説明

ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子及びその製造方法

【課題】水に対して優れた溶解性を示し、有機溶媒に対して優れた分散性を有するポリアニリン含有ナノコンポジット粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンの酸化を行って生成されることを特徴とするポリアニリン含有ナノコンポジット粒子。


(R及びRは−(CF2)p−Y基、又は−CF(CF3)−[OCF2CF(CF3)]q−OC3F7基を表し同一の基であっても異なる基であってもよくYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子、p及びqは0〜10の整数を示す。Rは水素原子又はメチル基、Z:−OH、−OC2H4SO3H又は−NH2+C(CH3)2CH2SO3-から選ばれる基を示す。nは5〜1000の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に対する溶解性に優れ、また、有機溶媒に対して優れた分散性を示すポリアニリン含有ナノコンポジット粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一連の共役ポリマーの中で、ポリアニリンは空気や湿気に対して安定性が高く、さらには高い電気伝導性を示すことから二次電池の電極材料、帯電防止剤、固体電解コンデンサの電解質、二酸化チタン色素増感型太陽電池の対極、電磁波シールド材、活性酸素発生材、光記録素子、人工筋肉材料、エレクトロレオロジー流体用分散剤等の電気・電子・機械等の幅広い分野で注目されている材料である。
【0003】
しかしながら、ポニアニリンは一般に種々の溶媒に対する溶解性が低いことから、ポニアニリンの溶解性を高める検討が多くなされている。例えば、スルホ基を有するアニリン誘導体(m−アミノベンゼンスルホン酸)とアニリンとのレドックス重合を行う方法(例えば、非特許文献1参照)、アニリンの酸化によりポニアニリンを製造するに際し、アニリンの一部をパラ置換アニリンに置き換えて反応を行う方法(例えば、特許文献1参照)、アニリンと遷移金属又は遷移金属化合物とからなる溶液に、過酸化水素を加えて酸化重合する方法(例えば、特許文献2参照)、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミドアニオンをドーパンとして含有させる方法(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−255905号公報。
【特許文献2】特開平06−200017号公報。
【特許文献3】特開2005−350525号公報。
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Synthetic Metals,2002年,130巻, 1号, 27−33頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、フルオロアルキル基が両末端に導入されたオリゴマー類の合成と性質及びこれを用いた新規な機能性材料に関する研究を積極的に行っている。本発明者らは、更にフルオロアルキル基を有する新規な機能性材料について鋭意研究を重ねる中で、特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンのレドックス重合反応を行うことにより、フルオロアルキル基含有オリゴマーセグメントが導入されたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子が得られ、また、該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、水に対して優れた溶解性を示し、有機溶媒に対して優れた分散性を示すことを見出し本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明の目的は、水に対して優れた溶解性を示し、有機溶媒に対して優れた分散性を有するポリアニリン含有ナノコンポジット粒子及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、該ナノコンポジット粒子を工業的に有利な方法で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提供しようとする第1の発明は、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンの酸化を行って生成されることを特徴とするポリアニリン含有ナノコンポジット粒子である。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Rは水素原子又はメチル基を示す。Zは−OH、−OCSOH又は−NH+C(CHCHSO-から選ばれる基を示す。nは5〜1000の整数を示す。)
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンを酸化剤で酸化重合することを特徴とするポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の製造方法である。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Rは水素原子又はメチル基を示す。Zは−OH、−OCSOH又は−NH+C(CHCHSO-から選ばれる基を示す。nは5〜1000の整数を示す。)
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第1の発明のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子とイオン性液体を接触させることにより生成されたものであることを特徴とするゲルである。
【0013】
また、本発明が提供しようとする第4の発明は、前記第3の発明のゲルを含有することを特徴とするイオン伝導体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水に対して優れた溶解性を示し、有機溶媒に対して優れた分散性を示すポリアニリンを含有したナノコンポジット粒子を提供することができ、また、該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、二次電池の電極材料、帯電防止剤、固体電解コンデンサの電解質、二酸化チタン色素増感型太陽電池の対極、電磁波シールド材、活性酸素発生材、光記録素子、人工筋肉材料、エレクトロレオロジー流体用分散剤等の電気・電子・機械等の幅広い分野での使用が期待できる。
また、本発明によれば、該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、工業的に有利に製造することができる。
【0015】
