説明

ポリアゾール含有組成物

溶液及び/又は分散液の形態の組成物であって、
○少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8.0g/dlの範囲にある少なくとも一種のポリアゾールと
○リン酸(H3PO4)及び/又はポリリン酸からなり、
・ポリアゾールの含量が、該組成物の総重量に対して0.5重量%〜30.0重量%の範囲にあり、
・H3PO4及び/又はポリリン酸の含量が、該組成物の総重量に対して、30.0重量%〜99.5重量%の範囲にあり、
・このP25として計算される(酸定量による)H3PO4及び/又はポリリン酸の濃度が、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対して70.5〜75.45%の範囲である組成物。
さらに保護対象となるのは、特に好ましい本発明の組成物の製造方法と利用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液及び/又は分散液状のポリアゾール含有組成物、その製造方法、その利用、特に燃料電池用の膜電極接合体の製造への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜(PEM)は既知であり、特に燃料電池で用いられている。スルホン酸変性ポリマー、特に完全フッ素化ポリマーがしばしば用いられる。その代表例が、米国デュポン社のナフィオン(R)である。プロトンの伝導には、膜内に比較的高い水分率が求められ、その値は、通常スルホン酸基当り4〜20分子の水である。必要な水分率や、酸性水や水素や酸素などの反応性ガスに対するポリマーの安定性のため、PEM燃料電池スタックの作動温度は80〜100℃に制限されている。加圧下では、作動温度は>120℃にまで上げることができる。このようにしないと、燃料電池の性能低下なしに高作動温度とすることができない。
【0003】
しかしながら、システム上の理由のため、燃料電池内では100℃を超える作動温度とすることが望ましい。高作動温度では、膜−電極部に存在する貴金属系触媒の活性がかなり高まる。特に炭化水素「改質油」を用いる場合には、この改質ガスがかなりの量の一酸化炭素を含んでいるため、従来より複雑なガス製造または精製によりこれを除く必要があった。高動作温度では、触媒のCO不純物に対する許容度が、COとして数体積%にまであがる。
【0004】
また燃料電池の作動中に熱が発生する。しかしこれらのシステムを80℃未満にまで冷却すると、非常にコストが嵩み不便である。電力出力によっては、この冷却装置の設計をかなり単純化できる。つまり、100℃を超える温度で作動する燃料電池システムでは、その廃熱を極めて容易に利用でき、電熱併産により燃料電池システムの効率を上げることができる。
【0005】
このような温度を達成するには、通常新しい伝導メカニズムをもつ膜が用いられる。この目的のための一つの方法は、水を使用しなくても電気伝導性を示す膜を使用することである。この方向での最初の開発が、例えばWO96/13872に記載されている。例えばWO96/13872では、特に溶液製膜法で製造した、酸添加のポリベンズイミダゾール膜の使用が開示されている。
【0006】
同様に水を使用せずに電気伝導性を示す新世代の酸含有ポリアゾール膜が、WO02/088219に記載されている。この出願は、ポリアゾール系のプロトン伝導性ポリマーであって、以下の工程からなるプロセスで得られるものを開示している。
【0007】
A)一種以上の芳香族テトラアミノ化合物と、一種以上の、カルボン酸モノマー当り少なくとも2個の酸基を持つ芳香族カルボン酸またはそのエステルまたは一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のジアミノカルボン酸とを、ポリリン酸中で混合して溶液及び/又は分散液を得る工程と、
B)工程A)の混合物を用いて支持体上に、必要なら電極の上に層を形成する工程と、
C)工程B)で得られる平坦な構造物/層を不活性ガス下で350℃の温度まで、好ましくは280℃の温度まで加熱してポリアゾールポリマーを形成する工程と、
D)工程C)で形成された膜を、自己支持性となるまで、好ましくは部分加水分解により処理する工程。
【0008】
工程A)で使用されるポリリン酸は、通常、(酸滴定法による)P25含量として、少なくとも83%の値をもつ。
【0009】
粘度調整のために、この溶液を必要ならリン酸(濃リン酸、85%)と混合してもよい。
【0010】
この特許の実施例中には、P25としての含量(酸定量による)が83.4%であるポリリン酸中での合成が数多くある。いくつかの試験例は、濃リン酸で希釈されている。
【0011】
得られる溶液のP25とて計算される含量(酸定量による)は、多くても70.487752%(=理論H3PO4濃度:97.3%;実施例5)であるか、少なくとも75.465388%(=理論H3PO4濃度:104.2%、実施例3)である。
【0012】
30℃でのこれらポリマーの固有粘度は2.9dl/g以下である。
【0013】
WO02/088219に開示の酸含有ポリアゾール膜は、良好な全体的な特性を示し、燃料電池用の膜電極接合体用途に特に好適である。
【0014】
しかしながら、工程A)で得られる溶液及び/又は分散液は高粘度であり、特に比較的高固体含量では高粘度である。モノマーを重合して得られるポリマー溶液または分散液も同様であり、これらの溶液または分散液の粘度は、重合度の上昇に伴って増加する。
【0015】
したがって、これらの溶液または分散液の加工に比較的高温が必要となることが多い。しかしながら、直面している問題は、溶液及び/又は分散液の粘度が、170℃を超える温度では時間と共に着実に上昇することである。
【0016】
また、工程D)での加水分解は比較的ゆっくりと進行する。また、薄い及び/又は無欠陥の膜または自己支持性のフィルム/平坦構造の製造は、なかなか難しい。
【0017】
最後に、優れた機械的性質をもつ膜、特に高引張強度で改善された機械安定性をもつ膜が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO96/13872
【特許文献2】WO02/088219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって本発明の目的は、特に膜電極接合体の、好ましくは燃料電池用の膜電極接合体の製造において、このようなポリアゾール膜の製造方法を改良する手段とより容易にかつ効率よくこのポリアゾール膜を加工する方法を示すことである。特に目的としているは、比較的低温での加工性と、速い加水分解と、非常に薄く非常に実質的に無欠陥である膜の製造の可能性である。また、これらのポリマーや膜は、優れた機械的性質など、特に高引張強度及び/又は改善された機械的安定性などの改善された特性をもつことができた。同時にこれらの所望の利点や効果が、工業用スケールで安価に、簡単な方法で達成できた。
【0020】
これらの目的は、請求項1に記載のすべての特徴を有する組成物を提供することで達成される。本発明の組成物の特に好適な実施様態は、その従属請求項に記載されている。さらに保護の対象となるのは、本発明の組成物の製造方法と使用方法である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従って、本発明は、溶液及び/又は分散液の形態の組成物であって、
○少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8.0g/dlの範囲にある少なくとも一種のポリアゾールと
○リン酸(H3PO4)及び/又はポリリン酸からなり、
・ポリアゾールの含量が、該組成物の総重量に対して0.5重量%〜30.0重量%の範囲にあり、
・H3PO4及び/又はポリリン酸の含量が、該組成物の総重量に対して、30.0重量%〜99.5重量%の範囲にあり、
・このP25として計算される(酸定量による)H3PO4及び/又はポリリン酸の濃度が、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対して70.5〜75.45%の範囲である組成物を提供する。
【0022】
本発明の組成物は、既知の組成物と較べて、同一固体含量で低粘度であることに特徴がある。これにより、加工性、特に低温での加工性が改善し、加水分解が速くなり、薄い無欠陥の膜や自己支持性のフィルムの製造が可能となる。組成物の流動特性に影響を与えることなく添加物を、例えば架橋剤や増量剤などを添加することができる。また、得られる膜は、優れた機械的性質など改善された特性をもち、特に高い引張強度及び/又は改善された機械的安定性をもつ。本発明の利点や効果は、工業スケールで安価に比較的単純な方法で達成できる。
