説明

ボールジョイント

【課題】組み立てが容易で、しかも樹脂シート30の連れ回りを、従来に比べて簡単な構造で、より確実に防止できるボールジョイント13を提供する。
【解決手段】ボールジョイント13のハウジング29と球頭部39の間に樹脂シート30が介在されている。ハウジング29は、樹脂シート30が内側に配置された筒状部材32、および筒状部材32の一端を塞ぐように当該一端に固定されたプラグ板33を含み、樹脂シート30の底部37に設けられた凹溝44と、プラグ板33に設けられた突起48とが嵌め合わされて、樹脂シート30が回り止めされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にボールジョイントは、ボールスタッドの一端に設けた球頭部と、前記球頭部を覆う樹脂シートとを、ハウジングに収容して構成される。例えば自動車のステアリング装置のアウターボールジョイント等は、前記ハウジングを、内側に樹脂シートが配置される筒状部材、およびこの筒状部材の一端を塞ぐように当該一端に固定されるプラグ板で構成し、前記樹脂シートと球頭部とを、プラグ板で塞ぐ前の一端側の開口を通して筒状部材内に収容した後、前記開口をプラグ板で塞いで構成される。
【0003】
詳しくは、前記樹脂シートとしては、筒状部材の内周に沿う筒状の周壁部の一端に、プラグ板に対向する底部を有し、反対側が開口されたカップ状にワンピース形成されたものが用いられる。また前記カップ状の第一シートと、前記第一シートとプラグ板との間に介在される板状の第二シートのツーピースに形成された樹脂シートも用いられる。樹脂シートのカップの底の内面は、球頭部の外表面に沿う凹面とされる。
【0004】
筒状部材は、前記プラグ板で塞がれる一端側と反対側(他端側)の開口の開口径がボールスタッドの球頭部より小径とされて、前記球頭部が抜け止めされる。筒状部材の、小径とされた他端側の開口付近の内周は、例えば球頭部の外表面に対向する凹面とされる。
組み立てに際しては、まずボールスタッドのロッドを、プラグ板で塞ぐ前の一端側の開口を通して筒状部材内に挿入して他端側の開口から突出させる。次いでボールスタッドの球頭部と、前記球頭部を覆う樹脂シートとを筒状部材内に挿入して、前記樹脂シートの底を、プラグ板によって筒状部材の他端側の方向に押圧しながら、前記筒状部材の一端にプラグ板をかしめて固定する。
【0005】
そうすると樹脂シートがハウジング内のほぼ全体を充填するように変形されて、前記樹脂シートがハウジングによって保持されると共に、ボールスタッドの球頭部が、前記樹脂シートによって摺動自在に保持される。
前記従来のボールジョイントにおいては、ステアリング装置の動作に伴ってボールスタッドがロッドの中心軸線を中心として回転する際に、本来はハウジングによって保持されていなければならない樹脂シートがボールスタッドと共に回転するいわゆる連れ回りを生じやすく、連れ回りが繰り返されると、前記樹脂シートの、筒状部材の内周と接している外周が摩耗して両者の間でガタを生じて、ステアリング装置の動作時に異音が発生するという問題を生じる。また、摩耗がさらに進行すると、ハウジングによる樹脂シートの保持力が低下し、それに伴って樹脂シートによる球頭部の保持力が低下して、ボールスタッドの回転トルクおよび揺動トルクが初期値から大幅に低下するという問題も生じる。
【0006】
そこで、ハウジングと樹脂シートの互いの対向面に互いに連通する凹部を形成し、前記凹部に液状樹脂を充填したのち硬化させて、前記ハウジングと樹脂シートとを互いに固定することにより、前記樹脂シートの、ボールスタッドの回転に伴う連れ回りを防止することが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−89541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1に記載の構造では、ハウジングと樹脂シートの両方に形成した凹部が互いに連通するように、ボールジョイントの組み立て時に位置合わせをしたり、位置合わせをした凹部に液状樹脂を充填したり、充填した液状樹脂を硬化させたりするために手間がかかるという問題がある。
また、位置合わせが正しく行なわれなかったり、凹部に充填した液状樹脂に起泡が含まれていたりした場合には、ハウジングと樹脂シートとの固定が十分でなく、ボールスタッドの回転を繰り返すうちに固定が解除されて樹脂シートが連れ回りを生じ、それに伴って先に説明した異音やトルクの変動等の問題を生じるおそれもある。
