説明

ポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルム

【課題】耐熱性、低吸水性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度および電気特性に優れたポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムの提供。
【解決手段】ポリフェニレンエーテル系樹脂(A)を5〜70質量部、テレフタル酸単位を60〜100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9−ノナンジアミン単位及び/又は2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位(b)とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(B)を95〜30質量部、相溶化剤(C)を0.01〜2質量部含み、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、320℃、シェアレート=121.6(sec-1)での測定値)が30〜1000(Pa・s)である樹脂組成物からなり、(A)成分が分散相、(B)成分が連続相であるモルフォロジーを有し、かつ(B)成分の末端アミノ基濃度が1μmol/g以上45μmol/g以下である、厚みが1〜200μmのフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度および電気特性に優れたポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からポリアミド6、ポリアミド66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では、耐熱性不足、吸水による寸法安定性不良などの問題点も指摘されている。特に近年の表面実装技術(SMT)の発展に伴うリフローハンダ耐熱性を必要とする電気・電子分野、あるいは年々耐熱性への要求が高まる自動車のエンジンルーム部品などにおいては、従来のポリアミドの使用が困難となってきており、より耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、機械特性に優れたポリアミドに対する要求が高まっている。
【0003】
一方、ポリフェニレンエーテルは機械的性質・電気的性質及び耐熱性が優れており、しかも寸法安定性に優れるため幅広い用途で使用されている。ポリフェニレンエーテル単独では成形加工性、耐薬品性に劣っており、これを改良するためにポリアミドを配合する技術が提案されている。ポリフェニレンエーテルは現在では非常に多種多様な用途に使用される材料となっている。
【0004】
最近になって、ポリアミドおよびポリフェニレンエーテル系樹脂が本来有する、優れた特性をバランス良く兼ね備え、優れた耐熱性を有し、かつ低吸水性に優れる技術として、テレフタル酸単位を60〜100モル%含むジカルボン酸単位と、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を60〜100モル%含むジアミン単位とからなるポリアミド系樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する組成物(特許文献1)が開示されている。また、ポリフェニレンエ−テル系樹脂として、α,β−不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂を使用すると、耐熱性、力学物性が改善される技術(特許文献2)も開示されている。
【0005】
また、衝撃剤と相溶化されたポリフェニレンエーテル−半芳香族ポリアミド組成物として、テレフタル酸単位を60〜100モル%含むジカルボン酸単位と、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を60〜100モル%含むジアミン単位からなり、末端アミノ基濃度が45μmol/gより高いポリアミドを用いる技術(特許文献3〜6)が開示されている。しかしながら、これらの文献には、具体的なフィルムについての例示はなく、フィルム成形性およびフィルムの耐引き裂き性等のフィルム性能については何ら記載されていない。
一般に、ポリアミド6、ポリアミド66は、ガラス転移温度約50〜60℃であり、ガラス転移温度前後の温度領域において、機械強度、電気特性などが変化する。したがってポリアミド6、ポリアミド66とポリフェニレンエーテルからなるアロイフィルムにおいては、高温環境下における耐熱性が望まれていたのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2000−212433号公報
【特許文献2】特開2004−83792号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0038203号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0038191号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0038159号公報
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0038171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度および電気特性に優れたポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、特定のポリアミド系樹脂およびポリフェニレンエーテル系樹脂を含有し、さらに、樹脂組成物の溶融粘度(シェア粘度)を特定範囲内に設計し、かつ特定のモルフォロジーを形成するフィルムを成形することにより、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度および電気特性に優れたポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、本発明は以下の通りである。
【0009】
1.ポリフェニレンエーテル系樹脂(A)を5〜70質量部、テレフタル酸単位を60〜100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位(b)とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(B)を95〜30質量部、相溶化剤(C)を0.01〜2質量部含み、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、320℃、シェアレート=121.6(sec−1)での測定値)が30〜1000(Pa・s)である樹脂組成物からなり、(A)成分が分散相、(B)成分が連続相であるモルフォロジーを有し、かつ(B)成分の末端アミノ基濃度が1μmol/g以上45μmol/g以下である、厚みが1〜200μmのフィルム。
2.(A)成分が平均粒子径0.1〜2μmの分散相として存在することを特徴とする上記1に記載のフィルム。
3.該樹脂組成物のシェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、320℃、シェアレート=121.6(sec−1)での測定値)が50〜700(Pa・s)であることを特徴とする上記1または2に記載のフィルム。
4.該フィルムの厚みが、1〜100μmであることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のフィルム。
5.(C)成分が、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、クエン酸及びフマル酸よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム。
6.極限粘度[η](濃硫酸中30℃の条件下で測定)の平均値が、0.80〜1.20dl/gである半芳香族ポリアミド樹脂または半芳香族ポリアミド樹脂混合物を(B)成分の原料として用いて製造されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム。