【0023】
本発明の組成物は、好ましくは少なくとも一種のポリアゾールを含む。本発明において、ポリアゾールは、ポリマー中の繰返し単位が、好ましくは少なくとも一種の、少なくとも一個の窒素原子を有する芳香族環を含むポリマーである。この芳香族環は、好ましくは1〜3個の窒素原子をもつ5員環または6員環であり、他の環、特に他の芳香族環と縮合していてもよい。個々の窒素ヘテロ原子はまた、酸素、リン及び/又は硫黄原子で置き換えられていてもよい。これらの複素芳香族環は、好ましくはポリマー主鎖内にあるが、側鎖にあってもよい。特に好ましいのは、繰返し単位中に、環中に1〜5個の窒素原子または、窒素原子に加えて1個以上の他のヘテロ原子を含む不飽和5員または6員芳香族単位を含む塩基性ポリマーである。
【0024】
用いるポリアゾール、好ましくはポリベンズイミダゾールは、高分子量である。このポリアゾールの固有粘度は、少なくとも3.0dl/gであり、好ましくは少なくとも3.5dl/g、より好ましくは少なくとも4.0dl/g、特に少なくとも4.5dl/gである。上限値は8.0dl/gであり、好ましくは7.0dl/g、より好ましくは6.0dl/g、特に5.5dl/gである。従ってこの分子量は、市販のポリベンズイミダゾール(IV<1.1dl/g)よりかなり大きい。
【0025】
この固有粘度は、以下に記載のようにして求められる。このために、ポリマーをまず160℃で2時間乾燥する。次いで、100mgの乾燥ポリマーを、80℃の100mlの濃硫酸(少なくとも96重量%)に4時間かけて溶解する。この溶液を用いて、極限粘度または固有粘度を、ISO3105(DIN 51562、ASTM D2515)により25℃の温度でウベローデ粘度計を用いて測定する。
【0026】
150℃の温度でせん断速度が1Hzで回転粘度計を用いて測定された本発明の組成物の溶液粘度は、好ましくは0.1Pas〜300Pasの範囲であり、より好ましくは0.5Pas〜100Pas、特に好ましくは1Pas〜50Pas、特に5Pas〜25Pasの範囲である。150℃の温度でせん断速度が100Hzで回転粘度計を用いて測定した本発明の組成物の溶液粘度は、好ましくは0.1Pas〜100Pasの範囲であり、より好ましくは0.5Pas〜50Pas、特に好ましくは1Pas〜25Pas、特に3Pas〜10Pasの範囲である。この溶液粘度は、1mmの定間隙の2枚の25mmの板の間でDIN53018により、測定することが好ましい。
【0027】
粘度パラメーターや相当する測定方法に関する他の情報が、標準的な専門文献に、例えばUllmann 1, 67−85; (4.) 5, 755−778に記載されている。なお、その開示内容はすべて、引用により本明細書に組み込むものとする。
【0028】
このポリアゾールは、好ましくは一般式(I)及び/又は(II)及び/又は(III)及び/又は(IV)及び/又は(V)及び/又は(VI)及び/又は(VII)及び/又は(VIII)及び/又は(IX)及び/又は(X)及び/又は(XI)及び/又は(XII)及び/又は(XIII)及び/又は(XIV)及び/又は(XV)及び/又は(XVI)及び/又は(XVII)及び/又は(XVIII)及び/又は(XIX)及び/又は(XX)及び/又は(XXI)及び/又は(XXII)の繰返しアゾール単位を含む。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
式中、
Arは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ四価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar1は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
AR2は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価または三価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよい、
Ar3は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ三価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar4は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ三価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar5は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ四価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar6は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar7は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar8は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ三価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Ar9は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価または三価または四価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよい、
Ar10は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価または三価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよい、
Ar11は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ二価の芳香族基または複素芳香族基であり、単環でも多環でもよく、
Xは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ酸素、硫黄、または水素原子と、もう一つの基として1〜20個の炭素原子をもつ基、好ましくは分岐していてもよいアルキルまたはアルコキシ基、またはアリール基をもつアミノ基であり、
Rは、式(XX)を除く式中では、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基または芳香族基であり、式(XX)中ではアルキレン基または芳香族基であり、
nとmは、それぞれ10以上の整数、好ましくは100以上の整数である。
【0034】
ベンゼンやナフタレン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルメタン、ジフェニルジメチルメタン、ビスフェノン、ジフェニルスルホン、キノリン、ピリジン、ビピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ピロール、ピラゾール、アントラセン、ベンズピロール、ベンゾトリアゾール、ベンズオキサチアジアゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾピリジン、ベンゾピラジン、ベンゾピラジジン、ベンゾピリミジン、ベンゾピラジン、ベンゾトリアジン、インドリジン、キノリジン、ピリドピリジン、イミダゾピリミジン、ピラジノピリミジン、カルバゾール、アクリジン、フェナジン、ベンゾキノリン、フェノキサジン、フェノチアジン、アクリジジン、ベンゾプテリジン、フェナントロリン、フェナントレン由来の芳香族基または複素芳香族基が好ましく、これらは必要なら置換されていてもよい。
【0035】
Ar1とAr4、Ar6、Ar7、Ar8、Ar9、Ar10、Ar11の置換パターンは任意である。フェニレンの場合、例えば、Ar1やAr4、Ar6、Ar7、Ar8、Ar9、Ar10、Ar11は、オルト−、メタ−、およびパラフェニレンである。特に好ましいのはベンゼンとビフェニレンに由来する基であり、これらは必要なら置換されていてもよい。
【0036】
好ましいアルキル基は、1〜4個の炭素原子をもつ短分子鎖アルキル基であり、例えばメチルやエチル、n−またはi−プロピル、t−ブチル基である。
【0037】
好ましい芳香族基は、フェニル基またはナフチル基である。これらのアルキル基や芳香族基は置換されていてもよい。
【0038】
好ましい置換基は、フッ素などのハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基またはメチル基やエチル基などの短分子鎖アルキル基であり、好ましいのは、式(I)の繰返し単位もつポリアゾールで、一つの繰返し単位中のX基が同一であるものである。