【0008】
本発明の目的は、組み立てが容易で、しかも樹脂シートの連れ回りを、従来に比べて簡単な構造で、より確実に防止できるボールジョイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、一端に球頭部(39)を有するボールスタッド(31)と、前記球頭部を覆う樹脂シート(30)と、前記樹脂シートおよび球頭部を収容するハウジング(29)とを備え、前記ハウジングは、樹脂シートが内側に配置された筒状部材(32)、およびこの筒状部材の一端を塞ぐように当該一端に固定されたプラグ板(33)を含み、前記樹脂シートは、筒状部材の内周に沿う筒状の周壁部(36)の一端に、プラグ板に対向する底部(37)を有しその反対側が開口されたカップ状に形成されていると共に、前記底部のプラグ板に対向する面に凹溝(44)を有しており、前記プラグ板は、前記樹脂シート側に突出して前記凹溝に嵌め合わされる突起(48)を有しており、前記突起と凹溝とが嵌め合わされて樹脂シートが回り止めされていることを特徴とするボールジョイント(13)を提供するものである(請求項1)。なおカッコ内の英数字は、後述の実施の形態における対応構成要素等を表す。
【0010】
本発明によれば、先に説明したように球頭部と樹脂シートとを筒状部材内に挿入して、前記樹脂シートの底を、プラグ板によって筒状部材の他端側の方向に押圧しながら、前記筒状部材の一端にプラグ板を固定する通常の組み立て過程において、前記樹脂シートに設けた凹溝に、プラグ板に設けた突起を嵌め合せるだけでハウジングと樹脂シートとを固定して、前記樹脂シートの、ボールスタッドの回転に伴う連れ回りを防止できる。
【0011】
そのため本発明によれば、組み立てが容易で、しかも樹脂シートの連れ回りを、従来に比べて簡単な構造で、より確実に防止できるボールジョイントを提供することができる。
本発明によれば、樹脂シートの底部を球頭部の球面に沿う略半球状に形成し、前記底部の外面に、周壁部の筒の軸(L3)と交差方向に延びる複数のリブ(43)を形成して、各リブ間に、前記軸と交差方向に延びる複数の凹溝を設けることができる(請求項2)。
【0012】
この場合、樹脂シートの底部を前記略半球状とすることで、周壁部と厚みが近似した薄肉として厚肉部をなくして、樹脂の成形時のヒケ等による樹脂シートの寸法精度の低下を防止できる。またリブを設けることで樹脂シートを補強できる。しかも各リブ間に凹溝を設けることにより樹脂シートの構造を簡略化できる。
また本発明によれば、プラグ板に、樹脂シートの複数の凹溝に嵌め合わされて、前記樹脂シートの周壁部の筒の軸をプラグ板の中心軸(L2)と一致させる複数の突起を設けることができる(請求項3)。
【0013】
この場合、前記複数の凹溝のうち任意の凹溝に複数の突起を嵌め合わせるだけで、樹脂シートとプラグ板とを芯出しできる。そのためボールジョイントの組み立てをさらに容易にできる。
さらに本発明によれば、突起を、プラグ板の元になる板材をプレス加工してプラグ板を形成する際に同時に形成することができる(請求項4)。
【0014】
この場合、突起の位置精度を向上できる。またプラグ板の構造および製造工程を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下には、図面を参照して、この発明の実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るボールジョイントを備えるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。ステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2と、転舵輪(図示せず)を転舵する転舵機構としてのラックアンドピニオン機構3とを備えている。
【0016】
ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト4および中間軸5を介して、ラックアンドピニオン機構3に連結されている。ステアリングホイール2の回転は、ステアリングシャフト4および中間軸5を介してラックアンドピニオン機構3に伝達される。