また、本発明の該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、イオン性液体に接触させるとゲルを形成し、イオン伝導性に優れたイオン性液体含有ゲルを生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1〜4で得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を溶解した水溶液(0.033g/ml)のUVスペクトチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
【0018】
本発明のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンの酸化を行って得られるものである。
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Rは水素原子又はメチル基を示す。Zは−OH、−OCSOH又は−NH+C(CHCHSO-から選ばれる基を示す。nは5〜1000の整数を示す。)
前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子に、水に対して優れた溶解性と、有機溶媒に対して優れた分散性を付与する成分である。
【0021】
前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は、アニリン1重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。該範囲であると水への溶解性、更には各種溶媒への分散性が特に高いものが得られやすい観点から好ましい。
【0022】
前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、特開2007−270124号公報、特開2009−209349号公報、特開2005−71694号公報、2003−257240号公報等に記載の方法を参照して製造される。
【0023】
その製造例の一例を以下に示す。下記一般式(2):
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、R及びRは、前記一般式(1)中のRとRと同じである。)で表わされる過酸化フルオロアルカノイル化合物と、下記一般式(3)
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R及びZは、前記一般式(1)中のR及びZと同じである。)で表わされるビニル基を有する化合物を原料とし、下記反応式(4)に従って、前記一般式(2)で表わされる過酸化フルオロアルカノイル化合物と前記一般式(3)で表わされるビニル基を有する化合物とを反応させることにより、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを得ることができる。
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、R、R、R、Z及びmは前記と同義である。)
前記一般式(2)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物の具体例としては、過酸化ジペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル、過酸化ジペルフルオロ−2,5−ジメチル−3,6−ジオキサノナノイル、過酸化ジペルフルオロ−2,5,8−トリメチル−3,6,9−トリオキサドデカノイル、過酸化ジペルフルオロブチリル、過酸化ジペルフルオロヘプタノイル、過酸化ジペルフルオロオクタノイル等が挙げられる。前記一般式(2)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物は、公知の製造方法により得られ、例えば、フルオロアルキル基含有ハロゲン化アシルに、含フッ素芳香族溶媒又は代替フロンのような含フッ素脂肪族溶媒中で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムなどのアルカリの存在下、過酸化水素を反応させる方法等により容易に得られる。
【0030】
前記一般式(3)で表されるビニル基を有する化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロキシエタンスルホン酸、2−メタクリロキシエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0031】
前記一般式(2)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物と、前記一般式(3)で表されるビニル基を有する化合物とを反応させる方法としては、例えば、前記一般式(3)で表されるビニル基を有する化合物を、不活性溶媒に溶解し、次いで、撹拌下で、前記一般式(2)で表される過酸化フルオロアルカノイル化合物を混合後、40〜50℃まで昇温し、熟成し、その後精製を行う方法が挙げられる。
【0032】
アニリンは反応溶媒中で、前記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下に酸化剤で酸化重合される。
【0033】
前記酸化剤は、例えば二酸化マンガン、ぺルオキソ二硫酸アンモニウム、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム、ぺルオキソ二硫酸カリウム、塩化クロミル、過酸化水素、第二鉄塩、ヨウ素酸塩等が挙げられ、この中、特にぺルオキソ二硫酸アンモニウムを用いると各種溶媒に対して優れたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子が収率よく得られる観点から特に好ましく用いられる。
【0034】
前記酸化剤の添加量は、アニリンに対するモル比で1〜1.5、好ましくは1〜1.23である。
【0035】
前記反応溶媒としては、前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマー、アニリン及び酸化剤を溶解し、且つ酸化剤により酸化されないものが用いられる。水が最も好ましく用いられるが、必要に応じて、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸等の有機酸類も用いることができる。また、これらの有機溶媒と水との混合溶媒も用いることが出来る。
【0036】
アニリンの酸化重合反応における反応条件は、反応温度が0〜50℃、好ましくは5〜50℃で、反応時間は2時間以上、好ましくは10〜30時間である。
【0037】
酸化重合反応終了後、必要により得られるポリアニリン含有ナノコンポジット粒子が不溶性なテトラヒドロフラン等の有機溶媒と反応溶液を混合し再沈殿させ、更に遠心分離処理して目的物を沈殿物として回収し、必要により洗浄し、次いで乾燥してポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を得ることができる。
【0038】
本発明のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、下記一般式(5)で表わされる繰り返し構造単位を有し、ポリアニリンに前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーがドーピングされて含有されているものと本発明者らは推測している。
【0039】
【化7】