【0039】
これらのポリアゾールは、原理的には例えばX基で異なっている、異なる繰返し単位をもつこともできる。しかしながら、好ましくは一つの繰返し単位中には単一のX基をもつことが好ましい。
【0040】
他の好ましいポリアゾールポリマーは、ポリイミダゾールやポリベンゾチアゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリ(テトラアザピレン)である。
【0041】
本発明の他の実施様態においては、このポリアゾールが、相互に異なる式(I)〜(XXII)の単位を少なくとも2つ含むコポリマーである。これらのポリマーは、ブロックコポリマー(ジブロック、トリブロック)の形でも、ランダムコポリマー、周期コポリマー及び/又は交互ポリマーの形で当てもよい。
【0042】
本発明の特に好ましい実施様態においては、このポリアゾールは、式(I)及び/又は式(II)の単位からなるホモポリマーである。
【0043】
ポリマー中の繰返しアゾール単位の数は、好ましくは10以上の整数である。特に好ましいポリマーは、少なくとも100個の繰返しアゾール単位を含む。
【0044】
本発明においては、繰返しベンズイミダゾール単位を含むポリマーが好ましい。繰返しベンズイミダゾール単位を含む極めて好適なポリマーのいくつかの例を以下の式に示す。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
最後の式中で、アゾール単位と二つのフッ素化された成分は、どのような配列で相互に結合していてもよい。製造は、ポリマー、ランダムコポリマーまたはブロックコポリマーの形で実施できる。
【0050】
また、上の式中のnとmは、それぞれ独立して10以上の整数であり、好ましくは10以上の整数である。
【0051】
本発明の特に好ましい実施例では、これらのポリアゾールが、少なくとも一個のスルホン酸及び/又はホスホン酸基をもつ。このようなポリマーは、公開特許DE10246459A1に記載されている、なお、その開示内容はすべて、引用により本明細書に組み込むものとする。
【0052】
好ましいポリベンズイミダゾールは、(R)セラゾールまたは(R)ホゾール(ホステック社、オーストリア)という商品名で販売されている。
【0053】
これらのポリアゾールは、既知の方法で製造可能であるが、一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のテトラアミノ化合物と、一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のカルボン酸またはその誘導体でカルボン酸モノマー当り少なくとも2個の酸基をもつものとの反応が好ましい。また、一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のジアミノカルボン酸をポリアゾールの製造に使う基も可能である。
【0054】
使用できる芳香族及び複素芳香族のテトラアミノ化合物類としては、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルや、2,3,5,6−テトラアミノピリジン、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルジメチルメタンそれらの塩、特にそれらの一、二、三、および四塩酸塩誘導体があげられる。これらの中では、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルと2,3,5,6−テトラアミノピリジンと1,2,4,5−テトラアミノベンゼンが特に好ましい。
【0055】
芳香族及び/又は複素芳香族カルボン酸は、好ましくはジカルボン酸とトリカルボン酸とテトラカルボン酸、またはそのエステルまたはその無水物またはその酸ハロゲン化物であり、特にそれらの酸ハロゲン化物及び/又は酸ブロマイドである。これらの芳香族ジカルボン酸は、好ましくはイソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、2−ヒドロキシテレフタル酸、5−アミノイソフタル酸、5−N,N−ジメチルアミノイソフタル酸、5−N,N−ジエチルアミノイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、2,6−ジヒドロキシイソフタル酸、4,6−ジヒドロキシイソフタル酸、2,3−ジヒドロキシフタル酸、2,4−ジヒドロキシフタル酸、3,4−ジヒドロキシフタル酸、3−フルオロフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、2−フルオロテレフタル酸、テトラフルオロフタル酸、テトラフルオロイソフタル酸、テトラフルオロテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、4−トリフルオロメチルフタル酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−スチルベンジカルボン酸、4−カルボキシケイ皮酸、またはこれらのC1−C20−アルキルエステルまたはC5−C12−アリールエステル、またはこれらの酸無水物、またはこれらの酸クロライドである。
【0056】
芳香族トリカルボン酸またはこれらのC1−C20−アルキルエステルまたはC5−C12−アリールエステルまたはこれらの酸無水物またはこれらの酸クロライドは、好ましくは1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸);1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸);(2−カルボキシフェニル)イミノジ酢酸、3,5,3’−ビフェニルトリカルボン酸;3,5,4’−ビフェニルトリカルボン酸である。
【0057】
芳香族テトラカルボン酸またはこれらのC1−C20−アルキルエステルまたはC5−C12−アリールエステル、またはこれらの酸無水物またはこれらの酸クロライドは、好ましくは3,5,3’,5’−ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸である。
【0058】
複素芳香族カルボン酸は、好ましくは複素芳香族のジカルボン酸とトリカルボン酸とテトラカルボン酸、またはそれらのエステルまたはそれらの無水物である。複素芳香族カルボン酸は、芳香族環中に少なくとも一個の窒素、酸素、硫黄または燐原子を含む芳香族系を意味するものとする。これらは、好ましくはピリジン−2,5−ジカルボン酸、ピリジン−3,5−ジカルボン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、ピリジン−2,4−ジカルボン酸、4−フェニル−2,5−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピラゾールジカルボン酸、2,6−ピリミジンジカルボン酸、2,5−ピラジンジカルボン酸、2,4,6−ピリジントリカルボン酸、ベンズイミダゾール−5,6−ジカルボン酸、これらのC1−C20−アルキルエステルまたはC5−C12−アリールエステル、またはこれらの酸無水物、またはこれらの酸クロライドである。
【0059】
トリカルボン酸またはテトラカルボン酸の含量(用いるジカルボン酸に対する)は、好ましくは0〜30mol%であり、好ましくは0.1〜20mol%、特に0.5〜10mol%である。
【0060】
また、芳香族と複素芳香族のジアミノカルボン酸を併用することもできる。これらには、ジアミノ安息香酸、4−フェノキシカルボニル−3’,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの一及び二塩酸塩誘導体が含まれる。
【0061】
少なくとも2種の異なる芳香族カルボン酸を使用することが好ましい。芳香族カルボン酸に加えて複素芳香族カルボン酸を含む混合物を使用することが特に好ましい。芳香族カルボン酸の複素芳香族のカルボン酸に対する混合比率は1:99〜99:1であり、好ましくは1:50〜50:1である。
【0062】