7.該樹脂組成物中に、(A)および(B)成分の合計100質量部に対し、衝撃改良剤(D)を1〜35質量部含むことを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載のフィルム。
8.(D)成分として、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体及び/又はその水素添加物、エチレン−α−オレフィン共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載のフィルム。
9.該樹脂組成物中に、リン元素を1〜500ppm含むことを特徴とする上記1〜8のいずれかに記載のフィルム。
10.該樹脂組成物中に、(A)および(B)成分の合計100質量部に対し、結晶核剤を0.01〜3質量部含むことを特徴とする上記1〜9のいずれかに記載のフィルム。
11.該結晶核剤がタルクであることを特徴とする上記10に記載のフィルム。
12.(B)成分のポリアミドの末端アミノ基と末端カルボキシル基の濃度比が1.0以下であることを特徴とする上記1〜11のいずれかに記載のフィルム。
13.(B)成分中の1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位とのモル比が、1,9−ノナンジアミン単位/2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=100/0〜20/80の範囲内であることを特徴とする上記1〜12のいずれかに記載のフィルム。
14.(B)成分中の分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されている割合(末端封止率)が、50%以上であることを特徴とする上記1〜13のいずれかに記載のフィルム。
15.押出しチューブラー法にて成形して得られる上記1〜14のいずかに記載のフィルム。
16.Tダイ押出し法にて成形して得られる上記1〜14のいずかに記載のフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度および電気特性に優れたポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記式(I)の繰り返し単位構造からなるホモ重合体及び/または共重合体である。そして、その還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が、0.15〜1.0dl/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、さらに好ましくは0.40〜0.60の範囲である。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Oは酸素原子、R〜Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、又はハロ炭化水素オキシ(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表わす。)
【0014】
このポリフェニレンエーテル系樹脂の具体的例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0015】
本発明で使用する(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合する方法がある。
米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の各明細書、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号の各公報等に記載された方法も(A)ポリフェニレンエーテルの製造方法として好ましい。
【0016】
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、重合行程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、種々のジエノフィル化合物により官能化されたポリフェニレンエーテルも含まれる。種々のジエノフィル化合物には、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。さらにこれらジエノフィル化合物により官能化する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化してもよい。あるいはラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で、非溶融状態、すなわち室温以上、かつ融点以下の温度範囲にて官能化してもよい。この際、ポリフェニレンエーテルの融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度−熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0017】
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂には、ポリフェニレンエーテル樹脂単独又はポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物であり、さらに他の樹脂が混合されたものも含まれる。芳香族ビニル系重合体とは、例えば、アタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物を用いる場合は、耐熱性の観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との合計量に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂が70質量%以上、好ましくは80質量%以上である。
【0018】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)を構成するジカルボン酸単位(a)は、テレフタル酸単位を60〜100モル%含有する。ジカルボン酸単位(a)におけるテレフタル酸単位の含有率は、75〜100モル%の範囲内であることが好ましく、90〜100モル%の範囲内であることがより好ましい。
ジカルボン酸単位(a)は、40モル%以下であれば、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位を含んでいてもよい。かかる他のジカルボン酸単位としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位を挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。これらのなかでも芳香族ジカルボン酸から誘導される単位が好ましい。ジカルボン酸単位(a)におけるこれらの他のジカルボン酸単位の含有率は、25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸から誘導される単位を、溶融成形が可能な範囲内で含んでいてもよい。
【0019】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)を構成するジアミン単位(b)は、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を60〜100モル%含有している。ジアミン単位(b)における、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位の含有率は、75〜100モル%であることが好ましく、90〜100モル%であることがより好ましい。1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を併用する場合には、1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位のモル比は、1,9−ノナンジアミン単位/2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=100/0〜20/80であることが好ましい。より好ましくは、100/0〜50/50であり、さらに好ましくは、90/10〜60/40であり、最も好ましくは、85/15〜70/30である。
【0020】
