説明

ボールジョイント及びそのベアリングシート

【課題】潤滑性を向上したボールジョイントのボールシートを提供する。
【解決手段】シート本体31にボール部を回動可能に保持する摺動面34を設ける。摺動面34に複数の凹ディンプル51aにより第1ディンプル列52を構成するとともに、複数の凹ディンプル51bにより第2ディンプル列53を構成する。各凹ディンプル51a,51bに収容したグリースが、通路部55により互いに往来して入れ替わることにより、ボール部の外周面の各部にグリースが行き渡り、ボールシート4の潤滑性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールスタッドのボール部を回動可能に保持する摺動面にそれぞれ設けられ、潤滑剤を収容する複数の収容凹部を備えたボールジョイント及びそのベアリングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるボールジョイントは、略球状のボール部を備えたボールスタッドを、ソケット内に収容されたベアリングシートとしての合成樹脂製のボールシート内に回動可能に保持して構成されている。このようなボールシートは、ボール部の外周面に沿った略球面状の摺動面を有し、この摺動面には、収容凹部としての球面凹状の複数のディンプルが周方向などに互いに離間されてそれぞれ設けられている。そして、これらディンプルには、ボール部の外周面との間に潤滑剤としてのグリースが保持されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開昭59−7914号公報(第1頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、ボールシートの摺動面とボール部の外周面との間には殆ど隙間がないため、上述のようなボールジョイントのベアリングシートでは、各ディンプルのそれぞれに収容されたグリースがディンプル間で殆ど往来せず、ボール部の外周面全体にグリースが充分に行き渡ることが容易でないので、潤滑性を向上することが容易でないという問題点を有している。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、潤滑性を向上したボールジョイント及びそのベアリングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートは、開口部を備えたソケット内に収容されるシート本体と、このシート本体内に設けられボールスタッドの略球状のボール部を回動可能に保持する球面状の摺動面と、前記シート本体の一端に開口され、前記開口部に連通する開口と、前記ボール部の外周面に対向して前記摺動面にそれぞれ設けられ、潤滑剤を収容する複数の収容凹部と、少なくともこれら収容凹部を連結してこれら収容凹部間で潤滑剤を往来可能にする通路部とを具備したものである。
【0006】
そして、潤滑剤を収容する複数の収容凹部間を通路部により連結して、収容凹部に収容された潤滑剤を、通路部を介して収容凹部間で往来可能とすることで、潤滑性が向上される。
【0007】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、通路部の一部は、前記収容凹部と開口側とを連結しているものである。
【0008】
そして、通路部の一部が収容凹部と開口側とを連結することにより、収容凹部に収容され汚れた潤滑剤などを通路部の一部を介して開口から外部へと排除可能となり、潤滑性が確保される。
【0009】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、摺動面にて収容凹部よりも開口側に設けられ、ボールスタッドの略球状のボール部の外周面との間に凹部を形成する段差部を具備し、通路部の一部は、前記段差部と前記収容凹部とをそれぞれ連結しているものである。
【0010】
そして、摺動面にて収容凹部よりも開口側に設けた段差部と収容凹部との間を通路の一部で連結することにより、収容凹部に収容され汚れた潤滑剤などを、段差部とボール部の外周面との間に形成された凹部を通じて、開口から外部へと、より確実に排除可能となり、潤滑性が確保される。
【0011】
請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、収容凹部は、摺動面の周方向に沿う第1の収容凹部列と、この第1の収容凹部列よりも他端側の位置にて前記摺動面の周方向に沿う第2の収容凹部列とをなし、前記第2の収容凹部列の各収容凹部は、前記第1の収容凹部列の周方向に互いに隣接する収容凹部の周方向間にそれぞれ位置し、通路部の一部は、前記第1の収容凹部列の各収容凹部と、前記第1の収容凹部列の周方向に互いに隣接する収容凹部の周方向間に位置する前記第2の収容凹部列の収容凹部との間をそれぞれ連結しているものである。
【0012】
