説明

ポテトプロテインから粗チロシン又は粗ロイシンを分離する方法

【課題】ポテトプロテインの加水分解物から、効率的に粗チロシン又は粗ロイシンを分離する方法と、分離された粗チロシンに含まれる色素を効率的に分離する方法を提供する。
【解決手段】ポテトプロテインの加水分解物から粗チロシン又は粗ロイシンを分離する方法は、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程とからなり、活性炭処理液を粗チロシン画分と粗ロイシン画分とに分画する。粗チロシンの色素は、粗チロシン画分のpHを調整しチロシンの粗結晶を分離した後、粗結晶を酸で溶解し、酸溶液のpHを調整して、粗チロシンを再結晶することにより除去する。粗ロイシン画分は塩化ナトリウム濃度を調節して粗ロイシンを結晶化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポテトプロテインから粗チロシン又は粗ロイシンを分離して抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポテトプロテインは、馬鈴薯由来のタンパク質であり、大豆タンパクと遜色ない構成アミノ酸を有するため、良質な植物性タンパク源として利用が期待されている。しかし、褐変して、見栄えがよくないことと、難消化性であるため、単独で食品として活用されることはほとんどなく、飼料として利用されるのがほとんどである。
【0003】
ポテトプロテインの活用を広げるため、ポテトプロテインを加水分解し、ペプチド混合物にして利用することが提案されている。例えば、特許文献1には、ポテトプロテインを加水分解して、アンジオテンシン変換酵素阻害活性を有するペプチド混合物を製造することが開示されている。また、特許文献2には、ポテトプロテインの加水分解物の可溶成分にビートアミノ酸を配合して調味料を製造することが開示されている。
【0004】
また、ポテトプロテイン以外の植物性プロテインでは、タンパク質を加水分解して得られる水難溶性のアミノ酸、例えば、チロシンやロイシンを利用することが行われている。ロイシンは、タンパク質加水分解物からo−キシレンスルホン酸塩として分離する方法が一般的である。チロシンに関しては、タンパク質の加水分解物をpH1.5〜4付近の酸性側で再結晶を繰り返すことにより得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3373156号公報
【特許文献2】特許第2967121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、ポテトプロテインには様々なアミノ酸が含まれている。しかしながら、これまでポテトプロテインの加水分解物の水可溶性成分のみが利用されているだけで、チロシンやロイシンのような水に難溶性のアミノ酸(以下、難溶性アミノ酸という)は活用されることなく廃棄されていた。この理由は、ポテトプロテイン加水分解物からの粗チロシン抽出率が低いこと、そして、ポテトプロテインには他の植物性タンパク質に比べ褐色の色素成分が多く、この色素成分を粗チロシンから分離することが困難でかつ煩雑であること、ポテトプロテインに含まれる色素以外の成分の除去が困難であることから粗チロシンと粗ロイシンの分離が煩雑なってしまうことにある。
【0007】
ポテトプロテインは、図5に示すように、馬鈴薯を磨砕して粗デンプンを抽出した残液に含まれるたんぱく質を加熱し、凝固沈殿させて製造されている。
【0008】
ポテトプロテインに含まれる色素は、馬鈴薯の磨砕時に生成するポリフェノール酸化物や馬鈴薯に含まれるチロシナーゼにより生成するメラニン色素である。これらのポリフェノール酸化物やメラニン色素がタンパク質と結合してポテトプロテイン中に含まれることになる。
【0009】
これらの色素は、ポテトプロテインの酸加水分解時に加水分解溶液中に遊離するが、難溶性アミノ酸を晶析させるために、中和すると難溶性アミノ酸とともに共沈するため、中和前に分離することが望ましい。色素除去には、通常、活性炭処理やイオン交換処理手段が用いられるが、酸性条件下で活性炭処理をしても色素はほとんど取り除くことができない。
【0010】
一般に、タンパク質の加水分解物をpH1.5〜4付近の酸性側で繰り返し再結晶することにより、チロシンを抽出できることが知られている。しかし、ポテトプロテインの加水分解物は再結晶を繰り返してもチロシンの収率が低く、ほとんど再結晶しない場合もある。
【0011】
また、ポテトプロテインの加水分解物には蝋様物質が含まれている。実用化において、一般的に、蝋様物質はパーライト等の濾過助剤による除去操作が行われるが、ポテトプロテイン由来の蝋様物質は濾過助剤に吸着され難いため、濾過助剤以外の吸着物質を用いた新たな分離操作を確立する必要がある。
【0012】
