説明

ポリアミック酸及びイミド化重合体

【課題】屈折率が高く、透明性に優れ、さらに耐熱性にも優れた特定の構造を有するイミド化重合体を与えるポリアミック酸を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される構造を有するポリアミック酸。


[式(1)中、Rは4価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、mは1〜100000の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミック酸及びイミド化重合体に関する。さらに詳しくは、高屈折率かつ耐熱性に優れたポリアミック酸及びイミド化重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは複素環や芳香環等の環状構造からなる高次構造を多数有し、高温になっても分子鎖が動き難いこと、二重結合等の高次結合を多数有し、原子間結合エネルギーが大きいこと、複素環や芳香環がポリマー分子内、ポリマー分子間で相互に作用し合いCT(Charge Transfer)錯体を形成し、凝集力が大きい等の理由から、ポリイミドの耐熱性は各種プラスチックの中でも最高位にランクされる。
【0003】
さらに、ポリイミドは耐熱性に優れるだけではなく、高強度・高弾性で機械特性にも優れ、高絶縁・低誘電で電気特性にも優れ、さらには耐薬品性、耐放射線性、難燃性にも優れている。
【0004】
近年では、感光性を有するポリイミドも開発され、超高集積半導体に、強靭で接着力の強いポリイミドは宇宙往還機に、透明性の高いポリイミドは光通信機器に、射出成型性の良いポリイミドは自動車部品を始めとする耐熱摺動部品に使用されている。
【0005】
上記のような特性を有するポリイミドを光学的用途に用いた例として、硫黄原子を含有する二酸無水物と硫黄原子を含有しないジアミンを使用したポリイミドを光導波路として利用した例(特許文献1);硫黄原子を含有しない二酸無水物と硫黄原子を含有するジアミンを使用したポリイミドを液晶配向膜として利用した例(特許文献2);特定の構造を有するポリイミドと酸化チタン粒子の混合物を高屈折率材料として利用した例(特許文献3);及び硫黄原子を含有しないポリアミック酸と酸化チタン粒子及び他の特定の化合物との混合物をポジ型感光性樹脂組成物として利用した例(特許文献4)等が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−131684号公報
【特許文献2】特開平5−263077号公報
【特許文献3】特開2001−354853号公報
【特許文献4】特開2005−208465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二酸無水物に硫黄を導入した例(特許文献1)では、屈折率が1.67〜1.72であったが可視光(400〜700nm)での透明性が不十分であった。液晶配向膜として利用した例(特許文献2)は、ポリイミドの導電性に着目したものであり、屈折率については記載がない。特許文献3に記載の発明は、特定の構造を有する二酸無水物と特定の構造を有するジアミンとを反応させて得られたポリアミック酸を用いている。特許文献3記載の発明で用いているジアミンは、ベンゼン環の間が主としてエーテル基(−O−)によって結合されており、1つのチオエーテル基(−S−)を有するものが2種類のみ記載されている。
【0008】
本発明は、屈折率が高く、透明性に優れ、さらに耐熱性にも優れた特定の構造を有するイミド化重合体を与えるポリアミック酸及びイミド化重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、特定の位置に硫黄原子を導入した芳香族ジアミンと、脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせることにより、高屈折率と高透明性、そして耐熱性に優れたイミド化重合体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、下記のポリアミック酸及びイミド化重合体を提供する。
1.下記一般式(1)で示される構造を有するポリアミック酸。
【化3】

[式(1)中、Rは4価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、mは1〜100000の整数を示す。]
2.下記一般式(2)で示される構造を有するイミド化重合体。
【化4】

[式(2)中、Rは4価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、mは1〜100000の整数を示す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硫黄原子を導入したチアンスレン骨格を有するジアミン化合物を使用することにより、高屈折率(波長633nmにおける屈折率が、最高で1.743)と高耐熱性が達成される。
本発明によれば、高屈折率と高透明性、さらに高耐熱性が要求される光学用部材に適したイミド化重合体及びその製造原料であるポリアミック酸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
I.一般式(1)で示される構造を有するポリアミック酸
本発明のポリアミック酸は、下記一般式(1)で示される構造を有し、それ自体の屈折率(25℃、波長400〜700nm)が非常に高く、高屈折率で、透明性及び耐熱性に優れた重合体を形成することができる。
【化5】