これらの混合物は、特にN−複素芳香族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸の混合物である。ジカルボン酸の非制限的な例としては、イソフタル酸やテレフタル酸、フタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、2,6−ジヒドロキシイソフタル酸、4,6−ジヒドロキシイソフタル酸、2,3−ジヒドロキシフタル酸、2,4−ジヒドロキシフタル酸、3,4−ジヒドロキシフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、1,8−ジヒドロキシナフタレン−3,6−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、4−トリフルオロメチルフタル酸、ピリジン−2,5−ジカルボン酸、ピリジン−3,5−ジカルボン酸、ピリジン−2,6−ジカルボン酸、ピリジン−2,4−ジカルボン酸、4−フェニル−2,5−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピラゾールジカルボン酸、2,6−ピリミジンジカルボン酸、2,5−ピラジンジカルボン酸があげられる。
【0063】
最大の分子量を達成する場合の、テトラアミノ化合物類と一種以上の芳香族カルボン酸またはそれらのエステルでカルボン酸モノマー当り少なくとも2個の酸基をもつものとの反応におけるカルボン酸基とアミノ基のモル比は、好ましくは約1:2である。
【0064】
ポリアゾールの製造には、用いる組成物の最終重量あたり好ましくは少なくとも0.5重量%のモノマーを、特に1〜30重量%の、より好ましくは2〜15重量%のモノマーを使用することが好ましい。
【0065】
トリカルボン酸またはテトラカルボン酸を使用する場合、これによって、得られるポリマーに分岐/架橋が形成される。これは機械的性質の改善に寄与する。
【0066】
重合のためには、モノマーを、好ましくは最高で400℃にまで、特に350℃にまで、好ましくは280℃にまで、特に100℃〜250℃の範囲に、最も好ましくは160℃〜250℃の範囲、特に200℃〜240℃の範囲に加熱することが好ましい。
【0067】
本発明の他の側面においては、熱の作用でのポリアゾールの形成に好適な化合物が用いられ、これらの化合物は、最高で400℃の温度の、特に最高で350℃、好ましくは最高で280℃の温度の溶融状態で、一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のテトラアミノ化合物と一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のカルボン酸またはその誘導体でカルボン酸モノマー当り少なくとも2個の酸基をもつものとの反応、または一種以上の芳香族及び/又は複素芳香族のジアミノカルボン酸の反応により得られる。これらのプレポリマーの製造に用いられる化合物については、上に詳細に述べた。
【0068】
このポリアゾールに加えて、本発明の組成物は、リン酸(H3PO4)及び/又はポリリン酸Hn+2n3n+1(n>1)を含む。用いるポリリン酸は、例えばリーデル・デ・ハーン社から入手可能な市販のポリリン酸であってもよい。
【0069】
ポリアゾールの相対組成に関して、リン酸及び/又はポリリン酸は、
・該組成物の総重量に対して、ポリアゾールの含量が、0.5重量%〜30.0重量%の範囲、好ましくは1.0重量%〜20.0重量%の範囲、より好ましくは1.5重量%〜10.0重量%の範囲、特に1.7重量%〜5.0重量%の範囲となるか、
・該組成物の総重量に対して、H3PO4及び/又はポリリン酸の含量が、30.0重量%〜99.5重量%の範囲、好ましくは40.0重量%〜99.0重量%の範囲、より好ましくは60.0重量%〜98.5重量%の範囲、特に85.0重量%〜95.0重量%の範囲となるか、
・P25として計算される(酸定量による)H3PO4及び/又はポリリン酸の濃度が、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対して、70.5〜75.45%の範囲、好ましくは71.0〜75.0%の範囲、より好ましくは715〜74.0%の範囲、さらに好ましくは71.7〜73.0%の範囲、特に72.0〜72.4%の範囲になるように、選ぶ必要がある。
【0070】
本発明の組成物は、分散液及び/又は溶液の形であり、必要なら少量の固体及び/又はゲルを含む。しかしより好ましくは、ろ過により除ける成分の比率が、組成物の総重量に対して30.0重量%未満であり、好ましくは10.0重量%未満、より好ましくは5.0重量%未満、特に好ましくは3.0重量%未満、特に1.0重量%未満である。ろ過で除ける量は、160℃で測定することが好ましい。また、切欠き部(メッシュ)が1.0mm未満である、好ましくは500μm未満、より好ましくは100μm未満である篩を使用することが好ましい。
【0071】
性能特性をさらに向上させるためには、増量剤、特にプロトン伝導性増量剤とさらには酸をこの組成物に加えることも可能である。
【0072】
プロトン伝導性増量剤の非制限的な例としては、硫酸塩、例えば、CsHSO2、Fe(SO22、(NH43H(SO22、LiHSO2、NaHSO2、KHSO2、RbSO2、LiN2H5SO2、NH4HSO2
リン酸塩、例えば、Zr3(PO44、Zr(HPO42、HZr2(PO43、UO2PO4.3H2O、H8UO2PO4、Ce(HPO42、Ti(HPO42、KH2PO4、NaH2PO4、LiH2PO4、NH42PO4、CsH2PO4、CaHPO4、MgHPO4、HSbP28、HSb3214、H5Sb5220
多塩基酸類、例えば、H3PWi240.nH2O(n=21−29)、H3SiW1240・nH2O(n=21−29)、HXWO3、HSbWO6、H3PMo1240、H2Sb411、HTaWO6、HNbO3、HTiNbO5、HTiTaO5、HSbTeO6、H5Ti49、HSbO3、H2MoO4
亜セレン酸塩と砒化物、例えば、(NH43H(SeO42、UO2ASO2、(NH43H(SeO42、KH2AsO4、Cs3H(SeO42、Rb3H(SeO42
リン化物、例えば、ZrP、TiP、HfP
酸化物、例えば、Al23、Sb25、ThO2、SnO2、ZrO2、MoO3
ケイ酸塩類、例えば、ゼオライト、ゼオライト(NH4+)、シート状ケイ酸塩、立体網状ケイ酸塩、H−ソーダ沸石、H−モルデナイトNH4−アナルシン、NH4−ホウソーダ石、NH4−ガレート、H−モンモリロナイト、他の正珪酸Si(OH)4の縮合生成物とそれらの塩やエステル、
一般式−H3Si−(O−SiH2−)n−O−SiH3のポリシロキサン、また特に、モンモリロナイトやベントナイト、カオリナイト、ろう石、タルク、緑泥石、白雲母、雲母、スメクタイト、ハロサイト、バーミキュライト、ハイドロタルサイトなどの他の粘土鉱物、
酸、例えば、HClO4、SbF5
増量剤、例えば、特にSiC、Si34などの炭化物、特にガラス繊維、ガラス粉末及び/又はポリマー繊維などの繊維、好ましくはポリアゾール及び/又はポリアリールエーテルケトン系またはポリアリールエーテルスルホン系で部分架橋されたものの不織布または織布があげられる。含まれる芳香族基の含量によっては、これらの増量剤は部分的または完全に荷電基で変性されていてもよい。なお、特にこの点で適当な基は、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基及び/又は他のアニオン性またはカチオン性の荷電基である。
【0073】
これらの添加物は、この組成物に通常の量で加えてもよいが、好ましい特性、例えば膜の高伝導性や長寿命、高機械的安定性が、過剰量の添加物の添加で損なわれてはならない。一般に、得られる膜に含まれる添加物の量は、多くても80重量%であり、好ましくは多くても50重量%、より好ましくは多くても20重量%である。
【0074】
この組成物は、さらに完全フッ素化スルホン酸添加物を、(好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.2〜15重量%、非常に好ましくは0.2〜10重量%で)含んでいてもよい。これらの添加物は、性能を改善するとともに、カソード付近で酸素の溶解度と酸素の拡散性を増加させ、またリン酸とリン酸塩の白金上での吸着を減少させる。(リン酸燃料電池用の電解質添加物. Gang、Xiao; Hjuler、H. A.; Olsen、C; Berg、R. W.; Bjerrum、N. J.、Chem. Dep. A、Tech. Univ. Denmark、Lyngby、Den.、J. Electrochem. Soc. (1993)、140(4)、896−902、及びリン酸燃料電池の添加物としてのペルフルオロスルホンイミド、Razaq、M.; Razaq、A.; Yeager、E.; DesMarteau、Darryl D.; Singh、s.、Case Cent. Electrochem. Sci.、Case West. Reserve Univ.、Cleveland、OH、USA. J. Electrochem. Soc. (1989)、136(2)、385−90.)