そして、第1の収容凹部列の各収容凹部と、第1の収容凹部列の周方向に互いに隣接する収容凹部の周方向間に位置する第2の収容凹部列の収容凹部との間を通路部の一部で連結することで、各収容凹部に収容された潤滑剤が通路部の一部を介してボール部の各部に外周面に行き渡り、潤滑性がより向上される。
【0013】
請求項5記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、通路部の一部は、第1の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間、及び、第2の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間を、それぞれ連結しているものである。
【0014】
そして、第1の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間、及び、第2の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間を、それぞれ通路部の一部で連結することで、各収容凹部に収容された潤滑剤が、ボール部の外周面の各部へとより確実に行き渡るので、潤滑性がより向上される。
【0015】
請求項6記載のボールジョイントのベアリングシートは、請求項4または5記載のボールジョイントのベアリングシートにおいて、シート本体の他端に開口された底部開口を具備し、通路部の一部は、第2の収容凹部列の各収容凹部と前記底部開口とをそれぞれ連結しているものである。
【0016】
そして、第2の収容凹部列の各収容凹部とシート本体の他端に開口された底部開口とを通路部の一部でそれぞれ連結することで、潤滑剤がボール部の外周面の各部へとより行き渡るので、潤滑性が向上される。
【0017】
請求項7記載のボールジョイントは、開口部を有するソケットと、このソケットの内部に収容された請求項1ないし6いずれか一記載のベアリングシートと、このベアリングシートに回動可能に保持された略球状のボール部を有するボールスタッドとを具備したものである。
【0018】
そして、潤滑性を向上したベアリングシートを備えることにより、ボール部が円滑に回動し、安定した特性が得られる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、摺動面に設けられ潤滑剤を収容する複数の収容凹部間を通路部により連結することで、収容凹部に収容された潤滑剤が、通路部を介して収容凹部間で往来するので、潤滑性を向上できる。
【0020】
請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項1記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、通路部の一部が収容凹部と開口側とを連結することにより、収容凹部に収容され汚れた潤滑剤などを通路部の一部を介して開口から外部へと排除可能となり、潤滑性を確保できる。
【0021】
請求項3記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項2記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、摺動面にて収容凹部よりも開口側に設けた段差部と収容凹部との間を通路の一部で連結することにより、収容凹部に収容され汚れた潤滑剤などを、段差部とボール部の外周面との間に形成された凹部を通じて、開口から外部へと、より確実に排除可能となり、潤滑性を確保できる。
【0022】
請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、第1の収容凹部列の各収容凹部と、第1の収容凹部列の周方向に互いに隣接する収容凹部の周方向間に位置する第2の収容凹部列の収容凹部との間を通路部の一部で連結することで、各収容凹部に収容された潤滑剤が通路部の一部を介してボール部の各部に外周面に行き渡り、潤滑性をより向上できる。
【0023】
請求項5記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項4記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、第1の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間、及び、第2の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間を、それぞれ通路部の一部で連結することで、各収容凹部に収容された潤滑剤が、ボール部の外周面の各部へとより確実に行き渡るので、潤滑性をより向上できる。
【0024】
請求項6記載のボールジョイントのベアリングシートによれば、請求項4または5記載のボールジョイントのベアリングシートの効果に加えて、第2の収容凹部列の各収容凹部とシート本体の他端に開口された底部開口とを通路部の一部でそれぞれ連結することで、潤滑剤がボール部の外周面の各部へとより行き渡るので、潤滑性を向上できる。
【0025】
