説明

ポリアセタール樹脂組成物の製造方法

【課題】成形品からのホルムアルデヒド発生及び成形時の金型汚染が共に抑制されたポリアセタール樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】
(A)ポリアセタール樹脂と(B)立体障害性フェノール系化合物とを溶融混練して安定化ペレットを製造し、これを気相中で80℃以上かつ融点未満の温度で6時間以上保持した後、これと(C)ホルムアルデヒド捕捉剤とを溶融混練する。(B)立体障害性フェノール系化合物の好ましい配合量は、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜1重量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物、特に同一組成の従来品に比して、成形品からのホルムアルデヒド発生と、成形時の金型汚染が共に抑制された、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性と良好な自己潤滑特性及び電気的特性のバランスに優れたエンジニアリングプラスチックであり、各種の機械部品や電気部品等に広く使用されている。
【0003】
然しながら、ポリアセタール樹脂は、主原料がホルムアルデヒドであるため、重合や成形時の熱履歴により熱分解し、きわめて微量ながらもホルムアルデヒドが発生する。ホルムアルデヒドの発生は環境を汚染し、特に成形品からのホルムアルデヒドの発生は、シックハウス症候群の原因の一つと考えられている。厚生労働省は室内ホルムアルデヒド濃度指針値を0.08ppmと規定しており、従来にも増してホルムアルデヒド発生量の少ない成形品を与えるポリアセタール樹脂組成物が求められている。
【0004】
ポリアセタール樹脂からのホルムアルデヒド発生を抑制する方法としては、重合触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸等の強プロトン酸を用いて、ホルムアルデヒドの発生の少ないポリアセタール樹脂を製造することが提案されている(特許文献1)が、現在では、ポリアセタール樹脂にホルムアルデヒド捕捉剤として種々の添加剤を配合することによりホルムアルデヒドの発生を抑制する方法が主として採用されている。ホルムアルデヒド捕捉剤としては、例えば、メラミン−ホルムアルデヒド重縮合物(特許文献2)、窒素含有化合物−ホウ酸塩(特許文献3)、グリオキシジウレイド化合物(特許文献4)、尿素誘導体および/またはアミジン誘導体(特許文献5)、フェノール類と塩基性窒素含有化合物とアルデヒド類との縮合物(特許文献6)、トリアジン環含有スピロ化合物(特許文献7)、アジピン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物等が知られている。そして、一般にホルムアルデヒド捕捉剤の含有量が多い樹脂組成物から成る成形品の方がホルムアルデヒドの発生量は少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−86738号公報
【特許文献2】特開平5−271516号公報
【特許文献3】特開平10−36630号公報
【特許文献4】特開平10−182928号公報
【特許文献5】特開2000−34417号公報
【特許文献6】特開2002−212384号公報
【特許文献7】特開2003−113289号公報
【0006】
然しながら、ホルムアルデヒド捕捉剤を含有するポリアセタール樹脂組成物は、成形時に、含有されているホルムアルデヒド捕捉剤が金型を汚染するという問題がある。金型汚染は一般に樹脂組成物のホルムアルデヒド捕捉剤濃度が高いほど顕著となる。従って、現状では、成形品からのホルムアルデヒドの発生抑制と、成形時の金型汚染の防止とは相反する関係にある。従って、特許文献1〜7に記載の技術では、ホルムアルデヒド発生抑制と成形時の金型汚染防止の両方を十分に満足することはできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形品からのホルムアルデヒドの発生抑制と、成形時の金型汚染の抑制とを同時に満足するポリアセタール樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、先ずポリアセタール樹脂に立体障害性フェノール系化合物を含有させた安定化ペレットを製造し、これを気相中で高温に保持した後、このペレットにホルムアルデヒド捕捉剤を添加して溶融混練することにより、同じ組成の樹脂組成物に比して、成形品からのホルムアルデヒドの発生が少なく、かつ成形時の金型汚染も少ない樹脂組成物を製造することができる。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、
(A)ポリアセタール樹脂と(B)立体障害性フェノール系化合物とを溶融混練して安定化ペレットを製造し、これを気相中で80℃以上かつ融点未満の温度で6時間以上保持した後、これを(C)ホルムアルデヒド捕捉剤と溶融混練することを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂組成物の組成を変更せずに、成形品からのホルムアルデヒドの発生と、成形時の金型汚染とを共に抑制することができる。また、金型汚染の許容範囲内において樹脂組成物中のホルムアルデヒド捕捉剤濃度を高めることにより、ホルムアルデヒド発生量のより少ない成形品を製造することもできる。従って、本発明は自動車内装部品、家屋や学校等に使用される建材部品、及び電気部品、機械部品等に用いられているポリアセタール樹脂成形品からのホルムアルデヒドの発生抑制にきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本願実施例の金型汚染性の評価で使用した、しずく型金型の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