ジアミン単位(b)は、40モル%以下であれば、1,9−ノナンジアミン単位および2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位以外の他のジアミン単位を含んでいてもよい。かかる他のジアミン単位としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンから誘導される単位を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を含むことができる。ジアミン単位(b)における、これらの他のジアミン単位の含有率は25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)の末端アミノ基濃度は、1μmol/g以上45μmol/g以下である。より好ましくは、10μmol/g以上45μmol/g以下、さらに好ましくは、20μmol/gより大きく45μmol/g以下、特に好ましくは20μmol/gより大きく40μmol/g以下である。(A)成分の末端アミノ基濃度はポリフェニレンエーテルとの反応性に大きく関与するため、1μmol/g以上45μmol/g以下の範囲にあることで耐引き裂き性およびフィルム成形安定性を高次にバランスさせることが可能となる。
【0022】
また、(B)成分の末端アミノ基と末端カルボキシル基の濃度比が1.0以下であることが好ましい。末端アミノ基と末端カルボキシル基の濃度は、H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。具体的には、特開平7−228689号公報に記載された方法等が挙げられる。
(B)成分の末端基の調整方法は、公知の方法を用いることができる。例えばポリアミド樹脂の重合時に所定の末端濃度となるようにジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物などから選ばれる1種以上を添加する方法が挙げられる。
【0023】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)は、その分子鎖の末端基の10%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されている割合(末端封止率)は、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。末端封止率が10%以上であれば、本発明の樹脂組成物の溶融成形時の粘度変化が小さく、得られる成形品の外観、耐熱水性等の物性が優れるので好ましい。
【0024】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)の末端封止率は、ポリアミド系樹脂に存在する末端カルボキシル基、末端アミノ基および末端封止剤によって封止された末端基の数をそれぞれ測定し、下記の式(1)に従って求めることができる。各末端基の数は、H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。具体的には、特開平7−228689号公報に記載された方法等に従うことが望ましい。
末端封止率(%)=[(α−β)/α]×100 (1)
〔式中、αは分子鎖の末端基の総数(これは通常、ポリアミド分子の数の2倍に等しい)を表し、βは封止されずに残ったカルボキシル基末端およびアミノ基末端の合計数を表す。〕
【0025】
末端封止剤としては、ポリアミド系樹脂末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。その他、酸無水物、モノイソシアネ−ト、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコ−ル類などを末端封止剤として使用することもできる。
【0026】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらのなかでも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸が好ましい。
【0027】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物などを挙げることができる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが好ましい。
【0028】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)は、結晶性ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法または界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法などの方法により製造することができる。特に、特開平7−228689および特開2000−103847号公報等に記載されている製造方法を用いることが好ましい。以下に、具体的なポリアミド系樹脂の製造方法の一例を示す。
【0029】
まず、触媒および必要に応じて末端封止剤を最初にジアミンおよびジカルボン酸に一括して添加し、ポリアミド塩を製造した後、200〜250℃の温度において濃硫酸中30℃における極限粘度[η]が0.10〜0.60dl/gのプレポリマーを製造する。次いで、これをさらに固相重合するかあるいは溶融押出機を用いて重合を行うことにより、容易に半芳香族ポリアミド(B) を得ることができる。ここで、プレポリマーの極限粘度[η]が好ましくは0.10〜0.60dl/gの範囲内にあると、後重合の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、さらに分子量分布の小さく、成形流動性に優れた半芳香族ポリアミドが得られる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下または不活性ガス流通下に行うのが好ましく、重合温度が200〜280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に押さえることができるので好ましい。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合、重合温度が370℃以下であるとポリアミドの分解がほとんどなく、劣化の無い半芳香族ポリアミド(B)が得られるので好ましい。
【0030】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)を製造するに際して、前記の末端封止剤の他に、例えば、触媒として、1)リン酸類、亜リン酸類および次亜リン酸類、2)リン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類および次亜リン酸金属塩類、および3)リン酸エステルおよび亜リン酸エステル類等のリン酸化合物、亜リン酸化合物、次亜リン酸化合物から選ばれる1種以上を添加することが好ましい。
【0031】
前記1)のリン酸類、亜リン酸類および次亜リン酸類としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロ亜リン酸、二亜リン酸などを挙げることができる。
前記2)のリン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類および次亜リン酸金属塩類としては、前記1)のリン化合物と周期律表第1族及び第2族、マンガン、亜鉛、アルミニウム、アンモニア、アルキルアミン、シクロアルキルアミン、ジアミンとの塩を挙げることができる。
前記3)のリン酸エステルおよび亜リン酸エステル類としては下記一般式で表される化合物を挙げることができる。
リン酸エステル;(OR)PO(OH)3-n
亜リン酸エステル;(OR)P(OH)3-n
ここで、nは1、2あるいは3を表し、Rはアルキル基、フェニル基、あるいはそれらの基の一部が炭化水素基などで置換されたアルキル基を表す。nが2以上の場合、前記一般式内の複数の(RO)基は同じでも異なっていてもよい。
前記Rとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基、ステアリル基、オレイル基などの脂肪族基、フェニル基、ビフェニル基などの芳香族基、あるいはヒドロキシル基、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基などの置換基を有する芳香族基などをあげることができる。
【0032】