請求項7記載のボールジョイントによれば、ボール部が円滑に回動し、安定した特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の第1の実施の形態のボールジョイントの構成を図1ないし図3を参照して説明する。
【0027】
図3において、1はボールジョイントで、このボールジョイント1は、例えば、自動車の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるものである。そして、このボールジョイント1は、鋼鉄製などのボールスタッド2、金属製などのソケット3、ベアリングシートとしての合成樹脂製などの略円筒状のボールシート4、及び、ゴムあるいは軟質合成樹脂などにて略円筒状に形成された図示しないダストカバーなどを備えている。
【0028】
ボールスタッド2は、ボールシート4に回動可能に保持されたボール部15と、このボール部15に突設されたスタッド部16とを有している。
【0029】
ボール部15は、ボールシート4に回動可能に保持された状態でソケット3内に収容されている。また、スタッド部16は、ソケット3から軸状に突出している。
【0030】
さらに、ソケット3は、ボールシート4が嵌着される内室21を内部に備え、軸方向の一端部に内室21に連通する開口部22が開口形成され、この一端側の外周面にダストカバーが取り付けられるダストカバー取付溝23が凹状に形成され、かつ、軸方向の他端側に、略円板状のプラグ24により閉塞される底部開口部25が開口形成されている。
【0031】
内室21は、開口部22側が縮径されており、この内室21内に嵌着されたボールシート4の軸方向の一端側がこの縮径形状に沿って縮径されボールスタッド2のボール部15に沿って湾曲するようになっている。
【0032】
また、開口部22は、ボールスタッド2のスタッド部16が挿通される部分であり、内室21と反対側に向けて拡径するように形成されている。
【0033】
さらに、ダストカバー取付溝23は、ソケット3の外周面に円環状に設けられ、ダストカバーの一端部が、金属製の図示しないクリップなどにより締め付けされて嵌合される部分である。
【0034】
そして、プラグ24は、円板状のプラグ本体27と、このプラグ本体27の中央部に凹状に形成された凹状部28とを有している。なお、このプラグ24は、平板円形状でもよい。
【0035】
プラグ本体27は、ソケット3の内室21の底部開口部25側に設けられた段部29に周縁部が嵌合され、この嵌合状態でソケット3の軸方向の他端側すなわち底部開口部25側の外周面が中心軸方向にかしめ変形されることでプラグ24がソケット3に固定されて、ボールシート4が内室21に保持されるとともに、ソケット3及びボールシート4に対してボールスタッド2が抜け止めされる。
【0036】
また、凹状部28は、内室21側の面がソケット3の底面となるものであり、プラグ24をソケット3に取り付けた状態で内室21と反対側に突出している。
【0037】
そして、ボールシート4は、図1及び図2に示すように、例えば可撓性を有するポリアセタールなどの合成樹脂により形成された略円筒状のシート本体31を備え、このシート本体31は、略円筒状の胴体部32と、この胴体部32に突設された縮径部33とを備え、かつ、シート本体31内には、ボール部15を回動自在に保持する摺動面34が設けられている。
【0038】
胴体部32は、図3に示すように、ソケット3の内室21にボールシート4が収容された状態で外周面がソケット3の内室21の内周面に接触するとともに、内室21にボールシート4が保持された状態でボールスタッド2のボール部15の外周面に沿って変形する部分であり、軸方向の一端に開口35が形成されている。
【0039】
この開口35は、ソケット3の内室21にボールシート4が収容された状態で開口部22に連続し、ボール部15がボールシート4に保持されたボールスタッド2のスタッド部16が挿通されて外部に突出する部分である。
【0040】
縮径部33は、図1に示すように、胴体部32の内部からこの胴体部32の軸方向他端側へと球面状に突出し、図3に示すように、ボールシート4がソケット3の内室21に保持された状態で胴体部32と反対側の端部がプラグ24に対向し、プラグ24と胴体部32の他端部との間に空間部41が区画されている。また、縮径部33の胴体部32と反対側の端部には、底部開口42が段差状に開口形成されている。なお、この縮径部33は、ボールシート4がソケット3の内室21に保持された状態でプラグ24に接触するように形成されていてもよい。
【0041】
空間部41は、縮径部33の外周面全体に連続した円環状の空間であり、縮径部33の軸方向への可撓変形を吸収可能となっている。
【0042】
底部開口42は、ボールシート4がソケット3の内室21に収容された状態で縮径部33がプラグ24に対向することで、このプラグ24との間に潤滑剤としての図示しないグリースが収容される潤滑剤溜まり部としてのグリース溜まり部44を区画する部分である。
【0043】