【0075】
完全スルホン化添加物の非制限的な例としては、トリフルオロメタンスルホン酸やトリフルオロメタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸アンモニウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸リチウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸アンモニウム、ノナフルオロブタンスルホン酸セシウム、トリエチルペルフルオロヘキサンスルホン酸アンモニウム、ペルフルオロスルホイミド、ナフィオンがあげられる。
【0076】
本発明の組成物は、単純にこれらの成分を混合して製造できる。あるいは、低P25濃度のH3PO4及び/又はポリリン酸含有組成物の濃縮、または高P25濃度の組成物の希釈、即ち水の除去または供給も考えられる。
【0077】
しかしながら、この点で、場合によっては、特に低温で及び/又は高固体含量では、リン酸及び/又はポリリン酸中へのポリアゾールの溶解または分散が速度的に阻害されることがあることを銘記すべきである。本組成物は、当初不均一な形で存在する。100℃を超える高温では、この組成物から水が蒸発してH3PO4及び/又はポリリン酸の濃度が時間と共に変動する。
【0078】
したがって、本発明の組成物は、好ましくは以下の方法で製造される。
a)少なくとも一種のポリアゾールを、リン酸及び/又はポリリン酸中に溶解及び/又は分散する。(H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するP25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸の濃度は、72.0%未満であり、好ましくは71.7%未満、より好ましくは???%、さらに好ましくはl71.0%未満、特に70.5%未満である)
b)工程a)からの溶液または分散液から水を除き、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するP25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸の濃度を、好ましくは少なくとも0.1%、より好ましくは少なくとも0.5%、特に好ましくは少なくとも1.0%、特に少なくとも1.5%増加させる。
【0079】
工程a)からの溶液または分散液は、一般的には公知の方法で、例えばこれらの成分の混合により得ることができる。他の製造方法が、WO02/08829に記載されている。
【0080】
より好ましくは、工程a)からの溶液または分散液が、少なくとも一種のポリアゾールとポリリン酸とを含む溶液または分散液を加水分解して得られる。このような溶液または分散液は、ポリリン酸中で上記のモノマーを重合して製造できる。
【0081】
工程a)からの溶液または分散液は、その総重量に対して好ましくは少なくとも1.8重量%の、より好ましくは少なくとも2.0重量%、特に2.2〜2.5重量%の範囲の少なくとも一種の、少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8g/dlの範囲にあるポリアゾールを含む。リン酸と水と必要ならリン酸の総量は、好ましくは多くて98.2重量%であり、より好ましくは90.0〜98.0重量%の範囲、特に95.0〜97.8重量%の範囲である。
【0082】
水は、工程b)で、好ましくは蒸発により、特に工程a)からの組成物を100℃を超える温度に加熱し及び/又は減圧して除かれる。工程a)からの組成物を、120℃〜240℃の範囲、特に120℃〜160℃の範囲で、約少なくとも1時間〜48時間の範囲、特に少なくとも2時間〜24時間の範囲の期間加熱する方法が特に好ましい。
【0083】
本発明のさらに好ましい実施様態では、本発明の組成物は、次のようにして製造される。
【0084】
i)まず、少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8.0g/dlの範囲にあるポリアゾールの溶液または分散液を、温度が160℃を超える、好ましくは180℃を超える、特に180℃〜240℃の範囲にあるポリリン酸中に投入する。[(酸定量により)P25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するH3PO4及び/又はポリリン酸の濃度は、72.4%より大きく、好ましくは73.0%より、より好ましくは74.0%より、さらに好ましくは75.0%より、特に75.45%より大きい]
ii)混合物中の、(酸定量により)P25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するH3PO4及び/又はポリリン酸の総量が、70.5〜75.45%の範囲、好ましくは71.0〜75.0%の範囲、より好ましくは71.5〜74.0%の範囲、さらに好ましくは71.7〜73.0%の範囲、特に72:0〜72.4%の範囲となるまで、水、リン酸及び/又はポリリン酸をこの溶液または分散液に添加する。
iii)H3PO4及び/又はポリリン酸の総量を工程ii)で指定した範囲に維持しながらこの混合物を均一化する。
【0085】
工程I)からの溶液または分散液は、一般的に既知の方法で、例えばこれらの成分を混合して得ることができる。他の製造方法がWO02/08829に記載されている。
【0086】
この工程a)からの溶液または分散液は、より好ましくはポリリン酸中の上記のモノマーの重合により得られる。
【0087】
工程I)からの溶液または分散液は、その総重量に対して、
−好ましくは少なくとも1.8重量%、より好ましくは少なくとも2.0重量%、特に2.2〜2.5重量%の範囲の少なくとも一種の、少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8g/dlの範囲にあるポリアゾールと、
−好ましくは最大で98.2重量%、より好ましくは90.0〜98.0重量%の範囲、特に95.0〜97.8重量%の範囲のポリリン酸と必要ならリン酸及び/又は水を含む。
【0088】
用いるポリリン酸は、例えばリーデル・デ・ハーン社から入手可能な市販のポリリン酸であってもよい。このポリリン酸Hn+2n3n+i(n>1)のP25としての含量(酸定量による)は、少なくとも83%であることが好ましい。
【0089】
このような組成物の従来法での加水分解は、標準的な条件下では加工が不可能である流動挙動の低下した組成物を与える。したがって、本発明によれば、工程II)とIII)を実施する。
【0090】
工程II)での添加は、分割してあるいは連続的に行われる。
【0091】
添加の後、この混合物は、その総重量に対して、
−好ましくは少なくとも1.6重量%、より好ましくは少なくとも1.8重量%、特に2.0〜2.3重量%の範囲の少なくとも一種の、少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8g/dlの範囲にあるポリアゾールと、
−好ましくは最大で98.4重量%、好ましくは90.0〜98.2重量%の範囲、特に95.0〜98.0重量%の範囲のポリリン酸と必要ならリン酸及び/又は水を含む。
【0092】
工程II)での添加の結果、まず不均一な混合物が形成される。
【0093】
この「不均一」とは、系全体にわたる性質の均質性を変化させる、あるいは溶液の外観上の均一性を変化させる光学的または物理的性質の変化をいう。通常、この溶液の均一性の変化は、界面の成形(粘稠物質からの液体の分離)、色の変化(通常、未焼成から淡黄色)、または平滑な溶液からの目視可能な粒子または固体粒子の分離として現れる。この溶液が、ポリリン酸中のポリアゾールの溶液または分散液と見かけ上、同一なら、均一と考えられる。差異は単に粘度のみである。
【0094】
工程III)の均一化は、好ましくは閉鎖系で、例えばオートクレーブ中で行われる。また、蒸発する水を凝縮させこの混合物に戻すことが、好ましくは直接反応容器に連結された少なくとも一個の還流冷却器で蒸発する水を凝縮させて戻すことが極めて好ましい。
【0095】
驚くべきことに、一定の時間後に、好ましくは4時間以内に、特に2時間以内にこの溶液が均一化する。混合物の溶液粘度が低下して本発明の組成物が生成する。
【0096】
本発明の組成物の可能利用分野は、当分野の熟練者には明白であろう。本発明の組成物を基材に、適当なら平面電極に塗布して塗装基材の製造に使用することが好ましい。
【0097】
この基材への塗布は、既知の方法で行われる。特に有用な方法は、噴霧やナイフ塗布、キャスティングであり、特にナイフ塗布である。
【0098】
本発明の特に好ましい実施例では、この方法が次の方法である。
【0099】
I)基材を搬送具に載せる、
II)少なくとも一個の切欠き部をもつマトリックスを、この基材の上に、塗装領域がマトリックスで覆われないようにして置く。
III)好ましくはナイフ塗布により、この基材に本発明の組成物を塗布する。
IV)この塗装基材をマトリックスと搬送具から取り外す。
【0100】
工程II)で用いるマトリックスは、好ましくは平坦な構造物であり、特に少なくとも一個の切欠き部を持つ高分子膜である。この切欠き部の形状と大きさと深さは、塗膜の所望の形状や寸法、厚みに応じて選部ことが好ましくい。
【0101】
本発明の組成物を、特にナイフ塗布により、好ましくは切欠き部の全体をこの組成物で埋めることにより、この組成物を極めて効果的に自動的に塗布することができる。
