同一のリード角からなる複数のねじ溝が形成されたねじ軸と、前記両ねじ溝間に転動自在に収容された多数のボールとを備え、前記ねじ軸の軸方向で隣り合うねじ溝の間に存在するランド部に、当該複数のねじ溝を個別に閉ループとするボール循環溝が設けられ、このボール循環溝が、前記ねじ溝の下流のボールを内径側へ沈み込ませ、前記ナットのランド部を乗り越えさせて上流側へ戻すように略S字状に形成されると共に、前記ナットとねじ軸との間に形成される環状空間の開口部にシールが装着されたボールねじにおいて、前記シールが、前記ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記ナットの端面に密着する鍔部と、この鍔部からさらに径方向内方に延びる内径部とを備えた芯金、およびこの芯金の内径部に加硫接着により一体に接合され、前記ボールねじの内方側に傾斜して形成されたグリースリップとを一体に備えたシール部材からなり、前記グリースリップが前記ねじ軸の外周面に所定のシメシロを介して摺接されると共に、前記ナットの端部内周に面取り状の環状凹所が形成され、この環状凹所に前記シール部材のグリースリップが収容されている。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るボールねじの第1の実施形態を示す要部断面図、図2は、図1のシール部を示す要部拡大図、図3は、図1のボールねじを示す概念図、図4は、図3のIV−IV線に沿って断面した横断面図である。
【0025】
図1に示すボールねじ1は、無段変速機のアクチュエータに適用され、図示しない可動シーブが固定されたスライダの外周に、深溝玉軸受からなる転がり軸受2を介して回転不可に、かつ軸方向に移動可能に連結された円筒状のねじ軸3、およびこのねじ軸3に多数のボール4を介して外嵌され、スライダに対する軸方向の相対移動が規制されることにより、可動シーブに対し、回転自在、かつ軸方向に移動不可に構成されたナット5からなる。
【0026】
このボールねじ1は、図3および図4に示すように、ねじ軸3のねじ溝3a、3bが、2条または3条(ここでは2条)の限られた閉塞螺旋溝からなる軸循環タイプで構成され、円筒状のナット5と、このナット5に内挿されたねじ軸3と、このねじ軸3とナット5間に収容された多数のボール4と、これらのボール4を周方向等配に保持する保持器リング6と、後述するシール7とを備えている。保持器リング6は、ねじ軸3に対して軸方向にほぼ不動に位置決めされた状態で、かつ相対回転可能な状態で取り付けられている。
【0027】
ナット5はSCM415やSCM420等の肌焼き鋼からなり、その内周に螺旋状のねじ溝5aが形成されている。一方、ねじ軸3はS55C等の中炭素鋼やSCM415等の肌焼き鋼からなり、外周に軸方向途中領域に連続していない複数(ここでは2巻き)のねじ溝3a、3bが形成された円筒部15と、この円筒部15から屈曲部16を介して円筒状の大径部17とからなる。この大径部17に転がり軸受2が内嵌されている(図1参照)。これらナット5のねじ溝5aとねじ軸3のねじ溝3a、3bとは、互いに同じリード角θに設定されている。なお、ねじ溝5a、3a、3bは、断面がボール4の半径よりも僅かに大きい曲率半径からなる2つの円弧を組み合わせた、所謂ゴシックアーク形状に形成されている。無論、ねじ溝5a、3a、3bは、このゴシックアーク形状以外にも、ボール4の半径よりも僅かに大きい曲率半径からなり、ボール4とアンギュラコンタクトするサーキュラアーク形状であっても良い。
【0028】
そして、複数のねじ溝3a、3bが閉ループとされ、ねじ溝3a、3b内にそれぞれ収容されるボール4が独立して無限循環するように構成されている。すなわち、図3に示すように、ねじ軸3の軸方向で隣り合うねじ溝3a、3bの間に存在するランド部8に、複数のねじ溝3a、3bを個別に閉ループとするボール循環溝9、10が設けられている。
【0029】
このボール循環溝9、10は、ねじ溝3a、3bの上流側と下流側とを個別に連通連結するものであり、ねじ溝3a、3bの下流のボール4を内径側へ沈み込ませ、ナット5のランド部11を乗り越えさせて上流側へ戻すように蛇行した略S字状に形成されている。したがって、ボール循環溝9、10の深さは、ボール4がボール循環溝9、10内でナット5におけるねじ溝5aのランド部11を乗り越えることができる深さとされている(図4参照)。
【0030】
ここで、ボールねじ1は、図2に拡大して示すように、ナット5とねじ軸3との間に形成される環状空間の開口部にシール7が装着されている。このシール7は、ナット5の端部外周に所定のシメシロを介して圧入された芯金13と、この芯金13に接合されたシール部材14とからなる一体型のシールで構成されている。
【0031】
芯金13は、冷間圧延鋼鈑(JIS規格のSPCC系等)等の鋼鈑からプレス加工にて断面が略L字状で、全体として円環状に形成されている。そして、ナット5の端部外周に形成された段差部5bに所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部13aと、この嵌合部13aから径方向内方に延び、ナット5の端面5cに密着する鍔部13bと、この鍔部13bからさらに径方向内方に延びる内径部13cとを備えている。これにより、装着作業が容易になり、シール7の位置決め固定を精度良く行うことができる。