摺動面34は、図1に示すように、開口35に連続して胴体部32の内部に位置しこの胴体部32の変形によりボール部15の外周面に摺接する摺接面部45と、この摺接面部45に連続して縮径部33の内部に位置しボール部15の外周面に沿って球面状に縮径された球面部46とを備え、これら摺接面部45と球面部46との連続部に、段差部47が形成されている。
【0044】
摺接面部45は、円筒内周面状に形成されている。
【0045】
球面部46は、摺接面部45と反対側の端部が底部開口42に連続している。また、この球面部46には、図1及び図2に示すように、グリースを収容する収容凹部としての複数の凹ディンプル51aにより、ボール部15の赤道に平行なボール部15の緯線に沿って第1の収容凹部列としての第1ディンプル列52が摺接面部45側の端部に位置して形成されているとともに、グリースを収容する収容凹部としての複数の凹ディンプル51bにより、ボール部15の緯線に沿って第2の収容凹部列としての第2ディンプル列53が第1ディンプル列52よりも他端側すなわち底部開口42側に位置して形成されている。
【0046】
なお、ボール部15の赤道とは、ボールスタッド2の中心軸に直交する平面上でのボール部15の半径が最大となる位置をいう。
【0047】
凹ディンプル51aは、正面視円形状であり、球面状に窪んで形成され、第1ディンプル列52に沿って互いに周方向に離間されている。
【0048】
凹ディンプル51bは、凹ディンプル51aと略同様の大きさの正面視円形状であり、球面状に窪んで形成され、かつ、第2ディンプル列53に沿って互いに周方向に離間されている。
【0049】
さらに、本実施の形態では、例えば凹ディンプル51aが3つと凹ディンプル51bが2つとでそれぞれ複数、例えば4つのグループG1,G2,G3,G4をなし、これらグループG1,G2,G3,G4が球面部46に、周方向に離間されて略均等に配設され、グループ全体でボールシート4の中心軸に対して回転対称となっている。また、これらグループG1,G2,G3,G4の各凹ディンプル51bは、同じグループの互いに隣接する凹ディンプル51a,51aの周方向間にそれぞれ位置している。
【0050】
そして、各グループG1,G2,G3,G4の凹ディンプル51aと、各グループG1,G2,G3,G4内で互いに隣接する凹ディンプル51a,51a間に位置した凹ディンプル51bとの間には、これら凹ディンプル51a,51bを直線状に連結する凹溝状の通路部55がそれぞれ形成されている。すなわち、これら通路部55は、各凹ディンプル51aの中心を通る球面部46の経線に対して傾斜状に形成されている。また、これら通路部55は、各凹ディンプル51a,51bに収容されたグリースがこれら凹ディンプル51a,51b間で往来可能となっている。
【0051】
さらに、各グループG1,G2,G3,G4の凹ディンプル51aには、段差部47との間に、凹溝直線状の通路部56がそれぞれ形成されている。この結果、各グループG1,G2,G3,G4は、平面視で略W字状となっている。
【0052】
そして、段差部47は、図3に示すように、胴体部32がボール部15の外周面に沿って変形した状態で、ボール部15の赤道の位置に対応して位置した緩衝部となってトルクを緩和するとともに、ボール部15の外周面の赤道近傍との間に、グリースを収容する円環状の外周潤滑剤溜まり部としての凹部である外周グリース溜まり部57を形成するものである。したがって、各凹ディンプル51aは、通路部56により外周グリース溜まり部57に連結され、この外周グリース溜まり部57との間で通路部56を介してグリースが往来可能となっている。
【0053】
次に、上記第1の実施の形態の動作を説明する。
【0054】
ボールジョイント1を組み立てる際には、ボールシート4をソケット3の内室21に収容し、ボールスタッド2のボール部15をグリースとともにボールシート4内に挿入することで、ボール部15の外周面に沿ってボールシート4の胴体部32が変形して摺動面34がボール部15を回動可能に保持し、この状態でプラグ24を段部29に当接させてソケット3の底部開口部25側の外周部を中心軸側にかしめ変形することで、ボールスタッド2及びボールシート4が抜け止めされ、ボールジョイント1が完成される。
【0055】
なお、ボールスタッド2とボールシート4とをソケット3に装着する際には、ボール部15に潤滑剤を塗布した後、ボールシート4を被せ、これらをソケット3の内室21に収容するようにしてもよい。
【0056】
そして、ボールスタッド2のスタッド部16に荷重が加わると、ボール部15がボールシート4内で回動する。
【0057】
このとき、各凹ディンプル51a,51b、グリース溜まり部44及び外周グリース溜まり部57に収容されたグリースにより、ボール部15の摺動性が確保される。
【0058】
そして、摺動面34の球面部46全体に略均等に配設された各グループG1,G2,G3,G4の各凹ディンプル51a,51bに収容されたグリースが、通路部55により互いに往来して入れ替えられることにより、ボール部15の外周面の各部にグリースが行き渡り、ボールシート4の潤滑性を向上できる。