【0040】
(式中、Aは、一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーを示す。x:yのモル比は0.1:100〜1:50を示す。)
ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子における前記一般式(1)で表わされるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、好ましくは1〜95重量%、特に好ましくは2〜90重量%である。本発明のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有率は、熱重量分析することにより求めることができる。
【0041】
また、本発明のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の他の好ましい物性としては、平均粒子径が好ましくは10〜900nm、特に好ましくは20〜500nmである。平均粒子径が前記範囲内にあると、水に対する溶解性に優れ、種々の有機溶媒への分散性が良好である観点から好ましい。
【0042】
本発明のポニアニリン含有ナノコンポジット粒子は水に対して高い溶解性を示し、さらに有機溶媒に対して高い分散性を示す。このような特性を有する本発明のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、二次電池の電極材料、帯電防止剤、固体電解コンデンサの電解質、二酸化チタン色素増感型太陽電池の対極、電磁波シールド材、活性酸素発生材、光記録素子、人工筋肉材料、エレクトロレオロジー流体用分散剤等の電気・電子・機械等の幅広い分野での使用が期待できる。
【0043】
本発明のポニアニリン含有ナノコンポジット粒子は、イオン性液体と混合処理して接触させるとゲルを形成し、イオン性液体を含有するゲルを生成させることができる。
【0044】
用いることができるイオン性液体は、カチオンとアニオンとの塩であり、常温(25℃)、常圧(0.1MPa)で液体であり、且つ沸点を持たない物質であれば、特に制限されない。例えば、イオン性液体を構成するカチオンとしては、アミジニウムカチオン、グアニジニウムカチオン及び3級アンモニウムカチオン、4級アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0045】
前記アミジニウムカチオンとしては、例えばイミダゾリニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジウムカチオン、ジヒドロピリミジウムカチオン等が挙げられる。
【0046】
前記グアニジニウムカチオンとしては、例えばイミダゾリニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、イミダゾリウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン等が挙げられる。
【0047】
3級アンモニウムカチオンとしては、例えばメチルジラウリルアンモニウム等が挙げられる。
【0048】
4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンとしては、下記一般式(6)で表されるものを用いることができる。
【0049】
【化8】