【0013】
式(1)中、Rは4価の有機基を示し、具体的には、脂肪族、脂環族又は芳香族テトラカルボン酸二無水物から無水物基を除去した残基に相当し、得られる重合体が透明性に優れることから、脂環族テトラカルボン酸二無水物の残基であることが好ましい。また、Rは、高屈折率が得られることから、硫黄原子を含んでいることも好ましい。
はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aは基Rの置換数であり、それぞれ独立して0〜3の整数を示す。aは0であることが好ましい。
mは1〜100000の整数を示し、10〜10000の整数であることが好ましい。
【0014】
(a)一般式(1)で示される構造を有するポリアミック酸の製造
本発明のポリアミック酸は、下記一般式(3)で示されるジアミンと、下記一般式(4)で示されるテトラカルボン酸二無水物を反応させて得られる。
【化6】

上記式(3)及び(4)中、R、R及びaは、一般式(1)で説明した通りであるため、ここでは省略する。
【0015】
(b)一般式(3)で示されるジアミン
一般式(3)で示されるジアミンは公知化合物であり、公知の製造方法によって製造することができる。
一般式(3)で示されるジアミンのうち、2つのアミノ基がチアンスレン環の2位及び7位に置換した2,7−ジアミノチアンスレン、並びに2位及び8位に置換した2,8−ジアミノチアンスレンが好ましい。
【0016】
チアンスレン環は、Science of Synthesis,Vol.3(2003),p.388等に記載の方法に従って合成することができる。
2,7−ジアミノチアンスレン誘導体の製造は、例えば、下記反応式に示されるように、チアンスレン誘導体にハロゲン化アセチルを反応させてアシル化し、2,7−ジアセチルチアンスレン誘導体とし、これにヒドロキシアミンのハロゲン酸塩を反応させてオキシム化し、次いで、これにポリリン酸等の試薬を加えて加熱し、ベックマン転位によって2,7−ジアセトアミドチアンスレン誘導体とする。これに塩酸等を加えて加熱還流させることにより2,7−ジアミノチアンスレン誘導体を得る。
【化7】

【0017】
2,8−ジアミノチアンスレン誘導体の製造は、例えば、下記反応式に示されるように、チアンスレン誘導体に硫酸と硝酸を反応させてニトロ化し、2,8−ジニトロチアンスレン誘導体とし、これに活性炭担持パラジウム触媒存在下、ヒドラジン・一水和物による還元反応によって2,8−ジアミノチアンスレン誘導体を得る。
【化8】