(A)ポリアセタール樹脂:
本発明に使用される(A)ポリアセタール樹脂は市販品でよく、オキシメチレン基(−CHO−)を主たる構成単位とするアセタールホモポリマー以外に、オキシメチレン基以外の構成単位を含むコポリマー(ブロックポリマーも含む)やターポリマー等であってもよい。また、ポリアセタール樹脂は、分岐構造や架橋構造を有していてもよい。オキシメチレン基以外の構成単位としては、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基(−CHCHCHO−)、オキシブチレン基(−CHCHCHCHO−)等の炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基が挙げられ、なかでも、オキシエチレン基が好ましい。ポリアセタール樹脂に占めるこれらのオキシアルキレン基の含有量は、0.1〜20重量%が好ましい。
【0013】
オキシメチレン基(−CHO−)と炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂は、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキソカン、1,3−ジオキセパン等の炭素原子数2〜4のオキシアルキレン基を含む環状オリゴマーとを共重合することによって製造することができる。なかでも、トリオキサンやテトラオキサン等の環状オリゴマーとエチレンオキサイド若しくは1,3−ジオキソランとの共重合体が好ましく、トリオキサンと1,3−ジオキソランとの共重合体が更に好ましい。ポリアセタール樹脂のメルトインデックス(ASTM−D1238:190℃、2.16kg)は、通常0.1〜100g/10分であるが、0.5〜80g/10分が好ましい。
【0014】
(B)立体障害性フェノール系化合物:
本発明において使用される(B)立体障害性フェノール系化合物としては、一般に熱可塑性樹脂の安定剤として用いられているものを用いることができる。通常はベンゼン環に1個のヒドロキシ基が結合しており、かつヒドロキシ基が結合している炭素原子に隣接する2個の炭素原子の一方に置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキル基、他方に置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキレン基が結合している部分構造を少なくとも1個有する化合物を用いる。好ましくはヒドロキシ基が結合している炭素原子に隣接する2個の炭素原子にいずれもアルキル基が結合している下記一般式(1)で表される部分構造を少なくとも1個有する化合物を用いる。
【0015】
【化1】

【0016】
(一般式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基等炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。これらのアルキル基には更に置換基が結合していてもよい。なお、ベンゼン環には更に他の置換基が結合していてもよい。)
【0017】
(B)立体障害性フェノールの具体例としては、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルジメチルアミン、ステアリル−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、ジエチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、2,6,7−トリオキサ−1−ホスファ−ビシクロ〔2,2,2〕−オクト−4−イル−メチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート、
【0018】
3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−3,5−ジステアリル−チオトリアジルアミン、2−(4’―ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、
【0019】
1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2’−チオジエチル−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。
【0020】
これらのなかでも前記一般式(1)において、R及びRの少なくとも一方がt−ブチル基のような嵩高いものであるのが好ましい。
前記一般式(1)で表される部分構造を有する化合物のなかでも特に好ましいのは、下記一般式(2)で表される部分構造を少なくとも1個有する化合物である。
【0021】
【化2】

【0022】
(一般式(2)において、R及びRは、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素原子数1〜6、好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。好ましくは、R及びRの少なくとも一方がt−ブチル基である。)
【0023】
上記で例示した化合物のなかで一般式(2)に属する化合物は、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2’−チオジエチル−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕である。
【0024】