【0050】
(式中、QはP原子又はN原子を示す。)
前記一般式(8)の式中、R、R、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はフェニル基を示す。また、R、R、R及びRはシリカ原子を含む基であってもよい。R、R、R及びRが、シクロアルキル基又はフェニル基の場合、例えば、4−メチルシクロヘキシル基、4−メチルフェニル基のように、シクロアルキル環又はベンゼン環の水素原子の一部が、アルキル基で置換されていてもよい。また、R、R、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、R、R、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基又はフェニル基の水素原子の一部が、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ等の置換基で置換されている基であってもよい。
【0051】
式中のnは、アニオン(Y)の価数(Yn−)により定まり、アニオン(Y)の価数(Yn−)が1価の場合(nが1の場合)、4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンの式中のnの数は1であり、アニオン(Y)の価数(Yn−)2価の場合(nが2の場合)、4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンの式中のnの数は2である。そして、nは、1〜2の整数である。
【0052】
また、イオン性液体を構成するアニオンとしては、例えば、ベンゾトリアゾールイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF、PF、PO(OMe)、PS(OEt)、(COMe)PhSO、CFSO、HSO、(CFSO等の1価のアニオン;SO2−等の2価のアニオンが挙げられ、ここに例示したアニオンが、製造が易いという点で好ましい。
【0053】
本発明において、好ましいイオン性液体は、カチオンがトリ−n−ブチル−アリルアンモニウム塩、トリ−n−ブチルメチルアンモニウム塩、トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリ−n−ブチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}アンモニウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩、エチルイミダゾリウム塩、トリ−n−ブチル−アリルホスホニウム塩、トリ−n−ブチルメチルホスホニウム塩、トリエチルドデシルホスホニウム塩、トリ−n−ブチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}ホスホニウム塩、トリ−n−オクチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}ホスホニウム塩、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)ホスホニウム塩であり、アニオンが(CFSO、PF、HSO、CFSO、塩素イオン、又はヨウ素イオンであるとイオン伝導性が高いものが得られる点で好ましい。
【0054】
前記ポニアニリン含有ナノコンポジット粒子とイオン性液体との混合処理は、前記イオン性液体に前記ポニアニリン含有ナノコンポジット粒子を添加して行うことが望ましい。該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子のイオン性液体への添加量は、該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の添加によりゲル化を起こす範囲であれば特に制限はなく、多くの場合、イオン性液体100重量部に対して、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を1〜50重量部、好ましくは1〜15重量部、特に好ましくは4〜10重量部添加する。特に、イオン性液体を20〜99.9質量%、好ましくは85〜90質量%、いっそ好ましくは90〜96質量%含有するゲルは優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体として好適に用いることができ、かかるイオン伝導体は、高分子電解質として好適に用いることができる。
【0055】
混合処理方法は、ミキサー等の強力なせん断力が作用する機械的手段で行ってよいが、本発明では超音波照射を行っても容易に目的とするイオン性液体含有ゲルを得ることができる。
【0056】
超音波処理の条件等は、用いるイオン性液体やポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の添加量等により異なるが、多くの場合、超音波の出力が50〜500W、好ましくは100〜200Wで、1時間以上、好ましくは2〜24時間である。
【0057】
本発明で得られるイオン性液体を含有するゲルは、フルオロアルキル基に起因する撥水性を有していることから、撥水性を材料に付与する添加剤としての用途にも期待できる他、優れたイオン伝導性を有することから、特にイオン伝導体として有用であり、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることもできる。
【0058】
次いで、本発明のイオン伝導体を用いた高分子電解質について説明する。
【0059】
本発明の高分子電解質は、該ゲルを含有するものであり、該高分子電解質はゲル状の形態を有するものである。
【0060】
本発明において高分子電解質は、その形態がゲル状である限りにおいて、水又は非プロトン性溶媒を含有させることができる。
【0061】
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0062】
更に、本発明の高分子電解質は、他の電解質と併用することが出来る。他の電解質としては、水叉は非プロトン性溶媒に溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、LiClO4 、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4 、LiPF6 、LiCF3 SO3 、LiAsF6 、LiAlCl4、LiB(C664、CF3 SO3 Li、LiSbF6 、LiB10Cl10、LiSiF6、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF32、LiN(CF3SO32、低級脂肪酸カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム及び4フェニルホウ酸リチウム等が挙げられ、これらのリチウム塩は、1種又は2種以上で用いられる。これらのリチウム塩のうち、LiN(CF3SO32、CF3 SO3 Li、LiPF6が電解質のイオン伝導性の点から好ましく、LiN(CF3SO32が特に好ましい。これらのリチウム塩の好ましい添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではない。
【0063】
本発明の高分子電解質は、特にリチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(フルオロアルキル基含有オリゴマーの調製)
(合成例1)
【0065】
【化9】

【0066】
1Lの3つ口フラスコに、アクリル酸29.4g(0.41mol)及びAK−225を500mlを仕込み、更に、室温で、ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルペルオキシド([C−O−CF(CF)−CO−O−])の10%AK−225溶液を334g(ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイルペルオキシド0.05mol)仕込んだ。その後、撹拌しながら45℃まで昇温し、5時間熟成後、撹拌を止めて、一晩静置した。静置後、濃縮し、AK−225を用いて洗浄し、ろ過を行い、50℃で真空乾燥して、上記一般式(a)で表されるオリゴマー(略称:RF−ACAオリゴマー)を得た。なお、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量は2770であった。
・AK−225:旭硝子社製、不燃性フッ素系溶剤、構造式CFCFCHCl/CClFCFCHClF
(合成例2)
【0067】
【化10】