ラックアンドピニオン機構3は、ピニオン軸6およびラック軸7を備えている。ピニオン軸6は、中間軸5に連結された軸部8と、この軸部8の先端に連結されたピニオン9とを含む。ステアリングホイール2の回転は、ステアリングシャフト4および中間軸5を介してピニオン軸6に伝達される。
【0017】
ラック軸7は、車両の左右方向に沿って延びている。ラック軸7には、ラック10が形成されている。ピニオン9およびラック10は、互いに噛み合わされている。ピニオン軸6の回転は、ラック10およびピニオン9により、ラック軸7の軸方向移動に変換される。
ラック軸7は筒状のハウジング11に挿通されている。ラック軸7の両端部は、それぞれハウジング11から突出している。ラック軸7の各端部には、インナーボールジョイント12を介して、タイロッド14の一端が連結されている。また、タイロッド14の他端(いわゆるタイロッドエンド)には、アウターボールジョイント13が設けられている。図示はしないが、転舵輪は、ナックルアームを介してアウターボールジョイント13に連結されている。
【0018】
また、ハウジング11の各端部には、筒状のラックブーツ15が配置されている。各ラックブーツ15の一端は、ハウジング11の端部に外嵌しており、当該端部に固定されている。また、各ラックブーツ15の他端は、タイロッド14に外嵌しており、当該タイロッド14に固定されている。ハウジング11の端部およびインナーボールジョイント12は、対応するラックブーツ15により覆われている。このラックブーツ15によって、水や埃などの異物が、ハウジング11内やインナーボールジョイント12内に侵入することが防止されている。
【0019】
操舵操作(回転操作)では、前述したように、ステアリングホイール2の回転がステアリングシャフト4および中間軸5によってピニオン軸6に伝達され、ピニオン9の回転がラック10を通じてラック軸7の軸方向移動に変換される。そのときのラック軸7の軸方向移動は、インナーボールジョイント12を介してタイロッド14に伝えられ、さらに、タイロッド14の動きがアウターボールジョイント13を介してナックルアームへと伝えられる。
【0020】
図2は、インナーボールジョイント12およびアウターボールジョイント13を含むステアリング装置1の一部の断面図である。
インナーボールジョイント12は、ラック軸7の端部に連結されるハウジング16と、このハウジング16に保持された樹脂シート17およびボールスタッド18とを備えている。ハウジング16は、樹脂シート17およびボールスタッド18を収容する収容室19と、ラック軸7の端部に連結される連結部20とを含む。収容室19は、底が封止された筒状であり、入口を有している。また、樹脂シート17はカップ状であり、周壁部21と底部22とを含む。樹脂シート17は、底部22が収容室19の底に対向するように配置されている。
【0021】
ボールスタッド18は、球面状の外表面を有する球頭部23と、この球頭部23から突出するように延びるロッド24とを一体的に備えている。球頭部23は、樹脂シート17に覆われ嵌合されており、ロッド24は、収容室19から突出している。タイロッド14の一部は、ボールスタッド18によって構成されている。すなわち、タイロッド14は、ボールスタッド18と、このボールスタッド18のロッド24に連結された連結軸25とによって構成されている。
【0022】
収容室19の入口は、樹脂シート17で覆われた球頭部23を収容した後にかしめられて小径とされて、上記球頭部23および樹脂シート17が抜け止めされている。
ロッド24の先端部(図2では右端部)には、雄ねじ部26が形成されている。雄ねじ部26は、連結軸25に形成された雌ねじ孔27に螺合されている。雄ねじ部26が雌ねじ孔27に螺合されることにより、連結軸25がボールスタッド18に同軸的に連結されている。
【0023】
また、雄ねじ部26にはロックナット28が螺合されている。ボールスタッド18および連結軸25は、ロックナット28によって互いに固定されている。また、雌ねじ孔27に対する雄ねじ部26のねじ込み量は、ロックナット28によって調節されている。雌ねじ孔27に対する雄ねじ部26のねじ込み量を調節することにより、転舵輪のトー角を調節することができる。
【0024】
