説明

ボールジョイント

【課題】低コストで小型なボールジョイントを提供する。
【解決手段】ボールスタッド13、ベアリングシート14及びソケット15が、一体に組み立てられている。ソケット15は、ベアリングシート14を収納する周壁部41、円錐部42及び底部43を有し、この底部43はソケットの軸線24に直交する面44に対して傾斜している傾斜受け面45を備えている。傾斜面26は、傾斜受け面45に対応するようにベアリングシート14に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両のステアリング装置及び懸架装置に使用されるボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のステアリング装置において、ステアリングハンドルの回転運動を車輪に伝える部品の一つとしてボールジョイントが実用に供されている。
図7に示すように、車両100は、前方にステアリング装置101を備えている。
運転席102のステアリングハンドル103を、矢印(1)のように回転させると、ステアリングシャフト104を介してステアリングギヤ部105に回転運動が伝わる。この回転運動がステアリングギヤ部105で、ラック106の往復運動に変換される。すると、ボールジョイント107を介してタイロッド108が、矢印(2)のように移動され、ナックルアーム109を介して車輪111が操舵される。
【0003】
以上のように使われるボールジョイントは、各種の構造のものが提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0004】
特許文献1に示されるボールジョイントの構造を次図に基づいて説明する。
図8に示すように、ボールジョイント107において、ボールスタッド112の球頭部113は、ベアリングシート114に回転自在に包んで保持されている。ベアリングシート114は、ソケット115に収納されている。ボールスタッドの軸116が揺動したり、軸を中心に回転しても、ソケット115の上部は絞られており、球頭部113は押さえられているので、ボールスタッド112が抜けることはない。
【0005】
通常、球頭部113とベアリングシート114の間には、グリースが塗られているので、球頭部がベアリングシート114の内周面を摺動する。
しかし、低温時には、グリースが固着したり、樹脂製のベアリングシート114が収縮する等の理由から、ベアリングシート114がボールスタッド112に一緒に回ることがある。この現象を以下、共回りと呼ぶ。
【0006】
結果、ベアリングシート114がソケット115から離れて回転することとなり、ベアリングシート114の外周面が摩耗し、ガタ発生及び保持力低下の原因となる。この対策が施されたボールジョイントが提案されている(例えば、特許文献2(図1、図4)参照。)。
【0007】
特許文献2を次図に基づいて説明する。
図9に示されるように、(a)に示すように、ソケット115の底には、六角穴117が空けられている。ベアリングシート114の底には凸部118が設けられており、この凸部118は六角穴117まで延びている。
【0008】
(b)は(a)のb−b線断面図であり、凸部118は、ソケット115の六角穴117に対応する形状になっている。この結果、ベアリングシート114はソケット115に固定され、ベアリングシート114がボールスタッド112に共回りすることを防止することができる。
【0009】
しかし、六角穴117を設けたため、ソケット115の底の幅hが大きくなる。このため、ソケット115が大型となり、製造コストも掛かる。すなわち、低コストで小型なボールジョイントが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平5−66325号公報
【特許文献2】特開2006−226346公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、低コストで小型なボールジョイントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、軸の一端に球頭部を有するボールスタッドと、前記球頭部を回転自在に包んで保持するベアリングシートと、このベアリングシートを内包するソケットとからなるボールジョイントにおいて、前記ソケットは、前記ベアリングシートを収納する周壁部、円錐部及び底部を有し、この底部はソケットの軸線に直交する面に対して傾斜している傾斜受け面を備えており、この傾斜受け面に対応する傾斜面を前記ベアリングシートに設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、円錐部から円筒部を延ばし、この円筒部の先に傾斜受け面を備え、円筒部に対応する円筒部をベアリングシートに形成したことを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、