本発明者は、上記問題点に鑑み、ポテトプロテインの加水分解物の難溶性アミノ酸に含まれるチロシンとロイシンの抽出について研究を進めたところ、蝋様物質がチロシンの晶析に影響を及ぼすことを見出した。この知見に基づき、蝋様物質の効率的な除去方法とチロシン結晶からの色素除去方法について鋭意研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第一の目的は、ポテトプロテインの加水分解物から、効率的に粗ロイシン又は粗チロシンを分離して抽出する方法を提供することにある。
【0014】
本発明の第二の目的は、ポテトプロテインの加水分解物から分離された粗チロシンに含まれる色素を効率的に分離する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の粗チロシンを分離する方法の第一は、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程と、活性炭処理後の酸溶液のpHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程と、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整して、粗チロシンを再結晶して分離する工程とを含む、粗チロシンの分離方法である。
【0016】
粗チロシンを分離する方法の第二は、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程と、活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程と、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整し、粗チロシンを再結晶して分離する工程とを含む、粗チロシンの分離方法である。
【0017】
本発明の粗ロイシンを分離する方法の第一は、ポテトプロテインを塩酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程と、活性炭処理後の酸溶液のpHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程と、分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程とを含む、粗ロイシンの分離方法である。
【0018】
粗ロイシンを分離する方法の第二は、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程と、活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程と、分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程とを含む、粗ロイシンの分離方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ポテトプロテインの加水分解物から粗チロシンと粗ロイシンとを効率的に分離することができる。ポテトプロテインのチロシンやロイシンは、これまで、廃棄物として処分されていた難溶成分に含まれる成分であり、調味料として利用されることのなかったポテトプロテイン成分を有効に活用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の粗チロシンの分離抽出方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図2】本発明の粗ロイシンの分離抽出方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図3】ポテトプロテインの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を幾つかの実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
「第一実施形態:粗チロシンの分離方法(1)」
本実施形態の粗チロシンの抽出分離方法を図1に示す。すなわち、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程と、活性炭処理後の酸溶液のpHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程と、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整し、粗チロシンを再結晶して分離する工程とを含む、粗チロシンの分離方法である。なお、晶析とは、溶液中に含まれる単一又は複数の成分が結晶化して溶液中に析出することを意味する。
【0023】
ポテトプロテインの酸による加水分解工程は、一般的に知られているタンパク質の加水分解条件と同じであり、例えば、pH4以下の酸溶液を加熱して行うことができる。なお酸は特に限定されるものではないが、鉱酸、好ましくは塩酸である。
【0024】