【0018】
尚、本発明の組成物には、上記一般式(1)で示される構造を有するポリアミック酸以外のポリアミック酸を含有していてもよい。即ち、上記一般式(3)で示されるジアミンの他に、本発明の効果を損なわない範囲内で、硫黄原子を含有しないジアミンを併用することができる。この硫黄原子を含有しないジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、3,3−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)−10−ヒドロアントラセン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリンを挙げることができる。
【0019】
また、上記の硫黄原子を含有しないジアミンの他、ジアミノテトラフェニルチオフェン等のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4−ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]−ウンデシレンジメチルジアミン等の脂肪族又は脂環族ジアミンを併用することもできる。
【0020】
本発明のポリアミック酸の製造に用いるジアミン類のうち、一般式(3)で示されるジアミンの割合は、50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、高屈折率を達成するためには100モル%であることが特に好ましい。
【0021】
(c)一般式(4)で示されるテトラカルボン酸二無水物
本発明において用いられる酸無水物は上記一般式(4)で表される。式(4)中、Rはテトラカルボン酸二無水物から無水物基を除去した残基に相当する。このような化合物としては、脂肪族、脂環族又は芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられ、脂肪族及び脂環族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、得られる重合体が優れた透明性を有することから、脂環族テトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0022】
脂肪族及び脂環族テトラカルボン酸二無水物の例としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、4,10−ジオキサトリシクロ[6.3.1.02,7]ドデカン−3,5,9,11−テトラオン、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二水和物、3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族及び脂環族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらのうちではブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、4,10−ジオキサトリシクロ[6.3.1.02,7]ドデカン−3,5,9,11−テトラオン、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物及び1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]−フラン−1,3−ジオンが好ましく、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、4,10−ジオキサトリシクロ[6.3.1.02,7]ドデカン−3,5,9,11−テトラオン、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0023】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらのうちでは、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビス(フタル酸)二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0024】
また、より高屈折率のポリアミック酸が得られることから、硫黄原子を含むテトラカルボン酸二無水物を用いることも好ましい。硫黄原子含有酸無水物の例としては、例えば、4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物、チアンスレン−2,3,7,8−テトラカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0025】
(d)一般式(3)で示されるジアミンと一般式(4)で示されるテトラカルボン酸二無水物の反応
一般に、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性有機溶媒中において、ジアミン化合物と酸二無水物とを攪拌混合することによって、本発明のポリアミック酸を溶液として得ることができる。例えば、ジアミン化合物を有機溶媒に溶解し、これに酸二無水物を加えて、攪拌混合してもよく、また、ジアミン化合物と酸二無水物との混合物を有機溶媒に加えて、攪拌混合してもよい。反応は、通常、100℃以下、好ましくは、80℃以下の温度で、常圧下に行われる。しかし、反応は、必要に応じて、加圧下又は減圧下に行ってもよい。反応時間は、用いるジアミン化合物と酸二無水物や、有機溶媒、反応温度等によって異なるが、通常、4〜24時間の範囲である。
【0026】
本発明のポリアミック酸は、これをイミド化反応により脱水閉環させることにより、高い屈折率、優れた透明性及び優れた耐熱性を有するイミド化重合体を与えるため、これらの特性を必要とする光学用部材の製造用材料として好適である。
【0027】
II.一般式(2)で示されるイミド化重合体
本発明のイミド化重合体は、下記一般式(2)で示される構造を有する。
【化9】

式(2)中のR、R、a及びmは、一般式(1)と同様であるためここでは説明を省略する。
【0028】
本発明のイミド化重合体は、上記本発明のポリアミック酸を、窒素雰囲気下で80〜300℃の温度で、1〜5時間加熱することによって、ポリアミック酸がイミド化されて、上記一般式(2)で示される構造を有するイミド化重合体となる。
【0029】
本発明のイミド化重合体は、波長633nmにおける屈折率が、通常1.60以上であり、好ましくは1.68以上、より好ましくは1.70以上である。
【0030】
本発明のイミド化重合体は、高い屈折率、優れた透明性及び優れた耐熱性を必要とする光学用部材として好適である。本発明のイミド化重合体を用いた光学用部材としては、例えば、固体撮像素子の集光材料、記録用ディスクの集光材料等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0032】
合成例1
2,7−ジアセチルチアンスレン
【化10】

【0033】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、チアンスレン(11.06g、0.05mol)と無水塩化アルミニウム(27.70g、0.20mol)、そして二硫化炭素(50mL)を加え、10℃以下まで冷却した。塩化アセチル(32.37g、0.4mol)の二硫化炭素(30mL)溶液を、反応溶液の温度が10℃以上にならないように滴下した。反応溶液を室温で24時間攪拌し、反応液に塩酸を含んだ氷を加え、濃茶色の析出物を濾取した。濾取物は水洗し減圧乾燥した。濃茶色の濾取物をアセトンで抽出・濾過し、濾取物の溶剤を減圧留去した。得られた固体をエタノール/ベンゼン(4/1)で再結晶し淡黄色の針状固体を得た。
【0034】
収量:8.1g
収率:59.2%
融点:175℃(DSC)
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):2.57(s、6H)、7.68−7.70(d、2H)、7.85−7.87(d、2H)、8.05(s、2H)
元素分析:計算値:C1612:C、63.98%;H、4.03%
測定値:C、63.86%;H、4.11%
【0035】
合成例2
2,7−ジアセチルチアンスレンジオキシム
【化11】

