説明

ボールスプライン

【課題】 ボールスプライン外筒の剛性を上げることで、スプラインのストロークを円滑にし、小型化も可能としたボールスプラインを提供する。
【解決手段】 ボールスプライン外筒4は、両端面においてそれぞれ開口するスプライン軌道24および戻し通路25が形成された金属製の外筒本体21と、スプライン軌道24と戻し通路25とをつなぐ連通路26が形成されており外筒本体21の両端面に突き合わされた金属製のエンドキャップ22とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールスプラインに関し、特に、過大トルクを受けやすい条件下で使用されるボールスプラインに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールスプラインはボールねじと組み合わされて、電動アクチュエータ用や緩衝器用としてよく使用されており、例えば、特許文献1には、ボールねじナットにモータを接続することで、ボールねじナットが回転して、上下にのびるねじ軸が軸方向に直線移動する形態とされたボールねじを緩衝器に適用することが開示されている。
【0003】
従来のボールスプラインで使用されている外筒の一例を図4および図5に示す。同図において、ボールスプライン外筒(31)は、スプライン軌道(32a)が形成された略円筒状の金属製外筒本体(32)と、戻し通路(33a)が形成されておりかつ外筒本体(32)の内周に嵌め合わされた略円筒状の樹脂製保持器本体(33)と、保持器本体(33)に一端側から被せられた樹脂製保持器蓋(34)と、保持器本体(33)および保持器蓋(34)を外筒本体(32)に固定するための1対の止め輪(35)とを備えている。
【0004】
保持器本体(33)と保持器蓋(34)とは、爪(36)によるルーズ嵌合によって結合されている。保持器本体(33)と保持器蓋(34)とを合わせた軸方向スパンは、止め輪(35)間の軸方向スパンよりも小さくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−264992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のボールスプライン外筒(31)によると、保持器本体(33)に対して保持器蓋(34)が軸方向に若干量移動することができ、この場合に、両者間に隙間ができ、戻し通路(33a)が変形することで、循環不良を起こし、スプラインのストロークの妨げとなることがある。また、軸にボールねじ軌道が設けられている場合には、この循環不良によって保持器本体(33)が弾性変形し、スプライン軌道(32a)からボールねじ軌道にボール(37)が脱落して、ねじ軸をロックする可能性もある。
【0007】
この発明の目的は、ボールスプライン外筒の剛性を上げることで、スプラインのストロークを円滑にし、小型化も可能としたボールスプラインを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるボールスプラインは、スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えているボールスプラインにおいて、ボールスプライン外筒は、両端面においてそれぞれ開口するスプライン軌道および戻し通路が形成された金属製の外筒本体と、スプライン軌道と戻し通路とをつなぐ連通路が形成されており外筒本体の両端面に突き合わされた金属製のエンドキャップとを有していることを特徴とするものである。
【0009】
外筒本体は、従来の外筒本体と保持器本体とが一体化されたものに相当しており、樹脂製の保持器を使用しないことから、従来のものに比べて、その剛性が大幅に大きいものとなる。従来、保持器に設けられていたスプライン軌道と戻し通路とをつなぐ連通路は、縦断面C状または円弧状の凹所をエンドキャップの突き合わせ面に形成することで得ることができる。外筒本体とエンドキャップとは、隙間ができないように、例えばボルトを使用した締結により結合される。
【0010】
ボールスプライン外筒の剛性が上がることにより、戻し通路が変形することに伴う循環不良が防止されるとともに、スプライン軌道からボールが脱落することも防止される。この結果、スプラインのストロークが円滑になり、樹脂部品(保持器本体および保持器蓋)が無くなることから、耐熱性も向上する。しかも、従来の外筒本体の外径は、戻し通路が形成された保持器本体の外径よりも大きくする必要があったが、保持器を省略したことで、外筒本体の外径を従来の保持器本体の外径と同等にすることができ、小型化も可能となる。
【0011】