【0032】
一方、シール部材14はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金13に一体に接合されている。このシール部材14は、芯金13の内径部13cに接合された基部14aと、この基部14aからボールねじ1の内方側に傾斜して形成されたグリースリップ14aを一体に備えている。このグリースリップ14aは、ねじ軸3の円筒部15の外周面に所定のシメシロを介して摺接し、ボールねじ1の内部に封入されたグリースの外部への漏洩を防止することができる。なお、シール部材14の材質として、NBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0033】
ここで、本実施形態では、芯金13は、機械的強度を向上させるために、570〜580℃×35分でその表面に軟窒化処理が施されている。これにより、芯金13がナット5のストローク端でねじ軸3の屈曲部16に接触しても、変形や損傷するのを防止することができる。
【0034】
また、芯金13の嵌合部13aの端部内周には、ナット5の段差部5bに圧入する時の作業性を向上させるため、15〜30°の傾斜角を有する面取り部12が形成されている。さらに、ナット5の段差部5bには環状溝(凹部)18が形成され、芯金13をナット5に圧入後、この環状溝18に対応する芯金13の嵌合部13aを外径側からポンチ等の加締治具で塑性変形させることにより、芯金13が加締固定されている。これにより、運転中の振動や衝撃等で、芯金13がナット5の端部から脱落するのを確実に防止することができると共に、芯金13の圧入シメシロを軽減することができ、シール7装着の際の作業性を向上させることができる。
【0035】
一方、ナット5の端部外周には、15〜30°の傾斜角を有する面取り部5dが形成されている。これにより、芯金13の嵌合部13aの面取り部12と相俟って、芯金13をナット5の段差部5bに圧入する時の作業性を一層向上させることができる。また、本実施形態では、ナット5の端部内周に、略40〜50°の傾斜角を有する面取り状の環状凹所19が形成され、この環状凹所19に前述したシール部材14が収容されている。これにより、シール部材14がナット5の端面5cから突出してストローク端でねじ軸3の屈曲部16に当接し、グリースリップ14aが損傷するのを防止することができると共に、コンパクト化を図ってナット5のストローク量を長く有効に設定することができる。
【実施例2】
【0036】
図5は、本発明に係るボールねじの第2の実施形態を示す要部断面図、図6は、図5のシール部を示す要部拡大図である。なお、この第2の実施形態は、前述した実施形態と基本的にはシールの構成が異なるだけで、その他前述した実施形態と同一部品部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符合を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
このボールねじ1は、ナット5とねじ軸3との間に形成される環状空間の開口部にシール20が装着されている。このシール20は、図6に拡大して示すように、ナット5の端部外周に所定のシメシロを介して圧入された芯金13と、この芯金13に接合されたシール部材21とからなる一体型のシールで構成されている。
【0038】
シール部材21はNBR等の合成ゴムからなり、加硫接着によって芯金13に一体に接合されている。このシール部材21は、芯金13の内径部13cに接合された基部14aと、この基部14aから二股状に形成されたダストリップ21a、グリースリップ21bとを一体に備えている。これらダストリップ21aとグリースリップ21bは、ねじ軸3の円筒部15の外周面に所定のシメシロを介して摺接し、ボールねじ1の内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等の異物が内部に侵入するのを効果的に防止することができ、ボールねじ1の耐久性を向上させることができる。
【0039】
ナット5の端部内周には、略40〜50°の傾斜角を有する面取り状の環状凹所19が形成され、この環状凹所19にシール部材21のグリースリップ21bが収容されている。これにより、密封性を一層向上させると共に、前述した実施形態と同様、コンパクト化を図ってナット5のストローク量を長く有効に設定することができる。
【0040】