球頭部23は、樹脂シート17を介して収容室19に包み込まれるように保持されている。すなわち、ボールスタッド18は、樹脂シート17を介してハウジング16に保持されている。樹脂シート17の内周面は、球頭部23の外表面に沿う形状とされている。球頭部23は、樹脂シート17に対して摺動可能となっている。樹脂シート17と球頭部23との間には、グリース等の潤滑剤が充填されている。ボールスタッド18は、球頭部23を支点として、ハウジング16に対して揺動可能となっている。したがって、ラック軸7(図1参照)の軸方向への動きは、軸方向へ直線的にタイロッド14に伝達されるのではなく、インナーボールジョイント12によって揺動する角度方向へ伝達される。
【0025】
一方、アウターボールジョイント13は、ハウジング29と、このハウジング29に保持された樹脂シート30およびボールスタッド31とを備えている。ハウジング29は、樹脂シート30がその内側に配置された筒状部材32と、この筒状部材32の一端(図2では下端)を塞ぐように当該一端に固定されたプラグ板33とを含む。筒状部材32は、例えば連結軸25の先端部に一体的に形成されている。
【0026】
樹脂シート30はカップ状であり、周壁部36と底部37とを含む。樹脂シート30は、周壁部36が筒状部材32の内周面に沿い、かつ底部37がプラグ板33に対向するように配置されている。
ボールスタッド31は、球面状の外表面を有する球頭部39と、この球頭部39から上方へ突出する延びるロッド40とを一体的に備えている。球頭部39は、樹脂シート30に覆われ嵌合されており、ロッド40は、筒状部材32から突出している。球頭部39は、樹脂シート30を介してハウジング29に保持されている。すなわち、ボールスタッド31は、樹脂シート30を介してハウジング29に保持されている。
【0027】
筒状部材32の他端(図2では上端)側の開口38は、その開口径が球頭部39より小径とされて、前記球頭部39および樹脂シート30が抜け止めされている。樹脂シート30は、前記開口38とプラグ板33との間で保持されている。
樹脂シート30の内周面は、球頭部39の外表面に沿う凹面とされている。球頭部39は、樹脂シート30に対して摺動可能となっている。樹脂シート30と球頭部39との間には、グリース等の潤滑剤が充填されている。ボールスタッド31は、球頭部39を支点としてハウジング29に対して揺動可能となっている。また、ボールスタッド31は、ロッド40の中心軸線まわりに回転可能となっている。アウターボールジョイント13により、タイロッド14の動きをその揺動する角度方向へ向けてナックルアームに伝達する。
【0028】
ハウジング29およびボールスタッド31には、筒状のカバー41が取り付けられている。カバー41の一端は、筒状部材32の端部に外嵌しており、当該端部に固定されている。また、カバー41の他端は、ロッド40に外嵌しており、当該ロッド40に固定されている。筒状部材32の端部およびロッド40の一部は、カバー41によって覆われている。このカバー41によって、水や埃なとどの異物が、アウターボールジョイント13内に侵入することが防止されている。
【0029】
次に、この実施形態に係るボールジョイントの具体的構成について、アウターボールジョイント13を例にとって説明する。
図3は、本発明の一実施の形態にかかるアウターボールジョイント13の概略構成を示す一部断面図である。
図3を参照して、アウターボールジョイント13は、ボールスタッド31と、ハウジング29と、樹脂シート30とを備えている。ボールスタッド31は、例えば鋼等の金属製の単一の部材を用いた一体成形品であり、球頭部39とロッド40とを含んでいる。ロッド40の中心軸線L1上に球頭部39の中心Cが配置されている。
【0030】
ハウジング29は、球頭部39を収容し、かつボールスタッド31を、樹脂シート30を介して、上記球頭部39を支点として、中心軸線L1まわりに回転可能で、かつ中心Cを中心として揺動可能に支持するものである。ハウジング29は、樹脂シート30がその内側に配置された筒状部材32と、この筒状部材32の一端(図3では下端)を塞ぐように当該一端に固定されたプラグ板33とを含む。筒状部材32は、連結軸25の先端部に一体的に形成されている。筒状部材32と連結軸25は、例えば鋼等の金属製の単一の部材を用いた一体成形品である。
【0031】
筒状部材32は、球頭部39を取り囲む筒状に形成されている。筒状部材32のうち、ハウジング29の中心軸線L2がボールスタッド31の中心軸線L1と一致している状態(図3の状態)において、球頭部39の中心Cを通り中心軸線L1、L2に直交する平面Aから前記一端側の開口までの間の内周面34は、内径が一定の筒状に形成されている。