これらのなかでも、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2’−チオジエチル−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕がより好ましい。
【0025】
(B)立体障害性フェノール系化合物は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して通常は0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上配合する。0.01重量部未満では溶融混練、射出成形時に所望の熱安定化効果を発現しない。しかし配合量が多いと、成形品表面からのブリード物が多くなる。また、樹脂組成物が分解しやすくなり、その結果ホルムアルデヒドの発生量がかえって増加する危険性がある。従って、立体障害性フェノール系化合物の配合量は、所望の安定化効果を発現する範囲内で少量に止めるのが好ましい。通常は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して2重量部以下の配合量とすべきであり、1重量部以下、特に0.7重量部以下の配合に止めるのが好ましい。なかでも、ポリアセタール樹脂と立体障害性フェノール系化合物とを溶融混練して製造したペレットの熱重量測定(TG)により測定される熱分解温度が350℃以上となるように配合するのが好ましい。また、熱分解温度が350℃以上とする方法は、上記立体障害性フェノール系化合物を特定量配合する方法の他に、例えば、ポリアセタール樹脂の製造中に、分子鎖中の不安定末端部を除去したり、不純物を除去したりする方法等が挙げられる。なお、本発明において熱分解温度とは、熱重量測定(TG)における重量減少の開始温度を意味し、例えば、(パーキンエルマー社製、Pyris1 TGA)のような熱分析に一般的に用いられる装置を使用し、例えば、40〜700℃まで20℃/minの速度で昇温する条件により測定することができる。
【0026】
本発明では、先ず(A)ポリアセタール樹脂と(B)立体障害性フェノール系化合物とを溶融混練して安定化ペレットを製造する。このペレットの製造はペレット製造の常法に従って行えばよい。例えば、(A)ポリアセタール樹脂と(B)立体障害性フェノール系化合物とをよく混合し、これを単軸又は2軸押出機に供給して溶融混練する。溶融混練物は水中にストランド状に押出して固化させ、切断してペレットとする。
【0027】
ペレットは次いで気相中で80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上の温度に保持する。保持温度の上限はペレットの融点未満、即ちペレットが融解しない温度であればよいが、通常は120℃以下である。保持時間は通常は6時間以上であるが、8時間以上保持するのが好ましい。保持時間の上限は任意であるが、通常は24時間以下で十分である。当該処理により、溶融樹脂を水中に押し出して行うペレット化の際に付着した水分や、溶融混練により発生したホルムアルデヒドが除去されると考えられる。当該処理は、上記ペレットに付着した水分やホルムアルデヒドが除去されるように保持条件を設定する。従って、保持は乾燥空気や窒素ガス等の流通下、即ちペレットが吸湿しない非吸湿条件下に行うのが好ましい。
【0028】
上記の高温保持処理を経た安定化ペレットは、次いで(C)ホルムアルデヒド捕捉剤と溶融混練して所望の組成の樹脂組成物とする。
【0029】
(C)ホルムアルデヒド補足剤:
ホルムアルデヒド捕捉剤としては、ヒドラジド系化合物、アミノトリアジン系化合物、グアニジン系化合物、尿素系化合物、アミノ酸系化合物、アミノ系化合物、イミド系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物等、常用の任意のものを用いることができる。
【0030】
ヒドラジド系化合物としては、脂肪族ヒドラジド化合物、脂環族ヒドラジド化合物、芳香族ヒドラジド化合物、ヘテロ原子含有ヒドラジド化合物、ポリマー型ヒドラジド化合物等が挙げられる。
【0031】
脂肪族ヒドラジド化合物としては、ラウリン酸ヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、12−ヒドロキシステアリン酸ヒドラジド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸ヒドラジド、コハク酸モノヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸モノヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸モノヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸モノヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸モノヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸モノヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸モノヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸モノヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、エイコサン二酸モノヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド等が挙げられる。また、ダイマー酸のモノヒドラジドやジヒドラジド、トリマー酸のモノヒドラジド、ジヒドラジド、トリヒドラジド等も挙げられる。なお、脂肪族ジヒドラジドを用いる場合は、20℃における水100gに対する溶解度が1g未満のものが好ましい。