次いで、加水分解物中の難溶性アミノ酸を晶析させて、難溶性アミノ酸を分離する。難溶性アミノ酸の晶析は、加水分解物を含む酸溶液を中和する操作を行えばよい。中和剤は特に限定されるものではないが、食品添加物として認められているものであればよく、好ましくは水酸化ナトリウムである。中和は、pHを4.5〜7の範囲に調整する。好ましくは、中性アミノ酸の等電点であるpH5.0〜5.2に調整する。中和後の難溶性アミノ酸晶析のための時間は長いほどよく、特に限定されるものではないが24時間以上が望ましく、2日以上が好ましい。これは難溶性アミノ酸、特にロイシンの結晶化速度が遅く、緩やかに晶析するためである。
【0025】
なお、加水分解物を含む酸溶液には繊維質等の不溶物質が含まれているので、難溶性アミノ酸を晶析させる前に溶液中の繊維質等の不溶成分を除去することが望ましい。これは、難溶性アミノ酸の晶析を効果的に行うためである。不溶成分の除去はパーライトやラジオライト等の濾過助剤を用いて濾過操作を行えばよい。
【0026】
得られた晶析物を濾過して分離した後、晶析物を酸で溶解し、活性炭で処理する。この操作により、酸溶解液中に含まれる蝋様物質が除去される。蝋様物質が酸溶解液から除去されていないと、次工程で粗チロシンの晶析が阻害される。なお、この操作では色素はほとんど除去されない。
【0027】
晶析物を溶解する酸は、鉱酸であればよく、塩酸や希硫酸を用いることができる。好ましくは塩酸である。晶析物を酸で溶解すると、難溶性アミノ酸と共沈して分離された蝋様の物質が酸溶解液中に遊離してくる。ポテトプロテイン由来の蝋様物質は、濾過助剤に吸着されないので、前工程での濾過助剤を用いた濾過したとしても除去されない。
【0028】
この活性炭処理工程は、本発明者らの研究において得られた新たな知見である「ポテトプロテイン由来の蝋様物質は濾過助剤に吸着せず、活性炭に吸着すること」に基づき確立されたものである。
【0029】
実験室レベルのような少量の処理量の場合、濾過等の物理的な分離操作で取り除くことができるが、処理量が多くなると分離効率が悪くなるので、分離操作時あるいは分離操作の前に取り除く必要がある。一般に蝋様の不純物は、濾過助剤を併用することにより取り除くことができるが、前述したように、ポテトプロテイン由来の蝋様物質は濾過助剤に吸着されないので濾過助剤では除去不能である。
【0030】
本発明者らが蝋様物質の除去を検討したところ、活性炭が蝋様物質を吸着することが判明した。活性炭は、ガス賦活炭、リン酸賦活炭又は塩化亜鉛賦活炭を使用することができる。好ましくは、ニホンエンバイロケミカルズ(株)のカルボラフィン(例えばカルボラフィン50W−20)や二村化学(株)のタイコー(タイコ−S−W50)等の塩化亜鉛賦活炭である。水蒸気活性炭に代表されるガス賦活炭を用いる場合は、塩化亜鉛賦活炭より多い量を必要とする。
【0031】
活性炭処理は、酸溶解液を加温して行うと処理効率が向上する。しかし、蝋様物質の融点は約60℃であるため、加温温度は60℃以下、好ましくは40〜50℃の範囲である。活性炭処理は、30分〜1時間程度攪拌混合して行えばよい。
【0032】
なお、活性炭処理の前に分離された濾過液は水溶性アミノ酸を含んでいるので、これを調味料の製造に利用することができる。
【0033】
活性炭処理後、処理液から酸溶液を分離して粗チロシンの晶析を行う。
【0034】
活性炭処理では色素はほとんど除去されないので、分離された酸溶液は黒褐色を呈している。次いで、得られた溶液のpHを中和剤で調整して粗チロシンを晶析させる。中和剤は特に限定されるものではないが、食品添加物として認められているものであればよく、好ましくは水酸化ナトリウムである。中和は、中和剤を添加してpHを4.5〜7の範囲に調整する。好ましくは、ロイシンの等電点であるpH5.0〜5.2に調整する。
【0035】
粗チロシンは温度が高いと結晶が大きく成長し、粗ロイシンとの分離が容易になるので、50〜70℃の範囲、好ましくは60℃に加温して中和し、攪拌を行いながら結晶を成長させる。粗チロシン晶析に要する時間は短いほうがよく、約3時間程度である。長く行うと粗ロイシンが晶析し始めるので好ましくない。
【0036】
次に、粗チロシン結晶を分離し、酸で溶解した後pHを調整して、粗チロシンを再結晶して分離する。粗チロシンを再結晶することにより、粗チロシン結晶に含まれる色素が除去され、脱色された粗チロシン結晶を得ることができる。
【0037】
粗チロシン結晶を溶解する酸は、鉱酸であればよく、塩酸や希硫酸を用いることができる。好ましくは塩酸である。pHは水酸化ナトリウム溶液でpH8〜9.5、好ましくはpH8.5〜9.5、さらに好ましくはpH9.0〜9.1の範囲に調整する。
【0038】
粗チロシン結晶は色素を含んでいるために黒褐色を呈しており、この色素を含んだ酸溶解液は活性炭処理しても脱色されない。粗チロシンを溶解した酸を水酸化ナトリウムで中和すると、色素はpH1.5付近から沈澱し始め、pH8付近から再び溶解し始める。一方、粗チロシンはpH1.5付近から晶析し始め、pH9.5付近までは溶解しない。したがって、pHを8〜9.5、好ましくはpH8.5〜9.5、さらに好ましくはpH9.0〜9.1の範囲に調整することにより、溶解した色素を除去することができる。このようにして、脱色された粗チロシン結晶を得ることができる。この操作を繰り返すことにより、さらに色素を取り除くことができる。