筒状部材32の他端側の開口38は、先に説明したように開口径が球頭部39より小径とされて、前記球頭部39および樹脂シート30が抜け止めされている。開口38は、中心軸線L2と直交方向の形状が、前記中心軸線L2を中心とする円形に形成されている。
【0032】
筒状部材32のうち、図3の状態において平面Aから開口38までの間の内周面35は、球頭部39の外表面に対向し、かつ内周面34と連続して開口38に達する凹面とされている。内周面34、35と開口38とは同心に形成されている。
図4は、アウターボールジョイント13に組み込む樹脂シート30の一例を示す断面図である。図5は、前記樹脂シート30の底面図である。
【0033】
図3〜図5を参照して、樹脂シート30は、外周が筒状部材32の内周面34に沿う筒状とされた周壁部36の一端に、プラグ板33に対向する底部37が設けられ、他端が、ロッド40が挿通される開口部42とされたカップ状にワンピース形成されている。底部37は、球頭部39の球面に沿う略半球状に形成されている。
底部37の外面には、周壁部36の筒の中心軸線L3と交差方向に延びる複数のリブ43が形成されている。各リブ43は、中心軸線L3を中心として放射状に設けられている。個々のリブ43の放射方向の外縁は、周壁部36の外周と同一の円筒面とされている。各リブ43の厚みは一定とされている。中心軸線L3を中心とする、隣り合うリブ43のなす角度は一定とされている。例えば図の例では、厚みが等しい18枚のリブ43が、中心軸線L3を中心として、いずれも20°の開き角度で放射状に設けられている。
【0034】
各リブ43間には、隣り合うリブ43の側面と底部37の外面とで区画されて凹溝44が設けられている。凹溝44は、中心軸線L3を中心として放射状に設けられている。各凹溝44は、各リブ43の厚みが一定とされ、かつ隣り合うリブ43間のなす角度が一定とされることで、中心軸線L3と直交方向の形状が等しく、かつ隣り合う凹溝44のなす角度が一定とされている。例えば図の例では、平面形状が等しい18箇所の凹溝44が、中心軸線L3を中心として、いずれも20°の開き角度で放射状に設けられている。
【0035】
以上のように、樹脂シート30の底部37を略半球状とすることで、前記底部37を、周壁部36と厚みが近似した薄肉として厚肉部をなくして、樹脂の成形時のヒケ等による樹脂シート30の寸法精度の低下を防止できる。またリブ43を設けることで樹脂シート30を補強できる。しかも各リブ43間に凹溝44を設けることにより樹脂シート30の構造を簡略化できる。
【0036】
樹脂シート30の底部37には、貫通穴45が設けられている。貫通穴45は、中心軸線L3と直交方向の形状が、前記中心軸線L2を中心とする円形に形成されている。また樹脂シート30の内面には、開口部42から貫通穴45に達する縦溝46が設けられている。縦溝46は、図4では1箇所のみ記載しているが、周壁部36の筒の周方向の複数箇所に設けられている。樹脂シート30のうち底部37の内面には、各縦溝46を繋ぐ環状の横溝47が設けられている。
【0037】
貫通穴45は、グリース溜まりとして機能させることができる。また縦溝46および横溝47は、前記貫通穴45から球頭部39の外表面にグリースを供給するための供給路として機能させることができる。また貫通穴45、縦溝46および横溝47を設けることにより、球頭部39との接触面積を調整できる。さらに、前記貫通穴45、縦溝46および横溝47を設けることで樹脂シート30の剛性を低下させて、前記樹脂シート30を球頭部39と共に筒状部材32内に圧入する際に変形しやすくできる。そのためボールスタッド31の回転トルクおよび揺動トルクを安定化できる。
【0038】
図6は、アウターボールジョイント13に組み込むプラグ板33の一例を示す側面図である。図7は、前記プラグ板33の平面図である。
図6、図7を参照して、プラグ板33は、例えば鋼等の金属製の板材等からなり、ハウジング29の中心軸線L2と直交方向の形状が、前記中心軸線L2を中心とする円形に形成されている。
【0039】