本発明において用いることができる好ましいリン化合物は、リン酸金属塩類、亜リン酸金属塩類あるいは次亜リン酸金属塩類から選ばれる1種以上である。中でも、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸から選ばれるリン化合物と、周期律表第1族及び第2族、マンガン、亜鉛、アルミニウムから選ばれる金属との塩であることが好ましい。より好ましくは、リン酸、亜リン酸および次亜リン酸から選ばれるリン化合物と周期律表第1族金属とからなる金属塩であり、更に好ましくは亜リン酸あるいは次亜リン酸と周期律表第1族金属とからなる金属塩であり、もっとも好ましくは次亜リン酸ナトリウム(NaHPO)あるいはその水和物(NaHPO・nHO)である。
【0033】
(B)成分中のリン元素の濃度が1〜500ppmになるように配合することが好ましい。より好ましくは、1〜400ppmppm、さらに好ましくは、5〜400ppm、特に好ましくは、50〜400ppmである。
また本発明の樹脂組成物中には、リン元素を1〜500ppm含むことが好ましい。より好ましくは、5〜400ppm、さらに好ましくは、35〜200ppmである。
リン元素の定量は、例えば、装置はThermoJarrellAsh製IRIS/IPを用いて、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により、波長213.618(nm)にて定量できる。
【0034】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)の耐熱安定性を向上させる目的で公知となっている特開平1−163262号公報に記載されてあるような金属系安定剤も、問題なく使用することができる。
これら金属系安定剤の中でも、CuI、CuCl 、酢酸銅、ステアリン酸セリウム等を好ましい例として挙げることができ、CuI、酢酸銅等に代表される銅化合物がより好ましい。さらに好ましくはCuIである。
また、ヨウ化カリウム、臭化カリウム等に代表されるハロゲン化アルキル金属化合物も好適に使用することができる。
特に、銅化合物とハロゲン化アルキル金属化合物を併用添加することが好ましい。その銅元素とハロゲン元素の比(銅元素/ハロゲン元素)は、1/5〜1/30が好ましく、1/10〜1/20がより好ましい。
本発明の樹脂組成物中には、ハロゲン化アルカリ金属化合物及び/又は銅化合物を含むことが好ましく、銅元素を1〜200ppm含むことがより好ましい。より好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは1〜30ppm含むことである。
【0035】
銅元素の定量は、リン元素の定量同様に、例えば、装置はThermoJarrellAsh製IRIS/IPを用いて、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により定量することができる。
ハロゲン元素の定量は、試料をフラスコ燃焼法により分解した後、イオンクロマトグラフィー(IC)、例えば、横河電機社製IC7000S型を用いて定量することができる。
【0036】
本発明の半芳香族ポリアミド(B)が、結晶核剤を含んでもよい。
結晶核剤としては特に制限はないが、その具体例としては、タルク、シリカ、グラファイト、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛およびカプロラクタム二量体などのポリアミドオリゴマーなどが挙げられる。これらのなかで、タルク、シリカ、窒化ホウ素が好ましく、特にタルクが好ましい。結晶核剤はポリアミドとの相溶性を向上させる目的で、シランカップラーやチタンカップラーで処理されていてもよい。
本発明の樹脂組成物中の好ましい結晶核剤の配合量としては、(A)および(B)成分の合計100質量部に対し、結晶核剤を0.01〜3質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
結晶核剤は、ポリアミドの重合から成形までの任意の段階で添加することができる。
【0037】
本発明において、極限粘度[η](濃硫酸中30℃の条件下で測定)の平均値が、0.60〜2.00dl/gである半芳香族ポリアミド樹脂または半芳香族ポリアミド樹脂混合物を(B)成分の原料として用いることが好ましい。極限粘度[η]が、0.70〜1.30dl/gであることがより好ましく、0.80〜1.20dl/gであることがさらに好ましい。ここで、極限粘度は、濃硫酸中30℃にて、0.05、0.1、0.2、0.4g/dlの濃度の試料の溶液粘度を測定し、これを濃度0に外挿した値である。
本発明の半芳香族ポリアミド(B)は、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、330℃、シェアレート=1000(sec−1)での測定値)が、300(Pa・s)未満が好ましく、200(Pa・s)未満であることがより好ましく、100(Pa・s)以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物中に、(B)成分以外の他のポリアミドを本発明の目的を行なわない範囲で添加しても構わない。具体的には、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6T系およびこれらのコポリマーおよびブレンド等が挙げられる。
更に、ポリアミドに添加することが可能な公知の添加剤等も(B)成分100質量部に対して10質量部未満の量で添加しても構わない。
【0039】
本発明におけるポリフェニレンエーテル系樹脂(A)の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(A)成分が5〜70質量部である。好ましい含有量は5〜50質量部、より好ましくは15〜50質量部、さらに好ましくは20〜45質量部である。
本発明における半芳香族ポリアミド(B)の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、95〜30質量部である。好ましい含有量は95〜50質量部で、より好ましくは85〜50質量部、さらに好ましくは80〜55質量部である。
【0040】
本発明における樹脂組成物のシェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、320℃、シェアレート=121.6(sec−1)での測定値)は、30〜1000(Pa・s)であり、好ましくは、50〜800(Pa・s)であり、さらに好ましくは、50〜700(Pa・s)である。フィルム成形性には、約100(sec−1)付近の低シェアレート領域におけるシェア粘度の値が重要であり、この値が30〜1000(Pa・s)であることにより、厚み1〜200μmのフィルムの成形安定性に優れている。特に、厚み1〜100μmの膜厚の薄いフィルムを安定的に生産できる。
【0041】
ここでいうシェア粘度は、本発明における樹脂組成物のペレットを80℃×2時間乾燥後、キャピログラフ(東洋精機(株)キャピグラフ1C)を用い、キャピラリーは、キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mmで、320℃、シェアレート100〜1000(sec−1)のレンジにて測定を行い、シェアレート121.6(sec−1)におけるシェア粘度のことである。
本発明のフィルムの厚みは、1〜200μmである。より好ましいフィルムの厚みは、1〜150μmであり、さらに好ましくは1〜100μmであり、最も好ましくは、10〜80μmである。
【0042】
本発明のフィルムは、ポリフェニレンエーテル系樹脂(A)が分散相であって、半芳香族ポリアミド(B)が連続相であるモルフォロジーを有する。(B)成分が連続相を構成することにより、耐熱性と耐薬品性が高いレベルで達成できる。そして、(A)成分が、分散相を構成することにより、耐熱強度と耐引き裂き性が高いレベルで達成できる。
本発明のフィルムは、(A)成分が平均粒子径0.1〜2μmの分散相として存在することが好ましい。さらに耐引き裂き性およびフィルム成形性を高次にバランスさせるためには、(A)成分の平均粒子径が、0.1〜1.6μmであることがより好ましく、さらに好ましくは0.2〜1.4μm、特に好ましくは0.6〜1.4μmである。
【0043】