【0068】
合成例1において、アクリル酸を2−メタクリロキシエタンスルホン酸(MES)(0.41mol)とした以外は合成例1と同様な反応条件で、上記一般式(b)で表わされるオリゴマー(略称;RF−MESオリゴマー)を得た。なお、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリエチレングリコール換算)による数平均分子量は12000であった。
(合成例3)
【0069】
【化11】

【0070】
合成例1において、アクリル酸を2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)(0.41mol)とした以外は合成例1と同様な反応条件で、上記一般式(c)で表わされるオリゴマー(略称;RF−AMPSオリゴマー)を得た。なお、水、メタノール及びTHFに対してゲル化するため数平均分子量は測定できなかった。
【0071】
{実施例1〜4}
前記で調製した表1に示す量のRF−AMPSオリゴマーを含有する水溶液10mlに、表1に示す量のアニリン(和光純薬工業社)を加え、30分間室温(25℃)で攪拌し混合液を得た。次いで、表1に示す量のぺルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)を含有する水溶液20mlを前記混合液に添加し、マグネチックスターラーにて室温(25℃)で24時間反応を行った。
【0072】
反応終了後、過剰量のテトラヒドロフラン500mlに反応溶液を加え、再沈殿を行った。沈殿はデカンテーション及び遠心分離により溶媒を除去した後、50℃で真空乾燥を行った暗緑色の粉末状粒子を得た。該粉末状粒子を水に溶解し、UVスペクトルを測定した。
なお、Poaron(下記一般式(B)参照)が404〜446nm、Bipolaron(下記一般式(A)参照)が773〜943nmに吸収スペクトルを有することは知られている(例えば、Synthetic Metals,2002年,130巻, 1号, 27−33頁参照)。
【0073】
【化12】

【0074】
本発明で得られたものは、430nmと790nmに極大吸収スペクトを有しているのでフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有するポニアニリン含有ナノコンポジット粒子であることを確認した。そのUVスペクトルチャートを図1に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
注)APSはぺルオキソ二硫酸アンモニウムを示す。
<ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の評価>
実施例1〜4で得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子試料について、平均粒子径、RF−AMPSオリゴマーの含有量を測定した。
(平均粒子径の評価)
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を水に再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
(RF−AMPSオリゴマー含有量の測定)
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を熱重量分析して求めた。
【0077】
【表2】

【0078】
{実施例5〜9}
前記で調製した表3に示す量のRF−ACAオリゴマーを含有する水溶液10mlに、表3に示す量のアニリン(和光純薬工業社)を加え、30分間室温(25℃)で攪拌し混合液を得た。次いで、表1に示す量のぺルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)を含有する水溶液20mlを前記混合液に添加し、マグネチックスターラーにて室温(25℃)で24時間反応を行った。
【0079】
反応終了後、過剰量のテトラヒドロフラン500mlに反応溶液を加え、再沈殿を行った。沈殿はデカンテーション及び遠心分離により溶媒を除去した後、50℃で真空乾燥を行った暗緑色のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子試料を得た。
【0080】
【表3】

【0081】
注)APSはぺルオキソ二硫酸アンモニウムを示す。
<ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の評価>
実施例5〜9で得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子試料について、平均粒子径、RF−ACAオリゴマーの含有量を測定した。
(平均粒子径の評価)
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を水に再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
(RF−ACAオリゴマー含有量の測定)
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を熱重量分析して求めた。
【0082】
【表4】

【0083】
{実施例10〜13}
前記で調製した表5に示す量のRF−MESオリゴマーを含有する水溶液10mlに、表5に示す量のアニリン(和光純薬工業社)を加え、30分間室温(25℃)で攪拌し混合液を得た。次いで、表5に示す量のぺルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)を含有する水溶液20mlを前記混合液に添加し、マグネチックスターラーにて室温(25℃)で24時間反応を行った。
【0084】
反応終了後、過剰量のテトラヒドロフラン500mlに反応溶液を加え、再沈殿を行った。沈殿はデカンテーション及び遠心分離により溶媒を除去した後、50℃で真空乾燥を行った暗緑色のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子試料を得た。
【0085】
【表5】