軸の一端に球頭部を有するボールスタッドと、球頭部を回転自在に包んで保持するベアリングシートと、このベアリングシートを内包するソケットとからなるボールジョイントにおいて、ソケットは、ベアリングシートを収納する周壁部、円錐部及び底部を有し、この底部はソケットの軸線に直交する面に対して傾斜している傾斜受け面を備えており、ベアリングシートは、ソケットの軸線に直交する面に平行な底面と、この底面から傾斜受け面に当接するまで延ばした突出部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明では、ソケットの底部は、ソケットの軸線に直交する面に対して傾斜している傾斜受け面を備えており、この傾斜受け面に対応する傾斜面をベアリングシートに設けている。傾斜受け面に傾斜面を当接させた状態で、ベアリングシートが押さえられているので、ベアリングシートが固定され、ベアリングシートがボールスタッドに共回りすることを防止することができる。
加えて、ソケットの底部に若干傾斜させた面を設けただけであるので、ソケットを小型化することができる。
さらに、傾斜受け面は、鍛造で容易に成形できるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、円筒部の先に傾斜受け面を備え、ソケットの円筒部に対応する円筒部をベアリングシートに形成している。ベアリングシートの円筒部に傾斜面が設けられ、ベアリングシートの底部の形状は均等であるので、球頭部の保持を均一にすることができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、ソケットの底部は、ソケットの軸線に直交する面に対して傾斜している傾斜受け面を備えており、ベアリングシートはソケットの軸線に直交する面に平行な底面と、この底面から傾斜受け面に当接するまで延ばした突出部とを有する。ベアリングシートの底面に突出部を設けただけの簡易な構造であるため、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るボールジョイントの分解斜視図である。
【図2】本発明に係るベアリングシートの正面図である。
【図3】本発明に係るボールジョイントの基本原理を説明する図である。
【図4】本発明に係るボールジョイントの断面図である。
【図5】図2に示したベアリングシートの別実施例の正面図である。
【図6】図2に示したベアリングシートの更なる別実施例の正面図である。
【図7】ボールジョイントの使用例を説明する図である。
【図8】従来のボールジョイントの構造を説明する図である。
【図9】改良された従来のボールジョイントの構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0020】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、ボールジョイント10は、タイロッドとしての軸11の一端に球頭部12を有するボールスタッド13と、球頭部12を回転自在に包んで保持するベアリングシート14と、このベアリングシート14を内包するソケット15とからなる。符号16は、ラックである。ボールスタッド13及びソケット15は、金属製の材料である。ベアリングシート14は、樹脂製の材料である。
【0021】
上記のボールジョイント10の組立工程を説明する。まず、ベアリングシート14をソケット15に圧入する。次に、グリースをベアリングシート14の内周面17に塗布する。最後に、ボールスタッド13の球頭部12をグリースが塗布されたベアリングシート14に嵌め込んで所定の位置に配置する。
【0022】
次に、ベアリングシート14の構造を詳しく説明する。
図2に示されるように、ベアリングシート14は、ベアリング周壁部21、ベアリング円錐部22及びベアリング底部23を有している。この底部23には、ソケットの軸線24に直交する仮想面25に対して傾斜している傾斜面26が設けられている。この傾斜面26と仮想面25とのなす角度(傾斜角)をθとする。傾斜角θは、3°〜8°が好適である。
なお、傾斜角θは、3°〜8°に限定するものではなく、ボールジョイント10(図1を参照。)の用途に合わせて、3°未満又は8°超に調整してもよい。
【0023】
次に傾斜角θの傾斜面26を設けた理由を説明する。
図3において、(a)に示すように、剛体上部31と剛体下部32の間に、円筒部材33を置く。円筒部材33の上面34は剛体上部31に接し、下面35は剛体下部32に接している。ここで、円筒部材33に外力Fを加えると、矢印(3)のように、想像線で示す円筒部材33の位置に移動する。
【0024】
(b)は、剛体上部31を取り払い、円筒部材33の軸線に直交する面36に対して傾斜角θで傾斜している傾斜受け面37を剛体下部32に設けている。また、傾斜受け面37に対応する傾斜面38を円筒部材33に設けている。ここで、円筒部材33に外力Fを加えると、矢印(4)のように、想像線で示す円筒部材33の位置に移動する。