【0036】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、合成例1で合成した2,7−ジアセチルチアンスレン(1.2g、0.004mol)にエタノール(60mL)を加え溶解させた。ヒドロキシアミン塩酸塩(32.37g、0.4mol)と蒸留水(4mL)を加えた。反応溶液を80℃で12時間攪拌し、室温まで冷却後に反応液を蒸留水(300mL)に注いだ。析出した黄色の固体を濾取した。濾取物は水洗し減圧乾燥した。濃茶色の濾取物をアセトンで抽出・濾過し、濾取物の溶剤を減圧留去した。
【0037】
収量:1.27g
収率:96.1%
融点:223−224℃(DSC)
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):2.13(s、6H)、7.54−7.56(m、4H)、7.76(s、2H)、11.29(s、2H)
元素分析:計算値:C1614:C、58.21%;H、4.21%;N、8.48%
測定値:C、58.21%;H、4.26%;N、8.12%
【0038】
合成例3
2,7−ジアセトアミドチアンスレン
【化12】

【0039】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、合成例2で合成した2,7−ジアセチルチアンスレンジオキシム(3.0g、0.009mol)にポリリン酸(PPA)(50g)を加え溶解させた。反応溶液を120℃で2時間攪拌し、室温まで冷却後に反応液を蒸留水(300mL)に注いだ。析出した黄色の固体を濾取した。濾取物は水洗し減圧乾燥した。得られた固体をメタノールに溶解させ、不溶物を除去した。メタノール溶液を蒸留水(1L)に注ぎ、析出物を得た。
【0040】
収量:1.50g
収率:50.4%
融点:197−199℃(DSC)
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):2.06(s、6H)、7.46−7.48(m、4H)、7.89(s、2H)、10.04(s、2H)
元素分析:計算値:C1614:C、58.16%;H、4.21%;N、8.48%
測定値:C、58.32%;H、4.31%;N、8.32%
【0041】
合成例4
2,7−ジアミノチアンスレン
【化13】

【0042】
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応容器に、合成例3で合成した2,7−ジアセトアミドチアンスレン(1.8g)に塩酸(3.2mL)、そしてエタノール(40mL)を加え懸濁させた。反応溶液を30分加熱還流させると均一な溶液になった。さらに1〜5時間加熱還流することにより固体が析出した。析出した黄色の固体を濾取し、濾取物は塩酸水(100mL)に溶解させ、不溶物を濾別した。濾液を水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ、淡黄色の固体を析出させた。
【0043】
収量:0.97g
融点:187−189℃(DSC)
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):5.26(s、4H)、6.49−6.52(d、2H)、6.75−6.78(d、2H)、7.10−7.14(d、2H)
元素分析:計算値:C1210:C、58.51%;H、4.09%;N、11.37%
測定値:C、58.26%;H、4.13%;N、10.97%
【0044】
合成例5
2,8−ジアミノチアンスレン
【化14】

【0045】
攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応容器に、2、8−ジニトロチアンスレン(8.57g、0.028mol)と脱水エタノール(100mL)、そして10%パラジウム活性炭(1.20g)、を加え、加熱還流した。その後、ヒドラジン・一水和物(60mL)と脱水エタノール(20mL)を1.5時間かけ滴下し、反応液を3〜24時間加熱還流した。反応液を熱濾過し、黄色の析出物を濾取しエタノールで洗浄した。得られた黄色の個体はエタノールを用いて再結晶し精製した。
【0046】
収量:6.28g
収率:91.0%
融点:191−192℃(DSC)
【0047】
合成例6
4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物
【化15】