【0059】
また、各凹ディンプル51aに収容されたグリースは、通路部56により円環状の外周グリース溜まり部57と往来するため、この外周グリース溜まり部57を介して、各グループG1,G2,G3,G4間でもグリースが往来して入れ替えられるので、潤滑性をより向上できる。
【0060】
さらに、各通路部55,56を摺動面34の球面部46に凹溝状に設けることにより、各通路部55,56自体もグリースの収容凹部となることでボール部15の外周面との間で潤滑性を確保でき、ボールシート4の潤滑性をより向上できる。
【0061】
また、各グループG1,G2,G3,G4の凹ディンプル51a,51b間を通路部55で連結するとともに、各グループG1,G2,G3,G4の凹ディンプル51aと、摺動面34にて凹ディンプル51aよりも開口35側に設けられ外周グリース溜まり部57を形成する段差部47との間を通路部56で連結することにより、各凹ディンプル51a,51bに収容されたグリースが汚れた場合でも、この汚れたグリースを開口35側からボールシート4の外部へと排除でき、ダストカバーとの間に封入され汚れていないグリースなどとの入れ替えが適宜行なわれてグリースによる潤滑性を確保できるとともに、かつ、摺動面に凹溝部などを必要以上に多数設ける場合と比較して、ボールシート4の強度の低下を防止でき、かつ、ボールシート4の構造が比較的簡単となり、製造コストを抑制できる。
【0062】
しかも、グループG1,G2,G3,G4全体で凹ディンプル51a及び凹ディンプル51bがボールシート4の回転軸に対して回転対称となるように凹ディンプル51aと凹ディンプル51bとを配設することで、各凹ディンプルを任意に設ける場合と比較して、ボールシート4の構造を簡単にすることができ、製造コストをより抑制できる。
【0063】
さらに、通路部55を、凹ディンプル51aの中心を通る球面部46の経線に対して傾斜状とすることで、ボールスタッド2が揺動した場合でも、ボール部15が周方向に回動した場合でも、凹ディンプル51a,51bに収容されたグリースが通路部55を介して往来できるので、ボールスタッド2の様々な動作に対して潤滑性を確保できる。
【0064】
そして、ボールシート4の潤滑性を向上できることにより、安定したボールジョイント特性を得ることができる。
【0065】
次に、第2の実施の形態を図4及び図5を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用効果については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0066】
本実施の形態は、上記第1の実施の形態において、各グループG1,G2,G3,G4の周方向に互いに隣接する凹ディンプル51a同士を連結する通路部61と、各グループG1,G2,G3,G4の周方向に互いに隣接する凹ディンプル51b同士を連結する通路部62とを設けたものである。
【0067】
通路部61は、第1ディンプル列52に沿って凹溝状に設けられ、各凹ディンプル51aに収容されたグリースが互いに隣接する凹ディンプル51a,51a間で往来可能となっている。同様に、通路部62は、第2ディンプル列53に沿って凹溝状に設けられ、各凹ディンプル51bに収容されたグリースが互いに隣接する凹ディンプル51b,51b間で往来可能となっている。
【0068】
この結果、各グループG1,G2,G3,G4において、通路部55により凹ディンプル51aと凹ディンプル51bとの間でグリースが往来して入れ替えられたり、通路部56と外周グリース溜まり部57とにより各グループG1,G2,G3,G4間でグリースが往来して入れ替えられたりするだけでなく、通路部61,62により各グループG1,G2,G3,G4での凹ディンプル51a,51a間、及び、凹ディンプル51b,51b間でも直接グリースが往来して入れ替えられるので、ボール部15の外周面の各部へとグリースがより確実に行き渡り、潤滑性をより向上できる。
【0069】
次に、第3の実施の形態を図6及び図7を参照して説明する。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成及び作用効果については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0070】
本実施の形態は、上記第1の実施の形態において、各凹ディンプル51bと底部開口42とを連結する通路部63を設けたものである。
【0071】
すなわち、通路部63は、第2ディンプル列53と交差する方向に沿って凹溝状に設けられ、各凹ディンプル51bとグリース溜まり部44との間でグリースが往来可能となっている。
【0072】