【0102】
切欠き部の外側の不要な溶液は、単にマトリックスを除去することで除かれる。
【0103】
本発明によれば、この塗装が、好ましくは160℃未満の温度で、より好ましくは120℃未満、特に20℃〜100℃の範囲の温度で行われる。
【0104】
また、この塗装基材を、好ましくは後処理にかけることができる。しかしながら、P25として(酸定量により)計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するH3PO4及び/又はポリリン酸の総量が72.43%である組成物には、このような後処理が必ずしも必要がない。これらの組成物は後処理なしに直接使用できる。これは本発明の組成物のもう一つの長所である。
【0105】
この後処理は、希H3PO4で、特に濃度が30〜85%のがH3PO4で行われる。水または湿気による後処理も可能である。塗膜は、好ましくは−100℃〜150℃の範囲の温度で、好ましくは10℃〜120℃の範囲、特に室温(20℃)〜110℃、より好ましくは30℃〜100℃の範囲の温度で処理することが好ましい。また、この処理は常圧で行うことが好ましいが、加圧下で行ってもよい。本発明の特に好ましい実施例では、この塗装が水または水性液体を含む浴を用いて行われる。
【0106】
塗膜の湿気処理で、組成物が固化し、層厚が低下し、好ましくは自己支持性フィルムの形の膜が形成される。この固化塗膜の厚みは、15〜3000μmであり、好ましくは20〜2000μm、特に20〜1500μmであり、この膜は自己支持性である。
【0107】
湿気処理の上限温度は、一般的には150℃である。極めて短い湿気処理、例えば過熱スチームでの湿気処理の場合、この蒸気が150℃を超える温度であってもよい。上限温度に必須の因子は、処理時間である。
【0108】
この湿気処理を、水分の作用が制御された人工気象室中で行うこともできる。この場合、接触環境の、例えば空気、窒素、二酸化炭素または他の適当なガスなどのガスや水蒸気の温度あるいは飽和度により、湿度を制御された状態で調整することができる。処理時間は、上に選択したパラメーターに依存する。
【0109】
この処理時間は膜厚にも依存する。
【0110】
一般に、この処理時間は、例えば過熱スチームでの処置では数秒〜数分間であり、例えば室温で低い相対空気湿度の空気下では丸一日となることがある。この処理時間は好ましくは10秒間〜300時間であり、特に1分〜200時間である。
【0111】
相対空気湿度が40〜80%の周囲空気で室温(20℃)で湿気処理を行う場合、その処理時間は好ましくは1〜200時間である。
【0112】
得られる塗膜が自己支持性となるように、即ち搬送具から損傷無く取り外すことができ、必要ならさらに直接加工可能であるようにすることができる。
【0113】
湿気処理の程度により、即ち時間と温度と周囲湿度により、本発明のポリマー膜のリン酸濃度を、従って導電性を調整することができる。本発明では、このリン酸濃度は、ポリマーの繰返し単位1モル当りの酸のモル数で表される。本発明において、この濃度(式(III)、即ちポリベンズイミダゾールの一繰返し単位あたりのリン酸のモル数)は、好ましくは10〜90であり、より好ましくは12〜85、特に15〜80モルのリン酸である。
【0114】
本発明のある好ましい実施様態においては、この塗膜が架橋されている。このために、架橋可能なモノマーを用いて、これを架橋する塗膜に塗布することが有利である。
【0115】
この架橋可能なモノマーは特に、少なくとも2個の炭素−炭素二重結合をもつ化合物である。ジエンやトリエン、テトラエン、ジメチルアクリレート、トリメチルアクリレート、テトラメチルアクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレートが好ましい。
【0116】
特に好ましいのは、次式のジエンやトリエン、テトラエン:
【0117】
【化9】

【0118】
次式のジメチルアクリレートやトリメチルアクリレート、テトラメチルアクリレート:
【0119】
【化10】

【0120】
次式のジアクリレートやトリアクリレート、テトラアクリレート:
【0121】
【化11】

であり、式中、
Rは、C1−C15−アルキル基、C5−C20−アリール、またはヘテロアリール基、NR’、−SO2、PR’、Si(R’)2であり(上記の基は置換されていてもよい)、
R’は、独立して水素、C1−C15−アルキル基、C1−C15−アルコキシ基、C5−C20−アリールまたはヘテロアリール基であり、
nは少なくとも2である。
【0122】
上記のR基の置換基は、好ましくはハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシ、カルボキシル、カルボキシルエステル、ニトリル、アミン、シリルあるいはシロキサン基である。
特に好ましい架橋剤としては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリル酸、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラ−およびポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、グリセリルジメタクリレート、ジウレタンジメタクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、エバクリルなどのエポキシアクリレート、N’,N−メチレンビスアクリルアミド、カルビノール、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ジビニルベンゼン及び/又はビスフェノール−Aジメチルアクリレートがあげられる。これらの化合物は、例えばサートマー社(Exton、Pennsylvania)からCN−120やCN104、CN−980という名称で販売されている。
【0123】
架橋剤の使用は任意であり、これらの化合物は、通常塗膜の重量に対して0.05〜30重量%の範囲で、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%の範囲の量で使用できる。
【0124】
これらの架橋性モノマーは噴霧などにより塗布可能である。
【0125】
これらの架橋性モノマーはフリーラジカル重合することが好ましい。このフリーラジカルは、熱的に発生させても、光化学的、化学的に及び/又は電気化学的に発生させてもよい。
【0126】
例えば、開始剤の溶液を架橋すべき塗膜に塗布してもよい。これは先行技術から既知の方法で実施できる(例えば、浸漬や噴霧など)。
【0127】
適当なフリーラジカル開始剤としては、アゾ化合物やペルオキシ化合物、過硫酸塩化合物またはアゾアミジンがあげられる。非制限的な例としては、ジベンゾイルペルオキシド、ジクメンペルオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルペルオキソ−ジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキソジカーボナート、過硫酸二カリウム、アンモニウムペルオキソジスルフェート、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(イソブチルアミジン)塩酸塩、ベンズピナコール、ジベンジル誘導体、メチルエチレンケトンペルオキシド、1,1−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、メチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、tert−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカルボネート、2,5−ビス(2−エチルヘキサノニルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシアセテート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,5,5−トリメチル−シクロヘキサン、クミルハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、ビス(4−tert−ブチルシクロ−ヘキシル)ペルオキシジカーボナート、デュポン社から(R)バゾという名称で入手可能なフリーラジカル開始剤、例えば(R)バゾV50や(R)バゾWSがあげられる。
【0128】
また、光照射でフリーラジカルを発生するフリーラジカル開始剤を使用することもできる。好ましい化合物としては、α,α−ジエトキシアセトフェノン(DEAP、アップジョン社)、n−ブチルベンゾインエーテル((R)トリゴナール−14、AKZO)、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン((R)イルガキュア651)、1−ベンゾイルシクロヘキサノール((R)イルガキュア184)、ビス(2,416−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(((R)イルガキュア819)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−フェニルプロパン−1−オン((R)イルガキュア2959)があげられ、これらはすべて、チバガイギー社より販売されている。