【0032】
脂環族ヒドラジド化合物としては、シクロヘキサンカルボン酸ヒドラジド、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドラジド、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドラジド、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸モノヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸ジヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド等が挙げられる。
【0033】
芳香族ヒドラジド化合物としては、安息香酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、1,8−ナフタレンカルボン酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンカルボン酸ジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、1,5−ジフェニルカルボヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、2,4−トルエンジスルホニルヒドラジド、アミノベンズヒドラジド、4−ピリジンカルボン酸ヒドラジド、ビス(4−ヒドロキシベンゼンスルホニル)ヒドラジド等が挙げられる。
【0034】
ヘテロ原子含有ヒドラジド化合物としては、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−1,3−ジオキサンヒドラジド、3,9−ビス(2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンジヒドラジド、1,3,5−トリス(3−カルボキシプロピル)イソシアヌレートトリヒドラジド等が挙げられる。
【0035】
ポリマー型ヒドラジド化合物としては、(メタ)アクリル酸ヒドラジドの単独又は共重合体が挙げられる。
【0036】
これらのヒドラジド化合物のなかでも、ジヒドラジド化合物を用いるのが好ましい。なかでも好ましいのは、1,12−ドデカンジカルボン酸ジヒドラジドやセバシン酸ジヒドラジド等の脂肪族ジヒドラジド化合物、及び1,8−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンカルボン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等の芳香族ジヒドラジド化合物である。
【0037】
アミノトリアジン系化合物としては、メラミン、アセトグアナミン、ステアログアナミン、ベンゾグアナミン、フェニルベンゾグアナミン、フタログアナミン、ナフタレンジグアナミン等が挙げられる。なかでも、ベンゾグアナミンが好ましい。
【0038】
グアニジン系化合物としては、グリコシアミン、グアノリン、グリコシアミジン、オキサリルグアニジン、クレアチニン、イミノウラゾール、マロニルグアニジン、メソキサリルグアニジン等が挙げられる。
【0039】
尿素系化合物としては、ビウレット、ビウレア、エチレン尿素、プロピレン尿素等のアルキレン尿素等が挙げられる。なかでも、エチレン尿素が好ましい。
【0040】
アミノ酸系化合物としては、グリシン、アラニン、アルギニン、グルタミン等が挙げられる。
【0041】
アミノ系化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−1−ブタノール等のアミノアルコールが挙げられる。
【0042】
イミド系化合物としては、フタル酸イミド、トリメリット酸イミド、ピロメリット酸イミド、ピロメリット酸ジイミド等が挙げられる。なかでも、フタルイミドが好ましい。
【0043】
イミダゾール系化合物としては、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0044】
アミド系化合物としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリメタキシリレンジアジパミド(ポリアミドMXD6)、ダイマー酸ポリアミド、ポリアミド12、6/66/610/12四元共重合ポリアミド、6/66/610三元共重合ポリアミド、6/12共重合ポリアミド等が挙げられる。
【0045】
これらのホルムアルデヒド補足剤の中でも、ホルムアルデヒド補足効果がより優れる点から、ヒドラジド系化合物、アミノトリアジン系化合物、尿素系化合物、イミド化合物が好ましい。
【0046】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤は、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対し、通常は0.01〜1重量部となるように、上記した気相中での高温保持処理を経た安定化ペレットに配合して混練する。配合量が0.01重量部未満では成形品からのホルムアルデヒド発生を低減させる効果が低すぎる。逆に配合量が1重量部を超えると成形時の金型汚染が顕著となる。ホルムアルデヒド捕捉剤は、その効果を十分に発現させるためには、0.03重量部以上、特に0.05重量部以上配合するのが好ましい。また、一定の効果を確保しつつ金型汚染を低減させるには、配合量は0.5重量部以下、特に0.3重量部以下であるのが好ましい。
【0047】
安定化ペレットとホルムアルデヒド捕捉剤との混練は、樹脂組成物を製造する常法に従って行うことができる。通常は、安定化ペレットの製造と同じく、安定化ペレットとホルムアルデヒド捕捉剤とをよく混合し、混合物を単軸又は2軸押出機に供給して溶融混練する。混練物は水中にストランド状に押し出し、切断してペレットとする。