【0039】
得られた粗チロシン結晶を塩酸に溶解し、加熱した後pHを3〜3.5付近に調整して冷却するとL−チロシンが針状に結晶析出する。L−チロシンを分離し、洗浄して乾燥することにより食品添加物規格に適合したL−チロシンが得られる。
【0040】
本実施形態により、ポテトプロテインの加水分解物から粗チロシンを効率的に分離抽出することが可能となった。さらに、これまで困難であった粗チロシンの脱色も可能となったので、これまで廃棄物として処分されていたポテトプロテイン由来のチロシンを有効に活用することができる。
【0041】
「第二実施形態:粗チロシンの分離方法(2)」
第二実施形態は、難溶性アミノ酸を晶析させる工程と活性炭処理工程の順番が第一実施形態とは異なる。すなわち、第二実施形態の粗チロシンの分離方法は、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程と、活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程と、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整し、粗チロシンを再結晶して分離する工程とを含む方法で成る。
【0042】
ポテトプロテインを酸で加水分解する工程は第一実施形態に記載したとおりである。
【0043】
次に得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する。この工程は第一実施形態同様、ポテトプロテインの加水分解物に含まれる蝋様物質を除去するための操作である。活性炭の種類、除去条件は第一実施形態と同じである。
【0044】
なお、加水分解物を含む酸溶液には繊維質等の不溶物質が含まれているので、第一実施形態と同様に活性炭処理する前に溶液中の繊維質等の不溶成分を除去することが望ましい。これは、活性炭処理を効果的に行うためである。不溶成分の除去はパーライトやラジオライト等の濾過助剤を用いて濾過操作を行えばよい。
【0045】
活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させるために使用する中和剤、中和条件は第一実施形態に記載したとおりである。
【0046】
得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後、pHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程及び、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整し、粗チロシンを再結晶して分離する工程の操作条件は、第一実施形態と同じである。
【0047】
第一実施形態同様、ポテトプロテインの加水分解物から粗チロシンを効率的に分離抽出することが可能となった。ポテトプロテイン由来のチロシンは、これまで、廃棄物として処分されていた難溶成分に含まれる成分であり、調味料として利用されることのなかったポテトプロテイン成分を有効に活用することが可能となる。
【0048】
「第三実施形態:粗ロイシンの分離方法(1)」
本実施形態の粗ロイシンの抽出分離方法を図2に示す。すなわち、第3実施形態の粗ロイシンの分離方法は、ポテトプロテインを塩酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程と、活性炭処理後の酸溶液のpHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程と、分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程とを含む。
【0049】
ポテトプロテインを塩酸で加水分解する工程、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程及び、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程は、第一実施形態と同じである。
【0050】
活性炭処理後、処理液から酸溶液を分離する。そして、酸溶液中に含まれる粗チロシンを晶析させて溶液から分離する。粗ロイシンの晶析に用いる中和剤、晶析条件は、第一実施形態の条件と同じである。
【0051】
また、第一実施形態に記載したように、粗チロシンは温度が高いと結晶が大きく成長し、粗ロイシンとの分離が容易になるので、50〜70℃の範囲、好ましくは60℃に加温して中和し、攪拌を行いながら結晶を成長させる。粗チロシン晶析に要する時間は短いほうがよく、約3時間程度である。長く行うと粗ロイシンが晶析し始めるので好ましくない。
【0052】