【0129】
通常0.0001〜5重量%、特に0.01〜3重量%(フリーラジカル重合可能なモノマーの重量に対して)のフリーラジカル開始剤が添加される。フリーラジカル開始剤の量は所望の重合度に応じて変更可能である。
【0130】
この重合は、IRまたはNIR(IR=赤外、即ち波長が700nmが超える光;NIR=近IR、即ち波長が約700〜2000nmの範囲の光、またはエネルギーが約0.6〜1.75eVの範囲の光)の作用で行うこともできる。
【0131】
この重合を、波長が400nm未満の紫外光の作用で行うこともできる。この重合方法は公知であり、例えば、Hans Joerg Ellas、Makromolekulare Chemie [高分子化学]、5th edition、volume 1、p. 492−511; D. R. Arnold、N. C. Baird、J. R. Bolton、J.C. D. Brand、P. W. M. Jacobs、P. de Mayo、W. R. Ware、Photochemistry−An Introduction [光化学概説]、Academic Press、New York and M.K.Mishra、ビニル系モノマーのラジカル光重合、J. Macromol. Sci.−Revs. Macromol. Chem. Phys. C22(1982−1983) 409に記載されている。
【0132】
この重合をβ線、γ線及び/又は電子線の作用で行うこともできる。本発明のある特定の実施様態においては、塗膜を、1〜300kGyの範囲の、好ましくは3〜200kGy、最も好ましくは20〜100kGyの範囲の放射線量で照射する。
【0133】
架橋性モノマーの重合は、室温(20℃)〜200℃の温度で、40℃〜150℃の範囲、より好ましくは50℃〜120℃の範囲の温度で行うことが好ましい。この重合は好ましくは常圧で行われるが、加圧下で行ってもよい。重合で塗膜が固化し、この固化は微小硬度の測定で追跡可能である。重合による硬度の増加は、架橋前の塗膜の硬度に対して少なくとも20%であることが好ましい。
【0134】
所望の重合度に応じて、重合後に得られる平坦な構造が自己支持性の膜となる。重合度は、好ましくは少なくとも2繰返し単位であり、特に少なくとも5、より好ましくは少なくとも30繰返し単位であり、特に少なくとも50繰返し単位、最も好ましくは少なくとも100繰返し単位である。この重合度は個数平均分子量Mnであり、これはGPC法で測定可能である。
【0135】
湿気処理後に酸素存在下で加熱してこの塗膜をさらに架橋することができる。この塗膜の硬化により塗膜の特性がさらに向上する。このために、この塗膜を少なくとも150℃の温度に、好ましくは少なくとも200℃、より好ましくは少なくとも250℃の温度に加熱できる。この加工工程中での酸素濃度は、通常5〜50体積%の範囲であり、好ましくは10〜40体積%の範囲であるが、特にこれに限定されるのではない。この架橋もまた、IRまたはNIR(IR=赤外、即ち波長が700nmが超える光;NIR=近IR、即ち波長が約700〜2000nmの範囲の光、またはエネルギーが約0.6〜1.75eVの範囲の光)の作用で実施できる。もう一つの方法はβ線の照射である。なお、この放射線量は5〜200kGyである。
【0136】
所望の架橋度に応じて、架橋反応時間を広い範囲で変更可能である。一般にこの反応時間は1秒〜10時間であり、好ましくは1分〜1時間であるが、特にこれに限定されるのではない。
【0137】
本発明の方法で、酸ドープされたポリアゾール含有膜が比較的簡単で安価に製造可能となり、これは容易に工業用スケールで実施可能である。これには特に以下の長所がある:
⇒はるかに高い空時収率でこの膜が生産可能である。
⇒比較的高品質で高再現性の膜が得られ、異なるバッチ間での品質変動がほとんどない、
⇒比較的高分子量のポリアゾールの加工が現在可能である。
⇒膜中の発泡がほぼ完全に抑えられている。
【0138】
本発明の方法で得られる膜の利用分野としては、特に燃料電池で使用する高分子電解質膜としての利用があげられる。詳細については、特許DE10213540A1と、DE10246559A1、DE10246461A1を参照されたい。なお、なお、その開示内容はすべて、引用により本明細書に組み込むものとする。
【0139】
本発明において、膜電極接合体の製造、特に燃料電池用の膜電極接合体の製造に、本発明により塗装した基材を使用することが特に好ましい。これらは、塗装基材を他の基材と、好ましくは他の平面電極とを圧縮することで好適に得られる。
【0140】
本発明はまた、
A)本発明の組成物を押し出して繊維を形成し、
B)工程A)で形成した繊維を液体浴に導き、
C)単離して、得られた繊維を乾燥させる
の工程からなるポリマー繊維の製造方法を提供する。
【0141】
工程A)の押出は、いずれかの既知の繊維製造方法で実施可能である。得られる繊維は、エンドレスの長繊維であっても、あるいはもし繊維がメルトブロー法と同様に形成されるのなら短繊維状であってもよい。形成される繊維の線密度は、特に限定されない。したがって、モノフィラメント、即ちワイヤ状繊維とすることもできる。これに加えて中空繊維を製造することもできる。目的用途により繊維の所望線密度が決まる。得られる繊維の全体として取扱いは、既知の繊維技術で実施可能である。
【0142】
本発明のある実施様態では、工程A)で押し出された組成物が、まずガスで飽和させられる。このためには、この条件下で不活性なガスならすべてが好適である。この飽和は、好ましくは超臨界状態で行われ、この結果、続く膨張時にガスが気孔を形成する。この技術は、ミューセル(R)という名前で知られる。このミューセル技術を本発明の方法に適用することで初めて、ポリアゾールポリマーの、特にポリイミダゾールやポリベンズチアゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリ(テトラザピレン)ポリマー系のポリアゾールポリマーのマイクロ発泡体を得ることができる。
【0143】
工程A)の押出成型の後に、得られる繊維が沈澱浴に導かれる。この導入は、室温(20℃)〜沈澱液体の沸点(常圧での)の温度範囲内で効果的である。
【0144】
本発明において工程B)で用いられる沈澱液体は、室温(即ち約20℃)で液体で存在する溶媒であり、アルコールとケトン、アルカン(脂肪族および脂環式)、エーテル(脂肪族および脂環式)、エステル類、カルボン酸(なお、上の基はハロゲン化されていてもよい)、水、無機酸(例えば、H3PO4やH2SO2)、これらの混合物からなる群から選ばれる。
【0145】
C1−C10アルコールや、C2−C5ケトン、C1−C10−アルカン(脂肪族および脂環式)、C2−C6−エーテル(脂肪族および脂環式)、C2−C5エステル、C1−C3カルボン酸、ジクロロメタン、水、これらの混合物の使用が好ましい。
【0146】
次いで、この繊維から沈澱液体を除く。これは好ましくは乾燥により行われ、その温度と周囲圧力は沈澱液体の蒸気分圧を基に選択される。乾燥は通常常圧で20℃〜200℃の温度で行われる。減圧下で穏やかに乾燥することもできる。この乾燥方法に制限はない。
【0147】
沈澱浴での処理で多孔性構造が形成される。用途によっては、これらは次の使用に望ましい。
【0148】
ある変例では、工程A)の押出成型後の繊維に、工程B)に記載のように形成された繊維の処理を行ってもよい。この繊維の処理は、0℃〜150℃の温度で、好ましくは10℃〜120℃の範囲、特に室温(20℃)〜90℃の温度で、水分の存在下で、または水及び/又はスチーム及び/又は最高で85%の含水リン酸の存在下で行われる。この処理は好ましくは常圧で行われるが、加圧下で行ってもよい。この処理が十分な水分の存在下で行われ、その結果として存在するポリリン酸が、低分子量ポリリン酸及び/又はリン酸を生成する部分加水分解により、繊維の固化に寄与することが必須である。
【0149】
ポリリン酸の部分加水分解は、繊維の固化を導き、繊維が自己支持性となり、繊維の線密度の減少をもたらす。
【0150】
ポリリン酸層中に存在する分子内分子間構造(相互侵入ネットワーク、IPN)が、規則性の高い高分子構造を作り、これが得られる繊維の優れた特性の理由であることが明らかとなった。
【0151】
処理の上限温度は一般的には150℃である。例えば過熱スチームで湿気処置が極めて短い場合、このスチームは150℃より高くてもよい。上限温度に対して必須の因子は処理時間である。
【0152】
部分加水分解(工程B)も、明確な水分の作用で加水分解が制御可能な人工気象室中で実施することができる。この場合、この水分は、接触環境の、例えば空気や窒素、二酸化炭素または他の適当なガスなどのガスまたはスチームの温度または飽和度により、制御された状態で調整可能である。処理時間は、上に選ばれたパラメーターに依存する。
【0153】
また、この処理時間は繊維の太さにも依存する。
【0154】
一般に、処理時間は、例えば過熱スチーム、または過熱湿潤空気の作用下では、1秒の数分の一や数秒である。
【0155】
原理的には、この処理を相対空気湿度が40〜80%の周囲空気を用いて室温(20℃)で実施することもできる。しかしながら、この場合の処理時間が長くなる。
【0156】
以下、本発明を実施例を基に説明するが、これが本発明の概念を制限することはない。
【0157】
実施例1