プラグ板33は、樹脂シート30の底部37に対向する面(図6では上面)から上方に突出する複数の突起48を有している。各突起48は、プラグ板33上の、前記中心軸線L2からそれぞれ等距離の位置に設けられている。また隣り合う突起48は、互いに等間隔に設けられている。中心軸線L2を中心とする、隣り合う突起48のなす角度は一定とされている。例えば図の例では3個の突起48が、中心軸線L2を中心として、いずれも120°の開き角度で等間隔に設けられている。
【0040】
前記3個の突起48は、ハウジング29の中心軸線L2と、樹脂シート30の中心軸線L3とが一致している状態(図3の状態)において、先に説明した18箇所の凹溝44のうち、間にそれぞれ5箇所ずつの凹溝44を挟んだ任意の3個所の凹溝44に嵌め合わされる。そのため、前記3個の突起48を、任意の3個所の凹溝44に嵌め合わせることにより、ハウジング29の中心軸線L2と、樹脂シート30の中心軸線L3とを一致させることができる。つまり突起48と凹溝44とを嵌め合わせるだけで、樹脂シート30を、ハウジング29に対して芯出しできる。したがって、アウターボールジョイント13の組み立てを容易化できる。
【0041】
プラグ板33の上面の中央には凹部49が設けられている。図3を参照して、前記凹部49は、樹脂シート30の貫通穴45と連通してグリース溜まりとして機能させることができる。
図6、図7を参照して、突起48および凹部49は、前記金属製の板材を、プレス加工により円形に打抜いてプラグ板33を製造する際に、同時に形成できる。すなわちプレス加工時に、板材の円の中央を図6において下方に凹入させると共に、その周囲の任意の位置を上方に突出させることで、前記凹部49および突起48を有するプラグ板33を形成できる。この場合、突起48および凹部49の位置精度を向上できる。またプラグ板33の構造および製造工程を簡略化できる。
【0042】
図3を参照して、筒状部材32の一端側の開口付近は、内周面34よりも内径の大きい円形の拡径部50とされ、前記拡径部50と内周面34との間に環状の段部51が設けられている。拡径部50は、内周面34と同心に形成されている。拡径部50の内径は、プラグ板33の円の外径と一致している。拡径部50の、中心軸線L2方向の幅は、プラグ板33の厚みより大きく設定されている。
【0043】
図3〜図7を参照して、アウターボールジョイント13の組み立てに際しては、まずボールスタッド31のロッド40を、プラグ板33で塞ぐ前の一端側の開口を通して筒状部材32内に挿入して他端側の開口38から突出させる。
次いで、ボールスタッド31の球頭部39と、前記球頭部39を覆う樹脂シート30とを筒状部材32内に挿入する。
【0044】
次いで、前記樹脂シート30の底部37の複数の凹溝44のうち任意の凹溝44にプラグ板33の突起48を嵌め合わせた状態で、前記プラグ板33によって、前記樹脂シート30と球頭部39とを、筒状部材32の他端側の方向に押圧しながら、前記筒状部材32の一端の拡径部50にプラグ板33を挿入して段部51に当接させた後、前記拡径部50の口縁52をかしめてプラグ板33を固定する。
【0045】
そうすると、前記圧入によって樹脂シート30がハウジング29内の、筒状部材32と球頭部39との隙間のほぼ全体を充填するように弾性変形される。すなわち樹脂シート30の周壁部36のうち、中心軸線L1〜L3が一致している図3の状態において平面Aより開口部42側の外面が、筒状部材32の開口38側の内周面35に沿う凸面、内面が、球頭部39の外表面に沿う凹面とされる。
【0046】
また、周壁部36のうち前記平面Aよりプラグ板33側の領域、および各リブ43の放射方向の外縁は、いずれも筒状部材32の、平面Aよりプラグ板33側の内周面34に沿う円筒面とされている。また樹脂シート30の底部37は、先に説明したように球頭部39の球面に沿う略半球状に形成されると共に、筒状部材32に固定されたプラグ板33の上面と当接している。
【0047】
そのため、前記樹脂シート30がハウジング29によって保持されると共に、ボールスタッド31の球頭部39が、前記樹脂シート30によって摺動自在に保持される。
またこの状態においては、樹脂シート30の凹溝44に、プラグ板33の突起48が嵌め合わされて、前記樹脂シート30が、ハウジング29に対して芯出しされた状態で、前記ハウジング29と樹脂シート30とを固定できる。そのため、樹脂シート30の、ボールスタッド31の回転に伴う連れ回りを防止できる。
【0048】