【0025】
(c)は、(b)に示した円筒部材33の上面34に剛体上部31が接している。ここで、円筒部材33に外力Fを加えても、上面34が剛体上部31に押さえられるので、円筒部材33は移動しない。
【0026】
図4において、(a)に示すように、ボールスタッド13、ベアリングシート14及びソケット15が、一体に組み立てられている。
ソケット15は、ベアリングシート14を収納する周壁部41、円錐部42及び底部43を有し、この底部43はソケットの軸線24に直交する面44に対して傾斜している傾斜受け面45を備えている。傾斜面26は、傾斜受け面45に対応するようにベアリングシート14に設けられている。
【0027】
この状態から、ソケット15の先端部46をかしめると、(b)に示すように、ソケット15の先端部46、46が内側に曲がり、球頭部12はベアリングシート14に回転自在に包んで保持される。この結果、図3で説明した基本原理により、ボールスタッド13が揺動運動又は回転運動しても、ベアリングシート14の共回りを防止することができる。
【実施例2】
【0028】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図5に示されるように、ベアリングシート14は、ベアリング周壁部21、ベアリング円錐部22を有している。このベアリング円錐部22から円筒部47を延ばし、この円筒部47の先に傾斜面26が設けられている。この傾斜面26及び円筒部47に対応する円筒部を図4に示したソケット15に備えている。
【実施例3】
【0029】
次に、本発明の実施例3を図面に基づいて説明する。
図6に示されるように、ベアリングシート14は、ベアリング周壁部21と、ベアリング円錐部22と、ソケット24の軸線に直交する面(図4、符号44)に平行な底面51と、この底面51から傾斜受け面(図4、符号45)に当接するまで延ばした突出部52とを有する。
【0030】
尚、本発明に係るボールジョイントは、実施の形態では車両のステアリング装置に適用したが、車両の懸架装置等にも適用可能であり、可動域を必要とする連結部品であれば一般の機械装置に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のボールジョイントは、車両のステアリング装置に好適である。
【符号の説明】
【0032】
10…ボールジョイント、11…軸(タイロッド)、12…球頭部、13…ボールスタッド、14…ベアリングシート、15…ソケット、21…ベアリング周壁部、22…ベアリング円錐部、23…ベアリング底部、24…ソケットの軸線、25…仮想面、26…傾斜面、41…周壁部、42…円錐部、43…底部、44…直交する面、45…傾斜受け面、47…円筒部、51…底面、52…突出部、θ…傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の一端に球頭部を有するボールスタッドと、前記球頭部を回転自在に包んで保持するベアリングシートと、このベアリングシートを内包するソケットとからなるボールジョイントにおいて、
前記ソケットは、前記ベアリングシートを収納する周壁部、円錐部及び底部を有し、この底部はソケットの軸線に直交する面に対して傾斜している傾斜受け面を備えており、
この傾斜受け面に対応する傾斜面を前記ベアリングシートに設けたことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
前記円錐部から円筒部を延ばし、この円筒部の先に前記傾斜受け面を備え、前記円筒部に対応する円筒部を前記ベアリングシートに形成したことを特徴とする請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
軸の一端に球頭部を有するボールスタッドと、前記球頭部を回転自在に包んで保持するベアリングシートと、このベアリングシートを内包するソケットとからなるボールジョイントにおいて、
前記ソケットは、前記ベアリングシートを収納する周壁部、円錐部及び底部を有し、この底部はソケットの軸線に直交する面に対して傾斜している傾斜受け面を備えており、
前記ベアリングシートは、前記ソケットの軸線に直交する面に平行な底面と、この底面から前記傾斜受け面に当接するまで延ばした突出部とを有することを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−230022(P2010−230022A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75107(P2009−75107)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000238360)武蔵精密工業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】