【0048】
なお、本発明の樹脂組成物の製造に際しては、樹脂組成物に所望の物性に応じて、常用の種々の添加剤や充填材を配合することができる。添加剤としては、例えば滑剤、離型剤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、摺動性改良剤等が挙げられる。また、充填材としてはガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタン酸カリウムウィスカー等が挙げられる。また、顔料、染料を加えて所望の色目に仕上げることも可能である。これらの添加剤や充填材は、(A)ポリアセタール樹脂と(B)立体障害性フェノール系化合物との溶融混練、及び安定化ペレットと(C)ホルムアルデヒド捕捉剤との溶融混練のいずれの時点で配合してもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した材料及び評価方法を以下に示す。
【0050】
<材料>
(A)ポリアセタール樹脂:コモノマーとして1,3−ジオキソラン4.2重量%を用いて製造した共重合体。メルトインデックス(ASTM−D1238:190℃、2.16kg)10.5g/10分。
【0051】
(B)立体障害性フェノール系化合物:トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「商品名:イルガノックス245」
【0052】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤−1:1,12−ドデカンジカルボン酸ジヒドラジド、20℃における水100gに対する溶解度0.01g以下。
ホルムアルデヒド捕捉剤−2:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジヒドラジド
ホルムアルデヒド捕捉剤−3:エチレン尿素
ホルムアルデヒド捕捉剤−4:ベンゾグアナミン
ホルムアルデヒド捕捉剤−5:フタルイミド
【0053】
<評価方法>
ホルムアルデヒド発生量の測定:
下記記載の方法で得られたポリアセタール樹脂組成物を、日精樹脂工業社製PS−40E5ASE成形機を用いて、シリンダー温度230℃、金型温度80℃の条件で、100mm×40mm×厚さ2mmの平板を射出成形した。この成形品について、成形翌日に、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品−改訂フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、ホルムアルデヒド発生量(ポリアセタール樹脂組成物1g当りの発生ホルムアルデヒド重量(μg))を測定した。
【0054】
金型汚染性の評価:
下記記載の方法で得られたポリアセタール樹脂組成物を、住友重機械工業社製ミニマットM8/7A成形機を用い、図1に示すようなしずく型金型を用いて、樹脂温度230℃、金型温度35℃の条件下で3000ショット連続射出成形し、終了後金型の付着物の状態を肉眼で観察し、以下の4段階の基準で評価した。なお、図1のしずく型金型とは、反ゲート側の尖点部分に発生ガスを溜まり易く設計した金型である。成形片の厚みは3mm、ゲート部は幅が1mm、厚みが1mmである。図1中、単位は「mm」である。
【0055】
◎:金型汚染がほとんどない
○:金型汚染が若干認められるが、成形品の表面状態が重要な場合でも問題ないレベルである
△:金型汚染が認められ、成形品の表面状態が重要な場合の連続成形は困難であるが、通常の連続成形には問題ない
×:金型汚染が多く、通常の連続成形に問題がある
【0056】
[実施例1〜15、比較例9〜12]
ポリアセタール樹脂に対し、立体障害性フェノール系化合物を表1、2、4に示す量で配合した。これを表面更新型横型混練機に供給し、滞溜時間が25分となるように液面調整を行いつつ、20kPaの減圧下、220℃で減圧脱揮を行いながら溶融混練した。混練物は連続的にギアポンプによりストランド状で水中に抜き出し、ペレタイザーにてペレット化した。得られた安定化ペレットを、表1、2、4に示す温度及び時間の条件で空気中に保持したのち、室温に放冷した。この安定化ペレットのTGによる熱分解温度は390℃(40℃〜500℃、20℃/minの昇温速度で測定)である。この安定化ペレットと表1、2、4に示す量のホルムアルデヒド捕捉剤をタンブラーで混合し、混合物をスクリュー径30mmφの2軸押出機(池貝社製、「型式:PCM−30」)のホッパーに供給して、シリンダー温度220℃、吐出速度10kg/hの条件で溶融混練して樹脂組成物とし、ストランド状に水中に押し出してペレット化した。このペレットを80℃で3時間乾燥した後、これを用いてホルムアルデヒド発生量の測定及び金型汚染性の評価を行った。結果を表1、2、4に示す。
【0057】
[比較例1〜8]
ポリアセタール樹脂に対し、立体障害性フェノール系化合物を表3に示す量で配合した。これを実施例1〜15、比較例9〜12で用いたものと同じ表面更新型横型混練機に供給し、滞溜時間が25分となるように液面調整を行いつつ、20kPaの減圧下、220℃で減圧脱揮を行いながら溶融混練した。混練物は連続的にギアポンプにより抜き出し、表3に示す量のホルムアルデヒド捕捉剤と共にスクリュー径30mmφの2軸押出機(池貝社製、「型式:PCM−30」)に供給し、シリンダー温度220℃、吐出速度10kg/hで溶融混練して樹脂組成物とし、ストランド状に水中に押し出してペレット化した。このペレットを80℃で3時間乾燥した後、これを用いてホルムアルデヒド発生量の測定及び金型汚染性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0058】