なお、本発明の樹脂組成物において分散相を形成しているポリフェニレンエーテル系樹脂(以下「PPE」と略記することがある。)の分散粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡写真法により求めることができ、次のように算出する。すなわち、フィルムより切り取った超薄切片の透過電子顕微鏡写真(5000倍)を調整し、分散粒子径d、粒子数niを求め、PPE分散粒子の数平均粒子径(=Σdi/Σni)を算出する。この場合、粒子形状が球形とみなせない場合には、その短径と長径を測定し、両者の和の1/2とした。また、平均粒子径の算出には最低1000個の粒子径を測定する。
【0044】
本発明において、公知のポリアミドとポリフェニレンエーテルの相溶化剤(C)を添加する。
相溶化剤(C)を使用する主な目的は、ポリアミド−ポリフェニレンエーテル混合物の物理的性質を改良することである。本発明で使用できる相溶化剤とは、ポリフェニレンエーテル、ポリアミドまたはこれら両者と相互作用する多官能性の化合物を指すものである。この相互作用は化学的(たとえばグラフト化)であっても、または物理的(たとえば分散相の表面特性の変化)であってもよい。
いずれにしても得られるポリアミド−ポリフェニレンエーテル混合物は改良された相溶性を示す。
【0045】
本発明において使用することのできる相溶化剤の例としては、国際公開第01/081473号パンフレット中に詳細に記載されており、これら公知の相溶化剤はすべて使用可能であり、併用使用も可能である。
これら、種々の相溶化剤の中でも、特に好適な相溶化剤の例としては、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、クエン酸、フマル酸が挙げられる。特に好ましくは、マレイン酸、無水マレイン酸である。
本発明における相溶化剤の量は、(A)成分および(B)成分の合計100質量部に対して0.01〜2質量部であり、好ましくは0.1〜1質量部、最も好ましくは0.1〜0.5質量%部である。
【0046】
本発明の樹脂組成物の耐衝撃性を向上させる目的で、衝撃改良材(D)を添加しても構わないが、樹脂組成物の透明性が必要な場合は、衝撃改良材を添加しないほうが好ましい。
本発明で使用できる衝撃改良剤としては、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体及びその水素添加物、エチレン−α−オレフィン共重合体、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、及びスチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0047】
本発明の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」とは、当該ブロックにおいて、少なくとも50質量%以上が芳香族ビニル化合物であるブロックを指す。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」に関しても同様で、少なくとも50質量%以上が共役ジエン化合物であるブロックを指す。より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
この場合、例えば芳香族ビニル化合物ブロック中にランダムに少量の共役ジエン化合物もしくは他の化合物が結合されているブロックの場合であっても、該ブロックの50質量%が芳香族ビニル化合物より形成されていれば、芳香族ビニル化合物を主体とするブロ
ク共重合体とみなす。また、共役ジエン化合物の場合においても同様である。
【0048】
芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもスチレンが特に好ましい。
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組み合わせが好ましい。
ブロック共重合体の共役ジエン化合物ブロック部分のミクロ構造は1,2−ビニル含量もしくは1,2−ビニル含量と3,4−ビニル含量の合計量が5〜80%が好ましく、さらには10〜50%が好ましく、15〜40%が最も好ましい。
【0049】
本発明におけるブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック[S]と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック[B]が、S−B型、S−B−S型、S−B−S−B型から選ばれる結合形式を有するブロック共重合体である事が好ましく、これらの混合物であっても構わない。これらの中でもS−B型、S−B−S型、又はこれらの混合物がより好ましく、S−B−S型がもっとも好ましい。
【0050】
また、本発明で使用することのできる芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体は、水素添加されたブロック共重合体であることがより好ましい。水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体を水素添加処理することにより、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの脂肪族二重結合を0を越えて100%の範囲で制御したものをいう。該水素添加されたブロック共重合体の好ましい水素添加率は80%以上であり、最も好ましくは98%以上である。
これらブロック共重合体は水素添加されていないブロック共重合体と水素添加されたブロック共重合体の混合物としても問題なく使用可能である。
【0051】
また、これら芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体は、本発明の趣旨に反しない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量もしくは1,2−結合ビニル含有量と3,4−結合ビニル含有量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの等を混合して用いても構わない。
【0052】
本発明に使用するブロック共重合体は、数平均分子量が、200,000未満のブロック共重合体であることが好ましい。また、本発明に使用するブロック共重合体として、低分子量ブロック共重合体と高分子量ブロック共重合体との混合物であることが望ましい。これら低分子量ブロック共重合体と高分子量ブロック共重合体の質量比は、低分子量ブロック共重合体/高分子量ブロック共重合体=95/5〜5/95である。好ましくは90/10〜10/90である。
【0053】
本発明に使用するブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを55質量%以上90質量%未満の量で含有するブロック共重合体と、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを20質量%以上55質量%未満の量で含有するブロック共重合体から構成される2種類以上のブロック共重合体の混合物であることが好ましい。
【0054】
また、その混合物中の芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量が10,000以上30,000未満、かつ、共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量が50,000以上100,000未満の範囲にあることがより好ましい。さらに好ましくは、ブロック共重合体の混合物中の芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量が10,000以上25,000未満、かつ、共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量が50,000以上80,000未満であることがさらに好ましい。この範囲内の芳香族ビニル重合体ブロックを持つブロック共重合体を用いることにより、流動性を保持しながら耐衝撃性の中でも特に耐面衝撃性をより向上させることができる。
【0055】
各ブロック共重合体の数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置(GPC)を用いて、紫外分光検出器で測定し、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量の事を指す。この時、重合時の触媒失活による低分子量成分が検出されることがあるが、その場合は分子量計算に低分子量成分は含めない。
【0056】