スプライン軌道は、時計方向の回転を受けるものと反時計方向の回転を受けるものとが対とされて、これが複数対(例えば3対)設けられる。軸の外周には、例えば、基準円筒面から突出するように形成された複数(例えば3つ)のボール受け部が設けられ、このボール受け部の時計方向側および反時計方向側に、それぞれスプライン軌道が形成される。これに対応して、外筒本体の内周には、ボール受け部の時計方向側のスプライン軌道に時計方向側から対向するスプライン軌道と、ボール受け部の反時計方向側のスプライン軌道に反時計方向側から対向するスプライン軌道とがそれぞれ形成される。従来、保持器に形成されていた戻し通路は、外筒本体に形成される。ボールは、軸に形成されたスプライン軌道とボールスプライン外筒に形成されたスプライン軌道との間を転動して循環する。
【0012】
ボールスプラインは、好ましくは、ボールねじと組み合わされて、ボールねじ軌道および軸方向にのびるスプライン軌道が設けられたねじ軸と、ねじ軸のボールねじ軌道にボールを介してねじ合わされた回転自在のボールねじナットと、スプライン軌道にボールを介して嵌め合わされてねじ軸の軸方向直線運動を案内するボールスプライン外筒とからなるものとされる。
【0013】
このようなボールスプライン付きボールねじでは、ボールスプラインは、ボールスプライン外筒がキーなどの回り止め部によってハウジングに対して回り止めされ、ねじ軸の回転を防止して、ボールねじナットで発生するトルクの反力を受ける。
【0014】
ねじ軸、ボールねじナット、ボールスプライン外筒本体およびエンドキャップは、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。
【0015】
この発明によるボールスプラインは、ボールねじと組み合わされて、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。
【0016】
アクチュエータや緩衝器で使用される場合には、例えば、ボールスプライン付きボールねじと、ボールねじナットに一体化された中空軸と、軸受を介して中空軸を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒を支持するハウジングと、中空軸に固定されたモータロータおよびハウジング内径に固定されたモータステータからなるモータとを備えているものとされる。
【0017】
ねじ軸は、往復直線移動し、通常、その所定量以上の移動を防止するためのストッパが設けられる。ストッパは、例えば、ねじ軸が所定量以上移動した際にハウジングに当接するフランジ部をねじ軸に設けることで形成することができ、また、ストッパは、ねじ軸と一体に直線移動する部材に形成してもよく、直線移動しない方の部材(ハウジングや中空軸)に設けることもできる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のボールスプラインによると、外筒本体およびエンドキャップがいずれも金属製であるので、ボールスプライン外筒の剛性が上がり、これにより、戻し通路が変形することに伴う循環不良が防止されるとともに、スプライン軌道からボールが脱落することも防止される。この結果、スプラインのストロークが円滑になり、また、樹脂部品を使用しなくて済むので、耐熱性が向上し、外筒本体の外径を従来の保持器本体の外径と同等にすることができるので、小型化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、この発明によるボールスプラインが使用されたボールねじ装置を示す縦断面図である。
【図2】図2は、ボールスプライン外筒の横断面図である。
【図3】図3は、図2のIII-III線に沿う断面図である。
【図4】図4は、従来のボールスプライン外筒の縦断面図である。
【図5】図5は、同横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図の上下をいうものとする。
【0021】
図1から図3までは、この発明によるボールスプラインを使用したモータ付きボールねじ装置を示している。
【0022】
モータ付きボールねじ装置(1)は、ボールねじ軌道(2a)および上下方向にのびるスプライン軌道(2b)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)にボールを介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ねじ軸(2)の下端部側においてスプライン軌道(2b)にボールを介して嵌め合わされてねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内するボールスプライン外筒(4)と、ボールねじナット(3)に一体化されて上方にのびる中空軸(5)と、軸受(7)を介して中空軸(5)を回転可能に支持するとともにボールスプライン外筒(4)を支持するハウジング(6)と、中空軸(5)に固定された円筒状のモータロータ(9)およびハウジング(6)内径に固定された円筒状のモータステータ(10)からなるモータ(8)とを備えている。