したがって、従来に比べて簡単な構造で、前記連れ回りが繰り返されることによる樹脂シート30の摩耗や、それに伴うガタおよび異音の発生、あるいはボールスタッド31の回転トルクおよび揺動トルクの大幅な変動等を確実に防止できるボールジョイント13を提供できる。
ハウジング29およびボールスタッド31には、筒状のカバー41が取り付けられている。カバー41の一端は、筒状部材32の開口38側の端部外周に設けた環状の凹溝53に外嵌し、その外側に外嵌された固定リング54によって当該端部に固定されている。
【0049】
また、カバー41の他端は、ロッド40に外嵌しており、当該ロッド40に固定されている。筒状部材32の端部およびロッド40の一部は、カバー41によって覆われている。このカバー41によって、水や埃なとどの異物が、アウターボールジョイント13内に侵入することが防止されている。
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。また本発明のボールジョイントは、タイロッドとナックルアームとを連結する用途以外の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係るボールジョイントを備えるステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】インナーボールジョイントおよびアウターボールジョイントを含むステアリング装置の一部の断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態にかかるアウターボールジョイントの概略構成を示す一部断面図である。
【図4】アウターボールジョイントに組み込む樹脂シートの一例を示す断面図である。
【図5】図4の樹脂シートの底面図である。
【図6】アウターボールジョイントに組み込むプラグ板の一例を示す側面図である。
【図7】図6のプラグ板の平面図である。
【符号の説明】
【0051】
13:ボールジョイント(アウターボールジョイント)、29:ハウジング、30:樹脂シート、31:ボールスタッド、32:筒状部材、33:プラグ板、36:周壁部、37:底部、39:球頭部、44:凹溝、48:突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に球頭部を有するボールスタッドと、
前記球頭部を覆う樹脂シートと、
前記樹脂シートおよび球頭部を収容するハウジングとを備え、
前記ハウジングは、樹脂シートが内側に配置された筒状部材、およびこの筒状部材の一端を塞ぐように当該一端に固定されたプラグ板を含み、
前記樹脂シートは、筒状部材の内周に沿う筒状の周壁部の一端に、プラグ板に対向する底部を有しその反対側が開口されたカップ状に形成されていると共に、前記底部のプラグ板に対向する面に凹溝を有しており、
前記プラグ板は、前記樹脂シート側に突出して前記凹溝に嵌め合わされる突起を有しており、
前記突起と凹溝とが嵌め合わされて樹脂シートが回り止めされていることを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
樹脂シートの底部は球頭部の球面に沿う略半球状に形成され、前記底部の外面に、周壁部の筒の軸と交差方向に延びる複数のリブが形成されて、各リブ間に、前記軸と交差方向に延びる複数の凹溝が設けられている請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
プラグ板には、樹脂シートの複数の凹溝に嵌め合わされて、前記樹脂シートの周壁部の筒の軸をプラグ板の中心軸と一致させる複数の突起が設けられている請求項2に記載のボールジョイント。
【請求項4】
突起は、プラグ板の元になる板材をプレス加工してプラグ板を形成する際に同時に形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載のボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−112417(P2010−112417A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284028(P2008−284028)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】