1種類のブロック共重合体の芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、上述したブロック共重合体の数平均分子量を用いて、下式(2)により求めることができる。
Mn(a),n={Mn×a/(a+b)}/N(a) (2)
上式中において、Mn(a),nはブロック共重合体nの芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mnはブロック共重合体nの数平均分子量、aはブロック共重合体n中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、bはブロック共重合体n中の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、およびN(a)はブロック共重合体n中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの数を表す。
【0057】
さらに、ブロック共重合体は2種類以上のブロック共重合体の混合物であるため、混合物中の芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、下式(3)により求めることができる。
Mn(a),av=Σ(Mn(a),n×Cn) (3)
上式中において、Mn(a),avはブロック共重合体の混合物中の芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mn(a),nはブロック共重合体nの芳香族ビニル化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Cnはブロック共重合体混合物中のブロック共重合体nの質量分率を表す。
【0058】
一方、1種類のブロック共重合体の共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、上述したブロック共重合体の数平均分子量を用いて、下式(4)により求めることができる。
Mn(b),n={Mn×b/(a+b)}/N(b) (4)
上式中において、Mn(b),nはブロック共重合体nの共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mnはブロック共重合体nの数平均分子量、aはブロック共重合体n中の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、bはブロック共重合体n中の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの質量%、およびN(b)はブロック共重合体n中の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの数を表す。
【0059】
さらに、ブロック共重合体は2種類以上のブロック共重合体の混合物であるため、混合物中の共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量は、下式(5)により求めることができる。
Mn(b),av=Σ(Mn(b),n×Cn) (5)
上式中において、Mn(b),avはブロック共重合体の混合物中の共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Mn(b),nはブロック共重合体nの共役ジエン化合物を主体とする一つの重合体ブロックの数平均分子量、Cnはブロック共重合体混合物中のブロック共重合体nの質量分率を表す。
【0060】
また、本発明で使用するブロック共重合体は、全部が変性されたブロック共重合体であっても、未変性のブロック共重合体と変性されたブロック共重合体との混合物であっても構わない。
ここでいう変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。
【0061】
該変性されたブロック共重合体の製法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下でブロック共重合体の軟化点温度以上250℃以下の温度範囲で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下でブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下でブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶融させることなく反応させる方法等が挙げられる。これらいずれの方法でも構わないが、(1)の方法が好ましく、更には(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法が最も好ましい。
【0062】
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合または、三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基、又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物とは、変性されたポリフェニレンエーテルで述べた変性化合物と同じものが使用できる。
【0063】
本発明における衝撃改良剤の配合量としては、(A)成分および(B)成分の合計量100質量部に対し、1〜35質量部であることが好ましく、耐熱性および流動性の観点から、3〜30質量部がより好ましい。
【0064】
本発明では、上記成分の他に、本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、結晶核剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、顔料や染料等の着色剤、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸塩ワックス、ステアリン酸塩ワックス等の公知の離形剤もまた、適宜添加することができる。
【0065】
本発明の樹脂組成物を得るための具体的な加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられる。中でも二軸押出機が好ましく、特に、上流側供給口と1カ所以上の下流側供給口を備えたスクリュー直径25mm以上でL/Dが30以上の二軸押出機が好ましく、スクリュー直径45mm以上でL/Dが30以上の二軸押出機が最も好ましい。
この際の加工機械のシリンダー設定温度は特に限定されるものではなく、通常240〜360℃の中から好適な組成物が得られる条件を任意に選ぶことができる。
【0066】
本発明の好ましい樹脂組成物の製造方法としては、(A)成分を溶融させた後、(B)成分を添加して溶融混練する方法、または、(A)成分および(B)成分の一部を溶融させた後、残りの(B)成分を供給して溶融混練する方法等が挙げられる。より具体的には、少なくとも上流部、下流部の2箇所の供給口を備えた二軸押出機を用いて、上流部供給口より(A)成分、(C)成分および(D)成分を供給し溶融させた後、下流部供給口より(B)成分を添加して溶融混練する方法、または、上流部供給口より(A)成分、(B)成分の一部、(C)成分および(D)成分を供給し溶融させた後、下流部供給口より残りの(B)成分を添加し溶融混練する方法等が挙げられる。
また、添加剤等はいずれの供給口から添加しても構わない。
【0067】
本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムは、上記で得られた樹脂組成物を原料とし、押出フィルム成形により得ることもできるし、本発明の成分を押出フィルム成形機に直接投入し、混練とフィルム成形を同時に実施して得ることもできる。
本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムは、押出しチューブラー法、場合によってはインフレーション法とも呼ばれる方法にて製造することができる。円筒から出てきたパリソンがすぐに冷却してしまわないように、50〜310℃の温度範囲の中から適宜選択して、パリソンを温度制御することがフィルム厚みを均一にし、層剥離のないフィルムを製造する上で極めて重要である。多層インフレーション方法により、本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物と他の樹脂との多層フィルムを得ることができる。
【0068】