そして、通路部63により、各グループG1,G2,G3,G4の各凹ディンプル51bとグリース溜まり部44との間でグリースが往来するため、外周グリース溜まり部57だけでなく、グリース溜まり部44を介しても、各グループG1,G2,G3,G4間でグリースが往来して入れ替えられるので、ボール部15の外周面の各部へとグリースがより確実に行き渡り、潤滑性をより向上できる。
【0073】
次に、第4の実施の形態を図8及び図9を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用効果については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0074】
本実施の形態は、上記第2の実施の形態と上記第3の実施の形態とを組み合わせたものである。
【0075】
すなわち、各グループG1,G2,G3,G4の互いに隣接する凹ディンプル51a,51a間を通路部61でそれぞれ連結し、各グループG1,G2,G3,G4の互いに隣接する凹ディンプル51b,51b間を通路部62でそれぞれ連結するとともに、各凹ディンプル51bと底部開口42とを通路部63で連結したものである。
【0076】
この結果、通路部61,62により各グループG1,G2,G3,G4での凹ディンプル51a,51a間、及び、凹ディンプル51b,51b間でも直接グリースが往来して入れ替えられるとともに、通路部63により、各グループG1,G2,G3,G4の各凹ディンプル51bとグリース溜まり部44との間でグリースが往来して入れ替えられるため、ボール部15の外周面の各部へとグリースがより確実に行き渡り、潤滑性をより向上できる。
【0077】
次に、第5の実施の形態を図10及び図11を参照して説明する。なお、上記各実施の形態と同様の構成及び作用効果については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0078】
本実施の形態は、上記第4の実施の形態において、各グループG1,G2,G3,G4間の凹ディンプル51a,51a間、及び、凹ディンプル51b,51b間を、それぞれ通路部65,66にて連結したものである。
【0079】
通路部65は、第1ディンプル列52に沿って凹溝状に設けられ、各凹ディンプル51aに収容されたグリースがグループ間の凹ディンプル51a,51aで往来可能となっている。すなわち、これら通路部65は、ボールシート4の中心軸を中心として通路部61と略同一の円周上に配設されている。
【0080】
同様に、通路部66は、第2ディンプル列53に沿って凹溝状に設けられ、各凹ディンプル51bに収容されたグリースがグループ間の凹ディンプル51b,51bで往来可能となっている。すなわち、これら通路部66は、ボールシート4の中心軸を中心として通路部62と略同一の円周上に配設されている。
【0081】
この結果、全ての凹ディンプル51a間及び凹ディンプル51b間が通路部55,56,61,62,63,65,66により互いに連結される。
【0082】
そして、通路部65,66により各グループG1,G2,G3,G4間での凹ディンプル51a,51a、及び、凹ディンプル51b,51bでも直接グリースが往来して入れ替えられるため、ボール部15の外周面の各部へとグリースがより確実に行き渡り、潤滑性をより向上できる。
【0083】
なお、上記各実施の形態において、凹ディンプル51a,51bの配設パターン、通路部の配設パターン、及び、通路部の数は、上記構成に限定されるものではない。
【0084】
また、グループ毎の収容凹部の個数は、少なくとも1つ以上であればよい。この場合には、収容凹部の形状及び個数などに応じて、これら収容凹部が摺動面全体に略均等に配設されるように、設けるグループの数などを適宜設定する。
【0085】
さらに、収容凹部をグループに分けず、摺動面全体に略均等となるように配設することもできる。
【0086】
そして、凹ディンプル51a及び凹ディンプル51bを異なる大きさに形成することもできる。
【0087】
また、収容凹部としては、円形状の凹ディンプル以外でも、凹溝など、他の様々なものを適用できる。
【0088】
さらに、縮径部33に、十字状などのスリットを設ける構成も可能である。この場合には、スリットを介してグリースが、より確実にボール部15の外周面の各部に行き渡り、潤滑性をより向上できる。
【0089】
そして、空間部41を区画する縮径部33の外周面に、ボールシート4をソケット3内に保持した状態でプラグ24などに圧接される複数のリブを設ける構成も可能である。この場合には、ソケット3の内室21及びボールシート4などの寸法公差を吸収し、ソケット3内でのボールシート4のがたつきを防止でき、安定したボールジョイント特性を得ることができる。
【0090】
また、通路部56は、段差部47と凹ディンプル51aとを連結する構成の他にも、開口35まで連通する構成など、凹ディンプル51aを開口35側に連結し凹ディンプル51a,51b内のグリースを開口35から外部へと排除可能とすれば、任意の構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第1の実施の形態のボールジョイントのベアリングシートを示す縦断面図である。