[比較例13〜16]
ポリアセタール樹脂に対し、表4に示す量の立体障害性フェノール系化合物及びホルムアルデヒド捕捉剤を配合し、タンブラーで混合した。この混合物をスクリュー径30mmφの2軸押出機(池貝社製、「型式:PCM−30」)のホッパーに供給し、シリンダー温度220℃、吐出速度10kg/hで溶融混練して樹脂組成物とし、ストランド状に水中に押し出してペレット化した。このペレットを80℃で3時間乾燥した後、これを用いてホルムアルデヒド発生量の測定及び金型汚染性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂と(B)立体障害性フェノール系化合物とを溶融混練して安定化ペレットを製造し、これを気相中で80℃以上かつ融点未満の温度で6時間以上保持した後、これを(C)ホルムアルデヒド捕捉剤と溶融混練することを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
(A)ポリアセタール樹脂100重量部と(B)立体障害性フェノール系化合物0.01〜1重量部を溶融混練して安定化ペレットを製造し、これを気相中で80℃以上かつ融点未満の温度で6時間以上保持した後、これを(C)ホルムアルデヒド捕捉剤と溶融混練することを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
安定化ペレットを気相中で90℃以上かつ融点未満の温度で6時間以上保持することを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
安定化ペレットの熱重量測定(TG)による熱分解温度が350℃以上となるように、(A)ポリアセタール樹脂に(B)立体障害性フェノール系化合物を配合して溶融混練することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
(B)立体障害性フェノール系化合物が、ベンゼン環に1個のヒロドキシ基が結合しており、かつヒドロキシ基の結合している炭素原子に隣接する2個の炭素原子の一方に置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキル基、他方に置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキル基又は置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキレン基が結合している部分構造を、少なくとも1個有するものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
(B)立体障害性フェノール系化合物が下記一般式で表される部分構造を少なくとも1個有するものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換されていてもよい炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。)
【請求項7】
(B)立体障害性フェノール系化合物が、ベンゼン環に1個のヒロドキシ基が結合しており、かつヒドロキシ基の結合している炭素原子に隣接する炭素原子に少なくとも1個のt−ブチル基を有するものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤が、ヒドラジド系化合物、アミノトリアジン系化合物、グアニジン系化合物、尿素系化合物、アミノ酸系化合物、アミノ系化合物、イミド系化合物、イミダゾール系化合物、及びアミド系化合物から成る群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤が、脂肪族ジヒドラジド化合物又は芳香族ジヒドラジド系化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤が、アミノトリアジン系化合物、尿素系化合物又はイミド系化合物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
(C)ホルムアルデヒド捕捉剤を、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対し0.01〜1重量部となるように安定化ペレットに添加することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
(A)ポリアセタール樹脂100重量部に、(B)下記一般式で表される部分構造を少なくとも1個有する立体障害性フェノール系化合物0.1〜1重量部を配合したものを溶融混練して安定化ペレットを製造し、これを気相中で80℃以上かつ融点未満の温度で6時間以上保持した後、これに脂肪族ジヒドラジド化合物及び芳香族ジヒドラジド系化合物から選ばれた(C)ホルムアルデヒド捕捉剤を、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対し0.03〜0.3重量部となるように添加して溶融混練することを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。但し、R及びRの少なくとも一方はt−ブチル基である。)

【図1】
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【公開番号】特開2010−189463(P2010−189463A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32403(P2009−32403)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】