粗チロシンの結晶を濾過除去して得られた濾液を採取し、溶液中の塩化ナトリウム濃度を調整し、加熱してから放置して、粗ロイシンを晶析させて結晶を分離する。塩化ナトリウムの濃度範囲は23〜27g/デシリットルが好ましい。塩化ナトリウムの濃度が23g/デシリットル以下ではロイシンが晶析され難く収率が低下し、27g/デシリットル以上では塩化ナトリウムの結晶化が起こり、粗ロイシン結晶と混入するので好ましくない。
【0053】
得られた粗ロイシンは以下の方法で精製することができる。
【0054】
粗ロイシンの結晶に水を加えた後、攪拌しながら結晶が溶けきるまで塩酸を加える。塩酸溶液にo−キシレン−4−スルホン酸水溶液を加えてo−キシレン−4−スルホン酸塩とする。o−キシレン−4−スルホン酸塩を濾過して回収し、水とアンモニア水を加えて溶解する。さらに活性炭を加えて脱色した後、減圧濃縮してアンモニアを除去するとともに、析出した結晶を乾燥する。この操作により食品添加物の規格に適合したL−ロイシンを得ることができる。
【0055】
本実施形態により、ポテトプロテインの加水分解物から粗ロイシンをチロシンと効率的に分離することが可能である。ポテトプロテイン由来のロイシンは、難溶性成分であることから、これまで抽出操作が煩雑でコストの観点からあまり活用されていなかったが、ポテトプロテインから容易に得ることが可能になり、L−ロイシンを安定的に提供することできる。
【0056】
「第四実施形態:粗ロイシンの分離方法(2)」
第四実施形態は、難溶性アミノ酸を晶析させる工程と活性炭処理工程の順番が第三実施形態とは異なる。すなわち、第四実施形態の粗ロイシンの分離方法は、ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程と、活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程と、分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程とを含む。
【0057】
ポテトプロテインを酸で加水分解する工程及び、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程は、粗チロシンを分離する方法で述べた第二実施形態と同じである。
【0058】
活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程、及び分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程は、第三実施形態と同じである。
【0059】
第三実施形態と同様、ポテトプロテインの加水分解物から粗ロイシンをチロシンと効率的に分離することが可能である。ポテトプロテイン由来のロイシンは、難溶性成分であることから、これまで抽出操作が煩雑でコストの観点からあまり活用されていなかったが、ポテトプロテインから容易に得ることが可能になり、L−ロイシンを安定的に提供することできる。
【0060】
以下、幾つかの実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0061】
「粗ロイシンの分離」
濃塩酸約5リットルと水約3.5リットルにポテトプロテイン6Kgを加え、14時間沸騰させて、ポテトプロテインを加水分解した後、48%NaOH溶液100mリットルを加えた。さらに、パーライト、ラジオライトを各々200g添加して濾過を行い、濾過液約13リットルを得た。
【0062】
得られた濾過液に48%NaOH溶液2.8リットルを加え、pHを5.0〜5.2程度に調整し、室温下に2日間放置して結晶化した。結晶を遠心分離で分離し、約2.4Kgの固形物を得た。この固形物の水分含有率は約47%であった。
【0063】
固形物に水3.2リットル及び濃塩酸650mリットルを加え、約40〜50℃に加温して完全に溶解してからカルボラフィン(ニホンエンバイロケミカル社)400gを添加して1時間攪拌した。固形物の溶解液のpHは0.5以下であった。さらにブッフナー漏斗を用い、減圧濾過して固形分を取り除いた。得られた溶液は黒褐色をしていた。この溶液を60℃に加温し、濃度20%の水酸化ナトリウム溶液でpHを5.0〜5.2程度に調整し、室温下で3時間攪拌した後、濾過して、濾液を7リットル得た。
【0064】
この濾液には、固形分約1.3kg、そのうち塩化ナトリウムは約9g/デシリットル含まれていた。この段階で、塩化ナトリウム溶液の濃度を確認し、濃度を23〜25g/デシリットル程度になるように調整する必要があるため、減圧濃縮した。濃度が27g/デシリットル以上になると、塩化ナトリウムの結晶化析出しやすいので好ましくない。この溶液を60〜70℃程度に加温し攪拌した。一晩室温に放置した後に析出した結晶を濾過して採取し、60℃で送風乾燥して、粗結晶としてロイシンを約400g得た。この粗結晶のロイシン含有率は約60%であった。
【実施例2】
【0065】
「粗チロシンの分離」