攪拌機、還流冷却器及び窒素導入管を備えた反応容器に、4,4’−チオビスベンゼンチオール(5.00g、0.02mol)と4−ブロモフタル酸無水物(10.00g、0.044mol)、無水炭酸カリウム(6.08g、0.044mol)、そしてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(100mL)を加え、120℃で12時間反応させた。反応液を室温に戻し、白色の固体を濾取し、160℃で24時間減圧乾燥した。得られた白色の固体に蒸留水(100mL)と濃塩酸(100mL)を加え、3時間の間、加熱攪拌した。得られた白色の固体を濾取し、180〜190℃で3時間加熱し黄色の固体を得た。
【0048】
収量:7.8g
収率:71.9%
融点:175.2℃(DSC)
FT−IR(KBr、cm−1):1847.5、1778.0、1604.4、1473.3、1326.8、1257.4、902.5、817.7、732.0
H−NMR(300MHz、DMSO−d、ppm):7.45−7.49(d、4H)、7.52−7.55(d、4H)、7.56(s、2H)、7.60−7.63(d、2H)、7.83−7.85(d、2H)
元素分析:計算値 C2814:C、61.98%;H、2.60%
測定値 C、62.23%;H、2.97%
【0049】
<ポリアミック酸の製造例>
実施例1
窒素導入管を備えた反応容器に、合成例4で合成した2,7−チアンスレンジアミン(9.854g、40mmol)(以下、2,7−THDAmという)にN−メチル−2−ピロリドン(80g)(以下、NMPという)を加え、室温で攪拌し完全に溶解させた。次に、合成例6で合成した4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物(21.70g、40mmol)(以下、3SDEAという)とNMP(25g)を添加し、室温で24時間攪拌して、ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0050】
実施例2
実施例1で用いた3SDEAの代わりに、酸無水物として1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAという)を用いた他は、実施例1と同様の方法で重合を行い、ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0051】
実施例3
実施例1で用いた2,7−チアンスレンジアミンの代わりに、合成例5で合成した2,8−チアンスレンジアミンを用いた他は、実施例1と同様の方法で重合を行い、ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0052】
比較例1
窒素導入管を備えた反応容器に、ビス(p−アミノフェニル)エーテル(以下、ODAという)(8.01g、40mmol)にNMP(80g)を加え、室温で攪拌し完全に溶解させた。次に、CBDA(7.84g、40mmol)とNMP(25g)を添加し、室温で24時間攪拌して、ポリアミック酸のNMP溶液を得た。
【0053】
<イミド化重合体からなる膜の製造例>
3インチ径3mm厚の溶融石英基板上に、実施例1〜3及び比較例1で製造したポリアミック酸のNMP溶液をディスペンスし、厚さ約1〜10μmになるようにスピンコート塗布し、窒素雰囲気下280℃、1.5時間加熱して膜を作製した。
【0054】
<イミド化重合体からなる膜の特性評価>
上記のようにして作製した膜について、下記特性を測定、評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(1)屈折率
Metricon社のPC−2000型プリズムカプラーを使用して、波長633nmにおける屈折率を測定した。
【0056】
(2)透過率
日立製作所社製のU−3500型自記分光光度計を使用して、上記で得られた膜の、膜厚1μm当たりの波長400nm及び450nmにおける透過率(%)をそれぞれ測定した。
【0057】
(3)耐熱性
セイコーインスツルメンツ社製のDSC6300(昇温速度10℃/分、窒素気流下)を使用して、上記で得られた膜の5%重量減少温度を測定した。5%重量減少温度が400℃以上の場合を耐熱性合格(○)と評価した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1中の略号は下記のものを表す。
(ジアミン類)
2,7−THDAm:2,7−ジアミノチアンスレン(合成例4)
2,8−THDAm:2,8−ジアミノチアンスレン(合成例5)
ODA:ビス(p−アミノフェニル)エーテル
(酸無水物類)
3SDEA:4,4’−[p−チオビス(フェニレン−スルファニル)]ジフタル酸無水物(合成例6)
CBDA:1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
【0060】
表1の結果から、一般式(1)で示されるポリアミック酸は波長633nmにおける屈折率が1.700〜1.743と非常に高く、耐熱性に優れており、高い屈折率及び優れた耐熱性を必要とする光学用部材の製造材料として有用であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリアミック酸は、高屈折率と高透明性、さらに高耐熱性が要求される光学用部材の製造原料として有用である。
本発明のイミド化重合体は、例えば、高反射材料及び反射防止膜の高屈折率材のコーティング材料や、光導波路、各種レンズ、固体撮像素子や記録用ディスクの感度向上材料として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される構造を有するポリアミック酸。
【化1】

[式(1)中、Rは4価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、mは1〜100000の整数を示す。]
【請求項2】
下記一般式(2)で示される構造を有するイミド化重合体。
【化2】

[式(2)中、Rは4価の有機基を示し、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、aはそれぞれ独立して0〜3の整数を示し、mは1〜100000の整数を示す。]


【公開番号】特開2009−67936(P2009−67936A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239502(P2007−239502)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】