一方、本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムは、Tダイ押出成形によっても製造することができる。この場合、無延伸のまま用いてもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸することによっても得られる。フィルムの強度を高めたい場合は、延伸することにより達成することができる。また、多層Tダイ押し出し成形方法により、本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物と他の樹脂との多層フィルムを得ることができる。
【0069】
こうして得られた本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムは、耐熱性、低吸水性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れ、加えて、熱収縮率が小さく、また難燃性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れ、耐加水分解性にも優れる特徴を有する。従って、これらの特性が要求される用途に用いることができる。例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池などの絶縁ワッシャー、などが挙げられる。
【実施例】
【0070】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(使用した原料)
(A)ポリフェニレンエーテル(以下、PPEと略記)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)
還元粘度:0.52dl/g、(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)
【0071】
(B)半芳香族ポリアミド(PA9T)
(B−1)ポリアミド9T(以下、PA9T−1と略記)
特開2000−212433号公報の実施例に記載の方法に従い、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を3272.96g(19.7モル)、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン2532.64g(16.0モル)および2−メチル−1,8−オクタンジアミン633.16g(4.0モル)、末端封止剤として安息香酸73.26g(0.60モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5g(原料に対して0.1質量%)および蒸留水6リットルを内容積20リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけて内部温度を210℃に昇温した。この時、オートクレーブは22kg/cm2 まで昇圧した。そのまま1時間反応を続けた後230℃に昇温し、その後2時間、230℃に温度を保ち、水蒸気を徐々に抜いて圧力を22kg/cm2 に保ちながら反応させた。次に、30分かけて圧力を10kg/cm2 まで下げ、更に1時間反応させて、極限粘度[η]が0.25dl/gのプレポリマーを得た。これを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の大きさまで粉砕した。これを230℃、0.1mmHg下にて、10時間固相重合し、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマーをシリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いてペレット状のPA9T−1を得た。
得られたPA9T−1の物性は次の通りであった。
融点:304℃、極限粘度[η]:1.20dl/g、末端封止率:90%、末端アミノ基濃度:10μmol/g、末端カルボキシル基濃度:60μmol/g、リン元素含有量:300ppm
【0072】
(B−2)ポリアミド9T(以下、PA9T−2と略記)
前記(B−1)と同様にしてポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマー100重量部にタルク(PKP−80:富士タルク製)0.05重量部を配合し、シリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いてペレット状のPA9T−2を得た。
得られたPA9T−2の物性は次の通りであった。
融点:304℃、極限粘度[η]:1.20dl/g、末端封止率:90%、末端アミノ基濃度:10μmol/g、末端カルボキシル基濃度:60μmol/g、リン元素含有量:300ppm
【0073】
(B−3)ポリアミド9T(以下、PA9T−3と略記)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を3322.80g(20.0モル)、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン2532.64g(16.0モル)および2−メチル−1,8−オクタンジアミン633.16g(4.0モル)、オクチルアミン103.41g(0.8モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物6.5g(原料に対して0.1質量%)および蒸留水6リットルを使用し、(B−1)と同様な方法により重合を行い、ポリアミドの粒状ポリマーを得た。得られた粒状ポリマー100重量部をシリンダー温度330℃に設定した二軸押出機を用いてペレット状のPA9T−3を得た。
融点:304℃、極限粘度[η]:1.10dl/g、末端封止率:71%、末端アミノ基濃度:60μmol/g、末端カルボキシル基濃度:20μmol/g、リン元素含有量:290ppm
【0074】
(C)無水マレイン酸(以下、MAHと略記)
商品名:CRYSTALMAN−AB(日本油脂社製)
(D)エラストマー
ポリスチレン−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体
(以下、SEBSと略記)
(D−1)SEBS−1
数平均分子量=246,000
スチレン成分合計含有量=33%
(D−2)SEBS−2
数平均分子量=88,000
スチレン成分合計含有量=28%
(D−3)SEBS−3
数平均分子量=77,000
スチレン成分合計含有量=67%
【0075】
(評価方法)
各樹脂組成物のフィルム成形と物性評価を、以下の方法に従って実施した。
<末端アミノ基濃度>
末端アミノ基濃度は、特開平7−228689号公報の実施例に記載されている末端封止率の測定に従い、H−NMRを用いて実施した。
<PPE平均粒子径>
フィルムより切り取った超薄切片の透過電子顕微鏡写真(5000倍)を調整し、分散粒子径d、粒子数niを求め、PPE分散粒子の数平均粒子径(=Σdi/Σni)を算出した。粒子形状が球形とみなせない場合には、その短径と長径を測定し、両者の和の1/2とした。また、平均粒子径の算出には最低1000個の粒子径を測定した。
【0076】
<フィルム成形>
得られたペレットを、単軸押出し成形機(ユニオンプラスチック(株)製、スクリュー径40mm、L/D28)とコートハンガーダイ(幅400mm、ダイリップ間隔0.8mm)を用い、シリンダー温度320℃にてフィルム状に押出した。スクリューおよび引き取りロールの回転数は、厚みが70μmになるように調整した。
<フィルム成形安定性>
フィルム成形安定性の確認は、上記フィルム成形を4時間連続で成膜(膜厚:70μm)を行い、成形時におけるTダイから出てくる溶融樹脂のメルトフラクチャーの状態、ダイスリップにおける目脂の発生状態、フィルムにダイラインの発生有無を確認した。(○、×で標記)
<耐熱性>
得られたフィルムを250×250mm角のサイズに切り出し、160℃の熱風オーブンに5時間セットし、以下の判定基準に基づき、耐熱性評価を実施した。
○:フィルムの変形が認められなかった。
×:フィルムの変形が認められた。
【0077】
<耐引き裂き性>
フィルムを250×250mm角に切り出し、MD(フィルム成形時の樹脂の流れ方向)とTD(フィルム成形時の樹脂の流れ方向と直角方向)にノッチなしで、切り裂きを試みた。以下の判定基準に基づいて、耐引き裂き性の評価を実施した。
◎:MD、TDともに、力を加えても、引き裂けなかった。