【図2】同上ボールジョイントのベアリングシートを示す平面図である。
【図3】同上ボールジョイントのベアリングシートを備えたボールジョイントを示す縦断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態のボールジョイントのベアリングシートを示す縦断面図である。
【図5】同上ボールジョイントのベアリングシートを示す平面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態のボールジョイントのベアリングシートを示す縦断面図である。
【図7】同上ボールジョイントのベアリングシートを示す平面図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態のボールジョイントのベアリングシートを示す縦断面図である。
【図9】同上ボールジョイントのベアリングシートを示す平面図である。
【図10】本発明の第5の実施の形態のボールジョイントのベアリングシートを示す縦断面図である。
【図11】同上ボールジョイントのベアリングシートを示す平面図である。
【符号の説明】
【0092】
1 ボールジョイント
2 ボールスタッド
3 ソケット
4 ベアリングシートとしてのボールシート
15 ボール部
22 開口部
31 シート本体
34 摺動面
35 開口
42 底部開口
47 段差部
51a,51b 収容凹部としての凹ディンプル
52 第1の収容凹部列としての第1ディンプル列
53 第2の収容凹部列としての第2ディンプル列
55,56,61,62,63,65,66 通路部
57 凹部としての外周グリース溜まり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備えたソケット内に収容されるシート本体と、
このシート本体内に設けられボールスタッドの略球状のボール部を回動可能に保持する球面状の摺動面と、
前記シート本体の一端に開口され、前記開口部に連通する開口と、
前記ボール部の外周面に対向して前記摺動面にそれぞれ設けられ、潤滑剤を収容する複数の収容凹部と、
少なくともこれら収容凹部を連結してこれら収容凹部間で潤滑剤を往来可能にする通路部と
を具備したことを特徴としたボールジョイントのベアリングシート。
【請求項2】
通路部の一部は、前記収容凹部と開口側とを連結している
ことを特徴とした請求項1記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項3】
摺動面にて収容凹部よりも開口側に設けられ、ボールスタッドの略球状のボール部の外周面との間に凹部を形成する段差部を具備し、
通路部の一部は、前記段差部と前記収容凹部とをそれぞれ連結している
ことを特徴とした請求項2記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項4】
収容凹部は、摺動面の周方向に沿う第1の収容凹部列と、この第1の収容凹部列よりも他端側の位置にて前記摺動面の周方向に沿う第2の収容凹部列とをなし、
前記第2の収容凹部列の各収容凹部は、前記第1の収容凹部列の周方向に互いに隣接する収容凹部の周方向間にそれぞれ位置し、
通路部の一部は、前記第1の収容凹部列の各収容凹部と、前記第1の収容凹部列の周方向に互いに隣接する収容凹部の周方向間に位置する前記第2の収容凹部列の収容凹部との間をそれぞれ連結している
ことを特徴とした請求項1ないし3いずれか一記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項5】
通路部の一部は、第1の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間、及び、第2の収容凹部の周方向に互いに隣接する収容凹部間を、それぞれ連結している
ことを特徴とした請求項4記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項6】
シート本体の他端に開口された底部開口を具備し、
通路部の一部は、第2の収容凹部列の各収容凹部と前記底部開口とをそれぞれ連結している
ことを特徴とした請求項4または5記載のボールジョイントのベアリングシート。
【請求項7】
開口部を有するソケットと、
このソケットの内部に収容された請求項1ないし6いずれか一記載のベアリングシートと、
このベアリングシートに回動可能に保持された略球状のボール部を有するボールスタッドと
を具備したことを特徴としたボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−300264(P2006−300264A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125345(P2005−125345)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】