【0023】
モータ(8)は、永久磁石型三相同期モータとされており、モータロータ(9)が永久磁石とされて、モータステータ(10)にU相、V相およびW相の三相のコイル(10a)が巻かれている。
【0024】
ねじ軸(2)と中空軸(5)とは、同心状に配置されており、ボールねじ装置(1)は、ボールねじナット(3)、中空軸(5)およびモータロータ(9)を回転させて、ねじ軸(2)を直線移動させる形態で使用される。
【0025】
中空軸(5)は、ねじ軸(2)を案内する小径部(11)と、内周面がボールねじナット(3)の外周面に固定されかつ外周面に軸受(7)を保持する大径部(12)とからなる。
【0026】
ボールスプライン外筒(4)は、ねじ軸(2)の回転を防止してその上下移動を案内するために、回り止め部(例えばキー)(13)によってハウジング(6)に対して回り止めされる。
【0027】
図3に示すように、ボールスプライン外筒(4)は、略円筒状の金属製外筒本体(21)の両端面に略円板状の金属製エンドキャップ(22)がそれぞれ突き合わされて、ボルト(23)によって締結されることで形成されている。
【0028】
図2および図3に示すように、外筒本体(21)には、軸方向にのびており両端面においてそれぞれ開口する複数対のスプライン軌道(24)および戻し通路(25)が形成されている。エンドキャップ(22)には、各スプライン軌道(24)と各戻し通路(25)とをつなぐ連通路(26)が形成されている。
【0029】
図2に示すように、各スプライン軌道(24)は、内周に開口しており、ねじ軸(2)に形成されたスプライン軌道(2b)に対向させられて、主通路を形成する。また、各戻し通路(25)は、横断面が円形とされて、外筒本体(21)に形成されている。これにより、ボールスプライン外筒(4)には、保持器を使用しないで、スプライン軌道(24)、戻し通路(25)および連通路(26)からなる循環路が形成されている。外筒本体(21)の外径は、図5に示した従来の保持器本体(33)の外径と同等の大きさとすることができ、小型化が可能となっている。
【0030】
このモータ付きボールねじ装置(1)は、例えば、自動車の電磁緩衝器用として使用するのに適している。電磁緩衝器は、タイヤから伝わる外力によってねじ軸(2)が軸方向に直線移動し、これに伴って、ボールねじナット(3)および中空軸(5)が回転し、この回転運動をモータ(8)に取り込んで、モータ(8)で発生する電磁力を減衰力として利用するようになっている。
【0031】
上記のモータ付きボールねじ装置(1)は、電磁緩衝器用に限られるものではなく、電動アクチュエータとして使用することもできる。この場合、モータ(8)の回転駆動力をボールねじナット(3)を介してねじ軸(2)の軸方向推力に変換し、推力の軸方向反力を軸受(7)で支持してねじ軸(2)を直線運動させ、ねじ軸(2)に作用する軸方向荷重をボールねじナット(3)で負荷するとともに、トルクをボールスプライン外筒(4)で支持した形態での使用となる。
【符号の説明】
【0032】
(2) ねじ軸(軸)
(2b) スプライン軌道
(4) ボールスプライン外筒
(21) 外筒本体
(22) エンドキャップ
(24) スプライン軌道
(25) 戻し通路
(26) 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン軌道が設けられた軸と、ボールを介して軸に嵌め合わされたボールスプライン外筒とを備えているボールスプラインにおいて、
ボールスプライン外筒は、両端面においてそれぞれ開口するスプライン軌道および戻し通路が形成された金属製の外筒本体と、スプライン軌道と戻し通路とをつなぐ連通路が形成されており外筒本体の両端面に突き合わされた金属製のエンドキャップとを有していることを特徴とするボールスプライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−230084(P2010−230084A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78288(P2009−78288)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】