○:MDは、力を加えた場合、引き裂けた。TDは、力を加えた場合、引き裂けなかった。
△:MDは、力を加えた場合、引き裂けた。TDも、力を加えた場合、引き裂けた。
×:MDは、力を加えなくても、容易に引き裂けた。TDは、力を加えた場合、引き裂けた。
【0078】
<耐熱強度>
フィルムを150×10mm角のテープ状に切り出し、長手方向に上下につるし上端を固定し、テープの下端に錘(10g)をつるした状態にて、100℃に設定された熱風オーブンに30分間静置した。その後、フィルムの長手方法の長さを測定し、オーブンに入れる前と比較し、長さの増分を評価した。以下の判定基準に基づき、その耐熱強度を評価した。
◎:増分が、0.5mm未満。
○:増分が、0.5以上1.0mm未満。
△:増分が、1.0mm以上1.5mm未満。
×:増分が、1.5mm以上。
【0079】
<シェア粘度>
得られたペレットを80℃×2時間乾燥後、キャピログラフ(東洋精機(株)キャピグ
ラフ1C)を用い、キャピラリーは、キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mmで、320℃、シェアレート100〜1000(sec−1)のレンジにて測定を行った。シェアレートが121.6(sec−1)の時のシェア粘度を表1に記載した。
【0080】
[実施例1〜4、比較例1]
押出機上流側に1カ所、下流側に1カ所の供給口を有する二軸押出機[ZSK−25:ウェルナー&フライデラー社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口から下流側供給口の手前までを320℃、下流側供給口からダイまでを280℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量15kg/hで、表1記載の質量割合となるように、上流側供給口よりPPE、SEBSおよびMAHを供給し溶融混練した後、下流側供給口よりPA9Tを供給して、樹脂組成物ペレットを作製した。
ここで得たペレットを用いて上記のフィルム成形方法にてフィルム成形を実施した。フィルムの評価結果を表1に示した。
【0081】
【表1】

【0082】
表1から、本発明により得られるポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムは、フィルム成形安定性、耐熱性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れることがわかる。
本発明の樹脂組成物が特定のシェア粘度を満足することが、良好なフィルム成形性といくつかのフィルム性能を同時に高いレベルで満足できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のポリアミド−ポリフェニレンエーテル系樹脂製フィルムは、耐熱性に優れ、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れ、さらに誘電特性、電気絶縁性、難燃性、耐加水分解性などに優れた特長を有する為、例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池などの絶縁ワッシャー、など電子・電気部品材料、家電OA用材料、自動車用材料、工業用材料に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(A)を5〜70質量部、テレフタル酸単位を60〜100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9−ノナンジアミン単位および/または2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位を60〜100モル%含有するジアミン単位(b)とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(B)を95〜30質量部、相溶化剤(C)を0.01〜2質量部含み、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、320℃、シェアレート=121.6(sec−1)での測定値)が30〜1000(Pa・s)である樹脂組成物からなり、(A)成分が分散相、(B)成分が連続相であるモルフォロジーを有し、かつ(B)成分の末端アミノ基濃度が1μmol/g以上45μmol/g以下である、厚みが1〜200μmのフィルム。
【請求項2】
(A)成分が平均粒子径0.1〜2μmの分散相として存在することを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
該樹脂組成物のシェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、320℃、シェアレート=121.6(sec−1)での測定値)が50〜700(Pa・s)であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
該フィルムの厚みが、1〜100μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
(C)成分が、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、クエン酸及びフマル酸よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
極限粘度[η](濃硫酸中30℃の条件下で測定)の平均値が、0.80〜1.20dl/gである半芳香族ポリアミド樹脂または半芳香族ポリアミド樹脂混合物を(B)成分の原料として用いて製造されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフィルム。
【請求項7】
該樹脂組成物中に、(A)および(B)成分の合計100質量部に対し、衝撃改良剤(D)を1〜35質量部含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
(D)成分として、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体及び/又はその水素添加物、エチレン−α−オレフィン共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフィルム。
【請求項9】
該樹脂組成物中に、リン元素を1〜500ppm含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のフィルム。
【請求項10】
該樹脂組成物中に、(A)および(B)成分の合計100質量部に対し、結晶核剤を0.01〜3質量部含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフィルム。
【請求項11】
該結晶核剤がタルクであることを特徴とする請求項10に記載のフィルム。
【請求項12】
(B)成分のポリアミドの末端アミノ基と末端カルボキシル基の濃度比が1.0以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のフィルム。
【請求項13】
(B)成分中の1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位とのモル比が、1,9−ノナンジアミン単位/2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位=100/0〜20/80の範囲内であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のフィルム。
【請求項14】
(B)成分中の分子鎖の末端基が末端封止剤により封止されている割合(末端封止率)が、50%以上であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のフィルム。
【請求項15】
押出しチューブラー法にて成形して得られる請求項1〜14のいずかに記載のフィルム。
【請求項16】
Tダイ押出し法にて成形して得られる請求項1〜14のいずかに記載のフィルム。

【公開番号】特開2007−217620(P2007−217620A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41883(P2006−41883)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】