ポリ(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール)(=PBI)のポリリン酸(PPA)溶液を、WO02/088219中に大まかに記載された方法により作製した。PBIの含量と、ポリリン酸のH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するP25として計算された濃度(酸定量により)を下の表1.1と表1.2に示す。
【0158】
これらの組成物の溶液粘度も同様に示す。これらの測定は、N2雰囲気下で剪断応力がコントロールされたフィジカMCR300回転粘度計を用いて、板−板配置(上板Φ25mm;分離:1mm;すべての試料は30℃;試料4と5と6は150℃)またはコーン板配置(上板Φ50mm−2°;チップテーパ:0.053mm;試料1と2と3は150℃)で行った。
【0159】
同条件と固体含量下で、本発明の組成物の粘度が、従来のPBI溶液よりかなり低いことが明らかである。これは、膜への加工においてかなりの利点となる。
【0160】
【表1.1】

【0161】
【表1.2】

【0162】
実施例2
2重量%のポリ(2,2’−(m−フェニレン)−5)5’−ビベンズイミダゾール)(=PBI;固有粘度=5.65dL/g)のポリリン酸[(酸定量により)P25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するPPA;83.4%]溶液を、WO02/088219中に大まかに記載された方法により作製した。この溶液を240℃に加熱し、まず還流冷却器と滴下ロートを備えたHWS反応器に投入した。この混合物を水で希釈した。水の量は、P25とて計算される(酸定量による)H3PO4とポリリン酸の総量が、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対して72.43%となるように選択した。その後、温度を180℃に下げた。相対値で表した溶液粘度の時間変化を表2に示す。180℃での水の添加後は溶液粘度が上昇しないことが明らかである。これ対して、WO02/088219の溶液など従来の溶液の溶液粘度は、同条件でもはや加工ができなくなるまで上昇した。本発明の溶液は、水添加後も均一であった。
【0163】
【表2】

【0164】
実施例3
2.5重量%溶液を用いて実施例2の方法。溶液粘度の経時変化を相対値で表3に示す。この表より、水添加と希釈後では溶液粘度が減少し、溶液の溶液粘度の更なる増加のない平坦域ができることが明らかである。水の添加なしでは、粘度がさらに上昇する。
【0165】
【表3】

【0166】
実施例4
2.5重量%溶液を用いて実施例2の方法。溶液粘度の経時変化を相対値で表43に示す。水の添加後の溶液粘度の低下が明らかである。希釈しないと、この溶液は粘稠過ぎて加工できず廃棄する必要がある。また、このように反応器中で過度に高粘度となる溶液を再び加工可能とすることができる。これにより複雑な容器の洗浄作業が省かれ、シャットダウン期間が無くなり、機械的洗浄による反応器の損傷を避けることができる。
【0167】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液及び/又は分散液の形態の組成物であって、
○少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8.0g/dlの範囲にある少なくとも一種のポリアゾールと
○リン酸(H3PO4)及び/又はポリリン酸とからなり、
・ポリアゾールの含量が、該組成物の総重量に対して0.5重量%〜30.0重量%の範囲にあり、
・H3PO4及び/又はポリリン酸の含量が、該組成物の総重量に対して、30.0重量%〜99.5重量%の範囲にあり、
・このP25として計算される(酸定量による)H3PO4及び/又はポリリン酸の濃度が、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対して70.5〜75.45%の範囲である組成物。
【請求項2】
150℃の温度でせん断速度が1Hzで求めた溶液粘度が0.1Pas〜300Pasの範囲である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記ポリアゾールが繰返しベンズイミダゾール単位を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記請求項の少なくとも一項に記載の組成物を製造する方法であって、
a)少なくとも一種のポリアゾールをリン酸及び/又はポリリン酸に溶解及び/又は分散し、(なお、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するP25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸の選択された濃度が72.0%未満である)、
b)工程a)からの溶液または分散液から水を除いて、H3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するP25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸の濃度を増加させる方法。
【請求項5】
水が蒸発により除かれる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)からの溶液が、少なくとも一種のポリアゾールとポリリン酸を含む溶液の加水分解により得られる請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
上記用いる溶液が、その総重量に対して、
−少なくとも1.8重量%の少なくとも一種の、少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8g/dlの範囲であるポリアゾールと、
−90.0重量%〜98.2重量%のポリリン酸を含む請求項4、5または6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3の少なくとも一項に記載の組成物を製造する方法であって、
i)まず、少なくとも96重量%の硫酸中で求めた固有粘度が3.0〜8.0g/dlの範囲にあるポリアゾールの溶液または分散液を、温度が160℃を超えるポリリン酸中に投入し[その際の(酸定量により)P25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するH3PO4及び/又はポリリン酸の濃度は、72.4%より大きい]、
ii)混合物中の、(酸定量により)P25として計算されたH3PO4及び/又はポリリン酸及び/又は水の総量に対するH3PO4及び/又はポリリン酸の総量が、70.5〜75.45%の範囲となるまで、水、リン酸及び/又はポリリン酸をこの溶液または分散液に添加し、
iii)H3PO4及び/又はポリリン酸の総量を工程ii)で指定した範囲に維持しながらこの混合物を均一化することからなる方法。
【請求項9】
請求項1〜3の少なくとも一項に記載の組成物を基材に塗布する塗装基材の製造方法。
【請求項10】
平面電極が塗装される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の方法であって、
I)基材を搬送具に載せ、
II)少なくとも一個の切欠き部をもつマトリックスを、この基材の上に、塗装領域がマトリックスで覆われないようにして置き、
III)好ましくはナイフ塗布により、この基材に本発明の組成物を塗布し、
IV)この塗装基材をマトリックスと搬送具から取り外すことからなる方法。
【請求項12】
塗布が160℃未満の温度で行われる前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
上記塗装基材が湿気処理される前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項14】
上記塗膜が架橋される前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項15】
上記機塗装基材が他の基材とともに圧縮される前記請求項の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項16】
A)請求項1、2及び/又は3に記載の組成物を押し出して繊維を形成する工程と、
B)工程A)で形成された繊維を液体浴中に導く工程と、
C)分離して、得られた繊維を乾燥する工程とからなる
ポリマー繊維の製造方法。
【請求項17】
工程A)で形成された繊維を沈澱浴に導く請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程A)で押し出された組成物を、ガスで、好ましくは超臨界状態で飽和させ、続く膨張により該ガスにより気孔を形成する請求項16または17に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530791(P2012−530791A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515394(P2012−515394)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003670
【国際公開番号】WO2010/145827
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】