ここで、本実施形態では、ダストリップ21aとグリースリップ21bの間の環状空間にボールねじ1の内部に封入されるグリースと同一のグリースが予め塗布されている。これにより、ボールねじ1の起動時のトルクを低減することができ、スムーズな作動が得られると共に、ダストリップ21aとグリースリップ21bの偏摩耗を抑制することができ、シール20の耐久性を向上させてボールねじ1の信頼性を高めることができる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るボールねじは、自動車の無段変速機等のアクチュエータに用いられるボールねじに適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 ボールねじ
2 転がり軸受
3 ねじ軸
3a、3b、5a ねじ溝
4 ボール
5 ナット
5b 段差部
5c ナットの端面
5d ナットの面取り部
6 保持器リング
7、20 シール
8 ナットのランド部
9、10 ボール循環溝
11 ねじ軸のランド部
12 芯金の面取り部
13 芯金
13a 嵌合部
13b 鍔部
13c 内径部
14、21 シール部材
14a シール部材の基部
14b、21b グリースリップ
15 ねじ軸の円筒部
16 ねじ軸の屈曲部
17 ねじ軸の大径部
18 環状溝
19 環状凹所
21a ダストリップ
51 無段変速機のアクチュエータ
52 シーブ軸
53 スプライン
54 スライダ
55、60 転がり軸受
56 ねじ軸
56a、56b、58a ねじ溝
57 ボール
58 ナット
58b フランジ部
59 ボールねじ
61 歯車
62 固定ボルト
63 シール
64 環状溝
65 基部
66、67 ラジアルリップ
θ リード角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に螺旋状のねじ溝が形成された円筒状のナットと、
このナットに内挿され、外周に前記ねじ溝のリード角と同一のリード角からなる複数のねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記両ねじ溝間に転動自在に収容された多数のボールとを備え、
前記ねじ軸の軸方向で隣り合うねじ溝の間に存在するランド部に、当該複数のねじ溝を個別に閉ループとするボール循環溝が設けられ、このボール循環溝が、前記ねじ溝の下流のボールを内径側へ沈み込ませ、前記ナットのランド部を乗り越えさせて上流側へ戻すように略S字状に形成されると共に、
前記ナットとねじ軸との間に形成される環状空間の開口部にシールが装着されたボールねじにおいて、
前記シールが、前記ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入固定される断面が略L字状の芯金と、この芯金に加硫接着により一体に接合され、前記ボールねじの内方側に傾斜して形成されたグリースリップとを一体に備えたシール部材からなり、前記グリースリップが前記ねじ軸の外周面に所定のシメシロを介して摺接されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記芯金が、前記ナットの端部外周に所定のシメシロを介して圧入される円筒状の嵌合部と、この嵌合部から径方向内方に延び、前記ナットの端面に密着する鍔部と、この鍔部からさらに径方向内方に延びる内径部とを備え、この芯金の内径部に前記シール部材が一体に接合されている請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記芯金の嵌合部の端部内周に15〜30°の傾斜角を有する面取り部が形成されている請求項1または2に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記ナットの端部内周に面取り状の環状凹所が形成され、この環状凹所に前記シール部材のグリースリップが収容されている請求項1に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記シール部材が、前記基部から二股状に形成されたダストリップとグリースリップを一体に備えている請求項1に記載のボールねじ。
【請求項6】
前記ダストリップとグリースリップの間の環状空間にボールねじの内部に封入されるグリースと同一のグリースが予め塗布されている請求項5に記載のボールねじ。
【請求項7】
前記ナットの端部外周に15〜30°の傾斜角を有する面取り部が形成されている請求項1または2に記載のボールねじ。
【請求項8】
前記ナットの外周面に凹部が形成され、この凹部に前記芯金の嵌合部を外径側から塑性変形させることにより当該芯金が加締固定されている請求項1乃至4いずれかに記載のボールねじ。
【請求項9】
前記芯金が鋼鈑からプレス加工にて形成され、その表面に軟窒化処理が施されている請求項1乃至3いずれかに記載のボールねじ。
【請求項10】
前記ねじ軸のねじ溝が、2条または3条の限られた閉塞螺旋溝で構成されている請求項1に記載のボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−202708(P2011−202708A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69202(P2010−69202)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】