濃塩酸約5リットルと水約3.5リットルにポテトプロテイン6kgを加え、14時間沸騰させて、ポテトプロテインを加水分解した後、48%NaOH溶液100mリットルを加えた。さらに、パーライト、ラジオライトを各々200g添加して濾過を行い、濾過液約13リットルを得た。
【0066】
得られた濾過液に48%NaOH溶液2.8リットルを加え、pHを5.0〜5.2程度に調整し、室温下に2日間放置して結晶化した。結晶を遠心分離で分離し、約2.4Kgの固形物を得た。この固形物の水分含有率は約47%であった。
【0067】
固形物に水3.2リットル及び濃塩酸650mリットルを加え、約40〜50℃に加温して完全に溶解してからカルボラフィン(ニホンエンバイロケミカル社)400gを添加して1時間攪拌した。固形物の溶解液のpHは0.5以下であった。さらにブッフナー漏斗を用い、減圧濾過して固形分を取り除いた。得られた溶液は黒褐色をしていた。この溶液を60℃に加温し、濃度20%の水酸化ナトリウム溶液でpHを5.0〜5.2程度に調整し、室温下で3時間攪拌した後、静置して濾過し、濃黒褐色の固形分約300gを得た。
【0068】
固形分に水約2リットル及び濃塩酸170mリットルを加えて溶解し、20%の水酸化ナトリウム溶液でpHを9.0程度に調整し、室温下で1時間攪拌した後、静置した。pH調整前の溶液は黒褐色を呈していた。静置して得られた沈殿物を約2リットルの水で水洗しながら濾過を行い、60℃で送風乾燥して、淡灰褐色の粗チロシン約100gを得た。得られた粗チロシン中のチロシン含有量は約95%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程と、活性炭処理後の酸溶液のpHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程と、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整して、粗チロシンを再結晶して分離する工程とを含む、粗チロシンの分離方法。
【請求項2】
ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程と、活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンの粗結晶を得る工程と、分離したチロシンの粗結晶を酸で溶解した後、酸溶液のpHを調整し、粗チロシンを再結晶して分離する工程とを含む、粗チロシンの分離方法。
【請求項3】
前記活性炭が塩化亜鉛賦活炭である、請求項1又は2記載の粗チロシンの分離方法。
【請求項4】
前記粗チロシンの再結晶がpH8〜9.5の範囲で行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の粗チロシンの分離方法。
【請求項5】
前記難溶性アミノ酸を晶析させる工程において、前記加水分解物を含む溶液中の不溶成分を除去する操作を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の粗チロシンの分離方法。
【請求項6】
ポテトプロテインを塩酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、難溶性アミノ酸を酸で溶解し活性炭で処理する工程と、活性炭処理後の酸溶液のpHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程と、分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程とを含む、粗ロイシンの分離方法。
【請求項7】
ポテトプロテインを酸で加水分解する工程と、得られた加水分解物を含む溶液を活性炭で処理する工程と、活性炭処理溶液から難溶性アミノ酸を晶析させる工程と、得られた難溶性アミノ酸を酸で溶解した後pHを調整しチロシンを晶析させて取り除く工程と、分離した溶液の塩化ナトリウム濃度を調整してロイシンの粗結晶を得る工程とを含む、粗ロイシンの分離方法。
【請求項8】
前記活性炭が塩化亜鉛賦活炭である、請求項6又は7記載の粗ロイシンの分離方法。
【請求項9】
前記難溶性アミノ酸を晶析させる工程において、前記加水分解物を含む溶液中の不溶成分を除去する操作を含む、請求項6〜8のいずれかに記載の粗ロイシンの分離方法。
【請求項10】
前記塩化ナトリウム濃度が23〜27g/デシリットルの範囲である、請求項6〜9のいずれかに記載の粗ロイシンの分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−46673(P2011−46673A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198849(P2009−198849)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(393017535)コスモ食品株式会社 (18)
【Fターム(参考)】