【0086】
注)APSはぺルオキソ二硫酸アンモニウムを示す。
<ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の評価>
実施例10〜13で得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子試料について、平均粒子径、RF−MESオリゴマーの含有量を測定した。
(平均粒子径の評価)
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を水に再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した。
(RF−MESオリゴマー含有量の測定)
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を熱重量分析して求めた。
【0087】
【表6】

【0088】
<溶解性の評価>
得られたポリアニリン含有ナノコンポジット粒子について各溶媒に対する溶解性を評価した。その結果を表7に示した。また、フルオロアルキル基含有オリゴマーを含有しないポリアニリンについても溶解性を試験し、その結果を表7に併記した。
表中の記号は下記のことを示す。
◎;溶ける、○良好な分散、△;一部分散、×;ほとんど分散しない
【0089】
【表7】

【0090】
注)AK225は:CFCFCHClとCClFCFCHClFの重量比で1:1の混合液、THF;テトラヒドロフラン、ジクロロエタン;1,2−ジクロロエタン(CHClCHCl)、DMF;ジメチルホルムアミド
<イオン性液体のゲル化の評価>
イオン性液体にポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を添加することにより、ゲルを形成するのに必要なポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の最小添加量(以下、「最小ゲル化濃度」という)を求めた。なお、実験方法は以下のとおりである。
【0091】
前記で調製した実施例1と実施例10のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を、それぞれ各種のイオン性液体0.5gに添加し、120Wで12時間超音波をかけることによりゲルが形成(25℃)されるかどうか確認した。
【0092】
また、用いたイオン性液体は、以下の化学式(a1)〜(a6)のものを使用した。
【0093】
【化13】

【0094】
【表8】

【0095】
(イオン伝導度の評価)
前記得られたイオン性液体含有ゲル試料をパイレックス(登録商標)ガラスセルに入れ、真鍮で作成した上部電極を下部電極で挟み込み、導電率を室温(25℃)にて測定した。また、マイクロヘッドを用いてゲルの厚さを測定した。これらの測定値から、イオン伝導度(σ)を算出した。また、イオン性液体を単独で用いた場合のイオン伝導度を表9に併記した
【0096】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、水に対して優れた溶解性を示し、有機溶媒に対して優れた分散性を示すポリアニリンを含有したナノコンポジット粒子を提供することができ、また、該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、二次電池の電極材料、帯電防止剤、固体電解コンデンサの電解質、二酸化チタン色素増感型太陽電池の対極、電磁波シールド材、活性酸素発生材、光記録素子、人工筋肉材料、エレクトロレオロジー流体用分散剤等の電気・電子・機械等の幅広い分野での使用が期待できる。
また、本発明によれば、該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子を工業的に有利に製造することができる。
また、本発明の該ポリアニリン含有ナノコンポジット粒子は、イオン性液体に接触させるとゲルを形成し、イオン伝導性に優れたイオン性液体含有ゲルを生成させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンの酸化を行って生成されることを特徴とするポリアニリン含有ナノコンポジット粒子。
【化1】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Rは水素原子又はメチル基を示す。Zは−OH、−OCSOH又は−NH+C(CHCHSO-から選ばれる基を示す。nは5〜1000の整数を示す。)
【請求項2】
平均粒径が10〜900nmであることを特徴とする請求項1記載のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子。
【請求項3】
下記一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーの存在下にアニリンを酸化剤で酸化重合することを特徴とするポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の製造方法。
【化2】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。Rは水素原子又はメチル基を示す。Zは−OH、−OCSOH又は−NH+C(CHCHSO-から選ばれる基を示す。nは5〜1000の整数を示す。)
【請求項4】
前記酸化剤がぺルオキソ二硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項3記載のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の何れか1項に記載のポリアニリン含有ナノコンポジット粒子とイオン性液体を接触させることにより生成されたものであることを特徴とするゲル。
【請求項6】
請求項5記載のゲルを含有することを特徴とするイオン伝導体。
【請求項7】
高分子固体電解質として用いられることを特徴とするイオン伝導体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190291(P2011−190291A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54861(P2010−54861)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】